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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー =闇雷晶(やみらいしょう)〜』


                 第五旋承壁陣(だいごせんしょうへきじん)


                               たかさき はやと






 空は蒼くすんでいた。ジョルディーは歩みを止める。はるか先にあきらかに人工物の建物が見える。
「これでひと休みできるな」
「………」
 エルフィールはそれには答えず、歩(ほ)を進める。
 それはちょっとした距離にすぎなかった。ついた矢先、そこの村人はこう言った。
「よくぞいらっしゃいました」
 そう、エルフィールの腰よりも低い老人が言った。
「コロボックルの村へようこそ」
 若そうな小人がそう言う。
 ミニチュアのような街並がそこかしこをうめる。
「いらっしゃい」
 そして、冷たくそれでいて小人とは違う力強い声が二人を出迎えた。
「シャエ…」
 エルフィールの口から言葉が自然ともれる。
 街の一番奥にある小高い丘に軽そうな茶色の鎧と長い白い布を腰に巻き付けた黒い腰まである長髪の女が腰かけていた。小人ではない、大人のエルフの女性だった。
「おや、ヴィキール姉さんとは呼んでくれないのかい」
「知り合いか…いや、どうもジョルディーといいます、はじめまして」
 なにかが光った。ジョルディーがせきこみながら膝(ひざ)をつく。そうとう苦しそうだ。
「裏切り者エルフィール…今日で終わりだねえ」
 またなにかが光った。
 エルフィールは事前に両腕をクロスさせ防御姿勢をとっていた。それでもそのなにかに吹き飛ばされる。崩れる街。小さな材木の破片が、レンガの破片がそこここを埋める。エルフィールはなんとか体勢を立て直そうとこころみるが、その度に吹き飛ばされる。その度に吹き飛ぶ小さな街並み。
「そうやってアタシの攻撃を知っているがためにいたぶりながら死ぬことになる…アンタの相棒のように一撃でラクになればいいじゃないか」
 ジョルディーがふらふらと立ち上がる。
「アイツは雷撃(らいげき)使いだ…」
ーーーオマエは精霊のことをなにも知らないな…
ーーーそれじゃあ教えてくれよ。
ーーーつまり精霊とは…
「なるほど、オレがオトリになる……」
 エルフィールはズタボロになりながらも、なんのちゅうちょもなくシャエに向かって走りだす。いったいジョルディーになにができるのかも知らず、本能的に……
「消えな」
 光りがかがやいた。それはすべてジョルディーが地面に立てた剣にふりそそぐ。エルフィールが一気に距離をつめる。闇が生まれた。ヴィキールを包みこむ。
「そんな…こと…が……」
 倒れるシャエ…。
「なにをした…?」
 荒い息の中、やっとジョルディーにそう聞くエルフィール。
「昨日教わっただろ、精霊はある程度慣れた技術によってその動きを左右されるって…それをためしてみたんだ…」
−−−たったそれだけで…いきなり相手の雷撃を操ったと…? コイツが……。
「街の人は…?」
 心配そうにジョルディーが聞く。
「だいじょうぶ」
 ジョルディーの前に老人の小人がいた。
「シャエ様にすべて避難(ひなん)するように言われておりましての…」
 安堵(あんど)するジョルディー。
「神様があなたを守ってくれたんだよ」
 エルフィールの横に来た子供の小人がそう言う。
「バカじゃんあれはそんなんじゃないよ」
 そう他の子供の小人が言う。怒っておいかけっこになる二人。
「なんだ…!?」
 ジョルディーは戦いのせいか丘が地面ごと崩れるのを見た。亀裂が入り、シャエとエルフィールが闇に飲み込まれていく。雷撃のショックで動けないジョルディーの前で二人が消えた。


 水の音にゆっくりと頭を上げたエルフィール。そこは少しの光りがまわりをうすくてらす洞窟の中だった。砂地に小さな水の線が走り、流れていく。すぐ近くにシャエが横たわっている。その体は氷りはじめていた。
−−−ここにも封印(ふういん)のルールは機能しているのさ…
 エルフィールの心にじかに声が響いた。声のした先には壁一面の六角形の水晶の柱が大小無数に並んでいる。
「あなたはもしかして…スペンサー?」
 中は透きとおってないかなり大きな水晶がふるえた。
−−−ひさしぶりだねエルフィール……
「どうしてあなたが…!」
−−−ダリルの理想にぼくがやぶれたからさ。
「ダリル様はまちがっていない…! この魔法があったからこそ千年戦争は終わったのです…」
−−−ぼくも反対じゃないさ…正当防衛はともかく、積極的に争った者を勝つ負けるにかぎらず封印する封印の魔則(まそく)……ダリルは元気かい。
「ええ…でも、理想を達成されたあの方は誰とも合おうとなさらなくなって……誰もよせつけなくなってしまいました…」
−−−それじゃあ今、きみは不幸なんだね…?
「おーい! エルフィールゥだいじょうぶかぁあ!?」
ジョルディーの声が上から聞こえる。
「……いいえ、いまは幸福です…だいじょうぶジョルディー!!」
「…よかっ…た…!」 −−−彼が…ジョルディーが今のきみの生き甲斐(がい)だね…?
「よくわかりません……ダリル様の命令で殺そうとしてできなかった…」
−−−それで封印もされなかったのかエルフィール…きみは……
「それどころか精霊法が使えるようになりました…彼…ジョルディーの前にいると、わたしはなににも束縛されないのです」
−−−ジョルディーの夢はダリルをも超えるのかもしれないな……
「まさか…まさか、ありえません」
−−−そうか…そうだな…またなにかあったらここに来るといい。いつでも相談にのろう…
「ありがとう」


 エルフィールは、水の流れをたどると、ものの十分で外に出られた。エルフィールはあの子供の小人の前にいた。
「神様があなたにもよろしくって…」
 少年は赤面すると、元気よく駆け出していった。
「なあ、なにがあったんだ…?」
 ジョルディーがエルフィールに聞く。
「なにも…ない」
−−−あなた精霊法も使えないでダリル様のなんの役にたつっていうの!?
−−−………
 冷たい視線が子供のエルフや青年のエルフから向けられる。エルフィールは泣きながら走った。大人の男性にぶつかりそうになる。
−−−どうしたんだい?
 その人は中腰になると、なにも言わないエルフィールをそっと抱きしめる。エルフィールは泣いた。泣くだけ泣いた。その人の前で………
「さあ、出発だ!」
 エルフィールは駆け出す。
「お、おい、まってくれよエルフィールッ!」
 ジョルディーも走りだす。
 ふたりを太陽のかがやきが光りに変えた。まだ旅は続くのだった。









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