1998年10月

ディール・メイカー(服部真澄) ブルース(花村萬月)
屍鬼(小野不由美) 月曜日の水玉模様(加納朋子)
キラー・オン・ザ・ロード(ジェームズ・エルロイ) 殉教カテリナ車輪(飛鳥部勝則)
リミット(野沢尚) 有限と微小のパン(森博嗣)
御手洗潔のメロディ(島田荘司) 夏のロケット(川端裕人)
記憶の闇の底から(ジャック・ネヴィン) 東亰異聞(小野不由美)
リング(鈴木光司) 月の影 影の海(小野不由美)
風の海 迷宮の岸(小野不由美) 東の海神 西の滄海(小野不由美)
風の万里 黎明の空(小野不由美) 図南の翼(小野不由美)
赤い額縁(倉阪鬼一郎) (花村萬月)
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ディール・メイカー

著者服部真澄
出版(判型)祥伝社
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-396-63134-0(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

世界中の人気者『デニー』を作ったハリス兄弟。2人が作り上げた法人が今では、TVネットワーク、映画業界など主要なメディアをすべて押さえているメガ・メディア企業『ハリス・ブラザーズ』となっている。ところがその『ハリス・ブラザーズ』を乗っ取ろうとする動きが。熾烈なマネー・ゲームを征して巨大な富を手に入れるのは、『ハリス・ブラザーズ』なのかそれとも巨大ハイテク産業『マジコム』なのか。

面白かったです。もう古い映画になってしまいますけど、マイケル・ダグラスがアカデミー賞を取った「ウォール街」を思い出してしまいました。単に企業どうしのぶつかり合いというだけでなく、男性社会に嫌気がさしている『ハリス・ブラザーズ』の商品部門副社長シェリル、自分の出生のコンプレックスに悩む反健斗、そしていかにも策士といった感じの『ハリス・ブラザーズ』の最高責任者ノックスと、人間を中心にした騙し騙されのストーリーでもあって、楽しめたと思います。スケールの大きさではもうはなまるです。
服部真澄の本は、面白いのにあまり人間がたってなくて残念に思っていたのですが、今回の本はその点よかったですね。

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ブルース

著者花村萬月
出版(判型)角川文庫
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-04-189804-8(\819)【amazon】【bk1
評価★★★★

アメリカで挫折して、今は横浜のコトブキで底辺の生活を送る村上。ホモでヤクザの徳山を疎ましく思いながらも、結局いつも彼の持ってくるスラッジ清掃の仕事をしている。あるときいつものように徳山と船に乗った村上は、不思議に気の合った朝鮮人の崔を、徳山の嫉妬と自分の不注意から死なせてしまう。心まですさんだ村山が、ふと寄ったライブ・スポットで出会ったブルース歌手、綾に惹かれていく。

花村萬月のすごいところは、この長さでも全然長さを感じさせない魅力と、セックスと暴力しかないような小説に、これほどの哀愁を感じさせるストーリーにあると思います。精神状態の良いときに読まないと、かなりダメージを受けるでしょう。この話は今まで読んだ中でも特に哀しくて、超差別的な小説でした。この人の本は、いくら読んでも飽きないですね。新しいものに比べると文章がこなれてない感じがしますが、何度も何度も同じ主張を繰り返すところは、逆に切実さを感じます。彼の小説に出てくる主人公達が嫌いな「小利口で、中産階級の」わたしとしては、耳の痛い話が多いんですけどね。

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屍鬼

著者小野不由美
出版(判型)新潮社
出版年月1998.9
ISBN(価格)(上)4-10-397002-2(\2200)【amazon】【bk1
(下)4-10-397003-0(\2500)【amazon】【bk1
評価★★★★★

人口千三百余、三方を樅の森に囲まれ、そこだけで完結している山の中の集落、外場。土葬の習慣を守り、信仰を守り、古くから伝わる伝統的行事を連綿と続けてきた村。そんな村が、ある乾燥した冬の夜に火に襲われた。折りからの強風に煽られて燃え広がる火は遠くの町の人の目にもとまり、急遽応援が駆けつけるが、そこで彼らの見たものは・・・。

京極氏との対談、上下巻で5000円、原稿用紙にして約3000枚の大作という宣伝文句に煽られて、かなり話題になっていた作品がとうとう出版されました。一言。宣伝で考えていたものより、数倍すごい。私には、怖いというより、切ない話に思えました。人間にとって死とは何なのか、あるいは生とは何なのか。この長い本を読み終わった今、私はかなり混乱しております。
この本のすごいところは、長さでも値段でもなく、圧倒的なリアリティだと思います。読者にの前に閉鎖的な「外場」という世界を現出させ、このある意味かなり非現実的とも言える設定をすべて有効にしています。ヴァーチャル・リアリティとはまさにこういうものの事を言うのではないでしょうか。今週、私はこの屍鬼の世界へと完全にトリップしていました。夢にまで外場が出てきました。5000円で行ける、外場への恐怖に満ちた旅へ、あなたも是非行ってみてください。

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月曜日の水玉模様

著者加納朋子
出版(判型)集英社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-08-774214-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

中小企業の一般事務職をしている片桐陶子が活躍する連作集。
最初に帯を見たとき思ったのが、「おー私と同姓だー」でした(笑)。片桐っていう名字はありそうでなさそうでなので、ちょっと嬉しいです。しかも犯人だったりするとちょっと悲しいのですが、今回は切れるOLの主人公。日常に起こる事件を解決していく加納さんらしいかわいいお話です。
私は「水曜日の探偵志願」が一番好きです。あ、でもすごーいわかるーと思ったのが、「月曜日の水玉模様」の満員電車(笑)。朝山手線に乗ると、だいたい同じ人が座っているんですよね。降りる駅を覚えておくと座れる。でも私は人の顔を覚えるのがかなり苦手なので、そうとう特徴的でないとすぐ忘れてしまって、案外役に立たないのですが。このシリーズ、気に入ったので続けて欲しいです。

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キラー・オン・ザ・ロード

著者ジェームズ・エルロイ
出版(判型)扶桑社海外文庫
出版年月1998.8
ISBN(価格)4-594-02544-7(\686)【amazon】【bk1
評価★★★

シン・シン刑務所に終身刑で服役中のマーティン・プランケット。9年間に何十人もの人間を惨殺しながらアメリカを横断した男が、回想録を出版、謎の多い事件の全貌を明らかにする。

まさにシリアル・キラーの自叙伝なのですが、ちょっと平坦な感じでした。他に読んだエルロイ作品に比べると、人間がいまいちだったような気がします。自分を珍獣のように見る周りを、冷めた目でみているプランケットと、彼をとりまく退廃的な雰囲気はよかったのですが、それだけだったかな。こんどはもっと新しい作品を読んでみようと思います。

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殉教カテリナ車輪

著者飛鳥部勝則
出版(判型)東京創元社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-488-02355-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

美術館に勤める井村は、あるとき学芸員事務室でふと目にとまった本の図版をパラパラと見ていた。そこへ学芸員の矢部が入ってきて驚愕の目をむける。その図版を奪うようにして見た彼は、ぽつりと言った−−−「謎が、解けた」。

この本は、まず本自体がいいですね。黒い表紙を開けると、いきなり袋とじのなにやら怪しげなページ。中身の装丁も凝ってますし、雰囲気抜群です。
内容もなかなか。作中作をさらに入子にした構成がばっちり決まっています。なんとなく読み飛ばしていた部分が、すごーく重要だったりして、悔しい思いをしました。密室にアリバイに、といういかにもの推理小説の中に、「図像学」という一風変わった設定を盛り込まれているのが面白く感じられました。ちょっと説明的な文章が多いような気もするのですが、その辺りは次の作品に期待です。

■入手情報: 創元推理文庫(2001.7)

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リミット

著者野沢尚
出版(判型)講談社
出版年月1998.6
ISBN(価格)4-06-209229-8(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

警視庁に勤める有働公子は1児の母。夫を早くに亡くし、子育てと仕事とに明け暮れる毎日を送っている。彼女の専門は、誘拐事件の被害者対策。幼児の誘拐事件が起き、彼女は被害者宅へ向かっていた。

暴走する母という題材も面白かったですし、スピード感もGOOD。「臓器売買」にあまり力を向けずに、「母親」という視点を取りいれたところがよかったですね。うーん、ちょっと怖いというか、母は強しって感じでした。私はこの著者の乱歩賞受賞作を読んでいないのですが、これならうなずけます。なるほど文章力もありますし、さすが脚本家。受賞作も読んでみようかなと思いました。

■入手情報: 講談社文庫(2001.6)

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有限と微小のパン

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルス
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-06-182043-5(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★

萌絵ちゃんと犀川助教授のシリーズ完結編。ゼミ旅行の先発隊として長崎のテーマパークを訪れた萌絵達。そこで3年前の事件の関係者、島田文子と再会し、「シードラゴン事件」と呼ばれる死体消失事件があったことを聞く。そこへ、彼女たちを待っていたようにふたたび死体消失事件が。

面白かったんですけど、完結編としてはちょっと拍子抜け。途中でわかっちゃったんですよね。なんとなく。しかもそれだけじゃなくて、もっとすごいことを想像していたので、うーん。という感じでした。同じような話を読んだことがあったから、というのもあると思うのですが。
内容とは関係ないのですが、こういう人気シリーズの完結編って初めて読んだ気がします。完結編って書かれないって気がしてました。作家が亡くなってしまうとか、うやむやのまま書かれなくなってしまうとか、そういうのが多いので、完結編なんていうものは無いものだと(笑)。ただ、この話もいつでも再開できるような感じですね。第2期とか言って。このシリーズでは、やっぱり「
すべてがFになる」が一番だったかなと思います。個人的には「今はもうない」も好きですが。これからこのシリーズを読まれる方は、順番に読むことを強くおすすめいたします。順序は、ここをご参照ください。

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御手洗潔のメロディ

著者島田荘司
出版(判型)講談社
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-06-209345-6(\1700)【amazon】【bk1
評価★★★★

久々の御手洗潔でずっぱり短編集(^^)。音楽家が持ち込んできた女性失踪事件から、ある陰謀を暴き出す「IgE」、クリスマス・イヴの一夜に石岡君が高校生の手作りコンサートに駆り出される「SIVAD SELIM」、そして御手洗のハーヴァード大時代に起きた怪談のような事件「ボストン幽霊絵画事件」、久々の登場の松崎レオナが、御手洗に出会ったドイツ人ハインリッヒに御手洗の近況を聞く「さらば遠い輝き」。怖い話あり、不思議な話あり、そして御手洗の超人のような推理ありで楽しめました。
特に、「さらば遠い輝き」は良いお話。最後のハインリッヒの話は涙なしでは読めません。次回もこういう話を期待してます。

■入手情報:講談社ノベルス(2001.1)

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夏のロケット

著者川端裕人
出版(判型)文藝春秋
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-16-318020-6(\1762)【amazon】【bk1
評価★★★★

ぼくと仲間の5人は、高校時代科学部を乗っ取り、非合法でロケットを打ち上げる実験に明け暮れていた。今ぼくは新聞社で科学部の記者になり、仲間も一流商社、宇宙開発事業団、特殊金属メーカーのサラリーマンとミュージシャンになり、それぞれの生活をしている。ところが、ある事件をきっかけに、ぼくは再び4人の仲間に合流、ロケットの打ち上げをすることに・・・。

うまいですねー。5人という人間をうまく役割分担しているところがよかったです。スポンサーから技術屋、広報担当まで作って(笑)。大人のための童話という感じがしました。本当にこういう人間達がいたら、きっと面白いだろうなあと思うのです。彼らのすごいところは、無計画にロケットを打ち上げようとするのではなく、「火星へ行くこと」を最終目的とした綿密な計画をたて、それに必要な資金をどこから捻出するかまで考えているところですね。ある意味無謀とも言える計画なのに、本当に火星へいけるんじゃないか、という気分にさせてくれて、最近疲れ気味の私には、清涼剤となる1冊でした。
私が子供のころは、海外旅行も金持ちの道楽という感じだったのに、3年後には高いとはいえ、本当に宇宙に行くことができるようになるのですから、こうして民間のロケット会社が日本にできる日も遠い未来の話ではないのでしょうか。夢があっていいなあと思えます(あ、夢ではないのですよね)。私も一度地球を外から見てみたいです(本当に)。もしかしたら、地球が青いというのも、丸いというのも、嘘かもしれないですからね(笑)。

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記憶の闇の底から

著者ジャック・ネヴィン
出版(判型)扶桑社海外文庫
出版年月1998.9
ISBN(価格)4-594-02562-5(\838)【amazon】【bk1
評価★★★★

マット・ステナーは英国の著名な児童文学作家。彼の作品は飛ぶように売れ、アニメ化の打診も来ている。ところが、何もかもがうまくいっているように見えたクリスマス休暇に、マットが溺愛する娘カミラが自殺を図る。心配したマットは、カミラにセラピストの治療を受けさせるが、そのカミラが、幼いころマットに性的虐待を受けたと訴える。身に覚えのない告発に混乱をきたすマット。動かぬ証拠と、証人たちの証言をもとに追いつめられるマットは、本当に無実なのか。

もう今では1ジャンルとも言える「法廷ミステリー」。面白いのと面白くないのと両極端に思えるのですが、これは面白かったです。次々とあがる証拠に、自分さえもが信じられなくなるような恐怖感、緊迫感がよく、長さを感じさせませんでした。人間の「記憶」がどこまで信用できるのか、こういう本を読むと足元が崩れるような感じがしますね。

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東亰異聞

著者小野不由美
出版(判型)新潮社
出版年月1994.4
ISBN(価格)4-10-397001-4(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

明治29年。江戸が東亰に変わり、文明開化の名のもと、日本が大きく変わっていたこの時期、帝都には魑魅魍魎が跋扈していた。

この人の話は、まさに「切ない」話ですね。「屍鬼」の時も思いましたが、この話も最後が哀しいお話でした。雰囲気的には、藤木稟が似てます(反論もありそうですが・・・(^^))。浅草ってどうしてこういう雰囲気なんでしょうね。私は上野・浅草が近いところに住んでいますので、よく初詣なんかに行ったのですが、同じ東京なのに、渋谷とか新宿とかとは全然違いますね。
この本を読んでちょっと考えたのですが、人間は何故闇が怖いのでしょう。私は暗いところが大嫌いなので特に思うのですが。暗いところって、なんとなく怖い。真の闇が怖いと初めて思ったのが、中学くらいのときに長野の善光寺で戒壇めぐりをしたときでした。観光シーズンだったので、並んでいるほどすごい人出でしたし、すぐ近くに人の気配があるのに、本当に何も見えない暗闇の中で、私はパニックに陥りそうになりました。やっぱり暗闇の中には、何かいるんですよ。物質文明にすっかり毒されてしまっている現代人には、もう見ることができないだけで(^^)。

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リング

著者鈴木光司
出版(判型)角川文庫
出版年月1993.4
ISBN(価格)4-04-188001-7(\540)【amazon】【bk1
評価★★★★

同日の同時刻に4人の男女が不審死を遂げる。ひょんなことからその事実を知った新聞記者の浅川は、4人の死を探る内に、1本のビデオテープの存在を知る。

私は1度、全然見る気のなかった「リング」のテレビドラマの最初の部分を見てしまい、どうしてこういう怖いドラマが流行るんだー思いました。当然ホラーの嫌いな私は、どんなにこの本が流行っても、頑として読もうと思いませんでした。そんなホラー嫌いの私が「天使の囀り」を読んで以来、少々宗旨替えをして、ホラーも面白いんだと思っています。そんな時、この本をメールで勧めてくださった方がいらっしゃったので、読んでみたのです。
一言で言うなら、やっぱり怖い。これを映像という媒体で見ようとは絶対思わないに違いありません。特にビデオを見てしまうシーンは、臨場感ありすぎで、思わず後ろを振り返りたくなるような怖さがありました。でもそれでも面白い。最後まで一気読みです。このビデオがどこから来たのか、そして最後の消されてしまった部分には何が映っていたのか、タイムリミットを意識しながら謎解きをしていくところでは、ミステリーのような感じもあります。非現実的な設定である所為で、いわゆるミステリーではなくホラーに分けられるのでしょうが、ただ単に怖がらせるだけのホラーではないのが、「面白い」といえる要因だったのかもしれません。

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月の影 影の海

著者小野不由美
出版(判型)講談社X文庫
出版年月1992.6-7
ISBN(価格)(上)4-06-255071-7(\485)【amazon】【bk1
(下)4-06-255072-5(\485)【amazon】【bk1
評価★★★★

十二国記シリーズの第1作目。
陽子は普通の女子高生。親からも教師からも友人たちからも優等生として捉えられている存在。そんな彼女のところにある日、金髪の男が現れ、「お迎えに参りました」と言う。嫌がる彼女が連れ去られたところは、妖魔が跋扈し、神仙が存在する不思議な国だった。

読んだとたん、「オズシリーズ」を思い出しました。内容は「西遊記」あるいは「宇宙皇子(の地上編)」に近い感じ。虚海という一方通行の海をわたってフィクションの国へ。いいですね。こういう話。私の読書遍歴のところでも書きましたが、「オズ」と「西遊記」は昔からの私の愛読書で、今でこそなんだかあやしげな本ばっかり読んでますけど、ファンタジーって結構好きなんです。この年になって、こうして新しいファンタジーに出会えるとは思っていませんでした。おすすめしてくださった皆様、ありがとうございます。
さて、本の方はまだ最初ということもあって、説明的な部分が多いのですが、これからの冒険を予感させるところもあって楽しみですね。「オズの魔法使い」でドロシーはカンザスの家に帰ることができるのですが、意志に反してこの世界へ来てしまった陽子は、敵の襲撃を退けて故郷へ帰ることができるのでしょうか。

■入手情報:講談社文庫(2000.1)

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風の海 迷宮の岸

著者小野不由美
出版(判型)講談社X文庫
出版年月1993.3-4
ISBN(価格)(上)4-06-255114-4(\408)【amazon】【bk1
(下)4-06-255120-9(\408)【amazon】【bk1
評価★★★

十二国記シリーズ第2作目。北東にある戴国の麒麟・泰麒の成長物語。
王を天啓によって選ぶ麒麟は、蓬山の木に成り、王を選ぶときまで黄海の中で暮らす。ところが泰麒は木に成っている時に蝕に会い、蓬莱へと流されてしまう。10年後やっと見つけ出された泰麒は、妖獣を折伏する力を持たず、麒麟になる術も知らない。彼は本当に次期泰王を選ぶことができるのだろうか。

2作目を読んでやっと判明。このシリーズは「三国志」のような感じなんですね。この不思議な世界を描く歴史物語です。今回は戴国のお話。あらすじを書きましたが、はっきり言って読んだことのない人には何がなんだかさっぱりわからないあらすじにしてみました(超不親切)。でも面白いですよ。今回ちょっと不満だったのは、あまりに先が読めてしまって、あまりワクワクできなかったことでしょうか。でも泰麒がかわいいから許してあげましょう。

■入手情報:講談社文庫(2000.4)

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東の海神 西の滄海

著者小野不由美
出版(判型)講談社X文庫
出版年月1994.6
ISBN(価格)4-06-255168-3(\563)【amazon】【bk1
評価★★★★

十二国記第3作目。雁国の内乱のお話。
長く王が居ない雁では、土地は疲弊し、民は流出してまさに国が滅ばんとする状況にあった。雁の麒麟・延麒は、蓬莱の国をさまよってようやく延王を玉座に付けたが、その王は側近にさえ馬鹿呼ばわりされる放蕩者。そんな時、荒野と化した雁の中でも比較的まともだった元州で、王の実権を奪取する陰謀が画されていた。

この本はよかったー。いいお話でした。賢帝にはどうしても見えない延王と、その王をしょうもないと思いつつも信頼している延麒の友情物語でしょうか。ラストがよかったですね。ただ、やっぱり不満を言うなら、先が読めちゃうのが勿体ないというか。どこかで読んだ話なんです。特にこの話は軍記ものの体裁が取られているからか、「三国志」の焼き直しという感が否めません。面白いのですが、小野さんらしい哀愁ただよう話を期待したいですね。

■入手情報:講談社文庫(2000.7)

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風の万里 黎明の空

著者小野不由美
出版(判型)講談社X文庫
出版年月1994.9
ISBN(価格)(上)4-06-255178-0(\602)【amazon】【bk1
(下)4-06-255175-6(\602)【amazon】【bk1
評価★★★★

至らない自分には王など出来ない・・・そう思いながらも慶東国の王となってしまった陽子。民の幸福を願いながらも、この国のことを全く知らない陽子は何をすれば良いのか分からず、官吏も年若い女王を侮っている。このままでは、自分と共にこの国をもだめにしてしまうと危惧した陽子は、里に出て国のことを知ろうとするが・・・

おー暴れん坊将軍(笑)。こういう話はたとえ最後が分かっていても面白いですね。水戸黄門が印篭を出すシーンはいつでも視聴率が高いと言われますが、人の顔色ばかり伺っていた王が、王たる資質を発揮していく様は、まさに胸のすく思いでした。単純な私は、こういう話が大好きです。今までの中では一番お気に入り。こういうシリーズものは続けていくにつれ、摩耗してマンネリ感が強くなって、(きっと著者も書くのに飽きてるんだなー)と思ってしまうものが多いのですが、このシリーズはその感じがないので、続きが気になります。まだ西の方の国の話が無いので、そのあたりも期待です。

■入手情報:講談社文庫(2000.11)

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図南の翼

著者小野不由美
出版(判型)講談社X文庫
出版年月1996.2
ISBN(価格)4-06-255229-9(\660)【amazon】【bk1
評価★★★★

十二国記シリーズ第5巻。今回は番外編(「東の海神 西の滄海」も番外編だそうです。)で、共国の女王の昇山のお話。
北方の国ではもう27年も王が立っていなかった。王のいない国は、人里にまで妖魔が現れるほど荒廃している。その様子を見かねた商家のお嬢様珠晶は、誰も王になろうとしないのなら自分がなってやる、と天意を諮るため昇山を決意する。

今までとはちょっと雰囲気の違う冒険物。前作で彼女は女王として出てきますが、その時はなんだか気位高くて嫌な奴だなあと思ったのです。この話を読んで見直しました。いろいろなことを考えていて、好奇心旺盛で、なかなか見所のある女の子です。黄海で狩りをして暮らす朱氏・頑丘とのドタバタというか喧嘩も、楽しめます。もっと読みたい、終わるのがもったいないという感じでした。次は何処の国のお話を読ませてくれるのか、楽しみですね。

■入手情報:講談社文庫(2001.1)

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赤い額縁

著者倉阪鬼一郎
出版(判型)幻冬社
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-87728-258-0(\1600)【amazon】【bk1
評価★★

ジョーグ・N・ドゥーム著「The Red Frame : the most horrible tale in the world」。古本屋が明確な訳もなく売り渋り、翻訳しようとする翻訳家が次々と失踪する曰く付きの書。ある時それを手に入れた男が、その本をもとに1冊の本を書き始めた・・・

あらすじというか、帯を見たときは面白そうだなあと思ったんですよ。しかもAからZまでの章とか、もー読んでくださいといわんばかり。綾辻氏が推薦しているし、と思って買ったのですが・・・途中で何度読むのをやめようと思ったことか。最後まで読んだとき、この作家さんはこの本を書くのに、どのくらいかかったんだろうという疑問と、お疲れ様という感想しか思い浮かびませんでした。もしかすると、一部の方には受ける話かもしれません。ただ「普通の小説」が好きな私としては、単に奇をてらったようにしか見えないこういう小説は、やはり受け入れがたいというか・・・。この辺でやめておきましょう。あくまでこれは私見ですので、あまり参考にされないほうがいいかもしれません。

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著者花村萬月
出版(判型)双葉社
出版年月1997.7
ISBN(価格)4-575-23302-1(\2300)【amazon】【bk1
評価★★★

パン工場で夜間勤務をする舞浜響。彼が鬱々をした日々の中で小説を書くという話。

高校の頃、一時期文壇に流行した私小説を評価しないという国語の教師がいたのですが、なるほど、こういうのが私小説というのね、と思いました。もし最初に読んだ花村萬月がこの「鬱」なら、私はその後彼の小説を読まなかったに違いありません。自分の作った狭い世界があって、その中をものすごい劣等感と共にぐるぐると歩き回っているような、正に「鬱」という言葉がぴったりの小説ですが、はっきり言って私には面白いとは思えませんでした。うーん、これも小説というのでしょうか。私にはそうは思えないのですが。

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