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翻訳などについて
ダークエレメンタラーシリーズはどの話数も
どの言語に訳すのにもこちら(鈴木憲ことたかさきはやと)の許可を必要といたしません。
ダークエレメンタラーシリーズはどの話数も
紙をはじめとするあらゆるメディアでこちらの了解をとらず転載していただいて結構です(もちろんネットも大歓迎です)。
ダークエレメンタラーシリーズはどの話数も
有料メディアに転載する場合はこちらの了解をとらず、転載責任者になってくれる方の判断にまかせます
(万が一もうけが出てもとっといてくらはい。ほとんどの場合もうかんないと思いますが……)。
当面、局面に変化ない限り(私がプロの作家にでもなるとか)、
他の作品などは無料とか放任転載可にしないのでよろしく〜。
そうしてほし〜ばあいはこちらに伝えてください。ではでは。
『ダークスタイル・ダークエレメンタラー
〜ディダークローデルト =闇使い〜』
第一旋承壁陣(だいいっせんしょうへきじん)
たかさき はやと
ビュウウウゥ……
砂中からつきだした岩が、風に吹かれて砂を作りだす。
ザッザッザッ…
右側には延々と岩の柱が、左側には砂の海が続く殺風景な場所を、フード付きのマントを羽織った若者が歩いていく。
日が、砂の海に沈もうとしている。すでに岩の柱の方は暗闇がおおいはじめている。
「フウッ…」
若者は歩みを止める。荷物を砂の上に置き、寝るための準備に入る。フードを外すと短い黒髪と、茶色い瞳…20才くらいの男があらわれる。それは美形といわれる部類に入る顔立ちだった。
ガサッ…
それはほんの小さな音だった。ふり返った若者は、巨大な人並の大きさをもつコウモリを見た。いや、それは人だった。羽と思ったのは黒いマントだったのだ。
ヴュアッ!
閃光が顔のすぐ横をよぎる。若者は、反射的に黒マントのナイフの一撃をかわした。
ドフッ!
若者のひざげりが黒マントの腹に決まる。
「アグッ」
ーーーオンナ?!
黒マントは倒れたまま動かない。若者は慎重に倒れた黒マントのフードをめくる。そこには、長い耳と黒い肌をもつ若い女がいた。
「闇(やみ)に包まれし者…、ダーク…エルフ…闇族(やみぞく)…闇使(やみつか)い…か」
若者は、気絶したダークエルフを気にする様子もなく、焚き火の用意をはじめる。すでに日は沈み、急激に温度が下がりはじめていた……
「このオトコを…スグに殺せ!」
円形の鏡には、あの若者が写っている。
「なぜですか?」
荘厳な装飾のされた柱が並ぶ、大きな広間に、ダークエルフがひざまずいている。赤いじゅうたんの上に、装飾された巨大なイスがある。そこに、土気色の鎧を着た、中年の男が座っている。
「我が領土を奪ったのだ。村人達は、ヤツのことを解放者だの勇者だのと言って、もてはやしておる。危険な芽は、はやいうちにつんでおいた方がいいからな……エルフィールよ、行ってヤツを殺せ!」
「意のままに…」
エルフィールは、その場から去っていく。
ーーーそうだ…あのオトコを…殺さねば…
パチパチ…パチッ…
ーーーなんの音だ?
エルフィールはゆっくりと目を開く。目の前で、焚き火が燃えている。エルフィールは自分が横になっているのに気ずく。
ーーーどこだここは? ワタシはなにをしているのだろう…?
「!」
焚き火の向こうに、あの男がいた。焼いた肉をほおばっている。こちらに気ずいた様子はない。腰の鞘をさぐると…ナイフがあった。
ーーーどうやら、他に武器は持ってないと思ったらしいな……
ヴァッ!
おき上がって、斬りつけようとする。
「グッ…」
エルフィールが腹をおさえる。動いたとたん、けられた部分に激痛がはしったのだ。
「だいじょうぶか?」
「ちか…よるなっ!」
エルフィールは、なんとかひざをつく。
「突然だったので、手加減できなかった…すまない」
ーーーこのオトコはなにを言ってるんだ…?ワタシを油断させるつもりか?
「内臓に損傷はないようだ。この薬草を飲んでおけば、明日にはなおるだろう」
そう言って布の袋をさしだす。
「フッ、そんなことを言って、ワタシに毒を飲ますつもりだな…?」
「殺すのならば、すでにキミは生きていないさ…違うか?」
男がエルフィールを見つめる。
「ならば自白剤なのだろう…ワタシにそんな手は効かないぞ」
「ずいぶんうたぐりぶかいな…まあ、好きにするさ」
男はそう言うと、座って肉を食べはじめる。
ーーーなんだコイツは…ワタシを縛りもしなければ武器も調べず…なにを考えている?
「そういえば…」
男の言葉にエルフィールが身構える。
「名前言ってなかったな…オレの名はジョルディーだ。キミの名は?」
エルフィールは答えない。
「でも、ダークエルフの名前ってのは、人間にも発音できるのかな?」
それまで無表情だったエルフィールの顔が、わずかにこわばる。
「ダークエルフだと…そんな俗称で呼ぶな!エルフ族の中でも、もっとも優れたエルフ…、エルファーナという由緒ある識別名で呼べっ」
ジョルディーは、驚いた様子でエルフィールを見つめる。
ーーーしまった!
エルフィールは、はじめて言葉に感情を表してしまった自分に気ずく。よけいなことまでしゃべってないか、思いだそうとする。
「ワルイッ!」
ジョルディーが頭を下げる。
「俗称で呼ばれることが、そんなに嫌いだとは知らなかったんだ。本当にすまない」
そう言って、また頭を下げる。
「オマエはあやまるのが趣味なのか?」
「ハハッ、そうかもな。ただオレは差別主義者にはならないようにしていたつもりだ。
でも、まだまだ問題意識が低かったようだ…」
ジョルディーの表情に、曇った所は微塵もない。
ーーーコイツ…悪いヤツじゃないのかもしれない……
ジョルディーを見るエルフィールの目が、やさしくなる。エルフィールが話しだす。
「二千年前に始族(しぞく)と人との戦いがあった…」
ジョルディーがうなずく。
「エルフの中で、ワタシのエルファーナだけが始族に加勢したのは確かだ。だが、そんなことはワタシには関係ない」
「そうだな…人の中にも、国民に圧政をしいて、魔王なんて呼ばれるヤツもいるから
な」
「それはダリル様のことか?!」
「…違うというならキミはここにはいない」
エルフィールはナイフに手を置き、いつでも抜けるように身構える。
ーーーダリル様を魔王と呼ぶなど…それに、ダークエルフだなどと…、コイツはおなじだ…アイツらと……
ビュゥウウッ…
冷たい風が、エルフィールの肩まである、黒髪のポニーテールをなびかせる。
「だいぶ寒くなってきたな…良かったらこの毛布を使ってくれ」
「ちかよるな! いいか、ワタシにちかずけば、ワタシの精霊法でオマエをズタズタのボロ布にしてやるぞっ!」
エルフィールの言葉に、ジョルディーの動きが止まる。
「そんなに嫌なのか…別に無理強いはしない」
ジョルディーは、毛布を自分の肩にかける。焚き火があるとはいえ、砂漠の極寒の夜は、毛布なしではかなりきつい。エルフィールの体力も、冷たい風によって奪われ続けていた。
ーーークソッ、コイツのおかげで予定が狂いっぱなしだ。
最初、エルフィールは荷物を持たず、ジョルディーが次の村につくまでに追いつき、ジョルディーを殺して食料や毛布を奪う予定だった。それが暗殺は失敗し、動くこともままならない。腹は空腹で、薄いマント一枚では寒くて死にそうだ。もちろん、そんなことはおくびにもださないが……
コイツを殺すまでは、死ぬものか。死ぬ…もの…か……
「腹、へってないか? 良かったらこの…」
ドサッ
「?」
エルフィールの方を見ると倒れている。唇は青紫になり、顔は真っ青だ。エルフィールの体調が最悪なのは一目瞭然だった。しかし、気絶するまでガマンするとは…ジョルディーはため息をつく。
「まいったな…」
一人グチッてしまうジョルディーだった…
「ヤーイヤーイ…」
森の中を、子供達が走っていく。
「かえしてっ! かえしてよっ!!」
数人の少年達が、少女の麦わら帽子をとりあげてイジメている。少女だけが、黒い肌に長い耳をしていた。
「アッ!」
バシャッ
後ろから蹴られて、少女が泥道に倒れ込む。黄色いワンピースが泥だらけだ。
「ざまあみろっ!」
「ヒューヒュー、ヤッタヤッターッ!」
稚拙な欲望を満たした少年達は、村の方へと帰っていく。
風が吹いた…しばらくのあいだ、少女はそこから動くことができなかった。
「エルフィール…」
エルフィールの前に、年配の女性が立っていた。
「おがーざぁん…、どうしてみんなアタシをいじめるの? みんなとスガタがちがうから?」
「それは…」
答えられず、母親は泥まみれのエルフィールを抱きしめる。
「アタ…シ…にんげんにうまれだがった…!」
「強く…強く生きるのよ……」
木々だけが、その光景を見ていた……
それからエルフィールは、いじめっ子達をやっつけるために、毎日精霊法の練習に励んだ。多くの精霊の名を覚えたが、呼びだそうとしても、一向に精霊を召喚することはできなかった。
「おかあさんはアタシくらいのときにはセイレイをよびだすことができたんでしょ?」
母親がうなずく。エルフ族ならば、エルファーナだろうとエルフォートだろうと無条件で精霊を見たり、話したりできる。それにちょっとした精霊なら、簡単に精霊界から呼びだすことができるのだ。
「エルフィール…まだいじめっ子達に復讐する考えをもっているの?」
「だって…だって…」
「悪しき心の持ち主には、精霊は答えてくれないのよ…」
「でも…」
幼いエルフィールにも、母親の言いたいことはなんとなく解かった。だが、悪いことに精霊法を使ったエルフの話しを、エルフィールは多く知っていた。それなのに、いじめっ子を撃退する程度のことに使って、なにが悪いのだとエルフィールは考えていた。
「アナタには、肝心なことが欠けているわ」
「かんじんなこと?」
母親はやさしく、エルフィールに教える。確かに教えてもらったはずだが、いまのエルフィールは思いだすことができない。
そして、エルフィールに人生を変える出会いがやってくる。
「ワタシならば、オマエの力をひきだしてやる……」
その若い男の旅人は、確かにそう言った。その言葉は、エルフィールの願いを満たしてあまりあるものだった。そして、エルフィールの答えは決まっていた。
「オーイ! 返事をしろっ!!」
遠くから、村人達の声が聞こえる。
「本当にいいのか?」
若者の言葉に、エルフィールはうなずく。
「ワタシの名はダリル。オマエは?」
「エルフィール…」
ふたつの影が、森の中に消えていく……
ーーーあれからどれ位いたったのかしら…いまだ精霊法は使えないケド…でも、ワタシは強くなった。どんな人間でも殺せるほどに! 母さん、ワタシは強くなったよ…強く
……パアッ……
赤い光が意識のすべてをつつむ。憎しみも思い出もなにもかも……
目覚めてる。エルフィールは気ずくのにしばらくかかった。赤い光は朝焼けの光だったのだ。エルフィールはゆっくりと起き上がる。
パサッ…
エルフィールの肩から毛布が落ちた。
ーーーなんだ?
ジョルディーはまだ寝ているようだが、毛布をかけていない。
「ふざけるなっ!」
バサッ!
エルフィールは、毛布をジョルディーにたたきつける。
「ウ、あ、ふえ?」
ジョルディーが驚いておきあがる。
「どうした?」
ねむけまなこで聞く。
「どうしただとっ?! 毛布をワタシにかけて、あわれみのつもりかっ! ワタシをなめるのもいいかげんにしろっ!!」
「いや、そういうつもりじゃ…でも良かった」
「なにがだ?!」
「動けるようになったんだな」
エルフィールは自分が立ち上がってることに気ずく。
ーーー…まただ……
動けるようになったのだから、寝ているジョルディーを殺せば終わるはずだった。
「良かった良かった。さあ、座れよ。朝飯にしょうぜ」
「クッ…キサマはどこまでワタシをバカにすれば気が済むのだ! 徹底的にワタシを愚弄したいのだな……アイツらのように…っ」
エルフィールは、すさまじい形相でジョルディーをにらみつけるが、ジョルディーは気にしてさえいない。
「なんだ、そんな顔して。よっぽど腹減ってるんだな。いまスグ作るから、待っててくれ」
ジョルディーは手慣れた手つきで食事の準備をする。焼いた肉に乾燥パンにぶどう酒。残りわずかな食料を二等分する。
ーーーいまなら…!
エルフィールはナイフに手をかけるが、しばらくしてその手を下ろす。不意打ちでさえかわした男だ。体調が不調ないま、打ち込んでも殺す自信はなかった。
「もう焼けたな」
エルフィールの方に、皿変わりの紙の上に肉などを置く。環境の厳しい砂漠において食事、ましてや水をとらないなどということは、死を意味する。
「毒なんて入ってないよ」
エルフィールが食事に手をつけないのを見て、ジョルディーがエルフィールのパンをちぎって食べてみせる。
「オマエの方のをもらう」
ジョルディーのと交換し、食事をはじめる。
ーーーおいしいな…?
エルフィールは不思議な感覚にとらわれる。
ーーー食事をしていて楽しいなんて……
ダリルと旅するようになってからは、食事をしていて楽しいことなどなかった。食事は、ただのエネルギー補給であると教えられ、そう考えていた。
ーーーでも、この感覚には覚えがある。かなり遠い昔に……ム?
ジョルディーがこちらを見ている。
ーーーなんだ? なにか文句をつける気か?
「なにを見てるっ!」
「キレイだ…」
「なんだとっ!」
ーーー? キレイなんて卑下の言葉があったかな?
その言葉の意味に気ずくまで、数秒必要だった。みるみるうちにエルフィールの顔が赤くなっていく。酒とあいまって、すでにゆでダコ状態だ。
「モテるんじゃないか?」
ジョルディーが笑顔で聞く。それだけで、エルフィールの心拍数がはやくなる。
ーーー違うッ! コレは侮蔑(ぶべつ)の言葉だっ。この人間めっ!
ジョルディーは食事を終わらせると、さっさと旅支度をはじめる。それを見て、エルフィールがあわてて残りを食べようとつめこむ。
ドサッ…
ジョルディーはエルフィールの前に座る。まるで、食事が終わるまで待っているよというふうに。
「オレは子供の時、精霊と話したくて、一生懸命精霊法を練習した…」
ジョルディーが思いだしたように話しだす。エルフィールは黙々と食事をしている。
「人族にも、精霊法を使えるヤツはいるというのに、オレにはムリだった……なぜオレはエルフ族に生まれなかったんだろうと、嘆いたもんさ」
「オマエ…」
ジョルディーがこちらを見る。エルフィールはその言葉を飲み込む。喉まででかかったその言葉を……
ザザ…
「!」
突然、ジョルディーがエルフィールを突き飛ばす。
「なにをす…っ!」
ズボボボボボボッ!
それまでエルフィールがいた所に、2メートルはある、巨大なサソリが現れる。
ーーーグレート・スコルピオン?!
「ギャオオオ!!」
咆哮をあげると、エルフィールに向かってくる。
「ハッ!」
ギィイン!
ジョルディーのショートソードの一撃が、グレート・スコルピオンの前進を防ぐ。
「はやく逃げろっ!」
エルフィールは立ち上がる。よく見れば、成獣のグレート・スコルピオンであることが解かる。
「成獣のグレート・スコルピオンには、剣は通用しないぞっ!」
エルフィールが叫ぶ。
「知っている! それよりも逃げろっ!」
ギィイィイン!!
剣が赤い甲良を滑る、いやな音が響く。
ーーー自分の命をかけて、ワタシを守るつもりか?! いや、そんなことはありえない。
「そんなことを言って、ワタシの精霊法をあてにしているのか?! だが、ワタシは精霊法が使えないんだ。使えないんだっ!」
声を大にしてくりかえす。
「そんなことは知っていたさ」
「なんだと?!」
エルフィールが驚愕する。
「オレは精霊を見ることはできるんだ。精霊はキミをムシしていた。ハッ!」
ギィィイン!
ーーーそんなはずはない! ヤツはワタシの精霊法が怖くてワタシに手だしできなかったはずだ……そうでなければ、ワタシを殺さなかった理由がつかない…理由…が……命をかけてワタシを守るというのか?! ダリル様でさえ、そんなことはしなかったというのに。
「そんな人間が、いるはずないっ!」
だが、目の前で起きている現実を、受け入れないわけにはいかなかった。
ズヴァアッ!
「グワアッ」
グレート・スコルピオンのナイフのようなハサミが、ジョルディーの肩を斬り裂く。
グレート・スコルピオンがとどめを刺そうと、ジョルディーにつめよる。
ーーーヤツを…ジョルディーを守りたい!
それは、はじめて経験する感情だった。
ーーーだが、どうすればいいんだ。ワタシには…ワタシには…!
エルフィールは、いまほど精霊法を必要だと思ったことはない。だが、いまさらどうしょうもない。
ギュアッ…
グレート・スコルピオンが、ジョルディーに向かってハサミを振り上げる。
「待て!」
ザッ!
エルフィールがジョルディーの前に立つ。 グレート・スコルピオンは、攻撃を警戒して一時後退する。しかしエルフィールが攻撃してこないのを確かめて、またつめよってくる。
「グハッ…なに…している…逃げろっ!」
いまのエルフィールには、なにも聞こえなかった。ジョルディーを助けたい、それだけがエルフィールの心を占めていた。
「…我が声響く時、すべての熱さを凌駕する……」
エルフィールは精霊法を唱える。もちろん、無駄なことは解かっていた。だが…
ーーーこれしかない…これしかないんだっ!
ググ…
グレート・スコルピオンは、尾を後ろにしならす。
ギャン!
まだ詠唱中のエルフィールに鋭い尾が迫る。
「サラマンダ−−ッ!!」
オ
オ オ オ
オ オ
オ オ オ
オ オ オ
オ オオ オ オ
オ オ
オ オ オ オ
オ
オ
オ オオ
ドギュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
一瞬でグレート・スコルピオンが吹き飛ぶ。
「グギャオオオオ!」
サラマンダーの灼熱に焼かれ、グレート・スコルピオンがもだえ苦しむ。
ーーー精霊法を…つか…えた?
エルフィールが精霊法を使えなかったのは、自分のカラに閉じこもり、心の奥底では精霊さえ必要としていなかったからだ。だが、ジョルディーという[人間]を認めることによって、エルフィールは、自分でカラをやぶることができたのだ。
ゴオオオォォ…ォ……
サラマンダーが消えた後には、砂しか残っていなかった。
「やっ、た…」
ドサッ…
エルフィールが、その場に倒れこむ。正面に空がみえた。青い空が……
「だい…じょうぶか?」
ジョルディーの方が、死にそうな声で聞く。
「プッ、アハハハ…」
しばらく、エルフィールの笑い声が砂漠に木霊(こだま)した。
ーーーやった…やったんだ…ワタシは……
エルフィールは、最高に幸福な気分だった。それが、はじめて精霊法を使えたからかジョルディーを守ることができたからかは、エルフィールには解からない。ただ、笑いたいだけ笑った。広大な空を見上げながら………
どのくらいたったろうか。ジョルディーは器用に自分で包帯をまき、出発の準備を終わらす。
「ジョルディーッ!」
エルフィールの言葉に、ジョルディーが驚いて顔を上げる。
「ワタシの名前はエルフィールだ。これからは、名前で呼んでくれ」
「エルフィールか、良い名前だな」
「…………………………そう言われると、そうかもしれないな」
ーーージョルディーか…ダリル様でさえ、ワタシの力を引き出すことができなかったというのに……確かめてやる。あの時なにがおきたのか。それにはこのオトコが必要だ。まあ、こんなヤツいつでも殺せるしな……
それが、無意識にジョルディーを助ける考えの正統化であることに、エルフィールは気づかずにいた。そして、その理由も……
ザッザッザッ…
砂漠に残されたふたつの足跡は、ある地点で合流し、地平の彼方まで続いていく。
ビュゥウウ………
風が吹いた。風によって、足跡が消されていく。まるで、なにもなかったかのように………
次回旋(じかいせん) 続(ぞく) 次話(じわ)
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