「違う太鼓」上演台本 1幕6場

    2003年11月18日〜11月23日  新宿タイニィアリスにて公演


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第8場   六月十二日 

      トモの部屋。 前場より3ヶ月経過している。今、食事が終わっ
      たところ。トモ、テーブルの上を台ふきんで拭いている。マサ、
      背もたれによりかかり満足そうなそぶり。

マサ あ〜うまかった。トモ、お前ってやっぱ料理うまいよね。お前の作るク
   リームコロッケ最高だよ。
トモ ああ、そう。ありがとう。(なんだかからかっている感じ。)
マサ なんだよ、その言い方。人がせっかく褒めてんのにさぁ。「大好きなマサ
   カズのためだもの」とかなんとか言えないわけ?
トモ 言えない。(やっぱりからかっている感じ)

      トモ、食器をもって台所の方(上手)に去る。

マサ (その背中に向かって)感じ悪いなぁ。お前、今日なんかいつもと違う
   ね。食事の時も一人でニヤニヤしちゃってさ。やたらと上機嫌じゃん。
   なんかいいことでもあった? あ、お前、発情期ってやつが始まったん
   じゃないの? 人間にもあるんだってよ。

      トモ、戻って気ながら

トモ 2ヶ月以上も音沙汰なしで、もうすっかりダメだと思ってたヒトシ君が
   2週間ほど前にメールくれたのよ。
マサ へ〜、何だって?
トモ また会ってもらえますかって。
マサ へ〜、そりゃまた、どういう風の吹き回し?
トモ あんな一方的なメール、出したままで終わってしまうのは嫌だって思う
   ようになったんだって。ヒトシ君としては、僕から「別れない」とか「と
   にかく、もう一度会いたい」とかって返事を待ってたみたいなんだけど、
   全然来ないから、すっかり嫌われたと思いこんじゃったって、ずっと落
   ち込んでたんだって。僕もそんな風にしおらしく出られると、ほっとけ
   ないじゃない。なんだかいとおしくなっちゃって、とにかく次の日に会
   ってみたのよ。
マサ そしたら、ヒトシ君からもう一度チャンスをくださいって言われて、付
   き合うことにしたって訳か。
トモ あら、よく分かるわね。そうなのよ。
マサ そしたら冷却期間が功を奏して、二人の間に落ち着いた雰囲気が出てき
   たので、うまく行きだしたんだろう? 2日に一度は会ってるし、前の
   ように毎日メールも来るようになってまさにハネムーン。めでたし、め
   でたしじゃないか。
トモ あ〜た、人のメールまた勝手に読んだでしょ!
マサ お前が食事の支度してる間にね、ちょっとね。
トモ 油断も隙もあったもんじゃないんだから!
マサ お前が「食事作ってる間、好きにしてて」って言ったんじゃないか。
トモ 好きにしててって、何してもいいっていう意味じゃないわよ!
マサ ごめん! いやぁ、またぬいぐるみが戻ってるし、どうしたのかなって
   気になっちゃったんだよ。相変わらず、お前はメールをプリントして机
   の上に置いてあるから、ついね。
トモ なにがついよ。まったく。
マサ でもさ、お前たちのメールのやり取り、すごく微笑ましいね。読んでて、
   俺まで嬉しくなっちゃったよ。今回はすごくうまくいきそうじゃないか。
   ヒトシ君が気にしていた俺のこともちゃんと納得してもらえたようだし
   さ。ホントによかったよ。
トモ 今度、勝手にメール読んだら、うちへのお出入り、禁止よ!
マサ 悪かったよ。もう二度としないから。
トモ 僕ね、ヒトシ君とのこと、本気で大事にしていくつもりよ。あなたが言
   うみたいに、めでたし、めでたしっていうほど単純なものじゃあないけ
   ど、とにかく精一杯頑張って、行けるところまで行ってみるつもり。こ
   の間みたいに、その時の感情で結論を出したりしないで、本当にどうし
   ようもなくなるまでは、とことんやってみるって決めたの。
マサ トモは脳梗塞以来ホントに変わったね。すごくポジティブになったよ。
トモ 自分でも変わったなって思う。あら、お湯が沸いたみたい。お茶入れて
   くるね。

      トモ、キッチンに消える。マサ、立ち上がってぬいぐるみの側に
      行く。自分の上げたぬいぐるみを撫でる。自分の席に戻る。マサ
      戻ってくる。

トモ はい、お茶。
マサ ありがとう。
トモ ああ、おいしい。食後はやっぱりほうじ茶ね。
マサ ヒトシ君、明日ここへ食事に来るんだよね。彼もクリームコロッケが好
   きなんて話が合いそうだよ。
トモ ホントに人のメール隅々まで読むのね。
マサ ごめん、ごめん。でさ、ヒトシ君がオーケー出してくれたら、今度紹介
   してくれよ。
トモ そのうちね。あんなかわいい子、取られちゃったら大変だから用心しな
   くちゃ。
マサ 何言ってんだよ。ヒトシ君、ババァ専だろ。ババァ好きに好かれちゃ、
   こっちが迷惑です〜。
トモ ったくぅ、ぶつわよ!
マサ もう、ぶってるじゃん! 
トモ もう絶対メール、プリントしない。
マサ だからもう勝手に読まないって。ところでコンテストの方はどうなった
   んだよ。
トモ それがね、一次審査、通ったの。
マサ へ〜、すごいじゃないか。おめでとう。
トモ そんな。デザイン画通っただけだから。問題は二次審査なの。
マサ いやぁ、すごいよ。何か確実に前に進んでる気がするよ。
トモ とにかくベストは尽くすつもり。
マサ 頑張れよ。ちょっとトイレ行って来る。
 
      マサ、トイレに消える。トモ、テーブルの上を拭き、急須を持っ
      てキッチンに消える。マサ、入れ替わりに戻る。

マサ (キッチンのトモに向かって)ねぇ、ヒトシ君よくここに泊まってくの? 
トモ ええ、ここんとこ一日置きくらい。なんで? 
マサ いやぁ、洗面所のコップに2本の歯ブラシが入ってるから。1本はヒト
   シ君のなんだろ?
トモ そう。ピンクが僕で、ブルーがヒトシ君。
マサ まるで新婚だね。
トモ またぁ!

     マサの携帯が鳴る。

トモ いやだ、お母様じゃないでしょうね。
マサ いや、友達。(携帯に出る)もしもし。うん、大丈夫だよ。うん。うん。
   こんなに早く終わるなんて珍しいね。うん。今から? いいよ。どこで
   会う? セレンティップ? うん、じゃ一時間後に。うん。うん。明日
   の朝は直行なんだ。それじゃ又うちに泊まればいいじゃん。うん。うん。
   (笑う)そう言ってくれると嬉しいね。うん、それじゃ後で。
トモ ねぇ! 誰?
マサ だから友達。
トモ あらっ、友達なんていたっけ?
マサ いくら俺だって友達くらいいるさ。お前だって友達じゃないか。
トモ なぁんか変。恋人? 
マサ そんなんじゃないよ。最近知り合って何度か会ってる奴。
トモ あなた、人泊めたりしないって言ってたじゃない。なぁに「又うちに泊
   まれば」って。あの口振りじゃぁ何度も泊めてるんでしょ? おかしい
   わ。
マサ お前、推理小説の読み過ぎだよ。
トモ 名前、何て言うの。
マサ いいじゃないか、別に。
トモ 人のメール勝手に読んどいて、いいじゃないかはないでしょ。名前は何
   て言うの?
マサ なんだか調書取られてるみたいだな〜。シノヤマシゲヒコ。
トモ シゲヒコ君って言うんだ。 マサが人と付き合うようになるなんてねぇ。
マサ だからそんなんじゃないんだってば! 
トモ で、そのシゲヒコ君のどこが好きなの?
マサ お前、先走りし過ぎるんだよ。俺、最近リコーダー始めたんだけどさ、
   同じ教室に来てる奴なんだよ。
トモ なによ、リコーダーって。
マサ タテ笛だよ。小学校の時吹いたことあるだろ、こういうの?
トモ 鼓笛隊のアレ?
マサ そう、それの本格的なやつ。バロックなんか演奏するんだよ。俺、中学
   ん時、けっこう夢中で練習してたことあるんだ。それ以後やってなかっ
   たんだけど、なんだか急にもう一度やりたくなっちゃってさ。お前の影
   響かな…。で、教室通い始めたわけ。
トモ ふ〜ん、で、その教室の生徒がなんでマサの家に泊まるのよ。
マサ そいつとは何年か前に二丁目のバーで会ったことがあるんだ。で、奇遇
   だねなんて話してるうちに意気投合しちゃってさ、そのうちなんとなく
   そうなっちゃったんだよ。
トモ やっぱり付き合ってるんじゃない。
マサ 何度か寝たからって付き合ってるってわけじゃないよ。ただ、話が合う
   し、二人でリコーダーの練習なんかしてると楽しいだけだよ。
トモ よく会ってるの?
マサ ここんとこは毎週日曜日、ウチで二重奏の練習してる。
トモ ふ〜ん、何度もセックスして、一緒に居て楽しくて、毎週日曜日に会っ
   てるんだけど、付き合ってないのね。
マサ そうだよ。
トモ で、シゲヒコ君っていくつなの。
マサ もういい加減にしろよ〜。
トモ ダメ。言わないと帰さないわよ。遅刻してもいいの〜?
マサ んもう! 四十五。
トモ え〜〜〜! 四十五! もう立派な中年じゃないの! 
マサ うるさいな〜。
トモ だって、あなた、中年は気持ち悪いって言ってたじゃないの!
マサ 中年は気持ち悪いけど、シゲヒコは気持ち悪くないの!
トモ 何がシゲヒコよ。ご都合主義なんだから!  シゲヒコさんは特別ってこ
   とね。ね、その「付き合ってない」シゲヒコさんのどこがいいの?
マサ お前って意地悪言う時、目、輝いてるよね。
トモ (詰問調で)どこがいいの?
マサ 一緒にいると気持ちが安らぐんだよ。素直になれるっていうのかな。
トモ なんかかなりいい感じじゃないの。マサは「付き合ってない」って思っ
   てれば、付き合っていける」のかもよ。
マサ ったくもう!(苦笑い)ま、先のことは分かんないけどね。とにかく、
   こんな風に思える奴がこの世にいるって分かっただけでもめっけもんだ
   よ。
トモ あ〜、いいところなのに我慢できない! ね、ちょっとトイレ。まだま
   だ聞くこといっぱいあるんだから覚悟しててよ。
マサ もう出てこなくていいからね。

      トモ、トイレに急いで消える。マサ、苦笑い。様子をうかがって、
      いるが、ふと自分のあげたぬいぐるみを自分の座っていた椅子に 
      置き、トモに気づかれないように帰る。ドアの閉まる音。しばら
      くしてトモ、コップに入っ
      た歯ブラシを2本持って登場。歯ブラシはブラシが向かい合わせ
      に絡み合わされている。

トモ ね〜、歯ブラシこんな風にくっつけたのマサでしょ! 

      マサが居ないのに気付く。

トモ あら、マサ〜。

      玄関に行ってみる。帰ってくる。

トモ 逃げたなぁ! 仕返ししてやろうと思ったのに。

      テーブルに歯ブラシの入ったコップを置き、携帯を取り出しかけ
      る。

トモ もしもし、マサ? なによ、人がトイレに行ってる間に逃げなくなって
   いいじゃないよ。そんなに照れくさかったのかしら? (間)あ〜、そ
   れはいいわよ。デートのジャマしようと思ってませんから。(間)はいは
   い、付き合ってないのよね。ねぇ、それより歯ブラシ絡み合わせたのあ
   なたでしょ! (間)バカね〜。ケンカなんかしないわよ。(間)大丈夫。
   ホント子供なんだから。たとえ歯ブラシがそっぽ向いてても、ちゃんと
   やっていきます。(間)そう、決めたんだもん。(間)今度シゲヒコさん
   紹介してね。そうだ、近いうちにヒトシ君も入れて4人で食事しない? 
   腕によりをかけてごちそう作るから。(間)うん、楽しみにしてる。(間)
   うん、これからもよろしくね。それじゃ、また。

      携帯を切る。 テーブルに座って、ぬいぐるみを歯ブラシの入った
      コップの横に置く。しばらく一点を見つめている。

トモ さて、あしたのクリームコロッケの仕込みをしとかなくちゃ。

      トモ、台所に消える。テーブルの上のぬいぐるみと歯ブラシのは
      いったコップにスポットが当たる。 ゆっくりと周りの照明が落ち
      ていく。最後にゆっくりとスポットライトが落ちていく。と同時
      に音楽がゆっくり大きくなっていく。闇。










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