1998年08月
・ジャンゴ(花村萬月) | ・六番目の小夜子(恩田陸) |
・幻の女(香納諒一) | ・海燕ホテル・ブルー(船戸与一) |
・ゴッド・ブレイス物語(花村萬月) | ・さらばスティーヴンソン(森山清隆) |
・トライアル(真保裕一) | ・鉄の薔薇(ブリジット・オベール) |
・金のゆりかご(北川歩美) | ・フォー・ディア・ライフ(柴田よしき) |
・梟の拳(香納諒一) | ・追憶のスモールタウン(ラリイ・ワトスン) |
・黒と青(イアン・ランキン) | ・皆月(花村萬月) |
・スピード・クイーンの告白(スチュアート・オナン) | ・陀吉尼の紡ぐ糸(藤木稟) |
・燃える地の果てに(逢坂剛) | ・ジャクソンヴィルの闇(ブリジット・オベール) |
・ゲルマニウムの夜(花村萬月) | ・かくし念仏(和田はつ子) |
・夜光虫(馳星周) | |
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ジャンゴ
著者 | 花村萬月 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1995.6 |
ISBN(価格) | 4-04-872865-2(\1400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
覚醒剤中毒の女と、ホモの巨人にいたぶられて、ミュージシャンの命とも言える指を失った沢村。失意のどん底で、彼らへの復讐を決心する。
もーあらすじからして、花村萬月。はっきり言って、万人に受ける作品ではないと思います。それでも、私は好きですね、こういう本。ここまでどん底なら、逆に潔いと思うのです。差別意識なんかに関する描写を読むと、本当にドキっとしますね。「美しい」人間なんて、ひとりもいやしない、そんな気分にさせられる小説です。
六番目の小夜子
著者 | 恩田陸 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 1998.8 |
ISBN(価格) | 4-10-397102-9(\1400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★★ |
1991年刊行の本が復刻されたものです。私はてっきり文庫だと思っていて、新潮文庫の棚をぐるぐる回っていたのですが、なんとハードカバーで復刻でした。でもハードカバーとして再刊されるに値する作品ですね。
ある地方の高校で、連綿と受け継がれているゲームがある。3年に一回「サヨコ」を指名された生徒が、あることをしなくてはならないのだ。そして今回は、6番目の「サヨコ」が指名される年だった・・・。
もう読み出したら止まりません。面白い。学校というのは、こういう事がまかり通ってしまう異界ですよね。私の高校にも、いろいろな伝説がありました。寮のある高校だったので、他と比べてもバリエーションに富んでいたのではないのでしょうか。でも、このお話の中の「サヨコ」ゲームは特にユニーク。その設定もさることながら、全体にひしひしと伝わる緊張感、恐怖感がなんともいえません。さて、今回のサヨコは「ある行事」を行うのでしょうか。
話は変わりますが、最初に例として出されているゲーム、私の周りでは「ウィンク・キラー」と呼んでいました。これってあんまり人数が増えてしまうと面白くないんです。8人くらいが限度でしょうか。特に私のような近眼の人間が混じっていると、「殺された」かどうか解らなくて、どうもいけません。
このゲームの変形(こちらが原形かも)の一種として、みんなで輪になって、真ん中に紙で作った棒を置いておき、伏せて目隠しした後、「犯人役」がこっそり起き上がって誰でもいいから殴るやつがありました。偶に「探偵役」が殴られちゃったりなんかして、笑えましたね。
この小説、そんな高校のときの馬鹿話を思い出させる、そんな話でもあります。おすすめです。
幻の女
著者 | 香納諒一 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1998.6 |
ISBN(価格) | 4-04-873117-3(\2000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
弁護士の栖本は、5年前に付き合っていた愛人に偶然再会する。なぜあの時出ていったのか、どうしていたのか、いろいろ聞きたいことはあったのに、翌日彼女は帰らぬ人に。彼女の死を調べ始めた栖本は、彼女が思っていた人物と別人ではないか、という疑問に至る。5年前付き合っていた彼女は、一体何者だったのか。
単なる政治的な事件というだけでなく、栖本という人物を中心に据えたところがよかったですね。解決部分には多少不満もあるのですが、最後の部分がとっても泣けたために、★★★★です。
海燕ホテル・ブルー
著者 | 船戸与一 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1998.8 |
ISBN(価格) | 4-04-873111-4(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
またカバーが青いので買ってしまいました(笑)。著者初めての国内を舞台とした小説だそうですが、私は船戸氏の本を読むのは初めてなので、あまり関係なかったですね(^^)。
群馬刑務所に5年間収監されていた藤堂幸夫。刑に服すきっかけとなった現金強奪事件で、裏切った仲間を探して下田へ向かう。ところが、そこにいたのは老けて女に骨抜きにされた、かつての仲間の抜け殻だった。
うーん、ちょっと怖かったですね、この話。最後の持っていき方とか、目が離せない感じでしたが、後味はあまりよくありません。ある女に振りまわされる男達の話とでも言うのでしょうか。ちょっとかわいそうな気もしましたね。船戸氏の本というと、壮大な冒険小説というイメージがあったのですが、そういう感じではありませんでした。他のも読んでみようかなあ。
ゴッド・ブレイス物語
著者 | 花村萬月 |
出版(判型) | 集英社文庫 |
出版年月 | 1993.9 |
ISBN(価格) | 4-08-748077-1(\400)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
芥川賞を取って、昔の本が平積みされまくりの花村氏。この本は、花村萬月のデビュー作です。
バンドメンバーと共に、大金を稼ぐつもりで行った京都。ところがそれは悪質な詐欺だった。1ヶ月間ほとんどただ働きを余儀なくされた朝子とバンドのメンバーだが・・・。
やっぱりデビューのときは、今は色濃くでている「花村節」はあまりなく、さわやかな感じがします。癖があまりなく短いこともあって、さらりと読める感じです。解説は、坂東齢人氏なのですが、「こんな作家に巡り合えた本読みは、本当に幸福である。」という最後の一文に、おもわず大きく肯いてしまいました。ヤクザもののところに縛られてしまった朝子たちですが、どんな風に1ヶ月を過ごすのでしょうか。
最後にもう1編「タチカワベース・ドラッグスター」が収録されています。
さらばスティーヴンソン
著者 | 森山清隆 |
出版(判型) | 新潮社 |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-10-602755-0(\2200)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
スティーヴンソンの『宝島』の改訂版が、サモアにあるという情報が流れた。好事家や研究者、金目めあてなどなどいろいろな人がサモアに集まる。堂団もスティーヴンソンの『新宝島』を捜し求めてサモアまで来た一人。ところが、別の事件がもちあがって・・・。
うーん、こうしてあらすじを書いてみたのですが、これだけじゃ全然この本を表現できていません。いくつかのストーリーが複雑にからみあって、からみあったまま終わってしまったという感じがする小説でした。私は、こういういろんな話を取り込んで、いまいち消化されていない本に対しては点が辛いのですが、この本はその点に多少目をつぶれば、案外面白かったと思います。「青い青い空だよ、雲のない空だよ」のサモアの、光と影が浮き彫りにされている、その点は評価できる小説でした。サモアにちょっと行きたくなる本です。
トライアル
著者 | 真保裕一 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-16-317860-0(\1238)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
競輪、競艇、オートレース、競馬というギャンブルを題材とした短編集。といっても、ギャンブルそのものではなく、そこで選手として出ている人々を取り巻くお話です。
私が一番好きなのは、競輪を題材とした「逆風」。涙、涙のラストです。これだけだったら、★★★★ですね。競馬を題材とした「流れ星の夢」もよかった。ちょっとラストがすっきりしない感じもするのですが。
私の家の近くには、競馬場と競輪場があるのですが、この本を読んで少しイメージが変わったように思います。競馬場はJRAの努力で、前に比べると一般的イメージも結構変わったように思うのですが、やっぱり競輪はねえ・・・(競輪関係者の方、ごめんなさい)。川崎の図書館に実習に行っていたときも、やはり思ったのですが、雰囲気よくないんですよね、競輪場とかって。そのイメージが強いので、こうして実際にそこで選手として出ている人のレースに対する考え方とか、人間関係とかを中心にして本にしたところが、面白いな、と思いました。
鉄の薔薇
著者 | ブリジット・オベール |
出版(判型) | ハヤカワ文庫 |
出版年月 | 1997.10 |
ISBN(価格) | 4-15-170803-0(\680)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
ジョルジュ・リヨンはプロの銀行強盗。その事は愛する妻さえも知らない。ところが、ある銀行に強盗に入ったとき、そこにいるはずの無い妻が男連れで歩いていた。びっくりしたジョルジュは妻の行動を探るが・・・
最初読んだときは、銀行強盗ということを妻に知られないように、男が四苦八苦する話かと思ったのですが、どんどん話は大きくなって、ネオナチに命を狙われたり、自分の過去が次々明らかになったりと、スリル満点のハードボイルドでした。
いままでは設定に凝った作りで、うまいと思ったオベールですが、今回は設定はそこそこで、謎解きに重点を置いた作りになっています。最後は、なんとなく予測はついたものの、面白かったですね。
金のゆりかご
著者 | 北川歩美 |
出版(判型) | 集英社 |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-08-775240-2(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
幼児期に脳に刺激を与えて、脳という「いれもの」自体を特別製にすれば、天才になれる・・・。その理論を実践しているGCS。ところが、そのGC式の訓練を受けた子供が精神的におかしくなったという噂が流れた。このGCSは本当に天才を作ることができるのだろうか、それとも・・・。
子供のころから訓練すれば・・・というのはよく言われますよね。動くおもちゃを与えると、情操教育に良いと言われて、自分の欲しかった鉄道模型を私に買い与えた父親が家にいますが(笑)。最近流行の胎教なんかもその一種ですか。ただ、この話では、脳自体に刺激を与えるという、素人目にもかなり危険そうな方式ですが、やっぱり自分の子供は頭が良くなって欲しいと思う親の気持ちって、強いのでしょうか。
話がそれてしまいました。この話では、野上という実際にGCSの訓練を受けて、大人になったらただの人になってしまった男が主人公。9年前の子供の発作事件を調べていくうちに、別の問題にぶちあたってという話なのですが、面白かったです。単にその幼児教育センターが怪しいか、怪しくないかだけで終わらなかったところがよかった。最後は華麗などんでん返し。こんな子供がいたら嫌ですけどね。
フォー・ディア・ライフ
著者 | 柴田よしき |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 1998.4 |
ISBN(価格) | 4-06-208853-3(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
ある事情で警察をやめた花咲は、今無許可保育園の園長。ところが、園の収入だけでは経営難に陥ってしまうという事情から、友人から探偵の仕事を回してもらっている。今回の依頼は、2人の失踪人探しだったが、これがただの失踪人探しではなかった。
探偵役が、保育園の園長という設定はかなり面白いというか、探偵役の人物の深さが現れていいなあ、と思ったのですが、ストーリーがちょっとハードボイルドとしては甘いかなあという気がするんです。途中で漫画家とか出てくるのでそう思ったのかもしれませんが、マンガちっくなんです。しかも少女漫画系。「不夜城」や、「新宿鮫」、同じ二丁目を舞台にした「ぢん・ぢん・ぢん」と比べてしまうと、ちょっと落ちるかなあ。花咲は私の好きなキャラクターなので、余計に残念。
梟の拳
著者 | 香納諒一 |
出版(判型) | 講談社文庫 |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-06-263831-2(\895)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
チャンピオン奪回の試合で、勝利を勝ち取ったのと同時に視力を失った桐山。失意の中でタレントとして1年間をすごしてきた彼は、チャリティー番組の最中にその会場で死体を発見したことで、事件に巻き込まれる。
この本、女満別空港で時間つぶしのために買ったのですが、家に帰りつくまでずーっと読んでしまいました。こういう結局責任の所在が明らかにならない「巨大な陰謀」系の話は私の好みではないのですが、視力を失った主人公の生活ぶりや、苦悩がよく表れていて、その点で★★★★にしてみました。
最後とかは、結構読めちゃうんですよね。こういうことって実際にされていそうで、本当に怖いのですが。そうそう、ちょうど24時間テレビの季節で、その点でもタイムリーでしたね。あの番組も、こういうことをしていそうでまた怖いのですが(笑)。
追憶のスモールタウン
著者 | ラリイ・ワトスン |
出版(判型) | 早川書房 |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-15-208175-9(\2000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
1948年夏。そのころモンタナ州の小さな町に住んでいたディヴィットの家で、お手伝いとして働いていたインディアン女性が病に倒れたところから、事件は始まる。一見普通の家庭に見えた自分の家族・親類たちがだんだん崩壊していく・・・そんなお話です。
モンタナ州というと、映画「River runs through it」や「激流」に出てくるような美しい川と自然というイメージが強いです。この話はそういう人間が少ない土地の閉鎖的な社会にありがちな悲しいお話なのですが、少年の目からその悲惨な話を見ているところが良かった。大人達が自分のいるところでは、問題を語ってくれない、でも聞いてしまったことを他の人にも話すことのできない少年の苦悩が、この小説に深さを与えていると思います。
どちらかというと、平坦で文学作品的な小説ですが、おとといまで北海道にいてまだまだ北海道モードの私の頭には、都会的なハードボイルドより、こういう小説が面白いなあと思えますね。
黒と青
著者 | イアン・ランキン |
出版(判型) | ハヤカワ・ミステリ |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-15-001665-8(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
1960年代にスコットランドを震撼させた殺人鬼、バイブル・ジョン。事件は迷宮入りとなるが、それから30年経った現代にその模倣犯とも言える事件が起きる。リーバス警部は、ジョニー・バイブルと名づけられた模倣犯を追って、執拗な捜査を開始する。
リーバス警部、よかったですね。邪魔は入るは、自分もボロボロになるわの大活躍です。同僚に「生まれながらの皮肉屋」といわれるリーバスの口調も笑えます。
事件そのものは、ありがちな感じもしますし、この長さはちょっと長すぎるかなあとも思うのですが、その事件を追うだけでなく、リバースの過去の事件によって、リバース自身が追いつめられたり、同僚との確執・友情などの見せ場もありますし、また、最後の終わり方は結構お気に入り。
でも、リーバス警部シリーズは、この「黒と青」が8作目。なぜ最初から邦訳しない>早川書房。
皆月
著者 | 花村萬月 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 1997.2 |
ISBN(価格) | 4-06-208559-3(\1700)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
諏訪徳雄はコンピュータおたくで、仕事一筋、つきあいもせず、浮気もせず、単に家と会社を行ったりきたりする毎日を過ごしている。ところが若い最愛の妻が貯金と共に姿を消したことで、諏訪の生活は一変する。会社を無断欠勤し、失意のうちに過ごしているところをヤクザ者の義弟と、ソープランド嬢に救われて、消えた妻捜しにのりだすが。
花村氏の本は、「ぢん・ぢん・ぢん」に続き2冊目ですが、すごい人間くさいんですよね。きれいごとじゃ済まさない気迫というか、こだわりが感じられて、そこがすごくいいですね。主人公も、強いだけの人間じゃなくて、すごいどこにでもいそうなオッサンなんです。どん底にいた人間嫌いのオッサン、諏訪が、どう成長していくのか、そこが結構みもの。今回は最後がよかった。泣けるラストです。
スピード・クイーンの告白
著者 | スチュアート・オナン |
出版(判型) | ソニー・マガジンズ |
出版年月 | 1998.7 |
ISBN(価格) | 4-7897-1300-8(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
あとがきにも書いてありますが、この本、もともとの原題が"Dear Stephen King"だったそうです。キングが訴訟を起こして結局題名を変更することになったそうですが、キングの本があちこちに出てくるだけでなく、キングが大いに関わってきます。キングファンはどう見るのでしょうか。
死刑執行を間近に控えたマージョリーが、ある作家からの質問書の答えをテープに吹き込んでいるという設定。「どうして殺したのか」という質問に始まり、114もある質問に答えていくマージョリーは、あくまであっけらかんとして、罪の意識はない。そのマージョリーの話を聞くことで、なぜ彼女が死刑判決を受けることになったのかまでが明らかとなる。
マージョリーの話でも出てきますが、映画『テルマ&ルイーズ』の犯罪者版って感じです。面白かったです。あくまで無実を主張するマージョリーですが、彼女の話を聞いているとね・・・、皆さんはどっちだと思いますか?
陀吉尼の紡ぐ糸
著者 | 藤木稟 |
出版(判型) | トクマノベルス |
出版年月 | 1998.1 |
ISBN(価格) | 4-19-850409-1(\905)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
K氏系と紹介されて読んだのですが、比べてしまうとちょっともったいないというか、粗を探してしまって物語自体を楽しめないような気がします。先入観を持たずに(というのは無理かもしれないのですが)読むと、いいかもしれません。
舞台は昭和初期の吉原。何人もが神隠しにあっていることから「触れずの銀杏」と呼ばれる銀杏の木の下で、奇妙な死体が発見される。ところがちょっと目を離した隙にその死体はどこかへ消えてしまった。やはり神隠しの伝説は本当だったのか。
新本格系かな、と思います。昭和初期の浅草や吉原という舞台装置も手伝って、雰囲気はなかなかよいです。最後の解決部分が私の好みだったので、★★★★にしました。人物の描き方とかにちょっと不満な点もあるのですが、シリーズになっているそうなので、次作に期待ですね。なんか最近ハードボイルドのようなものばっかり読んでいたので、こういう謎解き系の本格物を読むと、やっぱり面白いです。
燃える地の果てに
著者 | 逢坂剛 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 1998.8 |
ISBN(価格) | 4-16-317900-3(\2095)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★★ |
舞台は1966年。「エル・ビエント」という銘の入ったギターの製作者を探して、スペインの田舎に来た古城。その田舎の農家に下宿をさせてもらいながら、ギターができるのを待っているところに、米軍戦闘機が事故で墜落。同時に積んでいた核兵器が行方不明となった。核兵器は無事回収できるのか。そして古城は無事目的を果し、ギターを手にして日本へと帰国できるのか。
核兵器紛失っていうと、映画「ブロークン・アロー」(この暗号名?は、この本でもでてきますね)を思い出すのですが、この本のほうが数倍面白いです。単に核兵器紛失事件というだけでなく、30年後とうまく絡み合わせてミステリー風にしたところがはなまる。私はすっかり騙されていました。
核兵器系の話って、どうしても政治色が濃くなってしまう感じがするのですが、この本はあまりそういうのを感じさせないのもいいですね。合衆国大統領とかも名前しか出てきませんし。どちらかというと、小さい村の人間たちや、その村にとってよそ者である古城やディエゴ達を取り巻く人間関係が中心といった感じです。
全然本とは関係ないのですが、こういう本を読むと、地中海が見たくなりますね。
ジャクソンヴィルの闇
著者 | ブリジット・オベール |
出版(判型) | ハヤカワ文庫 |
出版年月 | 1998.4 |
ISBN(価格) | 4-15-170804-9(\800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★ |
ジャクソンヴィルというど田舎で起こった惨殺事件。ひたすら怖いゴキブリホラーです。同じホラーでも、貴志祐介の「天使の囁き」のような科学的なホラーというわけではなく、超非科学的なホラーで、私はちょっとだめでした。しかも、私が最も苦手とするあのゴキブリが主人公。ゴキブリが好きな方にだけおすすめします。
いろんな設定を次々考えるオベールの力量はすごいと思いますが、ちょっとこれはいただけなかったですね。
ゲルマニウムの夜
著者 | 花村萬月 |
出版(判型) | 雑誌文藝春秋 |
出版年月 | 1998.9 |
ISBN(価格) | |
評価 | ★★★ |
一度本を持って出勤するのを忘れて、キオスクで「文藝春秋」が出ていたので思わず買ってしまったものです。雑誌掲載の短編でここに載せるか迷ったのですが、載せてしまうことにしました。選評で知ったのですが、この短編は長編の最初の部分ということで、刊行はもっと後になるかもしれないですね。
罪を犯して、少年時代を過ごした修道院に逃げ込んだ朧(ろう)のお話。相変わらず既成概念に対する憎しみとも思える破壊活動(?)は健在ですが、ちょっと中途半端な感じがします。朧の過去の話や、朧が迷惑をかけまくるモスカ神父との話なんかも、読みたかったですね。きっと長編になるとその辺も書き込まれて、もっと面白くなるのではないでしょうか。
かくし念仏
著者 | 和田はつ子 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 1998.8 |
ISBN(価格) | 4-87728-249-1(\2200)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
この本、珍しく自宅の近くの本屋で買いました。まさに衝動買い。平積みされていたわけでもなく、知っている作家でもなく、青い表紙でもなく(笑)、ただ厚いのと題名に惹かれて買いました。
アイヌとロシア人の血をひく日下部は、食物学を専門とする大学教授。秘書にやとった女性に毒をもられたことから、急激に命を狙われるような目にあう。何故自分が狙われるのかわからないまま、今度は自分と接触した人間が次々と不審死。調べていくうちに、「安藤昌益」、「かくし念仏」というキーワードが浮かぶ。
民俗学的なミステリーというのでしょうか。私は結構好みです。最初はなんだか冗長な話だなあという感じだったのですが、第2部に入って俄然面白くなり、あとは一気読み。たまたま最近北海道に行ったこともあり、アイヌの話なんかも楽しめました。最後の犯人はちょっとなぁという感じもあったのですが、まあよいでしょう。
夜光虫
著者 | 馳星周 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 1998.8 |
ISBN(価格) | 4-04-873121-1(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★★ |
かつては日本のプロ野球でノーヒット・ノーランを達成したこともある加倉。肩を故障し、作った会社は倒産。野球を続け、借金を返すために台湾へ渡ることになったが。
私は高校のときに台北に行ったことがあるのですが、あのごちゃごちゃした街が、そのまま描かれている感じで、それだけでも十分楽しめました。それ以上に、この作品は面白い。「不夜城」も面白いとは思いますが、私はこちらの方が好みです。野球で八百長をやり、黒道(台湾やくざ)に取り込まれて、にっちもさっちも行かなくなる主人公。自分勝手な主人公が悪いとは思いつつも、どうにかならないのかと応援させてしまうような魅力があります。
私は野球は全然見ませんし、野球にも興味がありませんが、そういう人でもOK。まさに一級品のエンターテイメントです。
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