「VOW同人誌」連載エッセイ


人間・この彷徨の旅路

小谷 良子


(1)地球国への入場切符・フランス語

 もう八年になるのか、まだ八年なのかは、何をターゲットにするかによって変わってくるが、ともかくフランスに関わって八年である。

 私の心に愛を囁く音楽のように聞こえたフランス語への憧れが芽生えたのは、青春真っただ中の頃であったが、あくまでも憧れだけで身近なものとして捕えることはなかった。

それどころか、私は外国音痴だったような気がする。
なぜか解らないけれど、外国人は皆同じ顔に思えて区別がつかなかった。
外国の映画をみても全くストーリーが掴めなかった。
名前さえも覚えられなかったので私の頭の中では登場人物はいつも一人になってしまった。

 そんな私が少しずつ脱皮したのは、歴史や地理を始めとする学校の教材を娘と共に学習したことによる。
それ以前は受験勉強としてしか捉えていなかった歴史とか地理などを、いろいろな経験、年齢の積み重ねや社会への関わり方の変化等によって、人間の生活そのものとして捉えられるようになったのかもしれない。

「色々な所に色々な人がいて色々な生活がある。
短い一生に、しかも、一度の人生しか味わえないなんてちょっと寂しい。
多くの人を通してその人の文化に触れ、視野を拡げ、より多くの人生を、生活を考えてみたい!」
単なるオバタリアンの好奇心だったかもしれないが、そのために必要なコミュニケーションの手段として、まずフランス語への挑戦を始めた。

青春時代に夢見たユートピアは現実の生活の中で悉く壊れていったが、フランス語の響きだけはその美しさを失うことなく私の心で鳴り続けていたようである。



 この八年で随分遠くへ来てしまったような気がする。
ここには大勢の仲間がいて、皆、頑張って生きている。
悲しいことがあっても、辛いことがあっても楽しく生きている。
お互いを尊重し、お互いに信頼しあって自分自身の生活をしている。
各々に重荷を背負ってはいるがこれは仕方がない。
重荷を背負っているのが人間なんだから。

重いから代わってちょうだいと叫んでも代わってもらえるものではなし、代わってあげたくても代われない。

しかし、ここには暖かく手を差し伸べてくれる仲間がいる。

やっとたどり着いたこの地は人生のほんの入り口なのかもしれないが私はこよなく愛している。
話しが抽象的になってしまったが、実際に旅を続けているのでもなく、引っ越ししたわけでもなく、相変わらず金剛山の麓に住み続けている私であるが、心だけは狭い日本から飛び出して、広い地球に住むようになったのである。

「我ら地球人」として。

フランス語が思わぬ展開をもたらし、日本人も含めて多くの国の人々と出会った。
その出会いが
「今、我々は何をなすべきであり、自分には何ができるのか。」
「自分は何をしたいのか。」
と考える機会を与えてくれた。

                                                         つづく



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