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 映蔵庫3 「丹青な庭」の画像です

 2003年3月21-23日に札幌市内のアトリエインディゴで「映蔵庫3」が行われた。フランス・リヨンのアジアンフイルム&カルチャーフェスティバル2002に正式出品された長沼里奈監督の最新作「丹青な庭」のほか、鄭有傑(チェン ヨウチェー)監督の「BABYFACE」と菊池 玄摩(きくち・はるま)監督の「tokyo missindustry」を観た。

 長沼監督の作品は「砂」「威風堂々」を観ていたが、「丹青な庭」(37分)は、飛躍的な完成度の高さをみせる。つくり込みの入念さも半端ではない。何よりも、映像に風格がある。古典的なテーマ性といい、とても20歳の作品とは思えない。早熟で素晴らしい出来だ。Sleepyによるエンディングテーマも、見事にマッチしていた。

 「BABYFACE」は、ゆったりとした映像の後に鮮やかなラストがやってくる。冒頭のシーンが、伏線であったことが分かって、思わずにやり。「tokyo missindustry」は、以前一度観ていたが、イラク戦争に突入した今見ると、また違ったリアリティを感じた。ひりひり。


 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン 「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。141分。配給=UIP。監督=スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)。脚本=ジェフ・ネイサンソン(Jeff Nathanson)。製作=スティーブン・スピルバーグ、ウォルター・F・パークス。製作総指揮=バリー・ケンプ、ローリー・マクドナルド、ミシェル・シェーン、トニー・ロマーノ。共同製作総指揮=ダニエル・ルビ。撮影=ヤヌス・カミンスキー,ASC。プロダクション・デザイナー=ジャニーニ・オッペウール。編集=マイケル・カーン。衣裳=メアリー・ゾフレス。音楽=ジョン・ウィリアムス。タイトル=カンツェル+ディガス。原作=フランク・W・アバグネイル、スタン・レディング。フランク・アバグネイル=レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)、カール・ハンラティ(FBI捜査官)=トム・ハンクス(Tom Hanks)、フランク・アバグネイルの父親=クリストファー・ウォーケン(Christopher Walken)、ロジャー・ストロング=マーティン・シーン(Martin Sheen)、ポーラ(フランク・アバグネイルの母)=ナタリー・バイ(Nathalie Baye)、ブレンダ・ストロング=エイミー・アダムス(Amy Adams)、シェリル・アン=ジェニファー・ガーナー(Jennifer Garner)


 最初の粋なクレジットタイトルから、1960年代の雰囲気を漂わせる。天才的な詐欺師の実話をもとにした、肩の力が抜けた娯楽作。両親の離婚を経験した多感な少年が家出し、生活のために小切手詐欺を思いつき、やがてパイロット、医師、弁護士になりすまし大金を手に入れる本格的な詐欺師へと成長していく。特権的職業に対する先入観を利用する手口は巧み。とくにマイアミから海外へと脱出するための演出は、拍手喝采したくなるほど見事。つかまった後は、警察の詐欺捜査に協力して出獄し、詐欺防止小切手を考案し金融機関から多額のお金をもらっている。最後まで、やるなあという感じ。後味が爽快だ。

 レオナルド・ディカプリオは、「ギャング・オブ・ニューヨーク」の熱演から一転して、茶めっけたっぷりの機知に長けた軽快な詐欺師を好演している。パイロット姿がかっこいい。トム・ハンクスは、地味なFBI捜査官を演じているが、ラストにかけてディカプリオと並ぶ存在感を見せ始める。さすがだ。主人公・フランクの父親役クリストファー・ウォーケンの貫禄ある演技も見物。この作品は、父と子の物語でもある。その分、やや女性陣が精彩を欠く。


 夜を賭けて 「夜を賭けて」の画像です

 2002年作品。日本・韓国合作。133分。配給=シネカノン。監督=金守珍(キム・スジン)。脚本=丸山昇一。原作=梁石日(NHK出版/幻冬舎文庫)。撮影=崔汀友。音楽=朴保(パクポウ)。美術=大塚聡。レコーディスト=中野明。照明=李錫煥。金義夫=山本太郎、新井初子=ユー・ヒョンギョン、高山健一=山田純大、金敬子=風吹ジュン、高山フネ=樹木希林、ヤン婆さん=李麗仙、ヨドギ婆さん=清川虹子、若林逸郎(刑事)=奥田瑛二、金村利正=六平直政、徳山春夫=大久保鷹、船田純希=不破万作、張礼子=山村美智、徐達司=金ウンス、鉄屑屋=油井昌由樹、中村豊作=唐十郎、田山静香=ERINN、フヌケ=田村泰二郎、宇恵順=渡会久美子、呉爺さん=小松啓二、申大起=申相祐、申万元=ウ・チョンハン、金孝史=石野慎一郎、伊藤純二=近竜弐吉、金聖哲=近藤一平、李美花=近藤結宥花、金明英=宮本大誠、李三元=平岡延安、徳山吉子=梶原ともみ、金山和男=鳥山昌克、金山年美=三浦伸子、金山信夫=青木雅大、黄洙南=ムンス、金田敬一=島野雅夫、申同基=原昇、小早川永三=平井健一、石岡保=本城丸裕、木村健郎=大貫誉、市場のおばちゃん=大和なでしこ、オカマの浮浪者=堀田誠、神代隆二=三松明人、石塚賢作=広嶋耕一郎、山下浩二=細田憲司、高正秀=勝矢秀人、康賛信=サイ・ホージン、姜敬信=堰守、朴仁敬=広島桂、李浩=金太一、辛光民=徐辰源、宋幸司=村尾英文、金正真=謝花喜天、文仁相=張吉秀、木下光信=福田浩久、玄東雨=右田隆、金康夫=小檜山洋一、高明順=李秀子、朴東次=吉本慎二、安愚昌=太田清伸、権俊治=山崎崇史、崔龍浩=桜井章、許映徹=松田浩一、尹順香=岩村和子、両栄華=沖中咲子、兪鎮言=松岡哲永、宋雄源=尹秀民、仲田等=水上竜士、井上幸男=澤出和弘


 1958年の日本。兵器工場跡に忍び込んで鉄くずを運び出し、それで生活するタフな集団が、警察につぶされるまでを描く。エネルギーに満ちあふれた活劇。こんなに脂ぎった作品は、本当に久しぶり。1970年代の日本映画の熱気を思い出した。在日韓国・朝鮮人問題が、正面から取り上げられている。今さら、この時代を描かなくても良いと言う人もいるだろうが、近年の日本の状況を見ていると、もう一度戦後に思いをめぐらせた方がよいと思う。そういう意味では、極めて今日的な作品だ。

 俳優たちは、共同生活をしながら撮影に取り組んだ。山本太郎のハイテンションぶりは痛快。李麗仙、六平直政、樹木希林、清虹子、唐十郎、風吹ジュン、奥田瑛二らのベテランが、作品に厚みを持たせる。とりわけ、この作品が遺作となってしまった清川虹子の熱演が、心に残った。


 戦場のピアニスト 「戦場のピアニスト」の画像です

 2002年作品。ポーランド・フランス合作。148分。配給=アミューズピクチャーズ。監督=ロマン・ポランスキー。製作総指揮=ダニエル・シャンパニョン。製作=ロマン・ポランスキー、ロベール・ベンソッサ、アラン・サルド。脚本=ロナルド・ハーウッド。原作=ウワディスワフ・シュビルマン。音楽=ヴォイチェフ・キラール。ピアノ・ソロ=ヤーノシュ・オレイニチャク。オーケストラ指揮=タデウシュウ・ストルガラ。プロダクション・デザイン=アラン・スタルスキ。衣装デザイン=アンナ・シェパード。撮影=パヴェル・エデルマン。編集監督=エルヴェ・ド・リューズ。美術監督=ニーナ・ペクール。ウワディスワフ・シュピルマン=エイドリアン・ブロディ、ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉=トーマス・クリッチマン、父=フランク・フィンレイ、母=モーリン・リップマン、ドロタ=エミリア・フォックス、ヘンリク=エド・ストッパード、レギーナ=ジュリア・レイナー、ハリーナ=ジェシカ・ケイト・マイヤー、ヤニナ=ルース・プラット


 2002年度カンヌ国際映画祭パルムドール作品。母親を収容所で亡くし、幼いときクラクフのゲットーで過ごした経験を持つ68歳のポランスキー監督が、自らの実体験を下敷きにしながら、ポーランドの名ピアニスト・シュピルマンの回想録もとに、ナチスの支配、殺りくを生き延びたピアニストの奇跡の生存を描く。無慈悲な虐殺が次々と繰り返されるが、カメラは人々の姿を静かに見つめ続ける。虐殺からも抵抗運動からも距離を置いた映像。その抑制が、多くのホロコースト映画とは違ったリアリティを生んでいる。

 シュピルマンは、名ピアニストであったこともあり、多くの人たちに助けられ、最後にはドイツ人将校にまで救われる。しかし、シュピルマンは極めて例外的に幸運だったというだけだ。戦争の中でも変わらない音楽の力、特権性を浮かび上がらせていると理解するのは誤りだろう。戦争と音楽の関係は、それほど単純なものではない。だから、ナチス将校にショパンを弾いてみせる場面やラストのコンサートシーンには、感動できない。


 ボウリング・フォー・コロンバイン 「ボウリング・フォー・コロンバイン」の画像です

 2002 年作品。カナダ映画。120分。配給=ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ。監督・脚本・出演=マイケル・ムーア。出演=チャールトン・ヘストン、マリリン・マンソン、マット・ストーン、ジョージ・W・ブッシュ。


 最高に面白く、それでいてアメリカの現在を鋭く分析したドキュメンタリーの傑作。マイケル・ムーアのジャーナリストとしての本領発揮だ。1999年4月20日にアメリカのコロラド州リトルトンのコロンバイン高校で、男子生徒二人が銃を乱射し多数の死傷者を出した事件を皮切りに、アメリカの銃による殺人事件が異常多い原因を探っていく。これまでは漠然と「アメリカには銃がたくさんあるから」だと思っていたが、同じように銃がまんえんしているカナダで殺人事件が少ないという事実を明らかにし、別な要因探しが始まる。カナダ人が家にカギをかけないという事実には驚いた。

 そして、管理主義教育の問題、マスコミの犯罪偏向報道などが取り上げられ、恐怖が日常化しているアメリカの雰囲気が意図的につくりあげられているという分析につながっていく。恐怖心を煽ることで消費を加速させ、国家としての統合を図る構造。それは経済政策であり、政治戦略だといえる。全米ライフル協会会長のチャールトン・ヘストンをへこませたり、銃被害者がKマート本部と掛け合って弾丸の販売をやめさせたりする後半の痛快な展開よりも、この指摘は重要だ。同時多発テロ以降のアメリカの冷静さを欠いた動向をも予測した卓見である。


 ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔 「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」の画像です

 2002年作品。アメリカ映画。179分。配給=日本ヘラルド映画、松竹。監督=ピーター・ジャクソン。脚本=フラン・ウォルシュ、フィリッパ・ボウエン、スティーブン・シンクレア、ピーター・ジャクソン。原作=J・R・R・トールキン。製作=バリー・M.オズボーン、フラン・ウォルシュ、ピーター・ジャクソン製作総指揮=マーク・オーデスキー、ボブ・ワインスタイン、ハーヴェイ・ワインスタイン、ロバート・シェイ、マイケル・リン。撮影=アンドリュー・レスニー。美術=グラント・メイジャー。共同製作=リック・ポーラス、ジェイミー・セルカーク。衣裳=ナイラ・ディクソン、リチャード・テイラー。音楽=ハワード・ショア。スペシャル・メイクアップ、クリーチャー、アーマー、ミニチュア=リチャード・テイラー。コンセプチュアル・デザイナー=アラン・リー、ジョン・ハウ。フロド=イライジャ・ウッド、ガンダルフ=イアン・マッケラン、アルウェン=リヴ・タイラー、アラゴルン=ヴィゴ・モーテンセン、サム=ショーン・アスティン、ガラドリエル=ケイト・ブランシェット、ギムリ=ジョン・リス=デイヴィス、セオデン=バーナード・ヒル、サルマン=クリストファー・リー、ピピン=ビリー・ボイド、メリー=ドミニク・モナハン、レゴラス=オーランド・ブルーム、エルロンド=ヒューゴ・ウィービング、エオウィン=ミランダ・オットー、ファラミア=デヴィッド・ウェンハム、蛇の舌(グリマ)=ブラッド・ドゥーリフ、ゴラム=アンディ・サーキス、エオメル=カール・アーバン、ハルディア=クレイグ・パーカー


 「ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔」は、期待以上の出来栄だった。「ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間」をはるかに凌ぐ水準の高さに、震えが来た。壮大な自然の中で繰り広げられるスリリングで緻密なストーリー。3時間があっという間に過ぎていった。明と暗、大と小のバランスが良い。目がくらむような俯瞰シーンから、小さな子供のおびえた表情まで、監督のまなざしは広く深い。膨大なセットとエキストラを用意し最新のCG技術を駆使しているのに、ミニチュアを駆使した手作り感がある。血なまぐさい戦闘シーンに満ちているのに、透明な崇高感がある。不思議な魅力に満ちた作品だ。

 登場人物も、さらに生き生きと個性を発揮している。フロド役のイライジャ・ウッドが、こんなに素晴らしい熱演を見せてくれるとは。指輪の邪悪な力に影響されながら、必死で踏み止まろうとする姿。前作での控えめな演技は、今回のための伏線だったのかもしれない。アラゴルンを演じるヴィゴ・モーテンセンの精悍さには、ますます磨きがかかった。ガンダルフ役イアン・マッケランの神々しい演技にもみとれた。CGで描かれたゴラムは、最初は場違いな印象を受けたが、次第に物語に溶け込み、解離性障害に陥るほどに苦しむシーンでは名演技を見せる。


 
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