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『ダークスタイル・ダークエレメンタラー 〜ヴァーダークラルアンティー =闇夢龍(やむりゅう)〜』


                 第二旋承壁陣(だいにせんしょうへきじん)


                               たかさき はやと






・・・風だけが知っていること
・・・それだけのこと
・・・いま…


 高さ2メートル、横4メートル、体長6メートルの赤黒い物体が陽を陰らす。その物体が高音を発した。鳴き声をあげたのだ。けたたましいほどの残響(ざんきょう)は、生き物の姿、気配がまったくいない砂の山々をなでるだけでなびいた。たいした反響もせず、素肌に心地よい程度の風が作りだす砂同士のからみあう音のさざ波が、あたりを包みなおす。
「人、エルフ、モンスター…これらの種族はすべて魔法元素(エンブルテミポム)によって構成されている。構成されている魔法元素(エンブルテミポム)はそれぞれ種族(ケミー)によって違う、と、エルフの間では言われているとか。わがソラおよび積塵(せきじん)のサラマンダーはスコルピオンの構成を一時(いっとき)すべて変えた」
「つまり…?」
「一転化量(いちてんかりょう)と四変化質(よんへんかしつ)は二化合場(にかごうば)の三原則(さんげんそく)による五速存(ごそくそん)………わかったよ、つまりワタシとスコルピオンは親しく友達になった」
「は…?……それなら、キミのサラマンダー攻撃を受ければオレもエルフィーユ、君と友達になれないかな」
「人とモンスターとエルフを構成している複数の魔法元素(まほうげんそ)、エフィルゼル群、風頬々(かぜほほ)、イミール(神意味)で、おなじものはひとつもない。人がエルフのサラマンダー、ここでいうのは反・炎龍迅則返(はん・えんりゅうじんそくへん)をくらえば、影と灰と夢とともに残らない。精霊を支配することたやすことかげることしかできない人間は、精霊法(せいれいほう)つまり精霊生活習慣(せいれいせいかつしゅうかん)を敵対軸(てきたいじく)攻撃魔法(こうげきまほう)の一部としてしかとらえることができないし、多くの連中が千以上あるセミ・ストール、循環翼(じゅんかんよく)、波(なみ)を感じられないのもしかたないことだな。恥じるべきことではあるが…な、くっ」
「…………」
「オマエが恥んでいいことだ恥んで」
「くっはっはっ」
「ひとよ静まれ笑うな!」
「…」
「しごくオマエは精霊法(せいれいほう)魔法(まほう)理法(りほう)も使えない身をかえりみろ」
 エルフィールは一息つけると空を見上げる。
「それがオマエばなのだ、それこそ自身がな……そうだろういくらかばかりは」
 いつか来ただろうか。そこに、うらぶれた街があった。一面の砂に黒い大人大の穴がいくつもちらばっている。それは集落であった。
「どうやらバン(蛮)族の住処(すみか)らしい」
 ふたりは砂に降りると、エルフィールはスコルピオンに片手をふりあげる。静かに、巨大な赤いさそりは地下に沈んでいく。
「かえしちゃうのか」
「残念そうにいうな。一時的なものだ、…それとも、オマエがアイツのエサになれ」
「ヤだ」
ジョルディーは三回(さんかい)魚よろしく頭をふった。


「エルロールか…」
「なにか解(わ)かったのか」
 洞窟内は湿気(しっけ)が多く、服はすべてびしょぬれとなり、魔法の光りだけが影を淡々と作りだしながら、こうこうと輝きつづけている。
「これは人間どもが理法(りほう)と呼ぶものによって作りだされたものだ。エルロール…理法(りほう)はその場(ば)の流れを輪(わ)にして、流れを加速させ、力場(りきば)を作りだして支配(しはい)される」
「なにが、なにに」
「渦(うず)に……だ。千(せん)以上(いじょう)ある波(なみ)のどれを感じたのかは、理法(りほう)の使い手にしかわからない。なににどこまで包(つつ)まれたのは使い手だけか、それとも……」
「それとも?」
「ここ一帯(いったい)いきすべてか」
「支配は…なににどのていど支配されるとすれば」
「たとえば、理法(りほう)によって前に歩いたら後ろに進むということがおきたり、食事をした者が空腹(くうふく)で食事をしなかった人が満腹になったことがあるときくし、または、王(おう)はもっとも貧(まず)しく、配下(はいか)なる者たちが富(と)む…。なにが、なににどのていど支配されるかは使い手の意志、力量、向(む)き、どの波(なみ)かによって千差万別(せんさばんべつ)のことごとだ。使い手も予期しなかったことがおこるエルフこそ…な」
「これはこれは客とはめずらしいとき。ここ何十年も行商道(えぶんろ)からははずれのき、ぞぞ、うらぶれたるのきのそらそらへようこそいらっしゃった。よければワタシ、ここの長(リーダー)たるジャゲイの世話になりませんかなそうしましょう」
 ジャゲイは、それこそは当然のことであり、むかしからの習いに従ったことだというのだ。
 ふたりしは何日かかけてすみずみまで歩き探険した。
「ここは階段なんだな」
「砂のか…」
 それは十日ほどよりも数日たったある日、ジョルディーが「ここにいかりがないかなしみがないなげやりがないたのしみがないくるしみがないばかがないゆうきがないきょうふがないおもいがない」と言った。
「なん?」
「だれもいないしだれかある」
 人混みの中、ジョルディーはまった。炎(ほのお)が舞った。ジョルディーがそれをえた。
・・・なぜ・わ・か・る
 まわりの人々はみじろぎひとつしない。
 そこにはふたりしかうごくものはいない。暗闇がましていく。エルフィールの光りだけになった。
「おいて」
 ジョルディーがはしりだす縦横(じゅうおう)に。
ぎぎん!> なにかがふたつになった。たしかなてごたえにジョルディーは自分で自分をきった。それは致命傷(ちめいしょう)にはほどとおい。
「なんで先に行った」
「さっきの人がだいじょうぶと言ってたよ」
 かまえたままたおれたままこたえる。
「バカ言ってんじゃない。この状態でそんな軽率な行動をとっていて生き残れるか…、よくいままで生き残ってこれたものだな。もっと気をつけることを学(まな)べ」
「ああ、そうだな……そうします」
「そこだあ!」
 炎の螺旋(らせん)が鳥になる。
「な」
 ゆっくりとサラマンダーがエルフィールを包み込む。
ーーーに
・・・だから・き・みはだめだろうさ
 上下に二枚づつよっつの硬い羽をもったなにかがいた。
・・・それなのにき・みはいつもあの方にとりいるのだけはうまかった
 それはひとのオンナだった。
・・・だけどこれでおしまいだろうその・に・ん・げ・んとさ
「そうかいそうだろうそうしてくれよ」
 エルフィールは炎龍にゆらめく鎧に身をしくめぐった場の時。

オオ
オオオオオオお・お…・・・
ーーーたとえなにがあっても味方でいよう
ーーーそうそうよねそれこそが
ーーーうんワタシたちがいきているあかしでもあるのだから
・・・…そうだったのだ……
「なぜだ」
・・・………オマエも
「ひとと」
・・・ひとつになろお
「たまにはこういうのもいいだろう」
・・・ごぉおオオオ……ォ
「どうすればいいんだ…」
 ジョルディーがうめくようにつぶやく。またさけんでもいた。炎はそのままエルフィール自身になろとしていた。
ーーーワタシの精霊法(せいれいほう)がジョルディーにあたっていたらワタシが…いや、ジョルディーがテキを攻撃することがジョルディーへの攻撃ということは
ーーーそうそうかそうだ
「ジョルディー斬(キ)るがいいっ!」
<ザ>ギンッ
ジョルディーの一刀(いっとう)が炎をエルフィールをなにかみえなきをまっぷたつにした。
ーーーこれでおわったとおもうなよ
「なんだどこでだれがいっ?」
「わかったいつでもこいよ」
ーーーはっはっはっはっ
 底に風吹いた。なまあたたかった。
「体(からだ)もないのによくやる」
「エルフってみんなそうなのか…・」
「………」
「どした」
「ぷっははっあははははっっ」
 残響(ざんきょう)がゆっくりと木霊(こだま)がそれにつづいた。


 スコルピオンをよぶため砂漠へ荷物をはこぶふたり。
「さすがだな」
「キサマ……ワタシを斬(き)るのに一瞬もためらわなかったな…」
「そうだな」
「そのままだったらどうする、ネヴィーネの同士討ちを狙った罠だとは思わなかったのか」
 突然走り出すジョルディー。
「……どうした」
「だって、なぐられる気がして」
砂漠のかすかに点となったジョルディーの声だけが聞こえてくる。
「そんなことはしない」
「ふひい〜、よかったぁ…」
 数分後、砂漠にゲンコツの音が響き渡った。





・・・そして風だけがそこをまっていたのだ
・・・もうなにもこわくないと
・・・しっていたから









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