第7章 霊媒が入神している時
入神中の霊媒をコントロールしているとき支配霊はどんな苦労をしているのだろうか。これから紹介するのは時おり催される〝質疑応答だけの交霊会〟の席でシルバーバーチが語ったことである。
最初の質問は、出席者からの質問を聞いてそれに答えるときは霊媒の耳と口を使用しているのかということだった。
「そうです。この霊媒に憑っているときはすべての点でこの霊媒自身になり切っております。潜在意識を活用して必要な部分を全部コントロールしております」
「ということは、この霊媒に憑っている間は霊界との連絡は絶たれているということでしょうか」
「そうではありません。うまくコントロールするコツ──やはりコツがあるのです──は霊媒を操りながら同時に霊界との連絡をいかにして維持するかという点があります。一方で通信網を保ちながら他方で情報の供給源と接触を維持しなければなりません。
戦時中はその通信網が一、二本に制限されてしまったという話をしたことがあります。その意味はこの霊媒のコントロールに関する限り状態が非常によくなかったので、通信網を一本また一本と断念しなければならなかったのです」
「時おり〝また一本切れました〟とおっしゃっていましたね」
「そうなのです。コントロールしている最中に邪魔が入ったのです。故意にやられる場合もあれば意図的でない場合もありますが、とにかく私は生命線の一本を失ったようなもので、修理班を派遣しておいてコントロールだけは維持しなければなりませんでした。
実に入り組んだ原理で行われており、電話で話をするのとは比べものにならないほど複雑です。電話の場合は少なくとも対話する人は同じ次元におります。私たちはまったく異なる次元で通信しなければならないのです。
そういうわけで霊格の高い支配霊はある程度その本来の個性を犠牲にすることになります。と言いますのは、その本来の質の高い個性のままでは鈍重な地上界とは感応しませんので、調整のために波長を下げなければならないのです」
次の質問は「入神中の霊媒は何か特殊な感じを覚えているのでしょうか」ということだった。
「入神中は何の感覚もありません。入神の前と後にはありますが、入神中はありません。そのわけは、そもそも入神するということは周囲の出来ごとに無感覚になることを意味するからです。もちろん入神にも浅いもの、意識がぼんやりする程度のものから完全に無意識になってしまうものまであります。
その完全な状態まで入神したら、まったく感覚がなくなります。そこまで至る初期の段階では応々にして何らかの感覚を覚えます。それは霊媒の意識が身体と連動して機能していないことによります。
その時の感覚もさまざまです。外界の明るさを感じる人がいます。遠くまで行く、と言うよりは、行ったような気がする人もいます。自分の口で語られていることを遠くで聞いているような感じがする人もいます。実にいろいろです」
別の交霊会ではこうも語っている。
「私たちの仕事には二つの段階があります。第一は、これは非常に難しいことですが、私たちの仕事を地上に根づかせることです。これがいかに難しいか、皆さんにはお判りいただけないと思います。物質の世界との直接の接触なしに影響力を行使する──純粋に精神のみの働きかけ、意念の集中、思念の投射を地上の一人の人間に向けて行います。本人はそれを無意識で受け、自分の考えのつもりで交霊会の行われている場所へ足を運びます。
これは実に難しく、何年も何年も要します。私の場合はこの霊媒が生まれる前から準備を開始したほどです。その段階が終わると、第二の段階はさほど困難は伴いません。すでに道具、霊媒、チャンネルが出来ているのですから、あとはそれを通じて言いたいことを述べるだけです。伝わり具合の問題がありますが、少なくとも磁気的なつながりができたわけで、それは容易に切れるものではありません。
それをきっかけに影響力をいくらでも増すことが出来ます。言わば霊力の通風孔をどんどん大きくしていくことが出来るわけですが、唯一の限界は霊媒の受容力にあります。それが私たちの協力関係における制約となっております。とかく問題が生じても、全てその要因は私たちの方にあるのではなく、私たちが使用する道具にあります。なぜ霊はこうしてくれないのか、ああしてくれないのか、とよく言われますが、それに対する答えは、霊媒という道具がそれを可能にしたり不可能にしたりしているということです。
それはともかくとして、磁気的なつながりが出来あがってしまってからは、事がずっと簡単になります。私たちの世界を通して高い界からの霊力が地上へ届くことになるからです。人間の方から進んで内的自我を開発する意識に目覚めてくれれば、死の関門を通過するまで待たなくても、今すぐからその真の自我を発揮することになります。
そうなると、時の経過とともに霊的な交わりがいっそう緊密に、豊かに、そして効果的になってまいります。そうなってからは、前もって計画されているさまざまな人たちを一堂に呼び集めることは、さほど難しくはありません。こう申し上げるのは、今日ここにお集まりの方々が、一人の例外もなく、霊力を受けやすいこの場に導かれてきていることを知っていただきたいからです。
それを受けられたあなた方は、自分がそうしてもらったように他の人々へそれを伝達する手段となることができます。
こうして結局は最初に申し上げた話に戻ってきました──私に礼を述べないで下さいということです。皆さんが明日を思い煩うことなく人生を歩めるのは、皆さん自身がみずからの自由意思で、霊力の働きの範囲内に連れてこられる段階を踏んできたからこそなのです。
皆さんの生活の中に霊的知識がもたらされたことを常によろこばなくてはいけません。それがさらに地上世界の恩恵だけでなく、その背後にある、より大きな恩恵まで思いのままに受けさせてくれる霊的知覚の存在を認識させてくれます。
あなた方は地上だけでなく私たちの世界からも愛を受けていること、血縁とは別の縁で結ばれている霊がいて、血縁同様にあなた方を愛し、能力の限り指導にあったてくれていることを喜ばなくてはいけません」
そう述べてもなお古くからのメンバーが繰り返し感謝の言葉をシルバーバーチに向けると──
「いえ、私への礼は無用です。このことは極力みなさまに判っていただきたいと願っていることです。私がそう申し上げるとき、決して口先だけの挨拶として言っているのではありません。皆さんは私を実際に見たことがありません。この霊媒の身体を通して語る声としてしかご存知ないわけです。ですが私も実在の人間です。感じる能力、知る能力、愛する能力をもった実在の人間です。
この仕事に携わる者の特権として私には幾つもの段階をへて送られてくる莫大な霊力を使用する手段が授けられております。必要とする人々へ分け与えるために使用することが私に許されているのです。私たちの世界こそ実在であり、あなた方の世界は実在ではありません。そのことは地上という惑星を離れるまで理解できないことでしょう。
あなた方は幻影の中で生きておられます。全て〝影〟なのです。光源はこちらの世界にあります。実質の世界です。こちらへ来て初めて生命とは何かということがお分かりになります。その真実味があまりに強烈であるために、かえってお伝えすることができないのです。
どうか、私のことをあなた方の兄貴だと思ってください。あなたを愛し、いつも側にいて、精一杯あなたを守り導きたいという願望をもって腐心している兄貴と思ってください。
私はあなた方が気づいておられる以上にしばしばそれぞれのお家を訪れております。私に敬愛を覚えてくださっている家庭を私の地上での家庭であると思っているのです。状態がどうもよくないとき──地上での仕事にはよくそういう時があるのです──そんな時に敬愛に満ちたあなた方の光輝で温めてもらいに来ることができるということは大いなる慰安の源泉です。
私たちはやっていただいたことに対しては必ずそれなりの支払いを致します。いつもこう申し上げているのです──施しをする人は必ずそれ以上の施しをしてもらっており、差引勘定をすればいつも頂いたものの方が多くなっていると。施す者が施しを受けるというのが摂理なのです。
なぜなら、施しをしようとすることは魂の窓を開き、精神を広げ、心を大きくすることであり、その広くなったチャンネルを通して愛と導きと保護の力が流れ込むことになるからです。ですから、私に礼をおっしゃることはないのです。私がしていることは実に些細なことにすぎないのですから」
ここでメンバーの一人が第二次世界大戦中にシルバーバーチへの信頼が大きな支えになったことを告げると、シルバーバーチは
「私のことを私の背後に控える大きな存在の表象、代弁者、代理人と思って下さい。その大きな力があなた方を包み、支え、その力があなた方を導いているのです。どこにいてもその知識を携え霊の世界との協力関係を確立した人は、イザという時にその豊かな力を呼び寄せることができます。
皆さんのような方が怖れたり、取り越し苦労をしたり、狼狽したりする必要はまったくありません。完璧な信仰は完璧な愛と同じく全ての恐怖心を追い払うものだからです。人間が怖れを抱くとまわりの大気を乱す波長を出し、それが援助しようとする霊を近づき難くします。
霊的な力が地上において本来の働きをするためには、静かで穏やかな確信──全ての恐怖心が消え、より大きな生命力と調和した光輝が漂い、何が起きようと必ず切り抜けられることを信じ切った、そういう確信がなければなりません」
「ですから、これまで成就出来たことは全てあなたのお陰だと申し上げているのです」とメンバーの一人が言うと、心霊治療で救われた別の一人が
「ほんとに大きなお陰をいただいたと感謝しております」と述べた。するとシルバーバーチが述べた。
「確かにあなたの場合は格別に霊力の見事さを見せつけられた生き証人ということが出来るでしょう。といって私たちは盲目的な信仰、理性が同意できない信仰、不可能なことを要求し奇跡を期待するような信仰をお持ちなさいと言うつもりはありません。現段階での人類は全ての知識を手に入れることは期待できません。一人一人の受容力と、能力と霊的発達程度に応じただけの知識が授けられております。
さて、その知識を人生哲学の基礎とすれば、これまでに受けた恩恵の大きさに艦みて、これからも背後に控える力があなた方を見放すはずはないとの〝信仰〟をもつことができます。
ある程度は〝信じる〟ということがどうしても必要です。なぜなら全てを物的な言葉や尺度で表現することは出来ないからです。霊の世界の真相の全てを次元の異なる物質界に還元することは出来ないのです。しかしある程度は出来ます。
それを表現する能力を具えた道具(霊媒・霊覚者)が揃った分だけは出来ます。それを基礎として、他の部分は自分で合理的と判断したものを受け入れて行けばよいわけです。
いつも申し上げているように、もしも私の言っていることが変だと思われたら、もしそれがあなたの常識に反発を覚えさせたり、あなたの知性を侮辱するものであれば、どうか信じないでいただきたい。私がいかなる存在であるかについては、これまでにも必要なときに、そしてそれを可能にする条件が許す範囲で、明らかにしてきたつもりです。
それ以上のことはあなたの得心がいく限りにおいて、あなたの私への信任にお任せします。ですが、これだけはぜひ申しあげておかなければなりません。
これまでを振り返ってご覧になれば、あなた方の生活の中に単なる偶然では説明のつかないものが数々あること、私ども霊団とのつながりができてからというものは、援助の確証が次々と得られていることを示す具体的例証を発見される筈だということです。
私は本日ここに集まっておられる方々の背後で活躍しているスピリットのあなた方への心遣いについて、いちいち申し上げようとは思いません。とても短い時間ではお話しできないでしょう。ですから、せめて次のことを素直に受け入れていただきたい。
すなわち背後霊はみなこうした機会を通じて皆さん方が愛の不滅性──こうして志を同じくする者が集まった時に心に湧き出る大いなる愛の情感は、墓場を最後に消えてしまうものではないということを改めて認識してほしいということです」
そして最後に出席者全員にこう挨拶を述べた──「本日こうして皆さんとの交わりを通じて、私がいつも皆さんの身近にいることを改めて認識していただくことができたことを深く感謝いたします」
すると一番古くからのメンバーが「私たち一同、とても大きな慰めをいただきました」と言うと、すかさずシルバーバーチは次のように述べて会を閉じた。
「あなた方こそ私たち霊団にとって大いなる慰めです。どうかこれまでと変わらぬ堅固な意思をもって歩んでください。みなさんはすでに数々の困難を切り抜けてこられました。試練の炎が猛り狂ったこともありました。しかし一つの傷を負うこともなく、その中をくぐり抜けてこられました。
恐怖心を抱いてはいけません。これは私が繰り返し繰り返し述べているメッセージです。あなた方を支援する力はこれから先も決して見棄てることはありません。
無限の力が何時もご自分の身のまわりにあり、愛によって導かれ、必要な時はいつでも無限の叡知に与(アズカ)ることができるとの認識をもって、恐れることなく、不安に思うことなく、まっすぐに突き進んでください。
皆さんも私たちも、世界を愛と美と寛容心と同情心と正義と慈悲の心で満たしたいとの願いの元に手をつなぎ合っている神の僕です。その神の御力を少しでも遠く広く及ぼすことができるよう、心を大きく開こうではありませんか。その御力の感動、その確証、その温かさを自覚できる人は大勢いるのです。
こうして神の使者として、みずからの生きざまを通して、私たちこそ神の御心に適った存在であり、その御心が私たちの行為の全てに反映していることを示す機会を与えていただいたことを素直によろこぼうではありませんか」