第6章 婚約者を不慮の事故で失って
映画女優のマール・オペロンには婚約者がいた。そのフィアンセを空港で見送った数秒後にオペロンの人生に悲劇が訪れた。フィアンセを乗せた飛行機が爆発炎上したのである。事故の知らせを聞いて当然のことながらオペロンは茫然自失の状態に陥った。

その後まもなく、ふとしたきっかけでハンネンスワッハーのMy Greatest Story(私にとって最大の物語)と言う本を手に入れ、その中に引用されているシルバーバーチの霊言を読んで心を動かされた。たった一節の霊訓に不思議な感動を覚えたのである。

オペロンはさっそくスワッハーを訪ねて、出来ればシルバーバーチと言う霊のお話を直接聞きたいのですがとお願いした。その要請をスワッハーから聞いたシルバーバーチは快く承諾した。

そして事故からまだ幾日も経ないうちに交霊会に参加するチャンスを得た。その後さらに幾人かの霊媒も尋ねてフィアンセの存続を確信したオペロンは、その霊的知識のお陰で悲しみのどん底から抜け出ることが出来た。では、そのシルバーバーチの交霊会に出席した時の様子を紹介しよう。

当日スワッハーが交霊会の部屋(バーバネルの書斎)へオペロンを案内し、まずシルバーバーチにこう紹介した。

「ご承知と思いますが、この方は大変な悲劇を体験なさったばかりです。非凡な忍耐力を持って耐えていらっしゃいますが本日はあなたのご指導を仰ぎにこられました」

するとシルバーバーチがオペロンに向かってこう語りかけた。

「あなたは本当に勇気のある方ですね。でも勇気だけではだめです。知識が力になってくれることがあります。是非理解して頂きたいのは、大切な知識、偉大な悟りと言うものは悲しみと苦しみと言う魂の試練を通して初めて得られるものだと言うことです。

人生と言うのはこの世だけでなく、あなたがあの世と呼んでおられる世界においても、一側面のみ、一色のみでは成り立たないと言うことです。

光と影の両面が無ければなりません。光の存在を知るのは闇があるからです。暗闇が無ければ光もありません。光だけでは光で無くなり、闇ばかりでは闇で無くなります。同じように、困難と悲しみを通してはじめて魂は自我を見出していくのです。

勿論それは容易なことではありません。とても辛いことです。でもそれが霊としての永遠の身支度をすることになるのです。なぜならば地上生活のそもそもの目的が、地上を去った時に待ち受ける次の段階の生活に備えて、それに必要な霊的成長と才能を身につけることにあるからです。

あなたがこれまでに辿られた道も決して楽な道ではありませんでした。山もあり谷もありました。

そして婚約と言う最高の幸せを眼前にしながら、それが無慈悲にも一気に押し流されてしまいました。あなたは何事も得心がいくまでは承知しない方です。

生命と愛は果たして死後にも続くものなのか、それとも死を持って全てが終わりとなるのか、それを一点の疑問の余地も無い迄得心しないと気が済まないでしょう。そして今あなたは死が全ての終りで無いことを証明するに十分なものを手にされました。

ですが、私の見るところでは、あなたはまだ、本当の得心を与えてくれる事実の全てを手にしたとは思っていらっしゃらない。そうでしょう」

オペロン「おっしゃる通りです」

「こう言うふうに理解なさることです。これが私にできる最大のアドバイスです、吾々も生あるものの全ては、まず第一に霊的存在であると言うことです。霊であるからこそ生きているのです。霊こそ存在の根源なのです。生きとし生けるものが呼吸し、動き、意識を働かせているのは霊だからこそです。

その霊があなた方の言う神であり、私の言う大霊なのです。その霊の一部、つまり神の一部が物質に宿り、次の段階の生活に相応しい力を身につける為に体験を積みます。それはちょうど子供が学校へ行って卒業後の人生に備えるのと同じです。

さてあなたも他の全ての人と同じく一個の霊的存在です。物的なものはその内色褪せ、朽ち果てますが、霊的なものは永遠であり、何時までも残り続けます。物質の上に築かれたものは長続きしません。物質は殻であり、入れ物に過ぎず、実質ではないからです。

地上の人間の大半が幻を崇拝しています。キツネ火を追いかけているようなものです。真実を発見できずに居ます。こうでもない、ああでもないの連続です。本来の自分を見出せずに居ます。

神が愛と慈悲の心から拵えた宇宙の目的、計画、機構の中の一時的な存在として人生を捉え、自分がその中で不可欠の一部であるとの理解がいけば、たとえ身に降りかかる体験の一つ一つの意義は分らなくても、究極において全てが永遠の機構の中に組み込まれているのだと言う確信は得られます。霊に関るものは決して失われません。死は消滅ではありません。

霊が別の世界へ解き放たれる為の手段に過ぎません。誕生が地上へ入る為の手段であれば、死は地上生活から出る為の手段です。あなたはその肉体ではありません。その頭でも、目でも、鼻でも、手足でも、筋肉でもありません。

つまりその生物的集合体ではないのです。それはあなたではありません。あなたと言う別個の霊的存在があなたを地上で表現していく為の手段に過ぎません。それが地上から消滅した後も、あなたと言う霊は存在しつづけます。

死が訪れると霊はそれまで身につけたもの全て、あなたを他と異なる存在たらしめているところの個性的所有物の全てを携えて霊界へ行きます。意識、能力、特質、習性、性癖、さらには愛する力、愛情と友情と同胞精神を発揮する力、こうしたものは全て霊的属性であり、霊的であるからこそ存在するのです。

真にあなたのものは失われません。真にあなたの属性となっているものは失われません。その事をあなたが理解できるかできないかに関らず、そしてまた、確かにその真相の全てを理解することは容易ではありませんが、あなたが愛する人、そしてあなたを愛する人は、今なお生き続けております。得心がいかれましたか?」

オペロン「はい」

「物的なものは全てお忘れになることです。実在ではないからです。実在は物的なものの中には存在しないのです」

オペロン「私のフィアンセは今ここにきておりますでしょうか」

「来ておられます。先週も来られて霊媒を通してあなたに話しかけようとなさったのですが、これはそう簡単に行くものではないのです。ちゃんと話せるようになるには大変な訓練が要るのです。

でも諦めずに続けて出席なさっておれば、その内話せるようになるでしょう。ご想像がつくと思いますが、彼は今のところ非常に感情的になっておられます。まさかと思った最期でしたから感情的になるなと言う方が無理です。とても無理な話です」

オペロン「今どうしているのでしょう。どう言う処にいるのでしょう。元気なのでしょうか」

この質問にシルバーバーチは司会者のスワッハーの方を向いてしみじみした口調で

「この度の事故はそちらとこちらの二人の人間にとって、よほどショックだったようですな。まだ今のところ霊的な調整が出来ておりません。あれだけの事故であれば無理も無いでしょう」と述べてから、再びオペロンに向かって言った。

「私としては若いフィアンセがあなたの身近にいらっしゃることをお聞かせすることが、精一杯あなたの力になってあげることです。彼は今のところ何もなさっておりません。ただお側に立っておられるだけです。

これから交信の要領を勉強しなくてはなりません。霊媒を通じてだけではありません。普段の生活において考えや欲求や望みをあなたに伝えることもそうです。それは大変な技術を要することです。それがマスターできるまで、ずっとお側から離れないでしょう。

あなたの方でも心を平静に保つ努力をしなくてはいけません。それが出来るようになれば、彼があなたに与えたいと望み、そしてあなたが彼から得たいと望まれる援助や指導が確かに届いていることに得心なさるでしょう。よく知っておいて頂きたいのは、そうした交信を伝えるバイブレーションは極めて微妙なもので、感情によってすぐに乱されると言うことです。

不安、ショック、悲しみと言った念を出すと、たちまちあなたの周囲に重々しい雰囲気、交信の障害となる壁をこしらえます。心の静寂を得ることが出来れば、平静な雰囲気を発散することが出来るようになれば、内的な安らぎを得ることが出来れば、それが私達の世界から必要なものをお授けする最高の条件を用意することになります。感情が錯乱している状態では、私達は何の手だしも出来ません。受容性、受け身の姿勢、これが私達があなたに近づくための必須の条件です」

この後フィアンセについて幾つかのプライベートな質問が出された後、シルバーバーチはこう述べた。

「あなたにとって理解しがたいことは、多分、あなたのフィアンセが今はこちらの世界へ来られ、あなたはそちらの世界にいるのに、精神的には私よりもあなたの方が身近な存在だと言うことでしょう。理解出来るでしょうか。彼にとっては霊的なことよりも地上のことの方が気がかりなのです。問題は彼がそのことについて何も知らずにこちらへ来たと言うことです。

一度も意識にのぼったことが無かったのです。でも今ではこうした形であなたが会いに来てくれることで、彼もあなたが想像なさる以上に助かっております。大半の人間が死を最後と考え、こちらへ来ても記憶の幻影の中でのみ暮らして実在を知りません。

その点あなたのフィアンセはこうして最愛のあなたに近づくチャンスを与えられ、あなたも、周りに悲しみの情の壁を拵えずに済んでおられる。そのことを彼はとても感謝しておられますよ」

オペロン「死ぬ時は苦しかったでしょうか」

「いえ何も感じておられません。不意の出来事だったからです。事故のことはお聞きになられたのでしょう」

オペロン「はい」

「あっという間の出来事でした」

スワッハー「そのことはこの方も聞かされております」

「そうでしょう。本当にあっという間のことでした。それだけに永い休養期間が必要なのです」

オペロン「どれくらいかかるのでしょう?」

「そう言う質問にお答えするのがとても難しいのです。と申しますのは私達の世界では地上のように時間で計ると言うことをしないのです。でも、どのみち普通一般の死に方をした人よりは永く掛ります。急激な死に方をした人はみなショックを伴います。何時までも続くわけではありませんが、ショックはショックです。もともと霊は肉体からそう言う離れ方をすべきものではないからです。そこで調整が必要となります」

ここでさらにプライベートな質問があった後

オペロン「彼は幸せと言えるでしょうか。大丈夫でしょうか」

「幸せとは言えません。彼にとって霊界は精神的に居心地が良くないからです。地上に戻ってあなたと一緒になりたい気持ちの方が強いのです。それだけに、あなたの精神的援助が必要ですし、自身の方でも自覚が必要です。これは過度的な状態であり、彼の場合は大丈夫です。霊的に危害が及ぶ心配がありませんし、その内調整が為されるでしょう。

宇宙を創造した大霊は愛に満ちた存在です。私達一人一人を創造して下さったその愛の力を信頼し、全てのことはなるべくしてそうなっているのだと言うことを知らなくてはいけません。

今は理解できないことも、その内明らかになる機会が訪れます。決して口先で適当なことを言っているのではありません。現実にそうだからそう申し上げているのです。あなたはまだ人生を物質的な目で御覧になっていますが、永遠なるものは地上の尺度では正しい価値は分りません。

そのうち正しい視野をお持ちになられるでしょうが、本当に大事なもの、生命、愛、本当の自分、こうしたものは何時までも存在しつづけます。死は生命に対しても愛に対しても、全く無力なのです」

訳者注・・・「本章は不慮の事故死をテーマとしているが、普通一般の死後の問題についてもいろいろと示唆を与えてくれるものを含んでいる。その全てをここで述べる余裕はないが、一つだけ後半のところで〝霊的に危害が及ぶ心配がありませんし〟と述べている点に注釈しておきたい。

これは裏返して言えば霊的に危害が及ぶケースがあると言うことであり、ではその危害とはどんなものかと言うことになる。これを「ベールの彼方の生活」第四巻の中の実例によって紹介しておく。

通信霊のアーネルが何時もの仕事に携っていた時(霊界通信を送るようになる前)あるインスピレーション的衝動にかられて地上へ来て見ると、一人の若い女性が病床で今まさに肉体から離れようとしていた。ふと脇へ目をやると、そこに人相の悪い男の霊が待ち構えている。

アーネルにはその男がこの女性の生涯を駄目にした(多分麻薬か売春の道へ誘い込んだ)因縁霊であると直感し、霊界でも自分達の仲間に引きずり込もうと企んでいることを見てとった。そこで奪い合いとなったが、幸いアーネルが勝ってその身柄を引き取ることが出来、その後順調に更生して、今では明るい世界へ向上していると言う。そのインスピレーションを送ったのは守護霊で、波長が高すぎて返って地上のことには無力な為に、地上波長への切り替えに慣れているアーネルに依頼したのだった。

この実例でお分かりのように、いかなる死に方にせよ、死後無事霊界の生活に正しく順応していくことは必ずしも容易ではないのである。そこには本人自身の迷いがあり、それに付け込んで様々な誘惑があり、また強情を張ったり見栄を捨てきれなかったりして、何時までも地上的名誉心や欲望の中で暮らしている人が実に多いのである。

ではそうならない為にはどう言う心掛けが大切か、これは今さら私から言うまでも無く、それを教えるのがそもそもシルバーバーチ霊団が地上へ降りてきた目的なのである。

具体的なことはこうして霊言集をお読みいただいている方には改めて申し上げるのは控えるが、ただ私から一つだけ付け加えたいことは、あちらへ行って目覚めた時に、必ず付き添ってくれる指導霊の言うことに素直に従うことが何よりも大切だと言うことである」