三好京三 みよし・きょうぞう(1931—2007)


 

本名=佐々木久雄(ささき・ひさお)
昭和6年3月27日—平成19年5月11日 
享年76歳(蛟雲斎久貫章泚居士)
岩手県奥州市前沢区山下72 霊桃寺(臨済宗



小説家。岩手県生。慶応義塾大学通信課程卒。岩手県下の小学校教諭として僻地教育にあたる。教員体験を生かした作品や郷里東北を舞台にした小説を手がける。非行に走る娘とそれに振り回される過程を描いた『子育てごっこ』で直木賞受賞。ほかに『分校日記』『いのちの歌』『満ち足りた飢え』などがある。







  

 わたしは吏華をひきとって間もない頃、怒鳴られるのを覚悟で、星沢老人に、もしものことがあったらどうしたらいいかお聞きしたことがあります。老人はちょつと聞き違えたらしくて長い両腕をこわばった木の枝のようにふらっとさしあげ、これさ、ばんざいだよ、葬式なんかいらん、と言われました。亡くなられたあとの連絡先とか、吏華の処遇についてお聞きしたつもりだったのですが、いかにも屈託なげに、葬式などいらぬとおっしやったことばに、奇妙な実感がこもっていたので、わたしはふと気圧されて聞き返しはしませんでした。夫には、子どもに世話になるという屈辱的なことができるか、現役のままばったりさ、と言われたそうです。 子どもをあずけながらわたし共を非難するような、納得の行かない行動の多い老人でしたが、そのような言い方にはさすが芸術家の片鱗は感じられましたから、夫は葬儀など老人は喜んでいはしないはずだと考えているようで、周囲の者だけが人の死をネタに浮かれることはないと、いつまでもこだわっていました。

(子育てごっこ)



 

 嵐山光三郎いうところの〈反国家、反警察、反左翼、反文壇で女好き〉という常識とはかけ離れた規格外の怪人物、ファーブルの『昆虫記』の訳者でベストセラー『気違い部落周遊紀行』を書いた社会学者きだみのるが、日教組嫌いだったせいか、5歳の頃より学校にも通わせず全国を連れまわしていた11歳の未就学少女を、岩手県南部の内陸にあった山村の分校に勤務する教員三好京三夫妻が養子縁組し、引き取って養育した実体験を小説『子育てごっこ』に描いて直木賞を受賞、映画にもなった。華々しい脚光を浴びた反動なのかどうか、のちに成長した養女から批判手記を発表されるなど話題にもなったが、平成19年3月25日、入浴中に倒れ入院、5月11日午前5時46分、脳梗塞のため奥州市の病院で死去する。



 

 夕暮れ時、奥州街道に沿って建つ霊桃寺の石段をのぼった先にある赤茶色瓦の薬医門は暗く沈んでいたが、境内に入ると案外に明るく、鎮守社、本堂、庫裏が鬱蒼とした杉林を背負って厳かに並んでいて、寺域ともどもかなり大きな寺のようだ。本堂裏は広いひな壇状の墓地になっていて、一番上に平和観音と平和記念塔があり、その手前右のこんもりとした樹影の向こうに五輪塔が見えた。地輪に「佐々木家」と刻された墓に、旧制中学のころから抱きつづけていた「なにがなんでも作家になりたい!」という執念ともいうべき願望を叶えた三好京三が眠っている。葬儀の行われたこの寺から歩いて十分足らずのところにあった自宅は京三の死後、恭子夫人が一人暮らしておられたようだが、今は住む人もかわってしまったと聞く。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編集後記


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文学散歩 :住まいの軌跡


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