後記 2004-08-01


 

 今回掲載した「辻邦生」「村上一郎」「保高徳蔵」「鈴木真砂女」「吉岡実」などは、当然ながら明確に「立ち位置」を異としています。「死」に対しても「生」に対しても「愛」や「文学」に対してさえも。

 年齢的なこともあるのでしょうが、最近は自らの「立ち位置」について日々考えさせられています。仕事上においても、近しい人や家族との会話にあっても、来し方の結果を集約した現在の「立ち位置」を深く意識するようになりました。
 おもえば理由もなく曖昧な不安を抱いて歩んできました。あるいは「安堵」という言葉とはほど遠い人生であったかも知れません。人の一生において遭遇する相対的な「死」とは違った特別な「死」との対面も幾度かありました。年若い近親者や人生無二の恩人が発した無念の「死」、生きることの意義、思いがけず冴え冴えとした厳粛で明晰な言葉は、時々の私の「立ち位置」に多大な影響を与えてきました。

 私の最も愛する詩人、石原吉郎も「位置」にこだわります。

 「壁」

  壁ぎわのその席を
  わたしはこのむ
  だからそのこのむ位置へ
  壁は横向きに立つ
  だから会話は横向きにはじまる
  だから席を立つとき
  わたしへあらたに向きあうのは
  壁ぎわのその
  壁なのだ

 また「位置」というこんな詩もあります。

  しずかな肩には
  声だけがならぶのでない
  声よりも近く
  敵がならぶのだ
  勇敢な男たちが目指す位置は
  その右でも おそらく
  そのひだりでもない
  無防備の空がついに撓み
  正午の弓となる位置で
  君は呼吸し
  かつ挨拶せよ
  君の位置からの それが
  最もすぐれた姿勢である

 いづれも青年期の私に新鮮な感動を与えてくれた懐かしい詩でもあります。

 異常気象の真夏日が続く都会の無機質な躯体の内で、眠れないままに朦朧とした意識が、満ち潮のようにひたひたと足許の感覚を呼び覚ましてくるのです。私の守るべき家族や行き着くべきどれほどかの道が、もやもやとした大地に影さした私の「立ち位置」にも、しかと繋がっているのだろうかと。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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