TRAVELL DIARY / AFRICA 5-3 SENEGAL / MALI [3]
■■■ ゴレ島 ■■■ 5月9日(日)
今日は日曜日とあって交通量が少なく、街はずいぶんと静かだ。マーケットも休みのところが多いと思い、博物館を見学した後、ゴレ島へ。ここは一度訪れてみたかった。
定期船に乗り30分ほどで到着。街中とは逆に日曜日のゴレは観光客などで賑わっている。奴隷の積み出基地という暗い歴史を忘れさせてしまいそうな美しい島だ。白人が植民化したカリブの島々あるいはカナリア諸島を連想させる(行ったことはないけれど)家並み。ミュージシャンが多いと聞くが、それも納得。しかしこれだけ土地が狭いと著名人が住むような大きな家は建てられないことだろう。
島内を一巡りした最後に海洋博物館へ。新大陸へ送られる黒人達を一時収容する部屋が並ぶ。単なる裂け目でしかない窓から海を窺うが外の様子は分からない。
そして積み出し口。この小さなアフリカからの出口が、アメリカの黒人音楽という巨大な存在と結びついている。長い奴隷の歴史に思いを馳せるとともに、そのような感慨も浮かぶ。
■ しばらくしてから波止場の横で昼食をとっていると、ラジオからユッスーのライブが聞こえてきた。聞き覚えのない音だ。一体どこでのライブ録音なのだろうか?
ともかく今夜のライブが待ち遠しい。■■■ YOUSSOU N'DOUR LIVE ■■■ 念のためチョサンに電話し開演時刻を問い合わせると23時だと言う。さすがに明日は月曜日、通常よりも開演が早いらしい。
ところがチョサンに到着してみるとまだ店のシャッターが降りている。窓口でチケットだけは買えたので、ライブのあることは確実。どうやら開演時刻を尋ねたのに開店時刻を伝えられたようだ。なかなか鍵の外れなかったシャッターが上がりようやく中に入る。入り口の左手ではJOLOLIのカセットを並べている。奥へ進む、結構な広さだ。何故かススキノのクラブを思い起こしてしまった。経営権が移る以前はそのような店だったのかもしれない。
そんなことより、まず目立つのがセキュリティーの厳重さだ。筋肉の固まりのような大男たちが歩き廻っている。内部で多少の行動の自由を許してもらえるよう、開店前からガードの何人かとコミュニケートしていたのだが、そんな懐柔策などまるで通用しない雰囲気を感じる。
案の定、カメラを入れたバッグはすぐに取り上げられた。
「写真撮影は不許可、スリも多いのでバッグは預からせてもらう、取材申請は1週間前までに×××-××××の番号に電話してくれ。」
「はい、わかりました。」
ライブがスタートして思ったが、確かに満足な写真など撮れる状況ではなかった。■ 0時を回る。当分ユッスーたちは現れそうにないため、1本500CFAフランのトニックウォーターで時間す潰す。
1時、バンドのメンバーがだらだらと登場、おのおの喰わえタバコで楽器を鳴らす。なんてひどい音なんだ。恐らく楽器は置きっぱなしなのだろう。キーボードなど満足な音が出ない状態だ。そう思っているうちサウンド・チェックがてら、曲の演奏に移る。
1曲目はインスト(曲名が出てこない)。2曲目から歌入りとなる。もちろん前座の歌手で、ひとり1曲交代で何人か登場した。2時近くに、また歌手が交代した。今度はどんな奴かとステージを見つめると、それがユッスーだった。店内はすでにすでに超満員、客は500人をはるかに超えていた(身なりの整った若者が多い)。一体ここには何人入るのだろう。
ここでバンドメンバーを確認する。GTRが2人、BASS、KEYBOARDが2人、DR、PERCが2人、TAMA、SAX、CHOが2人、それにユッスーのボーカルが加わる。合計13人の編成だった。
ユッスーはブルージーンズに紺のダンガリーというラフな服装。ほとんど全く踊らず、MCなども一切ない。ただ終止ニコニコしている。本当にすてきな笑顔だ。これまではユッスーを取り上げた記事で度々彼の笑顔について触れているのを読んでも、音楽とはほとんど関係ない思い入れに過ぎないと感じていた。しかし、これだけ間近で見ると、どうしてこんな素敵な笑顔で笑えるのかという全く同じ感想が生じる。
■ 2時間10分のステージで計11曲。半分がニューアルバムからだった。
日頃CDでばかり、彼等の音楽に接していると、どうしても"SET"や"SINEBAR"のような聞きごたえのある選曲を期待してしまうが、ライブでは踊らせる音楽に徹していた。どの曲も前半は歌をしっかり聞かせ、後半は鋼のようなリズムで埋め尽くすという印象を受けた。
まずユッスーの声に全く衰えのないことに感動した。彼の声は単に美しい(とりわけ高音)ばかりでなく、説得力がさらに増したように思える。そしてちょっと予想外だったのがリズムの強調。曲の後半はひたすら同じリズムパターンを繰り返し、その上をタマが自由自在なアドリブを聞かせる。ドラム、ベース、それに2人のパーカッションによるリズムはこれでもかというくらい、単一パターンの反復で、その間はギターやキーボードの存在が感じられない。以前から音空間に隙き間を作ることが上手いバンドだという感想を持っていたがこの日の印象は全く正反対。音の隙き間がまるでない。
簡単に言うとアルバム"DIKKAAT"収録の"BES"や"YALLAAY DOGAL"の路線で、さらにパーカッション主体の重い音で空間を埋め付くしていた。ミックスバランスの問題か、ソロ楽器のコンディションの問題か、それともこうした音楽を意図的に作っているのか分からない。昔から地元でのライブはこのような音なのかもしれない。
初めのうちはやや退屈に感じられたが、次第に重厚な音に圧倒され出した(PAの音量もかなり出ていたが)。どの曲もこうした構成で、まるでリンガラのライブ・パターンの様だった。その間、ユッスーは肩を軽く左右に揺らしているだけなのに、とんでもないグルーヴ感を発散させていた。
曲としては、"BES"、"BIRIMA"、"ALALOU MBOOLO"などが特に印象的だった。
"BIRIMA"ではカセットで聞いていたのと全く同じ完璧なボイス・コントロールに感激。
ステージの締めくくりは"ALALOU MBOOLO"、とにかくこの1曲のパフォーマンスが最高だった。アレンジも言うことなく、ユッスーはこの曲で初めてダンスらしい動きを見せる。とは言っても左腕に目をやり腕時計を見るかのような動作と、やはり左腕を上下させる動作だけに過ぎないのに、実にカッコが良い。この時不思議に思ったのは、一部の客が帰り始めたことだ。何か終演が近い合図でもあったのだろうか。
そして4時5分終演、そのわずか数分後にはユッスーは裏口に横付けされていた車で消えてしまった。
■ ここ数年願い続けた夢の時間は過ぎた。
『凄いものを見せてもらった』そうした実感は確かにある。
しかし、自分が見て聞いて感じてきたものが一体何なのか、未だに判断できないでいる。これが彼等のベスト・パフォーマンスなのだろうか?そのような疑問も頭に浮かぶ。セネガルでのライブ体験はもちろん初めてな上に、彼等のライブを見るのも5年ぶり2度目に過ぎない。そのため十分な比較対象を持たず、判断のしようがないでいる。
今さら無理なことだが、ユッスーが世界に登場したころにライブを体験しておきたかった。
つくづくそう思う。■
CLUB THIOSANNE INFORMATION rue EHD Coulibaly ex Diel Diop TEL : 824-60-46 ダカールの郊外、街の中心から4kmほどのところにある、ユッスー所有の ライブ・ハウス。タクシーだと約15分、500〜1000CFAフランの 距離。深夜の帰路はその数倍。(ともに交渉次第で、終演時刻には大量に停 車しているため、流しの車を探す心配はない。) 事前にガイドブックで調べたところ、入場料は3000CFAフランと書か れていたが、この夜は2500CFAフランだった(約500円)。 ■
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