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12.平成猿蟹合戦図 13.太陽は動かない 14.路(ルウ) 15.愛に乱暴 16.怒り 17.森は知っている 18.橋を渡る 19.犯罪小説集 20.ウォーターゲーム |
【作家歴】、パレード、パーク・ライフ、7月24日通り、ひなた、悪人、静かな爆弾、さよなら渓谷、あの空の下で、元職員、キャンセルされた街の案内 |
国宝、続・横道世之介、アンジュと頭獅王、逃亡小説集、湖の女たち、オリンピックにふれる、ミス・サンシャイン、永遠と横道世之介、罪名一万年愛す |
●「横道世之介」● ★★☆ 柴田錬三郎賞 |
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2012年11月
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横道世之介というのが、本書主人公の名前。 名前といい、その命名の由来といい、てっきりコミカルなストーリィと思い込んでいたのですが、とんでもない。 誰も知り合いがいない東京。でも、大学に入った途端それなりに仲間ができ、それが縁でサンバサークルに入ってしまい、先輩から紹介されたホテルでバイト、同級生について自動車教習所へ行ったおかげでガールフレンドができ・・・・という日々。 そして20年後、当時世之介と関わった同級生らがふと世之介のことを思い出して懐かしくなる、温かな気持ちになるというストーリィ。 まさに私好みの作品。お薦めしたい青春グラフティです。 |
※映画化 →「横道世之介」
●「平成猿蟹合戦図」● ★★ |
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2014年03月
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日本民話の「猿蟹合戦」と言えば、狡猾な猿に騙され、殺された蟹の復讐を、蟹の子供たちが栗や蜂、臼などの助けを借りて果たすというストーリィ。 まずストーリィは、東京は新宿の歌舞伎町から。 主役級クラスで大勢の人物が登場するストーリィ。終盤に至るまでには様々な経緯やアクシデントが描かれるのですが、彼ら皆が力を合わせるようにして、終盤一気にストーリィは、純平が与党・民政党の公認を勝ち得て衆議院議員選に立候補するという展開になだれ込みます。 |
13. | |
●「太陽は動かない」● ★☆ |
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2014年08月
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ハードアクション小説はまず読まない方である。本書についても最初は読まなくてもいいやと思っていたのですが、そこは吉田修一作品、一応読んでおこうと考え直した次第です。 ストーリィは、アジアを舞台にした産業スパイの暗闘を描いたもの。そしてその舞台設定の中心的存在は、戦略的発想を欠いてライバル国に常に遅れをとりかねない日本企業と、中央政府の意向を無視して利権拡大に突っ走る中国企業です。 ともかくも吉田さんの狙い通り、息もつかせぬハードアクションの連続。産業スパイ、謎の美女、巨悪の企業集団に、若い政治家まで絡む、現代世界情勢に適ったエンターテイメント。 ※善悪をはっきりさせ、主人公を明朗なヒーロー像に設定するなら、スピード感や目まぐるしい展開は、クライブ・カッスラーの“ダーク・ピット”シリーズを彷彿させるところがあります。 |
※映画化 → 「太陽は動かない」
14. | |
●「路(ルウ)」● ★★☆ |
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2015年05月
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日本の新幹線を台湾に走らせる、という国境を越えた大プロジェクト。 それが決定された2000年から台湾高速鉄道が開業した2007年までを、そのプロジェクトに関わった商社員、整備士、さらに台湾生まれの老日本人、台湾人青年や女性たち、様々な人々のドラマを重ねあわせた力作長篇小説。 読む前は、台湾新幹線プロジェクトを中心にしたドキュメンタリー風の小説かと思っていたのですが、それは私の誤解。台湾新幹線プロジェクトはあくまでストーリィの背景で、描かれるのは日本〜台湾をまたいでの人々のフィクション・ドラマでした。 主な登場人物の一人は、台湾新幹線プロジェクトを推進する日本商社の事業部員として台湾に赴任した若い女性=多田春香。現在はホテルマンの池上繁之という恋人がいる春香ですが、その彼女には、学生時代に一度ひとりで台湾旅行した折知り合った台湾人青年との大切な思い出があった。 一方、同じ事業部員の安西誠は、台湾に馴染めずストレスを溜め込んで心身ともどん底。そんな状態にあった彼を救ってくれたのはユキという台湾人女性との出会いだった。 また、葉山勝一郎という大手建設会社を退職した後妻も亡くなり孤独となった老人も登場します。彼と妻は元々“湾生”という台湾育ち。その葉山には、かつて親友だった台湾人との間で悔んでも悔やみきれない過去があった。 多田春香と劉人豪、安西誠とユキ、葉山勝一郎と中野赳夫、さらに陳威志という台湾人青年とその幼馴染である美青と、本書ではは様々な人々の人生ドラマが描かれます。そこに共通するのは、日本人と台湾人の関わり、人間同士としての絆。 新幹線という日本で生まれた技術が台湾で高速鉄道となって走るというのも一つの象徴ですが、上記ドラマには日本人と台湾人との間に架け橋を渡す、心と心を繋ぐという姿が見いだせます。そこには、静かで深い感動があります。 人と人だけでなく、台湾と日本という国の間もそんな絆で結ばれたら何と素敵なことであろうかと、自然に思ってしまいます。 台湾の魅力にも、知らず知らずの内に捉えられているという力作長篇。お薦めです。 ※日本と台湾の関係を考える上で、酒井充子「台湾人生」がとても参考になっています。併せてお薦めです。 2000年逆転/2001年着工/2002年700系T/2003年レール/2004年陸揚げ/2005年試運転/2006年開通式典/2007年春節 |
15. | |
「愛に乱暴」 ★★☆ |
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2018年01月
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「愛に乱暴」・・・って、何と不思議な題名でしょうか。その意味はどこにあるのか、そんな気持ちで読み始めました。 まず、不倫側の女性の日記、そして初瀬桃子という女性とその夫=真守の現在ストーリィ、さらにその桃子の日記、という3つの組み合わせが各章で繰り返されるという構成。 だらしない、自分勝手な男に振り回される不倫相手の女性、現妻各々の胸の内を描いたストーリィと思ったのですが・・・。 夫に不倫が明らかになってからの桃子の行動が、怖い。 桃子について敢えて言うなら、不倫を打ち明けた後自分の妻がどういう行動に出るのかまるで予想つかず、不安なままにその様子見ている、そんな先にある妻の姿、というように感じます。 妻がチェーンソーを買ったなどというのは・・・・。 ところが中盤、あるひと言から、突如足元の床を外されたような思いをさせられました。それから後はもう一気の展開。まるでグリムウッド「リプレイ」を読んだ時のような、加速度のついたスリリングさに圧倒されるばかり。 “愛”とは何なのか、“夫婦の愛”とは何だったのか。 結局読了後に残った思いは、人の居場所はどうやったら得られるものなのか、ということ。それは与えられるものではなく、自分の心構え次第、と思うのです。 サスペンス小説以上にスリリングで、驚愕する作品。お薦め! |
※映画化 →「愛に乱暴」
16. | |
「怒 り」 ★★ |
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2016年01月
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八王子郊外の新興住宅地で起きた凶悪な夫婦殺害事件。その犯人は、山神一也という無職、27歳の男。現場には血文字で「怒」という言葉が書き残されていた。そしてそのまま山神は警察の手を逃れ、姿を晦ましてしまう。 その1年後、房総の港町で暮らす槙洋平・愛子の父娘の前に現れた「田代」という男。身元不明で何かの事情を抱えているらしいが、漁協で働く内いつしか愛子と親しくなっていく。 東京に住むゲイ青年=藤田優馬は、ゲイの溜まり場で拾った「直人」と名乗る青年に何とはなしに惹かれ、いつしか同棲する間柄となる。 男関係にだらしない母親のため福岡から沖縄の波留島に引っ越してきた高校生の小宮山泉は、同級生に連れて行ってもらった無人島で、キャンプ生活をしている「田中」という男と知り合う。 凶悪な殺人事件、殺害動機は何だったのか、そして「怒」という文字の理由は何だったのか。その事情はまったく分からないまま、八王子署の刑事=北見壮介は山神を追い続けている。 TVで報道された山神の公開捜査に、いくつもの目撃情報が寄せられます。そうした中、3つの土地で身元を隠す3人の男と知り合った当事者たちは、山神の犯人像を知ってもしや山神なのでは?と疑うようになり・・・というストーリィ。 犯罪ミステリのようであって、本作品、本当にそうなのか。 3人の男の正体は? 当事者たちのみならず、読み手にとってもハラハラドキドキの展開で、不安な気持ちに煽られながらも先へ先へと頁を繰らずにはいられません。 そして最後に問われたのは、3人の身元不明者と知り合った当事者たちの気持ち。結局、相手を信じられるかどうかは、自分自身に対する自信の有り無し次第だったと思えます。 しかし、身元不明者をそう簡単に信用できないのは、むしろ当然でしょう。そして、信じたからといってその通りだったともまた言えません。 その意味では本作品、人間の心の奥底を暴き出す、苛烈な人間ドラマと思えます。 まずは読んでみてください。その後で本書をどう評価するかは、きっと、読んだ人それぞれでしょう。 |
17. | |
「森は知っている」 ★☆ |
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2017年08月
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石垣島の南西60kmの洋上に浮かぶ孤島=南蘭島。その島の轟集落に住む高校生の鷹野一彦と友人の柳勇次は、伸び伸びと暮しているという印象。 しかし、実はこの2人、密かに諜報活動訓練を受けている少年たちだった。そして高校卒業間近となった2人は、2人を育ててきた組織に従い35歳まで忠実な諜報員として生きるか、断って何の頼る術も持たずに生きるかの選択を迫られる時期を目の前にしていた。 何故2人がそんな運命を背負っているかというと、死んでも不思議ない過酷な状況にある身を組織によって救われたから。 どうも読み終えた傍から内容を忘れていくパターンに嵌っていてまるで思い出すことがなかったのですが、本書の主人公は、産業スパイを題材にしたハード・アクション「太陽は動かない」に登場した鷹野一彦の若き日の姿。 「太陽は動かない」から見ると、鷹野一彦の前日談ストーリィと言えるでしょう。 高校卒業前の束の間、同級となった菊池詩織との出会いから未来を夢見た鷹野が、どういう冒険体験をし、どう今後の生き方を選択するのか。本作品はそこに見処があるようです。 1.南蘭島/2.世界史/3.初恋/4.ライバル/5.一日だけなら/6.クリスマスパーティ/7.香港島の高級別邸/8.霧島連山の水源/9.星を描く少年/10.森林買収/11.俺のことを覚えててほしいんだ/12.裏切り/13.土色の濁流/14.氷の世界/15.壁の向こう/エピローグ |
※映画化 → 「太陽は動かない」
18. | |
「橋を渡る」 ★★ |
2019年02月
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最初の3篇ではまず、2014年の現代に暮らす3人の日常が描かれます。 「春−明良」の新宮明良はビール会社の営業課長。画廊を経営している妻の歩美は、画家志望の朝比奈達二に執拗に付きまとわれ気味悪さを感じているというのに・・・。 「夏−篤子」の赤岩篤子の夫=広貴は都会議員。女性都議にセクハラまがいの下劣なヤジを飛ばした犯人は夫ではないかと心配して、早く世間から忘れられて欲しいと焦慮している。 「秋−謙一郎」の里見謙一郎は、結婚を間近に控えている婚約者の薫子の最近の行動に不審なところを感じ・・・。 3篇のいずれも不穏な雰囲気が漂っています。 自分と異なる世間の動きに不安を感じていたり、不正に目をつぶろうとしていたり、婚約者との関係に亀裂が感じられたり、と。 「そして、冬」の篇はその70年後の未来。 人間の血液細胞から再生された“サイン”と呼ばれる人間と本来の人間が共存する世界。章題にある外村響、名波凛の2人はいずれもそのサインの男女ですが、2人の周囲には前3篇に登場した人物の孫らが生存しています。 前3篇を読んだだけではその意味が判りませんでしたが、4篇目を読むと、3篇の結果として4篇の世界があるということに気付かされます。 そこは、不穏ということはないにしろ、ひどく索漠とした未来社会。そしてそれは、3篇での登場人物たちが選んだ行動の結果であるようです。 一旦事実が作られてしまえば、やり直しなどできませんし、今更それを変えることなどできない、ということが示されます。 未来は現在から繋がる結果であり、現代人の行動が未来を作り上げていくのだという事実を本書は告げています。 現代に生きる我々一人一人の行動が、未来を左右していくのだということへの自覚、注意を促すストーリィ。 本書を読了した時には、いい加減に生きていくことなどできない、未来のために真剣に生きなくては、という気持ちにさせられます。 春−明良:橋を渡る/下町に夕立つ/夏を踏む 夏−篤子:願いごと叶うべし/男たちの言葉涼し/不感の湯につかる 秋−謙一郎:快哉を叫ぶ/太鼓に乱れる/鬼がくる そして、冬−響/凛/橋 エピローグ |
19. | |
「犯罪小説集 A Collection of Crime Stories」 ★★ |
2018年11月
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何故犯罪は起きるのか、何故人は罪を犯すのか。 犯罪を起こした本人、本人をしてそういう道に追い込んだ周囲の人々を主体に、犯罪の起きるプロセスを問い詰めた5篇。 という訳で“犯罪小説集”なのでしょう。 ・「青田Y字路」は少女失踪事件。 ・「曼珠姫午睡」は元同級生が実行した保険金殺人。 ・「百家楽餓鬼」は大手運輸業者の跡取りが抜け出せなくなった賭博(実際のニュースでも似た事件がありましたが)。 ・「万屋善次郎」は村八分が引き起こした惨殺事件。 ・「白球白蛇伝」は元プロ野球が抱えた借金地獄とその結果としての事件。 犯罪はそれを起した人間の問題か。いや、周囲がそうした状況を作ってしまったのではないか。 それでもなお、普通であれば人間にはそこで自分を引き止めるものがあるのではないか。 事件の悲哀を深く感じさせられると同時に、犯罪が起きたプロセスについていろいろと考えさせられる一冊。 5篇の中でもっとも印象的なのは「万屋善次郎」の篇。余りに辛い結末です。そして、主人公を慕って止まない2匹の犬の姿が胸を打ちます。 なお、ストーリィがストーリィだけに、決して楽しいものではありませんし、割り切れないことも多い。本書を肯定するかどうかは読む人の好み次第になろうかと思います。 青田Y字路/曼珠姫午睡/百家楽餓鬼(ばからがき)/万屋善次郎/白球白蛇伝 |
※映画化 → 「楽園」
20. | |
「ウォーターゲーム WATER GAME」 ★★ |
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2020年08月
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「太陽は動かない」「森は知っている」に続く、AN通信の諜報員である鷹野一彦を主人公に据えた産業スパイものハード・アクション、第3弾。 爆破によるダムの決壊で、濁流が一気に川下の町を呑み込み、死者・行方不明者が 100人を超える大惨事が発生、というところから本作は始まります。 日本の水道事業の利権を狙うフランスの企業、それと手を組んだ与党大物政治家、国内大手企業という組み合わせに、その計画を阻止しようと例によって鷹野一彦、部下の田岡亮一が活動を急ぎます。 しかし、本ストーリィ、産業スパイの域を完全に超えている気がするなぁ。「産業スパイ」というより、国家機関ではない、民間のスパイ組織、と受け止めるべきなのでしょう。 スパイ同士、暗躍する大企業、大物政治家らがそれぞれ複雑に入り組んで、暗闘を繰り広げます。一転二転、誰と誰が味方になるのか、見定めることは困難、といった具合。 でもそのうち、なんとなくスパイたち同士が繋がり合い、依頼主側である政治家・企業と化かし合っている風が見えてくるところが、本作の面白さ。 そこにはプロたちらしいゲーム感覚と、自らの利益だけに目がくらんだ一派という、対照的な構図を感じます。 あまり好きなタイプのストーリィではないのだけれどなーと思いつつ、読み始めれば徐々に引き込まれ、最後はやっぱり面白かったと唸らされてしまう処に、さすが吉田修一さんらしい凄腕ぶりを見せられた思いです。 ※終盤での鷹野の奮闘、まさにトム・クルーズ並み。 1.母なる大河/2.産業スパイ組織/3.国際便利屋/4.謎の男/5.ゴーサイン/6.来るな! 戻れ!/7.朝焼けのアンコールワット/8.リー・ヨンソン/9.ブノンペンの夜/10.女たち/11.最高のカード/12.スクープ/13.南蘭島の森/14.焦れば、負け/15.ライバル/エピローグ |
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