1999年07月

涙流れるままに(島田荘司) 連続殺人記念日(ディヴィッド・プリル)
転生(貫井徳郎) 隕石誘拐(鯨統一郎)
プラハの春(春江一也) ベルリンの秋(春江一也)
眠る馬(雨宮町子) ドッペルゲンガー宮 (霧舎巧)
イツロベ(藤木稟) あした蜻蛉の旅(志水辰夫)
ゆび(柴田よしき) 眠れぬ夜の報復(岡嶋二人)
百鬼夜行-陰-(京極夏彦) 巨鯨岬(小川竜生)
無実の領域(スティーヴン・グリーンリーフ) シマロン・ローズ(ジェイムズ・リー・バーク)
4000年のアリバイ回廊(柄刀一)
<<前の月へ次の月へ>>

涙流れるままに

著者島田荘司
出版(判型)カッパノベルス
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-334-07343-3(\1000)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

通子は、天橋立近くの自宅で、過去を回想していた。なぜ自分はこれほど不安定なのか。それはすべて過去にあると思いはじめていたからだ。思い出したくもない盛岡での数々の出来事。彼女は封印されていた過去を取り戻すことができるのか。

北の夕鶴2/3の殺人」、「羽衣伝説の記憶」、「飛鳥のガラス靴」、「龍臥亭事件」と、実に10年以上にわたって書き続けられてきた吉敷の元妻、加納通子の謎にせまる!という作品。ずっと吉敷のファンで、「龍臥亭事件」では、事件そのものではなく、別の意味でラストシーンにびっくりした私にとって、この本はまさに待ちに待っていた作品と言えます。他の4冊の事件を思いっきりネタバレしてますし、他の作品を読まないと通子と吉敷の事情がわからないと思いますので、これを読む前にぜひ前の4冊を読まれることをおすすめいたします。

「龍臥亭事件」で、なんだこれはと思われた唐突な過去の話ですが、なんとこんなところでつながりが。もしかすると、あの作品はこの話を書くためにあったのでしょうか。今回は、通子の過去とそれに複雑にからむある冤罪事件のお話。正義感の強い吉敷が、警察官という立場を危険にさらしながら、冤罪事件の過去を洗うというストーリーと、通子の回想がうまくからんで、ラストの感動シーンにつながります。雑誌掲載ということもあってか、重複した記述も多く、もうすこし校正できなかったのかなあ、というのがちょっと残念ではあるのですが、なんだかんだいって一気読みしてしまいました。これで長かった吉敷の話は終止符を打つということなのでしょうか。それはそれでファンとしては寂しいのですが。

先頭へ

連続殺人記念日

著者ディヴィッド・プリル
出版(判型)東京創元社
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-488-01627-8(\2300)【amazon】【bk1
評価★★★☆

ミネソタ州スタンダード・スプリングス。田舎の平和な町に、奇妙な習慣があった。毎年7月の同じ日に1件だけ殺人事件がおきるのだ。犯人は捕まらず、連続殺人は既に20年も続けられている。刺激のない田舎町の、唯一の楽しみ。スタンダード・スプリングスでは、その日を連続殺人記念日とし、毎年1週間にわたる「記念祭」を行う。高校生のデビイは、その記念祭のメインイベント、「絶叫クイーンコンテスト」に今年こそ優勝を懸けて出場する。

この人のすごいところは、「常識」をちょこっと変えて度肝を抜く話を作ってしまうところ。前作「葬儀よ、永久につづけ」を読んだときも思ったのですが、こんなに殺人ものが好きで、人殺しの本ばっかり読んでいるような私でも、「人の死」に関する禁忌感というのは厳然と存在するんですね。やっぱり。今回は、連続殺人事件が毎年同じ日に起こる田舎町のお話。その日を記念日にし、町をあげてのお祭りをしてしまう。町おこしのネタが本当に無いようなところでは、ちょっと間違えば本当にこういうお祭りが行われそうなところが恐い(^^)。主人公のデビイは、おかしいほど楽天家で、恐怖を感じることができない。そんな彼女が「絶叫クイーン」を目指して努力するという、なんともブラックなお話です。常識を少しどこかへしまってから読んでみると面白いかもしれません(^^)。

先頭へ

転生

著者貫井徳郎
出版(判型)幻冬舎
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-87728-310-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

健康そのものだと思っていたおれは、ある日大学に行く途中発作を起こして病院にかつぎこまれた。診断は、拡張型心筋症。早急に心臓移植を行わないと危険な状態だという。幸いそれほど間をおかずに脳死のドナーから心臓を提供されることになった。ところが術後、急に甘いものが好きになったり、突然絵がうまくなったり、聴いたこともないクラシックの曲名を知っていたりと妙なことが相次いだ。しかも恵梨子という知らない女性が夢に出てくる。もしや、ドナーの記憶が自分に?

ドナーの記憶がレシピエントに、というのは全くの絵空事でも無いようです。でも他人の記憶が入り込んできたら、ホラーですよねぇ。良く考えると、心臓を取り替えるという事自体が、吃驚仰天という感じなのですが、最近脳死の人からの臓器提供も結構テレビで取り上げられたりして、だんだん常識になってきています。私はどちらかと言えば、臓器提供しても良い派なのですが、こういう風に記憶が一体どこにあるのか、という話を突き詰めていくと、なんとなく気持ち悪い感じもします。
などなど、いろいろと考えさせられることは多いのですが、ストーリーとしてはまあまあでしたでしょうか。背負い投げを期待したのに、肩透かしをくらってしまったという感じでした。とはいえ、臓器提供や、脳死のお話はタイムリーかつ問題の多い話でもあるので、興味のある方には面白いのでは。個人的にはそれなりに楽しめたと思います。

先頭へ

隕石誘拐

著者鯨統一郎
出版(判型)カッパノベルス
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-334-07342-5(\838)【amazon】【bk1
評価★★★★

中瀬研二は脱サラの童話小説家。と言いたいところだが、実状はとても妻と娘に満足に食べさせるほどの収入もなく、ビルで清掃員として働いている。妻もそんな夫に愛想を尽かし気味。ある朝ものすごい大喧嘩をして、妻が出て行くと言った。仕事から帰ってくると、本当に妻がいない。びっくりした研二だが、どうも様子がおかしい。書き置きもないし、実家にも電話がつながらない。もしや誘拐?

何度も書き直されている宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に、ものすごい暗号が隠されていたという、鯨さんらしい奇抜なアイデアを元に作られた誘拐事件のお話。「弥馬台国はどこですか?」に比べると、納得度は低いのですが、それでも緊張感、スピード感がそれを補っていて、楽しんで読めました。私は「銀河鉄道の夜」は途中で挫折してしまった人間なのですが、これを読んだらもう一度挑戦してみたくなりました。
「銀河鉄道の夜」の暗号という部分も面白いのですが、典型的なダメ男だった研二が、だんだん成長していくというサブストーリーもなかなか。「銀河鉄道」の暗号とは何なのか、そして妻は無事なのか。暗号だけではない、ストーリー性で読ませてくれる作品です。

先頭へ

プラハの春

著者春江一也
出版(判型)集英社
出版年月1997.5
ISBN(価格)4-08-780245-0(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★☆

1960年代も終わりに近づこうとしている時期、チェコスロバキアでは現状の社会主義に疑問を持ち、改革派が実権を握ろうとしていた。厳格な言論統制と、秘密警察などによる恐怖支配をひくDDR(東ドイツ)や、社会主義同盟国であるロシアは、チェコスロバキアのの動きににわかに緊張していく。一触即発の雰囲気の中で、「ミレナとワインを」というチェコ側に立った放送をしたDDR女性と、日本人外交官のお話。

私は戦争を知らない世代ですし、「言論の自由」が認められている国に育っていますから、言いたいことが言えないなんてことはなかったですけれども、チェコやハンガリーなど東欧の国々は、こんな感じだったんですね。ついつい自分の経験と照らして、どこも同じだと思いがちなのですが、政治思想が違うということは、国の雰囲気・事情・人々の生活、すべて違うということなんだということを、改めて思い知らされた気分です。恐ろしいことです。どこの国の人であろうと、同じ人間であるのに、国籍によって会う事さえ許されないという閉塞感がいかほどのものか、想像を超えるものがあります。そんなチェコスロバキアを襲う緊張の中の、日本人外交官・堀江と、DDR人カテリーナとのラブストーリーです。
ストーリーは、いろんな事を考えさせられる力作なのですが、ちょっと長いかなぁ。特に、半ばあたりがだらける感じ。後半はスピード感があって面白かったので、政治の部分は少し離れて、政治の駆け引きに翻弄される、堀江たちのの周りの話をもっと前面に押し出した方が面白かったんじゃないかなあと思います。

先頭へ

ベルリンの秋

著者春江一也
出版(判型)集英社インターナショナル
出版年月1999.6
ISBN(価格)(上)4-7976-7003-7(\1600)【amazon】【bk1
(下)4-7976-7004-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

カテリーナを失い、シルビアはベルリンへ去った。堀江亮介は、失意の中で日本に帰国した。ソ連の崩壊の噂がまことしやかに流れ、水面下で活発化する民主化運動に、孤立するDDR。そんな中、亮介は新設されるDDRの大使館勤務の内示を受けたが・・・。

2つの大きなストーリーが複雑にからんでひとつのお話になっています。ひとつの核となるストーリーは、亮介とシルビアの恋愛話で、もうひとつがマルクス・レーニン主義の崩壊。DDRという特殊な国だからこそ起こる障害の数々に、いらいらさせられます。壁が崩壊するまでの東ドイツとは、一体どんな感じだったのか、見ておきたかったものです。
随分前の話ですが、私の高校にハンガリーから少年少女合唱団が来て、交流会のようなものをしたんです。そのとき仲良くなった女の子に、手紙を書いたのですが、戻ってきませんでした。この本を読んで思ったのですが、もしかすると届いてないのかも・・・(^^)。その時は国境のことなんて全然考えませんでしたけど、ハンガリーは遠い国だったんですね。
大学には中国人がたくさんいますし、中国人の友人もいますけれども、中国から日本へは観光ビザが発行されないと最近知って驚きました。日本の国籍をもっていれば、ほぼ世界中どの国でも行けますし、日本には目に見える国境が無いので、ついついそういうことを忘れがちだなあと反省。
あんまり本の話になっていないですけれども、「
プラハの春」に比べてスピード感や、話の展開としては、こちらの方が面白かったように思います。いずれにせよ、「プラハの春」を先に読むことをお勧めいたします。

■入手情報: 集英社文庫(2001.3)

先頭へ

眠る馬

著者雨宮町子
出版(判型)幻冬舎
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-87728-305-6(\1800)【amazon】【bk1
評価★★☆

馬が誘拐された。誘拐されたのは、未出走場としては破格の1200ドルの値がついたキャッシュアッシュ。イギリスでの同様事件の模倣と思われる。一体誰が。何の目的で?

最初の所を読んだとき、真っ先に思い出したのが「あした天気にしておくれ」。ただ、あの傑作と比べられるには、あまりに力不足。何よりも人物が書き分けられていない感じです。あんまり印象に残らない人がたくさん出てきて、どういう関係だかよくわからないまま終わってしまったという感想です。うまく現実の大きな事件に絡めるところなんかは面白いとは思うのですが、それ以前の問題ですね。せめて登場人物表が欲しかったかも(^^)。

先頭へ

ドッペルゲンガー宮

著者霧舎巧
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-06-182083-4(\1100)【amazon】【bk1
評価★★★☆

大学に入ったら、絶対推理小説研究会に入るんだ。そう思い、大学もそれを基準に選んだ僕。ところが、入った大学には、推理小説研究会は無く、代わりにあったのは、いかにも怪しげな<<あかずの間>>研究会。結局成り行きでその研究会に入ってしまった僕は、ある教師の依頼で、研究会の面々と千葉の流氷館に行くことになるが・・・

島田荘司が考えたというペンネーム。20世紀最後の新本格新人。そんな謳い文句に誘われて、買ってしまいました。奇抜な作品の多い(?)メフィスト賞にしては、かなりまともな推理小説。ただ謎解きがインパクト薄いなあという印象でした。自称名探偵の鳴海君、霊能力を持つといわれるサキさん、どんな鍵でも開けてしまうジョーマエ君、何故いるかわからないユイさん。過去が曰くありげな後動君。そんな個性あふれる研究会に入ってしまった僕。登場人物は面白く、ストーリーもなかなかなのですが、あっと驚く最後を期待していただけに、どこかで読んだようなお話になってしまったのが残念です。無くなってしまった推理小説研究会の謎もありますし、登場人物の過去もまだまだ明かされそうなので、今回は登場人物紹介といったところなのでしょうか。シリーズ化に期待です。

先頭へ

イツロベ

著者藤木稟
出版(判型)講談社
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-06-209687-0(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

発端はアフリカ行きだった。ボランティアの医師としてアフリカの奥地へ派遣された間野は、滅多に姿を見せないという部族に気に入られ、彼らと深く接するようになる。そして、見た恐怖の事実。精神を蝕まれたまま帰国した彼は、次第に崩壊していく。

一読して、これって藤木稟なの?!と思いました。今までの朱雀シリーズとはかなり毛色の違った作品です。なんだか話はぐちゃぐちゃになっていくのに、やめることのできない魅力あり。超おすすめ!はつけられませんが、私にはとても面白く感じられました。帯の「これは読むドラッグだ!」は読み終わると実感できます。一体この話は何?と思いつつも、強烈な印象を持つ本でした。しかも怖い。個体の境界とは、個性とは何か・・・そんな命題に挑戦する傑作だと思います。

先頭へ

あした蜻蛉の旅

著者志水辰夫
出版(判型)新潮文庫
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-10-134513-9(\993)【amazon】【bk1
評価★★★★

PR会社の社長を経営する俵谷のところへ、郷土史家を名乗る老人が訪ねてきた。俵谷の祖先は廻船問屋。その当時隠したという財宝を探しているというのだ。最初は半信半疑だった俵谷も、老人の姪・昂子に惹かれ、老人の財宝探しに巻き込まれる。

久々にやってしまいました。ハードカバーで買って読んだのに、文庫を買ってしまった1冊。なんとなく記憶を刺激されながらも、400ページ辺りまで気づきませんでした。私が読んだのを忘れていただけで、ストーリーは面白いんですよ、念のため。
複雑な人間関係がいい味出してます。単なる財宝探しで終わらないところがよかったですね。ちょっと回りくどいというか、長すぎというきらいもあるのですが、それを上回る面白さだったので、良しとしましょう(^^)。他人に翻弄される俵谷が、結局最後に手に入れられるものは何でしょう。派手な演出があるわけでもなく、なんとなく漂う雰囲気に酔う感じの本です。

先頭へ

ゆび

著者柴田よしき
出版(判型)祥伝社文庫
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-396-32700-5(\619)【amazon】【bk1
評価★★★☆

突如都会をパニックに陥れたもの。それは一本のゆびだった。自殺しようとするものを後押しし、デパートで騒ぎを起こし、老婆を階段から突き落とす。どんどんエスカレートする事件が、指のいたずらであることを知った上村たちは、なんとかその被害を食い止めようとする。

炎都」を彷彿とさせる、ちょっと笑いも入るパニックホラー。今度の敵は妖怪ではなく、ゆび。1本の指に大都会が翻弄されるお話。ゆびの出現に対して、特に納得できる科学的な証明がされるわけではないので、やはりホラーなのでしょう。確かに、私たちの周りには押しただけで大変なことになるボタンがいっぱい。本当にこんな指たちが出現したら、パニックになるかも・・・(^^; 。軽いものが読みたいときにおすすめ。さっと読んで楽しめる1冊です。

先頭へ

眠れぬ夜の報復

著者岡嶋二人
出版(判型)講談社文庫
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-06-264619-6(\533)【amazon】【bk1
評価★★★★

16年前、居直り強盗によって、両親と妹を失ったプロボウラーの草柳は、大阪のボウリング場に仕事で出かけ、強盗で盗まれた自分のボールを見つける。このボールの出所を辿れば、犯人に行き着く・・・そう思った草柳は、とんでもない行動に出る。

久々に岡嶋二人を読みましたけれど、やっぱり面白いですね。この本は、随分前に図書館で借りて読んだのですが、今回講談社文庫で再刊されていたので、買ってしまいました。「眠れぬ夜の殺人」に続く捜査0課のお話です。
この本、初版は1989年なのですが、ところどころとっても古い表現が出てくるのが笑えます。「捜査0課」に所属する女の子、なんとポケベルで呼び出されるんです。しかも今では常識のリダイヤル機能の説明あり。今なら絶対携帯ですよね。わざわざターゲットの家の電話を使うなんていう危険は冒さないと思います。ここ10年でこういう通信機能ってものすごく変わったんだなあとこんなところで感じてしまいました。
というわけで、双葉社刊行の作品に手は加えられていないのが、ちょっと残念。岡嶋二人という作家は既に存在していないですから、仕方がないのかもしれませんが、本当に惜しい。もう一度コンビ組んでくれないかなあ。

先頭へ

百鬼夜行-陰-

著者京極夏彦
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-06-182080-X(\980)【amazon】【bk1
評価★★★★

京極堂シリーズの番外編。京極堂シリーズに出てきた被害者や超脇役たちの視点で書かれた、シリーズファンなら逃せない1冊です。

読む前に、必ず京極堂シリーズ全部を読むことを強くおすすめいたします。読んでいないと半分も楽しめないのではないでしょうか。十篇ありますが、どの短編がどの作品に当てはまるか、考えながら読むのは楽しいものです。もちろん、小説としても楽しめます。私は「絡新婦の理」と関係のある、「倩兮女」がお気に入り。唯一書き下ろしの「川赤子」は「姑獲鳥の夏」の前話で、これだけレギュラーの関口君が登場します。「姑獲鳥の夏」は2つ出てきて、どちらも本編を読んでいればおーと思える短編です。
全編通して、どちらかというとファンサービスかなあというイメージです。京極堂の世界へどっぷりはまる為のバイブル(?)。京極好きな方には超おすすめです。

先頭へ

巨鯨岬

著者小川竜生
出版(判型)祥伝社
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-396-63150-2(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

剛は捕鯨の町・太地でも一番のモリ撃ちだった。ところが商業捕鯨禁止のあおりをくらって失業。昼間から酒を飲み、妻子に暴力をふるう男になっていく。モリ撃ちの父を尊敬していた息子の俊一は、そんな父に愛想を尽かし、無茶なことばかりをして出て行った母を困らせるが。

それほど長くないのに、読ませる小説でした。無茶な事をして他人に暴力を振るう俊一君の言い分がわからなくもないだけに、目が離せない感じでした。父親のこともあって、俊一にそんな事はやめろ、と言い切ることのできない周りと、そんな俊一に全く関心のない(振りをしている)父親は、結局どんな決着をつけるのでしょうか。最後があまりにありがちな落ちがついてしまったので、残念だったのですが、それでも良い話でした。父子話が好きな方にはおすすめ。

先頭へ

無実の領域

著者スティーヴン・グリーンリーフ
出版(判型)ハヤカワミステリ
出版年月1987.11
ISBN(価格)4-15-001498-1(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★★

ジョン・タナーシリーズ第5作。娘を惨殺した犯人を見つけて欲しいという老夫婦の依頼を断りきれずに受けたタナー。そのうち、警察は被害者の夫を犯人として起訴する。その夫は、精神異常による限定責任能力を武器とし、いくつもの裁判で勝利を収めているロースクールの教授アッサー。専門分野を生かして、彼自身が精神異常者を装い、無罪放免されようとしているのか、それとも犯人は別にいるのか。タナーは調査をしていくが。

映画「39」もそういうお話でしたが、限定責任能力という「法の抜け穴」を利用し、異常殺人を犯しながら無罪放免を画策しようとする人間って、本当にいそうで怖いです。この話は、その限定責任能力の弁護を何度も手がけて、実際に精神異常である(今は「異常」とは言わないのでしょうけれども、この本にはそう書いてあるので、そのまま使います)という判決で、事実上の勝訴を勝ち取ってきた専門家。これは手ごわそう・・・なのですが、本当に彼が犯人なのか、それさえも不明。タナーは相変わらず持ち前の執拗さで、事件の真相をあばこうとするのですが、さてさてどうなることか。
随分積読にしておいたのですが、読んでみるとやっぱり面白いですね、このシリーズ。気が向いたら続きも読もうと思っています。また1年先になってしまうかもしれませんけれど(^^)。

先頭へ

シマロン・ローズ

著者ジェイムズ・リー・バーク
出版(判型)講談社文庫
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-06-264617-X(\905)【amazon】【bk1
評価★★★★

元テキサスレンジャーのビリー・ボブは今は弁護士をしている。友人から、少女レイプ事件の犯人として起訴された彼の息子の弁護を依頼され、調査を進めるが、町の有力者の一族の暗い一面が暴き出され・・・

レンジャー時代に事故で友人を撃ってしまった悪夢から、いまだに逃れることのできない主人公のお話なのですが、随分前に読んだバークの「エレクトリック・ミスト」よりも数段面白く感じられました。なによりこれはシリーズ第1弾。人物紹介から始まりますから、ハードボイルドで一番大事とも言える人間描写がよくわかりますし、次々と暴かれる町の人間の悪事や、息詰まる法廷シーンなどスピード感も抜群です。第2作も発表予定ということで、続きが楽しみですね。

先頭へ

4000年のアリバイ回廊

著者柄刀一
出版(判型)光文社
出版年月1999.7
ISBN(価格)4-334-92312-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★★

室戸沖を調査していた深海調査船が、深海で人間の遺体を発見した。錘がつけられ、頭にビニール袋を被せられた遺体は、宮崎県埋蔵文化財センターの岩下氏のものだった。彼は、歴史的に貴重な発見が多くなされ、「九州のポンペイ」と言われて全国的に注目を集めている湯口台遺跡の発掘に関わっていた。その遺跡に出向いた刑事たちだが、そこでは奇妙とも言える発見が次々となされていた。

一言、面白いです。私は古代遺跡が大好きで、こういうとってもロマンチックなお話にはかなり弱いので、あまり当てにできないかもしれませんが、この話は本当に良いです。前の「3000年の密室」の方は、現代との関わりがちょっとこじ付けっぽかったイメージがあったのですが、この話は海のいたずらという地球規模のトリック(!)が、遺跡からの発見や古代人の習慣とうまく結びつけられています。著者の古代観も、理想主義的ではありますが、個人的には全面的に賛成したいという感想です。運命のいたずらで、ある一瞬で時間が止まってしまった4000年も前のムラから、現代技術を駆使して現れる数々の謎も面白いですねー。前にも書きましたが、考古学って本当に魅力的です。最近特に古代史ブームでもあるので、あちこちに観光できる遺跡がありますけれども、その多くが残っていってもらいたいものです。

先頭へ