2001.6
福祉専門職養成の課題

はっきり言って、社会福祉士や介護福祉士養成の動向などはあまり興味のないことである。また、専門学校や養成校の急増に関する質の低下とか専門性と何かということもどうでも良い。この原稿を書いている2004年の時点で、実習生を受け入れる側の担当になった。施設は何を教えることが出来るのか。現場とは何か。実習とは何かという視点で読んでみた。

論文

岡本民夫「福祉専門職養成の課題」
ケースワーク論で有名な学者である。巻頭を飾るという意味で、概説的な解説に止まっている。福祉の科学性の欠如が現実対応を困難なものにしているという指摘は、論者の繰り返すことである。福祉固有の視点、思想、科学の仕方、価値・倫理の訓練が必要であるといわれている。

レポート5

「職場による学びの視点」
職場研修に対する現状などについて論述されている。職場研修などの研鑽の困難性については大まかに、

  1. 生活施設などは変則勤務のために、会議などで一同に集まることが難しい。そのため、ケース検討会などに全員が出席できることは稀である。
  2. 施設などの立地条件が郊外にあり、市街中心部で行われる会合への出席は距離的に困難な場合がある。
  3. 職員配置基準が一施設に一人しか配置できない場合もあり、相互研鑽が困難等が挙げられている。
通信教育の勧めや職場内研修でのノウハウなどが公開されている。

座談会

「福祉専門職への実習教育の課題」
受け入れ側の実習に対する考え方などが披露されている。その中で、実習生に望むことについては、
  1. 利用者の自己決定や自己選択を尊重する中でケアをしてほしい
  2. 利用者の権利擁護の視点に立ち、プライバシーの尊重も含めた上で専門性を身につけてほしい
  3. 人間形成の場にしてほしい〜利用者との出会いが学生を成長させる。
  4. 実習をする中で実習する中で自信をつけてほしい。〜実習をして良かった、楽しかった、もっと頑張りたいと思えるようなもの。

気をつけていること
として、
  1. 自信を喪失しないように、ポジティブに励まし、ささやかなことでも褒めて認めていくこと。〜これまであまり認められることが少ないため
  2. 相手を決めつけて萎縮させたり、過信させたりしないこと。現場は多様であり、何が正解なのかはないに等しい。その人なりの関わりの中で職場は動いていること。可能性をもたせる。

現場の格差、教育機関の格差
個人の能力やモチベーションによって様々である。しかし、漫然と実習に来たとしてもその施設の世界や現実を見ることだけでも良いと考える。そして、学生から現場が学ぶ事も大きくある。刺激としての実習生。
しかし、実習生のために現場があるのではなく、現場は利用者のためにある。では、利用者にとって施設とは何かと考えることが実習生の課題であり、明確にする必要がある。学びの視点を身につけること。
スーパービジョンの養成について
は、学校側と施設側で年に1,2回交流する。施設全体での実習受け入れのシステムの存在。実習担当者をスーパービジョンする人の存在などがあれば、実習に深みを与えることが出来る。つまり、実習生を直接指導する人に対し、適切な対処と指導の在り方を提示できる人が必要ということである。

学び合うことについて
反面教師的に、実習担当者から実習生が学び事もあるし、その逆もある。それによって、職員が目覚めることもある。マイナス部分から学ぶことは大きい。
大学教員もまた、学生に対し共感し、話を聞き、喜びなどを共有する体験が必要である。また、自分の教えている内容の妥当性や学びの視点が学生を大きく左右する。そういう意味でも教員同士で支え合い、共有し、教育の質を担保に学生をサポートする必要がある。

不安について
何が不安なのか…実習生にとって、職場の人間関係や職員に対して不安を持っている。何かあったら話してちょうだいではなく、こまめに話を聞いてやることが必要。また、受けた指導に対する不満を感じながら実習をする人もいる。こうした人に対して、実習生は第三者的な、モニターとしての存在がある。職員は意外に日々の仕事に埋没して気がつかない場合が多い。実習生の鋭い指摘は、真摯に受け止めそこから吸収するべき事は吸収する必要がある。

感想
実習生については、様々な論説が見られるが、実習に送り出す際に現場に望むことや現場の専門性について述べている文献は前者に比べて少ない。
実習生が持ち帰ってきた課題やつまづきなどを精査して、援助技術の在り方について述べることが多いが、現場の持つ専門性や実習生が学ばないといけない要素や潜在力などは全く考慮されていない。もっとも、大学機関からすれば現場に対して距離があり、専ら学生に専門性を身につけるためには、どの様な方法論があるのかと模索するに止まっていると言える。実習は、理系・医学においては最も重要なものであり、臨床は実際と理論が秤に掛けられ、無用な理論は駆逐される場として存在する。そこまで行かないとしても、実習は教育にとって最も重要な要素であるにもかかわらず、単位習得主義に走り、詰め込み式で、理論の批判や問題提起もなく漫然と送り出しているのではないだろうか。
現場においても利用者に対する哲学や理論が政策によって矮小化され、理論や学際的な論議にアンテナを張らず、専ら排泄、食事、入浴の3大介護をこなす場となっている。なぜ介護をするのか。介護を通した人間理解とは何か。こうした問題提起すら放棄し、それが役割であると機械化している部分もある。理論と実際は密接につながり、多様である。福祉は、理系の一部における単純なものではない。バクテリアの培養ではない。人間を理解し、社会を理解する広範な人文科学である。こうした事を念頭に掘り下げれるか…大学と現場の双方の連携は、一方が拝聴し、一方が講釈を垂れることでもない。また、見切ることでもない。現場から学び、大学から学ぶ。学生は、良き媒介であり、一つのフィールド(場)であるという視点が必要である。
(2004.6.4)

このような視点から

尾崎新「現場のちから(社会福祉実践における現場とは何か)」2002,誠信書房が良い。
また、「社会福祉研究」(第75号、77号、86号)鉄道弘済会があり、特集として
75号は、社会福祉実践の新たな潮流、77号は社会福祉における人材養成の課題、86号は大学における社会福祉教育のグランドデザインを描く(実践と理論をつなぐために)がある。
また、拙稿において、
理論と実践についてを挙げる。

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