エクセルで作った

バイオマス・ガス化発電シミュレータ

バージョンー3

グリーンウッド

 

はじめに

本シミュレータは間伐材 ガス化エンジン設計のためにエクセル上で開発した。28シート、ファイルサイズ676kbのスプレッド・シートである。ガスタービン設計プログラ ムも開発し、以下の設計に使った。このうち(1)のマキカートは実際に試作し、運転テータのフィードバックを行なった。

(1)マキカートの設計

(2)木炭車とマキ自動車の性能比 較

(3)広葉樹ガス化ガスタービン発電、森林 機械のレシプロエンジン

バイオマスガス化自動車は第二次大戦中、石油燃料不足に対処するため、欧州や日本で開発され使われた。

第二次大戦中デンマークで使われたガス化炉 (クーパー氏撮影)

日本国内の初期の調査では大日本機械工業製マキ自動車の取り扱い説明書と添付図面しか入手できなかった。インターネット 経由で調査すると国連のFAO(Food Agricultural Organization)のForestry Departmentが編纂した設計 指針がみつかった。スエーデンでの経験値がベースとなっている。

マキカートの設計運転経験を踏まえ、熱回収系とシステムの圧力損失系のエンジニアリング計算を初期の熱回収のないシステ ム設計ソフトに追加した。

これによると反応炉の形式には

(1)上向き向流(Updraught or counter current gasifier)

(2)直交流(Cross-draught gasifier)

(3)下向き併流(Downdraught or co-current gasifier)

(4)流動床(Fluidized bed gasifier)

の4方式がある。下向き併流がタールが少なく、エンジン向きといえる。

木製チップのガス化用のbebcock & Wilcox 社のBiomass gasification plantsは 上向き向流方式を採用。但しこの方式はチップ層上部に levelling deviceと下部に灰掻きだし機が必要。下部から水蒸気でと空気を吹き込み、上部から乾留・分解ガスを抜く。発生する木酢やタールは最終的には電気集塵 機で取り除き、全て焼却処理する。ガスはガスエンジンで発電に使う。

下向き併流には3種ある。いずれも固ー気反応の流動抵抗の不均一さを克服するため、スロートで絞って流速を上げる方式は同じであ る。スロートの上部の断面積縮小部で主として酸化反応、下部の拡大部で主として還元反応が維持される。圧力損失と安定運転の兼ね合いでFAO推奨のマキ消 費量基準の炉床負荷(Hearth Load)と標準状態の発生ガス流量をスロート断面積で除したガス基準炉床負荷が以下のように示されている。この炉床の負荷はVenselaarが商用炉 を解析して得た経験値をグリーンウッド氏が整理したものである。

 

マキ基準炉床負荷(Wood based Hearth Load)

ガス基準炉床負荷(Gas based Hearth Load)

 

kg/cm2/h

Nm3/cm2/h

スロートなし

0.03

0.07

一段スロート付き

0.11

0.25

2段スロートつき

0.4

0.9

この他にも:

◆スロートの角度は45-60o

◆スロート下部の拡大部高さ(還元部)は最小で20cmは必要。火格子と灰溜まりに10cm位か。

◆バイオマスは充分な酸素を含んでいるためガス化運転では酸素は不要。ただし木炭などは酸素不足で空気吹き込みが必要と なる。空気吹き込みノズルは一段スロート付きの場合、炉中心部に向けて下向きまたは水平に吹き付けるように設置し、ノズル先端とスロートとの高度差はス エーデンのエンジニアリング・サイエンス・アカデミーの経験値からグリーンウッド氏が作った下式で計算する高度差か10cmの大きいほうとする。

(ノズル高)/(スロート径)=19.6*(スロート径)-0.64

◆空気ノズル流速は30-35m/secを推奨している。(この数値は小型の場合は圧力損失が過大になるため、炉内運転 圧力が0.9atmより下がらないように、適宜落とす必要があろう。

◆スロート上部の火床開口部径はシングルスロートの場合、スロート径より10cm、ダブルスロートのい場合、20cm以 上大きいこと。

などを推奨している。

 

1.入力  (Input Sheet)

<マキ組成>

ガス化炉へ供給するバイオマスの分析値がないときはデフォルトで有機質は炭素、水素、酸素元素比はバイオマスは70%の セルローズ(C6H10O5)nと30%のリグニン(C18H24O11)n から構成されるとした。すると有機質の元素比は(C6H9.4O4.6)nとなる。 このCHO元素数を入力。水分含有率30wt.%、灰分3wt.%となるように水分モル%入力値を調整。バイオマス比重は0.5とした。木炭もCHO比を 入力すれば対処可能。セルローズなどの化学式は文献(1)から取った。


MW

kg/h

wt %

kgmol/h

mol. %

elements

C in Biomass

12

3.018

31.1

0.251

25.15

6

H in Biomass

1

0.394

4.1

0.394

39.40

9.4

O in Biomass

16

3.085

31.8

0.193

19.28

4.6

Water

18

2.911

30.011

0.162

16.17


Ashes

-

0.291

3




Total


9.698

100.0

1.000

100.00

20

MW


9.698












Items



Unit

Figures



Specific Gravity of Biomass


-

0.5



Void Space of Biomass Container

%

40



マキ組成

  青色は入力値、黄色は計算値

<プロセス・フロー>

想定したプロセス・フローは下図の通り。コジェネレーション用の温水タンクは省略してある。

原料のバイオマスは回分供給とする。灰とコンデンセートも回分回収とする。

バイオマスの含水量20wt.%までは熱回収や空気注入なくも,反応温度を維持できるが、30wt.%以上の小型装置で は熱損失とバイオマス 含有水分の気化熱が多く、熱回収または空気注入が必要となる。熱回収とは反応ガスの廃熱を回収して木質バイオマスあるいは注入空気の予熱をして反応温度維 持をすることである。

オーストラリアのBrenton & Margatet Pope夫妻のバイオマス予熱伝熱機構を持たせることにした。結果、下図のような構造とした。バイオマス格納部を細身にして予熱を促進するようにした。 熱バランスは保温面積、保温厚さで調節する。

スタートアップ用空気はマニフォールドでn等分し、予熱後それぞれ120度の角度から水平に高速で吹き込む構造である。

スタートアップ運転では水分が多く発生する。この対策としてガス冷却器を充分大きくし、出来るだけ冷却してコンデンセー トを除か ねばならない。また空気を絞ってガス化運転に入り水分が充分に下がらないうちにエンジンを始動させるとエンジン・オイルが結露でエマルジョン化する。

液抜きドレンをフィルタ下部に用意するも負圧運転に相当する液シールが無ければ抜けない。したがってコンデンセート分離器はスタートアップ運転でバイオマ スの総量を燃したときに発生する水分の総量を溜めるサイズとする。

ガス化炉内部構造と流れ図

エンジン発電機仕様>

使用するガソリンエンジンのシリンダー容量、エンジン気筒数、圧縮比、サイクル数、回転数、過剰空気率、出力発電機効率 を入力する。

Cylinder Volume

cc

50

Number of Cylinder

-

1

Compression Ratio

-

6

Cycle

-

4

Rotation

rpm

6,000

Excess Air Ratio

-

1.1

Shaft Power

PS

1.79

Generator Efficiency

%

95

エンジン発電機仕様

バイオマス供給量を入力するとこれにミートする同エンジンのシリンダー容量を計算してくれる ので選定したエンジン仕様に合うようにバイオマス供給量を調節する。

ガスカ炉寸法>

機器、配管の寸法は概算値を参考にして入力し、その妥当性を判断することにする。不都合が生じた場合は入力しなおして再 計算することにする。

偏流防止のFAOマニュアルに指摘されたハースロードの概念に基くスロート径の決定をする。

Items

Unit

Figures

Biomass Consumption for Gasification

kg/h

1.7

Biomass Consumption for Start Up

kg/h

0.8

Biomass Container Diameter: d1

cm

20

Hearth Throat Diameter: d2

cm

4.6

Hearth Bottom Diameter: d3

cm

15

Reactor Diameter: d4

cm

30

Insulation Cover Diameter: d5

cm

36

Start up Air Intake Manifold Diameter: d6

cm

2.5

Recommended Gas Based Hearth Load

Nm3/cm2/h

0.25

Recommended Biomass Based Hearth Load

kg/cm2/h

0.11

Number of Start up Air Nozzles: n

-

3

Start up Air Nozzle Pipe Diameter: d7 x n

cm

1.9

Start up Air Nozzle Diameter: d8 x n

mm

6

Water Cooler Inner Pipe Diameter: d9

cm

2.5

Cooler Water Outer Pipe Diameter: d10

cm

5

Condensate Accumulator Diameter: d11

cm

30

Engine Air Intake Pipe Diameter: d12

cm

1.9

Engine Air-Gas Mixture Pipe Dia.: d13

mm

2.5

Height of Biomass Container : h1

cm

110

Height of Upper Hearth (throttling zone): h2

cm

15

Height of Lower Hearth (expanding zone): h3

cm

20

Height of Grating from bottom of Hearth: h4

cm

10

Height of Ash Accumulation: h5

cm

20

Height of Air Nozzle from Hearth Throat: h6

cm

10

Height of Uninsulated Reactor: h7

cm

100

Height of Baiomass Container Neck: h8

cm

20

Height of Reactor Insulation

cm

55

Heat Recovery Length of Nozzle Pipe

cm

90

Heat Recovery Length of Container

cm

90

Insulation Thermal Conductivity k (Rock Wool)

kcal/C/m/h

0.037

Insulation Thickness d

mm

3

Film Coefficient of Annular Space Gas hi

kcal/m2 h C

10

Film Coefficient of Natural Convection of Air ho

kcal/m2 h C

10

Water Cooler Cooler Pipe Length: L

m

6

Ambient Temperature

deg. C

25

Water Temperature

deg. C

25

Water Outlet Temperature at Design Condition

deg. C

50

Diameter of Ash Particulate

microns

160

入力データ 青色は入力値

<スタートアップ手順>

着火した木炭をハース(火床)にいれることからはじめる。スタート用吸気ファンを稼動させて空気を吸引しながらバイオマスを投入し、ハッチを閉める。空気 はノズルから燃焼点に向かって流れる。供給空気弁を絞って発生ガスが可燃範囲に入ったらエンジンスタート。スタート用吸気ファンを停止し、空気供給弁を 絞ってバイオマスが無くなるまで運転を継続する。

 

2.化学平衡計算 (Free Energy Sheet)

化学平衡を求めるには2法ある。いずれもギブスの自由生成エネルギーからスタートするが一つは化学平衡定数を求めてから組成を求める方法、もう一つは自由 エネルギーを最小にする組成を計算する方法である。まだ計算機などという便利なものがない時代には平衡定数を計算して解析的に組成を計算した。しかし計算 機でシミュレーションする場合は自由エネルギー最小モデルが一般的だ。汎用プロセスシミュレータのPRO/IIもギッブス ・リアクターにこの方式を採用している。

<化学平衡定数法>

Appendixに書いたような化学平衡定数Kpを 使う解析的解法であるが、この手法は化学反応方程式がかけないと始まらない。

反応方程式と反応温度TがきまればT度の i 化合物の標準生成フリーエネルギーDG0ftiか ら反応の標準フリーエネルギー変化が次式で計算できる。

DG0=(SnDG0fti)prod - (SnDG0fti)feed

これからから次式でT度での平衡定数Kpを もとめ、反応成分の分圧を求める方法である。

lnKp = - DG0t/Z R T

Kp = fprod1fprod2/ffeed

Zは圧縮係数、Rはガスコンスタントで1.987kcal/kgmol K、fiはi物質のフガ シチーである。常圧反応のため、理想ガスを前提にでき、Z=1、fi=Pi

Kp = Pprod1Pprod2/Pfeed

当初はこの化学平衡定数Kpを使う方法を試みた。しかしこの場合、バイオマスを純粋炭素(グラファイト)とでもして反応式を書かな い限りKpを定義できないし、考えられる反応は少なくとも6個もある。

<標準生成自由エネルギー変化最小化法>

木材などのバイオマスを一般化すれば(CaHbOc)n+H2Omであるから考えられる化学反応方程式を書いてそれぞれに対応するKPを定 義し、解析解を求めるなどは至難のワザとなる。したがって標準生成自由エネルギーの変化を最小化する方法が現実的な解法である。多変数最適化計算モジュー ルのエクセルのソルバーを使えるだろう。汎用プロセスシミュレータのPRO/IIなどもこの手法を使っていると推察される。以下この解法を説明する。

バイオマス(CaHbOc)n+H2Omの 生成熱など入手できないからここではそれぞれのカーボン、水素、酸素、水の混合物として扱う。 これはなにを意味するかといえば水以外の乾燥バイオマスの生成エネルギーDH0fdry はゼロということだ。もし乾燥バイオマスの燃焼熱が測定されていれば;

DH0fdry=(heat of combustion calculated from elements) - (measured heat of combustion of the biomass)

これはバイオマスの元素の生成熱はゼロだから

Heat of combustion calculated from elements=0

そうすると乾燥バイオマスの生成熱は

DH0fdry= - measured heat of combustion of the biomass

以後これを平衡計算と熱収支に使えばよい。ここではDH0fdry=0 としている。

さて反応温度Tにおける標準生成自由エネルギーはGibbs-Helmholtz式から

 T

DG0ft - TDH0f/T2 dt
25

これを積分すれば温度Tにおける標準生成自由エネルギーは

DG0ft = DH0f -DHt -TDS0 (kcal/kgmol)

ここで標準生成熱データDH0fは 下表の文献(7)を採用。

 

DH0f (kcal/kgmol)

C

0

O2

0

N2

0

CO2

-94,060

CO

-26,416

H2

0

H2O

-57,798

CH4

-17,889

 

3.エンタルピー計算 (Enthalpy Sheet)

化合物のエンタルピーDHtは下式から求 めることにした。

 T

DHt = Cp dT

  25

上式の定積分方程式はそれぞれの化合物に関し下表のようになる。H*は積分定数で、差をとるので 消去されるが、その物理的な意味は絶対零度のエンタルピーということになる。定積分式は文献(3)を参照した。

成分

等圧比熱Cp

エンタルピー DHt

a b c

-

kcal/kgmol deg.K

kcal/kgmol

- - -
C a + bT + c/T2 H* + aT + (b/2)T2 - c/T 2.673 0.002517 -116,900
O2 a + bT + c/T2 H* + aT + (b/2)T2 - c/T 8.27 0.000258 -187,700
N2 a + bT H* + aT + (b/2)T2 6.5 0.001

-

CO2 a + bT + c/T2 H* + aT + (b/2)T2 - c/T 10.34 0.00274 -195,500
CO a + bT H* + aT + (b/2)T2 6.6 0.0012 -
H2 a + bT H* + aT + (b/2)T2 6.62 0.00081 -
H2O a + bT + cT2 H* + aT + (b/2)T2 + (c/3)T3 8.22 0.00015 0.00000134
CH4 a + bT H* + aT + (b/2)T2 5.34 0.0115

-

化合物のエンタルピー計算はA4のスプレッドシート1枚に納めた。

コンテナー温度、反応温度、反応器出口温度、冷却器出口温度にそれぞれ対応するシートを作成した。

 

4. エントロピー計算 (TS Sheet)

TDS0はGibbs -Helmholtz式を定積分して

成分

等圧比熱Cp

TDS0

a b c

-

kcal/kgmol deg.K

kcal/kgmol

- - -
C a + bT + c/T2 TS* + aTlnT + (b/2)T2- c/T 2.673 0.002517 -116,900
O2 a + bT + c/T2 TS* + aTlnT + (b/2)T2 - c/T 8.27 0.000258 -187,700
N2 a + bT TS* + aTlnT + (b/2)T2 6.5 0.001

-

CO2 a + bT + c/T2 TS* + aTlnT + (b/2)T2 - c/T 10.34 0.00274 -195,500
CO a + bT TS* + aTlnT + (b/2)T2 6.6 0.0012 -
H2 a + bT TS* + aTlnT + (b/2)T2 6.62 0.00081 -
H2O a + bT + cT2 TS* + aTlnT + (b/2)T2 + (c/6)T3 8.22 0.00015 0.00000134
CH4 a + bT TS* + aTlnT + (b/2)T2 5.34 0.0115

-

TS*は積分定数

 

5. 反応温度Tにおける標準生成自由エネルギー (Free Energy Sheet)

以上まとめ

DG0ft =DH0f -DHt -TDS0 (kcal/kgmol)

より下図を得る。

それぞれの化合物の標準生成自由エネルギー

以上の化学平衡計算はA4のスプレッドシート1枚に納めた。

 

6.元素収支式と標準生成自由エネルギーからガス組成計算 (Gibbs Sheet)

化学平衡点では反応系の標準生成自由エネルギーの合計が最小になる。それぞれの化合物の標準生成自由エネルギーDG0fi

DG0fi =  DH0fi - T DS0fi

反応による自由エネルギー変化は

DG0=(SXiDG0fi)prod - (SXiDG0fi)feed

となる。目的関数は

Objective Function=DG0

ここで炭素元素に関しては

(XC+XCO2+XCO+XCH4)prod=(Cdry)feed

ここで生成物に未燃カーボンを計上することを忘れてはならない。そして未燃カーボンをゼロにするようにガス化用空気量を 調節する。

酸素元素に関し

(2XO2 + 2XCO2 + XCO + XH2O)prod=(Odry+XH2O+2XO2)feed

水素元素に関し

(2XH2 + 2XH2O + 4XCH4)prod=(Hdry+2XH2O)feed

窒素元素に関しては

(XN2)prod=(XN2)feed

であるから生成物中のXC、XO2、XH2、XN2に 関しては元素収支で求まる。したがって目的関数の変数は生成物のXCO2、XCO、XH2O、XCH4の4 つとなる。

Xi>0を制約条件にしてソルバーで最小値を得た。ただ初期値によっては別の浅い穴ぼこに 落ち込むのでPRO/IIで同じ条件で計算した 値を初期値にした。以後はGibbs Sheetにある値を初期値にすればよいであろう。

反応温度がそれぞれ500oC、600oC、700oC、 800oC、900oCの5ケースにつき生成ガス量Xiと組成yiを 計算する。各ケース、A4のスプレッドシート1枚に納めた。

含水バイオマス供給量CHO+Water=1.7kg/h、供給空気量1.923kg/hの時、400oC、 600oC、700oC、800oC、900oCでの生成ガ スの組成は下図のようになる。500-600oCでは未燃焼炭素が残っている。

生成ガスの組成

スタートアップ運転はバイオマス少量を空気で完全燃焼させるだけのため、発生ガスは二酸化炭素と水だけとして化学当量で計算した。

 

7.熱収支計算 (Balance Sheet)

化学量論計算で得られた、生成物のモル数、エンタルピー計算で得られた各生成物のエンタルピーを利用して、反応平衡温度 まで上昇するに必要な全エンタルピーを計算する。

<ガス化運転>

DHoutをガス化炉を出る生成ガスの エンタルピー、DH0を反応温度Tにおける 標準反応熱、 DHtを反応温度TにおけるエンタルピーDHlossをガス化炉壁からの熱損失、DHinを バイオマスや空気が系に持ち込むエンタルピー、DHbiomassをコン テナー内のバイオマスの加熱エンタルピーとすると本ガス化炉の熱収支は下式のようになる。

なおDH0が負のときは定義により発熱 反応、正は吸熱反応である。

DHout = -DH0 + DHt - DHloss+ DHin

Tout

DHout = SXiCpi dT

25

熱収支式を満足する温度Toutをゴールシーク法で計算する。

DHlossは後述のエンジニアリング計算で求める 。

木材系のバイオマスのガス化運転は供給空気量はゼロのためDHinは 供給バイオマスのエンタルピーと等しいとする。

DHin = DHbiomass

木炭では空気が必要とされても熱は内部循環となり全体の熱収支には影響を与えない。スタートアップ運転には必要となるがこれも熱の内部循環のため、供給空 気のエンタルピーは全体の熱収支には影響ないからである。

DHbiomassは供給バイオマ スのエンタルピーでDHdryと、バイオマスに含まれる水分の蒸発潜熱DHwaterの和である。運転中に加熱されて温度差ゼロとなり、コンテナー温度 Tcontainerは一定になる。この温度はエンジニアリング計算で求める。

DHbiomass = DHdry + DHwater

DHwater= (Xmoisture in biomass)(-10,514kcal/kgmol)

<スタートアップ運転>

スタート時はバイオマスの温度は常温のためDHin= 0でかつコンテナーを定常温度まで加熱しなければならないためDHbiomassは 熱損失と同じ扱いとな る。したがって熱収支式は

DHout = -DH0 + DHt - DHloss+ DHin - DHbiomass

となる。

耐熱金属の最高温度900oCにおけるスタートアップ運転中のバイオマス供給速度と空気量は試 行錯誤で熱収支がガス化運転の範囲内に収まるように決める。

<ガス冷却器廻り>

ガス・クーラーの熱収支式は

DHdutyDHout - DHcool

ガス・クーラー出口のエンタルピーDHcool

Tcool

DHcool = SXiCpi dT

25

熱収支式を満足する温度Tcoolをゴールシーク法で計算する。

<その他>

熱収支計算は400oC、600oC、700oC、 800oC、900oCについて、エンジン出力計算は400oC、600oC、 700oC(Design Case)の3つについておこなった。

同時にバイオマスの乾燥基準と含水基準の燃焼熱(LHV)、生成ガスの燃焼熱(LHV)も標準生成熱から標準反応熱DH0として計算する。計算結果は文献値と近いので当初に仮定したバイオマス(CaHbOc)n+H2Omの 生成熱はそれぞれのカーボン、水素、酸素、水の混合物として扱う というモデルがほぼ妥当ということになる。

全体のプレッシャー・プロファイルも直接置換で取り込めるが、しなくとも大勢に影響はない。

システム内各点の容積流量、ガス密度についてもここで計算。

熱収支結果

上図でHeat of reactionとは25oC における標準反応熱-DH0 のことである。

 

8.エンジニアリング計算 (Engineering Sheet)

エンジニアリング計算は下記項目につき、反応温度毎に同じ計算シートを用意した。

(1)理論空燃比(vol./vol.):発生ガスの燃焼反応の化学量論計算で計算。

(2)生成ガス可燃下限:燃料の下限からモル比加重平均で計算。データは文献(4)

(3)生成ガス可燃上限:燃料の下限からモル比加重平均で計算。データは文献(4)

(4)生成ガス水分露点:水蒸気圧表から求めた。データは文献(4)

(5)ガス化炉転換効率(ガス発熱量/バイオマス発熱量):生成ガスの総エネルギーと消費したバイオマスの低発熱量 (LHV)の比として計算。バイオマスの発熱熱は化学平衡計算に使った生成熱から計算した。

(6)環状部平均ガス上昇速度:ストークスの終末速度式から設計点におけるガス平均上向き流速は160ミクロンの灰粒子のガス中での沈降速度に相当するこ とを計算した。式は文献(6) ガス粘度0.047C.P.は文献(5)の炭酸ガスの反応温度での値を使った。

(7)設計点での回分運転時間とガス化炉主要寸法計算:ガス化炉薪格納部容積は入力したバイオマスの比重、充填空隙率 e を使って計算し、上部スペース余裕10%とするとした。

(8)ハースロード、スロート速度:FAOの設計指針に従った。

(9) スタートアップ用空気ノズルの圧力損失はスタートアップ時の必要風量を使って文献(9)記載のオリフィスの圧力損失係数より求めた。FAOの設計指針推奨 の風速では圧力損失が大きすぎるので18m/sec程度が良いだろう。

(10)ハーススロート部の充填層の圧力損失は文献(9)記載のCarman式で計算した。ちなみに空間率eは0.4、充填物径Dpは25mmとした。

(11)ガス冷却器の圧力損失はHagen-Poiseuilleの式で計算

(12)システムの圧力プロファイルが計算できればエンジン・チョークの圧力損失 をリアクター・システムの損失に一致させることができる。オロフィス穴径は文献(9)記載のオリフィスの圧力損失計算法を使ってゴールシークさせた。

(13)吸引送風機ヘッドはスタートアップ時のヘッドで決める。ガス化時の圧力プロファイルの自動繰り込みは自己回帰に なるので圧力は手入力とした。

(14)スタートアップ空気の予熱はn本のノズルパイプでおこなう。総括伝熱係数U=10kcal/m2 h Cとしてノズルパイプの伝熱計算でガス温度近くまで加熱されることを確認。

(15)バイオマス・コンテナーの温度はスタートアップ運転中に温度上昇し、温度差ゼロとなってそれ以上の伝熱は発生し ない。この温度はコンテナー壁の伝熱として計算。 この伝熱計算には入力した自然対流伝熱係数を使う。バイオマス中の水分は100%気化して有機分の熱分解領域に入ることが確認されている。実際はバイオマ スから気化した水蒸気が流れるのだが無視した。実際には回分運転の初期には軽質分のガス化が先に進み、回分運転後期は炭素分が多くなることが予想される。

(16)反応部熱損失計算:保温無しの部分と岩綿保温材適用部と分けて計算し合計する。保温部でも内外の自然対流伝熱係 数を考慮する。

(17)ガス水冷却器の伝熱計算はガス側、水側の強制対流伝熱係数から総括伝熱係数を計算で求めた。 水側の強制対流伝熱係数向けの流速計算のために水量の推定値のゴールシークすることができるがしなくとも良い。

(18)冷却水は指定出口温度になるように流量を決める。

(19)バッチ運転に溜まるコンデンセート量から液深を計算。

 

9.エンジン解析ソフトとのドッキング (Engine Sheet、Combustion SheetCp Sheet)

ガス化炉は手持ちエンジンにマッチングするように設計するためレシプロ・エンジン解析ソフトと一体化した。エンジン解析ソフトは吸入⇒圧縮⇒燃焼⇒膨張の各サイクル の温度をゴールシーク機能で収斂させて理論効率と実効率の比を計算するものである。 理論効率はポリトロープ効率として計算し。実効率/理論効率比を計算する。適用予定のガソリンエンジンの実効率/理論効率比をまず計算し、この比がガスに も適用可能とする。

ガス化温度700oCのガスをエンジン供給ガスとし、Combustion Sheetで燃焼の物質収支計算から混合気吸入量と燃焼ガス組成を計算する。

ついでCp Sheetで圧縮、膨張計算のための低圧比熱を計算し、エンジン解析法を適用しEngine Sheetガスでの効率を計算するものである。

発電向けにはエンジン回転数一定としてスロットル弁を絞る運転が行なわれるため低負荷では効率が低下する。

ゴールシークはマクロで自動化する。

 

10.計算手順

全体の計算手順は次図の通りである。

 

推測したバイオマス消費速度から予想される温度の化学平衡計算と化学量論計算をソルバーで行い、発生ガス組成を計算す る。

入力された機器の構造と寸法を使って伝熱計算をおこない、エンタルピー計算を使って熱収支と整合性のある各部の温度を ゴールシークで求める。ここはマクロで自動化可能。

ガス化運転、スタートアップ運転いずれにも運転可能なガス化運転のマキ供給量、スタートアップ運転のマキ供給量と空気量を試行錯誤で求める。

Gibbs Sheetはバイオマス組成が変わるときのみソルバーで新しい組成の解を求める必要がある。

Balance Sheetには少なくとも温度を決める19回のゴールシークがある。これはマクロで自動化する。圧力プロファイルのゴールシークはしてもしなくても大勢に 影響ない。

Engineering Sheetの伝熱係数計算の水量のゴールシークはしてもしなくても大勢に影響ない。

プログラム・フローチャート

利用マニュアル参照。 マクロによる自動化は一番最初にゴールシークする目的セルをハイライトして指定してからマクロ記録を開始すればよい。

 

11.計算結果の出力 (Output Sheet)

試算結果は表の通りである。

Items

Unit

Startup

700C(Design)

Engine Load

%

-

100

Biomass Load

%

47.1

100

Biomass Consumption

kg/h

0.80

1.70

Batch Volume

kg

9.3

9.3

Batch Duration

h

5.5

11.7

Air Rate @ Intake Manifold

m3/h

2.24

1.63

Engine Air Intake Rate (with excess air)

vol/vol

-

3.90

Engine Air and Gas Mixture Intake

Nm3/h

-

7.8

Engine Intake Pressure

atm

-

0.89

Gas Heating Value (LHV)

kcal/Nm3

-

957

Flammable Gas Contents

%

-

19.1

Lower Flammability Limit

%

-

7.1

Upper Flammability Limit

%

-

74.2

Total Gas Energy (Eff.=100%)

kW

-

4.3

Biomass Heating Value (LHV)

kcal/kg

4,733

4,733

Biomass Heating Value (LHV)

kcal/dry kg

7,065 7,065

Conversion Efficiency (Gas Energy/Biomass Energy)

%

-

46.4

Engine Speed

rpm

-

6,000

Engine Efficiency

%

-

12.8

Engine Output

PS

-

0.76

Engine Output

kW

-

0.56

Generator Efficiency

%

-

95

Power Output

kW

-

0.53

AC Output

W

-

434

DC Output

W

-

96

Reaction Temperature

deg. C

900

700

Start up Air Preheating Temperature

deg. C

694

-

Biomass Preheating Temperature

deg. C

445

341

Reactor Outlet Gas Temperature

deg. C

447

390

Cooler Outlet Gas Temperature

deg. C

32.6

31.3

Heat Loss

kcal/h

4,008

3,354

Hearth Load (Biomass base): Recommended by FAO<0.11 kg/cm2/h

kg/cm2/h

0.048

0.102

Hearth Load (Gas base): Recommended by FAO<0.25 Nm3/cm2/h

Nm3/cm2/h

0.190

0.235

Choke Velocity

m/sec

-

13.3

Air Nozzle Velocity: Recommended by FAO>30-35m/sec

m/sec

24.8

18.2

Throat Velocity (Superficial Base)

m/sec

2.7

2.4

Average Annular Space Velocity

m/sec

0.113

0.101

Ashes Terminal Velocity

m/sec

-

0.190

Air Average Velocity in Nozzle Pipe

m/sec

2.5

1.8

Reactor Outlet Gas Velocity

m/sec

9.04

8.11

Cooler Outlet Gas Velocity

m/sec

2.4

2.5

Engine Air Intake Pipe Velocity

m/sec

-

3.82

Engine Air-Gas Mixture Velocity

m/sec

-

4.96

Reactor Operation Pressure

atm

0.780

0.889

Engine Suction Pressure

atm

-

0.891

System Pressure Drop (Nozzle, Throat, Cooler)

kg/cm2

0.228

0.112

Choke Orifice Pressure Diameter

mm

-

10.2

Water Flow Rate

kg/h

17

18

Water Velocity in Cooler

m/sec

0.001

0.002

Cumulative Hot Water

kg

201

98

Velocity in Condensate Accumulator

m/sec

0.016

0.018

Water Dew Point

deg. C

<0

<0

Cumulative Condensate

cc

6,212

2,684

Condensate Accumulation Depth

cm

8.8

3.4

計算結果

 

謝辞

計算は全てスプレッド・シート上でプログラムし、実運転のデータ解析用にシミュレーション出来るよう、プログラムした。 米国のイラク侵攻作戦を観戦しながら調査に2日、コーディング1日の作業であった。その後更に計算精度を上げるためのプログラムバージョンアップに1ヶ月 かかった。ちょうど米国のイラク統治に破綻が生じ、ファルージャの虐殺、日本人の拉致などが発生した時に重なりテレビを見ながら、2週間程かかった。

メタン生成も含めて、平衡定数式と化学量論式からガス組成を解析的に解く方法に関しては故まえじまてつお氏に ご教示いただいた。赤松さんからEq. No. 11はモル数が増えるのでPCOは2乗になるのではとの単純ミスのご指摘を受け修 正した。またクーパー氏には特にエンタルピー計算に関し適切な疑問を呈してもらい、計算精度を上げることができた。スロー ト部の炉床負荷についてはFAO設計指針が役立った。

USDA Forest Serviceディ エティンバーガー博士EXCELソフトの公開を求められ、プログラムのバグ修正と第3者に理解可能なプログラミングに書き直す作業とドキュメン テーションに約2週間を要した。これをバージョン-3とする。プログラム修正のインセンティブをいただいた ことをここに感謝いたします。

 

参考文献

(1) 1953年岩波書店刊「理化学辞典」

(2) 1954年版、HougenとWatson共著のChemical Process Principles

(3)1956年岩波書店刊「数学公式I」

(4) 1960年版日本化学会編「化学便覧」

(5) 1963年版のJohn H. Perry編纂の Chemical Engineers' Handbook

(6) 1964 Ernest E. Ludwig, Applied Process Design for Chemical and Petrochemical Plants Vol.1

(7) 1968年培風館刊、小島和夫著「熱力学」

(8) Data Book on Hydrocarbons by J.B.Maxwell, Sixth Edition, 1950

(9) 1968年化学工学協会刊「化学工学便覧」

(10) 2003年前期 東京理科大学理学部化学科 化学工学(1)講義ノート 前島哲夫

(11) 国連のFAO(Food Agricultural Organization)のForestry Departmentが編纂した設計指針

March 31, 2003

Rev. March 22, 2015


トッ プページへ