佐藤賢一作品のページ No.



31.徳の政治−小説フランス革命 11−
   (文庫:16.徳の政治〜17.ダントン派の処刑

32.革命の終焉−小説フランス革命 12−
   (文庫:17.ダントン派の処刑〜18.革命の終焉)

33.黒王妃

34.ヴァロワ朝−フランス王朝史2−

35.ラ・ミッション

36.ハンニバル戦争

37.ファイト

38.遺訓

39.ナポレオン1−台頭篇−

40.ナポレオン2−野望篇−

41.ナポレオン3−転落篇−


【作家歴】、ジャガーになった男、傭兵ピエール、赤目、双頭の鷲、王妃の離婚、カエサルを撃て、カルチェ・ラタン、二人のガスコン、ダルタニャンの生涯、オクシタニア

 → 佐藤賢一作品のページ No.1


黒い悪魔、ジャンヌ・ダルクまたはロメ、剣闘士スパルタクス、褐色の文豪、女信長、アメリカ第二次南北戦争、カペー朝、象牙色の賢者
、新徴組、ペリー

 → 佐藤賢一作品のページ No.2


革命のライオン、バスチーユの陥落、聖者の戦い、議会の迷走、王の逃亡
、フイヤン派の野望、ジロンド派の興亡、共和政の樹立、ジャコバン派の独裁、粛清の嵐

 → 佐藤賢一作品のページ No.3


日蓮、最終飛行、チャンバラ

 → 佐藤賢一作品のページ No.5


                              

31.

「徳の政治−小説フランス革命・第二部 11− ★★
  (文庫:16.徳の政治〜17.ダントン派の処刑


徳の政治画像

2013年06月
集英社刊
(1700円+税)

2015年03月
2015年04月
集英社文庫化
(11・12巻を3冊)



2013/07/26



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冒頭デムーランが、これでいよいよロベスピエール、ダントンと3人で力を合わせて革命を推進していけると胸を躍らせるところから本巻は始まります。
その直後
エベール派が、本人たちが唖然とする内に断頭台へと送られます。そして左派であるエベール派が消滅すれば左右の均衡が崩れると、次にサン・ジュストが潰そうと狙ったのは右派であるダントン派(デムーランも含まれます)。
表題の“
徳の政治”とは、今や独裁者となったロベスピエールが唱えた言葉ですが、徳には恐怖も必要という彼の言葉通りそのまま“恐怖政治”に繋がります。

穏かそうな題名から受ける印象とは裏腹に、恐怖政治真っ盛りというのが本巻でのストーリィ。それこそロベスピエールが目指した政治だというのですから、何をかいわんや。
国王・王妃、そして
ジロンド派も断頭台の露と消えた今、漸く革命も落ち着く様相を見せているのに、一方では相変わらずの食糧不足という社会不安。そうした世情を背景に処刑が今なお繰り返され、いやギロチンという処刑道具の登場により処刑が加速度を増している状況を思うと、空恐ろしい気分になります。
何の為に人を殺し続けるのか。革命とは一体何なのか。際限なく人を殺し続けることなのか。もはや誰かのためという思いと切り放たれて、革命のための革命としか言えない状況です。

デムーランやダントンのように愛する家庭を持つことなく、独身のまま書斎に引き籠って革命のことばかり考え続けるロベスピエールの姿が異様な印象で浮び上がってきます。
革命という舞台に上がった主な役者たちが次々と死んで退場し、その結果として革命は終息する。長いこの物語も残す処あと1巻のみとなったところで、この長大な歴史劇に究極の人間ドラマという面を強く抱くに至りました。

晴れ間/注意/新たな心配/徳と恐怖/嘘つき派/好機到来/風月法/悩みどころ/結果/告発の構図/電撃作戦/友の決意/対峙/直言/臭い/その日/逆襲/不安材料/戦闘開始/法廷は燃える/リュクサンブールの陰謀/友人の妻/告白/急転/陪審員/革命通り/最後の思い/ロベスピエール/凍りつく/最終報告

               

32.

「革命の終焉−小説フランス革命・第二部 12− ★★
  (文庫:17.ダントン派の処刑〜18.革命の終焉


革命の終焉画像

2013年09月
集英社刊
(1300円+税)

2015年09月
集英社文庫化



2013/10/25



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対立する人物を皆粛正尽くし、これで着々と“徳の政治”をめざして前に進めるかと思えば、これまでの“恐怖政治”故にロベスピエールへの“独裁者”という批判が高まっていく。

何と皮肉なことかと思いますが、一方必然的結果という思いもするのです。
それはまたロベスピエール自身も同じか。国民公会におけるサン・ジュストの演説がきっかけとなり、急転直下ロベスピエールの逮捕要求の声が上がり、ロベスピエールが囚われ人となるまではあっという間。もう怖いくらいです。
しかし、既に革命自体が変質していることに気付いたのか、それともダントンやデムーランといった革命の盟友たちを断頭台に送った故に半ば覚悟する気持ちがあったのか、ロベスピエールやサン・ジュストには粛々と断頭台へ向かう印象を受けます。

多くの人々をそれだけの正当性もないまま次々と死に追いやったフランス革命、その歴史を一人一人の人間に軸足を置いて描いてきた「小説フランス革命」、ついに完結です。

ロベスピエールの死から一年後、女囚たちの会話からは、争いを好む男たちと一線を画す女たちが信じる希望、未来の温かさが感じられて、本当に春の到来を感じるようです。

祭典/頂点/草月法/反攻/決戦/罵り合い/強談/拒絶/妥協/和解/行方不明/演説/泰然自若/朝/報告/思わぬ告発/囚人になれない/苦悩/市政庁/雨/天井/行き先/人々/春

                                     

33.

「黒王妃」 ★★


黒王妃画像

2012年12月
講談社刊
(1900円+税)

2020年05月
集英社文庫



2013/01/07



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「小説フランス革命」を別にして、久々の西洋歴史もの。
フィレンツェのメディチ家からフランス王家に嫁入りし、後に
アンリ二世の王妃となり、シャルル9世アンリ三世の王母となったカトリーヌ・ドゥ・メディシス(1519〜1589)を描いた、中世フランス歴史小説。
このカトリーヌ・ドゥ・メディシス、アンリ二世死去後、常に黒衣を纏っていたことからついた綽名が“
黒王妃”だったとのこと。
なお、私にとっては、フランス料理を現在のような洗練されたものに刷新する立役者となった人物という認識の方がずっと強かった。つまり、彼女がイタリアの食文化をフランスに持ち込んだ訳です。

この黒王妃、それまで地味で目立たない存在であったのにかかわらず、アンリ二世以後は幼い息子王を後見し、実質的なフランスの支配者としてカトリック・プロテスタントが対立する宗教戦争の只中に治世者として生きたという点で、その存在は特筆すべきものがあったようです。それを余すことなく描いたのが本書、という次第。
本書の面白さは、ごく普通の歴史小説の語りに加えて、各章に黒王妃自身の独白という部分が加えられている処にあります。
王位や家臣という身分やフランス人という枠にはまることなく、家族を守ることが第一というイタリア女の視点からフランスの男共、フランス女たちを客観的に観察しかつ対処しているところがあるのですが、結構鋭いものがあります。

思えば、西洋歴史小説については佐藤賢一さん、藤本ひとみさんを両輪のようにして読んでいた時期がありました。
藤本さんが女性、官能的という意外なところからアプローチするのに対し、佐藤さんは主人公のキャラクター重視、主観的かつ磊落な語りに妙味あり。そしてそれは本作品にも共通すること。
なお、藤本ひとみさんにも黒王妃が登場する作品が
暗殺者ロレンザッチョ」「預言者ノストラダムスと2作あります。また、藤本ひとみ歴史館も参考になるかと思います。

    

34.

「ヴァロワ朝−フランス王朝史2− ★★☆


ヴァロワ朝画像

2014年09月
講談社
現代新書刊
(920円+税)



2014/10/13



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カペー朝に続く“フランス王朝史”第2巻。

前巻の「カペー朝」が王位を継承すべき男子に恵まれていたのに対し、ヴァロア朝では次の世代の男子に恵まれていなかったり、王の早世により王太子が幼児だったりと、なにかとバタバタしている印象が強いです。
また、英国との百年戦争、フランス国内においては領地争いが頻発するといった状況。家系をめぐっても相当に複雑であるし。さらに後半に至れば、キリスト教の旧教と新教の対立まで激化する始末。とにかく落ち着かないのです。

一方、代々の王は一人一人個性的。各章の最後で、佐藤さんが各王について寸評する部分が読み処。
双頭の鷲のゲクランも登場しますが、あっという間です。それでもシャルル五世により女子を廃して男子による王位継承ルールが確定され、フランス王家による徴税の仕組みも確立し、フランス王国は一歩一歩大きくなっているのです。王家内のバタバタと国の勢力拡大とは別の問題ということでしょうか。

カペー朝は個人商店、ヴァロワ朝は国家改造により会社形態へと変貌したと佐藤さんは語ります。そして次の「ブルボン朝」で中小企業が大企業への変貌する姿が描かれるらしい。
新書ではありますが、系統的に書かれたフランス王国の歴史物語として、存分な読み応えあり。全12巻におよんだ
小説フランス革命に少しも劣りません(小説ではないので、主人公は特にいないという点が異なりますが)。

はじめに.王朝が交替するということ/1.幸運王フィリップス6世(1328-1350)/2.良王ジャン2世(1350-1364)/3.賢王シャルル5世(1364-1380)/4.狂王シャルル6世(1380-1422)/5.勝利王シャルル7世(1422-1461)/6.ルイ11世(1461-1483)/7.シャルル8世(1483-1498)/8.ルイ12世(1498-1515)/9.フランソワ1世(1515-1547)/10.アンリ2世(1547-1559)/11.フランソワ1世(1559-1560)/12.シャルル9世(1560-1574)/13.アンリ3世(1574-1589)/おわりに.国家改造の物語

  

35.

「ラ・ミッション−軍事顧問ブリュネ− ★☆


ラ・ミッション

2015年02月
文芸春秋刊
(1850円+税)

2017年12月
文春文庫化



2015/03/26



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戊辰戦争の最終舞台である箱館・五稜郭の戦い。旧幕臣側に加わって戦ったフランス陸軍士官=ジュール・ブリュネを主人公とした歴史長編。
幕末〜明治維新にかけては英国外交官アーネスト・サトウの日記が有名ですが、本書を読むと、日本国内での政権争いに諸外国、外国人がいろいろな形で関わっていたのだなぁと今更にして知った思いがします。

徳川幕府は幕末に至ってフランスに軍事指導を依頼し、フランス軍人十数人から成る
軍事顧問団を受け入れていたのだという。その副団長の役にあったのがジュール・ブリュネ陸軍中尉。
やがて
ミカド政権(官軍)とタイクン政権(幕臣)との間に戦闘が始まり、軍事顧問団は解任されたものの教え子である伝習隊が戦っているのを座視していられず、一緒に戦いたいと戊辰戦争に参加した、というのが経緯。
当然がら本ストーリィには、
土方歳三、榎本武揚も登場します。

感じたことの一つは、ブリュネは所詮軍人であって政治家ではない、ということ。目の前で戦闘があれば参加したいというのは軍人としての本能的な反応なのでしょう(※かつて太平洋戦争勃発の原因となる戦争を満州で勝手に始めたのも、ただ戦争がしたかったというだけの軍人たち、と思っています)。
もう一つは、ブリュネらがミカド政権とタイクン政権の戦いを王権を巡って凌ぎ合う2大勢力の争いと見ていたのではないか、ということ。しかし実相は、“排斥”と“抵抗”の争いであり、全く違うものではなかったか、ということ。

ともあれ、これまでの歴史小説とは違う、外国人それもフランス人の視点から見た戊辰戦争、という点が本作品の興味処でした。


プロローグ
第1部 ヨコアマ:1.大阪/2.鳥羽伏見の戦い/3.榎本/4.撤退/5.伝習隊/6.大評定/7.カツ・アワ/8.解任/9.ロッシュ/10.革命/11.国際都市/12.それぞれの立場/13.無血開城/14.教え子たちの求め/15.昇進/16.会談/17.置き土産/18.引き止め/19.夢/20.軍刀/21.ワルツ/22.船出/23.物語
第2部 アコダテ:1.再会/2.話し合い/3.鷲の木/4.進軍/5.箱館府/6.運上所/7.伝言/8.開陽/9.蝦夷平定祝賀会/10.ヨコアマからの報せ/11.閲兵式/12.四稜郭/13.敵軍/14.航海/15.アボルダージュ/16.開戦/17.出撃/18.海戦/19.セヴァストボルの教訓/20.コエトローゴン号/21.脅迫/22.戦場
エピローグ

  

36.
「ハンニバル戦争 HANNIBAL ★★


ハンニバル戦争

2016年01月
中央公論新社
(1850円+税)

2019年01月
中公文庫化



2016/02/15



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佐藤賢一さんのローマものとしては、カエサルを撃て」、「剣闘士スパルタクスに続く11年ぶりの第3作目。また、私としてハンニバルものは、塩野七生「ローマ人の物語−ハンニバル戦記以来13年ぶり。

帝政ローマ以前、共和政ローマ時代において一番面白い歴史スペクタルがこの
ハンニバル率いるカルタゴ軍スキピオ率いるローマ軍との戦い(第二次ポエニ戦争)であることは、言うまでもないことと思います。
本作品の特徴は次の2つ。
一つは、ハンニバル戦争といってもハンニバル側は殆ど書かれず、終始スキピオ個人の視点から描かれていること。
もう一つは、佐藤賢一らしくスキピオにおける感情起伏が誇張的に描かれていること。
前半、ハンニバル率いるカルタゴ軍に幾度もローマ軍は完膚なきまでに叩きのめされ、連敗に次ぐ連敗。
ローマ軍の強さを過信して愚直に前進、力押しするだけ。これではハンニバルの伏兵を含む用意周到な戦術に太刀打ちできないのも当たり前、あまりの完敗ぶりに「もうローマは終わりだ」とスキピオらが絶望するのもむべなる哉。ローマ人ってこんなに馬鹿ばかりだったの?と呆れ、本書を放り出したくなるくらいです。
共和政という政治体制の結果として、指揮官が年中交代するというのも熟練の天才的指揮官を抱くカルタゴ軍に比して断然不利だったことも見過ごせません。

後半は、ハンニバルが南イタリアに居座り、ローマと膠着状態に陥ってから5年後。
前半でどちらかというとお調子者の若輩者として描かれていたスキピオが、自信を喪失した後に学ぶことの必要性に気づき、そして学ぶ相手こそはハンニバルと悟ります。そこから一気に指揮官として飛躍的な成長を遂げた姿を見せる処から、本物語は俄然面白くなります。
史実としての面白さもさることながら、本書の面白さはカルタゴ軍とスキピオ率いるローマ軍との攻防の駆け引きにあると言って間違いないでしょう。
そしてスキピオこそは名将ハンニバルを投影した人物。だからこそ、そこに本物語をスキピオ個人の視点から描く意味がったように思います。
いやぁー、ハンニバルvs.スキピオって本当に面白いですね。


プロローグ/1.カンナエ/2.ザマ/エピローグ

    

37.

「ファイト Muhammad Ali Fight ★☆


ファイト

2017年05月
中央公論社刊

(1700円+税)



2017/07/20



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「蝶のように舞い、蜂のように刺す」を売り文句にしていたヘビー級ボクシング王者=モハメド・アリの、歴史に残ると言って良い4つの名勝負(タイトル戦)をリアルに描いた小説。

ボクシングに特別興味はないし、まして外国のチャンピオンともなればなおのことですが、カシアス・クレイ〜モハメド・アリと同じ時代のヘビー級チャンピオン、何人かの名前は記憶に残っています。それは何故かというと、アリとヘビー級王座を争ったから、という理由に尽きます。
良くも悪くも、モハメド・アリというボクサーがそれだけ格別な存在であったということ。

本作品が極めて異色なのは、本作品の内容は4つの試合だけを描いていること、そして戦っている最中のアリの言葉、アリの思いのみで語られていること。
・第一試合は、初めてヘビー級王座を獲得した
対ソニー・リストン戦(1964.02.25)
・第二試合は、徴兵拒否のため王座と試合を奪われていた後の復帰戦である
対ジョー・フレージャー戦(1971.03.08)
・第三試合は、アフリカのザイールで行われた
対ジョージ・フォアマン戦(1974.10.30)
・第四試合は、一旦引退した2年後、かつてアリのスパーリング・パートナーであった
ラリー・ホームズ戦(1980.10.02)

描かれているのはすべてリング上でのことだけ。
炸裂するパンチ、ぶつかり合う肉体、迸る汗、血・・・・。
試合の様子を目で見るのとは全く違った迫力、興奮がそこにはあります。
モハメド・アリの記念碑、と言うべき一冊でしょう。

※ちなみにモハメド・アリは、42歳の時にパーキンソン病と診断され、2016年6月3日に74歳で死去。


第一試合/第二試合/第三試合/第四試合

        

38.

「遺 訓 ★★


遺訓

2017年12月
新潮社

(1900円+税)

2021年01月
新潮文庫



2018/02/01



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今年のNHK大河歴史ドラマが「西郷どん」ということで、突然西郷隆盛に注目が集まるようになったのか、という観がありますが、本作で重要な軸となる人物もその西郷隆盛。

舞台は明治時代の初期。
初代内務卿として明治政府を牛耳る
大久保利通は、強力な中央集権国家を築き上げる為、その阻害要因となる“武士”を根絶やしにしようと謀略を繰り広げることも厭おうとはしない。
一方、元庄内藩、そして元薩摩藩の侍たちはそんな明治政府のやり方に反発し、抵抗する機会を窺う、という構図。
そして、ついに薩摩藩私学校の侍たちに引っ張り出され、
西郷隆盛を首領に掲げた<西南の役>が始まるという、西南の役前後の、まだ安着しない明治初期の時代を描いた歴史ストーリィ。

主人公となるのは、
新徴組に登場した沖田林太郎の息子=沖田芳次郎(新撰組・沖田総司の甥)、やはり天然理心流の遣い手です。
請われて戊辰戦争の英雄である庄内藩の元家老=
酒井玄蕃の護衛役として中国の天津〜北京へ、そして紆余曲折を経て西郷隆盛の護衛役となり、西南戦争に参戦します。
ただし、芳次郎自身は、ニュートラルな人物と言って良いでしょう。だからこそこの激動の時代を、公平かつ無心な視点から観察し得ている、格好の証言者となり得ていると言えます。

さて、対照的な大久保利通と西郷隆盛、どちらの考え方が正しかったのか。
大久保の行動により“もの言う”存在である武士は駆逐され、その結果、日本国民は政府の決めたとおりに従うだけの存在になってしまった。
しかし、武力を持った武士が生き残れば、二・二六事件のような暴走が繰り返されかねません。
要は、最後に芳次郎が口にするところが望ましい姿ではないかと思うのですが、それは
「南洲翁遺訓」に通じるものなのでしょうか。

庄内地方から天津〜北京、そして薩摩へと、若い芳次郎の冒険譚のような香りもある歴史ドラマとして、読み応え十分でした。


第一部 明治政府
1.鶴岡/2.密偵/3.武村/4.征韓論/5.反乱/6.江藤/7.来客/8.大手門前/9.私学校/10.松ヶ岡/11.清国/12.北京/13.天津/14.夜行/15.談判/16.吉野開墾社/17.開拓使出張所/18.人材/19.遺志/20.試合
第二部 西郷暗殺
1.東北巡察/2.桑畑/3.蚕室/4.山形県/5.東京からの噂/6.事件/7.鹿児島処分/8.秘策/9.再会/10.伊集院/11.不穏/12.東獅子/13.夜/14.朝/15.疑念/16.蜂起/17.急行/18.待ち伏せ/19.追跡/20.武器/21.対決/22.結論
第三部 西南の役
1.電報/2.予定外/3.閣議/4.兆し/5.畑仕事/6.軍議/7.遣い/8.証/9.雨/10.田原坂/11.小舎/12.城山/13.長崎/14.赤坂仮御所/15.紀尾井坂/16.遺訓

  

39.

「ナポレオン1−台頭篇− Napoleon Bonaparte ★★   司馬遼太郎賞


ナポレオン1

2019年08月
集英社

(2200円+税)

2022年06月
集英社文庫



2019/09/01



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「小説ナポレオン」の単行本化。
「台頭篇」「野望篇」「転落篇」三部作の第1巻。

今さらナポレオンではないよなと思ったものの、世界歴史で学んだ以上にナポレオンのことを知っている訳ではないし、
「小説フランス革命」に連なる物語だろうからには、と読むことにした次第。

冒頭のプロローグは、皇帝ナポレオンの戴冠式の様子。
フランス初代皇帝となったものの、自身は元々
コルス(コルシカはフランスの呼び名)男のナブリオーネ・ボナパルテ
父親の画策が実り、フランスの陸軍幼年学校、そこで優秀な成績をあげてパリ陸軍士官学校へ。そして砲兵隊少尉に。
といっても、故郷コルスへの愛着強く、休暇申請してコルスに舞い戻り義勇軍に身を投じます。
(※コルスの独立心は、コルスが手を焼いたジェノヴァ共和国からフランスに売却されたという経緯から)

ところがコルス内戦によってコルスから追い出され、フランス陸軍に舞い戻るしかなくなります。
その後、革命混乱期に軍事的才能を発揮し、24歳にて少将=将軍にまで昇進。
6歳年上の貴族未亡人
ジョゼフィーヌに出会うや夢中となり、結婚後は彼女への会いたさから諸外国軍を撃破し続け、英雄への道を駆け上ります。

結構面白いと感じたのは、ナポレオンという著名な歴史的人物の史実故もあるでしょうけれど、やはり佐藤賢一さんの語りの面白さ故、と思います。
そして主人公ナポレオン、かなり破天荒な人物と感じます。
でも全ては結果次第。結果良ければ、破天荒な人物ゆえに魅了され、従う部下たちも増えていく、という展開だったのか。

しかし、ジョゼフィーヌへの執着の深さといい、危なっかしさを感じる処も多々あり。
「野望篇」「転落篇」へと興味は続きます。


プロローグ/1.成長/2.コルシカ/3.革命/4.パリ/5.イタリア/ナポレオン関連年表

   

40.

「ナポレオン2−野望篇− Napoleon Bonaparte ★★   司馬遼太郎賞


ナポレオン2

2019年09月
集英社

(2200円+税)

2022年07月
集英社文庫



2019/10/01



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<ナポレオン>三部作の第2巻。
エジプト出兵〜
“第一執政”就任〜“皇帝”戴冠〜周辺他国との戦い、というのが第2巻の内容。

ナポレオンが率いるフランス軍のエジプト出兵、その理由は何であったのか、その状況はどうなったのか、等々の状況が本巻を読むとよく分ります。
そして、ナポレオンが帝位に就くまでの経緯も。
(そう言えば、ナポレオンについて語った本をこれまで読んだことがなかったため、知らなかったのも当然と言えば当然です)

佐藤賢一作品らしく、ナポレオンという歴史上の有名人物が、生身の人間として身近に感じられるのが特徴。
ただし、何だかんだといってもハチャメチャな行動ぶりが面白く痛快であった第1巻と比べると、本巻の後になればなるほどその人物像が窮屈になっているように感じます。
政治にも関わり、“第一執政”となり、そして皇位へと足を進める訳ですが、所詮軍人なのでしょう。諸外国と戦い、そして勝利してフランスの栄光を示すことでしか皇帝としての存在感を示せない、と信じ込んでいたのではないか。
まずは政治であっただろう、初期のローマ皇帝たちとその点で大きく違っていたように感じます。

大きな勝利をつかもうと思えば、ますます大きな戦いにはまり込まざるを得ない・・・軍人とは結局ほどほどの処で矛を収める、相手国と妥協するという術をしらないのか、と思います。
もしそれを知っていたら、皇帝ナポレオン、フランスのその後はどうなっていたかと思うのですが、それは言っても詮無いことでしょう。

1.冒険/2.エジプト/3.権力/4.戴冠/5.覇業

    

41.

「ナポレオン3−転落篇− Napoleon Bonaparte ★★   司馬遼太郎賞


ナポレオン3

2019年10月
集英社

(2200円+税)

2022年08月
集英社文庫



2019/11/01



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<ナポレオン>三部作の第3巻。

功成り名遂げるには苦労と時間がかかりますが、栄光の座から転落するのはあっという間、であることをまざまざと感じさせられる巻です。

ナポレオン、自分をローマ帝国皇帝の再現に準えていたかのようです。そこにそもそもの間違い、ナポレオンの妄想があったのではないか。
ローマ帝国の初期の皇帝は、軍人であるより政治家でした。しかし、所詮ナポレオンは政治家ではなく、軍人に過ぎなかったのでしょう。

軍人、軍隊の悪い処は、戦い続けたがり、どこで納めるかという歯止めが利かない点にある、と思っています。
戦い続ければ、相手に作戦を練られ、敗れることも生じてくる。戦うことしか頭になかったナポレオンが、他国の合同軍に敗れたのは必然的な結果だったと言うべきでしょう。
そしてその背景には、ガリア民族等がローマ帝国の傘下に入ったのはそれだけのメリットがあったからですが、ナポレオンのフランスによるヨーロッパ統一は単なる軍事力による強制的な支配に過ぎなかった、という事実があったはず。
皇帝になったところから、ナポレオンの間違いが始まった、と感じます。

なお、上記のこと、傑出した個人の有無を除けば、太平洋戦争における帝国陸海軍の妄想による軍事的突進と共通するところが多いように感じます。

フランスの歴史上、ナポレオンという人物が登場し、王政と民主政の間に<帝政>という時代があった、それに尽きるという思いです。

1.君臨/2.絶頂/3.失脚/4.復活/5.ワーテルロー/エピローグ

      

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