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【IRIS(RQMS)】-2 IRIS認証への対応(RAM書類の準備)

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IRISの苦労

RAM書類の準備

要求事項の概要

IRISの要求事項であるISO/TS22163(RQMS)は、ISO 9001:2015の本文全文(枠囲みされている)に付け加える形で鉄道セクターの要求が書かれた構造になっています。ISO 9001より減った項目はありません。

ISO 9001に対応していないメーカーさんは非常に少ないため、問題になるのは、ISO9001に追加になっている部分、その中でも以下のもののようです。

  • 安全関連製品では、設計・開発プロセスにおいてIEC 62425又はこれに準じるセーフティケースを要求すること。[箇条8.3.1.1]]
  • RAM / LCC 活動を管理するプロセス、適用する規格の特定[箇条8.8][箇条8.2.2.1]

このようにRQMS上では、IEC 62278(RAMS)又は同等(equivalent)な規格と書かれてはいますが、RAMSの活動を前提にした要求事項に対応することが求められています。これについて詳しくみてみます。

RAM及びLCCへの対応

上記枠囲みにある「LCC」とは、主に鉄道車両に対して要求される傾向が強い書類で、「LCC見積書」により、イニシャルコストに保守費をあらかじめ定めた手法で算出して提出するものです。海外案件では保守を含めた契約により調達をすることが多いため、イニシャルコストは安いが、メンテナンスが高くつく、ということを避けるためのものと考えられます。

一方、日本では鉄道車両に対してLCCの提出を求められることはかなり希なので、そもそも顧客から要求されていないことに対してRQMSで要求されているため、適用を免除する合理的な理由となり得ます

ただし、その理由は記録する必要がありますし、自社の都合ではなく、顧客や関係者の要求や満足度に影響がないことは合理的に説明できることが必須です。ISO9001:2015 の4.3や附属書A.4を参照ください。

具体的に立証すべきかはケースバイケースですが、顧客からクレームが来ていないことの立証、LCCが問題にならない契約形態になっていることの立証などが考えられるでしょう。

製品の特質によって合理的に対応すべきことは、ISO9001の解説本(箇条4.3)にでています。RQMSでは、箇条4.3.1の注釈に書かれています。
  この例としては、1点モノの大型製品でしたら、メーカーは故障品を顧客に引き渡さないことに全力を挙げなければ顧客の要望に応えられないでしょうけれど、毎週100万個生産するような製品でしたら、工場内で故障品の検出に全力を挙げるよりも、顧客の手に渡った故障品を迅速に交換する対応をする方が合理的ですので、「故障検出プロセスが取られていない」からといって不適合にはなりません。つまり、「対応しない」という対応をすることを決めているので、PDCA上問題がないことになります(立証は必要です)。この場合もケースバイケースではありますが、顧客からクレームが無いことや、そのような対応をすることを決めていることを立証する等の方法が考えられます。

要求事項にある項目であっても行わないことが合理的な活動でしたら、その合理性の説明して適用除外とすることや、要求事項の一部を減らせることが選択肢にあることは忘れないことが重要ではないかと思います。


その他、LCC以外のRAMSと同じことが書かれている書類は、RAMSにおいて作成する書類が該当し、実際にRAMSが要求された個別案件を使って立証することが行われているようです。

ただ、RAMSとRQMSの要求事項には差異があるため、RAMSの書類だけでは説明しきれません。RAMSは製品ライフサイクルの段階毎に徐々に検討を深めるため、書類の内容は徐々に改訂され深度化していきます。

 一方、RQMSでは段階毎に分かれていませんので、顧客へ引き渡し後に行うべき活動も含まれています。いわゆるPDCAのチェックとアクションに当たるものは、RAMSでは引き渡し後の活動(引き渡し後ですから、この業務については普通は必要とされない)ですが、RQMSでは箇条8.8に含まれているため、顧客からのデータをフィードバックし改善している活動は、RAMSのために作った個別案件の書類(※一般的に、計画(P)−実行(D)が主体)だけでは説明できないであろう点に注意が必要です。

顧客からのクレームの把握と改善はISO9001でも必要な活動(のハズ)ですので大概は難しくないと思うのですが、ISO9001業務のメッシュと、鉄道製品部門の業務との間にギャップがある場合には注意が必要です。