2000年04月
・月の裏側(恩田陸) | ・時に架ける橋(ローバト・チャールズ・ウィルスン) |
・金閣寺に密室-とんち探偵一休さん-(鯨統一郎) | ・黒い春(山田宗樹) |
・名探偵は密航中(若竹七海) | ・クリスマスに少女は還る(キャロル・オコンネル) |
・美濃牛(殊能将之) | ・レイミ-聖女降臨-(戸梶圭太) |
・嘘をもうひとつだけ(東野圭吾) | ・煙(松岡圭祐) |
・仮面の島(篠田真由美) | ・ハンニバル(トマス・ハリス) |
・UNKNOWN(アンノン)(古処誠二) | ・あじあ号、吼えろ!(辻真先) |
・影の肖像(北川歩実) | ・ミッドナイトイーグル(高嶋哲夫) |
・殉霊(谺健二) | |
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月の裏側
著者 | 恩田陸 |
出版(判型) | 幻冬舎 |
出版年月 | 2000.3 |
ISBN(価格) | 4-87728-398-6(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
九州の水郷都市箭納倉(やなくら)で、奇妙な失踪事件が相次いでいた。自由に動き回るのもやっとである老人が、次々と失踪していたのだ。しかも彼らは1週間ほどで、突然戻ってきた。しかも失踪時の記憶が無い。事件に興味を持った大学教授とその娘、そして教授の元教え子だった多聞は、さっそくその事件を調べ始めるが。
もし、親しい人が、昨日のその人と違うものだったら・・・。幼い頃、私も同じようなことを考えたことがあります。たとえば、学校に行っている間に、お母さんが別のモノになっていたらどうしようとか・・・(^^)。今思うとなんでそんなことを考えたのか、とっても不思議なのですが、この本を読んで同じようなことを考える人っているんだなあ、とちょっと安心(笑)。
子供の頃って、そういう、どうってことないものが怖かったりしますよね。昔から置かれている人形とか、近所にある古い空家とか。。。「六番目の小夜子」や「象と耳鳴り」を読んだ時、特に思ったのですが、恩田陸の本はそういう郷愁を感じさせるような「怖さ」がありますね。そういう忘れかけていた怖さを思い出させてくれるところが良いです。
何故失踪事件が起きたのか、徐々に分かってくるにつれ、主人公たちの取る行動も興味深い。自分たちもいずれ失踪してしまうのか、それとも・・・。多分自分なら、長靴は脱いで寝ます(笑)。読んだ方は、どう思いました?
話は変わりますが、この小説の舞台となる架空の街、「箭納倉」ですが、去年私はこの街のモデルとなったところに行ってきました。ちょうど小説と同じような時期で、タニシの卵も見られました(詳しくは、こちら)。昼間のんびりとどんこ舟に乗って川くだりをすると、のどかな雰囲気に浸れる場所です。本の表紙のように月明かりの中を川下りしたら、確かに別の世界のように見えるかもしれません。白秋の生家と鰻でも有名なこの街もおすすめです(^^)。
時に架ける橋
著者 | ローバト・チャールズ・ウィルスン |
出版(判型) | 創元SF文庫 |
出版年月 | 2000.2 |
ISBN(価格) | 4-488-70602-9(\960)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
妻に逃げられ、失意の中故郷に戻ってきたトム・ウィンター。町外れの一軒家を買った彼は、その家で不思議な現象に出会う。10年も人の手が入っていないのに、家中が新品同様に保たれているのだ。次々出会う奇妙な出来事に、トムは家の中を調査しはじめる。
久々読んだ時間モノSF。不思議な家が、実はタイムトンネルに繋がっていたっていうごく単純な小説です。自分が30年前に戻って、そこに住みついて暮らそうとは思わないですけれども、いろいろな歴史の謎と呼ばれているものを、実際に見に行って証明するっていうのは、面白いかもしれないですね。今また論争が活発化している邪馬台国も、実際に行ってみたら、どこにも無かったりして(笑)。そういう意味でのタイムトンネルというのは、本当に実現したらいいだろうなあとも思います。まあ、そうすると4000年の謎とかいうロマンチックな話が聞けなくなってしまいますけど(^^)。
話自体は本当にものすごく単純。概念ばかりの話ではなくて、小説らしくもっと登場人物が動いたほうが面白かったかなあ。タイムトンネルを使って何かを企むところまでいかないのが残念。自分がこんな事態になったら、もっといろいろ遊ぶと思うんですけれども。
金閣寺に密室-とんち探偵一休さん-
著者 | 鯨統一郎 |
出版(判型) | 祥伝社ノンノベル |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-396-20684-4(\857)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★☆ |
舞台は応永十五年。智恵者として名高い建仁寺の小坊主・一休のところへ、将軍の弟義嗣から奇妙な依頼が入った。世間的には病死と報ぜられた足利義満公の死の真相を暴いてくれというのだ。義満は本当に殺されたのか?
鯨統一郎、やっぱり面白いですね。今回大活躍するのは、なんととんちで有名な一休さん。屏風の虎とか、毒薬の飴とか、誰でも知っている一休さんのエピソードが、こんなところで活かされるとは、うまいっという感じです。登場人物も面白く、特に将軍の前でも帝の前でも、飄々とした態度を崩さない一休さんは、タダモノではないという感じが良く出ています。
実際義満の死には諸説あるようです。金閣寺を建てたことと、足利氏が最も勢いのあった頃の将軍だったことくらいしか覚えていなかったのですが、実はこんなにいろいろな謎を残していたとは、歴史というのは本当に面白いものです。歴史の教科書になってしまうと、あんなに無味乾燥な文字列なのに、こうして動いている人間として描かれると、誰が誰の子供で、この時期の天皇は誰、とちゃんと覚えられますね。中世史はそれほど好きではなかったのですが、もう少し興味が持てそうです。
エピローグを読むと、次は空海の話を書いてくれるのでしょうか。いや、是非書いて欲しいんですけれども(^^)。
黒い春
著者 | 山田宗樹 |
出版(判型) | 角川書店 |
出版年月 | 2000.3 |
ISBN(価格) | 4-04-873208-0(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
監察医務院に運ばれた遺体の肺から、黒い胞子が発見された。解剖にあたった飯守は、サンプルを取って都立の衛生研究所に同定を依頼するが、結局何もわからなかった。1年後。ある大学生が授業中に黒い粉を吐きながら死ぬという事件が起きる。しかも同様の事件が次々と起きて・・・。
黒手病と名づけられた新種の病気をめぐるお話。黒手病を追う前半は多少退屈でもあるのですが、徐々に実体が明らかになった辺りからは面白さ倍増。ラストは泣けますね。構成的にちょっと不満が残る部分もありますが、何故急にその黒手病が発生したのかという、因果関係の見事さに★4つ。こんな病気が広まったりしないことを祈るばかりです。
名探偵は密航中
著者 | 若竹七海 |
出版(判型) | カッパノベルス |
出版年月 | 2000.3 |
ISBN(価格) | 4-334-07379-4(\819)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
横浜から倫敦へと向かう箱根丸。鈴木龍三郎は、兄の命令で、その船に乗って旅行記を書くはめになった。ところがその船では、小さい事件が次々と起きる。
横浜から倫敦へ向かう船「箱根丸」の中で起こる数々の事件を解決するオムニバス形式の短編集。もちろんそれぞれ面白い短編なのですが、私は間に挟まれる兄宛ての旅行記がよかったかも(^^)。特にお兄さんに怒られるところ、笑ってしまいました。でもその真相は・・・。短編集としても楽しめますし、全体をひとつの長編として読んでも面白い。さっと読めますし、重いミステリに飽きた方におすすめ。
クリスマスに少女は還る
著者 | キャロル・オコンネル |
出版(判型) | 創元推理文庫 |
出版年月 | 1999.9 |
ISBN(価格) | 4-488-19505-9(\1000)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
クリスマス間近のある日、二人の少女が失踪した。家出なのか、それとも誘拐なのか?その事件を知った刑事、ルージュは、かつて双子の妹が失踪した事件を思い出す。しかしその犯人は既に刑務所にいるはず。彼女たちはどこへ行ってしまったのか。
かつての経験から、いなくなった少女はクリスマスには死体で発見される可能性が高い。徐々に時間が無くなっていくというルージュの焦りが見えるが良いですね。数々の謎が明かされ、真相が明らかになったとき、少女は戻ってくるのでしょうか。エピローグまで気の抜けないつくり。なるほど、この邦題に賞をあげたいです。このラストを読んだとき、別の本を思いだしました。もしかしたら、こういうのって流行りなのかなあ。でも、あれだけ支持された意味がわかった気がします。おすすめ。
美濃牛
著者 | 殊能将之 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-06-182123-7(\1300)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
岐阜の山奥にある集落、暮枝。暮枝の鍾乳洞の中に「奇跡の泉」という病気を癒すという泉があるらしい。ある雑誌の編集長から無理矢理その泉の取材を任されたフリーライターの天瀬とカメラマンの町田は、その村を訪れるが、なんと有力者の息子が首の無い死体で見つかるという殺人事件が起きて・・・。
これはもう横溝好きな方なら、ああと思うのではないでしょうか。あちこちにあの時代の推理小説がちりばめられた感じです。山奥の集落、怪しい一族、そして首の切られた死体と伝説の鍾乳洞。ほらほら、どこかで聞いたような感じがしませんか?(^^)
しかも、単に猟期的な謎めいた殺人というだけではなく、とんでもない探偵が良い!笑えます。特に私が好きなのは、句会のシーン。あまりにおかしくて、笑いが止まりませんでした。この人の本、いいなあ。「ハサミ男」のびっくりトリックにも驚きましたが、また全然違うイメージの作品を書いてくれたこの著者、次はどんな本を書いてくれるのか、楽しみです。
レイミ-聖女降臨-
著者 | 戸梶圭太 |
出版(判型) | 祥伝社ノンノベル |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-396-20685-2(\857)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
廃墟と化したビルに、4人の男女が集まっていた。それぞれが「先生」のパーツを携え、あと1人を待っている。このパーツを集めることで、「先生」が復活するのだが。
なんて気味の悪い話なのでしょう。戸梶圭太ってなんとなくブラックユーモアなミステリを書く人だと思っていましたが、ここまで来るとちょっとキレかけてるかも・・って思います(^^)。まあ少なくともハードカバーでは出ないかな、と思う本でした。ただ、ラストまで読むと、なるほど、これは極端な例を用いた教訓話なのかな、と多少評価UP。馬鹿馬鹿しい話ながら、それなりに読めるところは作者の力量?
嘘をもうひとつだけ
著者 | 東野圭吾 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-06-210048-7(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
東野圭吾の一連の本でお馴染み、加賀刑事が活躍する短編集。
犯してしまった犯罪を隠すために、無理矢理考えた嘘をつく犯人たち。でも嘘をつきとおすのって難しいですよね。嘘をうまくつくためのコツは、絶対に教えてはいけない部分だけ嘘をつき、あとはすべて正直に言うことだ、というのをどこかで読んだ覚えがあります。確かにつじつまを合わせるために嘘をついていくと、その嘘がどんどん大きくなってしまって、結局破綻してしまうのかもしれません。嘘つくくらいなら、何も言わないほうが賢いと思いますけどね。
煙
著者 | 松岡圭祐 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2000.3 |
ISBN(価格) | 4-19-861153-X(\1600)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
愛知県稲生市に古くから伝わる祭り、布施宮諸肌祭り。榎木孝之は、その祭りの中心人物である神人に、ある理由から名乗りをあげた。神人がどういうことをするのか、どうやって現れるのかは、街の人間も全く知らない。神主は、籤をひき、榎木の名前を読み上げた。
あえて名前をつけるなら、祭ミステリ。目の付けどころが面白いと思いました。この話、一体どこへ持っていかれるのだろう、と思いながら読んだのですが、なるほどラストが上手い。ただ、この結末のために作ったストーリーがいまいちだったかな。松岡圭祐の本ってどれもそういう気がするのですが、動機がちょっと変わってますよね。超くだらないことに必死になったり、そのくせ他のところではかなりずぼらだったり。「千里眼」のように、もともと全体的にフィクション色、エンターテイメント色の強い本ならまだしも、こういう日常に根ざしたミステリだと、その辺がつらいかなと思ってしまいました。
仮面の島
著者 | 篠田真由美 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-06-182125-3(\900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
ある島に引きこもって暮らす婦人の地所の鑑定を頼まれ、神代教授と共にヴェネツィアを訪れた京介。ところが婦人からそんな話は知らないといわれ、呆然とする。怪しい動きをする義理の息子、消えた日本人女性、そして島に一緒に住む謎の彫刻家。そして事件が起きて・・・。
シリーズ初の海外舞台。いいですね、水の都ベニス。一度行って見たいものです。巻き込まれ型の探偵京介は、またまたここでも大事件に巻き込まれるわけですが・・・。どちらかというと、このシリーズは、短編のほうが良いかもなあと思います。注目は、蒼の決断。やっぱり続きが気になっちゃいますね。このシリーズは最初から読まないと面白くないと思いますよ。はい。
ハンニバル
著者 | トマス・ハリス |
出版(判型) | 新潮文庫 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-10-216703-X(\705)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
メンフィスの厳戒態勢の中から逃亡したハンニバル・レクター。あれから7年が経ち、FBI捜査官として仕事をしているクラリスが、麻薬組織との銃撃戦が元で窮地に立たされていた。そこへ7年間全く行方がわからなかったレクターからの手紙が舞い込む。「羊たちの悲鳴が聞こえるかどうか、それを教えたまえ」
「羊たちの沈黙」でまんまとメンフィスから逃げおおせたレクター博士のその後。うーん、でもこの話って書く必要があったのかな、というのが正直な感想です。面白くないとは言いませんが、レクターファンへのサービスといった感じで、あまり盛り上がるとこなく終わってしまったように思いました。既に映画化も決まっているそうですが、ジョディ・フォスターがクラリス役を断ったことに納得(^^;。少なくともこの本を読む前には「羊たちの沈黙」を読むことをお勧めします。
UNKNOWN(アンノン)
著者 | 古処誠二 |
出版(判型) | 講談社ノベルス |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-06-182120-2(\740)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
厳重に管理されている自衛隊基地の部屋の中に、盗聴器が仕掛けられていた。一体誰が何の目的で盗聴を?防衛部調査班の朝香二尉が調査にやってくるが。
この人、自衛隊出身なのでしょうか。本編そのものはまあまあでしたが、自衛隊に関する記述は面白かったですね。無理矢理ミステリにせず、そっち方面で書いたほうが良かったんじゃないかなあ。長編というより中編という長さですが、この話はこれくらいだからさっと読めて、お、なかなかだったかなと思えたのかもしれません。多少文章が粗いかなと思うのですが、時々現れるユーモアがわたしは好きですね。次の本は読むかも。
あじあ号、吼えろ!
著者 | 辻真先 |
出版(判型) | 徳間書店 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-19-861167-X(\1900)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★ |
終戦直前の満洲。ソ連の参戦に伴い、ある作戦が実行されようとしていた。あじあ号で細菌兵器を運び出す・・・。なにも知らされずに乗り込んだ男女数名は、あじあ号を大連に運ぶために数々の困難を乗り切ろうとする。
あじあ号があらゆる敵に追いかけられながらも、最終目的地大連に届けようとする列車内の緊迫感はさすがベテラン作家さんという感じなのですが、いかんせん若者向けという感じで、満洲の事情があちこちに説明されるのがなんとも興ざめ。もう少し余裕のあるときに読んだほうがよかったかもしれません。この時期の話だと、どうしても「逃亡」と比べてしまうのがよくないかも・・・(^^)
影の肖像
著者 | 北川歩実 |
出版(判型) | 祥伝社 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-396-63169-3(\1800)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★ |
恵沢大学教授の嘉島が殺害された。愛人と言われていた助教授の川名千早に嫌疑がかかるが、千早の幼馴染の作間はそれを聞き驚く。前にも千早の婚約者が不審死を遂げていたからだ。千早は本当に犯人なのか。
なるほど、こういう落ちをつけるか・・・と思いました。医療ってジレンマありますよね。臓器移植とか、骨髄移植とか、そういった治療法が無かった頃には考えられない問題が、こういう形で現れないとも限らないんですよね。今までは諦めることしか出来なかった病気が新しい治療法が発見されることで治るというのはすばらしいことなのでしょうけれども、その治療がさまざまな事情で受けられない人にしてみれば、恨めしいだけなのかも。科学と倫理・医療と倫理の問題は、ただ進歩することだけが良いとばかりは言えないのが難しいところですね。
ミッドナイトイーグル
著者 | 高嶋哲夫 |
出版(判型) | 文藝春秋 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-16-319130-5(\1714)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★★★ |
報道カメラマンの西崎勇次は北アルプスの山中で、黒い鳥と火の玉を見た。一体何が起きたのか、その正体を探るために吹雪の北アルプスへ向かう。一方、米軍横田基地で起きた銃撃戦の取材をしていたフリーライター松永慶子は、北朝鮮の工作員と接触、何か重大な事件が起きていることを知る。
本当に面白かった!こういうスパイものってともすれば国と国の偉いさんの駆け引きみたいになってしまって、あまり身近に感じられなかったり、感情移入し難かったりすることが多いように思います。しかし、この本は、どちらかというとその事件を通した主人公二人の話になっていて、一気に読めました。雪山で見た火の玉の正体を暴こうとするカメラマンと、全く別の路線から自衛隊と米軍が何を隠しているのか探ろうとするフリーライター。二人が別居中の夫婦であることから、その理由や微妙なつながりなどが徐々に明かされていったりするのは、登場人物に感情移入できる要素でしたし、2つの視点から書かれた構成も、物語に奥行きを与えているように思えました。ある意味予想ができてしまう本ではあるのですが、ラストは泣けます。国家という大義名分に立ち向かう「個人」あるいは「家族」の絶望的な闘いのお話。おすすめです。
殉霊
著者 | 谺健二 |
出版(判型) | 講談社 |
出版年月 | 2000.4 |
ISBN(価格) | 4-06-209850-4(\2300)【amazon】【bk1】 |
評価 | ★★★☆ |
新人ながら異例の成功を収めていた矢貫馬遥。ところが彼女がビルから飛び降りるところを目撃されながら消える、という不可解な失踪を遂げた後、惨殺死体で発見される。後追いと思われる自殺が次々と起こる中、姉をアイドルの後追い自殺で無くした探偵・緋色翔子は事件を調べ始める。
なんだか盛りだくさんな本でした。この本、なにも推理小説仕立てにしなくてもよかったのではないでしょうか。後追い自殺と少年少女の問題、家族の問題、そして女性問題。どれもつながりが無いとは言えませんけれども、でもつなげ方が無理矢理という印象が拭えません。どのテーマもそれだけでひとつの本に十分成りえる話ですし、それぞれ面白いテーマでもあると思うので、どれかに絞ってもよかったのでは。フィクション小説の中に現実の事件が織り込まれるのが私は正直好きではありません。この人の前作「未明の悪夢」は「阪神・淡路大震災が舞台」であることに意味がありましたが、この本は全くフィクションの事件でもよかったわけですよね。この話は、ミステリ、小説というより、ノンフィクションとして読んだほうが面白いのかもしれないですね。
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