「違う太鼓」上演台本 1幕6場

    2003年11月18日〜11月23日  新宿タイニィアリスにて公演


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第5場   三月四日

      だれもいないトモの部屋。部屋は朝の光の感じ。そこへカジュア
      ルな服装のマサ入ってくる。

      テーブル前の椅子に座って憮然としている。しばらく動かない。  
      突然、首を回し、いつも自分が上げたぬいぐるみが置いてある場
      所を確認すると、やおら立ち上がり、床に置いてあった自分が上
      げたぬいぐるみを拾い、それをいつも置いてある場所に置く。そ
      の時、そこにおいてあったヒトシ君から贈られたぬいぐるみは邪
      険に床に落とす。ゆっくりテーブルに戻り、椅子に座って、また
      しばらく憮然としている。また突然立ち上がり、床に落としたヒ
      トシ君からのぬいぐるみを拾い、ソファの横にあるかごに置き直
      してあげて、またテーブルに戻る。テーブルの上の手がイライラ
      しているように動き出す。時計を見て、情けない顔。

      そこへ下手袖からトモの声。

トモ ヤッホー

      本格的な登山にでも行けそうな服装に大きなリュックサックを担  
      いだトモはいってくる。

トモ どんどん一人で先行っちゃって。何もそんなに早足で歩くことないじゃ
   ないよ。
マサ あれが普通の歩き方なの。
トモ まるで競歩のラストスパートみたいだったわよ。
マサ お前が遅すぎるんだよ。
トモ こんなに重いもの担いでるんですもの、しょうがないでしょ。
トモ どんどん一人で先行っちゃって。何もそんなに早足で歩くことないじゃ
   ないよ。
マサ あれが普通の歩き方なの。
トモ まるで競歩のラストスパートみたいだったわよ。
マサ お前が遅すぎるんだよ。
トモ こんなに重いもの担いでるんですもの、しょうがないでしょ。
マサ なんでそんなに大きな荷物になるんだよ。
トモ お弁当とか作ったら、この位すぐなるわよ。
マサ だいたい、なんだよ、その格好。俺たちアルプス登山とかに行くんじゃ
   ないんだからね。ただのハイキングだよ、今日行くのは。
トモ だって、あーたがそれなりの支度して来いよってメールに書いてきたん
   じゃないよ。
マサ 今日行くのは早春の日だまりハイク・家族向けの二時間コースってやつ
   だよ。その格好じゃそれなりとかじゃないだろうが。
トモ そんなことメールに書いてなかったじゃないよ。ほら、読んであげまし
   ょうか。(プリントアウトした紙を持ってきて読もうとする)
マサ まだメールをプリントしてんの?
トモ そうよ。言ったでしょ、こうしないと読む気がしないって。え〜と「元
   気戻った? トモは気分転換が必要だと思うよ。今度の日曜日にハイキ
   ングに行ってみないか。よければ今度の日曜日に参宮橋改札口で午前7
   時に待ち合わせよう。けっこう歩くから、それなりの格好して来いよ。
   じゃ。」こうよ!
マサ ハイキングって書いてあるじゃないか。
トモ それだけじゃわかんないわよ、行ったことないんだから。
マサ 分かったよ。もういいから、とにかく早く着替えなよ。 
トモ ちょっと待ってよ。急に着替えろって言われても、何着てくか決めてな
   いんだもの。
マサ なんでもいいよ。動きやすい格好なら。とにかくそんな格好じゃ、ハイ
   キング一緒に行くのは絶対嫌なの!
トモ 喉渇いちゃった。まずお茶入れるから、それからにしましょ。
マサ ぐずぐずしてると、日が暮れちゃうからね。
トモ 仰せの通りに。

      トモ台所(上手)に去る。ややあって、トモお茶をもって登場。

トモ はい、お茶。
マサ 急げよ。
トモ まずは一息つかせてよ。(椅子に座って飲む)
マサ のんびりしてんだから。
トモ (お茶を飲み)あ〜落ち着いた。
マサ (お茶を飲み)ふ〜。なんかさぁ、気持ちが削がれちゃったよ。今日ハ
   イキング行くのやめとこうよ。
トモ ちょっと! お弁当だって作ったのよ。5時起きだったんだから。
マサ そんなのここで食べればいいじゃん。そうしよう、そうしよう。
トモ もうホントに気分屋なんだから。すぐに着替えるから待っててよ〜!
マサ いいじゃん。もう行かなくたって。俺、腹減っちゃった。弁当何作った
   の? 
トモ 山菜を炊き込んだお稲荷さんに、海苔巻き、それから出汁巻き卵でしょ。
   ポテトサラダにリンゴのコンポート。それから豆腐のみそ汁がポットに
   入ってる。
マサ わ。すごいごちそうじゃん。絶対今ここで食べる。面倒くさくて朝食食
   ってこなかったから腹減ってんだよ。
トモ 分かったわよ。じゃ今食べましょ。(リュックサックの中からかわいいお
   弁当を次から次へとテーブルに出す)
マサ うわ〜。 
トモ ま、正直言って、僕歩くのそんなに好きじゃないから、よかったとも言
   えるわ。
マサ わ、このお稲荷さん、うまい!
トモ そんな慌てて食べなくてもお弁当は逃げないわよ。
マサ みそ汁あるんだよね。
トモ はいはい。ね。今日はどういうわけでハイキングなんて思いついたの?
   (みそ汁を注ぎながら)
マサ メールにも書いただろ。トモには今気分転換が必要なんじゃないかなっ
   て思ったわけ。
トモ それがハイキングなの? 
マサ 別に深い意味はないさ。俺は気分転換によくハイキングに行くんだよ。
トモ 僕には大プロジェクトだったわよ。
マサ 考えたんだけどさ。何かこの部屋で話すといつもケンカになっちゃうか
   ら、広々とした場所で話せば、少しは落ち着いて話せるかもしれないっ
   て思ったんだよ。
トモ へ〜。話って何よ。
マサ いやぁ、この前の話だよ。お前が俺と付き合いたいって言い出しただろ。
トモ ああ、あれね。ホントにごめんなさいね。僕どうかしてたのよ。あんな
   こと唐突に言われて面食らっちゃったでしょ。いいの。あれ忘れて。ホ
   ント僕どうかしてたの。
マサ あれから俺いろいろ考えたんだよ。でさ。付き合うってのがどういうこ
   とかはよく分からないんだけど、俺たち、ある意味ではさ、長年連れ添
   った夫婦みたいに気心がしれてるわけじゃないか。だから、そんなのも
   ありなのかなって…
トモ ね、ホントにもういいの。その話はやめましょ。あの時、あなたが何も
   答えずに帰ったことで、あなたの気持ちはよく分かったんだから。そん
   な風に無理してくれなくていいのよ。実はね、この前…
マサ だから、俺の気持ちはね…
トモ ね、ちょっと最後まで聞いて。この前、あなたが帰る前に、ヒトシ君に
   正直に言ってみなって言ってくれたでしょ。僕ね、ヒトシ君に思い切っ
   て全部話してみたの。Hのことや、あなたのこと。それに、いつも気が
   引けてることなんか洗いざらい話したの。そしたらヒトシ君みんな受け
   入れてくれたのよ。それどころかヒトシ君も今まで言わなかった本当の
   気持ちを話してくれたの。小さい頃の話とか、家族のこととか、2丁目
   でどんな風に過ごしてきたかとか。あの子ったら十五歳にはもう2丁目
   デビューしてたんですって。一年くらいバーで働いていたこともあるっ
   て言ってたわ。僕より経験豊富なのよ。ま、細かい話ははぶくけど、い
   ろんなことを経験してきて、ちゃんと気持ちの通じる人と付き合いたい
   って思うようになってきたんですって。僕が正直に話したことがすごく   
   嬉しいって言ってくれて、これからもそうやって何でも話して欲しいっ
   て言ってくれたの。ヒトシ君だって僕と付き合っていくのに色々不安は
   あるってことも話してくれたし、そうやってあれこれ話していたら、自
   分だけが問題抱えているわけじゃないって思えてきてね。なんだ、お互
   い様なんだって気がついたのよ。
マサ この出汁巻き卵うまいね。
トモ 当たり前でしょ。出汁だってちゃんと鰹節からとったんだから。
マサ あ、ゴメン、ちゃんと聞いてるよ。
トモ ま、こんな風にくだくだ話してても退屈でしょうからもうやめるけど、
   お互い正直に話したお陰で、ヒトシ君は前よりずっといい感じになれた
   って言ってくれてね、これからもちゃんと付き合って行こうねってこと
   になったのよ。
マサ 万事めでたし、めでたしじゃないか。
トモ あなたのお陰よ。
マサ 気分転換なんていらなかったね。俺、単なるお人好しって感じだね。
トモ 何言ってるのよ。僕、すごく嬉しかったんだから。あなたが僕のこと気
   にかけてくれたってことが。
マサ ね、このリンゴもうまいね。
トモ シナモンを強めに利かしてみたの。やっぱり紅茶が合うわね。ちょっと
   煎れてくるわ。
マサ あ、いいよ。このお茶で。
トモ だめ、だめ。相性って大事なんだから。

       トモ台所に消える。マサ、ちょっと考え込む。

マサ 相性か…。
 
      ふと立ち上がって、さっき動かしたぬいぐるみを元に戻す。(自分
      があげたぬいぐるみは隅に置く)

マサ お前はやっぱりここがお似合いだよ。

      椅子に戻って座る。トモ紅茶を持って戻ってくる。

トモ はい、紅茶。何がお似合いなの?
マサ いやぁ、お前の今日の格好がさ。
トモ なによ、今更。駅でこの格好見るなり、目をひんむいて、今すぐ着替え
   に帰ろうとか言って歩きだすんだから。これだって借りるの大変だった
   んだから。原宿の店の店長が登山するって聞いたから、拝み倒して一揃
   い貸して貰ったのよ。借りる日には紅茶のシフォンケーキ焼いて持って
   ったんだから。

      セリフを遮って、マサの携帯がなる。

マサ あれ、妹だ。もしもし。うん、俺。(間)えっ! 倒れた? うん。うん。。
   んでお袋の容態は? うん。うん。救急車で。うん。わかった。女子医
   大ね。とにかくすぐ行く。今、参宮橋の友達んとこだから、タクシー飛
   ばしていけば三十分もかかんないと思う。じゃ、女子医大で。(電話を切
   る。トモに向かって)お袋が倒れちゃった。俺、すぐ行かなくちゃ。
トモ どんな状態なの? 
マサ 命がどうこうっていう状態ではないみたい。でも倒れたの今度で2度目
   だから、あんまり安心はできない。
トモ 心臓がお悪かったんだっけ? 
マサ うん。食い逃げで悪いけど、俺、行くわ。
トモ なに言ってんのよ。急いで行ってあげて。
マサ ハイキング行ってなくてよかったよ。
トモ ケガの巧妙よ。
マサ そんなところだね。んじゃ。(そそくさと出ていく。トモ追いかけながら)
トモ 後で様子知らせてね。
マサ うん。

      ふたり消える。ドアの音。トモ戻ってくる。椅子に座って、お弁
      当を片づけ始める。トモの携帯がなる。

トモ あら、ヒトシ君だ。はい、もしもし。(間)それが中止になっちゃったの
   よ。マサカズさんのお母さんが救急車で運ばれたっていうんで、すぐに
   飛んでったの。(間)うん、そんなに深刻な様子ではなかったから大丈夫
   だと思うけど。(間)バカね。何心配してんのよ。マサカズさんのことは
   ちゃんと整理がついたって言ったでしょ。僕はヒトシ君とちゃんとやっ
   てくことにしたって決めたんだから。(間)うんOK、じゃ今から会おう。
   いつものスタバね。ちょっと着替えるから一時間後でいい? (間)そ
   れじゃ。

      電話を切る。

      暗転




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