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アフガン・アルファベット | ![]() |
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2002年作品。イラン映画。46分。配給=オフィスサンマルサン。監督・脚本・撮影=モフセン・マフマルバフ。音楽=モハマド・レザ・ダルビシ。
アフガニスタンの子供たちの「宗教への絶対的な服従」「世界に対する無知」を取り除こうとする監督の善意は、良く分かる。しかし、強制や文化の否定は「教育」ではない。子供の人権が尊重され、子供たちが自ら生き方を選択できる力をつけるのが、教育の目的だろう。監督にとってブルカは女性差別や抑圧の象徴なので、それを無理に脱がせることが子供たちのためになると信じて疑わない。かつて日本でも着物を脱いで洋服を着れば差別がなくなるという主張があったことを思い出した。西洋的な価値観を絶対化し、地域の文化を否定することからは、「未来」は生まれない。マフマルバフ監督は、自分が西洋的な価値観というブルカをまとっていることに気づいていない。
マフマルバフ監督の教育にかける熱い思いが伝わってくるからこそ、この作品の展開を肯定的に評価することはできない。多文化主義や人権尊重を示し、作品の主張の誤りを指摘することが、アフガニスタンの未来にとって有意義だと思う。日本の教育の限界や誤りも示しながら。
オースティン・パワーズ・ゴールドメンバー | ![]() |
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2002年作品。アメリカ映画。93分。ギャガ・ヒューマックス共同配給。製作=ジョン・リヨンズ、マイク・マイヤーズ。製作=エリック・マクリード、スザンヌ・トッド、ジェニファー・トッド。共同製作=グレッグ・テイラー。監督=ジェイ・ローチ。脚本=マイク・マイヤーズ、マイケル・マクリース。撮影=ピーター・デミング。編集=ジョン・ポール、グレッグ・ヘイデン。美術=ラスティ・スミス。衣裳=ディーナ・アッペル。音楽=ジョージ・S・クリントン、クインシー・ジョーンズ。ミュージック・スーパーバイザー=ジョン・ハリホン。振付=マルゲリート・デリックス。スタント・コーディネーター=ジャック・ジル。オースティン・パワーズ=マイク・マイヤーズ、ドクター・イーブル=マイク・マイヤーズ、ファット・バスター=マイク・マイヤーズ、ゴールドメンバー=マイク・マイヤーズ、フォクシー・クレオパトラ=ビヨンセ、ベイジル・エクスポジション=マイケル・ヨーク、ナンバー2=ロバート・ワグナー、ナンバー3=フレッド・サヴェージ、スコット・イーブル=セス・グリーン、フラウ・ファルビッシナ=ミンディー・スターリング、ミニ・ミー=ヴァーン・トロイヤー、ミニ・オーステイン=ヴァーン・トロイヤー、ロボト社長=ノブ・マツヒサ
おバカで華やかでHな展開。そして、荒唐無稽なコメディに隠された現代へのシニカルな批評。今回の「オースティン・パワーズ」には、とりわけハリウッド映画に対する辛らつな視線が感じられる。唐突に日本を登場させたのも、大きな映画市場である日本をことさら取り上げるハリウッド映画界への皮肉なのだろう。実際の大スターたちが登場するので、ミイラ取りがミイラになるかもしれないギリギリの作品だと言える。連発されるきわどい下ネタよりも危険な毒だ。とはいっても、基本はナンセンスなギャグ。中盤の影絵ギャグは抱腹絶倒間違いなし。文句なく楽しめる。ただ、ヒロイン役のビヨンセのセクシーさが、あまり生かされていなかったのは残念。
es[エス] | ![]() |
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2001年作品。ドイツ映画。119分。配給=ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ。監督=オリバー・ヒルツェヴィゲル。脚本=マリオ・ジョルダーノ。撮影=ライナー・クラウスマン。美術=ウリ・ハニッシュ。タレク(囚人番号77)=モーリッツ・プライプトライ、シュタインホフ(囚人番号38)=クリスティアン・ベッケル、シュッテ(囚人番号82)=オリバー・ストコフスキー、ベルス(看守)=ユストゥス・フォン・ドーナニー、エッカート(看守)=ティモ・ディールケス、カンプス(看守)=ニッキ・フォン・テンペルホフ、ボッシュ(看守)=アントアーヌ・モノ、トーレ教授=エドガー・ゼルゲ、ユッタ・グリム博士=アンドレア・サヴァツキー、ドラ=マレン・エッゲルト
心理実験の前に置かれた少しばかり風変わりな恋愛劇。観客は、何故にこんな物語が必要なのかといぶかしがりながら、実験の始まりを待つ。この焦らし。そして、「看守役」と「囚人役」に分かれたグループが、想像を超えた行動を取り始める。暴走を始める「看守役」、精神を病み始める「囚人役」。研究者の功名心、記者の意図的な煽り、スパイとして参加した軍人の戸惑い。巧みな脚本によって、物語はサイコムービーの高みに達する。そして、作品全体が、観客の反応を図る心理実験であるかのような皮肉な視線が感じられるのも魅力的。
作品を観ていて、つくづく人間の弱さを感じた。危機を乗り越えて行く一部の人間たちではなく、状況によって容易く人格が変わる人間たちの姿こそ、注目すべきだ。私たちの智恵は、人間の弱さを知った上で、その弱さによる暴走が起きない仕組みをつくることだろう。民主主義や人権や平和のための仕組みとは、そういうものだろうと思う。
ピンポン | ![]() |
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2002年作品。日本映画。114分。配給=アスミックエース。監督=曽利文彦。エグゼクティヴ・プロデューサー=椎名保。プロデューサー=小川真司、鈴木早苗、井上文雄。原作=松本大洋「ピンポン」(小学館「ビッグコミックスピリッツ」刊)。脚本=宮藤官九郎。撮影=佐光朗。照明=渡邊孝一。美術=金勝浩一。録音=山田均。VE=岡田雅宏。編集=上野総一。VFX=曽利文彦。音楽プロデューサー=二見裕志。星野裕/ペコ=窪塚洋介、月本誠/スマイル=ARATA、孔文革/チャイナ=サム・リー、風間竜一/ドラゴン=中村獅童、佐久間学/アクマ=大倉孝二、オババ=夏木マリ、小泉=竹中直人
クライマックスを、前年の覇者ドラゴンとぺコの準決勝に置いた脚本は、なかなか粋だ。ぺコとスマイルの決勝戦は、結果が見えているのだから、さりげない記念写真で十分。そして、卓球の試合を迫力あるものにしているのがピンポン球の優れたCG。これも映画におけるCGの王道だろう。
前向きながら珍妙なペコを窪塚洋介が大胆に演じている。そしてスマイル役ARATAの繊細な演技が静かな存在感を放つ。歌舞伎界の中村獅童は、映画初出演ながら圧倒的な迫力で、場面を盛り上げていた。オババ役の夏木マリは、年期の入った演技で良い味を出している。竹中直人も、派手なアクションを控え、好演していた。
イン・ザ・ベッドルーム | ![]() |
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2001年作品。アメリカ映画。130分。配給=UIP映画。監督=トッド・フィールド。製作=グラハム・リーダー、ロス・ケイツ、トッド・フィールド。原作=アンドレ・デュバス。脚色=ロブ・フェスティンガー、トッド・フィールド。製作総指揮=テッド・ホープ、ジョン・ペノッティ。共同製作=ティム・ウィリアムズ。共同製作総指揮=ステファン・デンビッツァー、ペン・シーレ。撮影=アントニオ・カルバーチェ。編集=フランク・レイノルズ。音楽=トーマス・ニューマン。衣裳=メリッサ・エコノミー。キャスティング=ランディ・ヒラーC.S.A.、ベリンダ・モンテ。マット=トム・ウィルキンソン、ルース=シシー・スペイセク、フランク=ニック・スタール、ナタリー=マリサ・トメイ、リチャード=ウィリアム・マポーザー、マーラ=カレン・アレン、ウィリス=ウィリアム・ワイズ、ケイティ=セリア・ウェストン
初監督作品としては、確かに良くできている。しかし、私が一番嫌いなタイプの作品だ。監督は中立を装いつつ、一方的な見方を押し付けてくる。夫婦の怒りからしか世界を見ていない。犯人のリチャードは、人間として描かれていない。夫婦の怒りを前面に打ち出し、犯人への復讐や報復を正当化するような展開に、ごう慢さを感じた。リチャードにも缶詰工場を経営する両親がいるのだ。息子を殺される苦しさは同じではないか。
月のひつじ | ![]() |
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2000年作品。オーストラリア映画。102分。配給=日本ヘラルド映画。監督=ロブ・シッチ。脚本・製作=サント・シラウロ、トム・グレイスナー、ジェーン・ケネディ、ロブ・シッチ。製作=マイケル・ヒーシュ。ライン・プロデューサー=デボラ・コエイト。編集=ジル・ビルコック。音楽=エドモンド・コイ。演奏=メルボルン・シンフォニー・オーケストラ。セカンド・ユニット・ディレクター=サント・シラウロ。クリフ・バクストン=サム・ニ一ル、ロス・“ミッチ”・ミッチェル=ケヴィン・ハリントン、グレン・ラサム=トム・ロング、アル・バーネット=パトリック・ウォーバートン、メイ・マツキンタイアー=ジェネヴィーヴ・モーイ、ルディ・ケラーマン=ティラー・ケイン、オーストラリア大統領=ビル・ブラウン、ボブ・マッキンタイアー=ロイ・ビリング、レン・パーヴィス=アンドリュー・S.・ギルバート、マリー・マッキンタイアー=レンカ・クリパック、キ一ス・モリソン=マシュー・ムーア、ジャニー・ケラーマン=エリザ・ゾニート、アメリカ大使=ジョン・マクマーティン、ビリー・マッキンタイアー=カール・スニール
最初から、実話であることを告げ、ごちゃごちゃと解説が続き、打ち上げのフイルムが流れる。まるで、ドキュメンタリーだ。こういう作品は、フィクションのように見せて最後に実話であることを示した方がいい。ストーリーの進め方も、ぎこちない。登場人物の内面に迫るわけでもなく、ドラマチックな演出をするわけでもない。強風の中で、危険をおかして映像を送る場面も、もっと感動的に描けたはずだ。そして、人間が月に立った意味を、30年後にさりげなく示す工夫もほしい。税金の無駄遣いと言われたが、武器をつくるよりもずっといい。夢があった。そして、月から地球を眺めるという体験は、その後のエコロジカルな活動に大きな影響を与えたと思う。最近は、そのことすら、忘れられようとしているが。
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