2000年4月


「アメリカ50州を読む地図」
浅井信雄 新潮文庫

 浅井信雄は、朝の「やじうまワイド」で顔は知っていたが、著作を読むのは初めて。50州+ワシントンDCを、一州あたり6ページで説明する。
  映画や小説などで知る米国は、わずかの都市と巨大な田舎の集合という感じがする。漠然とした知識はあっても、地方の特色などほとんど判らない。大雑把ではあるけど、地方色というものを知るには打ってつけの本。


「テレビ消灯時間」
ナンシー関 文春文庫

 旅行中に気軽に読めるエッセイと思って持っていった本。週間文春'96/3/14号〜'97/6/26号に掲載された色々なTV番組の論評で、番組は当時のモノ。ナンシー関らしい毒舌で切ってくれるところが面白い。
 娯楽としての「料理」を切ってみたり(なぜ、「料理」であって「大工仕事」ではいけないのか)、女子高生の着替えに嬉々とする風見しんごとか、笑わせてくれる。


「永遠の仔」 ☆
天童荒太 幻冬舎

 これは傑作。面白かった。これほどに打ちのめされた本は久しぶりかもしれない。
 最後に救いがないのがなんとも悲しいけど、傷つきながらもそれでどうにか社会と適合していかなければいけないという、アドルトチルドレンの定めが悲しい。突き放しているようで、著者の愛情は感じられる。
 モウル、ジラフ、優希(ルフィン)のそれぞれのキャラクタが素晴らしいし、現在と過去の交錯の仕方の構成も見事にはまっている。ミステリーとしても面白いのだけど、犯人あてというのはまるで眼中になく、夢中で読んでしまった。

 TVドラマ化されたものは、ちょっとしか見てないけど、モウル=渡部篤郎、ジラフ=椎名桔平、優希=中谷美紀という配役ははまり過ぎていて面白みがない。そもそも、お茶の間で見るようなストーリとも思えない。一人でじっくり噛み締める物語だと思う。


「パッケージツアーで行ったトルコ共和国」
稲垣美穂子 新風舎

 タイトルそのまま、パッケージツアーによるトルコ旅行記。ツアーの仲間の人間模様とか、ちょっと面白い所もあるけど、ダラダラとした個人の旅行の感想みたいなもんで、情報としてもあまり役に立たないし、臨場感があまり無いので読み物としてはイマイチ。
 文章自体が軽くて読みやすいので、初めてトルコ関係で読む本としてはいいかも。


「でもトルコが好き」
中沢由美子 わらび書房

 著者は1990年にトルコで日本企業に勤務し、現在はフリーの通訳をしている。現地の生活体験から語る、さまざまなトルコの話題。宗教、おんなたち、子供たち、動物たちという柔らかい話題から、政治、兵役、報道、またトルコの日本人観などなど固い話題まで。生活から密着した所から出ている話は結構、面白い。


「ハリー・ポッターと賢者の石」☆
- Harry Potter and the Philosopher's Stone - J.K.Rowling
J.K.ローリング 静山社

 ハリー・ポッターはエリート魔法使いという運命でありながら、人間の中に住んでいる。彼が魔法の学校に入ってから最初の物語。一種の貴種流離譚であると言える。

 1997年に英国で出版されてから、各国でベストセラーになる。以前にCBSドキュメント(60 minits)で、著者のJ.K.ローリングのインタビューを見てから、ずっとこの本が読んでみたかった。著者が、シングルマザーで生活保護を受けながらの生活、子供を連れてカフェで一人執筆する話、数々の設定やエピソードのメモを段ボールに放り込んで書いていく方法などなど、なかなか面白かった。
 
 童話ではあるけど、ストーリ展開が非常に現代的。犯人探しの面白さ、ラストにかけてのスピード感、ミスディレクションの作り方などが巧み。ラストの罠を解いていく展開などが非常に上手い。これは、「インディ・ジョーンズ」を観ている世代の童話である。
 道具立ても非常に凝っている。三頭犬、「みぞの鏡」、魔法のホウキを使ったゲームのクィディッチなんていうのも奇抜な発想で面白い。
 これはインタビューで著者自身も言っていたけど、音感が楽しい。ボグワーツ魔法学校の校長がダンブルドア、森の番人ハグリッド、ハリーの仲間のロン・ウィーズリー、ハーマイオニー、最強の闇の魔法使いヴォルデモートなどなど。子供の言葉遊びは、語感だけでとても楽しくさせるという事は忘れていた気がする。

映画化「ハリー・ポッターと賢者の石」感想
「ハリー・ポッターと秘密の部屋」感想
「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」


「トルコ 旅と暮らしと音楽と」
細川直子 晶文社

 著者は音楽科卒である事からトルコの音楽の話題が多い。トルコのポップ・ミュージックから、コンサート、伝統楽器のサズを習う話などなど。音楽に興味が薄いとちょっと詰まらないかも。
 観光地的な情報は少ないけど、トルコの音楽に興味があれば面白いだろう。私は半分は興味対象外だった(^^;)。


「イスタンブールのへそのゴマ」 ☆
フジイ・セツコ 旅行人

 トルコのエッセイの中では、突出して面白かった。1992年からの5年間のトルコ暮らしの絵日記風エッセイ。
 生活感に満ちた話題が多くて、リアリティが有って面白い。リアリティは、トホホ度に比例する。不動産屋にだまされる話、歯痛の苦労、電話を引く苦労、最高だったのはアーダ(脱毛)の話。この部分は最高傑作。
 食べ物の話も面白い。たとえば、"豚肉は食べない"で終わってしまうトルコ料理の本とは違って、豚肉加工品を売っている店の話、知り合いそれぞれに聞いた豚肉に関する意識など追求している。トホホ生活の割には意外にジャーナリズム精神、探求心がある所がこの著者の凄い所。
 近所の人物が存在感があって描けているし、家の間取りさえも臨場感がある。絵もいい味が出ている。

 「旅行人」を購読しようと電話した時に、友達に送っていた絵日記のコピーを送る事になったのが出版のきっかけというのも面白い。内容が、いかにも蔵前仁一の「旅行人」から出ている本という感じがしてヨイ(^^)。


「好きになっちゃったイスタンブール」
下川祐治編集 福田素子、鈴木章弘,平井かおる、松村歓喜 二葉社

 体験、食べ物、芸能、お宅訪問、路上探索、旅行術など話題別にまとめたもので、自分の興味有るところだけ拾い読みするのでも面白い。
 一番興味がある料理の部分はロカンタ、羊料理、ナス料理などなど、ちょっと話題的には乏しい内容。もうちょっと色々な料理があると思うのだけど。絨毯の話題もちょっと少ないし、物足りない。情報源的にはイマイチかも。
 読み物としては、ハマムで三助になるとか、ジュース売りになるとか、体験モノが面白かった。


「トルコ イスタンブルは今日も賑やか」ヨーロッパ・カルチャガイド9
トラベルジャーナル

 トルコの庶民的な生活に視点をおいているとこはよかったけど、読み物としてはあんまり面白くなかった。インフレ、カルチャーとしての映画やテレビ、ポピュラー音楽などなど。
 個人的には、食べ物の話はもっと書いて欲しかった。


「オスマン帝国の栄光」
テレーズ・ビタール著 創元社

 著者はルーブル美術館のイスラム美術の専門家だけあって、図画が非常に奇麗で豊富、面白い。歴史も面白くまとまっている。


「映画を見ると得をする」
池波正太郎 新潮文庫

 映画狂の池波正太郎の映画の話だけど、映画の解説ではない。映画の選び方から、見方まで様々な話題、例えば映画館における座席の位置なんて話題から、脚本家と監督の関係や、映画文法なんて固い話まで。
 出てくる映画は古いモノが多いけど、言っている内容は現代でも十分に通用する事。話の調子は何故か調子が淀川長治みたいだけど、やはりこれは世代というものか(^^;)?
 
 なぜ映画を観るかというと、"自分の人生は一つしかないから、他人の人生を知りたくなる"という明快な答えには感服。


「幽霊が多すぎる」
ポール・ギャリコ 山田蘭訳 創元推理文庫
- Too Many Ghosts - Paul Gallico

 カントリークラブとして開放されたパラダイン男爵家。そこを襲うポルターガイストの怪現象を解決すべく、心霊探偵ヒーローが乗り出す…。
 ポール・ギャリコは読んだこと無いが、「ポセイドン・アドベンチャー」の原作者。実際は、「スノーグース」「雪のひとひら」などが有名な、大人の童話的なストーリ・テラーらしい。彼の唯一のミステリーで、評判が良かったから読んだのだけど、イマイチだった。ほとんど話に乗れなかった。


「自殺の殺人」
エリザベス・フェラーズ 中村由希訳
- Death in Botanist's Boy - Elizabeth Ferrars -

 嵐の中、身投げを図った男が助けられる。だが男は翌朝、拳銃で自殺を図る。自殺に偽装した他殺か、それとも逆か…。
 「このミステリーがすごい」で紹介されていたから読んだのだけど、イマイチ。一発アイデアものという感じで、文章とかストーリテーリングに力が無く、物語に引き込まれない。


「名所探訪 地図から消えた東京遺産」
田中聡 詳伝社文庫

 東京名所の本となれば、読まない訳にはいかない。ちょうど、帝都物語ゆかりの地を歩く「帝都物語ツアー」を予定していたから、参考にもなると思って読んでみたが面白かった。東京では明治以降の文化的な名所は、碑さえ残さずに消えている。こういう本は、あまり無いので貴重。

 出てくる所を全部上げると…、浅草十二階(凌雲閣)、鹿鳴館、銀座煉瓦街、築地外人居留地、日本橋白木屋、巣鴨プリズン、日比谷進駐軍摂取施設、新宿ムラーンルージュ、淀橋浄水場、麻布東京天文台、小石川療養所、谷中五重塔、小塚原刑場、小石川切支丹屋敷、本郷菊富士ホテル、田端文士村、池袋モンパルナス、吉原、玉の井、須崎。


「意外体験!イスタンブール」
岡崎大五 詳伝社黄金文庫

 ちょうどトルコ旅行中に読んだ。
 今回の旅行は3週間のうち、前半はツアーに参加してトルコ全般を周り、後半はイスタンブールで延泊して自由旅行という形を取った。ちょうど行きの飛行機の中で読んだので、前半のツアーがヘンな部分で楽しめた。小説中に出てくる、不倫カップル、看護疲れの三人組み、年寄り、と旅行中のツアーのメンバーと重ね合わせて笑ってしまった。
 旅行ガイドとしても、カッパドギア、パムッカレ、エフェッソスと重要な所を押さえているので、トルコ旅行の大雑把な把握をするためにもいいかも。


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