2001年03月
・親不孝通りディテクティブ(北森鴻) | ・永遠(とわ)に去りぬ(ロバート・ゴダード) |
・天国への階段(白川道) | ・二人のガスコン(佐藤賢一) |
・アンダー・ユア・ベッド(大石圭) | ・煙か土か食い物(舞城王太郎) |
・カリスマ(新堂冬樹) | |
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親不孝通りディテクティブ
著者 | 北森鴻 |
出版(判型) | 実業之日本社 |
出版年月 | 2001.2 |
ISBN(価格) | 4-408-53395-5(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
博多長浜に屋台を出すテッキ。旧友で結婚相談所相談員のキュータと共に、今日もちょこっとした依頼を得て調査にのりだす。
おととし、福岡に出張に行ったとき、地元の方に中洲の屋台に連れて行ってもらいました。残念ながら昼間のお天気が悪かった所為か屋台はまばらで、ずーっと屋台が並んでいる壮観な光景は見られなかったのですが、なんとなく屋台で食べていると、普通のものでも違ったような味がする気がします。
そんな屋台を中心にした短編集。どれもちょっとセンチメンタルで、人間関係が濃い感じの良い作品でした。中でも私は『ハードラック・ナイト』がよかったかな。思いがけないラストでしたが、単なる連作集にしなかったところもお気に入りです。ささっと読みたい本が欲しいときにおすすめ。
永遠(とわ)に去りぬ
著者 | ロバート・ゴダード |
出版(判型) | 創元推理文庫 |
出版年月 | 2000.2 |
ISBN(価格) | 4-488-29806-0(\1120)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
今の仕事を続けるか、それとも家業を継ぐか。3年前、人生の岐路に立たされた私は、山歩きに出かけた。そこで出会った一人の女性。わずかに言葉を交わしただけであったが、妙に心に残ったその女性が、その直後に殺害されたことを知る。彼女のそぶりに不審なものを感じていた私は、その事件へと深く関わりあってしまうことになる。
複雑怪奇な人間関係と、重厚な物語世界。そして二転三転して明かされる真相。ゴダードらしい展開に、久々に読んだ所為もあるのか、堪能できました。一人の女性が何故死ななければならなかったのか、という本当に単純な命題が、ここまで様々な波紋を呼び起こし、多少途中がだれることはあっても、やはり面白い結末まで読者を引っ張りこませる魅力はすごいなと思います。今回はちょっと長かったかな、という気もしましたが、まあ1000円以上もする文庫ですから。このくらい楽しませてもらわないと、勿体ないかも(笑)。
天国への階段
著者 | 白川道 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 2001.3 |
ISBN(価格) | (上)4-344-00055-2(\1700)【amazon】【bk1】 (下)4-344-00056-0(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★★ |
父の持っていた牧場は、隣の牧場に詐欺同然に吸収され、恋人は東京へと去ってしまった。絶対に成功してやるーーー復讐を誓った柏木は、今は押しも押されもしない一大企業グループの経営者。しかし、ある事件から歯車が狂いはじめる・・・。
いいですね、こういう人間の生の感情ばかりの作品。立場が変われば、おそろしく身勝手で、理想主義的とも言えるのですが、それはそれ、主人公に思いっきり感情移入して、悪役をどこまでも憎んで読むのが、こういう本の正しい読み方なのでは。
成功っていうのは、本当にちょっとしたことがきっかけで転がり込んでくるもので、またそこから落ちるのも、ちょっとしたきっかけ。天国への片道指定席は、そんな簡単な「成功」なんていうものとは全然違うもの。そんなことが言いたかったのでしょうか。社会的な成功によって忘れてしまったものほど、大切な物だなんていう、ちょと甘いストーリーですが、そういうのがお好きな方には、是非是非おすすめ。もちろん、そのロマンチックなストーリーをラストまで裏切らない潔さ。私にとっても久々の大泣き本です。
この本を読んで、浦河に行ってみたくなりました。夏はまた北海道に行こうかな。
二人のガスコン
著者 | 佐藤賢一 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2000.1-3 |
ISBN(価格) | (上)4-06-209695-1(\1800)【amazon】【bk1】 (中)4-06-210595-0(\1800)【amazon】【bk1】 (下)4-06-210596-9(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
ガスコーニュ地方生まれという意味のガスコン。持ち前のガスコン根性で、パリでの成功者が多い。時はルイ十四世の御代。元銃士のダルタニャンと、三流詩人のシラノは、マゼラン枢機卿に呼び出され、元銃士隊長の娘、マリーを監視しろという指令を下されるが・・・
この本、1ヶ月おき刊行、3巻完結。下巻が出るというところで、まとめて読みました。
三銃士が大活躍するデュマの「三銃士」にも出てくるダルタニャン。宿敵リシュリューも亡くなって、銃士隊自体も解散。現在の実権者、マゼラン枢機卿の密偵として働いてという時期です。この時代と言えば・・・と思っていたあるエピソード。案の定そちらの方向へ行っているのですが、結構意外性のある結末。その点では申し分ないのですが、ちょっとそれだけのために3巻は長いかなあ。逆に1ヶ月おきに出ているというのも、ちまちまと読ませて長さを感じさせないための策略だったのかも。長く感じたのは、一遍に読んでしまった私の責任かもしれません。
アンダー・ユア・ベッド
著者 | 大石圭 |
出版(判型) | 角川ホラー文庫 |
出版年月 | 2001.3 |
ISBN(価格) | 4-04-357201-8(\648)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
大学時代、一度だけコーヒーを一緒に飲んだ女性。彼女、佐々木千尋が忘れられない僕は、彼女を捜し出し、そして・・・。
ストーカーとドメスティックバイオレンス。貴女ならどちらを許しますか?という非常にこわーい物語。当然私はどっちも嫌ですけど、こういう極端な例って、あまり特別な話じゃないみたいですよね。随分前にアメリカの公共広告を見たことがあるのですが、一体どういう人たちがこんなひどいことをするんだろう、って思っていたのです。でも、実際ドメスティックバイオレンスって珍しくなくて、外では一見普通の人が多いという話も一方で読みました。やっぱり私も「だったらそこから逃げれば?」って思ったりもするのですが、そういう人たちって、もう逃げられないって思っている(思い込んでる)っていうのも、この本にあるとおり。日本では妻は夫に服従するみたいな、元々の土壌のせいなのか、ストーカーのほうが有名で、後者が問題にされることって少ないような気もするのですが、どっちかっていうと警察に逃げ込めると思える前者よりも、一番助けてもらいたい人間から暴力をふるわれる後者のほうが、よっぽど怖いのかもしれないなと思ったのでした。
煙か土か食い物
著者 | 舞城王太郎 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2001.3 |
ISBN(価格) | 4-06-182172-5(\1000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
アメリカのサンディエゴの病院で働く四郎の元に、実家から母が頭部に怪我を負って入院したという連絡が入った。慌てて日本へ舞い戻った彼だったが、母が入院したのは、このところ地元で起きている連続主婦殴打事件の一件だったことを知る。四郎はさっそく犯人探しを始めたが。
全編にわたって非常にテンションが高くて、かつ読点の少ない不思議な文章。嵌れば嵌れるけど、そうじゃない人にはなんだかわけわからないまま終わってしまうような本でした。とストーリーはともかく、著者の考え方とか生き様がそのまま映し出されたようなエピソードの数々はそこそこ面白かったかも(特に高谷ルパンのエピソードが)。雰囲気がエルロイを思わせるのですが、それは気のせいですかね、はい。ちょっと変わったミステリが好きな方でなければ、おすすめはしません。私は嫌いじゃないけど、うーん。ってとこですね。
カリスマ
著者 | 新堂冬樹 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2001.3 |
ISBN(価格) | (上)4-19-861319-2(\1600)【amazon】【bk1】 (下)4-19-861320-6(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
十歳の時、母が突然変貌した。あんなに優しかった母、誰もが羨むような美しい母。その母が、髪を振り乱し、般若のような形相で「メシア」と名乗る男を信奉する。そして迎える悲惨な結末。彼は両親を奪った神への復讐を誓う。
洗脳っていうのは、本人は洗脳されていると思っていないから怖いんだと思うのですね。周りがいくら間違っているとか、そんなわけないと言っても、聞く耳を持たない。ただ、それってこういう宗教カルトばかりじゃないように思うのです。よく思うのは健康食品。先日『「食べ物情報」ウソ・ホント』(講談社刊)という本を見たのですが、結構良い値段で売っている健康食品や、健康志向製品というものも、言うほどの効果があるものは少ないとか。害にはならなくても、健康食品という名前だけを付加価値にして、高い値段で売るのだったら、1日置いただけで神水という宗教カルトの売り方と変わらないですよね。痩せる石鹸とか、頭が良くなる金属の輪とか、ばーっとブームになっては消えてきますけど、あれも一種の洗脳っていうかそんな気がするんです。当然洗脳されてる本人は、そんなこと思ってないわけですが、詐欺なんていうものはそういう身近なところにあるんじゃないでしょうか。宗教カルトの話を見て、「どうしてあんなのにひっかかるんだろうねえ」って思うのは簡単ですが、意外と自分も何かに洗脳されてるかもと思ったり。
肝心の本のほうですが、そこそこ面白いとは思えるものの、某教団のワイドショーネタ焼き直しといった感じで、目新しさはあまりありません。復讐劇だと思っていた私には、かなり拍子抜けだったというか。長い所為か重複した記述も多くて、これが半分で、もう少しスピード感があれば、星4つつけたのになと思います。同じ新興宗教関係でしたら、井上夢人の『ダレカガナカニイル・・・』をおすすめしますね。
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