宇宙には人間の力ではどうしようもない普遍不滅の法則が存在する。その一つで根源的なものが原因結果の法則、いわゆる因果律である。あなたが今おかれている環境に対していかなる気持ちでどう対処するかによって、次の環境が定まるというのである。
そこで私は、人間はもともと健康で快適な人生を送るように出来ているのだという信念のもとに、健康と富と成功を手にするには現在の環境に対していかなる姿勢で対処すればよいのかを、心霊学の原理と私自身の心霊治療家としての体験をもとにして説いてみた。
人間はみな死後も生き続ける。霊的生命は決して断絶しない。進化向上にとって必要な体験を得んがために、それぞれに適した環境に生を享けているのである。あなたはまず、自分で選んだ今の人生に責任をもつべきである。
その責任を果たさずに迷いの人生を送ると、また地上に戻って来なければならない。
こんな本を読むんじゃなかった──そう思っておられる方もあるかも知れない。が、もうおそい。真理を知ってしまったからには、それなりの責任と義務が生じる。弱音を吐かずに前向きに積極的に生きることだ。
最後にあなたのために祈ろう。
「神よ、どうにもならない宿命を堂々と受け入れるだけの度胸を与えたまえ。改められるものは躊躇なく改めていく力を授けたまえ。そして正邪、悪意、適否を誤らず識別する知恵を賜わらんことを」
訳者あとがき
本書は心霊学の日常生活における実践を説いたものである。もっと正直に言えば、スピリチュアリズムの実践的指導書である。
心霊学が即スピリチュアリズムではない。心霊現象あるいは超自然現象と呼ばれている異常現象を学問的に解明したのが心霊学であり、その原理を道徳、哲学、宗教の各面に活用したのがスピリチュアリズムである。
つまり心霊学はスピリチュアリズムの科学面を代表するものであり、その意味でスピリチュアリズムの中で初めてその価値を発揮するものである。心霊学そのものだけでは存在価値はないといってよい。
ところが昨今の一般的傾向を見ると、心霊学──それも目に映じる他愛ない現象、たとえばスプーンを曲げるとか、物体を動かすとかいった、心霊学の中でもほんの一部にすぎない現象に興味が集中し、いわば興味本位の見せもの的人気に終始しているきらいがある。本来の有り方からすれば、これは文句なしに堕落といってよい。
こうした傾向を慨嘆し警告を発する声は日本のみならず欧米においても昨今しきりに耳にする所であるが、テスター氏はそういった次元を超越して、氏自身の治療家としての体験をもとに、スピリチュアリズム的観点から、実生活における物の考え方の思い切った転換を力説している。
その説くところまさに心霊的であり、しかも自信と説得力がある。
それもそのはずで、氏自身がかつて二年近い闘病生活で殆ど人生に絶望しかけていたとき、一心霊治療家によって奇蹟的に回復した体験があるのである。これが氏をスピリチュアリズムに開眼させ、さらに自ら心霊治療家になるキッカケとなった。
氏にとってスピリチュアリズムは生き甲斐の源泉であり、心霊治療は神への感謝の念の実行である。最後の質問の章で言っているように、これが氏にとっての宗教なのである。
本書に説いていることは氏みずから実践していることばかりであり、決して単なる理屈ではない。本書が世界十数か国語に翻訳されている理由もその辺にある。
本書の翻訳に当たってテスター氏と交わした手紙を通じて私は、氏が真に無欲と奉仕の精神に徹した善意の人であることを感じとってはいたが、昨年(一九八一)一月に氏を英国サセックス州のお宅にお訪ねした時、数時間にわたる会話の中で、その誠実さと奉仕の精神を改めて感じとった。
又、氏の治療効果はBBC(英国放送協会)も取材に来るほど知れわたっている。
世界の勝れた宗教はみな、詮ずるところ無欲と愛と奉仕を説いている。本書はささやかな書ではあるが、その説くところはいかなる宗教書にも負けない卓越したものをもっており、氏の説くところを正しく理解し実践すれば、いつどこにいても宗教心の実践が可能である。
ここに本書の価値があり、同時にまた多くの霊界通信が指摘するように、スピリチュアリズムの目的と意義もそこにある。
私が本書の翻訳を思い立った動機もそこにある。本書によって一人でも多くの日本人が新しい人生観を確立されんことを望んでやまない。
なお本書は昭和四十一年に「こうすれば健康と富と成功が得られる」という書名で日本心霊科学協会から発行されたが、この度潮文社の要請を受け、書名を改め、わずかではあるが加筆訂正を施し、さらに原著者のロングセラーである小冊子「死とは何か──悩める人へのガイドブック」を巻末に添えて再発行される運びとなった。
潮文社のご厚意と、その潮文社の要請を快諾して下さった日本心霊科学協会に対し厚くお礼を申し上げたい。