「違う太鼓」上演台本 1幕8場

    2003年11月18日〜11月23日  新宿タイニィアリスにて公演


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第3場   二月十日


      薄暗いトモの部屋 誰もいない。下手袖より「うう、寒い!」と  
      マサの声。これをキッカケで明かりが点く。

      マサ寒さに身震いしながら登場。腕時計を見ながらちょっと苛つ
      いた感じ。

マサ ったくもう! 遅刻も三十分以内にしてほしいよなぁ、もう! 

      とソファに座る。何かが腰の下にありビックリして飛び上がる。
      よく見ると見たことのないぬいぐるみ。辺りを見渡すといくつも
      のぬいぐるみが置いてある。それを触りながら部屋を歩いている
      うちに、パソコンの側にあるプリントをみつけ、なんとなく読み
      出す。ニヤニヤし始め、そのうち大笑いする。と、そこへ下手袖
      からトモの声

トモ あらぁ、マサ? 居るの

      マサ、大慌てでプリントを戻し、ソファに何事もなかったように
      座り直して、トモの方を睨む。

      トモ登場。息が切れている。

トモ ごめんなさいねぇ。打ち合わせがどんどん長引いちゃって。どうしても
   途中じゃ抜けられなかったのよ。でもあーた、どうやって入れたの? 鍵
   開いてた?(コートとか脱いだりして部屋を動き回る)
マサ いい加減にしてくれよ。約束の時間には絶対家に帰ってるから、家に来
   てって言ったの、お前だろ。こんな寒い日に外で三十分も待たされたら
   凍えちまうよ。
トモ だからぁ、抜け出せなかったのよ。それに携帯に電話しても、あーた出
   ないし。
マサ だって携帯、会社に忘れてきちゃったんだもん。
トモ もう! 結局どっか抜けてるんだから。ねぇ、鍵は開いてたの?
マサ 年はとりたくないね。お前、物忘れ激しいんじゃないの。お前が脳梗塞  
   で倒れた後で、何が起こるか分かんないから鍵持っててって預けたんだ
   ろ。だから俺、待ちくたびれたから鍵開けて入ってたの!
トモ あら、そうだったっけ。ああ、そうだったわよね。ドアの鍵開いてたか
   ら、てっきり空き巣にやられたのかと思っちゃった。ま、取られるもの
   なんてないから別に構わないけどね。
マサ 取られるものないかもしんないけど、見られちゃ困るものとかあるんじ
   ゃないの〜。え〜。(とテーブルの上のプリントを指す)

      トモ、テーブルの上のプリントに気づき、慌てて取り上げる。

トモ あんた、これ勝手に読んだのね! 何よ、人のメール勝手に読まないで
   よ。もう最低! 
マサ メールなんて知らなかったんだよ。まさかメールいちいちプリントする
   奴がいるとは思わないもん。なんとなく見ただけで読んでなんかいやし
   ないよ。お前のお稚児さんに興味なんてさらさらないからね。
トモ お稚児さんなんて言わないでよ。いやらしい。あの子、思ったよりずっ
   といい感じなのよ。毎日毎日メールくれるしね。
マサ へ〜、それで嬉しくて、プリントアウトしてとっといてるんだ。お熱い
   ことで。
トモ 違うの! 僕なんかメールってダメなのよ。パソコンの画面で読んでて
   もなんか感じがでないの。やっぱり紙の上に文字がないと読んだ気がし
   ないわけよ。だからメール来るたびにプリントして読んでるだけ。
マサ お前、それでよくパソコン使えるよねぇ。
トモ いいでしょう! 自分なりに使えれば。
マサ そういや、お前ってカーナビにもいちいち「は〜い」とか返事するもん
   ね。
トモ 当たり前でしょ。物教えてもらって無視する方がおかしいわよ。
マサ 変な理屈。 お前の若い子、毎日メールよこすんだ?
トモ ヒトシ君っていうの! そうよ。毎日よ。あーたが、どうせすぐにヒト
   シ君が勘違いに気付いて、僕が泣きを見るなんて言うから覚悟してたん
   だけど、あの子すっごくマジメに付き合ってくれてるのよ。ホッホッホ
   〜だ。
マサ ふ〜ん、そんな奴がいるんだね、この世に。よかったじゃん。おめでと
   さん。
トモ 僕、思い切ってヒトシ君にメール出してみてホントによかったわ。世の
   中に僕みたいなタイプをいいって言ってくれる人に会えたんだもの。や
   っぱり人間、ポジティブに生きなきゃね。
マサ ふ〜ん、それで、今度はバックに入れてもらうことにもポジティブにな
   るんだ。
トモ な、なによ。メールやっぱり読んでるんじゃないよ!
マサ 「今度エッチする時はトモさんのバック入れたいな。」てか。ヘヘヘ。
トモ もう〜〜〜〜〜!! (立ち上がってテーブルの回りをながら、マサを
   追いかける)
マサ (逃げながら)わかった、わかった。もう怒るなよぉ。元はと言えば、
   お前が遅刻したからこうなったんだろうが。悪かったよ。落ち着けよ。
   ほら。
トモ (ぬいぐるみを抱いたまま、急に脱力して)もうからかうのはやめてよ! 
   このことではこっちはすごく神経質になってるんだから。だいたい僕エ
   ッチとか得意じゃないからホントにどうしていいかわかんないのよ。
マサ なにがどうしていいかわかんないだよ。そんなの普通にやりゃいいこと
   だろう?
トモ あなたにとって普通でも、僕には普通じゃないの! あんなに若い子と
   だと裸になるんだって気後れしちゃうんだから。鼻つままれても分かん
   ないくらいに暗くしてやってんのよ。だからエッチとかしないで済むん
   なら、ない方がいいくらいよ。
マサ んなら、やんなきゃいいじゃん。
トモ 相手はすっごく若いのよ! やりたい盛りじゃないよ。頑張らなきゃ付
   き合ってもらえなくなっちゃうかもしれないでしょ。もうホント疲れち
   ゃう。
マサ じゃ、お前タチやってんの?
トモ なんだかこっちが年上だからリードしなくちゃと思ってそれなりには頑
   張ってはきたんだけど、向こうとしては物足りなくなってきたんじゃな
   いの? だから今度は俺がタチをしたいって言ったんだと思うの。
マサ ありがたいこっちゃないの。お前ねぇ、年取ったら相手がタチやってく
   れるっていうんだったら感謝しなくちゃ。そのヒトシってのがさ、完全
   ウケだったら、とっくにお前たち終わってるよ。
トモ なんだか嫌な言い方ね。
マサ だから〜、お前がちゃんとバックでウケできればまだ可能性があるって
   いうこと。
トモ エッチの問題だけじゃないのよ。なんかいつも気が引けてるの。ホント
   はこんな年寄りじゃない方がいいんじゃないかとか、こんなおばさんじ
   ゃない方がいいんじゃないかとかね。
マサ だってそいつ、フケ専なんだろ? 年寄りだからいいんだよ。でもおば
   さんがいいってのはわかんないけどね。やっぱりババァ専っているんだ
   ねぇ。
トモ からかわないでって言ったでしょ!(ぶつ真似)
マサ やめろよ。お前、ぶつ時は男の力だからホント痛いんだよ。
トモ デートしてても、なんか周りの目を気にしちゃうし。そのうち、誰かの
   他の人の方に向いてしまうんじゃないかとか、そんなことばっかり考え
   ちゃうのよね。
マサ おうおう、涙がでるね〜。
トモ でもね。ホントにいい子なの、ヒトシ君。だからできるだけは頑張りた
   いと思ってるのよ。
マサ なんか、お前そんなに自信のないやつだったっけ? 大丈夫だよ。ヒト
   シ君はそんなお前でもいいと思うから付き合ってんだろ? 俺も応援す
   るからさ、頑張んなよ。
トモ え! 応援してくれる? 
マサ でも俺、付き合いってしたことないからなぁ。せいぜいセックスに関し
   てだったら教えられることあるかもしれないけど。
トモ ホント? マサが応援してくれるんだったら、雨が降ろうと、ヤリが降
   ろうと…
マサ コーヒーフロート。
トモ 親父くさ〜〜。
マサ 悪かったな〜。俺もう帰るよ。
トモ やだ、怒ったの。人にはさんざんなこと言って、ちょっと人から言われ
   るとすぐ怒るんだから。
マサ 違うよ。今日はちょっとお前に渡すものがあったから会おうと思っただ
   けで、すぐ帰るつもりだったんだよ。
トモ 何? 渡すものって。
マサ (コートの内ポケットから封筒を取り出しながら)ほら、これ。
トモ 何? 今月のお手当? 
マサ おケツに手を当て?
トモ バカじゃないの!(と中身を見る)あら、ジュエリーコンテストの募集
   要項と申し込み書じゃない。
マサ インターネットで調べたら、その日本ジュエリー協会ってうちの取引先
   のすぐ側でさ、今日その取引先に行ったついでに貰ってきといたんだ。
   出すつもりなんだろ? しっかりやれよ。
トモ (驚きながら)ありがとう…。
マサ (立ち上がって帰る支度をする)ねぇ、ぬいぐるみこんなにあったっけ? 
トモ ヒトシ君が会う度にくれるのよ。食事とか奢ってあげてるからお礼のつ
   もりなんだろうけど。なんか義理堅いとこあるのよ。
マサ その堅いとこが好きなんだ? 
トモ 何言ってんのよ。
マサ だから若くて堅いとこが好きなんだろって言ってんの!。
トモ バカじゃないの!。
マサ (下手に向かいながら)今度エッチする時はトモさんのバックに入れた
   いな。
トモ もう! 

      暗転

      



      電話の声 (暗転中に流れる)


トモ あ、もしもし。トモです。昨日はどうも。
マサ ああ、バック狙われてるトモさんっすか? 
トモ もう、いい加減にして!
マサ 新しい世界への旅立ちを祝福してるだけだよ。
トモ あーた、心底意地悪いわね。
マサ お褒めにあずかり光栄です。
トモ まったく、あーたって人は。ところで昨日は募集要項ありがとうね。な
   んかすごく嬉しかったわ。
マサ 別に、ついでだから、ただ貰ってきただけだよ。
トモ あれからちょっとアイデア考えてたら、次々に浮かんで来ちゃってさ。
   なんか自分としては行けそうな感じがしてきたの。スケッチも何枚か描
   いてみたんだけど、けっこういい感じよ。お陰で、今日はちょっと寝不
   足なんだけどね。いつも作ってるのがお子さま向けのかわいいものばっ
   かりだったから、もっと大人の女に着けてもらえるようなネックレスと
   リングの組み合わせがいいかなって思ってね。色味はあんまり派手にし
   ないで、プラチナにちょっと緑がかったトルマリンを散らして少しアー
   ルデコっぽいデザインしようと思ってるの。もしもし、聞いてる?
マサ うん聞いてるよ。
トモ ま、こんな話興味ないわよね。ゴメンね。
マサ 俺そういう話、聞いてもよくわかんないからさ。
トモ そうよね。ところでヒトシ君とのことで相談があるのよ。
マサ また〜? 俺、会ったりしないよ。
トモ そうじゃなくてエッチのこと。
マサ だから〜、入れてもらや〜いいじゃん。
トモ それにも関係あるのよ。電話じゃなんだから夜でも時間空いてる時にち
   ょっとうちに来てよ。クリームコロッケごちそうするからさ。
マサ 餌で釣りゃ何でも通ると思ってるんだから!
トモ お願い! 恩に着るから。
マサ わかったよ。じゃ今度電話する。
トモ うん、待ってる。それじゃね。      



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