Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1998年1月

「北京原人」
佐藤純彌監督、緒方直人、ジョイ・ウォン、丹波哲郎
★☆

さすがに寝なかったけど、ものすごく不満。嘘ならもっと上手についてだましてほしい。映画的リアリティに欠ける。骨からDNAをとって生物を再生するなんておおごとですよ。「ジュラシック・パーク」ではだから琥珀のなかの蚊から恐竜の血液を取るという手間を掛けてたんだから。さらに、原人とかの高等生物(ほ乳類というか、少なくとも細菌ではない)を卵細胞から成長させるには胎生なんだから、なんらかの子宮が必要で、例のクローン羊だっておなかを借りてるわけです。それが時空を反転だか変位だかで生まれてくるなんて信じがたい。だいたい、わざわざスペースシャトルを使うということは無重力状態が必要とか理論があるだろうに、そのへんに説得力がないどころか、まるで説明しない(せりふにはあるけど、あれは説明になっていない。『ジュラシック・パーク』『パラサイト・イヴ』は荒唐無稽だけど根拠のあるフィクションを展開している)。

そしてもっともおかしいのは、DNAが3個体あって、成人男子・成人女子ができるのはまあいいとして、どうして少年ができるんだ? それでは同じ条件なのに成長速度が全然違ったということなのか? さらに、この成人男女がつがいになるのはまあ許せる。しかし、少年はこのペアの子どもじゃないだろうが。この3人を無理矢理に家族にしたところが(ストーリー上、そうしたかったんだろうけど)最大の失敗。だって、生まれたばっかりなのに(カプセルの中であっという間に成長している)、家族の強い絆があって、生活技術を修得していて(火を使う!)なんて、ありえない。昔の記憶をDNAが保持しているはずがない。獲得形質が遺伝するかどうかではなく、生まれたあとに学習することを、親のないDNAから生まれた個体が学習するすべはない。このへんは、この映画のメインテーマにつながるだけに、きちんと納得させてくれないとせっかくの感動的なシーンに感情移入できない。

さて、1万歩ぐらい譲って、映画の設定を信じたとしても、いただけない。セットや撮影がチャチ過ぎる。演技が鼻につく。北京原人が現代に生き返ったら? という設定なら、もっといろいろ考えつくような気がするけどなあ。少なくとももっとユーモアは盛り込めると思う。スピルバーグの「ネアンデルタール」はどうなんだろうか?

「フル・モンティ」
ピーター・カッタネオ監督、ロバート・カーライル、トム・ウィルキンソン、マーク・アディ、レスリー・シャープ、エミリー・ウーフ、スティーブ・ヒューインソン、ポール・ハーバー
★★★★☆

失業した男たちがストリップをする話。そう知った時には別に魅力も感じず、きっと先端を行こうとする女の子たちが好きそうだよな、と思っていました。私、男同士の恋愛とかただ耽美的な映画は好きじゃないんです(あくまでも好みの話。映画の善し悪しではありません。もちろん、同性愛は個人の自由だと思っています)。ところが、いろいろ入ってくる情報によれば、イギリスの上質のユーモアとか、とにかく面白いとか、どうも最初の印象とは違うらしい。それなら、と衝動的に出かけたら、なんと立ち見の人気。次の日、気合いを入れて出直しました。

結論からいえば、最近のイギリス映画の復調を象徴するような粋な作品です。笑えるのは、もちろん、笑いが温かいんです。ほとんど人情喜劇。登場人物も少なく、舞台は斜陽の鉄鋼産業を中心とする冴えない(シェフィールドのみなさん、すみません)地方都市。出てくる俳優には大物はいない。監督も無名。豪華なセットもなし。低予算映画の見本みたい。でも、楽しい。仕事がなくても、妻に追い出されても、金が無くても、人生なんとかなるさ、仲間がいれば。観終わったあと、拍手まで起きました。

おじさんの裸なんてあんまり見たくない気がしますが、この失業者たちのストリップにはなんか不思議な明るさがあります。幸せってなんだろう? なんて考え込んでしまわない、もっと前向きな朗らかさが。今年のイチオシ!(おいおい、まだ3本しか観てないだろうが)。

「タイタニック」
ジェームズ・キャメロン監督、レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、ビリー・ゼーン、キャシー・ベイツ、フランシス・フィッシャー、ビル・パクストン、バーナード・ヒル
★★★★

費用も莫大なら上映時間も3時間を優に越える。噂の超大作、やっと観られました。大体、製作側にあんまり力の入った作品はハズレが多いんですが、これはなかなかよくできてます。ジェームズ・キャメロン監督といえば「ターミネーター」「エイリアン2」とアクションものの印象が強いんですが、「アビス」もありました。今回は本筋のラブ・ストーリーはもちろん、ワキ筋にも印象的な人物が多く、人間ドラマにも達者なところを見せています。でも、圧巻はやっぱり沈没シーンでしょう。実写か合成かCGか、まったく区別がつかない。というか、そんなことまで考えさせないくらい緊迫したシークェンスの連続で息がつけないくらい。ジャック(ディカプリオ)とローズ(ウィンスレット)の脱出するところは映画史に残るでしょう。練りに練ったシナリオ、人間描写、そして2人の愛の力。観た人が「この映画で泣かない人は不幸だ」とまで言っていたので、涙もろい私はハンカチを握りしめていたのですが、結局2回泣きましたね。「real party」(3等船室でのお祭り騒ぎ)でアイリッシュ音楽を聞いた時、「この航路はアイルランド移民の船でもあったんだ」と思わず感慨にふけってしまいました。そして、最後にローズがホイッスルを吹くところ。

ジャックとローズのラブ・ストーリーの設定はオールドファッションですが、ひとつひとつのシーンがうまく考えられていて、そのあとのシーンと呼応して美しいタピストリーを織り上げています。う〜ん、実によくできている。そして、美術もいい。1912年当時の内装調度を再現しているところは、たしかに製作費をかけただけのことはある。ただし、ドガ、モネ、ピカソの絵を持ち込むところはちょっとやりすぎの気がする。どれも「踊り子」「睡蓮」「アヴィニョンの娘たち」と有名作品のバリエーションなんだもの。

「メン・イン・ブラック」
バリー・ソネンフィルド監督、トミー・リー・ジョーンズ、ウィル・スミス、ソンダ・フィオレンティーノ、ビンセント・ドノフリオ
★★★☆
実はエイリアンはすでにたくさん地球に移民していたんですね。シルベスター・スタローンもエルビス・プレスリーもデニス・ロッドマンも、本当はエイリアン。でも公表するとパニックになるから、秘密。偶然、見ちゃった人には記憶の一部を消す装置をピカッ! で一件落着。で、エイリアン移民にも密輸や密入国や犯罪があって、それを取り締まるのが、メン・イン・ブラック。なんか宇宙人映画のパロディ総集編みたいだけど、コミカルで笑える。出てくるエイリアンにもかわいいのや不気味のや個性があって楽しめる。まあ、ストーリーは他愛もないけど、おかしいシーンが続々出てくるので、正月に何にも考えずに笑うのにはぴったり。この監督は「アダムス・ファミリー」を撮ってるんですね。特撮をぜいたくに使ったエイリアン・コメディで、「マーズ・アタック!」からブラックさを薄めた感じかも。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1998