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2.柳生雨月抄(文庫改題:柳生陰陽剣) 3.忍法さだめうつし 4.友を選ばば(文庫改題:友を選ばば柳生十兵衛) 5.柳生黙示録 6.砕かれざるもの 7.白村江 |
風と雅の帝 |
●「十兵衛両断」● ★★ |
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2005年10月
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柳生友景を主人公とした長篇もの「柳生雨月抄」を先に読んだ後だったので、最初こじんまりとした印象を受けたのですが、読み進んでみるとどうしてなかなかのもの。収録された5篇のいずれをとっても中篇並みの読み応えを備えています(短篇集と思い込んだことがそもそも誤りなのかもしれない)。 5篇の中では表題作の「十兵衛両断」が秀逸。 十兵衛両断/柳生外道剣/陰陽師・坂崎出羽守/太閤呪殺陣/剣法正宗溯源 |
●「柳生雨月抄」● ★★ |
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2008年10月
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伝奇小説と言えば山田風太郎、隆慶一郎が思い出されますが、本作品はスケールにおいて隆作品に近く、奇抜さという点では山田作品も凌ぐ、といった風です。 主人公は、柳生石舟斎の甥である柳生友景。 なお、本作品は如何にも映画向きです。時代劇、妖術、主人公のキャラクター、およそ全ての点において。 恨流/柳生逆風ノ太刀/第十一番花信風/八岐大蛇の大逆襲/妖説・韓柳剣/杏花の誓い、柳花の契り |
●「忍法さだめうつし」● ★☆ |
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2010年04月
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高麗軍が対馬、壱岐で繰り広げた島民虐殺、それへの報復として繰り返された倭寇。 「以蒙攻倭」は、元朝の使節団が北条時宗をいきなり襲うところから始まります。 日本史における外国との交流というと頭に浮かべてしまう相手はとかく中国なのですが、日本と朝鮮の間にこれ程濃密な関わり合いがあったのかと、頭にガツンと一撃!してくれる歴史小説。そこにこそ、本書を読む甲斐があるというもの。 そんな日朝の歴史にもかかわらず、明治の世に日本が朝鮮国を蹂躙するような侵略を行なった歴史に強い痛みを感じます。(※角田房子「閔妃暗殺」) 以蒙攻倭/忍法さだめうつし/怪異高麗亀趺/対馬はおれのもの |
●「友を選ばば」● ★☆ (文庫改題:友を選ばば柳生十兵衛) |
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2013年11月
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本書主人公は、何と「三銃士」のダルタニャン。 その謎の剣士が誰かいうと、家光から密命を受けて西欧社会にやってきた柳生十兵衛三厳。 後半の山場、ダルタニャン物語からいうととんでもない展開になってギョッとしますが、荒山ストーリィとすればいつものこと、そう驚くようなことではないと納得。 |
●「柳生黙示録 YAGYU APOCALYPSE」● ★☆ |
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山田風太郎系統の伝奇小説、と改めて感じる時代小説。 キリスタンとして国外追放となり東南アジアの地で死んだと伝えられていたジュスト高山右近が密かに日本に生還。しかも、キリシタン復権のための秘策“極東十字軍”計画を携えて。 伝奇小説らしい処といえば、柳生十兵衛とハポン騎士団剣士らとの闘い、森宗意軒らと十兵衛らとの闘いが挙げられますが、宣教師らを日本を征服しようと企む妖術師たちと位置づけた点が眼を引くところ。 十兵衛と肩を並べて宗意軒らと闘う富田流小太刀の遣い手=ヤスミナ姫がエキゾチックな魅力を本作品に与えている他、天草四郎時貞の正体は?という奇策もまさしく伝奇小説らしいところ。 |
6. | |
●「砕かれざるもの」● ★★ |
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関ヶ原後に八丈島へ流刑となった宇喜多秀家の孫である剣士=宇喜多秀景が活躍する長篇伝奇小説。 3代将軍となった家光、自分の権勢を示したいと企てたのが、加賀百万石=前田家の取り潰し。その先手となって動いたのが柳生十兵衛・友矩の兄弟。 本書の面白さは、次から次へと名だたる剣豪ら歴史上の実在人物が登場する点にあります。それはもうオールスタッフ勢揃いというくらいに豪華。 ※なお、加賀百万石を幕府から守るという“乾雲坤龍”の家宝。何やら隆慶一郎「吉原御免状」に似ているような。 1.孤島/2.乾坤/3.出帆/4.一乗/5.漂着/6.受洗/7.弥勒/8.亡霊/9.報復/10.越中/11.一命/12.決戦/大団円 |
7. | |
「白村江(はくそんこう」 ★★☆ |
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2020年01月
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“白村江”というと、日本の歴史の一頁にそんな歴史的事件があったなぁという程度の認識しかないのが正直なところ。 しかし、本作を読むと、朝鮮半島の国々と倭国(当時の日本)の深い関わり合い、その双方にとって激動の時代であったこと、そして日本にとっては大きな歴史的転換だったことを知ることができます。 そのうえ歴史教科書のような無味乾燥な記録ではなく、当時の主役たちが生身の人間として、活き活きと歴史上のドラマを演じているのですから、興奮するのはとう当然のこと。 伝奇小説のような面白さはありませんが、歴史ドラマの面白さが本作にはあります。 まず登場するのは、百済での王位継承争いから処刑される寸前だった百済王子の余豊璋。その王子を絶体絶命の危機から救ったのが、倭国へ帰国する途中だった蘇我入鹿。 その蘇我蝦夷と入鹿父子が抱く野望、それに対抗するのが葛城皇子と中臣連鎌子という顔ぶれで、その結果となる史実が“大化の改新”という次第。 律令制国家の確立を目指す葛城皇子の策謀が、その後の朝鮮半島3国(新羅・百済・高句麗)間の争いに関わるという展開になるのですから、朝鮮と日本の関りの深さに圧倒される思いです。 新羅王族で後に権力を握る金春秋。その金春秋に対し、倭国の実質最高権力者となった葛城皇子はどう対するのか。また、百済に対しては如何に。 そして、入鹿に連れられて倭国に渡り、倭国で育った豊璋王子の運命はどうなるのか。 各登場人物に対して個々の思いはいろいろありますが、歴史上の事件であった以上、運命がそれにより変わるというのはあり得ないこと。だからこそ、読了後の思いも深いものがあります。 ※本書の中でも改めて思いを強くするのは、葛城皇子(後の天智天皇)の非情さ、冷酷さ。 ふと、天智天皇と大海人皇子との兄弟争いを荒山さんならどう描くのだろうかと、是非読んでみたいと思いました。 1.開戦二十一年前/2.開戦二十年前/3.開戦十八年前/4.開戦十六年前/5.開戦三年前/6.開戦一年前/7.開戦/付録.各国王家略系図 |
8. | |
「秘伝・日本史解読術」 ★★ |
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伝奇小説作家の荒山さんが、日本史を理解するのには基礎トレーニングが欠かせないと、日本史を読み解く鍵となるポイントを、歴史小説の名作を交えてわかりやすく語った一冊。 新潮社の宣伝誌「波」に「歴史の極意・小説の奥義」という題名にて27年04月から翌年11月まで連載されたエッセイの新書化なので、私は連載時に一度読んでいますが、改めてまとめて読むと本書の面白さ、歴史を知る楽しさが改めて感じられます。 作家らしい大胆な取捨選択、そして歴史上の人物を語るのにその人物等を描いた歴史小説の紹介を以てする、というところが大きな魅力。 荒山さん曰く「歴史小説は、歴史を理解するのに有効なツール」なのだそうです。 そして冒頭から、そのツールが遺憾なく紹介されます。 ・縄文時代を語るなら・・・荻原 浩「二千七百の夏と冬」 ・邪馬台国時代なら・・・・帚木蓬生「日御子」 ・源平時代なら・・・・・・吉川英治「新・平家物語」 ・戦国時代なら・・・・・・津本 陽「夢のまた夢」 ・幕末なら・・・・・・・・司馬遼太郎「龍馬がゆく」、と。 元より小説好きですから、すんなり気分が乗っちゃいます。 それ以降も、歴史小説の紹介は、枚挙にいとまがありません。きっと、あれもこれもと読みたくなるに違いありません。 私も、連載時読んだ時に是非読もうと思った作品があるのですが、新刊書を読むのに忙しく未だ読むに至らず・・・・。 なお、最後の方で、日本と韓国との歴史的な関係、歴史観の違いについて言及されていますが、一興に値する意見だと思います。 小説的な面白さをもった、歴史解読の指南書と言える一冊。 是非、お薦め。 序章.「史観」を語る前にすべきこと/
1.「遺跡は人なり」と心得よ/2.秘伝・日本史収納整理術/3.古代史学は伝奇文学か/4.日本書紀を再評価せよ/5.史料は原文が面白い/6.超「仏教」入門(上)/7.超「仏教」入門(下)/8.遷都の裏に政教分離あり/9.藤原氏で知る系図の秘訣/10.時代の境目とは何か/11.日本史上の二大画期/12.二つの中国とモンゴルの侵略/13.「皇統」は誰が決めるのか/14.歴史は「応仁の乱」以後で十分か/15.歴史と地理は不可分なり/16.「太閤記もの」の読み方/17.世界史から捉える島原の乱/18.史的眼力を「忠臣蔵」で考える/19.近くの国より遠くのオランダ/20.小説を楽しむためのスキル/ 終章.歴史は「取り扱い注意」で |
9. | |
「神を統べる者−厩戸御子倭国追放篇−」 ★★ |
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2021年02月
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少年・厩戸御子(後の聖徳太子)を主人公とし、日本〜中国〜天竺(インド)にまで舞台を広げる、長大な歴史物語シリーズの幕あけの巻。 まず冒頭、厩戸御子はまだ7歳。しかし、既に百済語・漢語を自在に読み書きし、数多くの仏教経典を読んでいたばかりか全て諳んじているという、類まれな才能を発揮していた。 時代は崇仏派の蘇我馬子と、廃仏派の物部守屋が凌ぎを削っていた時代。その中で厩戸御子は、仏教の真実を知ろうとあらゆる仏教経典を読み漁っていた訳ですが、そんな厩戸御子の異能ぶりを危険視したのが現帝である敏達天皇。 仏教を敵視する敏達天皇は、伊勢神宮からの神託を理由に、厩戸御子の暗殺を謀ろうとします。 厩戸御子の才能に期待をかける物部守屋は、主張の差を超えて蘇我馬子と共闘し、厩戸御子を大和から脱出させます。 護衛を命じられて御子に同行するのは、守屋配下の女性剣士=柚蔓(ゆずる)と、馬子配下の剣士=虎杖(いたどり)。 想像力を発揮しての広大なストーリィとはいっても、荒山徹さんらしいのは、禍霊が登場したり、果てはゾンビまで登場。 とはいっても所詮本巻は、幕開けのストーリィ。 異能を発揮する厩戸御子に、男女2人の護衛剣士という組み合わせ。そして、日本古来の女神が登場するかと思えば、ゾンビまで登場。さらにインド人修行僧、道教の道士まで登場し、これからの破天荒な面白さを十分期待させてくれます。 いったいどれだけ長い物語になるのかと畏れつつも、今後の展開が楽しみです。 仏教の是非をいろいろな人物をして語らせているところも、十分面白いですし。 第一部 大和/第二部 筑紫/第三部 揚州 |
10. | |
「神を統べる者−覚醒ニルヴァーナ篇−」 ★★ |
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3巻からなる物語の第2巻。 冒頭は、前巻から続く、厩戸御子を拉致した九叙道士たちの呪力と、ヴァルディタム・ダッタ老師たち仏僧の法力との対決。 その対決が決着し、厩戸御子一行は目指す修業の地=インドのナーランダへと向かいます。 この辺りはインドネシア〜インドという船旅となり、興味は覚えるもののやや退屈。 ナーランダ寺院に着いて御子が修業に入ったことから、柚蔓と虎杖は一旦護衛の任を解かれますが、そこでの2人の対照的な行動に驚かされます。 ところが驚きはまだほんの序の口。その後、御子をナーランダまで導いたヴァルディタム・ダッタ老師、御子の指導僧となったシーラバドラが懸念していたことが現実化していきます。 はっきり言えば、現実化どころではありません。まさか厩戸御子の身の上にそんなことが起きるとは! それ後も、まさか、まさかの繰り返し、もう驚天動地という他なく、まるで谷底へ転がり落ちていくかのような展開。 まぁ物語にあっては、一旦底まで落ち、そこから再生するというパターンがあるからと、何とか気持ちを持ち応えました。 しかし、そこからの展開を、そんなところへ持っていくのか!とまた驚き。 いったい、仏陀の教える“悟り”とは何なのか。 荒山さんが解き明かす“仏陀の悟り”の真相には呆気にとられてしまいますが、“中道”という考え方に立てば、私にとっては得心のいくことでもあります。 本巻の最後で、ようやく厩戸御子の修業に目途がつき、・・・と思ったところでまた新たな危難が到来。興味は早くも第3巻へと引きずられます。 なお、聖徳太子を聖人君子として崇める人達からすると、本巻はとんでもなく、許し難いストーリィでしょうねぇ。 第三部 揚州(承前)/第四部 ナーランダ/第五部 タームラリプティ |
11. | |
「神を統べる者−上宮聖徳法王誕生篇−」 ★★☆ |
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過去2巻のストーリィを集約するような完結編。 それに相応して読み応え、興奮とも、たっぷりです。 第五部は前巻からの続き。トライローキャム教団に誘拐された厩戸御子は、その霊力を教団に利用され・・・。 しかしまぁ、巨大○○同士の激突なんて、「柳生雨月抄」でモスラ等が登場した時のことを思い出しました。 第七部は、ついに厩戸御子が柚蔓・虎杖と共に倭国へ帰国。 御子を迎えた蘇我馬子、物部守屋の前で、仏教の全てを知ったという厩戸御子が、仏教のありのままの姿を告げます。 してやったり顔の一方と、落胆の顔を隠せないもう一方。 その厩戸御子の決意、そして御子の実父である用明天皇崩御を経て、ついに仏教受容・仏教排斥をかけた物部守屋軍と蘇我馬子軍との激突が始まります。 一方、厩戸御子はまたしても・・・。 最後はまたもや仰天すべき結末ですが、ここまで来るともう何も恐くない、もう驚かない、という気持ちです。(苦笑) 壮大なストーリィを展開させる伝奇小説としての面白さの他にもう一つ、仏教論の語りがとても面白い。 まぁ判ってはいることですが、これだけ明晰に作中人物に言わせているところに、痛快な面白さがあります。 倭国から始まり、中国〜インド〜中国〜そして帰国という、壮大なスケールをもった伝奇小説。 御子、柚蔓、虎杖と一緒に、読み手もまた遥かな旅を今終えた気がします。 もっとも歴史に残された功績は、これから後のことなのですが。 第五部 タームラリプティ(承前)/第六部 隋/第七部 淤能碁呂島/終章 |