1999.6
社会福祉基礎構造改革の方向

座談会1
いくつかの追従的な意見や自虐的な意見も多く散見される。これまでの福祉を「一部の例外的な者に対する救済事業」とまで言い切っている人がいたが、普遍主義の欺瞞については拙稿で述べているので参照のこと。
社協の取り組みが重点的に前半述べられており
、地域福祉計画の策定について社協がリーダーシップをとる必要があると述べている。月刊福祉は、社協がスポンサーであるので、雑誌自体が社協寄りの特集が多いことも念頭に置く必要がある。しかし、実際に社協が地域福祉のリーダーシップをとる必要があるとか、コーディネート的存在だとか、機関として事業型とか色々と役割があり期待されるとか言われている割には、天下りの受け皿だったり、行政の外郭機関としてマンネリに陥っているという声も良く聴かれる。この座談会でも話されているが、少なくても地域福祉計画の義務化を社協に位置づける(法的な拘束を強め)責務を持たせることが重要と考える…しかし、まぁ無理でしょう。(ちなみに都道府県の地域計画は義務化されている)〜義務化は地方分権や規制緩和に逆行するのではと言う意見(教授)があったが、現場サイドではシステムの具体化のためには必要と却下されている。当然である。
また、面白い意見として本来、システムの総合化とサービスの個別化は同時でなければならず、計画や法体系は総合化していくのは当然である。教育でも医療でも法律は一つであるが医療では各分野が精緻にサービスが専門的になっている。しかし、福祉はいくつもの法律によってわかれている。それによる弊害は大きいと思う。対象者には個別的なサービスの精緻性が求められるが、本来法体系で分ける必要はないはず。そういった意味で、地域福祉計画などで障害者計画を包括するすることは当然の方向である。利害の調整は、当事者同士がしっかりとしたデータを下に議論し、お互いのニーズのどちらにプライオリティ(優先順位)があるのかを決めて行くしかない。〜これまで行政は主張したい人がどのくらい地域にいてどういう人材があるのかという情報収集に対して怠慢でもあった。声を集積させる場を創り上げる必要がある。
公平性に対して
も、サービスの質は守られるのかという提案について、質の悪いサービスは自然淘汰されると言う現場の意見である。さらに自己決定に関しても充分な供給体制がないと決定はなされないし、それなしではサービスの質や公平性の問題まで行き着くことは出来ないという意見もあった。
中盤では、地域福祉権利擁護制度と成人後見人制度について
これは拙稿があるので参照のこと。
寄付金についての話し合いもあり、寄付の文化が根付いていないこと。寄付に対する税の優遇措置がないことなどが問題であると発言がある。また、その一方でどの様な活動をしているのか不明であることが寄付の低下を招いているとのこと。しかし、メッセージを発し、自分の寄付金がどの様に使われているのかを提示することによって根付いていくのではないかと結論づけられている。

座談会2
社会福祉法人から見た構造改革というテーマが設けられている。座談会のコーディネートはかの有名な岡本民夫先生である。岡本先生は社会福祉理論の第一人者で様々な評価があるが理論として確立した者であることは確かである。

構造改革の理念として

  1. 福祉は自助あるいは自己責任で展開するものである
  2. それらを展開していく上で社会連帯の考えにたつ
  3. 個人としての尊厳、家庭や地域の中でその人らしい暮らしが可能なように自立生活が送れるように支援するが掲げられている。

質と効率性の確保は可能か
まぁ、これまで散々論じてきたように、質の確保と効率性は両立できるのかという論点については、無理である。労働力のパート化、手当の削減などによって今や魅力的な職ではなくなっているし、熱意に応えるだけの給与の支払いも待遇もない。安い給料で専門職を養成し、配置するというのは甘い考えである。

競争について
これまでの社会福祉法人の安穏とした経営体質を批判し、かなり煽っている内容であった。たしかに、老健や療養型病床群(いわゆる病院)も老人の収容に参入している。社会的入院は増加し、医療法人にとっては参入しやすい状況になっている。これは政策的に逆行しているのではないかという批判はなかったし、むしろそのことによって特養の経営は難しくなると論じている。う〜ん、自虐的だ。
その中で、これまで福祉の分野は公法であったが、私法に移りもはや聖域ではなくなったという発言は象徴的である。この聖域についても拙稿があるので参照の程
また、営利企業に対して恐れるのは、一旦参入しながら利潤が見込まれないからとなると、すぐに撤収することであり、その後始末を社会福祉法人がしなければならないのではということ。また、医療法人については、急性期と慢性期にベットを分けて、一般病床のうち急性期に45万床しか残せないという方針が出ているため、急ごしらえに療養型に切り替えたりと老人の囲い込みは必然であるという指摘がある。

情報開示について
透明性の確保とかといわれているが、社会福祉法人に対する情報開示ほど医療法人は義務化されていない。さらに株式で上場している会社は、株主保護の視点から公開が義務づけられているがこれは視点が全く違う。株主上場をしていない会社は公開を義務づけられていない。財務内容まで明らかにされてしまうのはどうだろうか?これは、公益性の観点からと思われるが、では規制緩和や市場原理に反しているのではないか?どのくらいまで情報を公開するのか、一般社会との比較から論議が必要であろう。さらに、委託費の使途制限なども撤廃するべきであるが、これなども構造改革とは名ばかりの規制緩和である。

専門職について等
は、別の月刊福祉の特集で述べているので割愛

感想
まぁ、こんなところでしょうか?現場においては、まだまだ不安要素があるという論点。学者さんは今の流れの必要性と現状の批判。この構造から抜け出るにはどの様な視点が必要であるか?それは、いま行われている改革や制度が歴史的にどの様な意味を持っているのかと考えることだと社会政策の先生が言っていたことを思い出す。批判的な判断は歴史のまなざしの中で出来るだけ客観的に見る必要がある。しかも、歴史といっても昔は良かったとか悪かったと懐古することではなく、どの様な状況で政策決定されたのか。それはどの様な意図があり、効果があったのかと検証することである。そして、翻って現在の政策に対する意図や効果に対する評価と検証である。そうした意味で、私は行政の責任の縮小とそれに伴う財源の委譲〜縮小、国民の負担を増加させた上で社会福祉に対する必要性の矮小化とすり替えているんじゃないかナァと思わずにはいられない。そこにあって、現場は当事者の代弁とは名ばかりの、すいませんね。皆さんにご迷惑をおかけして。でも精一杯やっているんですと上目遣いに認められたがっているような気がするのは気のせいか。(2004.6.14)

参考資料
  1. 基礎構造改革について
  2. 社会保障のあるべき姿について
  3. 社会福祉法人について
  4. 普遍化の問題点について
  5. 専門職の倫理について
  6. 専門職養成について
  7. 権利擁護などについて

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