グローバル・ヒーティングの黙示録

第三章 再生可能エネルギー 発電の発展

 

第三章 再生可能エネルギー発電の発展

自流式水力、風力、ソーラーセル、集光型太陽熱発電、潮流・波力・潮汐発電は出力が変動する再生可能エネルギーです。地熱、バイオマス、ダム式水力は出力 を制御できる再生可能エネルギーです。 非再生可能エネルギーの衰退にともない不安定とはいえ大きなポテンシャルを持つ再生可能エネルギーの利用が進むでしょう。

風力発電のポテンシャル

かっては日本の陸上での風車発電のポテンシャルは総発電量の全国の7-10%。海岸線6,000キロメートルに高さ100mの風車を設置すればプラス3% とされていましたが自然エネルギー白書(風力篇) Ver. 2.1 2009年9月、日本風力発電協会によれば;

陸上風力のポテンシャル2008年3月: 25.8 GW
着床式洋上風力のポテンシャル2008年3月:18.0 GW
浮体式洋上風力のポテンシャル2008年3月:38.0 GW
合計:81.8 GWです。

これに対して、日本の原発総発電能力は 49.5 GW と望月氏に指摘されました(2008年1月現在)。

http://log.jwpa.jp/content/0000288747.html

http://jwpa.jp/pdf/2008fuuryokuhakusyo2.pdf

 

陸上風力発電

風力は太陽エネルギーの2%程度が大気循環エネルギーに変換されたものです。ローテクですが、大型化により発電単価はキロワット時当たり9.57円程度ま で下がりました。このため急速に普及し、世界の風力発電発電設備容量は2008年には94,100MWとなりました。世界の総発電量は 16,300,000,000MWですから、風力発電設備の平均利用率を22.5%とすれば、世界の電力の1.14%をまかなっていることになります。 4.7%の成長率とすれば2010年には1.25%となります。

風力発電は一定の風速以下で出力がゼロになるという問題があります。したがってLNG発電などに余剰能力を持たせバックアップするか、蓄電システムが必要 になります。蓄電より他の電源でのバックアップがコスト的には望ましい姿でしょう。

さて風車で回収できる風のエネルギーは羽に入る風速uの自乗と羽を出る風速の自乗の差であります。出口風速ゼロの場合、風のエネルギーは

E=mu2/2gc

です。ここでgcは重力の加速度です。羽を通過する空気の容積は変りませんから、風速を落とすためには風は羽を通過した後に横に広 がらなければなりません。それは不可能のため、かなりの風が羽には入らず、羽の周りを流れることになります。この限度を理論的に説明したのがドイツ人のベッツでした。風車の周 りにカウルが無い場合

ベッツ係数B=16/27

風車を通過する空気の質量mは風車の半径をrとし、空気の密度をrとすると

m=pr2ur

羽効率をhとすると風車の出力は

P=BEh=(8/27)pr2ru3 (Kg m/sec)

となります。

平水軸がた羽形状には2枚から3枚目のプロペラ型、垂直軸型の羽の形状にはダリウス型、サボニウス型があり ます。プロペラ型の翼効率のパワー係数は一番よく0.45、ダリウス型で0.4、サポニウス型で0.15です。

同期発電機を使う同期風車は、誘導発電機を使う誘導風車より発生電力の電圧・電流の変動が小さいため、送電系統が弱い場合に有効です。誘導発電機 は、送電 系統とトランス経由で直接繋がっているため、風車の回転数は系統の周波数で決まり、風速によっては変わりません。同期発電機は、インバータ/コンバータに より発電した交流(AC)を一旦、直流(DC)に変換してから送電系統の求める周波数・位相・電圧の交流(AC)に完全に調整して受渡す方式です。風車の 軸系と送電系統の縁が切れていますので、ギアレス化と可変速運転が可能になります。このとき風車と直結した発電機の回転速度が低くなりますので、多極化し ます。可変速同期発電機風車は風力エネルギーの変動を風車の回転数を変えることにより、ブレード・ロータ・発電機回転子よりなる回転部品の慣性エネルギー として吸収し、風車の出力変動を大幅に低減することができます。さらに永久磁石で励磁すれば、ブラシと励磁装置も不要になります。このように可変速ギアレ ス永久磁石式同期風車は誘導風車に比べてメンテナンス性にも優れています

上空ほど風速が高いのでこれを捉えるためにますます大型にしておりまして現在の最大サイズはRepower社の5MW巨大風力発電機で直径126mに達します。ジーメ ンス社も参入し、建設単価は200円/W程度です。

高くそびえるため落雷の故障が25%、暴風による故障は5%と、自然現象による故障により、利用率が下がるため特に雷対策が重要となります。関東地 方の夏の積乱雲の落雷は5クーロン程度のエネルギーですが、冬の日本海の1,000m位の高度の雲で横に流れる落雷のエネルギーは横に流れてエネルギーを 集め200クーロンに達します。

2003年9月、台風14号の直撃を受けて沖縄県宮古島の風力発電機3機が塔の中頃でなぎ倒されたほか、強風で羽が折れたり、曲がりました。類似の事故は 年間数件ほどあるようです。青森県ではコンクリート基礎の設計・施工がわるく根元から倒れました。

日本の風車は殆どデンマークやドイツ製です。購入仕様書で設計風速や落雷対策条件を明記しなければなりませんが、無知のため、日本では地震だけの設計条件 しか明記しないため、故障の多さが目につきます。鋼鉄製でしなやかな風車は地震に強いし、現実に地震で壊れた風車は1台もないのにトンチンカンな役所はビ ルに準じて地震時のダイナミックス計算書を役所に提出することを義務づけて無用な費用をかけさております。

-3.1 仁賀保高原ウインドファーム

図-6.1に鳥海山の鉾立登山口から北方の海岸線を見下ろ した標高500mの仁賀保(にかほ)高原にたつ1.65MWの風車が15基程見えます。Jパワーのウインド ファームで総工費50億円(建設単価202円/W)です。

ドイツ、米国、スペインで風力が特に普及しています。特にドイツは2007年には総電力需要の14%が再生可能エネルギーでその大半が風力です。2020 年までに再生可能エネルギーを25-30%に引き上げる計画です。

米国エネルギー省が2008年5月にまとめた「風力発電の建設費の動向」(Annual Report on U.S. Wind Power Installation, Cost, and Performance Trends: 2007 U.S. Department of Energy May 2008

によれば米国の2007年の風力発電の新設は史上空前の成長を示して5,329MWに達しました。新設の発電設備の35%は風力でした。これは世界一の新 設数で既設を含めるとドイツに次いで米国が2番目です。優遇税制と気候変動に関する危惧もありますが、天然ガスコスト増がこのブームを巻き起こしたので す。米国の平均建設単価も200円/kW程度でした。2007年の末に風力の発電量が総電力に閉める割合は表-3.1のようになりました。

風力が電力に占める割合(%)
デンマーク 20.2
スペイン* 12
ポルトガル 9.3
アイルランド 8
ドイツ* 7
ギリシア 4.1
オランダ 3.1
オーストリア* 2.7
インド 2.5
英国 1.7
イタリア* 1.6
スエーデン* 1.2
米国 1.1
フランス 1
オーストラリア 0.9
カナダ 0.7
ノルウェー 0.6
中国 0.4
日本 0.3

表-3.1 世界の風力発電が電力に占める割合 *は原発撤退方針の国

日本では平野が少ないですから、風車は風が吹き抜ける尾根筋に並べて設置する必要があります。このとき渡り鳥の移動ルートなどは避けるべきでしょう。

また風車は低周波の空気振動を発生させて近くの住民に不快感を与えます。住宅地に近い立地は避けるべきでしょう。

風車メーカーの世界シェアは

メーカー名 2008年の世界シェア(%) 2007年よりの増分(%)
ヴェスタ デンマーク 17.8 2.5
GE アメリカ 16.7 1.9
ガメサ スペイン 10.8 2.9
エネルコン ドイツ 9.0 3.6
スズロンエネジー インド 8.1 1.3
ジーメンス ドイツ 6.2 0
シノベル 中国 4.5 1.5
三菱重工 日本 2.6 0.8
その他

24.3 -

表-3.2 世界の風車メーカー

スペインではアクシオナ(acciona energy)が成長した。コンクリートタワーを開発。

社会的金融を旗印にするトリオドス銀行が多銀行より1%低い低利で農家に融資して風車の建設を助けました。他の巨大銀行が金融危機で巨額損失を出したのに トリオドス銀行は無傷であったそうです。イタリアで連帯ファイナンスを掲げるバンカエティカ(倫理銀行)も同様のようです。

 

着底式洋上風力発電

さて北欧では陸は無論、洋上にも風車を建設しております。ドイツでは1基5MWのリパワー社製の巨大な風車12基が北海の水深30m地点で2008年稼動 開始とのことです。日本でも洋上にそって3キロメートルの幅で風車を設置すれば、プラス28%のポテンシャルがあるとする試算もあります。

洋上といっても浅い海に基礎を打ってそこに建設する着底方式です。バルチック海という内海や北海は遠浅ですからローコストで可能ですが日本の大陸棚は傾斜 が急でコストは余計かかりそうです。

図-3.2 コペンハーゲン沖の洋上風車発電機群 クパー氏2004年撮影]

では浪打際から40m程度の海底に着床させた2MWの風車が7基、2010年6月から茨城県神栖(かみす)市 で稼動しました。「ウインドパワーかすみ」のウインドファームで総工費35億円(建設単価250円/W)です。着床式では日本で3番目ということです。一 般的建設単価は500yen/Wと言われています。

発電単価は火力と匹敵できるのですが、風力は不安定で火力によるバックアップが必要となります。このためには火力のある都市圏までのグリッドにバンク逆潮 流能力が必要となります。電力会社はここに投資することを嫌っているため、風力は日本では普及しておりません。

メーカーにはデンマークのヴェスタス、GE、ジーメンス、インドのスズロンなどがあります。日本のメーカーは敗退したようです。

 

浮体式洋上風力発電

日本は世界7位の排他的経済水域をもっております。ヨーロッパでは沿岸から20-30kmまで数十メートルの遠浅であるため、安価な着底工法を採用できま す。それでも北海の深いところでは浮体式が研究されています。日本では急峻な海底地形のため、浮体式を選らばざるを得ません。浮体式はアン カーとチェーンまたは合成繊維製の係留索で海底に固定します。

2007年6月にノルウェイのStatoilHydro 社はスマートな棒状浮体登載風力発電機を発表しております。Spar-buoyとよばれる直径8.3m、長さ100mの縦型円筒浮体を鎖3本で海 底に固定し。これに直接風車を取り付けるものです。出力2.3MW、風車総重量138ton、タービン高65m、ローター直径82.4m、総重量 5,300ton、設置海洋底水深120-700mです。風圧による曲げモーメントによるヒールは浮体底部にカウンターウェイトを設置して抑える仕組みで す。

2009年には200million crowns(20.8yen/crownsとして41億円)の5MWプロトタイプ機(建設単価832円/W)が北海の10kmオフショアに設置されると のことです。風車はジーメンス社製で、棒状浮体はテクニップ社が建設します。ヨーロッパの風車の技術と北海油田開発の技術とが結びついたシンプルで見事な 設計です。まだプロトタイプ機のコストは開発費を含んでいるため高い。陸上と競合するためにはこの1/4分にしなければならないでしょう。トップヘビーの 重心を下げるために油圧方式にして発電機を下部に設置するなどの工夫も必要でしょう。

環境省の調査によれば日本の沿岸沖合30km未満、水深50-200mの海域に棒状浮体式風力発電機を設置すれば、原発56基分に相当する56GWの電 力が得られる試算になります。200kWの実証機を2011年の予算に盛り込んでいます。

2012年夏、長崎県五島列島椛島沖で環境省の浮体式洋上風力発電実証事業(戸田建設、富士重工業、芙蓉海洋開発、京都 大学、海上技術安全研究所、イーアンド・イーソリューションズ)が設置した浮体式風力発電実験機1基が発電を開始しました。鋼・PCコン クリートのハイブリッドスパー構造でStatoilHydro社のものと基本構造は同じです。台風の直撃にも耐えたとのこと。建設単価は 700yen/W。2016年から2,000kWを1基商用運転し、9機増設のアセスメント中です。

図-3.3 StatoilHydro社の棒状浮体式風力発電機

2013年5月三井海洋開発がダリウス型の風車とサポニウス型水車を浮体の上下につけたハイブリッド型の風力・潮流発電機を開発しました。水車は復元力の ための重しとなり、潮流以上の速度で回転しないためフジツボ付着でも効率低下は少なくなります。

2013年7月、三井造船は福島沖洋上風力発電の実証実験用に3本足のセミサブ型の風車向け浮体を建造しました。コスト 的に は地上タイプの4倍のコストになっています。コストが高い原因として、今回は1基しか設置しないため、割高になったと説明。設置を行うための機材として、 ヨー ロッパでは海上油田の掘削船が多数稼働しているため、これを利用し安価に設置することが可能。今回の構造でも、およそ3年後の量産化では地上設備の2倍程 度のコストに低減できる目途が立っています。さらに現在の2本の脚を1〜2本脚構造で実用化が可能となれば、地上設備と遜色ないコストに抑えられるとして います。

2011年より経産省が丸紅・MHIに委託して実施して福島県楢葉町沖20kmで実施していた浮体型洋上風力発電は出力 2,000kWの過去2年間の設備利用率は34%で合格でしたが、出力5,000kWの設備利用率は12%、海面から翼端高さ200mに達する出力 7,000kWの設備利用率は2%で不 合格でした。原因は風車の回転エネルギーをポンプで油圧に変換し、その油圧でモーターを介して発電機を回転させる油圧式変速機の不具合のためだとされてい ます。この3基合計14,000kWの建設費は585億円(4,192yen/W)は一桁大きすぎて仮に油圧式変速 機の不具合が解決しても採算には乗りません。安価な棒状浮体式ではなく、3本脚のセミサブ方式ですから、高価になるのは当然。経産省は風車は駄目だという ことを証明するための逆噴射研究をしているのだろうかと疑われます。同じ新型油圧ドライブトレインを装備した風車はMHIの風車は英国ハンターストーンに 設置し、陸上での実証試験を行います。この油圧装置はMHIが2010年に買収した英国のベンチャー企業、アルテミス社(Artemis Intelligent Power, Ltd.)の持つ油圧デジタル制御技術をベースにしたものです。


セイリング型洋上風力発電

さて日本では国立環境研究所がセイリング型洋 上風力発電という奇抜なものを研究しました。錨で海底に固定せず帆でセイリングするわけですが、それ故に送電はできず、電力をケーブルで陸に送れ ません。海水を電解して水素などの物質に変換して陸に輸送するというものです。当初は筏型でしたが、紐型半潜水浮体に一列に風車を搭載するほうが効率が良いことがわかりました。紐型の長手方向を風に対して60度程度に保持しローワーハル とアッパーハルを結ぶ翼方断面のストラットで揚力を作り出して風上に向かってジグザグに遡上します。しかし図-3.4のように風に対して真横の姿勢はとれ ません。荒天を考慮し設備利用率は42.6%とのことです。5MWの風車を11基登載します。

図-3.4 セイリング型洋上風力発電

セイリング型洋上風力から得られる電力で船上で電解し、液化水素、メタン化してLNG、水素吸蔵物質に吸収させて有機ハイドライドにして陸に運ぶとしてお ります。その工程のエネルギー損失は江嵜宏至氏によれば図- 6.5の通りとなります。

ここで水電解効率55%は過少見積りです。また有機ハイドライドへの転換効率を87%としていますが、これは楽観的すぎます。たとえばトルエンに水添させ る反応は

Toluene+3H2→Methylcyclohexane + 205kJ/mol

で収率0.91ですから、 水素化反応の発熱の40%を電力として回収し、水電解で電力の76%を水素に転換してメチルサイクロヘキサン化し、脱水素反応熱を水素燃焼で補うとすれば エネルギー回収率は

(3*284-205*0.7)/(3*284)*0.91=0.757

で75.7%となります。実際にはメチルサイクロヘキサンから水素を取り出してメチルサイクロヘキサンを再使用すれば転換効率は51%になります。

図-3.5 電力からの変換効率

私はセイリング型洋上風力発電構想を発展させ水素ではなく電解でアンモニアを合成して輸送するのが最も優れていると思います。

 

空中風力発電

カナダのMagenn Power社はヘリウムを充填したソーセージ状の気 球の外面にサボニウス型の羽をつけて軸を通し、この軸受けをワイヤーで地上に固定し、この気球を200-300m上空に係留して10-1,000kW発電 するアイディアを提案しております。上空には常にジェットストリームが吹いておりますので安定した発電が行えます。

サボニウス型は効率が15%程度と低いのが欠点です。著者は揚力型で76%と翼効率のよいプロペラ型風車をヘリウムを充填した気球で釣りあげる気球係留空 中風力発電も考えられるのではないかと思っています。羽は風下にとりつけ、発電機と結ぶ軸を長くして、翼と発電機の重心を調整し、軸回転モーメントを打ち 消す軽量で剛性のあるフレームで風車セットを気球から吊り下げます。無風状態や急に風向きが変ったときは係留のワイヤに翼が絡むのを防止するためにピッチ を変えて風車は止めます。

海上に係留することも考えられます。

図-3.6 空中風力発電

2014年3月米アルテーロス・エネジーズ社(Altaeros Energies, Inc)が空中に浮かべて発電する「浮上式風力発電装置」に挑んでいると公表しました。ヘリウム注入のドーナツ状の風船の穴に風車を装着する所が ミソ。グリーンウッド案の進化型といえます。

人工台風発電

2003年頃、オーストラリアオーストラリアのNSW州のウェントワース郡でエンバイロン・ミッション社により太陽熱を利用する人工台風発電なるものが 計画されました。オーストラリアのNSW州のウェントワース郡において半径5kmの砂漠をガラスやポリ・フッ化・ビニル樹脂膜で覆い、空気を35度加熱 し、その中心に直径150m、高さ1,000mのコンクリート製の自立型ドラフト筒を建て、ドラフト筒の下部に風車を設置して200MWの風車発電を行な うという計画でした。建設費7億オーストラリア・ドルとのことでした。これは太陽熱の変換効率1.03%で バイオ並みですが、発電単価はNCFの割引率を8%とし、30年運転でキロワット時当たり19.9円でした。薄膜型シリコン・ソーラーセルのコストダウン が著しいため競争力はなさそうです。

著者はこれをトップタービン型にすればより多くの電力を取り出せることを発見して2006年9月、ドロミテ・アルプスのセラ峠にある山小屋で開催された ハイブリッド・ソーラー・システムに関するインタナショナル・ワークショップで論文を発表しました。

図-3.7のように直径5キロメートルの円形のプラスチックシートで砂漠にカバーをして温室を作り、その円の中心に内径535m、高さ1,200mの鉄筋 コンクリート製の搭を建て、温室で暖められて上昇する空気で風車を回して826メガワットの発電しようというものです。太陽エネルギーの変換効率は 4.3%になります。建設費は1,800億円、発電単価はキロワット当たり14.1円になります。ご興味のある方はセブンマイルビーチ・ファイルに掲載し てある講演集"Power Generation by Artificial Typhoon"をご覧ください。

図-3.7 人工台風発電装置の立面図

これを人工台風発電を原発のボトミング・サイクルに使うことも可能です。原発の37oCの温排水 で空気を暖め、1,000mのドラフトタワーで人工風を作れば1,000メガワットの原発7基に一つのドラフトダクトを建設すると200メガワットの発電 が可能となります。3%の総合効率向上に相当します。

ドラフト筒をコンクリートではなくバルーンで作るという特許もあるようです。

 

ソーラーセル(PV)

森林もふくめ、植物が太陽光を利用して光合成する二酸化炭素を固定するソーラーエネルギー転換効率は1%以下です。これに比べ、ソーラーセル (photovoltaic cell, PV)の転換効率は10%(EC60904-1 AM1.5放射照度基準1kW/m2) 以上とバイオの約10倍です。

ソーラーセルは半導体の光起電力効果(内部光電効果)を原理とするもので可視光を直接電子の流れに変換できます。可視光を電力に変換する素子としては結晶 シリコン型、シリコン薄 膜型(Thin Film)金属化合物型(Metal Compound)色素増感型(Dye-Sensitized)、有機薄膜型がありま す。このほかに光を電磁的に電流に変換する技術や熱電変換素子も研究されています。

初期の太陽電池はシリコンを使うタイプであったため、シリコンの精製に多大な電力が必用で、果たしてソーラーセルを製造するために必要とする電力を供給し て余剰が出るか心配された。これを太陽電池の自己増殖性という。現在では数分の発電量で、製造電力をまかなえることが分かっている。最近はシリ コン以外の半導体も開発されており、自己増殖性は全く問題ない。

日本は狭いようで国土の66%は山林・原野で手を加えることは可能です。国土の1.8%にソーラーセルを設置すれば日本 の電力の100%をまかなえること が可能となります。国内で無理なら海外の砂漠に立地すればよい。海洋だってありますのです。産業にとって国境などはすでに無いに等しい。

埋め立ての終わったごみ処分場は全国3,600ヶ所。109km2(山手線内側面積の1.7倍) あり、PV設置すれば7.4GWとなり、2020年の政府目標の60%に等しくなります。

シリコンを使うソーラーセルの理論転換効率は33%で500倍集光時は40%となります。効率が低くてもコストが安ければ、発電コストは下がります。 ソーラーセルはエネルギー発生装置なので情報処理用の半導体とは異なり小型化で素材量を減らすことはできません。そこでコストダウンには2つの流れができ ています。一つはアモルファスによる薄膜化で素材量を1/100にしました。効率は半分に落ちますが発電コストは下がります。ただこれは屋根の面積が小さ な家庭用にはむかず大規模発電用です。

もう一つはシリコンを使わない化合物半導体の薄膜を使うものです。効率の低下はシリコン程ではありません。いまのところ米国のファストソーラーが急成長し てマレーシアなどに巨大工場を建設しましたがテルル資源に制約があり、年産3GW程度といわれています。インジウムを使う化合物半導体も開発されましたが 資源的な制約が懸念されます。

いずれにせよコストダウンは装置の大規模化ではなく、多量生産によります。多量生産を促進するために各国は定額買取制度、税控除などの政策を採用しており ます。多量生産は人件費の低いアジアが有利で日本に勝ち目のある製品でないところが困った点です。真空装置で製造するのが一般的ですが印刷技術の採用など の技術革新によってまだコスト低下が期待できるかもしれません。

日本の人口1億2,800万人とし、平均家族構成を4人とすると、日本全土に3,200万戸の家屋があることになります。この全ての屋根に最大 出力3.3kWのソーラーセルを乗せるだけで、各戸の年間発電量は3,290キロワット時/戸ですから1,050億キロワット時となります。日本 の総発電量1兆キロワット時の10%のポテンシャルがあることになります。100%の自給率にするためには屋根の10倍の面積にソーラーセルを設置するこ とで可能となります。ビルの壁面を全てソーラーセルで覆うことも考えられます。耕作放棄農地もソーラーセルを設置する場所にできます。陸上で確保できなけ れば湖に浮かべることができます。将来は洋上の浮体に設置することも考えられます。実際にそのような構想もあるようです。

  タイプ 転換効率(%) システム価格(円/W) @2009 メーカー 特徴
シリコン系 単結晶 16-18 普及 シャープ、サンヨー シリコン単結晶をスライスしたシリコン・ウェィファー上に演算素子製造と同じ製法でp-n接合半導体 と電極を構築。シリコンが多量に必要で高価、長寿命
単結晶とアモルファスのハイブリッド 17 700 サンヨー 単結晶とアモルファスのハイブリッド(HIT構造)
多結晶 13-14 470-570 シャープ、京セラ、三菱、Qセルズ、サンテック、モーテック、ソー ラーワールド シリコン多結晶でできたシリコン・ウェィファー上に演算素子製造と同じ製法でp-n接合半導体 と電極を構築。シリコンが多量に必要で高価、長寿命、現時点での主流
薄膜アモルファスシリコン 6-7 250 ULVAC、MHI、カネカ、 物理気相成長法(PVD、スパッタリング)でガラス基盤上に透明導電性電極、化学気相成長法 (CVD)でp-n接合半導体、 最後に導電性反射電極と3層の100オングストロームから1mmの薄膜を形成、 大面積、量産化可能、コストダウンの有力候補
薄膜多接合(thin‐film and multijunction) 9-12 155@2011 MHI、カネカ、富士、シャープ、サンフィルム、ULVAC、東京エ レクトロン、アプライド・マテリア ルズ) アモルファスシリコン(a-Si)と微結晶(micromorph or microcrystalline)シリコンを積層し吸収波長域を広くして効率向上を図る。スタック型、積層型、タンデム型(Tandem)とも呼ばれ る。シリコン使用量は結晶型の1/100、大面積、量産化可能
金属化合物半導体系 単結晶(GaAs) 30-40 研究 - 単結晶のため高コスト、高効率、長寿命。宇宙船などの特殊用途向き。有毒物質含むため、リサイクルが 必要 。集光型化合物太陽電池の開発が期待されている。
多結晶型(CIS) 11 研究 ホンダ、昭シェル ガラス基板上に電極となる透明導電性薄膜、そして銅-インジウム-セレン化合物半導体の薄膜を形成 し、その上に電極となる導電性反射薄膜を形成する。製造 エネルギーはシリコンの半分 。ただしインジウムの資源量に不安あり
多結晶型(CIGS) 14 450-600 昭シェル、ホンダ、マノソーラー社 真空法ではガラス基板上に電極となる透明導電性薄膜、そしてシリコンより理論変換効率の高い銅-イン ジウム-ガリウム-セレン(CIGS)金属化合半導体 薄膜を形成し、その上に 反射電極となる薄膜を形成する。この他にナノ粒子を塗布する方法がある。 製造エネルギーはシリコンの半分 。ただしインジウムの資源量に不安あり
多結晶薄膜(CZTS) 9.6% 研究 IBM/昭シェル 銅ー亜鉛ー錫ーセレン(Copper, Zinc, Tin, Selenium)安価で豊富な資源
多結晶型(CdTe) 16 250-150 ファースト・ソラー ガラス基板上に透明導電性薄膜、そしてカドミウムーテルルを薄膜形成し、その上に電極となる導電性反 射薄膜を形成する。有毒物質含むためリサイクルが必要
有機系 色素増感型 6-10 研究 - Dye-Sensitized Solar Cell (DSC)または湿式太陽電池、グレッツェル電池と呼ばれる。 透明電極などは薄膜型とおなじ。安定性、耐久性が課題
有機薄膜型 5-10 研究 パナソニック、エネオス、三菱化学、住友化学 p-n接合有機半導体を使う、短寿命、低効率、低コスト
量子系 量子ドット型 44 研究 - 量子効果を用いた太陽電池、サイズがそろったナノ粒子を有機溶媒に分散し印刷技術で塗布する
赤外線捕獲 太陽ナノ・アンテナ電磁波集光器 80 研究 - 既存のソーラーセルはすべて可視光を電流に変換するものだが本デバイスは中間赤外線領域(THz波) を電流に変換しようというものである
熱電変換 酸化物材料 - 研究 - ゼーベック効果を使う熱電変換素子

表-3.4  ソーラーセル、サーモセルの形式

ソーラーセルが多量に普及すると、電力網に逆潮流制限がされてフルに利用できなくなります。このために直流蓄熱家電、直流LED、バッテリーと組み合わせ てオフ・グリッド運用するようにして普及させる必要があると思うのですが。日本の家電メーカーは動きません。

2016年にはほとんどの地域でグリッドパリティーを達成し、世界の累積導入量は60GWを超えました。2016年には 風力より安くなる地域もあり、2020年には世界の累積導入量は700GWになると予想されています。

 

シリコン系ソーラーセル

<結晶シリコン型>

単結晶型と多結晶型がある。単結晶型は効率は高いが価格も高い。またp型とn型がある。

ソーラーセルの第一世代は表-5.16のように高純度シリコン・ウェィファーの上に不純物をドーピングすることによってp型、n型不純物半導体を形成する 光ー電子変換デバイスです。電子がバンドギャップ(禁制帯)を越えて遷移するためにバンドギャップに波数も合わせる必要のある間接遷移型の光ー電子変換デ バイスです。情報処理に使われる電子デバイスと同じく製造装置には真空装置を使います。間接遷移型のため、光吸収係数が低く、厚いシリコン層を必要とする という欠点がありました。製法は高価な単結晶から多結晶に移行して現在の主力となっております。それでも高価で現時点で大量に市販されているセル単価は 470円/W(シャープ)程度です。

ドイツの急激な需要の伸びによりポリ・シリコン価格が高騰してしまいまい、苦境に陥りました。またドイツの新興メーカー Qセルズがシリコンメーカーを傘下におさめてトップメーカーに躍り出たこともシャープ、京セラなど日本メーカーの凋落に拍車をかけたようです。結晶シリコ ンは温度が上昇することで出力が低下します。これは高温において禁制帯幅(シリコンでは1.2eV)が減少することで出力電圧が低下するためです。結晶シ リコンの表面は青緑色で結晶が見えます。この方式は 並列結線のため、セルの一部が日陰になっても起電力が低下することはありませんし、転換効率が良いので平均的家屋の屋根に設置することにより、平均的な家 族の消費電力に見合う出力3.3kWが得られるというメリットがあります。しかし高温での出力低下という欠点を持っていることと、シリコン多少費型のた め、価格を下げることは難しいのです。

ドイツのニーダーバイエルン地方のポッキングという町では、2006年4月に太陽光発電所が送電を開始しました。62,500枚のソーラーパネルからなる 発電所の出力は10MW。投資総額は4,000万ユーロ(168円/ユーロ)でした。建設単価は672円/W

2008年9月完成予定のスペインのクエンカ県のアヴァンツァリア社向け京セラ製10万5,600枚のソーラーパネルからなる20MWの建設費は1億 8,000ユーロ(168円/ユーロとして302億円)ですから建設単価は1,512円/W。2009年には30MWに増強予定です。

サンヨーのHIT型も結晶シリコン型ですが、表面ガラスの深い刻みをいれて表面反射光を取り込む構造にし、シリコン・ウェィファーの表と裏にそれぞれp 型、n型薄膜を形成することにより変換効率を22.3%にしています。しかし課題は変換効率/製造単価比を高くすることでしょう。シャープは18MWの ソーラーパネルを大阪・堺コンビナートに設置し、関西電力が10MWの太陽光発電所を50億円(500円/W)で堺に2009-2011年に建設すると発 表しました。2011/7サンヨーはハンガリーでの生産能力を315MWに増強すると発表、最終的にはヨーロッパでの総生産能力を750MWに増強するた めに別の立地を検討中という。

住友商事はスペインのカナリア諸島で85億円を投じ9MWの太陽光発電を建設し2008年末には運転開始すると報道されています。建設単価は944円/W となります。三菱商事はブルネイ西部のべライト地区で1.2MWの太陽光発電所を15億円を当時建設中で、2010年に運転開予定です。建設単価は666 円/Wとなります。結晶系と薄膜系の混合型ということです。 スペインのアクシオナがポルトガルのモーラ地区に2億6,100万ユーロ(324億円、707円/W)で建設した45.8MWの太陽光発電所に出資しま す。三井物産はPFIで建設する羽田空港の新貨物ターミナルの屋根に2010年までに2MWのソーラーセルパネルを10億円(500円/W)で設置すると 発表しました。

北海道電力はNEDOの委託を受けて稚内市声間地区の大沼の北側に2007年着工で2010年までに5MWのソーラーセル実証研究施設をもつとしておりま す。 東京電力は川崎市の2ヶ所に次ぎ、甲府市下向山町に10MWの太陽光発電所を建設すると発表。2010年に着工、2011年運転開始予定です。中部電力は 7MWの太陽光発電所を武豊火力発電所構内に2009-2011年に建設予定です。

追尾型にすれば効率は30%向上しますが、追尾コストが高くつきます。

永らく、単結晶P型は高価だが屋根面積の小さい家庭用向けに使われていた。しかし単結晶の価格が下がったのに、PV以外 のコストが下がらないため、多結晶型が採用されていた業務用メガソーラーにも使われるようになりつつある。太陽光発電導入量世界トップの中国において、 2014年当時5%ほどに過ぎなかった単結晶シリコン太陽電池のシェアは、2015年には15%、2016年には27%と急増、2017年には35 %超と予想されるに至っている。こうした状況を主導してきたのが、中国のロンジ。

<シリコン薄膜型>

シリコン価格高騰に対応するため、第二世代としてガラス基盤上に100オングストロームから1mm の程度のアモルファスシリコンの薄膜を形成する薄膜型が開発されました。薄膜は化学気相成長法(CVD, Chemical Vapor Deposition)、物理気相成長法(PVD, Physical Vapor Deposition、スパッタリング法)などを使っています。モノシランガスをシリコン原料として使います。

PE-CVD法は反応容器の中に高周波の電界をかけ,原料ガスに電子を衝突させてシランガスをプラズマ化させ、基板にシリコンを積み重ねて、薄膜を形成し ます。

PVD法は真空中にアルゴンガスを入れて基盤とシリコン・ターゲット間に直流電圧を印加し、イオン化したアルゴンをターゲットに衝突させて弾き飛ばして酸 化錫と銀の 導電性の反射膜を生膜させるものです。

半導体製造装置メーカーのULVACの製造プロセスを例にして紹介しましょう。基盤となるガラス面上に常圧CVD法で酸化錫にフッ素をドープした透明導電 性酸化物皮膜(TCO Transparent Conductive Oxide)を形成します。そしてそれが特殊表面を持って光を散乱させるようにします。これをTCOガラスと呼びます。これはガラスメーカー が製造しておりますのでそこから購入します。まずTCO膜をレーザースクライビング装置で不要部分をカットし、望みの電極形状に加工します。次にプラズマ 化学気相成長法(PE-CVD, Plasma Enhanced CVD)でシランと水素ガス混合ガス存在下で順次独立したチャンバーに送り込み、カルバン(メタン)とボランを加えp層を形成します。次に添加剤を加えず i層を形成します。最後にホスファンを加えてn層の三層を形成します。次にこの三層をレーザースクライビングで直列結合になるように切り込み、その上に PVD法で酸化錫と銀からなる反射電極を形成します。再度レーザーで反射電極を切り分けます。直列結合した発電素子の末端の電極にリード線をハンダ付けし 背面はプラスチック(EVA)でラミネーションします。

図-3.8 シリコン薄膜型ソーラーセルの製造工程

薄膜アモルファスシリコン・ソーラーセルは高純度シリコンの使用量が減る為コスト低下は大きいものがあります。しかし転換効率は多結晶シリコンの14%程 度に対し7%ですから、発電単価は安いのですが面積が余計必要で、普通の民家の屋根ではその一家が必要な3.3kWを発電できないという欠点はあります。 しかし電力系統につなぎこむ場合は本質的なことではありません。また直列結線のためパネルの一部が日陰になるとパネル全体の出力が低下してしまう欠点があ ります。このため屋根のような複雑な形状の上に設置するのには向いていません。陰を作らない単純な場所に設置する必要があります。しかし重要なのはやはり コスト低減の可能性で今後大きく伸びるものと予想され、各社が製造工場に巨額の投資をしております。

アモルファスシリコンの低効率を解決する方法としてアモルファスシリコン(a-Si)と微結晶シリコン(micromorph or microcrystalline)を積層する多接合薄膜が開発されました。 吸収波長域を広くして効率向上を図るものです。スタック型、積層型、タンデム型(Tandem)とも呼ばれます。シリコン使用量は結晶型の1/100、大 面積、量産化が可能です。吸収波長域をずらせて総合効率をあげるものです。ULVACは効率9%のものを105yen/Wの原価で製造できるラインを中国 等に輸出しています。

エプソンは5つのシリコン原子と10の水素原子がリング状に結合している液体シクロペンタシランを板にスピンコートで薄く塗って半導体素子を製造する研究 をしていましたが、北陸先端大の下田達也教授らはシクロペンタシランにボロンやリンをドープさせて3度透明電極つきガラス基板に塗り、紫外線照射後400oC で焼き固めるだけで安価にp-i-n型アモルファス薄膜型シリコン太陽電池製造ができることを発見したと2011年2月に公表 しました。PV製造の真空装置が不要になりますのでPVモジュールコストは40yen/W位コストダウンが可能となります。

 

金属化合物系(Metal Compound)ソーラーセル

2つ以上の原子がイオン結合により結合してできる金属化合物半導体で構成されるソーラーセルです。一般的に、イオン結合は陽イオンと陰イオンとの強い静電 引力によって絶縁体となります。しかし、陽イオンと陰イオンの組み合わせによっては、静電引力が弱く、半導体となるものがあります。これを使えば発電素子 も発光素子も作れます。

<CIS金属化合物型>

1970年中ころ(Copper Indium Selenide;CIS、カルコバライト系)薄膜ソーラーセルが発明されました。銅ーインジウムーセレン化合物系半導体は電子がバンドギャップを越えて 遷移するとき波数を合わせる必要のない直接遷移型半導体です。CISは間接遷移型のシリコンに比較して1桁以上も光吸収係数が大きく、薄膜化に適しており ました。

昭和シェルはガラス基板のCIS化合物型を過去15年間継続しセレンを硫黄に置換するなどの研究をしましたが、CIGS に移行したようです。

2018/1 からソーラフロンティア(昭和シェル)が変換効率15.1%を出荷。19.2%も試作されている。2017年度末の中間目標は試作モジュールにおいて、発 電コスト17円/kWh相当の性能を確認すること。そのためにモジュール変換効率15%、モジュール出力劣化20年20%相当を狙う。2019年度末の最 終目標は、同14円/kWh相当の性能の確認。モジュール変換効率16%、モジュール出力劣化25年で20%相当で実現する。



<CdTe金属化合物型>

Harold McMasterが開発した カドミウムーテルル金属化合物型は日本では全く注目されていなかったのですが、2006年には未知の会社であった米国のファースト・ソラー社は ガラス基板の CdTe金属化合物型ソーラーセルを開発し、ドイツマーケットで急成長して2007年に世界シェアは5.5%となり、京セラと並び4番目のメーカーとなり ました。変換効率は22.1%です。京セラを追い越し、Qセルズ社に肉薄するのではないでしょうか。同社の生産原価は2004年には3ドル/Wでしたが、 2008年には1.4ドル /Wに下がり、2009年2月には製造原価が98セント/Wまで下がったと発表しました。ドイツのjuwiグループが飛行場跡地にファースト・ソラー社の パネルをつかって2007-2009年にかけ、40MW(年間発電量4,000万キロワット時)の発電所を200億円(建設単価5ドル/W)で建設中で す。 製造ライン能力は2010年に1,228MW、2012年に2,242MWとなります。2016年にはヨルダンで52.5MWのメガソーラーを稼働させま した。架台には1軸追尾式を採用しており、一年間に1億6000万kWhの電力量を生み出し、ヨルダンの総設備容量の約1%を賄います。

カドミウムやテルルには毒性がありますのでソーラーセルを廃棄するときにはメーカーが引き取ることになっております。カ ドミウムはニッカド電池に使われて おります。テルルはレアメタルの一種ですが、銅精錬時の副産物として産すします。日本の埋蔵量は世界の64%です。従来は乾式複写機の感光ドラムに使われ ておりましたが今後はソーラーセル材料として伸びるでしょう。欧州ではカドミウムを含む製品はRoHS指令(Restriction of Hazardous Substances)で使用制限があるためドイツ国内でセルを製造しており ます。

<CIGS金属化合物型>

2005年にDr. Jehad AbuShamaによって銅ーインジウムーセレンと銅ーガリウムーセレンの固溶体である(Copper Indium Gallium Selenide;CIGS)金属化合物型半導体が提案されました。CIGSは物質で2成分の濃度を変えることができます。禁制帯幅を自由に変えられるこ とから将来の多接合型への展開も期待されています。これがCIGS薄膜の第三世代のソーラーセルといわれるものです。

CIGS薄膜の作製法にはセレン化法と多元蒸着法の二つがあります。セレン化法は銅、インジウムなどの金属積層プリカーサをセレン系ガス雰囲気中で熱処理 することでCIGS薄膜を形成する方法です。多元蒸着法ほど高い変換効率は得られませんが大面積膜のCIGS太陽電池を作製する技術として普及しておりま す。一方、多元蒸着法は銅、インジウム、セレンなどの各元素を蒸着する方法で、実験室レベルの小面積CIGS太陽電池では高い変換効率を実現できる利点が あります。しかし、この方法はセレンを大量消費するため、大面積・量産用技術への展開は困難とされています。

昭和シェルはCIGS薄膜型を2007年7月より宮崎工場で年間80MWの生産能力で生産しています。R&Dでの効率は14.3%。昭和シェルは 2011年までに1,000億円を投じて宮崎県国富町にある日立のプラズマパネル工場を引き取って900MWのソーラーパネル工場に転換する計画と発表し ました。これを金利0で10年で償却するとすれば、製造ラインの資本費は10円/Wとなります。昭和シェルの製法はNEDOの委託研究で開発した製造法で すから真空装置を使っています。

ホンダ・エンジニアリングはガラス基板のCIGS薄膜ソーラーセルを2007年に市販開始しました。R&Dでの効率は13.9%。薄膜の厚さは2 -3mmです。2008年の建設単価は460円/kWhです。

シリコンバレーの技術者達は自由な発想でCIGS金属化合物のナノ粒子を有機溶媒に溶かして旧式ハードディスク製造法を転用して溶液塗布による薄膜製造と いう発想で2008年にコストダウンに成功しました。サンノゼのベンチャーであるマノソーラー社(Manosolar Inc.)です。同社はCIGS製品を最終的には 110円/W(1ドル/W)まで下げられるとしています。ただ現時点の建設単価は500円/Wで販売して利益を上げているようです。その製法はCIGSの ナノ粒子を有機溶媒に分散させたインクを輪転機の要領で基盤・電極・光反射板を兼ねる金属フォイル上に塗布して薄膜を形成し、その上に電極となる透明電気 伝導性薄膜をコートするという印刷製法です。真空中で行う蒸着法、スパッタ法、メッキ法を代替するコストダウン上有利な方法です。これをPrinted Electronicsといいます。そして品質のばらつきは電気性能が異なるセルを選別してマッチングさせてパネルを構成するという方法で対応しました。 年産1GWの製造ラインをもっております。ドイツ国内で製造し、ドイツマーケット向けに出荷を開始しました。現時点ではこれが最も安価なソーラーセルで す。2009年までの製品は売却済みとのことです。

米IBMは2008年春、CIGSをインクのように塗るソーラーセルを国際会議で発表しました。東京応化工業が1.5マイクロメートルの厚さで薄膜を塗る 技術で共同研究をしております。

エネルギーギャップの大きい化合物系の太陽電池では電圧低下の影響が少ないため、運転温度は-40oC±80oC としております。寿命は25年保証です。最終的に110円/Wとなればインバーター費を60円/Wを加えても建設単価は170円/Wとなります。変換効率 は14%以上。後に詳しく試算法を書きますが、発電単価は16円/kWhとなります。ドイツの再生可能エネルギー法では電力会社がソーラーセル電力を 50.62セント(65円)/kWhで買い取り義務がありますので急速に普及するものと考えられます。買取義務の上限がありますが、順次引き上げられると のことです。日本で一般消費者が支払う電力代金は23円/kWhですからインパクトは大きいといえます。製造担当役員はIBM出身です。デュポンや三井物 産が出資者に入っています。

図-3.9 金属化合物型ソーラーセルの構造

<CZTS金属化合物型>

インジウムは液 晶パネルの透明電極に酸化インジウムスズ(ITO)として使われており、資源的に不安視されます。そ こでこのインジウムを亜鉛で置き換えた化合物半導体が有望となります。

IBMのワトソン研究所はCZTS金属化合物型で9.6%の変換効率を達成しています。台湾のDelSolarもIBMと提携しています。東京応用化学工 業が化学と製造装置提供をします。 ソーラーフロンティア(旧昭和シェルソラー)とIBMは2010年10月銅ー亜鉛ースズーセレン系化合物CZTS(Copper, Zinc, Tin, Selenium)の薄膜太陽電池の共同研究を行うと発表しました。

<透明太陽電池>

産総研ではガラス基板への酸化物半導体による透明な半導体pn接合の形成を試みています。酸化亜鉛半導体(n型)と銅アルミ酸化物半導体(p型)の組み合 わせを対象に、ガス雰囲気や基板温度の制御など作製プロセスの工夫により、500℃以下の温度でガラス基板上にこれらの酸化物半導体による透光性の半導体 pn接合を形成しました。

太陽光の輻射エネルギーは紫外光が6%、可視光が50%、赤外光が44%を占めるので、発電に利用できるエネルギーは3%程度で多くはありませんが、窓ガ ラスに使えば赤外光(熱線)制御により節約できるエネルギーまで含めると、太陽光の利用効率は通常の太陽電池をはるかに超えます。

赤外光(熱線)の反射・透過の制御は半導体キャリアのプラズマ振動を利用して可視光の領域に影響を与えないで電圧制御により可能です。

MITをスピンアウトしたスタートアップのUbiquitous Energyはこの透明太陽電池の開発会社です。

<集光型化合物太陽電池(Concentrator Compound Solar Cells)>

宇宙用太陽電池として商品化され,高い効率と信頼性を示すInGaP/(In)GaAs/Ge3接合太陽電池を切り分けて小面積にし、放熱器に貼り付け、 安価なフレネル・レンズや鏡等で集光した太陽光をこれに照射して集光倍率の増加により太陽電池コストの削減を行う方式です。太陽光追尾装置が必要となりま す。

高電流密度に対応したデバイス構造や,光強度不均一や集光によるスペクトル変化への対応が要求されます。

セルの効率を29%とすればシステムとして28%程度の効率を持つものが期待されています。

シャープ、東大、日揮がサウジで実証実験中。

<ソーラーセル構成要素の資源>

ガラス基盤の資源は無限といってよく全く問題ありません。希少金属が問題となります。シャープ株式会社技監佐賀達男氏によれば、金属化合物系は安価ですが 資源に制約がありやはりシリコンが長い目でみて本命ではないかと言っております。しかし本当のところまだどうなるのか分かりません。

 

資源量 GW/y

Ag 125
Si 2,560
Te 3
In 25
Ga 19
Se 45

表-3.5 ソーラーセル構成要素の資源

 

有機系ソーラーセル

色素増感型

1991年にスイス連邦工科大学(EPFL、École Polytechnique Fédérale de Lausanne)のグレッツェル教授(Michael Grätzel and Brian O'Regan)らが提案し、特許を取得した次世代ソーラーセルでDye-Sensitized Solar Cell, DSCと呼ばれています。別名湿式太陽電池、グレッツェル電池とも呼ばれます。透明な導電性ガラス板に半導体である二酸化チタン、酸化亜鉛粉末を焼付け、 この粒子に色素を吸着させた太陽電池。ヨウ素溶液を介して透明な導電性ガラス板を対極にする電気化学的なセル構造を持つのが特徴です。電解質溶液の酸化還 元反応を伴うことから“光合成”に例えられます。効率が低く、寿命に問題がありますが、シリコンが不要で印刷技術で製造できるためコストダウンが期待され ております。永年研究されていますが、未だに実用化には成功しておりません。グレッツェル教授の特許がきれたため各社が参入し、ソニーが試作品をつくりま したがまだファッション性のある小型電子機器向けです。

<ペロブスカイト太陽電池>

BaTiO3(チタン酸バリウム)はペロブスカイトまたはぺロブスキー石または「灰チタン石」とよばれます。地球内部に おける主要な化学組成 である MgSiO3 は、地下約660kmから約2,700kmのマントル下部において、ペロブスカイト構造をとっていると考えられています。酸化物高温超伝導体は全て、ペロ ブスカイト構造を基礎とした結晶構造をしています。近年、これがシリコン製の太陽電池と同じ転換効率を達成でき、かつ発電単価7yen/kWhと安くでき ると期待されています。

ペロブスカイト化合物を太陽電池に用いた最初の報告例は桐蔭横浜大学大学院工学研究科 宮坂力教授らの研究グループで効 率20%とのこと。ハロゲン化鉛系ペロブスカイトを使っています。2009年に宮坂らは色素増感型太陽電池の色素部分にペロブスカイト結晶構造を有するヨ ウ化鉛メチルアンモニウム(CH3NH3PbI3) を用いて変換効率3.9%を達成しました。しかし このとき開発された太陽電池のホール輸送材料にはヨウ素を含む電解液を用いていました。そのため電荷分離層であるペロブスカイト材料であるヨウ化鉛メチル アンモニウム層が電解液で侵されてしまい寿命や効率がでませんでした。そこで同グループはその課題を解決するために2012年、イギリスのオック スフォード大学と共同で研究を行い、ホール輸送層に電解液を用いない全固体型色素増感型太陽電池に、ペロブスカイト結晶構造を有する同じペロブスカイト材 料を用いた太陽電池を作製しました。このとき最大変換効率10.9%という当時のハイブリッド型薄膜太陽電池の中では非常に高 い変換効率を達成し、以降ペロブスカイト系太陽電池は大変注目を集めることとなりました。

2016年、物質・材料研究機構(NIMS)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、次世代太陽電池『ペ ロブスカイト太陽電池』の変換効率が世界で初めて18%を超えたと発表しました。ペロブスカイト太陽電池は、化合物溶液の塗布によって発電層を形成する太 陽電池です。製造のために高温・高圧など特殊な環境を作る必要がなく、安価に大量生産が可能なうえ、発電効率が良いことから、次世代の太陽電池として高い 注目を浴びている太陽電池です。今回達成した変換効率は18.2%。この18%という数字は、一般的に『ソーラーパネル』としてイメージされる単結晶もし くは多結晶シリコン太陽電池の発電効率に匹敵します。

2016/5オランダのSollianceはペロブスカイト太陽電池モジュールを1枚1枚製造する枚葉方式ではなく、ロールツーロール方式やシートツー シート方式の連続大量生産方式を開発するという。米Nono-C、米Solartek、オーストラリアDyeSol、2016年3月に加わったパナソニッ クがこの方式を開発中。ペロブスカイト太陽電池は3年間で10ポイント以上という他に例を見ない勢いで変換効率を高めています。現在の記録は 22.1%)。変換効率の記録だけを見れば、薄膜太陽電池として既に成功しているCIS(銅インジウムセレン)やCdTe(カドミウムテルル)と同水準に 達しています。

ペロブスカイトとは、チタン酸カルシウムの結晶構造の名前。これと同じ構造を持つ化合物をペロブスカイト型化合物と呼び、ペロブスカイト太陽電池において は、この構造を有するヨウ化鉛メチルアンモニウムなどを光吸収材料の薄膜として用います。

ロスアラモス国立研究所はペブロスカイトの欠点である広い帯域幅を、電子が何回も行き来することで高効率発電する素子を 開発している。ペブロスカイトの結晶は印刷技術で膜化します。

2017年10月5日、理化学研究所がスパコン『京』を用いた材料スクリーニングで鉛を用いない51個の低毒性元素だけからなるペロブスカイト太陽電池の 候補化合物を発見しています。

2018年2月13日、ブラウン大とネブラスカ・リンカン大の研究者がペブロスカイト太陽電池の鉛を公害と劣化のないチタンに入れ替 えてもうまくゆくとしてます。透明なペブロスカイトの薄膜(効率4%)と通常のシリコン膜を重ねた複合セルで効率23%を達成しました。

<有機薄膜型>

1986年イーストマン・コダック社のC.W.Tangにより、有機薄膜太陽電池のプロトタイプが報告されました。有機 電子供与体(有
機p型半導体)と有機電子受容体(有機n型半導体)を接合したヘテロ接合(p-n接合)型太陽電池でです。電子供与体として銅フタロシアニン (Aldrich製品番号702854)が、電子受容体としてペリレンジイミド誘導体であるPTCBI (3,4,9,10-perylenetetracarboxylic bis-benzimidazole)が用いられました。

有機半導体のp-n接合の光起電力効果を原理とする次世代ソーラーセルです。産業技術研究所ではフラーレンとフタロシアニンを100ナノメートル厚さの薄 膜にして使えるものを試作しました。ただいまだ低効率です。有機物ですから寿命が短いのも課題ですが、インジウムのように 希少金属を不要とし、全て炭素や水素などありふれた元素から合成できますので資源的には有望です。研究途上で驚きのニュースが期待できそうです。

2011年7月、三菱化学は世界最高値となる9.2%のエネルギー変換効率を達成したと発表。この材料は結晶化前の前駆体の段階では有機溶媒に溶かしてイ ンク状にすることができます。それをフィルム基板に塗布して加熱すると、この半導体材料が結晶化し、太陽光電池に適した薄膜の半導体特性を持つようになり ます。こうしてできた有機薄膜太陽電池は、薄く、軽く、曲げられるという特徴を持つため、応用範囲が広く、様々なデザインに加工できます。たとえば、「屋 根だけでなく、自動車のボディ、家の壁面や部屋の壁紙、カーテンで発電する」といった用途を考えています。


量子ドット系ソーラーセル

<量子ドット型>

大きさが数nm〜数10nm程度のシリコンのナノス ケール粒子をならべた量子ドット構造を規則的に並べ、この量子ドットの大きさを変えることで異なる波長を捕らえることができます。こうすることで1基の半 導体のバンドギャップ中に複数のミニバンドを形成できます。これにより、単接合の太陽電池であっても、異なる波長の光をそれぞれ効率よく電力に変換するこ とが可能 となり、変換効率の理論限界は通常の太陽光で44%、500倍集光時は68%に達する。

素材としてはシリコン、InAs、PbSeなどの化合物半導体を量子ドットにするものである。

米国の国立再生可能エネルギー研究所(NREL)では量子効果を用いた太陽電池が検討されています。2009年シャープ と東大荒川教授らは16%の試作に成功しています。米国などで開発が進め られているとのことです。ただ製造コストは高くなりそうですね。

2012年に東京工大の野崎智洋らは大気圧プラズマをつかって四塩化ケイ素を非平衡プラズマで分解してSiClnのラジ カルが生成し、これらが凝集してナノ粒子に成長する方法を開発中。

2020年に京大化学研究所の坂本雅典教授らは硫化銅のナノ粒子をガラスに塗ったりして赤外線から3.8%の変換効率を 上げているという。



夜間光電池(反ソーラパネル)

放射冷却+熱放射型光起電力を組み合わせて夜間光電池(反ソーラパネル)を米カリフォルニア大学デービス校(UCD)の ジェレミー・マンディ教授らの研究チームは、熱放射型光起電力と放射冷却の概念を応用した「夜間光電池」を開発し、2020年1月15日、アメリカ化学会 (ACS)の学術雑誌「ACSフォトニクス」でその研究成果を発表した。これによると、「夜間光電池」は、夜間に、太陽電池のおよそ4分の1に相当する1 平方メートルあたり最大50ワットを発電できるという。


太陽ナノ・アンテナ電磁波集光器

屈折率は誘電率の平方根と透磁率の平方根の積ですからどちらか一方が負の場内、屈折率は虚数となり、電波は物質の中には入り込めません。しかし誘電率と透 磁率の両方が正もしくは負の場合、屈折率は実数となります。このとき,物質は電磁波に対して透明となり、電磁波は物質内に侵入することができます。両方と も正の場合、屈折率も正になります。これは自然界に存在する透明な物質です。しかし両方とも負の場合屈折率も負になります。負の屈折率をもつ物質をメタマ テリアルといい、自然界には存在しないとされてきました。

水やガラスは誘電率も透磁率は正です。金や銀などの一部金属は可視光領域において負の誘電率をもつものがあります。この 金などで微細周期構造(ナノ金属共振器アレイ)を作ると透磁率を負にすることができ、電磁波に対し透明になります。これは光を屈折させてあたかも透明に なったかのごとく見せる「魔法の透明マント」ともいえます。このとき電磁波はフレミングの左手の法則に従います。そのため、負の屈折率をもつ物質を左手系 物質や左手系メタマテリアルと呼称することもあります。 さてこのメタマテリアルを使ってSolar Nantenna Electromagnetic Collectorsというものが米国で開発されました。

米国エネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所(INL)とマサチューセッツ州のマイクロ・コンティニューム社 (Micro Continuum Inc.)が15cm四方のポリエチレン・シートに10億個の金、マンガン、銅合金製の5ミクロンのスパイラルまたは正方形のアンテナ群をプリント技術で 印刷し、中間赤外線領域の80%を高周波交流に変換できることを証明しました。同じ原理は可視光にも適用できますが、より微細な加工が必要となります。

中間赤外線領域の赤外線を捕獲するナノアンテナ・アレイと数兆Hzの高周波交流を整流する半導体を使ったナノ整流素子を組み合わせて直流に変換するか、ナ ノ周波数変換回路と組み合わせでより低い周波数の交流に変換するデバイスの研究が米国ですすんでいます。これはブレークスルー技術となるかもしれません。

今後はナノ整流素子かナノ周波数変換回路の開発に注力するとのことです。損失を防ぐためナノ・アンテナ毎にナノサイズの 整流器をプリントしなければならないのかなと想像しています。

太陽が沈んでも赤外線があれば発電できるし、廃熱から電力の回収ができます。SF的ですが赤外線を受けて別の波長の電磁波にして宇宙空間に放射させること も理論的には可能です。ナノ・アンテナ電磁波クーラーとでもいいましょうか。

これらはブレークスルー技術となる可能性を秘めております。 技術立国の日本がこの分野で後塵を拝さないようにしたいものです。

岡山大学の池田研究室では、グリーンフェライトと名付けられた酸化鉄化合物(RFe2O4、「R」は希土類)の研究を進めています。その一例として、可視 光 だけでなく、赤外線領域にも強い吸収域を持つ光吸収過程を応用し、「雨の日や夜間でも発電が可能」な太陽電池が開発されています

 

熱電変換(サーモセル)

温度差のある導体内部では温度の高いところで電子が活性化され低音側に拡散してゆくという1821年にドイツの物理学者トーマス・ゼーベックによって発見 された「ゼーベック効果」を使う熱電変換素子があります。冷却素子に使うペルチェ効果の逆の原理です。導体材料としてはn型とp型を交互に積層した構造と します。

産業技術研究所で試作されたものは常温に近いところではBi2Te3材を使います。高温では酸化してしまい ますのでp型としてCa3Co4O9、n型としてCaMnO3を 積層したモジュールを使います。1000oCの高温源、20oCのヒートシンクで受熱面出力密度8kW/m2で した。670oCの高温源、20oCのヒートシンクで受熱面出力密度4kW/m2で した。400oCの高温源、20oCのヒートシンクで受熱面出力密度2kW/m2で した。

エンジン廃熱、ごみ焼却炉、給湯器、ソーラーセルの廃熱などに適用可能。コストダウンできるかが開発のポイントでしょ う。 しかし建設単価は水冷式で10,000円/Wでコスト的には実用化は未だ困難というところでしょうか?

NECと東北大学は磁石に熱を加えると磁力が変化することを利用し発熱体の上に薄い磁石の膜を塗布し、その上に金属の膜 を塗布しすると金属膜に電流が生じる発電装置を開発したと2012/6に発表しました。5x2mmの面積で0.82μV/°C。

 

ソーラーセルメーカーとその製造ラインメーカー

著者はソーラーセルはその高効率故に再生可能エネルギーの中心的技術として人類の未来をゆだねるテクノロジーであると考 えてきました。一時期、日本はソーラーセル製造でも製造装置製作でも世界をリードしていましたが、大型装置で発電して売るというトップダウンのビジネス・ モデルを前提としている電力会社はソーラーセルによる分散発電を自分達の存在意義を失墜させる競争相手としてか熱心に取り組みません。また原発の比率が高 いのも足枷になっているようです。

一方チェルノブイリ原発の放射能汚染の経験を持つドイツは原発に対し、強い不信感を持ち、原発の段階的廃棄を国家目標にしております。このため風力と共に 太陽電池普及策である割り増し発電電力買取制度(フィードイン・タリフ法)を制定しました。そして日本を追い越してソーラーセルの普及率は世界最大となり ました。この需要に乗ってシリコンメーカーにを傘下におさめたドイツのセルメーカーが世界一になりました。またドイツの需要に果敢に挑戦したシリコンバ レーのベンチャーがシリコンを使わない金属化合物半導体系の安価なセルの製造法を開発し急速に成長しています。

国家が法によって電力企業にソーラーセル電力の優先的購入義務を果たすようにして技術開発の支援と普及の仕組みを造って 人類の先達になり、世界のマーケットにソーラーセルを供給するという 日本の国家戦略があってしかるべきだったのですが、原発の過剰設備を持ちすぎた日本はソーラーセル電力の優先的購入義務を電力会社に課すことができず、 リーダーになるチャンスを失ったようです。政府は2009年になって慌てて促進策をとろうとしておりますが、失った時間を取り戻せるのでしょうか。

ドイツの新興メーカーであるQセルズ社が薄膜シリコン型ソーラセルで攻勢をかけ、シリコンメーカーも傘下におさめて急成長し、2006年にはシャープに次 いで2位であったのですが、2007年にはトップメーカーに躍り出ました。しかし2009年にはCdTeという新技術を開発した米国のファスト・ソーラー 社が1位に踊りでました。3位は中国のサンテックです。

危機感を募らせた日本のシャープはイタリアのエネルと合弁でイタリアに2010年までに薄膜型のセル製造工場を欧州の機械メーカーも参加して新設するとし ています。日本のメーカーによる海外生産はこれがはじめてです。

セル価格150円/Wが期待される薄膜型の本格的な製造ラインはシャープのシリコン薄膜型製造ライン160MWが2008年に完成、最終的には2010年 までに1.19GWにします。

サンヨーもパナソニックと合弁でシリコン薄膜型に1,000億円投資すると発表しました。そのセル価格も250円/W程度に下げ、最終的には150円/W を目標に開発をすすめていると発表しました。2009年1月、新日石とサンヨーは薄膜型ソーラーセル製造の新会社「三洋エネオス」を設立し、200億円を 投じて年産80MWの生産ラインを建設し、2010年度に生産開始すると発表しました。セルの想定マーケットは中東の産油国としております。2016年ま でに1.5GWとしております。2020年には2GWの生産ラインに増強するとしております。また中東や北米でのセル生産も視野に入っているようです。

昭和シェルはCIS化合物型のセル製造ライン年産1GWを2011年までに1,000億円を投じて建設し、2011年までに完成させると2008年7月に 発表しました。新美春之会長(ワシントン大経済学部卒)が石油の次の収益源としてこの投資をリードしました。 そしてこのセルを使って2010年にはサウジアラムコと共同で小規模分散型の発電所をサウジに建設し、2012年には東南アジアにも事業を展開すると公表 しております。

京セラは2012年までに0.65GW、三菱電機は2011年までに0.6GWとしております。 発電素子に枠をつけたりシールしたりする工程は人件費の安い、メキシコ、米国、中国、チェコに組み立て工場を建設している。

こうして日本とアジアの薄膜ソーラーセルの年間製造能力は総計5GWに達します。5GWのソーラーセルの年間発電量は1GWの原発5基に相当する無視でき ない規模です。

2007年の世界のセルメーカーの生産量のシェアは 表-5.18のように急速に順位は変わりつつあります。世界には既に200社のソーラーセルメーカーがあると言われコスト競争が激しくなると予想され、今 後のコストダウンが期待されます。2009年には カドミウム・テルル化合物半導体を使うファースト・ソーラーが首位に立ったということです。

Company Country % in 2006  %in 2007 % in 2008 % in 2008
First Solar USA, Germany, Malaysia 2.8 5.6 5.3 11.2
JA Solar Holdings China 1.4 3.7 3.2 5.3
Kyocera Japan 8.5 5.8 3.1 4.1
Mitsubishi Heavy Japan 0.6 0.4 4.2 4.3
Motech Taiwan 4.8 4.9 3.5 3.0
Q-Cells Germany, Malaysia 11.9 11.0 6.1 6.0
Sanyo Japan 7.3 4.6 2.3 2.7
Sharp Japan 20.5 10.2 5.0 6.1
Suntech China 7.5 9.4 5.6 7.2
Yingli China 1.7 4.1 3.0 5.4
Others world 33.0 40.2 58.8 44.8
Total Production (MW) - 2,124 3,562 9,493 9,790

表-3.6  2007年の世界のセルメーカーのシェア wikiのデータを整理

2011年暮れになりますとアースポリシー研究所の調査によれば世界の生産量は中国11,000MW、台湾 3,600MW、日本2,200MW、ドイツ2,100MW、米国1,100MW、合計20,000MW(35,000MWになる)になり、価格が下が り、カリフォルニアのソリンド ラなどが経営破するまでになりました。

2013年3月世界最大のPVメーカー、サンテック・パワー(中国)の子会社無錫サンテックパワーが倒産。サンテック・ パワーはオーストラリアでPV製造法を学んだ施正栄会長が2001に創業。

半導体製造装置メーカーの米アプライド・マテリアルズ、ULVAC、東京エレクトロンなどはソーラーセルの一貫製造ライ ンをターンキーベースで東南アジア の新興国に拡販しはじめました。ULVACは2008年末までに中国、台湾、韓国のセルメーカーに年産25MW製造ライン4系列、50MW製造ライン4系 列、合計300MWを輸出して目下建設中です。 更に契約は9系列まで伸び続けているそうです。

半導体製造ラインメーカーがターンキーでアジア諸国に輸出したシリコン薄膜型製造ラインが総計300MW、いずれも2010年頃完成します。

米国のSPG Solarは2007年に湖面に浮かべるプラスチック製 フロート上にPVを固定するFloatovoltaicsというシステムを開発している。


ソーラーセル素材の資源とメーカー

<シリコン>

結晶型ソーラーセルの世界的な需要の高まりによりポリ・シリコンの長期契約価格は2004-2008年の4年間にキログラム当たり30ドルから80ドルに 高騰いたしました。2008年のスポット価格は400ドルまで高騰しております。これがソーラーセル普及の足を引っ張ったことは否めません。素材メーカー が生産能力を増す体制が整う3年先まで価格は下がりそうもありません。セル メーカーは薄膜化で対処しようとしていますが建設に時間がかかります。

シリコンは浜の真砂のように資源的には無尽蔵にありますが、精製過程はエネルギー多消費型です。まずカーボン電極を使用したアーク炉で二酸化ケイ素(珪 石)を溶融状態にして水素ガスで還元して2N程度の金属シリコンにします。

SiO2 + C → Si + CO2

SiO2 + 2C → Si + 2CO

純度を高めるために金属シリコンを塩素と反応させて塩素化してトリクロロシラン(三塩化シラン)とか四塩化ケイソというガスにして深冷蒸留して純度を高 め、再度水素ガスで還元して高純度の多結晶シリコン(ポリシリコン)にします。この精製過程で更にエネルギーを消費します。

Si + Cl2 → SiCl4

SiCl4 + 2 H2 → Si + 4HCl

論理素子などの半導体製造用に更に11N程度に純度を高めます。ゾーンメルティングやCz(チョクラルスキー)法などの単結晶成長法による析出工程が必要 となります。

ソーラーセル製造目的には7N程度純度は低くてもよいため多結晶シリコンがそのまま使えます。 シリコンを使用するソーラーセルはエネルギー的に自己増殖性はないのではと危惧されたこともあります。自己 増殖性とは、そのエネルギーを作り出すデバイスを製造するために使ったエネルギー以上のエネルギーを、そのデバイスが生み出してくれることをいいます。

多結晶シリコンのソーラーセル開発の初期の頃はソーラーセル製造エネルギーのうち、素材シリコン部分の製造エネルギーは1ワット出力当たり1.5キロワッ ト、セル部分の製造エネルギーは1ワット出力当たり0.2キロワットなので、ソーラーセルの製造エネルギーは計1.7キロワットでした。1ワットのソー ラーセルの年間発生電力は1.2キロワットなので、これからソーラーセルの製造エネルギー回収年数(Energy Payback Time, EPT)は1.4年となります。2001年のNEDOの成果報告書によれば薄膜型のソーラーセルのEPTは1.1年、多結晶型(CIGS)金属化合物半導 体系ソーラーセルのEPTは0.9年とされています。

薄膜型ソーラーセルの原料となるモノシランはトリクロロシランの不均化反応や金属ケイソと水素から合成します。

<金属シリコン・メーカー>

酸化物から還元するには大量の電力を必要とするため、電力の安い国が金属シリコンの供給源となっています。中国利南グループなどからの中国品が83%で トップ、南アフリカ、ノルウエー、オーストラリアからも輸入しております。

<ポリシリコン・メーカー>

2007年の世界最大のメーカーは米国ヘムロック社で年産4万トン、トクヤマは2012年完成のマレーシア工場を含め年産1.2万トン。三菱マテリアル、 大阪チタニウムテクノロジーズなども海外展開を検討中です。

<多結晶シリコン・ウェハー・メーカー>

ノルウェーのソーラーセル・メーカーであるリニューアブル・エナジー、信越化学工業、慨UMCO(旧三菱住友シリコン)

<モノシラン・メーカー>

薄膜型ソーラーセルはモノシランガスを原料にして製造します。三井化学とかトクヤマが代表的なメーカーです。

<インジウム>

金属化合物型セルの弱点はインジウムの資源量が限定されているため、資源争奪戦 を引き起こす恐れがあります。ただシリコンの方が資源量に問題がないとはいえ、その精製にエネルギーを多消費しますので簡単には比較できません。

 

宇宙太陽光発電

1977〜1980年にNASA(米国航空宇宙局)とDoE(米国エネルギー省)が構想検討したものはアメリカ合衆国全 土の全電力を賄うため、発電性能500万kW、総重量約5万tの超巨大衛星を静止軌道上に年に2機ずつ、合わせて60機程を打ち上げることが計画されまし たがコストがかかりすぎるとして中断しました。

大気の状態によっては、送信されたエネルギーが吸収・減衰して発電量が激減するし、野生動物(特に渡り鳥)の生態に悪影響を与える可能性が懸念されており ます。

2007年10月には米国防省の国家宇宙安全保障室(NSSO)が「戦略的安全保障としての宇宙太陽光発電」という研究 報告を発表しました。これによれば幅1kmの静止地球軌道上に1年間降り注ぐ太陽エネルギーの量は確認埋蔵量に匹敵するとしております。

巨大なソーラーパネル・アレイを静止地球軌道上に設置し地表にマイクロ波またはレーザー送電を使う宇宙発電システムが可能になります。マイクロ波を地上で 受信し送電線につなぎ、人造合成炭化水素に転換するというこうそうですがコスト的にいかがなものか。アメリカを含め広大な砂漠を持つ国は太陽光をアンモニ アに変換して世界のエネルギー供給センターになり 、国富を蓄積できるというメリットがあるため宇宙太陽光発電など高価な方法を採用せずともよいと思う。

2015年、MHIが電子レンジ用のマグネトロンを使って13m x 8mアンテナから10kWのビームをとばし、500m先のLEDを発光させることができた程度。


集光型太陽熱発電(CSP発電)

集光器を使って高温を作り、水蒸気を発生させて発電する集光型太陽熱発電(Concentrating Solar Power, CSP)という方式があります。日本では1970年代にNEDOがパワー・タワー型のプロトタイプを建設して実証しましたが、石油がバーレル40ドルに高 騰した後、10ドルに暴落したため、このプランは忘れられました。

しかし最近の原油価格の高騰をうけて見直されております。CSPルネッサンスです。炭化水素燃料やウラニウム燃料などに有限の資源に頼っているかぎり資源 価格暴騰につながりますので安価なCSP発電が有望と考えはじめたようです。石油が一定値を越えれば、天然ガス発電と同ベルの発電単価を達成できるという 評価のようです。

ドイツ航空宇宙センターが行った地中海地域における集光型太陽熱発電についてNEDO海外レポートNo.961 2005.8.17に紹介されております。これによればCSP発電は砂漠地帯や地中海諸国に適した方法であるとしております。2020年頃から普及し始 め、2050年頃には発電シェアは50%に達するだろうと予測しております。ドイツはまだ研究段階ですが、バラポラ ・トラフ型の集光器を研究しております。

米国のオースラ社が公表した177MWのリニア・フレスネル鏡型CSPは蓄熱も可能です。CSPが大型集中型のため、電力会社向きの再生可能エネルギー確 保に最適です。

<パワー・タワー型またはヘリオスタット型>

2007年スペイン南部のアンダルシア地方セビリアにはアベンゴア(Abengoa)が造ったPC10という11MWの商用パワー・タワー型(Power Tower)が始動し、PC20という20MWの商用パワー・タワー型が近々稼動する予定です。624個の可動鏡(ヘリオスタット)とが円形の地表に設置 され、その傍らに立つ115mの塔の頂部に集光する仕掛けになっています。鏡が多数あるため、可動鏡の角度制御に はプログラム制御しか使えず、フィードバックが使えないため、焦点がボケるという問題があります。

建設費は3,500万ユーロです。このうち500万ユーロはヨーロッパ連合が出資しています。建設単価はユーロ160円として509円/Wとなります。ア ベンゴアはアブダビの500MWプロジェクトにも意欲をみせています。

2010年、ネバダ州に近いIvanpah乾湖の西のモハベ砂漠に建設がきまったサザン・カルフォルニア電力のIvanpah Solar Electric Generating Systemもパワー・タワー型で発電容量は392MWで建設費は2billion$です。建設単価は5.1$/W(408yen/W)となります。

三井造船も自社技術でパワー・タワー型を売り出しています。東京工業大学の玉浦教授のアイディアです。ビームダウン型で、2番目のミラーの反射率が低い と、温度上昇で使えなくなります。建設単価は500円/Wを想定しています。 アブダビとコスモ石油が資金をだしました。いままで資金を出すのを拒んできた政府もようやく松下忠洋経産副大臣が30億円の資金を出す決断をし、チュニジ アに売ることができました。

<バラポラ・トラフ型>

2007年のアリゾナ州の報告書では2010年のバラポラ・トラフ型の発電単価は14円/kWh、ディッシュ・スターリングの発電単価は25円/kWhと しております。

バラポラ・トラフ型(Parabolic Trough)集光器は樋状に伸びた放物面鏡と樋の長さと同じ集熱管で太陽熱を 熱油または溶融塩に集める集光器です。集熱管はガラス製の真空管 (ショット・ソーラー社製)中に格納され、表面は赤外放射のエミッシビティーを下げる物質でコーティングされております。集熱管内は熱油または溶融塩が流 れます。蓄熱は溶融塩式です。アベンゴアも同一の技術を持っており、溶融塩を加熱して蓄熱して夜間も発電しています。

バラポラ・トラフ型は優れ たコストパーフォーマンスにより、最も普及しております。曇りや雨が多いところには適しませんが、サンベルトに設置すると原発より安い電力を生むことがで きます。

図-3.10 バラポラ・トラフ型(Parabolic Trough

2010年、米国内務省はドイツのSolar Millennium AGとFerrostaal AGの合弁会社であるSolar Trust of AmericaがカルフォルニアのBlytheに建設予定の1,000MW、6billion$プロジェクトに認可を与えました。建設単価は6$/W (480yen/W)です。

ドイツはモロッコを中心にの投資を計画しております。

ドイツを代表する20の大企業がデザーテックという企業連合を作り、サハラのCSP事業に総額で 1兆ユーロ(110兆円)の投資を意味するプロジェクトを立ち上げることが決まりました。それらの企業とは;ミュンヒナー・リュック(ドイツの大きな再保 険会社)、シーメンス(ドイツ最大の総合電機企業) 、ドイチェ・バンク(ドイツ最大の銀行)、E.on(世界最大の電力会社)と RWE(ドイツで第二位の電力会社)、ショット・ソラー(CSP発電設備メーカー)、イタリアとスペインの企業(複数)、アラブ連合の代表者です。電力は 地中海を越えてドイツに送電するのです。ドイツのガブリエル環境相が上記の企業のイニシアティブを歓迎し、政府として最大限の協力を約束するとしておりま す。とくに、多くの国を縦断する送電に関して解決するべき法律的な問題は「地中海ユニオン」(沿岸諸 国で作る連合)http://www.desertec.org/downloads/solarplan.pdfの 枠内で解決する意向を表明しました。

Googleがモハベ砂漠で建設中の392MWのCSP発電に168million$投資する。これは0.4$/W相当である。

スペインのCSPメーカーはアクシオナ(acciona energy)、アベンゴア(Abengoa)はPVも、元建設会社から転進した企業Grupo ACS (Actividades de Construcción y Servicios)。

<リニア・フレスネル鏡型>

2008年3月、米国のカルフォルニア、パロアルトのオースラ社(Ausra Inc.)というベンチャー企業がカルフォルニアで177MWの CSP発電プラントを560億円で建設し、天然ガス発電と同程度の発電単価で電力会社に売電する計画があると公表しました。一枚一枚個別に角度制御する必 要があります。 建設単価は316円/Wです。

集光器ではリニア・フレスネル鏡を使っ70気圧、285oCの水蒸気を発生させます。熱サイクルの効率は33%です。タービン発電 機の稼働率を高めるために集光器を余剰に持ってタービンが処理できない蒸気は蓄熱器に送り、それでも余る場合は焦点をぼかして熱を捨てる設計です。最適の 蓄熱器容量は16時間の安定運転のものということです。したがってグリッドは夜間や雨天のためのバックアップ電源を用意する必要はありません。蓄熱器の形 式は公表されておりませんが基本的に水を使うということです。発電単価は16時間蓄熱発電で8.4-10.6セント/kWhとしております。150km四 方の土地があれば全米の電力を賄うことができます。クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズなどの有力ベンチャー・キャピタルが巨額 の資金を投資して、積極的に投資してゆくようです。

図-3.11 リニア・フレスネル鏡をつかう集光型太陽熱発電

日本では原野とされている山林に設置すれば土地代金はほとんど不要です。

<CSPの熱媒体>

従来使われていたのは炭化水素系の熱油でバラポラ・トラフ型で最高温度380oC程度が限度でした。しかしノーベル賞受賞者の CERNのカルロ・ルビア博士は溶融塩をバラポラ・トラフ型の熱媒体にすることを提案し、近くイタリアでアルキメデスという実用機が運転開始予定です。温 度を550oCまで高められますから熱効率があがります。カルロ・ルビアのすごいところは溶融塩を集熱管のなかを通したことです。 真空のガラス管内部に設置する集熱管の表面処理により赤外線放射率を低下させることが可能なためです。

冷水塔で33oCの冷却水が得られるとし、ホットオイル循環で400oCでは発電効率はカルノー効率と実効 率の比を0.55とすれば

(1-(273+33)/(273+400))*0.55=30.0%

溶融塩循環の場合は

(1-(273+33)/(273+550))*0.55=34.5%

となり発電量は34.5/30.0=1.15倍になります。発電コストは15%下がるということになります。カルロ・ルビア博士はは別に空気や二酸化炭素 を集熱管を通すことも考え ました。バラポラ・トラフ型集熱管がどこまで高温にできるかは不明です。多分熱放散を防止する技術が鍵をにぎると思います。もしバラポラ・トラフ型集熱管 で800oCが可能なら

(1-(273+33)/(273+800))*0.55=39.3%

となります。これはガスタービンを使うコンバインドサイクルに道が開きます。これ以上はヘリオスタット型になるのでしょう。ドイツではソーラー・ガスター ビンという名で開発中です。

核 分裂させるわけではありませんからシチリア島の実験プラント、アルキメデスでは熔融塩として高価なフッ素とかリチウムは使っていません。KNO3 (40%)-NaNO3(60%)溶融塩1300トンを蓄熱材とし、290°Cの溶融塩を540°Cに昇温する時の顕熱として、80MWhthのエネル ギーを蓄熱する。これは同発電所の7時間分の発電エネルギーに相当するとされています。

<CSPのヒートシンク>

砂漠で工業用水や海水が得られないときは空冷とします。このときの大気温度を40oCとし、溶融塩循環とすれば、

(1-(273+40)/(273+550))*0.55=34.1%

となり、空冷式の効率低下は34.1/34.5=0.988で大きな減少ではありません。

<蓄熱を併用するCSP>

CSPのメリットは蓄熱ができることです。ソーラーセルでは出来ない夜間発電が可能となり、電力会社向きとなります。蓄熱は水の潜熱をつかうもの、溶融塩 の顕熱をつかうものが考えられますが、土や岩石も蓄熱体として考えられます。

<スターリング・エンジン搭載ディッシュ型集熱発電機>

アイルランドの再生エネルギー開発会社NRTの傘下にある米国のTessera Solar社がその姉妹会社であるSES社が製造する登録商標名サンキャッチャー・パワー・システムという4気筒副動スターリング・エンジン搭載 のディッシュ型集熱器を2010年より販売開始しました。

初期の頃はスウェーデンの造船会社Kockums社のU4-95という水素を作動ガスとする25kW出力のスターリン・エンジンで4気筒副動クランク・エ ンジン を採用しております。シリンダー頭部に形成するお椀状のヒータ管壁に集熱し、集光面とエンジンシリンダーは最短距離にして高温材料を最小限にしています。 管壁を810℃に直接加熱し60oCの冷却水でジャケット冷却をし発電端効率27%でした 。これはカルノー効率の40%の性能です。60oCの冷却水はシリンダーの水ジャケットとラジエータを循環しております。ラジエー タもエンジンと一体構造にして無駄な配管類を排除しております。新エンジンの熱効率は31.25%に向上させています。

図-3.12 4気筒副動スターリング・エンジン

25kWディッシュを標準モジュールとして多量生産によるコストダウンというコンセプトです。コンクリート基礎も使わず鋼管をバイブレータで押し込んで支 柱を建てるというローコスト設計です。 それぞれの集光器が独立して太陽をフィードバック付きで追尾できるメリットがあります。

サザン・カルフォルニア・エヂソン社ならびにSandia National Laboratoriesによればその設置面積1m2当 たりの1日の出力は 表-3.3の通りです。

Type of CSP

kWh/m2

%

unit cost (yen/W)

Tracking  Stirling Solar Dish 629 31.25 320
Central Receiver (Tower Type) 327 - 500
Parabolic Trough 260 33.0 316
Tracking Photovoltanic (PV) 217 23 500

表-3.3 各種CSPの設置面積当たりの出力比較

すでに2プロジェクトの受注実績がありますがサンディアゴ・エレクトリック社はカルフォルニア州インペリアル・バレーで3万台のサンキャッチャー・パ ワー・システムを設置し750MWの発電をする計画です。サザン・カルフォルニ・エヂソン社はサン・ベルナルディオ郡に3.4万台のサンキャッチャー・パ ワー・システムを設置し850MW発電するということです。

建設費は公表されていませんが、電力会社が積極的に投資しているところから天然ガス発電に匹敵する単価と推察されます。 仮に多量生産で25kWが10,000,000円で建設可能とすれば建設単価は400円/Wとなります。

スペインのアルメニアに設置されているドイツSchlaich Bergermann und Partnerの10kW級発電システムもあります。その集光部の直径はφ8.5m、使用しているエンジンはドイツSOLOのV161エンジンです。2気 筒単動クランク・エンジンで,作動ガスには15MPaのヘリウムを用い、高温温度650℃において発電出力9.5kWe(発電端効率24%)が得られま す。

<太陽熱アンモニア分解、夜間合成発電>

太陽光、太陽熱発電の欠点は夜間発電できないことです。オーストラリア国立大学の研究グループは昼間液体アンモニアを集光型熱分解器で700oC に加熱、高圧の水素/窒素ガスとして圧力タンクに蓄え、夜間この混合ガスを原料にして鉄触媒でアンモニア合成し、発生する反応熱で蒸気タービン発電を行う というアイディアを研究してい ます。

 

水力発電

水力は太陽エネルギーが水の位置のエネルギーに変換されたものです。日本の水力発電の総発電量が年間900億kWhで日 本の9%の電力を供給しております。発電単価はキロワット時当たり13.6円程度です。

<大規模ダム式水力発電>

信濃川の全水量が導水トンネルの中を流れている時代ですからこれ以上は期待できないように思いますが、未開発の水力は年間480億kWhあるといわれま す。ただ大きなダム建設が環境破壊となり、土砂をせき止めるので海岸のエロージョンが発生し、テトラポットが海岸に醜 い姿をい晒すことになり問題が大きいと思います。

自流式水力発電は一定運転しかできなせんが、ダム式水力発電は負荷追従が可能ですので負荷調節用電源として利用されております。今後不安定な風力やソー ラーセルが普及するとき ますますバックアップとして重要となります。

<流下式ピコ発電>

河川の本流にをせき止める大規模ダム式水力発電はそのポテンシャルは全て開発しつくされ、河川は干上がっています。しかしダムを作らない河川の支流、農業 用水、上下水道、工業用水の落差を利用する流下式小規模発電は6億kWhあるとされる、まだ多少の余地はあるわけです。そのなかでも1-50kW程度の発 電はピコ発電と呼ばれます。衝動水車(ペルトン水車、ターゴ水車、クロスフロー水車)を使うカナダ製のストリームエンジンなどが使われます。

 

地熱発電

地熱は地球内部に存在する、ウラン、トリウム、カリウム の崩壊熱に由来する。ほぼ無限の熱源である。

地熱発電は燃料を必要とせず、環境に優しく、出力調整可能で、燃料の枯渇や高騰の心配が無く、すぐれたエネルギー源です。また再生可能エネルギーの中で も、需要に応じて安定した発電量を得られる地熱発電はベースロード電源として利用が可能である点において、出力が不随意に変動する太陽光発電や風力発電と は異なった長所を有します。地球全体でみた資源量も大きく、特に日本のような火山国においては大きなポテンシャルを有すると言われています。近年の枯渇性 燃料の高騰によってコスト的にも競争力が増し、見直されつつあります。発電単価はキロワット時当たり16円程度です。

日本は地熱資源量は世界第3位で、原発13基分はすぐにでも開発できるというのに、原発で行こうという考えで固まってしまった政府が、 地熱発電に電気事業法で火力発電並の技術者常駐などの規制をかけているため、コスト高でいまだほとんど手付かずで眠っています。 また温泉の既得権をもつ観光業を守るために、地熱開発規制が行われています。

<フラッシュ式>

日本の地熱発電はフラッシュ式(直接膨張式)プラントです。出力は12.5MWです。12本ある蒸気井の深度は1,000-1,300mです。蒸気井は石 油井掘削と同じ技術で傾斜堀り。セパレーターの蒸気圧力は2-3.5気圧。セパレーターで分離された熱水が還元井に戻るまえに大気圧まで減圧される。この とき発生する蒸気がサイレンサーから盛んに放出される。タービンを駆動した蒸気は冷水搭で冷却した水をタービン排気の中に直接散水して凝縮させます。コン デンセートポンプを省略するために縦型円筒式のコンデンサー筒は発電所で一番高いところに設置されています。コンデンセートはすべて重力で還元井に戻して います。

鬼首にある電源開発の地熱発電所も八丈島にあるものもフラッシュ式地熱発電所です。

図-3.13 タービン 室、セパレーター、電気室

図-3.14 冷水搭、 コンデンサー筒、タービン室

図-3.15 サ イレンサーから放出される蒸気

<バイナリー式>

フラッシュ式は温泉業と競合します。 解決法としては既存の温泉資源と競合しない高温岩体発電の採用です。2011年2月、原子力安全保安院はようやく思い腰をあげ 、300kW未満のバイナリー式にかぎり、規制緩和することになりました。しかしこれでは規模が小さすぎます。

そもそも地熱発電は本質的には地球深部におけるウラニウムの放射性崩壊熱の間接利用です。1982年、米国で自然エネルギーの資源量の評価に当たり、地熱 資源として深さ10km までを対象とし、この範囲の熱エネルギーを計算したことがあります。地温勾配を平均25℃/km、岩盤の熱容量を2.2 × 1015J/km3 ℃、150℃が使える最低温度として、全国土の面積936万km2における熱エネルギーを計算しまいたところ 1000万quads(1quad= 3,345×104MW ・year)となりました。この内約2%の地域180万km2では 地温勾配が45 ℃/km と高く、これらの地域のみの熱エネルギーでさえ、65万quadsで、1982 年当時の全世界のエネルギー使用量250quadsの2600年分に相当すると評価されました。 これらの地熱エネルギーの開発には高温岩体方式による熱抽出技術が必要として、その実用化に必要な要素技術の開発を開始しました。現在は天然ガス掘削装置 で地下にある高温の岩体が存在する箇所まで掘削し、水圧破砕し、水を送り込んで蒸気や熱水を得る高温岩体発電(hot dry rock geothermal power; HDR)の技術が開発されています。 アン・コンベンショナル・ガス開発で大きな威力を発揮した深度掘削、高圧水によるフラクチャリング技術がコストダウンに貢献しているようです。技術の波及 効果ですね。ヨーロッパではこの高温岩体発電で10%程度の一次エネルギーを賄おうとしています。

実施例としては1973年にロスアラモス研究所が中心となってミューメキシコ州フェントン・ヒルで実験され、NEDOが 参加し、2000年の山形県肘折(ひじおり)温泉や秋田県の雄勝(おがち)カ ルデラでの実験に適用しました。

イギリスではコーンウォールで、フランスではル・メイエ・デ・モンターニュ、ドイツではウラハとファルケンベルクで、それぞれ独自にプロジェクトが進めら れていましたが、1986年よりヨーロッパ連合(EU)のプロジェクトとして、フランスのソルツにおいて研究開発が進められています。オーストラリア大陸 中央に位置するクーパーベイズンにおいては、2002年度より高温岩体方式による本格的な熱抽出実験が開始されています。

2004年のドイツの地熱発電は0.4%でした。再生可能エネルギー法を作り、0.15ユーロ/kWh($0.23kWhまたは 16.7yen/kWh@111yen/ユーロ)のタリフをつけたとたん、ものすごい掘削ラッシュが出現したと2008年のRnewable Energy World Comの記事にあります。3.5 MWのドイツで建設費は30 to 40 million Euro(110yen/EUROとして942 to 1,260yen/W))寿命最低30年とあります。フラウンホーファー研究機構は地熱を10%にし、風力、太陽光のバックアップに使うことを提案してお ります。100oC前後の地熱でも発電できるように、タービン発電機はカリーナサイクルを採用し、廃熱は都市給熱システムに捨てる という方式を採用しています。タービン発電機はコンテナーに収容されたデザインです。

Oasys Water Inc.のRobert McGinnisがイェール大で発明した浸透圧発電(Osmotic power)のうちの一つPressure retarded osmosis(PRO)法を改良 した浸透圧熱エンジンosmotic heat engine (OHE)があります。半透膜を2段にし、高圧の塩水から圧力交換機という半透膜を透して炭酸アンモニアという(thermolytic salt)の高塩濃度の水溶液で水分を抜き、これを58oC以上に加熱してアンモニア+二酸化炭素に分解ガス化して分離し圧力交換 機に戻します。水は一段目の半透膜に真水として供給し、塩水に透過させて高圧の塩水を作るという閉サイクルを考案しています。これは蓄電にも使えますが、 むしろ低温地熱発電に適しているように思われます。実際に米国で実験中です。

ドイツのタービン発電機はスキッドマウントでコンテナのような箱に収納しているだけですが日本の仕様では立派なタービン室と電気室がある。 無人運転なのに必要はないはず。これは電気事業法に従っているからなのか、設計者の頭が固いだけなのか、箱物行政なのか大きな箱が多すぎる。こうして地熱 発電の建設費を押し上げて普及を阻害していることは間違いないでしょう。

ロシアでも国後島古釜市は地熱発電で40%の電力をまかない、暖房用熱湯は100%であったがついに2014年には100%の電力をまかない、日本の支援 で建設したディーゼル発電はスクラップにするという。この発電機もスキッドマウントでコンテナのような箱に収納しているだけのものである。

2011/3/11の原発事故後多少柔軟になった国は傾斜掘りで国立公園外から掘る地熱は許 可する方針をしぶしぶ出した。

 

海洋温度差発電

熱サイクルを使う洋上浮体搭載発電で利用可能ですでに「セミサブマーシブルズ搭載型原発」でご紹介したとおりです。

海洋の表層と深層1000mとの温度差は赤道近くでは24℃ですが、日本近海では18℃程度です。日本の経済水域360km(沿岸200カイリ)の範囲に 限っても年間約 1,000×1011kWh(100兆キロ・ワット時)の発電量が期待できます。日本の年間発電量が1兆キロ・ ワット時ですからその100倍のポテンシャルがあることになります。

佐賀大学のウエハラサイクルを使った正味出力30kWの実証試験プラントの建設費は30億円です。設備利用率80%とす れば1kWの年間発電量は

年間発電量 = 365 x 24 x 0.8 x 1 = 7,008kWh/y

1kWの建設単価は100,000,000円、均等化経費率10.48%/yとすれば年間経費は

100,000,000 x 0.1048 =10,480,000円/y

従って発電単価は

10,480,000/7,008=1,500円/kWh

と非常にコスト高になります。

 

海面浮上型ソーラーセル・ハイブリッド・コレクターとボト ミング・サイクル

自由人のエネルギー勉強会」 を主宰されている森永先生は 「ソーラーセルは広大な設置面積を必要とする。しかるに日本は狭い。打開策として海面に浮かぶソーラーセルを開発したらどうか」と考えられました。2枚の ガラスの間隙に 発電効率7%の低効率のシリコン薄膜セルを直接成膜するソーラーセルをカバーとするハイブリッド・コレクターを作ります。アモルファス・シリコン薄膜ソー ラーセルは多量生産で製造単価が100円/Wとなると予想されております。スチロフォームなどの保温箱と組み合わせたハイブリッド・コレクターは250円 /W程度の建設単価 が期待されます。このときの発電単価は最 新技術を使う再生可能電源の発電原価によればグリッド・パリティーの25円/kWhとなります。こ のハイブリッド・コレクターを海に直接浮かべ滅菌した海水を循環します。暖まった海水と100mの深層水との温度差発電が可能となります。嵐のときには ハイブリッド・コレクターを海面下100m程度に沈め、破壊から守りながら発電と温水利用の温度差発電の両方で発電量が倍増します。

図-3.16  ハイブリッド・コレクターと温度差発電

温度差発電装置は深さ100mにワイアーでアンカーする浮体に組み込みます。冷却水は海面下100mの20oCの海水を 浮体から吊るすパイプで汲み上げて使います。

設置場所

ボトミング・サイクル

温水温度

PV出力 ボトミング・サイクル出力 合計 総合効率 最高圧力 冷却水温度 冷却水 ボトミング建設単価 ボトミング発電単価
   

oC

kW kW kW % atm oC liter/h yen/W Yen/kWh
海面 アンモニアー水サイクル 98-54.86 2.8 2.77 5.57 13.9 35.1 20-28.7 2,306 250 25

表-3.7 40m2のハイブリッド・コレクター ボトミング・サイクル総合効率

「二兎を追うものは一兎も得ず」のたとえ、ソーラーセルなしの二重ガラスで海面を覆い、温海水を製造します。そして保温袋にこの温海水を蓄え夜間温度差発 電という構想もありえるでしょう。

 

海流・潮流・波力・潮汐・浸透圧発電

<海流発電>

海 流には世界中では年間数百TWhのエネルギーが存在するとされています。日本では黒潮が代表的で、八重山諸島、トカラ列島、足摺岬、八丈島など多くのエネ ル ギー資源が存在します。たとえば東経139度(伊豆半島沖)、北緯32.5〜34度(約150km)、水深50mの断面におけるエネルギーポテンシャル は、 2.1GWという見積もりがあります。

海上風車より安定した出力が得られ、バックアップ電源にもなり得ます。川重が英国で実験しようとしている海底設置の3枚 羽の水車発電は下記の概念図のようなものです。

問 題は海底への杭固定のコストと海洋生物のブレードへの付着防止策、メンテナンスでしょう。毒性物質での付着防止は海洋汚染を引き起こすため、潜水夫による 定期的クリーニングないし作業船へ引き揚げてクリーニングすることが必用となります。

ドイツのVoith Hydro はくい打ちを必要としない架台毎改訂に降ろす設置法と発電機だけ引き上げるメンテナンス法をシステマティックに行う工夫がみられます。また軸潤滑は船の推 進器と同じく、海水を使っています。つぎのビデオをみてください。

Ocean Energy - Tidal Current Turbine

VOITH社の 設置法とメンテナンス法

浅い海に適する海底設置だから安くあがるはずです。水深の深い日本で海中に風車を建てるよりこの方が安上がりになるなる かも。小笠原列島にそって一列に設置すれば太平洋循環の海流から動力を回収できます。水深の深い場所では浮体のある海中凧方式になるでしょう。


<潮流発電>

潮流発電は潮流をとらえて発電するものです。建設費が多い割りに出力は小さいという問題があります。

<波力発電>

波力発電は風のエネルギーの変形で風まかせて不安定なものです。 出光興産、三井造船、日本風力発電は2011年に実証実験に着手2012年に20MWの波力発電所を建設します。技術は欧米から導入。場所は沖合い 10km、水深50-200m実証プラントに10億円。事業化建設費は700円/W、稼働率30-50%、発電単価24円/kWh以下。

<潮汐発電>

潮汐発電は月と地球の位置のエネルギーの利用です。確実なものですが高緯度地帯の海岸の地形に限定されます。

< 浸透圧発電(Osmotic power)>

逆電気透析法Reverse electrodialysis法(RED)と浸透膜法Pressure retarded osmosis(PRO)の2方式あります。RED法は電極から直接電力を取り出す方法でオランダが研究しております。PRO法は1973年にイスラエル のベングリオン大学のシドニー・ロエブ教授によって発明されました。理論的には270mの落差が期待されますが、最適値は150-120mです。海水と河 川水間に 半透膜を置き、落差に相当する水力発電方式です。ノルウェーのStatkraft社や東工大の谷岡明彦教授が研究しております。浸透膜1m2あ たりの発電能力は1Wですが、浸透圧発電の原価に競争力を持たせるには、これを5ワットにする必要があるといわれています。半透膜はポリフェノールや塩類 が目づまりする欠点があります。ポリフェノールを沢山含んだ真水と海水が混じるところが漁業にとって大切なところですから牡蠣や海苔は絶滅させない方法が 必要となります。 いずれも膜の劣化の問題があり、テークオフしないでしょう。浸透膜法は揚水発電と同じく蓄電に利用できる可能性があります。

 

バイオマス発電

農業残渣物を燃料にする発電はすでにおこなわれていて、多くは期待できません。 それに農耕地とリン資源の有限性は無視できません。まだ未利用な都市ゴミのメタン発酵くらいなものでしょうか?

<広葉樹発電>

地球の種の多様性維持のためにも森林破壊はさけなければなりませんが、広葉樹林のバイオマス発電はコスト的には可能性があります。成長した森はそのままに しておくと風倒木となり、バクテリアが二酸化炭素にもどしてしまいます。成熟した森林は二酸化炭素に関してはプラスもマイナスもないニュートラルになるわ けです。 鎌倉広町緑地のバイオマ ス成長速度測定で得られた樹木の幹や枝への炭素固定量は1.3-2.0ton/ha/yearです。太陽エネルギーの転換効率は0.18%となり ます。

用材生産を目的にして植林していたのでは人件費がかさんでペイしません。そこで植林を必要とする針葉樹ではなく、放置しておいても自然に実生からまたヒコ バエから自律的に樹木が再生する広葉樹系の森を森林の成長の範囲内で40年位のサイクルで皆伐してパルプするとかエネルギー利用をするなどの工夫が必要で しょう。そのとき、伐採機や搬出機などの森林機械を駆使してローコストを徹底するのです。詳しくは著者のセブンマイルビーチ・ファイルに掲載してある「広葉樹発電」 をご覧ください。この発電のメリットはチップとして蓄えがききますので、設備利用率が高いことです。またもし必要なら負荷調整用に使えるという利点があり ます。

日本の国土の面積は37.8万km2でその66%は森林です。 仮にこの全てを広葉樹林に転換して発電対象にすれば15,400MWの発電が可能となります。年間発電量は1997年度の日本の総発電量10,000億キ ロワット時の12%に相当します。これは一次エネルギーの6%に相当します。米国や欧州では発電や熱利用として一次エネルギーの3%に達しているのに日本 では0.2%です。木材としての自給率も20%です。林業系の発電単価はキロワット時当たり14円程度です。

図-3.17 広葉樹発電

バイオマスはどうのような燃焼の仕方をしてもカーボンニュートラルです。一番ローコストの発電法はボイラー燃料とし蒸気タービン発電することでしょう。 2010年1月山形県村山市は間伐材や剪定材を有効利用する月間1.25MW能力の木質チップ発電装置を建設して市が消費する電力を月間0.225MW消 費する予定と発表。 そのほかにガス化発電も可能ですし、水素と一酸化炭素にしてSOFC燃料電池の燃料とすることすら可能ですが、そんなに凝ることもないでしょう。 第二次大戦中石油が手に入らなかったときは日本とヨーロッパでガス化して自動車の燃料にし たこともありました。

さて個人所有の山野は林業の後継者もなく売られて、中国などの金持ちの投資家の投機対象となって利用もされず、森は荒れ放題です。少なくともこのようなこ とのないように広葉樹発電などの利用が図られてしかるべきでしょう。

樹木をエネルギー作物としてみた場合、コストがかかる割りに二酸化炭素固定量が少なく、あまり役に立ちません。 農業は食料生産に専念するしかないとおなじように、森林は家屋などの素材提供に特化すべきでしょう。ただ家屋の構造部材に使えるような木材を育てるために 伝統的に間伐を行うなどという労働生産性の低い方法が使われます。しかし間伐などせずとも貧相に育った木材を工場で集積して頑丈な構造部材を作り出す方向 が正しいでしょう。素材供給産業として の林業も高斜度斜面で安全に使える伐採機・搬出機の開発や狂いのない建築素材にする乾燥窯などの整備をするべきでしょう。

都 市ゴミのメタン発酵

ヨーロッパで普及しているようですが、日本は行政が焼却しか考えませんので一部民間食品工場が実施している程度でまったく普及していりません。

微生物燃料電池

微生物燃料電池の中心となる微生物は「電流生成菌」と呼ばれる細菌です。有機物をエサにして分解してエネルギーを得て、 その過程で電子を外部に放出する性質を持っています。シュワネラ菌と呼ばれる種類がその一つです

この菌を有機物とともに水を満たした反応層に入れておき、微生物が有機物を分解し、放出した電子を電極(負極)に渡すことで電流が流れる仕組です。現在は メタノールを使った燃料電池が開発されていますが、微生物燃料電池ではメタノールよりも安全な原料を使えるようになります。課題は発電の効率を上げること です。当初は1リットル当たり1ミリ〜10ミリワットしかできなかったのが1リットル当たり2ワットの水準まできたとのこと。効率アップの原動力になった のは電極の構造です。微生物が電子を渡す側の負極を、グラファイト表面にカーボンナノチューブ(筒状炭素分子)を多数つけた微細な構造にすることで、電流 が流れやすくなりました。微生物を利用した太陽電池の研究として電流生成菌のエサである有機物を、別の微生物に光合成によって作らせ、これらの組み合わせ で電気を取り出す構想もあります。

林業のウッドマイレージの短縮

日本政府は電力事業に一定のバイオ燃料を使うことを義務つけています。しかし久保田宏氏は「幻想のバイオマスエネルギー」で国産木材の価格が高い ため、外国の木材を買って、日本に運び、燃すという無駄なことをしていると指摘しております。日本には急峻な山地に残る森林しかバイオマスは残っていない のですが森林は国土の66%も あります。これを有効活用 すれば地産地消としてウッドマイレージの短縮を図れます

コストダウンのために従来の建築用木材生産のみを目的にした林業からの脱皮をしなければなりません。国際競争力をつけるには急峻な山地でも安全に使える林 業機械の開発と植林が必要ない広葉樹への転換と皆伐でしょう。皆伐すれば間伐や択伐などという手間は不要となります。皆伐をすれば林道などなくともグラッ ベル・スキッダーで集荷は可能となります。林道建設など税金の無駄使いで終わることは証明されております。次ぎの伐採までの期間にどうせ崩落するのですか ら林道にアスファルト舗装するなど間違っております。林道なしで走行する車の開発のほうが安くつくと思います。日本の急傾斜地でも転倒しない「6本足のか に足」のハーベスター、フェラー・バンチャー、ハーバスター、グラッベル・スキッダーなどを独自に開発すれば林業の再生は可能です。需要さえあれば新規の 林業機械の開発など日本の機械メーカーが得意とするところでしょう。

広 葉樹発電にかきましたように日本の私有林は所有が細分化されていて、森林機械を導入しての皆伐が不可能です。心あるNPOが所有権は認めるが、ま とめて一括伐採する方式を採用しようと動きましたが、不在地主が見つからないし、境界標識は流れてしまってなにもできなかったと聞きました。かくして日本 の私有林は宝の持ち腐れとなっています。最近、海外資本が北海道で私有林を買いあさっているのは小泉政権の過度の規制緩和がいけなかったなどとNHKが心 配し ております。しかし鎖国を解いたのですから攘夷思想にとらわれず、海外資本がビジネス化できると踏んでいるにちがいないとみて、彼らに謙虚に学ぶのも一案 でしょう。 ただ海外勢に学ぶにしても、洪水防止のための何らかの安全規制は必要となるでしょう。

 

再生可能電源の発電単価

次に原発との比較のために最新技術を使う再生可能電源の発電単価も非再生可能電源とおなじ方法で計算し表-5.32にまとめました。

米国では ソーラーセルの発電単価は金利i=6%、償却期間(Amortization period) n=25yearの時の償却係数;

Amortization Factor=1/(1-(1+i)-n)=0.078227

としております。これは我がHPで採用した均等化経費率=10.48%に近い。均等化経費率には電力会社が必要とする固定資産税、事業税、保険料、保守 費、管理費など4.7%含んでいますので5.78%が金利4%で 償却期間30年の償却係数に相当します。 Capacity factor=18%、derating factor=15%を掛けた。0.18*(1-0.15)=0.153は我がHPで採用したジオメトリックファクター=31.62%、ウェザーファク ター=40%と掛けた0.12643に相当します。

<風力発電>

風力発電の技術は成熟期にはいっているので建設単価のこれ以上の低下は期待できないでしょう。

横浜市がデンマークのヴェスタス社から1基だけ導入した1,980kW、ローター経80mの風車の建設費は5億円でした。単価にすると250円/Wです。 2007年三菱商事と日本政策投資銀行が株主のグリーンパワーインヴェストメントがポーランドで24万kWの風力発電所を500億円で建設することがきま りました。この建設単価は208円/Wです。鳥海山の北にある仁賀保(にかほ)高原のJパワーのウインド ファームは1.65MWの風車X15基で総工費50億円ですから、建設単価は202円/Wです。米国エネルギー省の2008年の報告書でも17$/W (190円/W)です。本試算では5MW機の採用を前提に200円/Wとしました。

土地代は土地代ゼロの原野や休耕地に建設し、休耕田保証金を風車助成金に切り替えるなどの工夫をするものとします。

また送電線は多数の風車を山の稜線上に一列に設置し、送電線コストを低減させるものとしました。

米国エネルギー省の2008年の報告書では風力のキャパシティー・ファクターは設置場所によって異なります。ほとんどは20-45%の範囲に入り中心値は 33%です。年々大型になっているため、増えていて日本に類似したニューイングランドは23%、五大湖は26%、東海岸では28%になっております。本試 算では25%としました。キャパシティー・ファクターが0.25より大きなところでは発電単価は逆比例で下がります。

年間発電量=1kW x 24h/d x 365d/y x キャパシティーファクタ x 利用率

なお定期点検や故障などのよる設備利用率はキャパシティーファクタに含めています。

<ソーラーセル>

ソーラーセルの技術はまだ進化の只中にあります。ですでに米国で安いものが発売され、日本でも近未来に大幅なコストダウンが期待できます。 シャープの古いシリコン結晶型は711円/W、シリコン多結晶型ソーラーセルの単価474円/Wにインバーター費60円/Wを加え534円/W。三井物産 の羽田新貨物ターミナルは500円/Wでした。そこでソーラーセルの建設単価は2000年で440円/Wとしました。

さてソーラーセルの年間発電量は

年間発電量=1kW x 24h/d x 365d/y x ジェオメトリックファクタ x ウエザーファクタ x 利用率 x インバーター効率

ジェオメトリックファクターは太陽に正対するソーラーセルの出力を1としたときの年間平均出力と定義します。太陽を自動追尾することはコスト的に引き合い ません。設置場所を 鎌倉七里ヶ浜の北緯35度18分、東経139度30分とし、ソーラーセル設置角度は緯度と同じく35.3°と します。そうすると春分と秋分の日の正午がソーラーセルが太陽に正対する時となります。春分の日 (3月21日)の日の出は5:44、日没17:55、秋分の日(9月23日)の日の出は5:30、日没17:38です。ここでは春分の日で年間平均を代表 することにしました。散乱光を無視すると一日の出力変化は次式で表せます。夏至と冬至は23.4°ふ れますので平均値補正します。

Power output=sin(p x (t-5.73)/(17.92-5.73)) x cos(p/180 x 23.5/2)

ジェオメトリックファクタは0.316となります。

-3.19 北緯35度18分、東経139度30分における設置角度35度のソーラーセルの春分の日の出力曲線

曇天や雨天では出力は大幅に低下します。ウエザーファクターは日本では年間平均として0.4程度でしょう。

ソーラーセルは定期点検も故障もありませんので設備利用率は100%としました。また本試算では直交変換インバーターの効率は93%としました。

<集熱型太陽熱発電>

トラフ型CSP発電は太陽の高度だけを追尾しますので日の出から日没までの出力は下式で表せます。

Power output=sin(p x (t-5.73)/(17.92-5.73))

鎌倉で描く曲線は下図の通りになります。ジオメトリックファクタは固定式のソーラーセルより少し改良されて0.323となります。

-3.20 北緯35度18分、東経139度30分におけるのトラフ型CSP発電の春分の日の出力曲線

中近東のサンベルト地帯たとえば北緯23度37分、東経58度35分での春分の日の日の出時刻は6時9分、日の入時刻は18時17分です。従ってトラフ型 CSP発電の

Power output=sin(p x (t-6.15)/(18.28-6.15))

ジオメトリックファクタは0.324となります。

パワー・タワー型CSP発電は太陽を自動追尾しますので朝夕の大気の層の厚さによる影響を無視すれば日の出から日没までフラットに最高出力をだせます。出 力曲線は下図の通りになります。このときのジオメトリック・ファクタは0.417となります。

-3.21 北緯35度18分、東経139度30分におけるのパワー・タワー型CSP発電の春分の日の出力曲線

中近東のサンベルト地帯たとえば北緯23度37分、東経58度35分での春分の日の日の出時刻は6時9分、日の入時刻は18時17分です。ジオメトリック ファクタは0.429となります。

曇天や雨天では出力は大幅に低下します。ウエザー・ファクターは日本では年間平均としてソーラーセルと同じく0.4程度でしょう。米国西部やスペインのサ ンベルト地帯ではこれが0.8程度になります。

年間発電量=1kW x 24h/d x 365d/y x ジェオメトリック・ファクタ x ウエザー・ファクタ x 利用率

利用率はタービンのメンテナンスがありますので90%としました。

設置場所は土地代金の不要な原野に展開するものとしました。

各種CSPの建設単価は

Power Tower:Abengoa=509yen/W, Ivanpah=408yen/W (5.1$/W)

Prabolic Trough:Blythe=480yen/W (6$/W)

Linear Fresnel:Ausra=316yen/W

Stearing Engine with Dish:400yen/W

パラボリック・トラフ型としたものはBlytheは少し高価のため、将来の建設単価の先取りとしてリニアフレスネル型の公表建設単価を入れてあります。 オースラ社が公表した建設費は16時間発電の蓄熱器を持っていてこの間フラットな発電ができるということです。ただ蓄熱器のコストが建設費に含まれている かどうかは不確実です。またスターリング・ディッシュ型は推測値です。

CSPの長所は溶融塩蓄熱が可能で24時間発電が可能なことです。そこでコスト計算はこのベースでおこないます。そのときコレクターと蓄熱系のピーク集光 能力当たり建設単価を107yen/kWhとしますと、ジオメトリック・ファクタ=0.324のとき、コレクターと蓄熱系のフラット出力当たり建設単価は 330yen/Wとなります。発電系のフラット出力当たり建設単価は270yen/Wですから総合建設単価は600yen/Wとなります。

24時間発電ですから装置のジオメトリック・ファクタ=1となります。

<発電単価>

以上の各種方式の発電単価は下表のようになります。ここで断りがなければGeometric Factorは北緯35度18分、東経139度30分の春分の日の値です。sunbelt地帯は北緯23度37分、東経58度35分の春分の日の値としま した。

renewables 2000 unit wind land wind sea PV CSP /storage CSP /storage sunbelt geo-thermal hydraulic
construction cost  yen/W 200 350 440 601 600 1,100 732
geometric factor - - - 0.316 1 1 - -
weather factor - - - 0.4 0.4 0.8 - -
capacity factor % 25 25 - - - - -
internal consumption % - - - - - 2 2
inverter % - - 93 - - - -
availability % 90 90 100 90 90 90 90
load factor % 100 100 100 100 100 100 100
annual power generated kWh/y 1,971 1,971 1,030 3,154 6,307 7,726 7,726
(revenue-fuel cost)/equity %/y 10.48 10.48 10.48 11.26 9.96 10.48 9.75
(revenue-fuel cost)/power generated yen/kWh 10.63 18.61 44.78 21.47 9.48 14.92 9.24
power cost yen/kWh 10.63 18.61 44.78 21.47 9.48 14.92 9.24

表-3.9 基 準年を2000年とする再生可能発電原価


電源別建設単価の2090年までの予側

<PV>

米国のファースト・ソーラー社のCdTe金属化合物型ソーラーセルは2009年2月に製造原価が1ドル/Wまで下がったと発表しました。CIGS金属化合 物型薄膜をプリント技術で製造するサンノゼのベンチャーであるマノソーラー社公表の近未来の単価は110円/Wとしております。

シリコン薄膜はシリーズ結合のため、一部でも日陰になると全体の出力が落ちるためと面積が増えて屋根は適さないのですが、ミサワホームが単純な形状のス レート切妻屋根に設置するとして2009年に3kWのソーラーセルを70万円というキャンペーン価格(逆潮流メーター、屋外開閉器、系統連携申請費用別) で売り出しました。建設単価233円/Wとなりますので表-5.31の実現性は高いと思われます。

実績のあるファーストソーラー社のカドミウムーテルル金属化合物型や昭和シェル社の銅ーインジウムー硫黄金属化合物型はシリコン結晶型と同じ程度の効率で すので屋上設置に適しております。

ソーラーセル製造ラインメーカーであるULVACでは50MW製造ライン1系列は110億円、建物入れて200億円となるとしております。これに 微結晶シリコンを積層する装置を追加した製造ラインの資本費は生産ラインがフル運転すれば17yen/W、市販のフロートガラス30.7yen/W、この うち素材の珪砂、ソーダ灰、石灰などの 素材費0.3yen/W、裸の素子のリード線、背面保護のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)封止シート、アルミフレーム等材料費 22.3yen/W、 シリコン・ガス代金8.5yen/W、ユーティリティー7.4yen/W、労務費5.3yen/W含め、最終的に106yen/Wは可能と思えます。

薄膜型PVモジュール製造費にケーブル、インバーター費、工事費などBOSコスト(Balance of Systems Cost)を加えた建設単価は悲観的にみて250円/W、楽観的にみて160円/Wの範囲に入ると思われます。 ちなみに2011年の中国製パネルは消費税込み300yen/W。メガソーラーど空地に設置する場合の架台の建設費を抑えるためにユンボ取り付け型または 簡易モーター式の中国製の亜鉛メッキのスパイラル杭(ネジ杭)などの採用が考えられる。(中央区株式会社アドバンス)

type

thin-film

crystaline

year


2011

2002


%

yen/W

yen/W

depreciation

16

17.0

-

labor cost

5

5.3

-

cleaning and consumable

8

8.5

-

module material

21

22.3

-

target

6

6.4

-

glass

29

30.7

-

utility

7

7.4

-

gas

8

8.5

-

PV module

100

106.0

500

balance of system cost

50

53

53

system cost

-

159.0

553

表-3.10 住宅用ソーラーセルの建設単価予想

太陽光発電協会作成の住宅用ソーラーセルの建設単価の推移データに表-5.31のセルの建設単価予想を伸ばすと図- 6.18のようになります。この曲線は習熟曲線のように見えます。1994年から2005年までは結晶シリコン技術の習熟曲線とみてよいでしょう。一般に 累積生産量倍増毎にコストは進歩率=23-17%ですから(1−進歩率)=77-83%低減します。

2008年にシリコン価格暴騰により、一旦とまりました。しかし薄膜シリコン技術の開発により新たな習熟曲線に入ったよ うです。

図-3.22 住宅用ソーラーセルの建設単価の過去の推移と今後の予想

米国のソーラーセルの建設費は1998–2008年の間のソーラーセルの建設費は1998年が12.2$/W、2008年は8.3$/Wでした。 (Lawrence Berkeley National LaboratoryのWiserが2009年に発表したデータ)米国エネルギー省が2008年に公表した2006–2015年の間の建設費は次ぎの図の ようになると予想しております。(United States Department of Energy, Solar Energy Technologies Program. “ Solar Energy Industry Forecast: Perspectives on US Solar Market Trajector” 27 May 2008.)

図-3.23 ソーラーセルの建設費トレンド DOE2008

ドイツのFraunhofer研究所の2010年報告書「Energiekonzept 2050」ではPVモジュールの製造原価を製造量の関数として下図のように予測しています。

図-3.24 PV モジュール製造費

以上全てを勘案し2090年までの各電源の建設単価を下表のように仮定しました。為替レートは1$=100yen、1Euro=110yen、インフレー ションは含めません。システムの建設費は技術革新で低下するものとしました。

PV建設費は悲観値を採用し、CSPは他の再生可能エネルギーのバックアップを行う蓄熱式とし、24時間発電可能としました。2013年にPVモジュール のコストトレンドをちぇっくしましたが。この推定と大差ありません。

(yen/W) 2000 2030 2060 2090
Nuclear 279 370 390 390
Coal BTG 272 270 268 268
LNG combined cycle 197 197 197 197
Oil BTG 269 269 269 269
Pump storage 238 230 230 230
Wind land 200 200 200 200
Wind sea 350 310 300 300
PV 440 160 100 100
Trough CSP 600 522 497 492
Geothermal x 0.1 110 100 95 95
Hydraulic x 0.1 73 73 73 73

表3-11 各電源の建設単価

図表示すると。



図-3.25 各電源の建設単価

 

一次エネルギーの2090年までの価格予想

電力料金は一次エネルギーの価格に応じて変化します。2008年以降2012年まで の原油の147$/bbl、天然ガスの13$/MMbtu、石炭の120$/tに達する異 常な高騰は別にして、需給バランスを反映した燃料費の長期的視野にたったトレンドを踏まえて予測します。 一次エネルギーの価格動向は表-3.9のようになるものとしましょう。

これは表-2.17の2000年の炭化水素燃料と核燃料価格 を基準点として為替レートは1$=100yen、インフレーションは含めておりません。石油のピークアウトは2020年とし、天然ガスのピークアウトは 2050年、石炭のピークアウトは2080年ワンスルー利用のウラニウムのピークアウトは2050年としました。これは資源が枯渇するためではなく、価格 が上がって再生可能エネルギーに敗退するためです。

実際の燃料価格はこのように滑らかな曲線を描かず上下します。電源別発電単価はこの一次エネルギー価格を前提として計算 しました。


図-3.26 一次エネルギーの価格予測

上記国際価格に石油石炭税を加え、資源エネルギー庁総合政策課エネルギー源別標準発熱量表を使いkWh基準に換算したものが下図です。ウラニウムは電気 出力基準、軽水炉は濃縮コスト含む濃縮ウラン、高速炉は非濃縮ウランを使います。使用済みウランの再処理コストと最終処分コストも表示してあります。


表-3.27 kWh基準の一次エネルギーの価格

 

電源別発電単価の2090年までの予想

電源別発電単価のトレンドを表-3.12に整理しました。電源別発電原価には政府支援費の1.1円/kWhと地震や定期検査で実稼働率が80%から60% に低下によるコストアップ2.24円/kWhは含めません。

trend of power cost (yen/kWh)
powe generation 2000 2015 2030 2050 2060 2090
nuclear 8.45 9.80 10.55 11.30 11.67 12.91
coal BTG 6.52 7.00 7.72 8.85 9.63 13.16
LNG combined cycle 5.85 7.80 10.57 15.30 18.24 30.04
oil BTG 9.89 14.50 23.88 48.50

pump storage 7.55 7.90 8.36 8.20 8.17 8.65
wind land 10.63 10.63 10.63 10.63 10.63 10.63
wind sea 18.61 17.40 16.48 16.10 15.95 15.95
PV 44.78 28.00 16.28 10.80 10.18 10.18
CSP 21.47 19.80 18.68 17.90 17.77 17.59
CSP sunbelt 9.48 8.80 8.25 8.00 7.85 7.77
geothermal 14.92 14.10 13.56 13.00 12.89 12.89
hydraulic 9.24 9.24 9.24 9.24 9.24 9.24
wind ammonia combined 38.16 36.60 35.95 35.60 35.59 35.59

表-3.12 電源別発電単価のトレンド

2013/2/7のブルームバーグによれば、世界第2位の石炭輸出国のオーストラリアにおいて、風力発電のコ ストが石炭発電のコストを下回ってUS8.3cents/kWhまでさがりました。


図-3.28 電源別発電単価のトレンド

この図は原発の設備利用率80%を前提にしておりますが、現実には原発の設備利用率は13ヶ月毎の定期検査、地震に対する脆弱性のために60%まで下がっ ています。

東電管内においては福島第一の補償金8兆円を2015年から2050年までの25年間毎年1.8yen/kWhで弁済することにしてますので、この間、電 力料金が上がります。

非再生可能エネルギーと再生可能エネルギーの発電単価が交差することをクロスオーバーといいます。再生可能エネルギーがグリッド料金とすることをグリッドパリティと いいます。すなわち「ソーラーセルの発電単価と配電網で供給される電力料金が同じになること」と定 義されております。これが達成されるとオフ・グリッド運転が可能となります。

@陸上風力は2015年以後原発を下回るが、電力企業間の電力融通ができないため、電力会社の抵抗 で普及していない

A海上風力は2030年でLNGを、2045で石炭を下回る

B水力は常時原発を下回るが開発余地はない

C地熱は高温岩体発電のポテンシャルはあり、開発されれば2030年でLNGを、 2045年で石炭を、 2075年で原発を下回る

DPVは2025年に石油火力。2040年にLNGを、2050年で原発を、2065年に石炭火力 を下回る。資源はフラクタルで価格が上昇すれば増えるが再生可能エネルギーの価格を上回れば敗退して市場から消え去る。この過程がアンモニア燃料を含むエネルギーの世代交代の 図-1.14

E蓄熱式CSPは2045年でLNGを、2060年で石炭を下回る

FLNGコンバインドサイクルは価格上昇で2020年で原発、2030年で地熱、2045年で蓄熱 式CSPを上回る

G石炭は価格上昇で2030年で原発、2040年で地熱、2060年でCSPを上回る

H燃料電池の発電単価は実用域に達しない

二酸化炭素プレコンバッション分離・隔離型火力は比較に含めておりませんが、2006年のIPCC二酸化炭素回収貯留特別報告書のChapter 8 Cost and economic potentialの最大の倍数を通常の石炭火力のコストに適用すれば推算できます。


 

再生可能エネルギーはシュンペーターのいうイノベーションだ

シュンペーターは「景気循環論」で景気の長波は企業家によるイノベーションにあると考えました。

表-5.39のように現在までに4波あり、これから5波目が始まると予想されております。

 

年代

イノベーション

第1波 1783-1842 綿織物、鉄、蒸気
第2波 1842-1897 鉄道建設
第3波 1897-1953 電気、自動車、化学
第4波 1953-2015 原子力、エレクトロニックス、石油化学
第5波

2015-

太陽光発電、超伝導、電気自動車

表-3.13 シュンペーターによる長波年表

これを見ると明らかに原子力時代は過去のものとなり、太陽光発電の時代がイノベーションによって生じたという感を深くします。

 

日本で再生可能エネルギーが普及しない理由

<外国では>

ヨーロッパでは気候変動防止のため、2020年までに電力の20%は再生可能エネルギーに転換するとし、一見気候変動防止には関心のなさそうな米国です ら、2030年までに再生可能エネルギーの20%は再生可能エネルギーに転換するという目標をたてています。

ドイツはチェルノブイリ事故の被害者ですから、原発なしで炭化水素燃料を減らそうと考え、再生 可能エネルギー法を制定し割り増し発電電力買取制度(フィード・イン・タリフ法)を実施しております。風力は稼動後5年間は9.1セント (11.8円)/kWh、稼動5年超6.19セント(8円)/kWhでの20年間の買い上げを電力会社に義務付けています。ソーラセル電力の買い入れ価格 は市価の3倍近い53-61円/kWhとしています。農民は自分の農地に風車を建てて電力会社に売るようになり、風力発電の設備容量は15%、平均発電量 は4.9%に達しています。

またドイツでは電力税を課しています。第1段階で1セント(約1.2円)/kWhを課税した後、第2から第5段階まで毎年0.25セント(約0.3 円)/kWhを加算し、合計で2セント(約2.4円)/kWhの課税額になりました。再生可能なエネルギーについては電力税が免除されています。それから 産業の国際競争力維持のために製造業者への減免処置がなされております。

ドイツでは電力の小売を自由化しております。消費者がいくつもある電力会社のなかから1社を自由に選べるのです。

これだけ再生可能エネルギーを取り入れてもドイツの電力供給が不安定になったということはありません。よく国境を越える 配電網が安定供給を支えているからだといわれていますが、国境をこえるフランスからの電力輸入量は望月浩二氏によれば2.8%ということで す。ちなみにフランスは11%の余剰電力を周辺諸国にを供給しております。

米国では気候変動防止より天然ガス価格の高騰にどう対処するかというほうが再生可能エネルギーに目を向けるインセンティブとなっております。原発推進は ブッシュ政権のおいしい補助金があるため可能ですが、電力会社の大部分は原発より安価な再生可能エネルギー開発に向かい、新技術が生まれつつあります。

世界の風力は5MW機の時代に入っているのですが日本に需要がないものですから日本メーカーは撤退してしまって国産は三菱重工の2.4MW機位でしょう か。

ドイツ政府の政策のインパクトは大きく、風力はもとより、ソーラーセルの世界的な需要が急増して素材のシリコンが高騰しましたが、薄膜化などにより製造コ ストがさがりつつあります。シリコン増産のため、シリコン製造プラントが目下増設中です。またシリコンを使わない新技術がシリコンバレーで生まれました。

<日本における高負荷稼動電源である原発と再生可能エネルギーの競合構造>

日本はグローバルヒーティング対策は原子力、原子力と連呼しているだけで、風力やソーラーセルの導入には成功しておりません。その理由はなんでしょうか? 答えは原発設備がベースロード電源を占拠しているためです。

設備投資額が巨大で燃料費の安い原発は高負荷稼動電源としてできるだけ高負荷で運転し、燃料費がかかる火力は負荷調整電源として使うのが最も賢い運用法で す。高度成長期の電力需要増に追従するために電力会社は1980年代に原発を急ピッチで建設しました。ところが高度成長が終わって、日本の製造業が海外に 製造拠点を移し、省エネ効果もあって電力需要は減少気味となり、結果として発電設備は過剰となりました。設備投資額が巨大な原発を使わなくては経営がなり たちませんのでこれを優先的に使い、石油火力などは停止して対処しました。結果として原発の運用比率が増してしまいました。

日本は比較的温暖な場所に位置しておりますので、空調負荷が大きいという特徴があります。かてて加えて夜間電力で冷水を作って昼の空調につかうという負荷 平準化もあまり普及しておりませんので電力需要の昼夜間差が大きく、また季節変動も大きいという特徴があります。そのため、後で述べますように休日の夜間 は火力を全て停止して原発だけが動いているという事態になりました。東日本で主力のBWR炉は負荷調整ができないわけではありませんがPWRに比較してむ ずかしいという問題を抱えております。またフランスは負荷調節が容易なPWR炉を使って負荷追従運転をしています。

ヨーロッパでは歴史的に馬で一日に移動できる間隔で中小都市が均等に分散分布していました。このため網の目のような電力グリッドが存在していおります。分 散エネルギーである再生可能エネルギーを導入しても、最寄の小都市で消費できます。また発電所も日本のように海岸線に集中しているわけではなく、石炭はど こにでもあるし、冷水塔をヒートシンクに出来るため、これも最寄の小都市近郊に分散配置されています。したがって安い石炭火力でバックアップできる仕組み が歴史的に出来上がっていたのです。しかし日本では消費地は東京など大都市だけ、東北電力などは僻地であるという大きな地域差があります。このような事情 のところに地域独占の電力会社に分割されたため自分の枠のなかで自立するために進化してきたのです。このため東北や北海道戦力の送電線は網目にもなってい なくて、ただ細い電線が1本あるだけです。そんなところに、負荷調整しない原発がデンと居座っているわけです。竜飛岬に風車を設置してもどうしようもなく なるわけです。

それに島国では陸続きの隣国に売電するということもできません。そこで電力会社は火力を完全には止めずに低負荷で運転を継続しつつ揚水発電で余剰電力を 使って揚水し、昼のピーク時に発電するということをせざるをえなくなったのです。原発設備能力が過剰であることは原発の稼働率が60%に下がっても停電も なく推移していることからわかります。中越沖地震で原発7基が一年以上停止しても停電になってはおりません。

さて風力にしてもソーラーセルにしても自流式水力とおなじく、一旦投資した以上、目一杯使わねば発電単価は下がりません。そういう意味で風力やソーラーセ ルは原発と同じく高負荷稼動電源として使わざるを得ない宿命を持っています。負荷追従は火力発電、揚水発電、ダム式水力を系統連携でせざるをえないので す。化学エネルギーとしてのエネルギー貯蔵コストは安いですから火力でバックアップすることが最も安価な方法ということになります。揚水発電などの物理的 蓄電の増設が考えられますが、化学エネルギーによるバックアップよりコストがかかります。そういうわけで再生可能エネルギーを導入するなど真っ平御免とい う意識が電力業界にあったことは事実です。

著者が風力発電の適地を調査する会社に在籍した時の経験では電力会社は風力発電の送電線を必要以上に引き回させる傾向を感じたものです。また送電線敷設も 電力会社の子会社との随意契約を強いうるものでした。こうして高コスト構造を押し付けてくるのです。一種の抵抗だったのでしょう。兎に角迷惑なものは引き 受けたくないという態度があからさまでした。また電力会社は風力は 単相料金での購入しかせず、それも抽選ですので結果としてコスト高となります。

電力需要が増加しない日本では2020年ころまでは既設原発の償却のために再生可能エネルギーの採用に再生可能エネルギーは不安定であるとの表向きの理由 で抵抗すると予想されます。2002年の自由化論議のとき、日本の電力業界は安定供給を掲げて「発送電分離」に大反対をして地域で独占的な発電会社が送電 線も運用することになりました。そして原則として9電力がそれぞれ互いに電力の融通をせずに単独で電力の安定供給をすることになっております。

原発の過剰設備の問題意識が電力業界の潜在意識下にありますので、「新 エネルギー利用特別処置法」を制定したときに2004年7月の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会風力系統連系対策小委員会が出した中間報 告に基づいて「一定枠割当制度」「RPS(Renewables Portfolio Standard)」の目標値を2010年度で1.35%と低く抑えてしまいました。2003年度で0.39%ですから、7年間でたった1%の増加しか目 指さないという低い目標です。 さすがにこれではまずいと2009年になって経済産業省は義務化量の上積みを検討しているとのことですが義務化量を2020年に現状の2倍、2030年に 3倍にする程度でドイツのようなドラスティックな制度は考えていないようです。

しかし後述するように火力発電、特に設備費の安いLNGガスタービン発電を負荷調整電源として使えば、揚水発電より安い費用でバックアップは可能となりま す。再生可能エネルギー導入分、火力発電設備の稼働率は下がりますが、燃料調達費はその分節約となるのです。電力業界は2008年の石油価格高騰を経験す るまでこのことに気がつくのが遅すぎました。

<省庁の縦割り構造による雑音>

風車は強風で吹き倒されることはあっても軽いですから地震で倒れることはありません。しかし国土交通省は建築基準法を一 律に適用して60mを越える超高層ビルの耐震設計と同じ実際の地震派を使う「時刻歴応答解析」という厳しい耐震設計を求めたため、従来の工作物基準で設計 した風車を建設することができず、新設は止まったままです。日本の縦割り行政の弊害といえましょう。

<送電コスト>

六ヶ所村の風力は1kmあたり1億円の送電線を建設しないと東北電力に売れない。北海道の留萌地方の風力は原発4基分の4GWなのでこれを津軽海峡越えで 東京にもってこようとすると送電線コストが5000億円かかる。風力専用送電線だと稼働率20%しかないので送電コストが7yen/kWhになってしま う。従って風力送電専用回線は無理。しかし北海道で石炭、ロシアの天然ガス
、地熱発電でバックアップして送電線の稼働率を80%まであげれば送電コストは2yen/kWhですむ。

<再生可能エネルギーを導入しなかったための日本の技術的敗北>

さて既設原発は1981年の甘い耐震設計基準で建設されており、また安価なBWR型であるため、発電単価も安いのですが、それでもその単価計算の前提条件 として40年間、80%の稼働率で運転し続けるということがあります。また後述するように「原発立地のために地方自治体にばら撒く助成金を含めれば、原発 はもはや電力会社の主張するように安い電源ではありません。

改訂された新耐震基準に準拠するように既設原発を補強すれば原発は風力より高コストになります。またソーラーセルの発電単価は数年以内に劇的に下がると予 想されます。しかし残念ながら、これらの技術は日本のものではありません。日本が原発にこだわっている間にドイツと米国で技術革新が生じたのです。こうし て技術的に世界に遅れをとってしまったのです。徳川時代の鎖国のち、黒船が来たと驚くのとおなじことが今まさに来ようとしているのではないでしょうか?

炭化水素燃料を使い尽くした後、人類が頼りにできるのは核融合によって駆動された太陽エネルギーであってウラニウム235の核分裂エネルギーではありえな いことは明らかです。

原発という古い技術に固執していては、日本の将来はないと思うものです。

 

ライフサイクル二酸化炭素排出量

よく原発は二酸化炭素を排出しないと言われますがちがいます。ドイツ政府がフリッチェ博士に委託した研究では表-7.9のようにウラニウム鉱山での採掘、 ウラニウム濃縮工程でのエネルギーを消費し、発電プラント建設のためのライフサイクル二酸化炭素排出量は風力とソーラーセルの中間にありゼロではありませ ん。

ウラニウム輸入にかかわった方によれば鉱山ではインシチュ・リーチングによる採掘(In-Situ Leaching ir ISL法)にシフトし、ウラン濃縮法は拡散法から遠心分離法に移行してから消費電力は1/10になったため、採掘・濃縮工程のライフサイクル二酸化炭素排 出量 は22-25gCO2/kWh程度だろうとのこと。しかしライフサイクル排出量は全てを含めますので小さな数値でしょうけれど燃料 再処理、燃料輸送、廃棄物輸送、核拡散、テロ防衛のための護衛艦の排出二酸化炭素など、それからなにより原発建設にかかわる鉄鋼、セメント、建設建機の発 生する二酸化炭素二酸化炭素排出量も含めれば46gCO2/kWh(ドイツ環境省は30−60gCO2/kWh) は妥当な数値と思われます。

同じように風力、水力、ソーラーセルも製造と建設に二酸化炭素を排出します。

 

ライフサイクル二酸化炭素排出量 (gCO2/kWh)

原発 31-61
風力 23
水力 39
ソーラーセル 89

表-3.14 1キロワット時の発電で発生するライフサイクル二酸化炭素排出 量 フリッチェ論文

火力発電ではこれに加え、燃料が燃焼して大量の二酸化炭素を排出します。各電源で1kWhを発電するための炭化水素燃料燃焼による二酸化炭素排出量は次の 式で計算します。石油の比重は0.86としました。

二酸化炭素排出量=860kcal/kWh x (二酸化炭素/燃料比)/(燃料発熱量 x 熱効率 x(1-所内率))

プラントなどの建設、ウラニウム濃縮にかかわるライフサイクル二酸化炭素排出量はフリッチェ論文にある風車などを製造するために発生する二酸化炭素から建 設単価比例で推算しました。

電源 熱効率 所内率 燃料発熱量 二酸化炭素燃料比 燃焼による二酸化炭素排出量 ライフサイクル二酸化炭素排出 量 全二酸化炭素排出量
単位 % % kcal/kg kgCO2/kg fuel gCO2/kWh gCO2/kWh gCO2/kWh

水力

- 0.2 - 0 0 39 39
原発 - - -

0

0

46

46

石炭火力

41.8 6.1 6,200 2.0 706 31 737
風力発電 - - -

-

-

23

23

LNG火力

48.4 2.0 13,000 2.88 402 18 420

LNGコンバインド

60 2.0 13,000 2.88 324 18 342
CSP発電 - - - - -

36

36

海洋隔離型石炭火力 48.4 6.1 6,200

2.88

67(10%)

35

102

石油火力 39.4 4.5 11,400

3.24

649

30

679

ソーラーセル - - -

-

-

89

89

地熱 - - - - -

15

15

表-3.54 電源別二酸化炭素排出量

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April 1, 2007

Rev. August 8, 2019


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