A.はじめに
1990年代後半から、社会福祉基礎構造改革によって進められてきた社会福祉制度の再編は、福祉サービスの供給体制、サービス給付や財政の構造、公的責任のあり方などに大きな構造変化をもたらした。また、一方で、歴史的に1970年代の福祉見直しなどからいくつかの政策のターニングポイントがあったと思われる。
本レポートでは、現在の社会福祉制度がどのような思想やキーワードによって運用されているのかを理解するため、1980年代の福祉関係八法改正などによる改革と現在の社会福祉基礎構造改革を整理、比較を行い、今後どのように進んでいくかを論述したい。
なお、1980年代の社会福祉改革を第1期、1990年代以降の社会福祉改革を第2期とする

B.第1期の社会福祉改革について
 1980年代から1990年代初頭にかけて、高齢者福祉を中心に社会福祉改革が行われた。1983年に老人保健法が施行され、1986年には社会福祉基礎構想懇談会が「社会福祉改革の基礎構想」を提言した。ついで1989年、福祉関係三審議会合同企画分科会は「今後の社会福祉のあり方について」の意見を発表した。さまざまな改革が行われたが、その到達点は1990年6月の福祉八法改正(1993年4月実施)であり、92年6月に社会福祉事業法の一部改正があった。これらの諸改革は、法律的に見れば「脱六法化」の方向化であった。

「社会福祉改革」は、理念的にいえばノーマライゼーションとインテグレーションであり、福祉サービス中心の改革であった。それは社会福祉における普遍主義の導入であった

 社会福祉事業法の改正においては、同法第3条の社会福祉事業の主旨を削除し、新たに基本理念が規定されたことがあげられる。対象を措置を要するものから福祉サービスを必要とするものに改められていること、自立や社会参加、社会的統合、地域性の重視、事業の総合的計画的推進が規定されている。さらに同条第2項では、社会福祉事業の実施に当たって医療、保健その他の関係施策との連携とともに、地域に即した事業の実施と住民の理解と協力が指摘されている。

第一期における社会福祉改革の具体的方向は、


1.に関しては、これまでの原則とされた政府主導型の社会福祉の転換、いわゆる分権型社会福祉への志向性を含むものであった。老人福祉、障害者福祉分野での行政の市町村への権限委譲との関係で、都道府県・市あるいは町村の設置する福祉事務所の所掌事務などの改正が行われている。その後の、エンゼルプラン、障害者プランの策定につながり、第二期の改革では、さらにこれらの計画を総合化した地域福祉計画の策定とつながってくる。
2.に関しては、在宅福祉の実施体制の関連だけでなく、地域を基盤として福祉と保健福祉などの施策との連携・総合化にも関わるものとして注目される必要がある。ただし、この流れは、平成二年の福祉関係八法改正では老人福祉、身体障害者福祉の分野で実現されたが、児童福祉、知的障害者福祉分野では見送られている。
3.に関しては、合同企画分科会での検討課題とされた社会福祉における公私関係である。「今後のシルバーサービスのあり方について(意見具申)」では、シルバーサービスなどの民間業者の健全育成とその活用ということは、法的規定と馴染まないという理由で有料老人ホームの規定を一部改正しただけにとどまった。この課題は、規制緩和、福祉サービス分野への市場原理の導入などとの関係で重要な改革の内容となっていく。
4.に関しては、施設福祉の充実との関連で合同企画分科会の中で入所措置の改善をいかに図るかという論議が行われたが、措置制度そのものを維持しなければならないということになっている。ただ措置の運用をできるだけ柔軟化するということとし、さらに将来において措置に代わる契約的利用方式の導入も予想されることから、契約型の施設を増設するという意味合いで、ケアハウスの法定化や介護型有料老人ホームの新設を認めるなどの対策を講じている。

C.第2期の福祉改革について
 2000年4月より介護保険制度が実施され、5月には「社会福祉基礎構造改革」を実施するための社会福祉事業法の改正(社会福祉法への改称)をはじめとする社会福祉関連八法の改正案が成立した。この背景には1997年「社会福祉の基礎構造改革について(主要な論点)」、(中間評価)、(追加意見)と第一期の制度改革を越える取り組みがなされてきた。社会福祉法の成立はそれまでの改革の一つの総決算であり、新たな方向性となる。
改革の理念

 この方向性は、福祉サービスの利用制度の転換として、従来の措置制度から利用者と提供者の対等な関係に基づいて個人がサービスを選択し、契約する制度に転換した。それにともない、自己決定、自己責任の尊重、あるいは強化、それを保証するために権利擁護制度の導入と強化があげられる。さらにサービスの質と効率に関しては、サービス評価や経営管理、人材の育成、確保があげられる。
契約制度に関しては、多様な主体の参入が第一期の改革よりもドラスティックに押し進められている。 このことについては、1995年社会保障制度審議会「社会保障体制の再構築(勧告)」や1996年税制制度審議会「税制構造改革特別部会最終報告」など背景にある、規制緩和、市場原理の活用、個人・民間の自助努力などがあると思われる。
 具体的には、基礎構造改革の内容を先駆け的に実施している介護保険制度では、社会保険形式を採用し、高齢者からも保険料を徴収するとともに、サービス業者と利用者との私的なサービス利用契約に基づいて民間業者中心にサービスを供給し、しかも利用者負担に関しては応益負担を取っており、従来の高齢者福祉措置制度から最も大きな構造転換が行われたサービス利用方式といえる。
第一期の改革で残された課題としての障害者の地域支援が第二期では改善されたことがあげられる。また、2003年より支援費制度への転換が予定されており、利用者が指定業者にサービス利用の申し込みをし、市町村に支援費の支給を申請し、それに応じて市町村が支給を行い、支給決定を受けた利用者が指定業者のサービスを利用した場合に市町村が指定業者に対しサービス費用から利用者負担分(応能負担となる予定)を控除した額を支給する。ここでは、市町村の責任は支援費の支給に縮小されている。このことは、公的な責任の縮小と私的ないわゆる自己責任に比重を置いた方向性が介護保険、支援費制度に見ることが出来る。
 また、市町村の分権、民間への分権とならんで、個人への分権も第二期の改革に見ることが出来る。上述した市場原理の導入に伴う市場消費主体としての個人の選択権という意味での分権と、個人として自立を基調としたものである。
 以上、第一期から継続した面、ドラスティックに変化した部分と論述してきたが、課題としては、いまだに措置制度で運用されている児童関係や生活保護関係はどのようになっていくのか。規制緩和により、社会福祉法人の設立要件が緩和されているが、特別養護老人ホームは、社会福祉法でも第一種社会福祉事業のまま置かれていること。また、措置制度の一角を占める社会福祉法人については抜本改革にいたらなかった。などがある。このことについては、今後、分野別処遇施設から「社会福祉の用に供する施設」へと多機能フルセットかが求められ、法定社会福祉事業と「その他社会福祉事業」との区別や、第一種、第二種の区分は実態面から流動化していくと思われる。そのため、どのように再編あるいは改正するのかなどが今後の大きな課題となると思われる。

D.おわりに
 第一期の改革と、第二期の改革について論述してきたが、介護保険の導入後の特別養護老人ホームでの業務の変化は、私事であるがドラスティックであった。理念に示されているように、対等な関係が強く意識されることが多くなっている。背景には、市場原理や規制緩和、情報公開など社会福祉に関わらず、グローバル化の流れや現在行われている様々な構造改革の中で形成されていると思われるが、いずれにしろ、今後は社会福祉もまた、より流動化していくものとされる。そのとき、公的責任をどの様な形で取るのか、私的な自己責任、民間の責任はどこに置くのかといった答えがより明確な形で必要になっていくものと思われる。

参考文献
配本された指定図書の他
『社会福祉思想史入門』(吉田久一・岡田英己子,勁草書房,2000)
「社会福祉実践研究の到達水準と展望」(高田眞治,社会福祉研究80号)
「社会福祉法人の改革と施設運営の課題」(小笠原浩一,社会福祉研究85号)など
参考資料(日本社会福祉学会第50回記念全国大会より)
社会福祉における契約の視点−基礎構造改革までの市場の流れ−(島田肇)
介護保険における高齢者福祉サービスの変化−社会福祉の公的責任の変化と今後の課題−(伊藤周平)
「社会福祉基礎構造改革」の情報サイト
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