2001年06月

黄金の島(真保裕一) 詩人の夢(松村栄子)
風に桜の舞う道で(竹内真) 上と外5-楔が抜ける時-(恩田陸)
ニコチアナ(川端裕人) センティメンタル・ブルー(篠田真由美)
スノーフレーク・ゴースト(上領彩) 夜のフロスト(R.D. ウィングフィールド)
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黄金の島

著者真保裕一
出版(判型)講談社
出版年月2001.5
ISBN(価格)4-06-210656-6(\2000)【amazon】【bk1
評価★★★★

組織で上手く立ち回ることができずに、バンコクへと逃亡することになったヤクザ者、修司。このままでは組織からも追われることになる・・・と自分で手配した偽造パスポートで、ベトナムへとさらに逃亡、そこで「黄金の島・日本」を夢見る若者たちと出会う。

日本に行けば・・・と苦しい生活からの逃亡を考えるシクロ乗りの若者たちと、日本の組織に追い詰められる修司との皮肉な出会い。日本に生まれ育った人間からすると、日本なんてって思うのですが、いまだに密航船っていうのがあるとか。不況が続いて一時期に比べると、あんなに上野公園にいたイラン人はすっかり姿を消しましたが、やっぱり日本はマルコ・ポーロの頃から全然変わらない「黄金の島」なのでしょうか。実際のところ言論の規制はあからさまにはされないし、警官はベトナムの公安のようではないし、普通に働けばそこそこの給料は手にできますが、世界一といわれる物価もまた本当の話で、日本に来たからといって苦労を逃れることができるのかなあ。2年ぶりの著者の長編は、期待に応える面白本でした。おすすめ。

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詩人の夢

著者松村栄子
出版(判型)ハルキ文庫
出版年月2001.2
ISBN(価格)4-89456-838-1(\840)【amazon】【bk1
評価★★★☆

詩人を自分のわがままで死に至らしめたことを悔いて過ごすシェプシ。書記の町の運命の親で暮らしながら、書記の勉強には身が入らず、詩人になるんだ、と歌ばかりを歌っている。時が経ち、紫の砂漠は禁断の地ではなくなったが、それと共に徐々に社会の制度も壊れ始め・・・。

禁忌とか迷信っていうのは、ついつい「そんな古いこと・・・」って思ってしまいがちですが、そんな中にはその理由を辿ると、そこに重要な意味が隠されているものも多いのかもしれません。今ちょうど、このシェプシの世界のように、現実世界も変化する時ようですけれども、安易に禁忌を犯すことは、長い目で見たときに何が起こるのか、ちゃんと考えなければならないのかもしれないですね。

というわけで、前作は運命の子制度によるシェプシの旅のお話でしたが、今回は書記の街で暮らすシェプシと、シェプシの世界の変化のお話。もっと間を開けずに作者が書いていれば、もう少しこの世界のいろいろな部分が見られたんじゃないかと思うとちょっと残念です。まあ続けて読んだ私にそんなことを言われたくないかもしれませんが・・・。

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風に桜の舞う道で

著者竹内真
出版(判型)中央公論新社
出版年月2001.6
ISBN(価格)4-12-003150-0(\1850)【amazon】【bk1
評価★★★★

親の希望で、早稲田大学を第一志望に大学受験をしたアキラ。どの大学にもひっかからずに、浪人をすることに。家にいるのも気詰まりで、ある予備校の寮付き、食事付きという特待生制度に飛びついた彼は、特待生としてその予備校・山の手学院に行くことになった。。。。

人生の分かれ道に立った特待生10人。すったもんだがありながら、自分の将来を考えて過ごすわけですが・・・。10年後のアキラと、予備校時代を行ったり来たりしながらの作品。私は浪人した経験が無いのですが、浪人ってこんな感じですか?>浪人したことある皆さん。いずれにしろ、大学に勤めてても思うのですが、18歳なら18歳なりに、将来のことを考えて大学に進んだ方がいいんじゃないかなあと思うんですよね。高校に出たら絶対に大学に進まなくちゃいけないわけでもないし、就職してから大学に戻ってくる人間も沢山いますし。ただ、大学入ると将来設計が変わったりもしますけど(笑)。まあそう言えるのも今だからかもしれないですけどね。10年も経ったら(実際わたしは彼らと同じくらいの歳ですが)、受験勉強したこととか、そんなことあったね程度の話になっちゃうわけですが、あの頃は大学受かんなかったらどうしよう、とか思ってたかも。こういう本を読むと、なんだか元気がでてきますね。「すったもんだ」も若者らしい面白さがありますし、おすすめです。

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上と外5-楔が抜ける時-

著者恩田陸
出版(判型)幻冬舎文庫
出版年月2001.6
ISBN(価格)4-344-40110-7(\457)【amazon】【bk1
評価

*『上と外4』までを読んでいない人は、思いっきりネタバレですので、あらすじを読まないでください。読みたい方は、白いところをドラッグ!

成人式に無理矢理参加させられた練は、囚われてしまった千佳子のためになんとか儀式を無事に終えようとしていた。一方なんとか脱出を果たした賢と千鶴子は、ヘリコプターで彼らの捜索をしようとする。

結局1ヶ月伸びてしまった第5巻。しかも最終巻はもう1巻先のようで。さらに!またまた絶対絶命大ピンチの練と千佳子。一体この先はどうなるのでしょう。しかも、この作品最大の謎、このクーデターの正体は一体。本当にあと1巻で終わるのでしょうか。というか、まだあと10巻くらい続けていただきたいんですけど・・・。

→『上と外6』へ続く

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ニコチアナ

著者川端裕人
出版(判型)文藝春秋
出版年月2001.6
ISBN(価格)4-16-320090-8(\1667)【amazon】【bk1
評価★★★

アメリカでは、嫌煙家による運動が活発になり、州禁煙法があちこちで制定されようとしていた。根っからの愛煙家であり、タバコ会社の社長でもあるデュークは、日本の企業と合同で「煙の出ないタバコ」を世に出そうとしていた。

タバコの持つ儀式的な要素と、現代の喫煙をテーマにした作品。私はどっちかっていうと、コーヒーの匂いを消してしまうタバコは好きではないし、実際タバコ吸いではないので、喫煙の持つ意味を考えるのは少々無理だったようで、この小説に対する点数も辛くなってしまいました。でもこの小説で肯定しているのは、ニコチン中毒とかチェーンスモークではなく、古来から持つ喫煙という「儀式」なのでしょう。それはきっと神社の御神酒と同じような意味をもってるんではないでしょうか。私は絶対にタバコを吸うなとは言わないのですが、場所だけは守って欲しいかな。

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センティメンタル・ブルー

著者篠田真由美
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2001.6
ISBN(価格)4-06-182185-7(\1000)【amazon】【bk1
評価★★★☆

蒼を主人公とする蒼の成長物語。家に閉じこもっていた11歳の頃の素敵な出会いを描いた『ブルーハート、ブルースカイ』が私はお気に入り。家族っていうのは血のつながりばかりじゃないですよね。どの作品も内省的な蒼の性格が良く出た文字通りセンチメンタルな作品で、少々暗い気分にはなりますが、でも読み終わったあと、ああよかったなと思える1冊。『原罪の庭』以来、京介たちのついて回っている存在であった彼の、普段の姿が見えるファンには美味しい作品です。シリーズで読んでる方は是非。

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スノーフレーク・ゴースト

著者上領彩
出版(判型)角川ティーンズルビー文庫
出版年月2001.6
ISBN(価格)4-04-441303-7(\419)【amazon】【bk1
評価★★★☆

保坂光一郎の小説が映画化され、ロケに彼も同行することに。当然秘書分の真理もついていくことになったが、雪のまだ深い北海道で、直人がとんでもない霊を拾うことに。

今度は早春の北海道。いいですね〜。冬の北海道は、住むのは大変そうですが、遊ぶにはなかなか良いです。オフシーズンですし、確かに行けない場所とかもあるのですが、あれだけの銀世界が広がるのは北海道ならでは。しかも魚は冬のほうが美味しいですし。そんな北海道ロケに同行したマリちゃんは、またまた食べまくりの旅(笑)。やっぱり私は「白い恋人」が好きだな〜。とかちょっと同病相憐れむ的な読み方をしてしまいましたが・・・。次はどこを舞台にしてくれるでしょう。楽しみ。

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夜のフロスト

著者R.D. ウィングフィールド
出版(判型)創元推理文庫
出版年月2001.6
ISBN(価格)4-488-29103-1(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★★

流感が大流行して、人員の減ったデントン警察署。そこへ昇進して配属されることになったギルモアは、いきなりフロストという浮浪者のような格好をした警部の下でこき使われるはめに・・・。しかも老人を襲うこそ泥だの、少女の失踪事件だの、中傷の手紙だのと問題は山積。そして上司のフロスト警部はとんでもない人で。

フロスト警部シリーズ第3弾。今回もフロストの直感と強引な捜査による傍若無人な活躍が光ります(^^;。証拠は捏造、複数の容疑者から「こいつが怪しい」と証拠もなしに山勘で絞込み、でもちゃんと正義は通すといったフロストの魅力が満載の1冊。ただ、ちょっと長い所為か、どの人がどの人だかわかんなくなってきてしまって・・・。はい、すみません、私の記憶力とカタカナ読解力に問題があるようです。フロストの活躍だけでも楽しめると思いますが、人物を覚えるのが得意な方に特におすすめ。

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