小倉百人一首 恋の歌 歌題別分類 43首


*恋歌の題については説が別れる例が多く、また抑々「題詠」でない歌も少なくありませんが、「取りあえず」分類してみました。


【未だ逢はざる恋】

中納言兼輔
027 みかの原わきてなかるゝ和泉川 いつみきとてか恋しかるらん

【逢はざる恋】

伊勢
019 なには潟みちかきあしのふしのまも あはてこのよを過してよとや

源俊頼朝臣(祈れども逢はざる恋)
074 うかりける人を初瀬の山おろし はけしかれとはいのらぬものを

【忍ぶる恋】

河原左大臣
014 みちのくの忍ふ文字すり誰ゆへに 乱れ初にしわれならなくに

藤原敏行朝臣
018 住の江のきしによる波よるさへや 夢のかよひち人めよくらん

参議等
039 浅ちふのをのゝしの原忍ふれと あまりてなとか人のこひしき

平兼盛
040 忍ふれと色に出にけり我こひは ものやおもふとひとのとふまて

壬生忠見
041 恋すてふ我名はまたき立にけり 人しれすこそおもひそめしか

藤原実方朝臣
051 かくとたにえやはいふきのさしも草 さしもしらしな燃るおもひを

式子内親王
089 玉のをよ絶なはたえねなからへは しのふる事のよはりもそする

【待つ恋】

柿本人丸
003 あし引の山鳥のおのしたり尾の なかゝゝし夜を独かもねん

素性法師
021 今こんといひしはかりに長月の 有明の月をまちいてつるかな

権中納言定家
097 来ぬ人をまつほのうらの夕なきに やくや藻しほの身もこかれつゝ

【恨むる恋】

清原元輔
042 契きなかたみにそてをしほりつゝ すゑのまつ山波こさしとは

右大将道綱母
053 なけきつゝ独ぬるよの明るまは いかに久しきものとかはしる

赤染衛門
059 やすらはてねなましものをさよ更て 片ふくまての月を見しかな

相模
065 うらみ侘ほさぬ袖たにある物を 恋に朽なむ名こそおしけれ

道因法師
082 思ひわひさてもいのちは有ものを うきに堪ぬはなみた成けり

俊恵法師
085 よもすから物思ふころは明やらて 閨の隙さへつれなかりけり

【後朝―きぬぎぬ―明け方の別れを悲しむ歌

壬生忠岑
030 有明のつれなく見えし別れより 暁計うきものはなし

藤原義孝
050 君かためおしからさりしいのちさへ 永くもかなとおもひけるかな

藤原道信朝臣
052 明ぬれはくるゝものとは知なから 猶うらめしき朝朗かな

待賢門院堀河
080 長からん心もしらすくろ髮の みたれて今朝はものをこそ思へ

【逢ひて逢はざる恋】逢瀬を遂げたのち、逢い難くなった恋

権中納言敦忠
043 あひみての後の心にくらふれは むかしはものをおもはさりけり

中納言朝忠
044 逢事のたえてしなくは中ゝゝに 人をも身をもうらみさらまし

謙徳公
045 哀ともいふへき人はおもほえて 身の徒になりぬへき哉

【忘るる恋・忘らるる恋】

右近
038 わすらるゝ身をは思はす誓ひてし 人のいのちのおしくも有かな

大弐三位
058 有馬山猪名のさゝ原風ふけは いてそよ人をわすれやはする

【別るる恋】

左京大夫道雅
063 今はたゝおもひたえなんとはかりを 人つてならていふよしも哉

崇徳院
077 瀬をはやみ岩にせかるゝたき川の われてもすゑにあはむとそおもふ

【寄せ歌】寄川恋・寄海恋・寄名所恋など、風物や歌枕にことよせて恋の心を詠む。

陽成院
013 つくはねのみねよりおつるみなの川 恋そつもりてふちとなりぬる

三条右大臣
025 なにしおははあふ坂山のさねかつら 人にしられて来るよしも哉

曽禰好忠
046 ゆらのとを渡る舟人かちを絶 行ゑもしらぬこひのみち哉

源重之
048 風を痛み岩うつ波のをのれのみ 碎て物をおもふころかな

大中臣能宣朝臣
049 みかき守ゑしのたく火の夜はもえて ひるは消つゝものをこそおもへ

祐子内親王家紀伊
072 音にきくたかしのはまの化波は かけしやそてのぬれもこそすれ

殷富門院大輔
090 見せはやなをしまのあまの袖たにも ぬれにそぬれし色はかはらす

二条院讃岐
092 わか袖はしほひに見えぬおきの石の 人こそしらねかはくまもなし

【その他】贈答歌や特殊な題材の恋歌。

元良親王(贈歌)
020 侘ぬれは今はたおなし難波なる 身をつくしてもあはんとそ思ふ

儀同三司母(贈歌)
054 わすれしの行すゑまては難けれは けふをかきりのいのちとも哉

和泉式部(贈歌)
056 あらさらん此よの外のおもひ出に いま一度のあふ事も哉

西行法師(月前恋)
086 歎けとて月やはものを思はする かこち顔なるわかなみたかな

皇嘉門院別当(旅宿に逢ふ恋)
088 難波江のあしのかりねの一夜ゆへ 身をつくしてやこひ渡るへき

[メモ] 恋の辛さを歎く歌が多いのは、王朝和歌の全般的な傾向を反映しているにすぎないだろう。しかし、例えば「初めて逢ふ恋」を題とする歌に見られるような、恋が成就された喜びの感情を含んだ歌が一首として見えないことは、注意されていい点かもしれない。(50の義孝の歌だけは、成就された恋についての感懐を詠んでいるが、喜ばしい感情を詠んでいるとは言えないだろう。)


百人一首目次