Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年8月

「GODZILLA/ゴジラ」
ローランド・エメリッヒ監督、マシュー・ブロデリック、ジャン・レノ、ハンク・アザリア、ハリー・シアラー、マリア・ピティロ、アラベラ・フィールド、マイケル・ラーナー
★★

ゴジラがまるでイグアナだとしても、よしとしよう。フランスの核実験のせいにするいけすかない根性も、許そう。逃げるヘリコプターがなぜか上昇せずに平行移動して餌食になる馬鹿さ加減も知らないふりしてあげよう。

しかし、百歩譲っても、これは映画への冒涜だと思う。たまたま、監督とプロデューサーのインタビューを以前テレビで見たのだが、彼らは「人間が入っていて動くのではできない、よりリアルな動きをゴジラにさせたかった」と言っていた。ふむ。君たちは、映画を作る技術を見せたくて 映画を作っているのかね? ゴジラの滑らかな動きは映画の一要素であって目的ではないはずなのに、それを見せたいためにストーリーがあるのかね? つまり、ここには、ドラマづくりではなく、驚かせる仕掛けしかない。

このインタビューを見た時点で、私は怒り心頭に発していた。映画というメディアは、絵が動いて音が出るだけではなくて、そこから不思議なエモーションを巻き起こし、まったく別の空間に連れていってくれる素敵な乗り物だと思っていた。映画を観た時点で怒りは定着した。こいつらは人間の感覚器官を刺激する1次的な反応だけで映画をつくっている。遠い夢の国へ行く銀河鉄道にもなれるのに、ただ驚き怖がるだけのジェットコースターでしかないなんて。

もちろん、ジェットコースター(ちなみに私は実際に乗るのは好きだ)にだっていい悪いはある。たしかに、冒頭の日本漁船の沈没、ニューヨーク上陸、ヘリとゴジラとの追跡と対決、カメラマンを踏みつけんとする巨大な足、などなど印象的な絵づくりとカメラワークは素晴らしい。今まで絵コンテでは構想はあっても技術と資金の壁でできなかったことがやっと実現した、っていう感じ。泳ぐゴジラ対潜水艦なんて、アイディアはあったらしいけど、東宝では見送られたそうだ。

ただ、それらの絵も音も演技も、ドラマとかストーリーとかを構成して初めてその価値を発揮するのではないか? 最初の「ゴジラ」では、核兵器という愚者の発明を体現したゴジラ、戦災をほうふつとさせる破壊の嵐、ゴジラを倒せるのに「オキシジェンデストロイヤー」を使おうとしない博士が、象徴的なドラマを作り出していた。「キングコング」も「猿の惑星」も「エイリアン」も「ジュラシックパーク」だって、サービス満点のエンタテインメントでありながら、芯には鋭いメッセージを内包しており、それがストーリーに緊張感をもたらしていた。そういう伝統を、いとも簡単に踏みにじってしまっていいのか?

東宝がゴジラシリーズで苦しみ(興行成績ではなくて、内容の完成度のことだが)、観客の期待がはずれたのは、最初の「ゴジラ」を超えるようなプロットができなかったからだと思う。モスラもビオランテも潜在的に魅力のあるキャラクターではあったが、ストーリーが幼稚過ぎたし、外敵と戦うリアリティが時代が下るにつれて失われていったのはしかたないにせよ、同時代感覚がなかった。それを、この「GODZILLA/ゴジラ」ではあっけなく解決してしまった。つまり、ゴジラという怪物が暴れてやっつけられるという話だけで映画をつくってしまえ、と。

こう言わざるを得ないのは、人物造型が一面的で主役も脇役も存在感がないからだ。TVレポーターにしろ抜けている米軍指揮官にしろ市長にしろフランスSDGEエージェントにしろ、パズルの駒というか、ロールプレイングゲームのキャラクターほどの深みも立体感もない。そうであれば、ゴジラの引き立て役なのだろうが、肝心のゴジラの人格がイグアナの脳ではねえ。「ジュラシックパーク」の恐竜だってエイリアンだってもっと賢かったぞ。だいたい、背景に人間の意図が隠されているところに真の怖さがあったりするのだが、このゴジラは単に巣作りにニューヨークにやってくるだけなんだもん。

さらに、ゴジラの子どもが可愛くない。怖くもない。量で驚かせるなら「スターシップ・トゥルーパーズ」が圧倒的に気持ち悪かった。「ジュラシックパーク」のコンピーは、最初はいかにも愛らしく首をかしげていて、それから猛然と襲いかかるところが見事に残忍だったし、周到にも冒頭で伏線を張っているためにある程度想像させてさらに怖がらせるという手際のよさだった。ゴジラだって、卵の鼓動に耳をつけるシーン、子どもの死骸に鼻を寄せるところや、死ぬ間際に「人間性」を持たせるチャンスはあった(たとえ倒される怪物にだって魂はあるのだ)。ゴジラだって望んで巨大化したわけではなく、ただ種の保存の本能に衝き動かされて生きようとしているだけなのだから。ゴジラはエイリアンとは違うのだ(このあたり、偏見です)。

というわけで、ラストでアメリカ人が喜んで拍手してるのにはとっても腹が立ってしまった。プンプン。今度はワシントンDCとマイアミを踏みつぶしてやる。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998