|
31.北村薫の創作表現講義 32.野球の国のアリス 33.鷺と雪 35.いとま申して 36.飲めば都 37.八月の六日間 38.慶應本科と折口信夫−いとま申して2− 39.太宰治の辞書 40.中野のお父さん |
【作家歴】、空飛ぶ馬、夜の蝉、秋の花、覆面作家は二人いる、六の宮の姫君、冬のオペラ、スキップ、覆面作家の愛の歌、覆面作家の夢の家、ターン |
朝霧、謎のギャラリー、謎のギャラリー特別室、謎のギャラリー特別室2、謎のギャラリー特別室3、謎のギャラリー最後の部屋、月の砂漠をさばさばと、盤上の敵、リセット、北村薫の本格ミステリ・ライブラリー、詩歌の待ち伏せ(上)、詩歌の待ち伏せ(下) |
街の灯、語り女たち、ミステリ十二か月、ニッポン硬貨の謎、北村薫のミステリー館、紙魚家崩壊、ひとがた流し、玻璃の天、1950年のバックトス、北村薫のミステリびっくり箱 |
遠い唇、ヴェネツィア便り、小萩のかんざし、中野のお父さんは謎を解くか、中野のお父さんと五つの謎 |
●「北村薫の創作表現講義−あなたを読む、わたしを書く−」● ★★ |
|
|
2005、2006年の2年間に亘り、北村さんは母校である早稲田大学の客員教授として「創作指導」「表現演習」の講義を担当したとのこと。 いくら北村薫さんとはいえ、“講義”ものとなると固そうだなぁと読むのを見送ろうと思ったのですが、巡り合わせで手に取ったところ、これが大正解。 「創作表現講義」という題名、一見小説を書くための作法云々といった内容と思えてしまうのですが、さに非ず。本書は技巧論を語るものでは全くありません。 さらに、若い女性歌人の天野慶さんが登場するかと思えば、出版社で文芸担当のベテラン編集者、若手編集長も登場し、新人賞の新設ならびに選考の舞台裏も語られるといった具合。 ※宮部みゆき、高村薫、伊坂幸太郎、帚木蓬生さん等人気作家の名前も度々飛び出し、小説好きにとって本講義の楽しさ、興味は尽きることありません。 |
●「野球の国のアリス」● ★★ |
|
2016年01月
|
“かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド”シリーズ(講談社)の第14回配本作品。 アリスは野球好きな女の子。そのうえ好投手、ときている。 その何とも言えない温かさのあるところが、北村作品ならではの魅力。清々しく、とても気持ち良い作品です。 |
●「鷺と雪」● ★☆ 直木賞 |
|
2011年10月
|
士族令嬢・花村英子&お付き女性運転手・別宮みつ子(ベッキーさん)のコンビによる日常ミステリシリーズ、第3弾にして完結編とのこと。 日常ミステリではあるのですが、ベッキーさんという守護者を得た英子が、謎めいた事柄を解決するということを通じて見聞を広め、一人の若い女性として成長していく姿を描くところに骨子があると感じられます。 ・「不在の父」は、英子の兄=雅吉が浅草の暗黒街で滝沢子爵らしいルンペン姿の男性を見かけた、というところから始まるストーリィ。 本書の最後は、昭和11年
2月26日の夜。そう、ニニ六事件の日です。 不在の父/獅子と地下鉄/鷺と雪 |
●「元気でいてよ、R2-D2。」● ★☆ |
|
2012年08月 2015年10月 2009/09/18 |
ふと怖い、そんな話からなる短篇集。 中でも「腹中の恐怖」が出色。 私としては表題作の「元気でいてよ、R2−D2。」が好きです。 マスカット・グリーン/腹中の恐怖/微塵隠れのあっこちゃん/三つ、惚れられ/よいしょ、よいしょ/元気でいてよ、R2-D2。/さりさりさり/ざくろ |
●「いとま申して−『童話』の人びと−」● ★★ | |
2013年08月
|
本書は、北村さんのお父上が残した膨大な日記を基にした、大正から昭和初期にかけての時代を背景にした、文学青年の青春譜。 教師だったという北村さんの父上=宮本演彦(のぶひこ)氏は、明治42年生、横浜市保土ヶ谷の眼科医の4男。かなりの文学少年〜青年だったようです。 本書を読んでいると不思議な思いに捉われます。 |
●「飲めば都」● ★★ | |
2013年11月
|
文芸出版社の編集者となれば、如何にも個性強そうです。 本書主人公は、そんな女性編集者の一人、小酒井都さん。 そして、愛すべき酒好き女性は、都さんだけに留まりません。 仕事、お酒、恋愛と、文芸出版業界で働く愛嬌に満ちた女性たちの、仕事&お酒の日々が、ちょっと傍観者風に北村さんの手によって語られていきます。 |
37. | |
「八月の六日間」 ★★ | |
2016年06月
|
立山連峰で山小屋を営む家族を描いた映画「春を背負って」を観たすぐ後に、本書、編集者として忙しい仕事の合間をみつけて単独登山するアラフォー女子を主人公にした小説を読んでいる次第で、この偶然は楽しい。 映画では山小屋を営む側の視点、本作品ではその山小屋の世話になりながら登山する側の視点に立っている訳で、短い間に両方の視点から山登りの魅力を眺めている気がします。 約3年という期間の中で、計5回の登山行が描かれます。 ごく普通の女性の、ごく普通の登山が描かれているだけで、格別なドラマやサスペンスはまるでありません。その点では、実に地味ぃ〜な作品。北村薫さんは日常ミステリというジャンルを広めた立役者ですけれど、それに並べて言うならば、本書は日常登山を描いた作品。 ごく普通であっても、いやごく普通の登山ですから、出会いを楽しめる相手もいれば苦手な人もおり、また体調を崩す等々のアクシデントもあり。 そんなストーリィ、私のように登山に縁遠い人間から見ると、天界の地での出来事を低い位置から仰ぎ見ているような気持になります。 スポーツ苦手な私がスポーツ小説を読むという形でスポーツを楽しめるのと同様、本書は読むという形で誰もが登山をちょっと楽しめる、登山小説。(登山の楽しみは味わえても登山の苦しさは感じずに済むところは利点ですが、でも流石に眺望だけは想像力で補えません) 日常仕事から離れた時間が新鮮な、女子系登山小説。緩やかな楽しさが魅力です。 九月の五日間/二月の三日間/十月の五日間/五月の三日間/八月の六日間 |
38. | |
「慶應本科と折口信夫−いとま申して2−」 ★☆ | |
2018年01月
|
北村さんのお父上=演彦氏が残した膨大な日記を基に、大正から昭和初期という時代を背景にした文学青年の青春譜=“いとま申して”三部作の第2弾。 前巻が、神奈川中学から慶應義塾大学予科生の時代(大正末〜昭和4年)を描いていたのに対し、本巻では慶應本科に進んでの大学本科生時代を描いた内容。 ※「予科」とは専門学科に進む前の教養課程に相当し、旧制高校とほぼ同じ教育内容だったらしい。 進学した当時の国文科には、巨人というべき西脇順三郎と、演彦氏にとって終生の師となる折口信夫の2人がいた、ということから本書題名、そして表紙絵は慶應の三田旧図書館、という次第になったようです。 元になっているのが日記ですから、毎日の出来事が具体的に書き綴られています。歌舞伎役者のこと、歌舞伎見物や大学で行われた講演のこと、早慶戦(慶應では慶早戦という)のこと、大学で行われた万葉旅行(奈良〜京都を巡る旅)のこと、家族のこと、困窮している実態が明らかになった家計のこと。 |
39. | |
「太宰治の辞書」 ★★ | |
2017年10月
|
<私>シリーズの最新刊。第5冊目であった「朝霧」が刊行されたのが1998年。待てど暮らせど続刊が出る様子はなく、もうシリーズは終わったものと諦めていただけに感慨があります。 北村さん自身、もう書かないつもりだったそうです。<私>が結婚するのは嫌だし婿も見たくなかった、とか。(笑) それが最新刊に繋がったのは、新潮文庫創刊当時の完全復刻版、その巻末の観光案内にピエール・ロチの名前があったからだそうです。ロチの「日本印象記」から芥川龍之介「舞踏会」〜太宰治「女生徒」〜太宰治の辞書の正体は?と考えが広がり、そんなの謎を解き明かそうとするのは<私>以外にはないと再登場に繋がったのだそうです。 第4冊目「六の宮の姫君」以来の文学上の謎解き。 芥川、太宰作品の他にフローベール「ボヴァリー夫人」等々も登場してその辺りも興味深いのですが、本書における関心の的は表題通りあくまで太宰治にあります。 とはいえ、シリーズのファンとしては、17年ぶりに<私>シリーズに相見えたとあって、久々に同窓会で旧友たちに会ったという気分の方が強いです。(※太宰治、私は余り好きにならなかったんですよねぇ。) <私>は今どういう状況にあるのか、学生時代の親友=正ちゃんたちは? そして春桜亭円紫師匠は健在でいるのか、等々。 その辺りのことを知るには、本書を読んでもらうのが一番でしょう。 さて、<私>シリーズの続編はあるのか、ないのか。まぁ、それは北村薫さんにお任せしておこうと思います。 花火/女生徒/太宰治の辞書 |
40. | |
「中野のお父さん」 ★★ |
2018年09月
|
日常ミステリ、それも出版社業務や文学上の謎を主体とした短篇集。 北村薫さんのシリーズものでの探偵役と言うと、「空飛ぶ馬」に始まる春桜亭円紫師匠と“覆面作家”の新妻千秋の2人が代表的存在ですが、日常ミステリといえば円紫師匠。それ以来の本格的(?)日常ミステリということで、読む前から期待大でした。 女子大生の“私”&円紫師匠というコンビが、年を経て編集者の娘=田川美希&百科事典並み博覧強記の高校教師である“お父さん”というコンビに発展した、と言って良いと思います。そのうえオルツィの安楽椅子探偵ならぬ“コタツ探偵”、また娘が可愛くてならない父親というキャラクター像もほのぼのと温かく、私と同年代という親近感もあって私にはとても楽しく感じられます。 まさに北村薫さんの集大成と言うに値する一冊です。 日常ミステリ、文学に関わる謎が多彩という面白さに、女性編集者たちの生態を垣間見るといった面白さ。前者は北村薫さんオリジナルの魅力ですが、後者は長年に亘る北村薫さんと編集者たちの付き合いがあってこそと思います。実際、北村薫さんを担当する編集女子4人から仕入れたエピソードがいろいろ本書に織り込まれているそうです。それ故のリアリティ(笑)。 “中野のお父さん”が北村薫さん自身を投影していると読者が思うのは当然のことでしょう。つまり、<中野のお父さん&美希>は<北村薫さん&女性編集者たち>という関係式が自然と頭に浮かんできます。 収録8篇の内私が好きなのは「夢の風車」「幻の追伸」「謎の献本」の3篇。「闇の吉原」は別格と言うべき哉。最後の「数の魔術」は甘いデザートというところでしょう。 本書の父娘コンビががシリーズものになることを、ファンとしては願ってやみません。 夢の風車/幻の追伸/鏡の世界/闇の吉原/冬の走者/謎の献本/茶の痕跡/数の魔術 |
北村薫作品のページ No.2 へ 北村薫作品のページ No.3 へ
北村薫作品のページ No.4 へ 北村薫作品のページ No.5 へ