安部公房のデンドロカカリアに関するエッセイ
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デンドロカカリアに関するレポート
  
 安部公房「デンドロカカリア」でコモン君が変身した「菊のような葉をつけた,
あまり見栄えのしない樹」とは,どんな植物なのか調べた。

 デンドロカカリア(Dendrocacalia)はワダンノキの学名(ラテン語)である。
菊は草本が普通であるがワダンノキは木本であり,高さ3~5m,幹の直径が30
cm近い樹木になる。小笠原固有種で母島列島のみに分布している。
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 植物進化の順序は草本から木本である。ところが,この植物は逆方向に進化し ているように見える。これは,進化か,退化か,先祖返りと呼ぶべきか。  生態学の千葉聡(東北大教授)は,「立派な木なので一見キクには見えない。 しかし葉をよく見るとクチクラの発達も悪く,確かにキクの特徴を持っていて, 非常に違和感がある。奇妙な植物である。」と書いている。  木になりかけの菊,つまり,変身途上の生物という印象を受ける。コモン君が 変身するには,ちょうど良い植物ではないかと思えてくる。  この植物自体もめずらしく,興味深いが,その学名の語源がまた面白い。  Dendro はギリシャ語の dendron で「木」という意味。  (ちなみにランの Dendrobium は dendron+ bion「生活する」で,木の   上で生活するもの,つまり樹木に着生していることをあらわす。) Cacaliaは、ギリシャ語の kakos「悪い」+lian「とても」が語源である。 だから,DendroCacalia は「とても悪い木」となる。  植物への変形は地獄の罰であるから「とても悪い木」はやはり,ぴったりの隠 喩ということになる。 *********************************************************************** ワダンノキ (小笠原固有種で母島列島のみに分布,花の咲く時期は10月~12月) 分類:キク科 ワダンノキ属 学名:Dendrocacalia crepidifolia「デンドロカカリア クレビディフォリア」 別名:ニガナノキ ***********************************************************************  『デンドロカカリア』は雑誌『表現』(1949年)に初出,1952に改稿され, 現在『新潮文庫』で読める。
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