第13章 質問に答える
──生前のスピリチュアリズムを否定し、生涯を合理主義で通したH・G・ウェルズ(*)のような人はそちらでどんな気持ちを抱いたのでしょうか。
(*世界的に知られた英国の文明評論家で、主著に「世界文化史体系」「生命の科学」等がある。一八六六年~一九四六年──訳者)

「ウェルズは不幸にして強烈な知性がかえって禍した偉大な魂です。もしこうした偉大な知性が童子のような無邪気さと一体となれば大変な人種が地上に誕生するのですが・・・

こうした人は生涯かけて築いてきた人生哲学をそっくり捨て去らないといけないのですが、それが彼らにはどうしても得心がいかないのです。彼らにしてみれば、あれだけ論理的に且つ科学的に論証したのだから、その思想と合致しない宇宙の方がどうかしているに相違ないとまで考えるのです。そんな次第ですから、色々と修正していかねばならないことがあり、長い長い議論が続きます」

その議論の相手となって説得にあたったのがチャールズ・ブラッドローとトーマス・ペインだったという。
(二人とも地上時代は自由思想家として人権擁護の為に貢献した人物である──訳者)

それを聞いてスワッハーが「ペインは偉大な人物でした」と言うと、すかさずシルバーバーチが「でした、ではありません。今でも偉大な人物です」と訂正してこう述べた。

「彼は地上での評価よりはるかに偉大な人物です。時代を抜きんでた巨人です。霊的な巨人です。先見の明によって次々と問題を解決していった生まれながらの霊覚者でした。人類は本来自由であるべきで、決して束縛されてはならないとの認識をもった偉大な宗教的人物でした。真の意味で〝宗教的〟な人物でした」

「ルーズベルト(米大統領)はペインのことを〝卑劣な不信心者〟とけなしていますが・・・」
(ペインは米国の独立直前には米国へ移住し、フランス革命の最中にはフランスに移住しているので、そのことに言及しているものと推察される──訳者)

「そのことなら私も知っております。が、ルーズベルトがどれほどペインの努力の恩恵を受けていたか、それが私と同じ程度に理解できれば、ペインの偉大さが分ることでしょう。事実を目の前にすると地上の評価などいっぺんに変ってしまいます」

そう述べてからウェルズも今では地上でスピリチュアリズムに耳をかさずに偏見を抱いていたことを後悔していますとシルバーバーチが述べると、スワッハーが

「でも、それでもなおずうっと自分の思う道を突き進んだのでしょう」と言った。すると

「おっしゃる通りですが、死と言うものが大きな覚醒の端緒となっていることを知らなくてはいけません。霊的な大変動を体験すると、それまで疎かにされてきた面が強調されて、成就した立派な面を見過ごしがちなものです」

「人間は立派になればなるほど自分をつまらない存在のように思いがちになるところに問題があるようですね」

「霊界での生活が始まった当初はどうしてもそうなります。それがバランスの回復と修正の過程なのです。時がたてば次第に本来の平衝を取り戻して、地上生活の価値を論理的にそして正確に認識するようになります。こちらへ来ると、あらゆる見せかけが剥げ落ちて、意識的生活では多分初めて自我が素っ裸にされた生活を体験します。

これは大変なショックです。そして徐(オモムロ)にこう考えます── 一体自分のやってきたことの、どこが間違っていたのだろう。何が疎かにされてきたのだろうか、と。

そうした反省の中ではとかく自分の良い面、功績、価値を忘れて欠点ばかりが意識されます。その段階──これは霊界の磁気的作用に反応し始めた時に生ずるものですが(※)──いったんその段階をすぎると、自分本来の姿が見え始めます。

それが人によっては屈辱的なショックであったり、うれしい驚きであったりします。人知れず地道に、その人なりのささやかな形で善行に励んできた人が、霊界では、地上で自分が尊敬していた有名人よりもはるかに高い評価を受けていたというケースはたくさんあります。有名にも二通りあります」

(※地上的波長の磁気作用から脱することで、言いかえれば自縛霊的状態を脱すること。俗に、〝成仏する〟というのはその程度のことで、そこから真の霊的生活が始まる──訳者)

「ウェルズも他界した時は大歓迎を受けたことでしょう」

「受けました。それだけのことはしていましたから、彼は知識によって世の人を啓発しました。多くの人に真実を教え、無知の中で暮らしていた数知れぬ人々の目を開かせました」

次は十五年間もさる有名な政治家から自動書記通信を受け続けているという人の質問である。その通信霊が今なお生前の氏名を明かさないことについてこう意見を述べた。

──身元を明かさないということは読者を遠ざける要因になると思うのですが・・・・

「さあ、それはどうでしょうか。これは霊界通信において長いこと問題にされていることですが、私たちの世界のだれかが自分が身につけた知識を伝えてあなた方の世界を少しでも明るくしようと一念発起したとします。その際その霊が地上で有名だった人だと、身元を明かすことを躊躇するものです。

少なくとも当分の間は明かしたがりません。それはその人が通信を送ろうとするそもそもの目的とは関係ないことであって、そんなことで混乱を生じさせたくないからです。

私が聞いているところでは、その著述の目的は一連の証拠性のある通信──地上時代の身元を証すという意味での証拠ですが──を提供することでなく、自動書記という、普通の地上の書き方とは全く違う形でインスピレーションの本質、その極致、その深奥を伝えることにあるとのことです。

もしも初期の段階で証拠に次ぐ証拠の提供に手間取っていたら、恐らく、いや間違いなく、肝心の通信の伝達に支障を来していたことでしょう。あなたご自身もそれが本当に名乗っている通りの人物だろうかと疑っていたかもしれません。」

そういう事態にならずに通信の内容に集中できたのは、大切なのは内容であって通信者ではないとの信念があったからです。

霊界通信はその内容によって価値が決まります。身元の証拠を提供するということ、霊的知識を提供することとは全く別の範疇に属することであることを忘れてはなりません。前者は疑り深い人間を得心させる必要からすることであり、後者は魂に受け入れる用意の出来た人に訴えるのが目的です。

霊的真理と言うものは、それを受け入れる用意のある人にしか理解されないことを銘記しなければなりません。叡知は魂がそれを理解できる段階まで到達するまでは受け入れられません。

霊界からの働き掛けには二つの目的があります。一つは五感が得心する形で霊的実在を確信させること。
もう一つは、これも同じく重要なことですが、その霊的知識の意義を日常生活に反映させていくこと、つまり人間が霊的遺産と霊的宿命とをもった霊的実在であり、神に似せて創造されているからにはその霊も精神と身体の成長に必要なものを要求する権利、絶対に奪うべからざる権利があることを理解させることです。

あらゆる不正、あらゆる不公平、あらゆる悪弊と利己主義、暗闇を助長し光明を妨げるもの全て、無知に安住し新しい知識を忌避することによって既得権を保持せんとする者すべてに対して、厳然と立ちうかわなくてはなりません。なぜなら人間は自由の中に生きるべきだからです。霊と精神と身体が自由でなければならないからです」

──特別の証拠を提供してくれるのは他界したばかりの霊が多いようです。大体において古い霊よりもその点では熱心です。

「そうです。とくに戦死した元気な若者にそういう傾向があります。そうさせるのはもちろん地上からの愛念です。それを何よりも強く感じるのです。それが彼らを地上へ引きつけ、彼らの方にも引き付けられたい気持ちがあります。つまり愛のあるところに彼らがいるのです。

その愛の強さが、遠い昔に他界してすでに地上の出来ごとへの関心が薄れ地上と結びつける絆のいくつかを失ってしまった古い霊よりも、彼らに地上との接触を可能にするのです」

──私たちは睡眠中に幽界を訪れるそうですが、その間すでに他界した縁故者や知人はそのことを知っているのでしょうか。

「もちろん知っております。同じ意識のレベルでお会いになっておられます」

──スピリチュアリズムの普及のために活躍しておられる人がとかく物的生活面で苦労が多いのはなぜでしょうか。

「真理のために身を捧げる者は徹底的に試練を味わう必要があるからです。霊の大軍に所属する者はいかなる困難にも耐え、いかなる障害にも対処し、あらゆる問題を征服するだけの強さを身につけなければなりません。

はじめて遭遇した困難であっさりと参ってしまうような人間が霊の道具として役立つでしょうか。最大の貢献をする道具は浄化の炎で鍛えあげなければなりません。それによって鋼鉄の強さが身につきます。一見ただの挫折のように思えても、実際はみな計画された試練なのです。

人を導こうとする者が安逸の生活をむさぼり、試練もなくストレスもなく嵐も困難も体験しないでいては、その後に待ち受ける大事業に耐えうる性格も霊力も身につかないでしょう」

──偶発事故で死ぬことは絶対にないとする説を認め(ここでシルバーバーチが遮って〝いえ私はそんな説を認めませんよ〟と言う)みんな法則によって死んで行くのであれば、死刑の執行人もその法則の実行者にすぎないことになり、死刑制度への反対も意味がないことにならないでしょうか。

「実は死ぬべき時期が熟さないうちに他界する人が多すぎるところに不幸があるのです。他界する人間がみな十分な準備を整えて来てくれれば、私たちがこうして地上まで戻ってきて苦労することはないのです。誰もが知っておくべき基本的な霊的真理をこうして説かなければならないのは、

魂が地上で為すべき準備が充分に整わないうちに送られてくる人間が余りに多すぎるからです。今おっしゃった説は間違っております。死ぬべき時期が来ないうちに死ぬ人が多すぎるのです。確かに法則はあります。全てが法則の枠の中で行われていることは確かです。しかしそれは事故が起きる日時まで前もって定められているという意味ではありません」

──戦争犯罪人はそちらへ行ってからどのような扱いを受けるのでしょうか。

「誰であろうと、それぞれの事情に応じて自然法則が働きます。法則の働きは完璧です。原因に対して数学的正確さをもって結果が生じます。その因果関係を髪の毛一本ほども変えることはできません。刈り取らされるものは自分が種を蒔いたものばかりです。

その魂には地上生活の結果が消そうにも消せないほど深く刻み込まれております。摂理に反したことをした者はそれ相当に結果が魂に刻まれます。その一つ一つについて然るべき償いを終えるまでは向上は許されません」

──ハルマゲドン(※)が急速に近づきつつあるという予言は本当でしょうか。(※もとは聖書に善と悪との最後の大決戦場として出ているだけであるが、それが予言では地球の壊滅的な動乱に発している――訳者)

「いいえ、そういう考えは真実ではありません。注意していただきたいのは、聖書の編纂に当った人たちは大なり小なり心霊能力をもっていて、そのインスピレーションを象徴(シンボル)の形で受け取っていたということです。

そもそも霊的なものは霊的に理解するのが鉄則です。象徴的に述べられているものをそのまま真実として読み取ってはいけません。霊界から地上への印象づけは絵画的な翻案によって行います。それをどう解釈するかは人間側の問題です。

いわゆるハルマゲドン──地球全土が破壊され、そこへイエスが生身をもって出現して地上の王となるというのは真実ではありません。全ての生命は進化の途上にあります。物質界に終末はありません。これ以降もずっと改善と成長と進化を続けます。それとともに人類も改善され成長し進化していきます。生命の世界に始まりも終りもありません」

──各自に守護霊がついているということですが、もしそうならば戦争のさなかにおいて守られる人と守られない人がいるのはなぜでしょうか。

「その時点でのもろもろの事情によって支配されているからです。各自に守護霊がいることは事実ですが、ではその事実を本当に自覚している人が何人いるでしょうか。自覚がなければ無意識の心霊能力を持ち合わせていない限り守護霊は働きかけることはできません。

霊の地上への働きかけはそれに必要な条件を人間の方が用意するかしないかに掛っています。

霊の世界との連絡の取れる条件を用意してくれれば、身近な関係にある霊が働きかけることができます。よく聞かされる不思議な体験、奇跡的救出の話はみなそれなりの条件が整った時のことです。条件を提供するのは人間の方です。人間の方から手を差しのべてくれなければ、私たちは人間界に働きかけることができないのです」