佐藤賢一作品のページ No.


1968年山形県鶴岡市生、山形大学卒後、東北大学大学院文学研究科でヨーロッパ中世史を専攻。93年「ジャガーになった男」にて第6回小説すばる新人賞、99年「王妃の離婚」にて第121回直木賞を受賞。鶴岡市在住。


1.ジャガーになった男

2.傭兵ピエール

3.赤目(赤目のジャック)

4.双頭の鷲

5.王妃の離婚

6.カエサルを撃て

7.カルチェ・ラタン

8.二人のガスコン

9.ダルタニャンの生涯

10.オクシタニア


黒い悪魔、ジャンヌ・ダルクまたはロメ、剣闘士スパルタクス、褐色の文豪、女信長、第二次アメリカ南北戦争、カペー朝、象牙色の賢者、新徴組、ペリー

 → 佐藤賢一作品のページ No.2

→ 藤本ひとみ歴史館へ


革命のライオン、バスティーユの陥落、聖者の戦い、議会の迷走、王の逃亡、フイヤン派の野望、ジロンド派の興亡、共和政の樹立、ジャコバン派の独裁、粛清の嵐

 → 佐藤賢一作品のページ No.3


徳の政治、革命の終焉、黒王妃、ヴァロワ朝、ラ・ミッション、ハンニバル戦争、ファイト、遺訓、ナポレオン1、ナポレオン2、ナポレオン3

 → 佐藤賢一作品のページ No.4

  


  

1 .

「ジャガーになった男」●      小説すばる新人賞


1994年01月
集英社刊

1997年11月
集英社文庫化
(680円+税)


1999/05/15

支倉常長に同行してスペインに渡った奥州武士・斎藤寅吉が、スペイン、さらにペルーへと、 戦いの夢を追った物語。
歴史を描いたという程のこともなく、胸躍るという程の感想もありません。ただ、計算高く後のことを考えることなく、自分の思うが侭に武士の本領を発揮し尽くした男の爽快感、といったものが感じられます。
寅吉がスペインの大地で追った夢は、「イダルゴ」として生きていくこと。その小説に書かれた代表人物がドン・キホーテと聞けば、いろいろな想像が頭を過りませんか。愚かさ、痛快感等々。エレナとの情熱的な恋愛あり、ガスコーニュ貴族トロワヴィルとの一騎討ちあり、ペルーではインディオからジャガーと崇めたてられるという、破天荒な活劇と言うべき作品。

   

「傭兵ピエール」● ★★


傭兵ピエール画像

1996年02月
集英社刊
(2524円+税)

1999年02月
集英社文庫化
上下
(740・680円+税)


1999/07/10


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長編・娯楽・西洋歴史小説といった作品です。
舞台はフランス、時代は
英仏百年戦争時。そして主要な登場人物は、ジャンヌ・ダルク(ラ・ピュセル)、主人公である傭兵隊長ピエール
帯の宣伝文句は、魔女裁判にかけられようとしているジャンヌ・ダルクを傭兵ピエールが救出に赴く、というものでした。
西洋歴史ものを書く作家が少ないだけに、藤本ひとみさんと並んで、佐藤さんには多いに期待したいところです。
ただ、本作品についてちょっと物足りなかったのは、一貫した大きな歴史のうねりというものが感じられなかったこと、いろいろな作品の面白さを貼り合わせて長くしたような印象を禁じえなかったこと。
前半のアングル(英国)軍との戦いではシェイクスピア「ヘンリー五世」(アジンコートの戦い)を、中盤では黒澤明監督の映画“七人の侍”を、そして後半単独で敵地に赴く部分では宮城谷昌光「太公望呂尚のことが、自然と頭の中に浮かびました。
本書はいったい、ラヴロマンス活劇だったのでしょうか、それとも冒険活劇だったのでしょうか。面白いには面白かったのですが、何か中途半端な感じが少し残ります。主人公ピエールの人物設定が、豪壮でありながら気弱な部分をもつ(とくに女子供に対して)、ということにもありそうです。
分厚いながらもそれなりに面白く読める、西洋歴史を背景に借りた娯楽小説、という感想です。

※本書をきっかけにB・ショー「聖女ジョウン」を再読しました。

   

3 .

「赤 目 ジャックリーの乱 
 (文庫改題:赤目のジャック)


赤目画像

1998年03月
マガジンハウス

2001年05月
集英社文庫化


2000/06/07

1358年フランスに起きた“ジャックリーの乱”を描いた作品。
それは、農民が蜂起して領主たちに襲い掛かった事件です。単なる暴動にではなく、略取、殺害、輪姦にとどまらず、犠牲者を焼いて食うという非人間的な行為にまで及んだという、悪夢のような歴史事実です。
この事件発生の背景として、百年戦争の休戦時に傭兵連中が農村をめぐって暴虐の限りを尽くした事実があり、被害者となった農民らの憤りが領主階級に向けて噴き出したのが原因であると、本書では描かれています。そして、その首謀者としてジャックという人物の存在が伝えられているそうです。
ただ、その実像ははっきりしたものではなく、佐藤さんは本作品中で彼を“赤い目”の持ち主として描き、同時に赤目=狂気の伝播の目印としてとらえています。
ただ、それだけでは平面的になってしまうため、ジャックに従う青年フレデリを配し、彼を正常と狂気の間に振れる人間として描いています。そのフレデリによって、この乱の狂気さが浮き彫りになっています。
この作品は、歴史の面白さを味わう佐藤さんの他作品とは一線を画したものになっています。読んで面白いという作品では、決してありません。“ジャックリーの乱”における人間の狂気を検証しようとして書いた、そんな作品です。

   

4 .

「双頭の鷲」● ★★


双頭の鷲画像

1999年01月
新潮社刊
(2400円+税)

2001年07月
新潮文庫化
上下


1999/08/05


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14世紀半ば、百年戦争前期のフランスが舞台。
イングランド軍に負け続けていたフランス軍に、天才的な指揮官が登場します。それが本作品の主人公となる
ベルトラン・デュ・ゲクラン。ゲクランと出会ったフランス皇太子シャルル(後のシャルル5世)は、彼の力を借りて、イングランド軍との闘い、さらにはフランス国内の平定に立ち向かって行きます。そんなゲクランとシャルル5世を中心に、彼らが死すまでの一切を描いた大型歴史小説です。
本書を、一人の英雄を描いた物語、とのみ解するのは適当ではないでしょう。むしろ、この時代にあって新しい歴史を切り開こうとした一群の人物たち、そして、その好敵手達を描いた物語と考えるべきだろうと思います。
勿論、主人公たるデュ・ゲクランが、その中でも傑出した魅力を持った人物であることに違いありません。美男と対極にあるような容貌、そして膝まで届く長い腕、田舎の餓鬼大将丸出しのような粗野な言動。その一方での天才的な戦い振り。読みながら、その華々しさ、その可笑しさ(笑い)を、繰り返し感じます。
また、私個人として興味があったのは、イングランド側の黒太子エドワード。彼の早い死が、イギリス・ばら戦争の遠因になっている気がして、以前から興味のあった人物です。
本書の面白みは、百年戦争という時代の歴史を読む楽しみ、そしてデュ・ゲクランという不世出の英雄を知る楽しみ、にあると言えます。
ただ、それにしても本書は必要以上に長過ぎるのではないか、という思いも残ります。

   

「王妃の離婚」● ★★      直木賞受賞


王妃の離婚画像

1999年02月
集英社刊
(1900円+税)

2002年05月
集英社文庫化


1999/08/06


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百年戦争終結後の15世紀末フランスが舞台。
時の国王
ルイ12世は、王妃ジャンヌ・ドゥ・フランスに対する離婚訴訟を起こす。被告ジャンヌは法廷において争うとするが、孤立無援の情勢。そんな中、かつてカルチェ・ラタンの俊才と謳われたフランソワ・ベトゥーラスが、自らの人生を取り戻すため王妃の弁護に乗り 出す、というストーリィ。
本書は、歴史を舞台とした法廷サスペンスであり、その点だけでも興味を惹かれます。それに加え、充実した内容と、変化あるストーリィ展開、少しも読者を飽きさせません。
前作傭兵ピエール」「双頭の鷲に比較するとスケールの点で劣りますが、逆に2作のような冗長さがなく、緊迫感が最後まで途切れないところが魅力です。結末の爽快さにも、清々しさを感じます。
細かい面白味を拾えば、まだまだあります。
当時の裁判が現代と似たような仕組みのものとはいえ、それは教会裁判であったこと。また、離婚を禁じたカトリックならではの離婚裁判の特異性。この辺りには、歴史を読む醍醐味があります。
その一方で、法廷論争のスリル、ペリー・メイスンばりの鮮やかな手腕、さらにカルチェ・ラタンの学生にみる青春群像、主人公自身の恋愛顛末、といった面白さがあります。
まさに面白さたっぷりの歴史小説と言えるでしょう。

  

6 .

「カエサルを撃て」● ★★


カエサルを撃て画像

1999年09月
中央公論新社刊
(1900円+税)

2004年05月
中公文庫化

1999/10/07

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もうひとつの「ガリア戦記」という印象を受けます。
「ガリア戦記」は、カエサル(シーザー)の著作とされていますが、ここに至ると昔読み出してすぐ挫折したことが後悔されます。

カエサルの「ガリア戦記」は勿論ローマ側の立場から蛮族ガリアの制圧戦を書いたものの筈ですが、本書はどちらかというとガリア側の立って書かれています。
主人公となるのは、全ガリアの王としてローマ追放戦争の狼煙をあげた、若き
ヴェルチンジェトリクス
ただ、本書は一方的にガリアの側に立ったというのではなく、ガリアとローマ、そして主に若きヴェルチン対中年男カエサルという比較の構図からストーリィが展開されていきます。その中で、カエサルがやたら文学中年ぶっているところに納得感があってユーモラス。
本書では、主人公がヴェルチンとカエサルに二分されている面がある所為か、傭兵ピエール」「双頭の鷲のような躍動感はあまり感じられません。
これまでの西欧中世もの作品と比べると、ちょっと戸惑う気分もありますが、読んでみるのも一興、という作品です。

   

「カルチェ・ラタン」● ★☆


カルチェ・ラタン画像

2000年05月
集英社刊
(1900円+税)

2003年08月
集英社文庫化



2000/05/27



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“カルチェ・ラタン”とは「ラテン語街区」の意味で、大学生が勉学、遊蕩を謳歌していたパリのセーヌ左岸地域のことです。本書はそのカルチェ・ラタンを舞台に、16世紀パリの治安を守った人物として有名な夜警隊長ドニ・クルパンを主人公にした歴史小説です。
とはいっても、本書に登場するドニ・クルパンは夜警隊長といった柄ではとてもなく、頼りなく、かつ幼児っぽいことしきり。事件にぶつかる都度ドニが頼りとするのは、かつて家庭教師だった学僧、マギステル・ミシェル。パリ大学神学部きっての俊才で、眉目秀麗、偉丈夫、頭脳明晰、女性経験豊富というスーパーマン的人物。そのミシェルに童貞であることを年中からかわれながら、ミシェルとドニが良いコンビとなって、事件解決に奔走します。
最初は下手なホームズとワトソンのパロティかと感じたのですが、読み進むと新たな様相が目の前に展開していきます。それは即ち、硬直化しつつあったキリスト教学(カトリック)における新しいうねり。本書中には、イエズス会を創設したイニゴ・デ・ロヨラも登場すれば、その宣教師となって日本にも至ったフランシスコ・ザビエルも登場します。一方、プロテスタントの旗手となったジャン・カルヴァンも登場し、当時のキリスト教観を 浮き彫りにします。
また、ミシェルの新・旧愛人、ナタリー未亡人マルトも登場し、登場人物はなかなかに多彩です。
そうした時代を背景に起きた“ゾンネバルト事件”。本書は、その事件を題材に、「ドニ・クルパン回想録」として描かれたストーリィです。
当時の宗教論争を描いたという点はあるのですが、物足りないのは、他作品のような歴史のダイナミズムが感じられないこと、ドニを余りに戯画化していること。
そのため、あえて本書については辛めの評価となりました。

    

8.

●「二人のガスコン」● ★★


二人のガスコン画像

2001年1〜3月
講談社刊
全3巻
(各1800円+税)

2004年07月
講談社文庫化
(上中下)


2001/03/19


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仏文学史における不朽の英雄と言えば、デュマダルタニャンと、ロスタンシラノ・ド・ベルジュラック、というのは定評あるところ。本書は、その2人のガスコン人を主人公とした歴史長篇です。
“ダルタニャン物語”ファンとしては、何時頃の話か、原作と矛盾はないのか、という点気になるところです。時代としては、ルイ13世、リシュリュー枢機卿亡き後の、マザラン枢機卿の時代。デュマ原作の「三銃士」とその続編「二十年後」の間に挟み込んだ形になります。
銃士隊はマザランによって解散させられ、今やダルタニャンはマザランの密偵として働く身の上。マザランに呼びつけられたシラノとダルタニャンが命じられたのは、元枢機卿付銃士隊長の娘マリー・ドゥ・カヴォワを見張ること。オルレアン公ガストンまで登場して追求される謎とは、果たして何なのか。
元隊長カヴォワの日記を探し求めながら、ルイ14世出生の謎・鉄仮面の謎に2人が迫っていきます。ただし、原作のような冒険活劇と異なり、現代風サスペンス・ミステリに近い構成です。
デュマ原作のダルタニャンと比べると、抜け目なさ、機略縦横さの点で物足りなさを感じますが、佐藤−ダルタニャンですからその点は許容の範囲内。両原作でのお馴染み人物たちも登場し、ファンとしては嬉しいところです。
ダルタニャン、シラノの個性を充分生かしつつ、ストーリィは佳境へと進みます。うまく原作のエピソードを利用しているな、という印象。その一方、ストーリィが堂々巡りしていて長ったらしい、という印象もあります。

     

9.

●「ダルタニャンの生涯−史実の「三銃士」−」● ★★


ダルタニャンの生涯画像

2002年02月
岩波新書刊
(700円+税)



2002/04/03



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ダルタニャンと言えば、今さら言うまでもなく、デュマの傑作「三銃士」等の主人公。
そのダルタニャンを始め、アトス、ポルトス、アラミスの3人もてっきり架空の人物だと思っていたのですが、各々モデルとなった人物が実在していたとのこと。とくにダルタニャンについては、シャルル・ダルタニャンという実在の銃士隊長がいたというのですから、驚きです。ただし、この人物、佐藤さんに言わせれば、歴史に残るような活躍とは縁がなかったとのこと。
まずは、実在の人ダルタニャンの系譜、ガスコン人の気風、銃士隊の由来から佐藤さんは語り起こし、最終的にこのダルタニャン伯爵の生涯を読者に案内してくれます。

それによると、マザラン時代には一旦銃士隊は解散されていたらしい。そうすると、デュマの「十年後」のような状況はないのであって、実在のダルタニャンも、佐藤さんの二人のガスコンのとおり、マザランの密偵として働くほか無かったようです。
とはいえ、マザランの配下で、ダルタニャンは相応の活躍をみせていたようです。
当時は、職位も金で売買するのが当たり前という時代。ダルタニャンが銃士隊の隊長代理という職位を手に入れるのも、金銭で買ってのことでしたが、マザランの後押しがなかったらそれも不可能であったようです(銃士隊は一旦マザランにより廃止されたものの、ルイ14世が復活させた由)。
とはいっても、その職位に見合う能力は十分あり、またその職責も十分果たしていた様子。その結果として、ルイ14世から相当の愛顧を得ていたようです。
その辺りは、もうひとつ別の“ダルタニャン物語”を読むような気分。デュマが描いたような波瀾万丈の活躍とはいきませんが、歴史上の事実であっただけに、それだけの現実感があります。
ダルタニャン・ファンには、是非お薦めしたい一冊!

三銃士/パリに出る/出世街道/ダルタニャンの末裔

        

10.

●「オクシタニア」● ★☆


オクシタニア画像

2003年07月
集英社刊

(2400円+税)

2006年08月
集英社文庫化
(上下)


2003/08/17


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13世紀の南フランス、その豊穣で繁栄していた土地は“オクシタニア”と呼ばれ、文化的にも北仏とは一線を画していた。
本書は、そのオクシタニアを舞台に繰り広げられる、キリスト教の異端・カタリ派とカトリックとの争い、それに輻輳する南仏の領主たちと北仏・フランス王家との覇権争いを描く、西洋歴史小説の力作です。

西洋史は、キリスト教との関わりを無視しては語れません。その点、自己満足的なカタリ派、権力指向のカトリックと、両派の特徴を浮き彫りにしてみせた本書は、とても興味深い。
そしてその両派の違いは、主要登場人物である、名家の妻の座を捨ててカタリ派に走ったジラルダ、その反動のようにドミニコ会の異端審問官となったその夫エドモン・ダヴィヌス、カタリ派とカトリックの間を優柔不断に揺れ動くトゥールーズ伯ラモン7世の姿に反映されていています。
長年にわたる2面の争いを丹念に描いた本作品は読み応えがありますが、結局ジラルダとエドモンという2人の個人関係に収斂したような結末には、釈然としない思いが残ります。

※なお、北仏と南仏の気質の違いを際立たせるため、本作品では後者に関西弁を当てはめています。これについては賛否両論あるかもしれませんが、私は有効な手法だったと思います。ただ、時に滑稽譚のような雰囲気が生じてしまうのも否定できないこと。

※カタリ派:キリスト教における異端派で、名称はギリシア語のカタロス(清潔)に由来。特徴は、厳格な禁欲主義と、全世界は神の創造した精神的世界と悪魔の創造した物質的世界からなるという二元論。南仏で信仰を集めた為、12世紀以降数度にわたりアルビジョア十字軍が起こされた。14世紀末には消滅。

    

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