「違う太鼓」上演台本 1幕8場

    2003年11月18日〜11月23日  新宿タイニィアリスにて公演


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第2場   二月六日

      トモの家。トモとマサ、テーブルに座って話している。マサは少々
      退屈している感じ。

トモ でさぁ、なんとなく作り出したアクセサリーなんだけど、幸いいくつか
   の店で置いてくれるようになったんで、なんとか食べてはいけてるわけ
   だけど、ここんとこなんだか頭打ちなのよ。しばらくはアンティークビ
   ーズものが少しは売れてるから、なんとかしのいではいるんだけどね。
   所詮、若い子向けのアクセサリーじゃそう高いものは作れないし、もっ
   と攻めの姿勢で新しいところに挑戦していかないとダメかなぁとか思っ
   てんのね。
マサ ふ〜ん。(あまり乗り気でない感じ)
トモ でね、日本ジュエリー協会っていうのがあるんだけど、そこが毎年ジュ
   エリーデザインのコンテストをやってるのよ。それで僕も思いきって応
   募してみようかと思うの。一次審査はデザイン画だけでいいし、その一
   次審査を通ったら、実物を作って提出するっていうシステムだから、リ
   スクも少なくてすむし。どう思う?
マサ いいんじゃないの。
トモ なんだかどうでもいいような言い方。もっとちゃんと聞いてよ、こっち
   は真剣なんだから。
マサ ちゃんと聞いてるよぉ。
トモ ね、お茶もう一杯どう? 
マサ あ、いらない。
トモ どこまで話したかしら。あ、そうそう。で、応募してみようと思ってる
   のよ。で、どうかなって思って。
マサ だから、いいんじゃないのって言ってんだろ。お前にそんな積極性があ
   るなんて思わなかったから、ちょっと面食らってるだけだよ。俺はお前
   のやってるアクセサリー業界とかわかんないからさ、コンテストの応募
   にどんなメリットがあるか見当つかないんだよ。
トモ これはね、現状打破のための行動なの。もちろん、それで賞とか取った
   ら、もっと付加価値の高いアクセサリーを作れるようになるとは思うけ
   ど、それが第一目的じゃないのね。そういう風な積極性を持つことで、
   なんか人生の流れを変えたいって思ってるわけ。
マサ じゃやりゃいいじゃん。
トモ ああ、なんか嫌な言い方。
マサ だいたいお前さ、現状に不満があるわけ? 今やってるアクセサリーで
   それなりに食っていけてんだろ? 現状打破って言うんなら、もっとい
   ろんな店に置いてもらえるように営業かけるとかさ、他にやり方はいく
   らでもあるわけだろ。でも、コンテストがお前にとって意味があるんな
   ら、やってみればって言ってるわけ。 
トモ なんか突き放した言い方。あなた、今の生活で満足なの? 
マサ 満足だよ。俺みたいにやる気のないのでもなんとか食えてんだから、あ
   りがた〜いと思ってるさ。所詮、食えりゃいいんだよ、人間は。
トモ あら、人はパンのみで生きるにあらずっていうじゃない。
マサ パンがなけりゃブリオッシュを食べればいいのに。
トモ それは話が違うでしょ! マリー・アントワネットの話してるんじゃな
   いの!
マサ いいじゃん。お前はどっちにしろ女王様なんだから。
トモ あなたっていつもそうね。なんかマジメな話になるとオチャラケでごま
   かすんだから。マサはごはんさえ食べてればいいのかもしれないけど、
   僕は嫌なの。なんかちゃんと生きてるっていう感覚が欲しいの。女王な
   んだから
マサ そうですか。ご立派な女王様なことで。あ、そうだ。忘れないうちに渡
   しとく。これ。(と大きな紙袋をわたす)
トモ 何?
マサ シャツのお礼。っていうか、お前こういうの好きなんだろ。
トモ (紙袋からぬいぐるみを取り出す)あら熊さんじゃな〜い。ありがとう。
マサ 俺ちょっとトイレ行って来るわ。
トモ どうぞ、ごゆっくり。

      マサ、やれやれといった感じでトイレに行く。ぬいぐるみを見る
      トモ。可愛がりながら前からあるヌイグルミの横に置く。トモの
      携帯がなる。

トモ あ、ヒトシ君だ。もしもし。うん。トモです。うん、うち。え? 今か
   ら? オーケー。今、この前話したマサカズにコンテストの件で相談に
   乗ってもらってるとこ。もう少しで終わるから三十ぐらいで出られると
   思う。この前のスタバで8時でどう? じゃ終わったら携帯するね。ヒ
   トシ君、今どこ?(間)あ、そう。じゃ時間つぶせるね。うん僕もだよ。
   じゃ後で。

      いつの間にか戻ってきているマサ。トモの後ろにいる。

マサ なんだよ、野郎っぽい声出しちゃって。なに、お前、まさか男でもでき
   たの?(座る)
トモ いやだ〜。盗み聞きして、油断も隙もあったもんじゃないんだから。僕
   に男がいたらおかしいとでもいうわけ?
マサ おかしかないけど、驚くね。
トモ ホント、マサって僕のことバカにしきってるのね。じゃ、飛び上がって
   驚いてもらいましょ。実はね、僕、ヒトシ君っていう子と付き合おうか
   なって思ってるの。
マサ 何がヒトシ君だよ。そいつ、いくつ?
トモ にじゅうさ〜ん!
マサ 二十三? お前、そのくらいの子供がいてもおかしくないんだよ。そん
   なガキどこで見つけたの。そいつババァ専? 
トモ 感じわるいわねぇ。ネットで知り合ったの! 
マサ なに、ネットにおばさん交差点とかできたんだ。
トモ たたくわよ! もう話さない!
マサ たたいてるじゃないか! で、そいつもお前のこと好きなわけ?
トモ ヒトシ君! もの作る人が好きなんだって。僕メールとかめんどくさい
   んで、すぐ電話番号教えたのね。でぇ、電話してるうちに僕がアクセサ
   リー作ってるて言ったら「すっげぇ、一度見せて欲しいな」とか言われ
   て、でぇ、一度家に呼んだのね。でぇ、いくつか作ったものを見せたら、
   すっかり尊敬のまなざしになっちゃって、そういう風に手でモノ作る人
   ってすっごく憧れるんだって。
マサ へ〜〜。この世界に捨てるゴミはないっていうけどホントだね。
トモ ホントに素直ないい子なのよ。
マサ そんな若い奴、金目当てじゃないの? お前、小金持ってるから気をつ
   けた方がいいよ。
トモ 高校卒業後、すぐに働きだして、ちゃんと自立してるの。若いからって
   そういうのばっかりじゃないのよぉ。僕、世の中見直しちゃった。
マサ で、セックスもしたんだ。
トモ いやぁだぁ。ま、一応ね。
マサ なにが、いやぁだぁだよ。気色悪い。
トモ あら、ごめんなさ〜い。
マサ ふ〜ん、それで付き合うつもりなんだ。
トモ だってマジメに付き合いたいっていうんだもの。
マサ なに? 向こうがそう言ったわけ? 
トモ そうよ。何かご不満?
マサ いや別に。
トモ ね、ね、実は今から新宿のスタバで会うんだけど、ちょっと一緒に行っ
   て会ってみない? 何百人も男を見てきたマサの目で確かめてもらいた
   いのよ。ね、ね、いいでしょ!
マサ 何百人は余計だろ。そんなかったるい役はごめんだね。
トモ あら〜、友達甲斐がない人ねぇ。いいじゃないよ。
マサ バカバカしい! 自分がよけりゃいいだろ!
トモ あら、何、焼いてんのかしら〜?
マサ なんで俺がお前に焼き餅焼かなきゃなんないんだよ。いずれそいつが勘
   違いに気付いて、お前が泣きを見るのしのびないだけだよ。そんなの初
   めから分かってるだろうが。
トモ だから一度会って、見極めてもらいたいんじゃないの。
マサ やなこった。だいたいコンテストの応募とかも、そいつに「モノ作る人
   っていいですよね。」とか言われて、いいとこ見せようって色気出しただ
   けなんだろ。突然そんな話思いついて、どうも変だと思ったんだよ。
   あ〜あ、色ボケだけはしたくないね。
トモ (急にマジメになり)僕ね、もう嫌なの。どうせたかが趣味みたいなア
   クセサリー作りなんだからとか、どうせ自分みたいなオバサンを好きに
   なってくれる人なんていないとか、自分で自分のこと否定しちゃうよう
   な考え方でもう生きていきたくないの。確かにヒトシ君は僕の上に自分
   の都合のいい勘違いを重ねているのかもしれない。そして、それはすぐ
   に消えてしまうのかもしれない。でもね、消えてしまうまでは頑張って
   みたっていいんじゃない? 今までだったらやってダメになりそうだっ
   たら、やっても無駄って何もしてこなかったんだもの。コンテストだっ
   てそう。ダメでもいいのよ。でも応募してみるだけでも、今までと違う
   自分と会えるような気がするの。生き方変えたいの。だってそうでもし   
   なくちゃ、延々と今までの人生が続いていくだけなのよ。
マサ お前さ、宗教とか始めた? やっぱり何か前と違うよなぁ。
トモ (しばし沈黙。溜息をついて)わかったわ。もう話は終わりにしましょ。
   一応全部聞いてもらったし。もう一度自分で考えてみる。ホントに今日
   はありがとう。
マサ なんだよ。また怒ったのかよ。
トモ 怒ってないわよ。それじゃコーヒーでも淹れましょうか。
マサ あ、いいよ。お前、これから出かけるんだろ。デートのジャマしちゃ悪
   いから、俺、もう帰るよ。
トモ こっちの方から呼び出しといて、追い出すみたいなの嫌だから、コーヒ
   ー飲んでってよ。
マサ いい、いい。俺、見たいテレビもあるし。(帰り支度をする)それじゃ。
   そのヒトシ君とやらと楽しんでください。

      マサ、出ていく。

トモ 今日はどうもありがとう。

      トモの携帯が鳴る。

トモ もしもし。うん、もう終わった。もう出られるから8時前に着ける。ね、
   ヒトシ君、今日ゆっくりできる? あ、よかった。何かいろんな話した
   いから。うん、それじゃ。

      暗転
      


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