村 薫作品のページ


1953年大阪府大阪市生、国際基督教大学教養学部卒後、外資系商社に勤務。90年「黄金を抱いて翔べ」にて第3回日本推理サスペンス大賞、92年「リヴィエラを撃て」にて第11回日本推理作家協会大賞賞、93年「マークスの山」にて 第109回直木賞および第12回日本冒険小説協会大賞、97年「レディ・ジョーカー」にて毎日出版文化賞、2006年「新リア王」にて第4回親鸞賞、10年「太陽を曳く馬」にて第61回読売文学賞を受賞。 


1.
マークスの山

2.
四人組がいた。

 


 

1.

「マークスの山」 ★★      直木賞

  


1993
年3月
早川書房刊


2003年1月
講談社文庫化
上下2巻




1993/10/30

評判があまりに高いことから読むに至った一冊。
迫真の警察小説と呼ぶに相応しい作品ですが、そのうえにロマンティシズムの香りも感じます。女性作家による作品とはとても思えない迫力に驚きを禁じ得ません。

ストーリィは、登山者の殺害事件から始まります。
警視庁捜査第一課第7係の主任・合田警部補を中心とする捜査の過程では、係内の刑事間の緊張関係、警察と検察の対立、第10係との係間の確執という、警察内部に巣くう問題点までも明らかにされていきます。刑事達をここまで醜悪な存在に書き立てなくてもいいのではないか、と思う程。
そのうえ、事件は不明なことだらけ。そんな絶望的な捜査活動から一体何が生まれようというのか。しかし、少しずつ捜査は動き始め、以後急速にストーリィは盛り上がっていきます。そんな展開のしようは、まさに凄いの一言。
ストーリィは、犯人の内なる危険な声の主“マークス”と、捜査する側の代表である合田警部補の、双方の立場から語られていきます。
単なるサスペンスでなく、彼らの内にある問題点を、事件の要素として、あるいは捜査する側の人間的問題点として明らかにしていくという趣向。それ故にこそ、“迫真の警察小説”と呼ばれるに相応しい。
まさに充足感と共に重量感のある一冊です。

  

2.

「四人組がいた。」 ★★


四人組がいた。

2014年08月
文芸春秋刊
(1500円+税)

  


2014/09/22

 


amazon.co.jp

「マークスの山」以来の高村薫作品。
ハードボイルド作品には手が出なかったのですが、今回は
「高村薫、ユーモア小説に挑む」とのことでしたので、それならば読んでみようかと思った次第。

山奥の忘れられたような村が本書の舞台。
そこで
元村長、元助役、郵便局長、野菜直売りのキクエ小母さんという老人4人は、日がな一日郵便局兼集会所に陣取り、法螺話を繰り広げては日々を過ごしているという状況。

その法螺話が凄い。事実を話しているかと思えばいつのまにか法螺としか思えないような話が入り混じり、ついには法螺話の方が主体になっているという具合。もしやこれは法螺ではなく実話だったのかと、まるで煙を撒かれたような気分です。
そんな話が実しやかに思えてくるのも、場所が山奥の、世間から見捨てられたような過疎の村だからこそ。
みんなが見捨てるからこんな村になってしまったのだという、強烈な毒気が本書からは感じられます。

それにしても、過疎地保育所兼老人デイサービスセンターなるもので保育仕事に奮闘するのが子沢山のタヌキだったり(
四人組、危うし!)、小娘狸48匹が集まってアイドルグループ“TNB48”を結成しフェスティバルで踊ったり(四人組、伝説になる)と、ここにまで至ると社会風刺も強烈過ぎて絶句。
山奥の村は、人間と四つ足たちの関係が近いですねぇ。(笑)
最終章については、もはや語る言葉もありません。

四人組、怪しむ/四人組、夢を見る/四人組、豚に逢う/四人組、村史を語る/四人組、跳ねる/四人組、虎になる/四人組、大いに学習する/四人組、タニシと遊ぶ/四人組、後塵を拝す/四人組、危うし!/四人組、伝説になる/四人組、失せる

  


  

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