伊坂幸太郎作品のページ No.1


1971年千葉県生、東北大学法学部卒。96年「悪党たちが目にしみる」にてサントリーミステリ大賞佳作、2000年「オーデュポンの祈り」にて第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞して作家デビュー。2003年上期に「重力ピエロ」、04年上期に「チルドレン」、同年下期に「グラスホッパー」にて直木賞候補。04年「アヒルと鴨のコインロッカー」にて第25回吉川英治文学新人賞、短篇「死神の精度」にて第57回日本推理作家協会賞短篇部門、2008年「ゴールデンスランバー」にて第5回本屋大賞および第21回山本周五郎賞を受賞。


1.
オーデュボンの祈り

2.ラッシュライフ

3.陽気なギャングが地球を回す

4.重力ピエロ

5.アヒルと鴨のコインロッカー

6.チルドレン

7.グラスホッパー

8.死神の精度

9.魔王

10.砂漠


終末のフール、陽気なギャングの日常と襲撃、フィッシュストーリー、絆のはなし、ゴールデンスランバー、モダンタイムス、あるキング、SOSの猿、オー!ファーザー、バイバイブラックバード

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.2


マリアビートル、3652、仙台ぐらし、PK、夜の国のクーパー、残り全部バケーション、ガソリン生活、死神の浮力、首折り男のための協奏曲、アイネクライネナハトムジーク

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.3


キャプテンサンダーボルト、火星に住むつもりかい?、ジャイロスコープ、陽気なギャングは三つ数えろ、サブマリン、AX、ホワイトラビット、クリスマスを探偵と、フーガはユーガ、シーソーモンスター

 → 伊坂幸太郎作品のページ No.4

  


    

1.

●「オーデュボンの祈り」● ★★☆     新潮ミステリー倶楽部賞


オーデュポンの祈り画像

2000年12月
新潮社刊

2003年12月
新潮文庫

(629円+税)



2003/12/27

他には見られないような新感覚のミステリ。
理屈抜きに惹きつけられ、読み進む中に居心地の良さを感じるところが、何とも言えない魅力です。

コンビニ強盗未遂で逃走中の伊藤が目を覚ましたのは、江戸時代から外部との接触を絶っているという、萩島にあるアパートの一室。
この萩島に住むのは、奇妙な人々ばかり。年中嘘ばかりついている画家、悪人の射殺を黙認されている男、等々。そして極めつけは、言葉を喋り、未来を見通す、カカシの優午という存在。
翌日、その優午がバラバラにされ、頭を持ち去られるという事件が起きます。何故優午は殺されたのか、何故優午はそれを予知できなかったのか、というのが本書の謎。
舞台の荻島は、不条理な世界。つい、カフカ「城」の世界を思い出してしまいます。まるでカフカ+ミステリという気分。
しかし、この作品、なんとなく居心地が良い。騒々しい音も、雑多な人々の群れも、ここには無いからでしょう。
また、謎を解こうとする伊藤の行動は、萩島の人々を知ろうとするものでもあり、探偵臭さのないところがもうひとつの魅力。
本書の結末は、誰も予想できないものでしょう。
安らぎと解決をもたらすその結末は、新しいミステリの登場を確信させてくれます。お薦め。

    

2.

●「ラッシュライフ」● ★★


ラッシュライフ画像

2002年07月
新潮社刊

(1700円+税)

2005年05月
新潮文庫化


2004/01/22

帯の紹介文には「解体された神様、鉢合わせの泥棒、歩き出した轢死体、拳銃を拾った失業者、拝金主義の富豪−。バラバラに進む五つのピースが、最後の一瞬で一枚の騙し絵に組み上がる」とあります。
確かにその通り。5人の主要人物による5つのストーリィが、交互に絡み合うようにして進んでいきます。
各々のストーリィ、サスペンスと言ったら良いのか、それとも犯罪小説と言うべきか。結局はそのどれとも言えないようです。
ハラハラドキドキする場面が幾度もありますが、どこかノホホンとしてユーモラス。“袖触れ合うも多生の縁”とでも言うべき5人の関わり合いがどう読者の前に展開されていくのか、読み進むに連れてどう謎解きされるのか、という点に本作品の面白さがあります。
複数の、そして時間が相前後するストーリィを、“騙し絵”の如く一つに嵌め込んだところに、伊坂さんの腕の冴えがあります。

※複数のストーリィが最後に収斂する作品として恩田陸「ドミノを思い出しますが、こうした手の作品はたまに読むと実に楽しいものです。なお、「ドミノ」と異なり、本作品の魅力がその巧妙な仕掛けにあることは、言うまでもありません。

   

3.

●「陽気なギャングが地球を回す」● ★★

陽気なギャングが地球を回す画像

2003年02月
祥伝社刊
NON NOVEL
(880円+税)

2006年02月
祥伝社文庫化

2004/02/14

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銀行強盗団4人組を主人公とした、明るい犯罪小説。
嘘を見抜く才能をもつ、市役所係長の成瀬がリーダー的存在。講釈好きな喫茶店主の響野、掏りの若き名人・久遠と、未婚母で精確な体内時計の持主・雪子、というのがその4人。

その4人が、スピーディかつスマートに銀行強盗に成功したと思ったら、逃走途中に現金輸送車襲撃犯と衝突事故を起こし、折角の現金を車ごと奪われてしまう。
久遠が掏り取った財布から相手一味を探し当てるが、そこで出会ったのは殺害死体。一方、雪子の息子・慎一は悪質なイジメ事件に巻き込まれと、4人の周辺はとかく気忙しくなります。

遭遇事故の裏にはどんな仕掛けがあったのか。
“良質な強盗グループ”と“悪質な強盗グループ”の知恵比べ、というような展開がとにかく楽しい。
銀行強盗が犯罪であることは言うまでもありませんが、銀行強盗を見事なチームプレーでビジネスのように実行する成瀬たち4人+1人(響野の妻・祥子)の人物造形が見事で、気持ち良い。
明るくユニークで、気分良く楽しめる犯罪小説です。お薦め。

  ※ 映画化 → 「陽気なギャングが地球を回す

 

●「重力ピエロ」● ★★


重力ピエロ画像

2003年04月
新潮社刊

(1500円+税)

2006年07月
新潮文庫化



2003/09/23

家族小説?、ミステリ?、それとも兄弟2人の青春小説? 正直なところ、そのどれとも言い難い小説です。
深夜、壁に落書きされるグラフティアート、そしてそれに関連するかのようき起こる連続放火事件。泉水(いずみ)の兄弟がその謎、犯人を追うというストーリィ。
2人の良き相談相手は、癌で入院中の父親。しかし、この家族には秘密があった。それは、亡き母親が未成年のレイプ常習犯に襲われ、その結果として生まれたのが春だったということ。

本作品の珍しいところは、短く章が切られ、そのひとつひとつに内容を端的に表す章題が振られていること。その所為か、とてもテンポ良く読み進みます。
そして中味はと言えば、泉水が春のことを気遣い、父親もまた春へ太い愛情を注いでいる気配が、色濃く感じられます。
その裏返しにおいて、春自身は何を思い、どう生きていこうと考えているのか、本作品はその春という青年に関わるミステリと言って良いでしょう。(本来レイプの結果となる子をそのまま産み育てることなど、およそ考えられないこと。それ故、そのこと自体から、本書には謎めいた雰囲気が漂います。)
それと、春を付回す元ストーカー、郷田順子という女性の登場もなかなか面白い。
テンポは良いけれど、結果的には混沌としたストーリィ。それ以上言い表すのは手に余る、というのが正直な感想です。

なお、楽しく生きていれば、重力など無関係にふわりふわりと軽快に動き回ることができる、というのが本書題名の意味らしい。

       

5.

●「アヒルと鴨のコインロッカー」● ★★    吉川英治文学新人賞


アヒルと鴨とコインロッカー画像

2003年11月
東京創元社

(1500円+税)

2006年12月
創元推理文庫化

2004/01/24

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大学入学のためアパートに入居したら、なんと最初に知り合った隣人から書店襲撃に誘い込まれた、というのが出だし。
そのままストーリィは、大学1年生である僕(椎名)が語る現在と、ペットショップ店員のわたし(琴美)が語る2年前と、交互に語られていきます。
隣人が書店を襲撃した理由は何なのか、そこに至る経緯を僕は探らずにはいられません。そして一方、わたしが巻き込まれた2年前のペット虐殺事件。その結末はどうなるのか。

ミステリ小説というより、ストーリィ展開自体にミステリの妙味がある小説、と言うべきでしょう。
過去を探る展開と、結末に向かう展開。2つの方向から1つの結果に向かうストーリィですから、一度読み始めたらもう目が離せません。そのうえ、雰囲気の良さ、居心地が良さがあるのですから、読んでいてとても楽しい。
ストーリィ自体は、途中大事件が起きる訳でなく、主人公の優柔不断ぶりを時にじれったくも感じるくらいなのですが、青春の香りも漂う本作品の印象は、清冽です。
最後は、してやられたと思う一方、哀しさと共に爽やかな余韻が残ります。斬新かつ、見事な手並みの作品です。

        

6.

●「チルドレン」● ★☆


チルドレン画像

2004年05月
講談社刊

(1500円+税)

2007年05月
講談社文庫化



2004/12/13

「短編集のふりをした長編小説です。帯のどこかに“短編集”とあっても信じないでください。伊坂幸太郎」と帯の裏には書かれています。
素直に読むと、主人公を数人で持ち回りする連作短篇集、としか思えないのですが、はて?
ストーリィはどんなものかというと、サスペンスやミステリという程ではありませんが、各篇毎にミステリ的な落ちが用意されている。かといって、日常ミステリという感じでもない。
そのいずれとも分類できない、同じような作品は何処にもない、といった雰囲気が伊坂作品の魅力なのですが、本書で伊坂さんが意図するものは何なのか? まるでこの小説自体がミステリ、といった風です。

以下は私なりの解釈ですが、ネタばらしになっているかもしれませんので、ご注意の程。
各篇ごとに語り手は変わっていきますが、登場人物中最も目立つ存在である陣内が主人公になることはありません。しかし、その陣内こそが、5篇を繋ぐ共通点なのです。
この陣内、学生時代に銀行強盗事件に巻き込まれるや平気で犯人に食って掛かり、家裁調査官になっては「奇跡を起こすんだ」という一方で「適当にやればいい」と人を煙に巻くような言動ばかり。口論となれば、筋が立とうが立つまいが決して言い負けないという、無茶苦茶ぶり。しかし、すこぶる個性的な人物。
ハタと気付くと、陣内という人物を側面から描き出すというのが本書の狙いなのか。だからこそ“長篇”なのかと、思い当たります。
「チルドレン」という題名から予想したのとは全く違った内容でしたけれど、各篇毎の味わいと、全体を長篇と捉えての味わいがシンクロするという、多層的な味わいのある作品です。
いろいろな味わいを含んでいそうなケーキを食す楽しさ、と喩えたいところです。

バンク/チルドレン/レトリーバー/チルドレン2/イン

   

7.

●「グラスホッパー」● ★★


グラスホッパー画像

2004年07月
角川書店

(1500円+税)

2007年06月
角川文庫化


2004/08/29


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コメディなのか、シリアス・ドラマなのか、それともやはりサスペンスか、そのどれとも言えない新感覚の殺し屋ストーリィ。

本作品には、いろいろなタイプの殺し屋たちが登場します。
押し出して交通事故死させる“押し屋”、自殺させる“自殺屋”、ナイフ遣いの若手殺し屋、等々。(※等々は内緒)
そして、一人場違いなのが、愛妻を遊び半分に殺され復讐のため相手の悪質販売会社の営業社員となった元教師の鈴木
最初はバラバラに始まったストーリィが、やがて一つの場所、一つの事件に収斂していきます。
しかし、復讐をめざす割りに鈴木はどこか暢気で間が抜けているし、自殺屋のは大事なところでコメディ・ホラーのような幻覚に襲われるのが常。また、ナイフのは、軽いノリで短絡的に行動する。そもそも、一つの事件に収斂していくその過程自体が、なんで?なのです。
だからこそ、コメディなのか、シリアスなのか、サスペンスなのか、どれとも言えないという次第。それでも、登場する一人一人の人物(悪役も含め)、ひとつひとつの展開がどれも絵になっていて、目一杯楽しめます。

最初に読む時は戸惑いつつも、2回目に読む時はもっと細部まで楽しめるに違いない。
小説の新しい味わいが楽しめる、そんな一冊です。

※ 映画化 → 「グラスホッパー

     

8.

●「死神の精度 ACCURACY OF DEATH」● ★★☆  日本推理作家協会賞短篇部門


死神の精度画像

2005年06月
文芸春秋

(1429円+税)

2008年02月
文春文庫化



2005/07/12



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読み始めてすぐ、これはいい! と思いました。
上質で独創的なデザイン、それでいて価格はお手頃という、掘り出し物を見つけた気分です。

主人公は「千葉」と名乗る死神。命じられた対象者を1週間にわたり調査し、最終的に“死”を「可」とするか「見送り」とするかの決定を下すのが仕事という調査担当。
死神が主人公であるうえにそうしたストーリィですから、全体をひんやりと冷たく陰のある雰囲気が蔽っています。
それでいて、その覆いの下にはコミカルでユーモラスな要素が多分にあり、各ストーリィはそれぞれ要素が異なるうえにパロディ風味も加えられているという、盛り沢山。また、CD好きでとぼけた観のある死神と各篇登場人物とのやり取りもまた楽しい。
これってかなり贅沢な楽しさです。

伊坂作品はいつも他では味わえない趣向を楽しませてくれるものばかりでしたが、洒落ていてしかもクールという点で本書は中でも抜きんでている短篇集といって過言ではありません。
うまいなァと、心から唸らされる一冊。これはもう、絶対オススメという他ありません。嬉しい上質の連作短篇集。

「死神の精度」は現代都会版シンデレラ?、「死神と藤田」はハードボイルド、「吹雪に死神」はアガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」のパロディ、「恋愛で死神」は純愛もの、「旅路を死神」はサスペンス・パロディ+ミステリ。
そして最後の「死神対老女」、そのキレ味には完全に脱帽です。

死神の精度/死神と藤田/吹雪に死神/恋愛で死神/旅路を死神/死神対老女

なお、「死神の精度」で話題に上る「天使は図書館に集まる」という映画は、M・ライアンとN・ケイジ主演のシティ・オブ・エンジェル

   

9.

●「魔 王」● ★☆


魔王画像

2005年10月
講談社

(1238円+税)

2008年09月
講談社文庫化


2006/01/06


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話題になった作品であり、力作とは思うのですけれど、私の好みからすると首を傾げずにはいられない。

犬養という少数野党の若手党首が登場します。その断言的な口ぶり、毅然とした態度から、徐々に大衆の支持を集めつつあるという人物。ファシズムではないけれど、強気で大衆を鼓舞し操ってしまうところはそっくりで、冷静に見ればそうしたうねりが非常な危うさを秘めているのは明らかなこと。しかし、渦中にある大衆はそれに気づかない。
小泉首相の一部の言動、中国での大規模な反日行動を連想させ、いつそれが日本で起こっても不思議ないという警鐘を発する作品だと思います。
前半「魔王」の主人公となるのは、何でもかでも考え過ぎるのが欠点といわれている若手サラリーマン、安藤。ふと授かった能力を駆使し、ただ一人でも犬養に立ち向かおうとしますが・・・。
後半の「呼吸」はその5年後、安藤の弟である潤也と詩織にまつわるストーリィ。
現代日本が内包する問題点を晒し出し、警鐘を鳴らしているという点では注目に値する作品でしょうけれど、私としてはあまり好きにはなれない。
なお、犬養のもたらす危うさと、広々とした青空を対照的に描き出しているところが印象に残ります。

魔王/呼吸

   

10.

●「砂 漠」● ★★


砂漠画像

2005年12月
実業之日本社
(1524円+税)

2010年07月
新潮文庫化

2017年10月
実業之日本社
文庫化


2006/03/18


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仙台の国立大学に通う5人の大学生(男3人+女2人)を主人公に、大学生活4年間を春夏秋冬に分けて描いた青春グラフティ。
新たな青春小説登場、という印象の一作です。

5人とも、極めて個性的かつ極端なところあり。
各々性格もバラバラな5人が仲良くグループ付き合いするというのも、学生時代だからこそ在り得る楽しさ。そんな彼らが意義ある青春時代を送るストーリィかと言えば、決してそんなことはありません。
むしろ、麻雀、合コン、挙句の果てに不良ホストグループとの揉め事、学祭での超能力イベント等々、余計なことに積極的に頭を突っ込んでいくというストーリィ。
「砂漠に雨を降らせてみよう!」を合言葉に、不可能事にもあえて挑戦してみようとするところに学生らしい自由さ、奔放さが感じられます。主人公たちの個性と共に、本書の楽しさはそこにあると言って良いでしょう。
青春小説らしく恋愛ごとも欠かせない要素としてきちんと描かれていますが、主人公はじめ、恋人関係に至る過程、セックス部分を敢えて割愛しているところが私には快い。

何か意義のあることをやり遂げたということはないけれど、大学生活を振り返った時に決して忘れられない思い出をきちんと残した、そんなキャンパス・ストーリィ。
彼らの4年間を読む楽しさは、格別でした。

※5人は、鳥瞰する習癖の僕(北村)、お調子者の鳥井、周囲から浮いた西嶋、超能力のある、美人しかし無表情の東堂
それに加えて僕の恋人となるフリーター・鳩麦さんもなかなか魅力的な存在。本書に良いアクセントを与えています。

 

伊坂幸太郎作品のページ No.2    伊坂幸太郎作品のページ No.3

伊坂幸太郎作品のページ No.4

 


  

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