2000年03月

コールドマウンテン(チャールズ・フレイジャー) 栄光一途(雫井脩介)
一瞬の光のなかで(ロバート・ゴダード) 星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう(柴田よしき)
サーチエンジンシステムクラッシュ(宮沢章夫) 高い砦(デズモンド・バグリイ)
ヨコハマベイ・ブルース(香納諒一) ifの迷宮(柄刀一)
テイク(西澤保彦) 香水-ある人殺しの物語-(パトリック・ジュースキント)
遊部(梓澤要) 千里眼 ミドリの猿(松岡圭祐)
炎の背景(天藤真) 闇が噛む(ブリジット・オベール)
虚の王(馳星周)
<<前の月へ次の月へ>>

コールドマウンテン

著者チャールズ・フレイジャー
出版(判型)新潮社
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-10-590017-X(\2800)【amazon】【bk1
評価★★★★

南北戦争末期、負傷して病院に入院していたインマンは、故郷にいるエイダを想い、病院を抜け出す。脱走兵として追われながら、幾日もさまようインマンだったが。

これ面白い!っていう直感的な面白さよりも、じわじわっと心に訴えられる、そういう本です。北軍兵士に撃たれ、危うく命を落とすところだったインマン。天涯孤独になり、生活能力もないエイダ。エイダに会いたい一心のインマンは、病院を抜けだしてエイダのもとへ、エイダはルビーという女の子の助けを借りて、なんとか生活していこうとするのです。そんな二人の成長物語が、徐々に近づいていって、最後に・・・と静かな中にも盛り上がりを見せる辺りなんかは、ああ、いいなあこういう本という感じでした。あまりあわてて読まずに、1章づつとか、少しずつ味わって読むといいかもしれません。そう、ちょうどこのお話のなかのインマンがやっているように。

先頭へ

栄光一途

著者雫井脩介
出版(判型)新潮社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-10-602764-X(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

オリンピック選考を間近に控え、練習に余念のない強化選手たち。ところが、81kg級の選手にドーピングの疑いがかかった。女子コーチの篠子は、選手たちに知られずに、誰がドーピングをしているのか調査しろと命じられる。

柔道ミステリー?と思いながら読んだこの本。これが意外に(失礼)面白かったのです。文章も読みやすいですし、なによりも良いのが女性の描き方。一瞬女性が書いたのかと思いました。こういうあらゆる意味で強い女性って、あまり男性作家は描かない(描けない)と思っていました。等身大の、すごく感情移入しやすいキャラクタで、好感がもてました。

もしかしてオリンピック候補の中にドーピングをしている人間がいるかもしれない、という疑惑から始まるこのミステリ。エースと言われる二人のうちどちらが・・・と構成も面白く、楽しめます。柔道を知っていたほうが、技のイメージが浮かんでよかったかもな、と思えたのが残念ですが、知らなくても十分面白い。ドーピングというと、問答無用で悪いことような気がしていましたけど、いろいろと問題があるということも初めて知りました。そうそう、今年はオリンピックイヤー。いままでさっぱりだった柔道も、この本を読んで見れば、もう少し興味をもって見られるかもしれません(^^)。

先頭へ

一瞬の光のなかで

著者ロバート・ゴダード
出版(判型)扶桑社
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-594-02848-9(\2190)【amazon】【bk1
評価★★★★

カメラマンのイアン・ジャレットは、仕事でウィーンを訪れていた。そこでマリアン・エスガードと名乗る女性と出会い、恋に落ちる。妻子と別れて、マリアンと一緒になることを夢見たイアンは、すべてを投げ打って彼女と待ち合わせたラコックに向かうが・・・

写真撮られるのって、好きですか?私はあんまり好きじゃないですね。どうしてだかうまく説明できないのですが、多分過去がそのまま残るのが嫌なのかも。いや、それが写真のいいところなんでしょうけど、私は自分の頭に残っていない映像が形として残っているのがどうもいやなのでしょう。

謎の女性とカメラをめぐる過去の謎から、二転三転するこの物語。主人公の陥る危機は、本当に抜け出せるのかと思えるほど緊迫してて面白い。ただ、ゴダードらしい過去の謎にはものすごく惹かれましたが、全体として、謎が小さくなってしまって、最初とのつながりが弱くなってしまったのが不満ですね。もっとカメラとマリアンの話が読みたかったなあ。

先頭へ

星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう

著者柴田よしき
出版(判型)アスペクト
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-7572-0688-7(\2200)【amazon】【bk1
評価★★★☆

中央銀河市で編集者になることを夢見て、銀河総合大学で受講するララ。ところが、高度な授業についていくのもやっと。受講料を工面するために、友人のタニアから破格のバイトを斡旋してもらったララだったが、それがとんでもない冒険に。

ジュブナイル小説系のSFというのでしょうか。こうした典型的な未来像は、何度読んでも面白いものです。地球人以外に知的生命体がいるかもしれない、そして、いつかその生命体と銀河全体の連邦ができて・・・という考え方は、「そんなことあるわけない」と思いつつも、どこか信じられる話なんですよね。実際知的生命体を探すというプロジェクトは莫大な予算をかけて続けられているわけですし、カール・セーガンの「コンタクト」はまさにそういう話でしたし。"宇宙はこんなに広いのに、人間だけで住むにはもったいない"・・・「コンタクト」の中に出てくるセリフですが、今までまったく見つけられていない知的生命体を信じることができるのは、その気持ちがあるからかもしれないですね。

この話は、もうすでに銀河連邦が設立されたあとの話。柴田よしきらしい、元気な主人公とテンポのよい話運びに、一気に読んでしまいましたが、もう少し工夫が欲しかったかなぁ。というか、1作目の話が2作目で解決されるのかと思っていたのに、中途半端なつながりで終わってしまったのが残念です。それとも、まだこの話は続くのでしょうか。「SFオンライン」に載せた小説ということで、実験的な意味合いも大きかったのかもしれません。あ、これってもしかして「RED RAIN」からつながってる?と思える部分があったのですが、両方読んだ方どう思いました?

先頭へ

サーチエンジンシステムクラッシュ

著者宮沢章夫
出版(判型)文藝春秋
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-16-319030-9(\1143)【amazon】【bk1
評価★★★

新聞報道で見た、大学時代のゼミの友人。人を殺した彼のコメントを見て、「虚学」と名のついたそのゼミを思い出す。しかし、本当にそんなゼミはあったのだろうか。。。

道に迷ったときって、こんな感じ。気づくと、周りに誰もいなかったり。大都会のど真ん中にいるはずなのに、まるで自分だけが取り残されたような、そんな怖さ。人生自体が迷路に迷い込んでしまったようなお話。最近の純文学にありがち(?)な、平坦な情景描写と内省的な文章が、やっぱり私は苦手です。すみません。こんな人間は純文学を読んじゃダメですね。

先頭へ

高い砦

著者デズモンド・バグリイ
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1997.4
ISBN(価格)4-15-040216-7(\740)【amazon】【bk1
評価★★★☆

大手飛行機会社のトラブルが原因で、臨時便をアンデスに向けて飛ばすことになったオハラ。ところが、仲間の裏切りでアンデス山中に強行着陸するはめに。救助を求めて山を下る乗客とオハラだったが、乗客の中にいた南米の元大統領を狙った一団に襲撃された。深い谷を間に挟んで対峙する一行。なんとか助かろうと様々な作戦を実行する。

最初あらすじを見たとき、「クリフハンガー」を思い出しました。高山に不時着させられる飛行機、襲ってくる見えない敵。実際の話はかなり違いましたが、スピード感はまさに「クリフハンガー」。武器らしい武器を持たない乗客たちが、武装したテロリストたちにさまざまな方法で立ち向かうのは、まさに手に汗握る面白さでした。ただ、ちょっと訳文が気になったんですよね。せっかくのスピード感あふれる話に水をさすような日本語、どうにかならないでしょうか。ものすごくもったいないです。

先頭へ

ヨコハマベイ・ブルース

著者香納諒一
出版(判型)幻冬舎
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-87728-395-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

金儲けになるなら、何でもやろうとする「呼び屋の金」こと金円友。ある理由から警察を懲戒免職になった乱暴者、流一。流を用心棒として雇った金は、横浜の裏社会で様々な事件と向き合う。

目新しさはないものの、人情味あふれるこういうハードボイルドは、たまに読むとやっぱり良いですね。長さ的にもこのくらいだとさっと読めて楽しめる長さ。金儲けにしか興味なさそうに見えて、実は相棒を心のどこかで大切に思っている在日朝鮮人の金(キム)。ある事件のために警察を懲戒免職になった元警察官の流(ながれ)。雇用人と用心棒という関係ながら、上下を感じさせない気安さと、相手を信頼した行動がハードボイルドっぽくて好き。徐々に明らかになっていく二人の過去も、連作ならではの楽しみ方ができる構成になっています。私は、宝石泥棒事件を解決する「女の眼」がいちばん好きかな。そうそう、「呼び屋の金」は「梟の拳」にも出てきます。

先頭へ

ifの迷宮

著者柄刀一
出版(判型)カッパノベルス
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-334-07377-8(\952)【amazon】【bk1
評価★★★★

旧家にして最先端医療企業の宗門家の周りに次々起こる殺人事件。現れたはずの死体が忽然と消えたり、不可解な細工がされた死体に戸惑いがちな警察の前を、さらに嘲笑うかのような証拠が発見された。彼らを殺したのは、死者なのか。

近未来を舞台としているのですが、SFではありません。ある一点のために近未来を舞台としたそうなのですが、その一点ってどれなんでしょう。あれかな、これかなといくつか候補を考えてたのですが、現状の医療最先端が私にはわからないので、その一点もわかりません。どなたか教えてくださいな。

ここで大きな問題点としてあげられているのが、出生前診断。私は出生前に遺伝子の診断をすることで、生まれてくるはずたった命を絶つことに今は反対ですが、実際自分が子供を産むときに、こういう風潮になっていたらどう思うのでしょう。人間は実際そんなに遺伝子のことがわかっているのでしょうか。それに、遺伝子だけですべてが決まるのでしょうか。しかも、こうして同じ遺伝子だけが優生思想的に認められた結果、人類から新しい種は生まれなくなってしまうのではないでしょうか。ただ、どっちの言い分もそれなりの理由があるだけに、簡単には片付けられない問題ですよね。こういう問題ってそれぞれが両方の言い分を聞いて、それをちゃんと考えて、結論を出してから進められるべきものなのに、最近の技術進化は早すぎて、そうした土壌ができないまま次々と新しい医療がなされているのが問題なのかもしれません。

先頭へ

テイク

著者西澤保彦
出版(判型)SFオンライン
出版年月2000.3
ISBN(価格)
評価★★★

テクノポリス<ジェネシス・シティ>市庁舎の事務官だったテイクのところへ、メリッサ・アンダースンという研究者が訪ねてきた。有無を言わさずに人事異動を伝えると、彼をある部屋に監禁する。それがある人体実験だということが徐々にわかるが・・・。

SFオンラインで買ったPDFファイルの短編です。こういうのって、どうなのでしょう(って言っても読んでない人には何のことかわかんないですね・・・)。頭がこんぐらがってしまいました。ラストになるほどとは思いましたが、柴田よしきさんの「最後の1枚にびっくりした」という評ほどびっくりできなかったかなあ。でもこういう未来物を集めた短編集とか出してくれると嬉しいかも。そういう企画は無いのでしょうか。

先頭へ

香水-ある人殺しの物語-

著者パトリック・ジュースキント
出版(判型)文藝春秋
出版年月1988.12
ISBN(価格)4-16-310660-X(\1857)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

グルヌイユは、母親に棄てられて、あちこちを転々とする。匂いに非常に敏感な彼は、自分が欲するにおいを求めて、次の場所へ。

帯にも書いてありますけれども、不思議な物語でした。「オルファクトグラム」とはまさに正反対の雰囲気を持つ"匂い小説"。匂いって普段はそれほど気にしてないですけれど、「オルファクトグラム」やこの本を読んで、人が漠然と思う「雰囲気」とか、「印象」というものは、なるほど匂いっていうものがかなり関係しているのかもしれません。匂いっていうものは面白いものだと、改めて思いました。そう言えば、中学のときに、化学の実験で「匂いの実験」というのをやったのです。あの時は、ただ混ぜるだけでいろんな匂いになるのが面白かっただけでしたが、こういう本を読むと、同じ匂いを嗅いで、それぞれがどういう印象を持ったかとか、どの匂いが一番良い匂いだと思ったかとか、それが何の匂いに似ているかとか、実はいろいろと考えることができる実験だったんだな、と少々残念に思います。"匂い"っていうのは、実は奥深いものだったんですね。

先頭へ

遊部

著者梓澤要
出版(判型) 講談社
出版年月2000.2
ISBN(価格)(上)4-06-211062-2(\1900)【amazon】【bk1
(下)4-06-210063-0(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

群雄割拠する中世戦国時代。東大寺の正倉院を守る呪術集団がいた。自分たちを遊部と呼ぶ彼らは、松永弾正久秀によって焼かれた東大寺の無念を晴らすため、そして信長によって切り取られた正倉院の宝物蘭奢待を取り戻すために、様々な策を弄する。

正倉院の秘宝」で正倉院にまつわる謎の話を書いている梓澤要の新刊は、その正倉院を守ってきたという遊部の話。どちらかというと、資料寄りになりがちな彼女の作品ですが、今回は人間が生きていて、すっかり中世にはまり込んでしまいました。信長の時代の話というのはあらゆる人が書いているわけですけれども、信長や秀吉を中心に据えるのではなく、その脇の視点から見ているのも面白いですね。蘭奢待をめぐる攻防、一体どういう決着がつくのか、それは読んでのお楽しみ。時代物が好きな方には、おすすめです。

先頭へ

千里眼 ミドリの猿

著者松岡圭祐
出版(判型)小学館
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-09-386049-1(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

元自衛隊員の岬美由紀は、カウンセラーとしてのある功績が認められ、現在は政府付きのカウンセラーとして、ODAの視察などに動向している。ところが、ODAの視察先で内戦を隠していたことを見破ったことで、謹慎処分に。また彼女のその行動が、驚くべき影響が出ようとしていた。

催眠」の主人公、嵯峨と、「千里眼」の主人公岬が活躍するアクションもの(?)。いやもうこれはアクションものと言って差し支えないでしょう。私にしてみると、戦記ものって言ってもいいくらいです。日本がこんなになったらどうなるんでしょうね。50年以上も戦争をしていない先進国は日本だけだそうですが、平和ボケ(もちろん良い意味でもありますけど)してしまったわたしのような人間からすると、どうしても中国と一触即発状態になるというのが、フィクションにしか思えないんですよね。

さて、「千里眼」でド派手な演出をしてみせた松岡圭祐、今回もまたまた見せ場たっぷりの本。「千里眼」と、この「ミドリの猿」ともう1作で3部作になるとか。一体この話にどういう決着をつけようというのでしょう。私は、こういうの、すかっとしてて好きですね。派手なホラ話が好きな方におすすめです。

■入手情報: 小学館文庫(2001.3)

先頭へ

炎の背景

著者天藤真
出版(判型) 創元推理文庫
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-488-40807-9(\720)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

新宿で痛飲していたはずのオッペ。ところが目が覚めてみると、山荘の屋根裏に寝かされていた。しかもピンクルという女と、ナイフが刺された死体がひとつ!なんとか脱出したものの、警察と真犯人に追われる二人。逃げながらも、なんとか濡れ衣を晴らそうとする二人だったが。

天藤真さんの本は初めて読んだのですが、面白いですね。映画の「大誘拐」は何度も見ていて大好きなので、一度原作も読んでみようと思っていたのですが、ちょうど全集の新刊が出ていたので、ある方からのおすすめもあって手に取ってみました。こういう登場人物を少数に限った長編を書くには、かなり魅力のある人物とプロットが必要なのでしょうけれども、馬鹿がつくほど純情なおっぺと、傷つきやすい心を勝ち気な態度で隠そうとするピンクルのコンビが、本当に魅力的。息つかせぬ逃亡劇を繰り広げるこの本、最後まで目が離せません。ちょっと古い部分もあるのですが(特におっぺの女性に対する考え方とか、笑えるくらい古いですね)、意外にそれもまた魅力だったかも。いままで手を出さなかったのを後悔。他のも読もうと思います。おすすめがある方、教えてくださいね。

先頭へ

闇が噛む

著者ブリジット・オベール
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-15-170806-5(\740)【amazon】【bk1
評価★★★

ジャクソンヴィルから命からがら逃げた6人。ところが、再びあの怪事件の予兆を知らせるニュースが。交通事故で死亡した子供2人の死体が、死体安置所から消えたらしいのだ。それぞれが集まって、再び戦いはじめる6人だったが。

やっぱりこれはだめ・・・。ゴキブリパワー炸裂という感じです。気持ち悪いよう。ある意味映画の「MIB」のような笑えるホラーなのでしょうけれども、ゴキブリが何よりも嫌いな私が、これを読むのは間違っているような気がします。ただ、そのゴキブリ嫌いを除いても、面白いのかなあ、これ。ちょっと疑問。一応続きものなので、この本を読む前に「ジャクソンヴィルの闇」を読むことをおすすめします。

先頭へ

虚の王

著者馳星周
出版(判型)カッパノベルス
出版年月2000.3
ISBN(価格)4-334-07378-6(\933)【amazon】【bk1
評価★★★★

金狼というチームを組み、渋谷で暴れていた隆弘。ヤクザを刺して、少年院に行った。今はそのヤクザの下っ端として、ヤクを売りさばいている。そんなときに、栄司という高校生の噂を耳にする。誰もが恐れる「栄司」とは一体何者なのか。

虚ろな人間の話。「炎の背景」の時代から、大体30年。何にでも真剣だった彼らが、こういう高校生を見たら、どう思うんでしょうね。私が中学生とか高校生のときって、ものすごく学校が荒れていた時期だったんですけど、それでも彼らは、体制批判とか、仲間意識っていう気持ちがあったような気がするんです。ここに出てくる高校生は、良家の一見「普通の」高校生。もちろん皆が皆こんな高校生なわけじゃないでしょうけれども、なんとなくこういう人間って怖いです。今ちょうど春の甲子園、やってますけど、同じ高校生とは思えないですよね。なんて、こんな紋切型の言い方する大人がいるから、こんな子供が育つんだって、ちょっと思ったりもするんですけどね。

そんな社会の話はともかく、本としてはこの話はかなり面白い。多少「不夜城」に似たストーリーではあるのですが、転がり落ちるように深みに嵌り、焦る隆弘の一方で、その状況をなんとも思わない栄司の二人の対照がはっきりしていて、たった2歳の差なのに、まさに世代の断絶のような感じを受けました。おすすめです。

先頭へ