Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年7月

「L.A.コンフィデンシャル」
カーティス・ハンソン 監督、ケビン・スペイシー、ラッセル・クロウ、ガイ・ピアース、ジェイムズ・クロムウェル、キム・ベイシンガー、ダニー・デビート、デビッド・ストラターン
★★★★

署内での警察官による容疑者の集団リンチ事件とその処分から始まり、コーヒーショップでの集団惨殺事件、容疑者のメキシコ人の逮捕、逃走、追跡、射殺。浮かび上がる映画スターに似せた高級娼婦の組織。刑事ドラマのアドバイザーをする洒落者刑事はトップ屋とネタを共有してかたや手柄、かたやスクープを手に入れる。

1950年代のロサンジェルス。夢の楽園都市でそれぞれの傷をひきずりながら事件を追う刑事たちと、1人の女。舞台と役者は揃っています。ダニー・デビート演じるトップ屋(これってもう死語だろうか?)が狂言回しとなって背景を説明するところはひとつの工夫。彼が実はストーリーに深く絡んでいるところもうまい。

しかし、この映画の焦点は、刑事たちの立体的な人物造型と、華やかな街の裏側に広がるドロドロとした暗い影。忌まわしい過去、欲望、堕落にひきずられながら、犯人を追い求める刑事たちの人間の内側というか、そのリアリティがどこまで感じられるかが評価の分かれ目でしょう。ストーリーは皮肉が効いているし、うまいけれども警察対ギャングものの同工異曲、鍵は役者と美術です。

というわけで、役者も美術も一級品です。もっとダークで、グロテスクで、救いのない筋の方が、ラストが生きたとは思いますが。やはり、銃撃戦や画面転換の速さと言う面では観客サービスを優先させたのでしょう。コーヒーショップの虐殺の犯人は違うところにいて、まだ生きている! というところから、急に刑事たちが「いい子」になっちゃうのが大きな不満。とはいえ、骨太のドラマでなかなか楽しめます。

圧巻は、キム・ベイシンガーの娼婦役。この色っぽさはすごい。だいたい、スターのオーラと、娼婦の崩れた色香と、押し寄せる年齢への抵抗をひっくるめて魅力的に見せるという意味では、これ以上のキャスティングは思いつかない。それにしても、いつまでこのセクシー妖艶路線をつづけられるのだろうか?

「不夜城」
リー・チーガイ監督、金城武、山本未来、椎名桔平、ラン・シャン、エリック・ツァン、永澤俊矢、キャシー・チャウ
★★★

日本映画にしては、面白い。香港映画としては、「?」。資本、舞台、原作は日本、監督以下主な制作スタッフは香港中心、役者はいろいろ。なぜか主題曲はB'z。

リー・チーガイ監督ではケリー・チャン主演の「世界の涯てに」を観たけれど、なかなかスケールの大きい(その代わり完成度には欠ける)作品でした。面白かったけれど、あんまり強烈な美学は感じられなかった。どうせお金をかけるんだったら、できれば、ジョン・ウーに撮って欲しかった(無理?)。

でも、映画づくりを楽しんでいるというか、新鮮なトライがたくさんあって、全部が成功しているわけではないにせよ、とかくちまちままとまりがちな日本映画に比べればパワフル。よくも悪くも応援したくなる力強さがあって、評価とは別にこれからもこういうスタッフ交流はどんどんやってほしい。

さて、注目の金城武ですが、日本語のセリフ回しが致命的。あまりにもきれいすぎて無色透明というか、個性がたちのぼってこない。葉月里緒菜が蹴ったヒロイン役の山本未来には、まったくオーラがない。この女が発する、泥沼に引きずり込むような魔力が感じられないと、作品全体の凄みがなくなってしまう。

この役、汚れ役というよりはエゴイスティックな悪女で、しかも計算ずくの偽装された幼稚なのか、本当の愛に飢えているのか、裏切りのチャンスを狙っているのか、判然としない。というか、凄惨な過去と境遇のせいで自分でもよくわからないのではないかと思う。

原作が衝撃的だったのは、何よりも、この愛の形の造型の新しさにあったのだが、映画では純愛の変型みたいになっちゃったのは残念。

ちなみに、この映画には善人はほとんど登場しません。主人公も中途半端に頭が回るのだが、どこか抜けているチンピラだし、対立する台湾、上海、北京(それにあまり出てこないが福建、香港)の派閥のボスだってとくに賢いわけではない。警察はかやの外。日本台湾混血や中国残留孤児差別も出てきますが、社会的なメッセージは何にもなし。気持ちいいぐらいに、裏世界で生き残るためのドラマに徹しています。

なお、これを観てから新宿歌舞伎町を歩くと、なかなかスリルを味わえます。

「追跡者」
スチュアート・ベアード監督、トミー・リー・ジョーンズ、ウェズリー・スナイプス、ロバート・ダウニーJr.、ジョー・パントリアーノ、ダニエル・ローバック、トム・ウッド、ラターニャ・リチャードソン
★★★☆

「逃亡者」で人気だったジェラード保安官を主人公にしたパート2。でも、「逃亡者」は観なかったので、よくわかりません。ちなみに、原題は"U.S.Marshall"。邦題の方がかっこいいじゃん。ちゃんとパターンも踏んでいるし。

それはさておき、やっぱりウェズリー・スナイプスは逃げるんだけど善玉なんですよね。そして追っかけるトミー・リー・ジョーンズは頼りになる現場型リーダー。「依頼人」「ボルケーノ」「メン・イン・ブラック」と変わらない。そういう意味では安心してみられる予定調和アクション映画。まあ、楽しめるけど、TVで観てもいいじゃん、という感じがどうしてもしてしまう。これは、ペイTVが発達し、しかも映画館が安いアメリカ(つまり映画とTVで価格が接近している)ではまた感じ方が違うんだろうけれども。

ただし、序盤の飛行機のクラッシュはなかなか見せる。やっぱり金はかかっているねえ。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998