トパーズ ★☆☆
(Topaz)

1969 US
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:フレデリック・スタフォード、ダニー・ロバン、ジョン・フォーサイス、ミシェル・ピッコリ

左:ダニー・ロバン、右:フレデリック・スタフォード

」(1963)製作後のヒッチコックは、映画に対する独自のタッチをロストしてしまったのではないかとよく言われる通り、「トパーズ」には、それまでのヒッチコック作品とは全く異なる印象を受けざるを得ません。そもそも、それまでのヒッチコック作品においては、たとえばジェームズ・スチュワートやケーリー・グラントのようなオーディエンスに馴染みのあるビッグ・スターが起用されることが多く、作品の質が急降下する「鳥」以後ですら、「マーニー」(1964)ではショーン・コネリー、「引き裂かれたカーテン」(1966)ではポール・ニューマン、ジュリー・アンドリュースというトップスターが起用されていました。ところが、「トパーズ」になると、英語圏のオーディエンスにはほとんど馴染みのない俳優さんばかりが起用されています。確かに、たとえば「サイコ」(1960)のアンソニー・パーキンスやジャネット・リー、或いは「鳥」のロッド・テイラーやティッピー・ヘドレンはスーパースターであったとは言えませんが、それでも英語圏のオーディエンスには馴染みの顔であったことには間違いがないはずです。対する「トパーズ」の出演者は、ほとんどがヨーロッパ出身者であり、ミシェル・ピッコリやフィリップ・ノワレがいくら名優であったとしても、少なくとも60年代当時における英語圏オーディエンスに対する親近度という点では、相当に低かったと言わざるを得ないでしょう。そもそも、ルイ・ジュールダンに似た雰囲気を持つ主演のフレデリック・スタフォードが何者であるかすら良く分からず、名前こそ確かに英語名とはいえ、IMDBで調べても出演作はほとんどフランス映画かイタリア映画のようであり、「トパーズ」以外ポピュラーな作品には全く出演していないようです。「トパーズ」の後も、「フレンジー」(1972)、「ファミリー・プロット」(1975)と、オーディエンスに馴染みのビッグ・スターを起用しない傾向は続き、まさかヒッチが監督をしていてはビッグ・スターが最早集まらなくなったということは有り得ないはずなので、意識的か否かは別としてヒッチコック自身の映画に対する見方や姿勢が大きく変わってしまった結果の1つであろうと考えるのが妥当なところでしょう。「トパーズ」の題材は、前作「引き裂かれたカーテン」(1966)同様、東西冷戦下におけるスパイ戦争ですが、それまでのヒッチコックのミステリースリラーとは全く異なり、ストーリーが常に外面的な出来事に依拠し、全体的にアクション映画的にプロットが展開されている印象を受け、その意味でもあまりヒッチコックらしくはないように見えます。個人的にこれまでに見たヒッチコック作品の中では、最もヒッチコックらしくないヒッチコック作品が「トパーズ」であると評せます。従って、ヒッチコック作品として見るとどうしても不満が残るのが正直なところですが、或る意味でこれはヒッチコックの偉大さを逆方向から照射しているとも見なせます。なぜならば、「トパーズ」は並みの監督の作品であれば、必ずやその監督の代表作になってもおかしくはないレベルの作品であり、ヒッチコック作品であることを忘れて単純にスパイ映画として見ていればそれなりに面白い作品だからです。但し、ラストはやや尻切れトンボの印象があり、事実DVDバージョンの特典によれば、ヒッチコックは「トパーズ」のエンディングとして3種類のシーケンスを用意していたようであり、どうやって作品を終らせるかに悩んだ形跡があります。ということで、いつものヒッチコック作品を期待する向きにはお薦めではありませんが、東西冷戦という当時の時代背景を題材としたスパイ映画として見れば、それなりに楽しめる作品であることは確かです。


2004/07/24 by 雷小僧
(2008/11/11 revised by Hiroshi Iruma)
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