2000年01月

BH85(森青花) 信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス(宇月原晴明)
スイート・リトル・ベイビー(牧野修) ダーティ・ホワイト・ボーイズ(スティーブン・ハンター)
狩りのとき(スティーブン・ハンター) 龍神町龍神十三番地(船戸与一)
quarter mo@n -クォータームーン-(中井拓志) 粗忽拳銃(竹内真)
クロノス・ジョウンターの伝説(梶尾真治) 屍の王(牧野修)
半パン・デイズ(重松清) リプレイ(ケン・グリムウッド)
カレイドスコープ島(霧舎巧) 悪意(東野圭吾)
リアルヘヴンへようこそ(牧野修) 王国記(花村萬月)
月は幽咽のデバイス(森博嗣) 王の眠る丘(牧野修)
道祖土家の猿嫁(坂東眞砂子) 女たちのジハード(篠田節子)
消えた少年たち(オーソン・スコット・カード) 象牙色の眠り(柴田よしき)
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BH85

著者森青花
出版(判型)新潮社
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-10-433901-6(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★★

育毛剤「毛精」を主力製品とする製薬会社「毛精本舗」に、奇妙な電話がかかってきた。苦情ではなく「毛精は本当によく効く」というのだ。しかもその毛が伸びる速度が異常に早いという。電話を取った水木恵はさっそく上司に報告したが・・・

あらすじからものすごく人を食った話なんですけど、最後まですごい話でした。ファンタジーならなんでもOKっていう感じですね。私はこういうばかばかしい話大好きなんですけど、人によってはうーん、と言われてしまうかも(^^;。結局毛精に混じってしまった謎の製品BH85とは何なのかというのがそのお話なのですが、さてさて(笑)

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信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス

著者宇月原晴明
出版(判型)新潮社
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-10-433601-7(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

脚本家アルトーのところに、ある日ひとりの東洋人が訪ねてきた。アルトーが長年こだわりつづけたヘリオガバルス。そのヘリオガバルスと日本の武将織田信長には共通点があるという。

こちらもファンタジーならなんでもOKの範疇と言えるのかもしれませんが、どちらかというと、文献を曲解した系統のファンタジー。井沢元彦や高橋克彦っぽいイメージを持ったのですが、どうでしょう。ヘリオガバルスと信長の奇妙な共通点。日本人の口から語られるその不思議な人物像にすっかり魅せられてしまったアルトナン・アルトーは、結局どうなってしまうのでしょうか。最後の落ちがちょっと急かなあという気もするのですが、面白かったです。

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スイート・リトル・ベイビー

著者牧野修
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-04-352201-0(\533)【amazon】【bk1
評価★★★

保健婦の仕事をする傍ら、ボランティアで児童虐待の電話相談を受けていた秋生。その彼女のところへいつも相談に来る斎藤から電話がかかってきた。どうも最近夫の様子がおかしいという。児童虐待相談の範疇からは離れるが、放っておけない性格の秋生は、話を聞いてやるが。

うーん、これってホラー?というのが正直な感想。ちょっとはずしたかなあという感じです。なぜかわいい子供を虐待してしまうのか、という着想や、追い詰められる親の心境なんかの部分は私としては十分ホラーだなあと思うのですが、その話にこういう落ちをつけるのか、とちょっと疑問をもってしまいました。面白いのですが、あんまり怖いと思えなかったのが残念。どっちかというと笑えるホラーという印象です。

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ダーティ・ホワイト・ボーイズ

著者スティーブン・ハンター
出版(判型)扶桑社ミステリー文庫
出版年月1997.2
ISBN(価格)4-594-02200-6(\874)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

オクラホマ州のマカレスター重罪犯刑務所に収監されていたラマー・パイは、ひょんなことから黒人受刑者を殺してしまった。逆襲を恐れたラマーは、知恵遅れの弟と子分を連れて刑務所を脱走する。脱走に成功したラマー達は、ひたすら暴走をしつづけるが・・・

スワガーシリーズの番外編。本当は「極大射程」の後がこの作品で、続きが「ブラックライト」です。読み終わってみて、その順番で読んだ方がよいと思いました(T_T)。本当なら、ああこういうつながりになってるのか、と思えるのでしょう。でもこの本は、この1冊だけでも楽しめる本ですね。何かがちょっと違えば、もしかしたら偉人になれたかもしれないラマーと、その子分2人の逃走劇です。アメリカってこういうロードムービー映画よくありますよね。暴走して自爆する系統の話。もうこういう終わりしかないだろうと思って読んでしまったので、ちょっと長く感じられてしまったのが惜しいかな。

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狩りのとき

著者スティーブン・ハンター
出版(判型)扶桑社ミステリー文庫
出版年月1999.9
ISBN(価格)(上)4-594-02773-3(\781)【amazon】【bk1
(下)4-594-02774-1(\781)【amazon】【bk1
評価★★★★

1971年、22歳になる海兵隊員ダニー・フェンは、仲間のスパイを命じられ裁判での証言を頼まれるが、それを断った。そのために再び戦況の悪化するベトナムに送られ、狙撃ティームに配属される。その上官ボブ・リー・スワガーに心酔したダニーは、スワガーと共にベトナムで活躍をするが。

スワガーシリーズの最終巻。ベトナムでのスワガーとダニーの出会いの話から、このシリーズの端緒となった「謎の狙撃事件」という過去を清算する、まさに最終話にふさわしいお話です。ベトナムでの話はもう少し短くてもよかったかなとは思えたものの、やっぱりこの人の話、面白いですね。訳がいいのかもしれないのですが、読みやすいです。
4作でこのシリーズも完結なのが残念なのですが、こういう風に4作でひとつのストーリーにして、そこですぱっと完結するの、いいと思うんです。ただ人気があるからってだらだら続けて、結局終わらないシリーズって結構ありますよね。あと、なんとなく惰性になってきて面白くなくなってしまうシリーズとか。。。1作1作はそれほどつながりは無い様でいて、全部読むとひとつの長いストーリーになっているという点だけでもこのシリーズはいいなあと思います。全部読んでみると、やっぱり最初に読んだ「極大射程」が一番好きかな。でも「ダーティ・ホワイト・ボーイズ」の感じも好きです。

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龍神町龍神十三番地

著者船戸与一
出版(判型)徳間書店
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-19-861111-4(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

元警察官の梅沢信介は、職務中に被疑者を射殺し服役していた。5年の服役を終え、転がりこんだ女友達の店で飲んだくれて過ごしていたある日、高校時代の同級生が訪ねてくる。五島列島の龍ノ島というところで町長になっているその友人の頼みを受けて、龍神町へと向かう信介だったが、その町は古い因習の残る奇妙な町だった。

途中までは、次々と殺人の起こるトラベルミステリーっぽかったのですが、最後はハードボイルドでした。いまいち新鮮味がないところが残念。こういう古い町って今でも日本中にあるんでしょうけど、住民の怖さが中途半端で、もう少し狂気っぽいほうが面白かったかなという気がします。五島列島って行ったことないのですが、この話を読んでいると綺麗なところみたいですねえ。でも私は釣りしないしなあ(^^)。全然関係ないんですけど、題名だけ見たとき「網走番外地」を思い出しました。全然似てないって>自分

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quarter mo@n -クォータームーン-

著者中井拓志
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-04-346402-9(\762)【amazon】【bk1
評価★★★★

1999年9月3日、岡山県の久米原市で奇妙なことが起こり始めた。中学生が次々と死んでいくのだ。自殺、事故死、殺人、形はちがうものの彼らは申し合わせたように数字と「わたしのHuckleberry friend」と書かれた紙を持っている。一体何が彼らを死に至らしめたのか。

これ、ネットやってる人なら面白くよめるのでは。逆に全くネットの世界を知らない人が読んでも、この雰囲気は理解できない気がします。この本読んでて、自分もああ仮想現実の世界に半身入ってしまってるなあと改めて気づかされた気分。チャットやっててここまで酷くなった経験は無いのですけれども、文章で思っていたのと、会ったのとでは印象が違う人って結構多いですし、よく会うのに本名さえ知らない人もいます。仮想現実だからこそ、こういう遊びの要素が許されるし、仮想現実だと認識していれば(現実とごちゃまぜにしなければ)それでいいんじゃないかなあ。まあこの本のように仮想現実と現実の境が曖昧になっちゃうとやばいと思うんですけどね。

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粗忽拳銃

著者竹内真
出版(判型)集英社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-08-774449-3(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

前座噺家、自主映画監督、売れない役者、駆け出しフリーライター。いつもつるんで遊んでいる4人が、あるとき拳銃を拾った。見たところ精巧なモデルガンに見えたその拳銃、遊びで撃ってみて吃驚、実弾が発射されたのだ。ホンモノの拳銃を前に呆然としていた4人だったが・・・

一丁の拳銃が、行き詰まりを感じていたそれぞれの人生を変えていく青春小説。ホンモノの拳銃を拾ってしまったというところから、こういう話に持っていくところに新鮮さを感じました。これが真保裕一だったら、拳銃の持ち主を探しながらも、組織から狙われるハードボイルドっぽい小説になるでしょうし、岡嶋二人あたりだったら、実際この拳銃で殺人を犯そうとする、犯罪小説になるような気もします。そんな話を想像していただけに、それがなんと青春小説だったことに驚きました。確かに日本で拳銃を撃ったことのある人って少ないでしょうし、本当に撃ってしまった、しかも知らなかったとはいえ友人を撃ち殺しそうになってしまったという経験が、自分の糧になるという話もありかなあと感心。4人の話になっているので、少し話が拡散気味なのが残念ですが、それでも面白く読めました。今までも様々なところで注目されていたらしいのですが、これが一応デビュー作ということで今後が楽しみな作家さんです。なかなかおすすめ。

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クロノス・ジョウンターの伝説

著者梶尾真治
出版(判型)朝日ソノラマ文庫
出版年月1999.6
ISBN(価格)4-25717341-6(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

2058年、過去の異端科学が生み出した様々なものを展示している科幻博物館にひとりの男が忍び込んだ。館長は、警備員が捕えた侵入者の話を聞いて驚く。彼はこの博物館に展示してある「クロノス・ジョウンター」という機械で過去からきたというのだ。

様々な理由から時間移動をした3人のラブ・ストーリー。私はやっぱりオリジナルである最初の作品が一番好きです。他のもとっても良い話で泣けるんですけど、ラストが蛇足っぽい感じがしてしまうんですよね。ああひねくれもの>自分(笑)。多分私が思うような結末にすると、絶対文句を言う人がいる気が・・・(^^)。読んでいて「蒲生邸事件」を思い出しました。
時間旅行って本当にできるようになるんでしょうか。いつも思うんですけど、今時間旅行者がいないってことはやっぱり未来でも時間旅行は出来ないんじゃないかと。パラドックスのひとつですね。もしかするとこの世界のパラレルワールドのどれかでは、時間旅行者がいる世界というのがあるのかもしれないんですけれども。あー頭がこんがらかってきた・・・(^^;。

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屍の王

著者牧野修
出版(判型)ぶんか社
出版年月1998.12
ISBN(価格)4-8211-0642-6(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

愛娘を惨殺され、死人のような生活を送っている草薙良輔に、知人の編集者が小説を書いてみないかと持ちかける。自伝を創造するというアイデアを思いついた草薙は、そのプロットに「屍の王」という題名をつけ、憑かれたように書き始めるが。

途中まで読んで、最後がなんとなく見えてしまうんです。ある話を土台にしているので、ものすごく定石だなあと思いながら読んでいました。本当に腐臭が漂ってくるような文章は鬼気迫るという感じで面白かったのですが、きっとそれだけでは★★★★は付けなかったでしょう。まあよくできたホラーかな程度で終わっていたに違いありません。最後の付記を読んで私はものすごく恐ろしくなりました。この付記は一体。ああ。やっぱり読まなければよかったか・・・。

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半パン・デイズ

著者重松清
出版(判型)講談社
出版年月1999.11
ISBN(価格)4-06-209897-0(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

父の病気のために、東京から父の田舎に帰ることになった。今年から小学生になるヒロシは、最初は方言に戸惑い、知らない人ばかりのなかで心細く思いながらも、だんだんと田舎の生活になじんでいく。

私も小学校3年の時に父の転勤で水戸に転校しているので、彼の気持ちがすごくよくわかるんです。まず戸惑ったのが言葉。子供たちが何て言ってるのかわからないし、もちろん水戸の地理もわからない。すんごく心細かったのを覚えてます。でも気づいたら茨城弁を話していて、水戸の生活にも慣れてしまいました。一番地元で遊ぶ時期に水戸にいたので、住んでいたのはたった3年ですが、今行ってもやっぱり水戸は懐かしいです。中学生・高校生になって、その後田舎を出てどこか都会に行くかもしれないヒロシも、生まれた場所ではなくても子供の頃遊んだここをきっと故郷だと思うんでしょうね。

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リプレイ

著者ケン・グリムウッド
出版(判型)新潮文庫
出版年月1990.7
ISBN(価格)4-10-232501-8(\640)【amazon】【bk1
評価★★★★

1988年10月18日、ジェフは死んだ。しかし、ふと目がさめるとどうもおかしい。周りの景色は18歳の時に入っていた学生寮のものだ。記憶と知識はそのまま、25年前から人生をリプレイすることになったジェフは・・・

この本、もっと歳とってから読んだほうが面白かったかもしれません。もちろんこういう設定の小説として読んでもいいのでしょうけれども、40後半とか50とか、大体先が見えてきたかなと思える年齢になってから読めば、まだいろいろやれることのあった(はずの)20代前半に戻ったら。。。というこの小説の持つ本来の楽しみ方ができるんじゃないかなあと思うんです。実際私にとって25年っていうのは、いままで生きてきた年数なわけで、25年戻った自分を想像しているつもりでも、やっぱりどこか違うんじゃないでしょうか。

もちろん小説としては面白いです。これ。25年を繰り返す主人公が、一体どんな生き方をしていくのか、そして徐々にリプレイ時間が減っていって、最後はどうなるのか、気が抜けないつくりで、楽しませてもらいました。でもラストはちょっと不満。「リプレイ」にもう少し意味を持たせてもよかったかも。彼らは、結局このループによって、何をしたのでしょうか。本当なら社会のことよりも、やり直せる自分の人生だけを考えてもよかったんじゃないかなあ・・・25年後、今に戻ってもう一度やり直したいと思わないように、やりたいことをやって生きようと思ったのでした。とりあえずこの本は25年後に読むために保管しよう(^^)。

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カレイドスコープ島

著者霧舎巧
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-182110-5(\1150)【amazon】【bk1
評価★★★☆

<<あかずの扉研究会>>の面々は、ユイの高校時代の友人の故郷・竹取島へと招待を受けていた。ところがその島は、どうもおかしい。いきなり死体らしきものを海に投げ込むところを目撃してしまったカケルだったが、その後次々と殺人が起きて。。。

帯には「霧舎版獄門島」と書かれていますが、横溝の獄門島とはかなり雰囲気は違います。古い伝統が染み付いてしまっている孤島に、都会の人間がやってきて殺人事件に巻き込まれるという設定自体は確かに獄門島ですが、妙に明るいのが不思議。誰もが本当のことを言ってくれなくて、警察でさえ味方とは言えない怖い状況ながら、このあっけらかんとした雰囲気を保っているところが、なんともすごいですね。犯人は半分もいかないうちに分かってしまうのですが、伏線の張り方なんかは結構好きかも。ミステリが好きな人にはおすすめ。

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悪意

著者東野圭吾
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-182114-8(\800)【amazon】【bk1
評価★★★★☆

人気作家日高邦彦が自宅で何者かに殺害された。発見者は古くからの友人で、児童文学作家の野々口修と、被害者の妻。野々口は発見の経緯を手記の形に書くが。

活字ならでは、と言える推理小説。犯人はもうわかっているのに、その動機がどうもよくわからないところから始まるこのお話。2人の視点から見た手記の形をとって物語は進むのですが、うまいですねえ。なるほどー。こうなるのかー。短いですが、十分読ませます。なぜ殺したのか、を追求する話としては、一級品。

■入手情報:講談社文庫(2000.11)

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リアルヘヴンへようこそ

著者牧野修
出版(判型)廣済堂文庫
出版年月1999.10
ISBN(価格)4-331-60777-1(\552)【amazon】【bk1
評価★★★☆

緑の中にできた恵比須台ニュータウン。病院や区役所、郵便局など必要な施設がすべて整ったこのニュータウンに都築瞬は引っ越してきた。学校ではいじめられ、浮浪者と仲良くする彼は、このニュータウンに引っ越してきてから奇妙な夢を見始める。

怖いですか?この本。私は怖くなかったんです。これよりも「屍の王」の方が怖かったですね。なんででしょう。気持ち悪いので映像ではあまり見たくないのですが、でも怖いというイメージではないんです。あまりに設定が突拍子もないからでしょうか。幻覚や超常現象に対する考え方とか、面白いなとは思うのですが、怖がらせるにはそれにもう少しだけリアリティが必要かなという気がします。あくまで現実の中にこそ恐怖っていうのはあるんじゃないでしょうか。

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王国記

著者花村萬月
出版(判型)文藝春秋
出版年月1999.12
ISBN(価格)4-16-318890-8(\1238)【amazon】【bk1
評価★★★

人を殺し、かつて収容されていた修道院に逃げ込んだ朧をめぐるお話。芥川賞を受賞したゲルマニウムの夜の続編。人を殺し、修道女を強姦し、その修道女に子供を産ませて差し引きゼロ。そんな朧の壮絶な生き方を描いていく(今後も続いていくらしいです)作品なのですが、やたらとエグい話でした。少なくとも朝から読める本ではないですね。彼の話ってどこか似ていて、もういいかな、という気分にさせられてしまいました。今後、この話がどうなっていくのか、その展開によるかもしれません。というわけで、結局続きも読んでしまうんですよね・・・(^^)。

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月は幽咽のデバイス

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-182109-1(\800)【amazon】【bk1
評価★★★☆

阿漕荘に森川素直という転居者がやってきた。その森川の姉を通じて篠塚という大金持ちと知り合うことになった阿漕荘の面々は、オオカミ男が住んでいると噂される篠塚邸で密室殺人に遭遇する。

Vシリーズ第3弾。やっと人物とその関係が覚えられました。鍵のかかっていたオーディオルームで、謎ばかりの死体を目撃する面々。犯人は絶対にこの中に、というベタな話です。途中出てくる練無君の推理がよかったですね。それじゃあ島田荘司だよ・・・、って感じです(笑)。それでもよかったのになあ。まあ物理的に無理ですけど。★3つでもよかったんですけど、☆をさらにつけたのは、ラストの部分。主人公?の職業をすっかり失念してました。この辺りはシリーズの醍醐味。この後どうなるんでしょうね。やっぱり気になるから続きも買ってしまいそうです。

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王の眠る丘

著者牧野修
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-15-030630-3(\600)【amazon】【bk1
評価★★★★

霊ノ国の首都のゴミ置き場にできた<灰かぶり市>で育った戌児。故郷とも言える灰かぶり市が、黄武神皇の軍によって壊滅させられた。生き残ったわずかな人間は復讐を誓うが、神皇のいる天府に入るには特別な招待が必要だ。戌児は、天府への切符を手に入れるために、「大耐久馬奴走」というレースに出る。

全体的にどことなく「風の谷のナウシカ」を思い出させる感じ。言葉の使い方のせいでしょうか。あるいはファンタジーつながりで「十二国記」っぽいところもあります。まあこの手の話は、どことなく似通ってしまうのは仕方が無いと思うのですが、それでも最後の最後でやってくれたなあという感じ。単なる復讐譚じゃないところに★1つ追加です。自分ならどうする?って言われているような気がして、ものすごく考えました。読んだ方はどう思いました?

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道祖土家の猿嫁

著者坂東眞砂子
出版(判型)講談社
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-06-209899-7(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

明治中期、土佐の火振村の名家、道祖土家に嫁いだ蕗は、その顔が猿に似ていることから、周りに猿嫁とあだ名される。自由民権運動が全国に広がっていたこの時期から、2度の大戦を経験し、「家」も「女性」も「社会」も変わっていく時期の女性の半生記。

1つ1つは短編として書かれ、それが集まって移ろう社会の変化と、「名家」に振り回されて生きたひとりの女の半生記になっている作品。この時期って本当に何もかもが変わってしまったんだなあと思えるお話でした。主人公である蕗の生きた時代というのは、大体私の曾祖母くらいになるのでしょうか。押し付けられた嫁と言われ、周りからも下女のように扱われながらも、文句ひとつ言わず80歳になるまで滅私奉公のような生活を続けていくというのは、どんな気持ちなんでしょうね。考えただけで恐ろしくなるのですが、この頃の「社会」が押し付ける「常識」っていうのは、そういうものだったのでしょう。結局蕗の半生は幸せだったのか、と言われると私にしてみると、牢獄のような窮屈な世界に生きたこの女性を幸せとは思えないのですが、それは今の「社会」が押し付ける「常識」に縛られた私が思うからかもしれないのです。

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女たちのジハード

著者篠田節子
出版(判型)集英社文庫
出版年月2000.1
ISBN(価格)4-08-747148-9(\705)【amazon】【bk1
評価★★★★★

どうしても結婚したいといろいろな策略をめぐらせる美人のリサ、何をやってもスローモーで周りの女をイライラさせる紀子、有能でありながら会社をリストラされるみどり。34歳独身でやくざを相手に競売物件を競り落とす康子。得意の英語で食べていこうと頑張る沙織。女性に冷たい社会の中で一生懸命生きようとする女性OL5人のお話。

すんごく勇気が出る本だなあというのが感想。この前妹と、「このままだらだら仕事して、気づいたら40歳とかになってそうだよねえ」って言ってたんですけど、「もう25歳」と思っていた自分に「まだまだ25歳だよ」、って思わせてくれる本でした。田辺聖子さんがあとがきを書いているのですが、この本が直木賞を取ったときに、選考委員の男性陣に人気があったのは「紀子」さんだとか。ああすんごくわかるんですよね、それ。私の周りにも女性が仕事をすることを肯定していて、もちろん会社の同僚に女性がたくさんいるような男でも「自分の奥さんは別」(笑)。肯定さえもしなくて、「女は結婚したら家で待ってるもんだ」ってはっきり言う友人もいましたし。もちろんそういう考え方を否定するわけではないですし、逆にそういう男は絶対に仕事をやめられないし、奥さん子供を養わなくてはならないわけで、大変は大変だと思うんですけどね。読んだ方は、どの人の考えに共感しました? 人物がそれぞれが個性的で、本当に楽しませてくれる本でした。

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消えた少年たち

著者オーソン・スコット・カード
出版(判型)早川書房
出版年月1997.11
ISBN(価格)4-15-208121-X(\2600)【amazon】【bk1
評価★★★★

ステップと家族は、新しい仕事のために住み慣れたヴィゴアを離れ、ストゥベンにやってきた。うまくいくさと思っていたところが、長男の様子がおかしい。全く笑わなくなり、しかも空想の少年達と遊んでいるようだ。ステップと妻はものすごく心配するが。

すごくいい家族なんです。ある意味窮屈すぎるくらい。モルモン教の人たちって皆こういう感じなのでしょうか。モルモン教といって思い出すのは、ドイルの「緋色の研究」。だからこの本を読んで、大分イメージが変わりましたね(^^)。

その良い家族が、和気藹々とやっていく話・・・かと思いきや、その家族が次々と困難にぶち当たる。主人公たちはこんなに良い人たちなのに、なんとなく全編を通して妙な悪意や、不穏な雰囲気を感じさせるという点で、この本は成功だなと思います。その不穏な雰囲気はやがて別の事件に結びつくわけですが・・・。

さて、この本を読んである話を思い出すのは私だけではないはず。そっちを知っている人なら、絶対に途中でカラクリが読める。でもそういうミステリの部分じゃなくて、新天地でなんとかうまくやっていこうと試行錯誤する家族、モルモン教というちょっと変わった信仰に対する考え方っていうところで、アメリカの家族像っていうのが現れていて面白かったですね。おすすめ。

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象牙色の眠り

著者柴田よしき
出版(判型)廣済堂
出版年月2000.2
ISBN(価格)4-331-05843-3(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★☆

夫の借金の返済のために家政婦をしている瑞恵。その勤め先の原家で不審な事件が相次いだ。事故に遭い意識の戻らない長女、焼身自殺したかにみえる長男。彼らは殺されたのか、それとも・・・

夫の借金に苦しむ家政婦。その上夫は外に女を作って・・・という話が、家政婦先の事件と徐々に交差するという話なのですが、もう少し柴田よしきらしい愛憎劇の方が読みたかったかな。事件も人間関係もどちらも少々中途半端な感じでした。「意識のない人間」というところで、オベールの「森の死神」を思い出してしまったのがよくなかったかも。

こういう、一生働かなくても暮らしていける財産を持ってしまうことってどうなんでしょうね。私はよく「宝くじが当たったら仕事やめます」って冗談で(いや半分本気?)言うんですけど、実際に何にもすることがなかったら、つらいかもなあと思ってしまいました。そういう意味では、この主人公の家政婦さんは「借金を返す」っていう苦労でも、目標があるってことは良いことなんでは。と思うのは、持たざるものの言い訳なのでしょうか。

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