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 映画 日記              池田 博明 


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2009年12月1日以降に見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品        感    想     (池田博明)
2010年1月15日


DVD
ギャング



1966年
150分
 USAからメルヴィル監督の『ギャング』のDVDが届いた。リジョン1だが、パソコンで再生可能。原題は『息を吹き返せ』。短縮版をテレビで35年前に見て以来初めて見る完全版である。
 主演はリノ・ヴァンチュラ。高校生時代は部活動で忙しく、まったく映画を見ていなかった私は『ラムの大通り』で彼を初めて知って、『冒険者たち』で惚れて、『影の軍隊』と『ギャング』で忘れられない男優である。戦前派がジャン・ギャバンに憧れるように、戦後派ならリノ・ヴァンチュラだろう。ジャン=ポール・ベルモンドや、アラン・ドロンも悪くないが・・・・。
 三人の男が刑務所の高い塀に飛び移り、脱獄する。二番目に跳んだ若者は勢いがつき過ぎて向こう側へ6m落下してしまい、死ぬ。その死体の傍を通りぬけて二人は森林を走り抜け、列車へ飛び乗って逃げる。ギュことギュスターヴ・マダン(リノ・ヴァンチュラ)はもう46歳、走る列車にも仲間の手を借りてやっと乗り移ることの出来るほどの中年だ。
 パリでレストランを経営するギュのなじみの女、マヌーシュ(クリスティーヌ・ファブレガ)の店では、客の公証人ジャック(レイモン・ロワイエ)が射殺される事件が起きていた。店のバーテン、アルバン(ミッシェル・コンスタンタン)が撃った弾も一味のひとりに当っていた。パリ警察の警部ブロ(ポール・ムーリッス)が捜査に乗り出した。
 ジャック射殺事件の主犯はマルセイユ暗黒街の顔役ポール・リッチ(レイモン・ペルグラン)。その兄ジョー・リッチ(マルセル・ボズフィ)が、マヌーシュの家に手下ふたりを差し向けるが、ちょうど来合わせたギュに捕われ、始末される。アルバンはギュを匿い、マヌーシュを逃す。
 一方、五百キロのプラチナ強奪計画を進めるポールは、腕利きの仲間を探していた。一匹狼のオルロフ(ピエール・ジンメル)が選ばれ、アントワーヌ(ドニ・マニュエル)やパスカル(ピエール・グラッセ)に紹介される。オルロフはギュをポールに紹介する。ギュには昔の仲間のテオが話を持ちかける。ギュ「あんたは関心がないのか」、テオ「リスクが大きくてな、俺は年を取り過ぎた」。決行日は12月28日だった。岩山の道の途中で輸送車を待ち伏せするポールやギュ。ポールは足元のアリを見つめている。ギュは掌の汗を拭いている。前後にオートバイの警官を護衛につけて輸送車がやって来た。アントワーヌが前の警官をライフルで狙撃、ギュが後の警官をコルトで車から撃つ。運転手や目撃者を小屋に監禁し、プラチナ強奪は成功、ギュは二億フラン分のプラチナを手にする。
 メルヴィル「仕事中のギュを見てから、アントワーヌの心はすっかりギュにとらえられ、どこへでもついていこうという気になったのさ。あのシーンは、いわば中世の職人ふたりが行なった腕前の証明だよ。ふたりはやるべきことをやった。だが、アントワーヌは、プロの殺し屋だが頭がよくない。ギュが裏切ったと言われると、それを信じるんだ。アントワーヌはビートニック世代なのさ。たぶん、ややヌーヴェル・ヴァーグ的なやくざなのかもしれないが、ああいう奴はいつの時代にも存在した。それに加えて、私は彼に少々変わった性格も与えた。自分をジプシーだと言わせ、オートバイ隊員を狙撃する前に十字を切らせたんだ」
 警察が事件を捜査し、ブロ警部は警官を撃った銃弾を調査させる。コルト45はマヌーシュの拳銃と同じで、昔ギュが犯した犯罪で使用されたのと同じ型だ。
 新聞にギュの名前は出ていなかったが、ブロ警部はマルセイユへ飛び、やくざに扮した部下を使って、ギュの口からポールの名前を聞き出す。そのため、ギュもポールも逮捕され、ポールはマルセイユ署のファルディアノ警部に拷問される。
 メルヴィル「戦争中、異様な振る舞いをしたというのに、まだ存命で、今は重要な地位についている多くの人々が絡んでいるのさ。『ギャング』で、ポールがファルディアノ警部に「こん畜生、ゲシュタポで仕事を覚えたな・・・・」と言うのには、それなりの訳があるんだよ」
 オルロフは部屋の棚の上に拳銃を置く。すぐに取れるように準備し、取る練習をする。彼の留守中にアントワーヌが来て、隠しておいた拳銃を見つける。オルロフが部屋に帰宅すると、ジョーらが待つ。事件の成り行きを推理する仲間たち。オルロフは裏切った奴は許さないというが、確信が持ててからの話だと言う。彼が隠した銃は既に棚上には無い。しかし、オルロフは別の拳銃を隠し持っていた。話が決裂しそうになると、一瞬早く拳銃を構え、用心棒の拳銃を没収してしまう。驚くほどの用心深さであった。
 暴れて怪我をしたため病院に入れられたギュは病室から脱走する。マヌーシュの廃屋で手当てをしてもらって、裏切り者の汚名をそそぐために、出かける。
 車に潜んで拉致したファルディアノ警部に手帳を渡し、ギュを罠にはめたことを書かせる。書き終わった警部を後ろに乗せ、真相を聞かせた後、警部を射殺する。
 マヌーシュのところへ帰宅するとオルロフが来ていた。再会を喜ぶ二人。いったんはオルロフに手帳を任せようとしたギュだったが、彼を巻き込むまいと殴って昏倒させ、手帳を自分で持って、部屋を出る。出る直前、ギュはマヌーシュに最後の言葉を言いたそうに一瞬逡巡する。マヌーシュがギュを見つめる。何も言わずに出て行くギュ。
 ジョー、アントワーヌ、パスカルがいるアパートの一室。ギュは、拳銃を二挺構えて彼らを脅す。ギュは自分の無実を話し、ポールを見捨てた彼らの行為を非難する。「俺の言うことはそれだけだ」。ジョーに「手を頭の上に上げろ。後ろを向け。ポールはギロチン行きだぞ」、そして背中からジョーを撃つ。その瞬間、アントワーヌに撃たれるギュ、撃ち返したギュの銃弾で二人は死ぬ。傷ついたギュは部屋の外へ這い出すが、既に住民が通報、野次馬が集まる中、警察が駆けつけてきた。ギュは警官をわざと狙撃し、撃ち殺される。抱き起こしたブロ警部にギュは「・・・・・マヌーシュ」と言葉を遺す。
 外へ出るとマヌーシュがいた。警部はマヌーシュをロープの中へ入れ、「最期にマヌーシュと言った」と告げる。マヌーシュ「他には何か」、警部「なにも。パリへ戻りなさい」。
 記者が警部を取り囲む。警部は「ギュがジョーら三人を殺し、自殺した」と説明し、わざと記者の足元にギュの手帳を落す。警部「(記者に)きみ、なにか落としたぞ」、記者「私のものだと思うんですか」、警部「確かだ」。ひとりで煙草を1本取り、やや折れたタバコをくわえるが、やめる警部。

     映画川柳「躊躇なく 人を殺せる 男伊達」 飛蜘

【参考書】古山敏幸『映画伝説 ジャン=ピエール・メルヴィル』(フィルムアート社、2009)
 ルイ・ノゲイラ『サムライ』(晶文社、2003) 
 DVDの特典の「ARTS et SPECTACLES」で、『ギャング』撮影中のメルヴィルやヴァンチュラ、ムーリッスにインタビューした映像が収録されている。
 メルヴィルいわく、“探偵映画だよ、間違いなく。それはマイナーなジャンルだがね。実録でもある。難しいのは、12も役柄があるということだな。特にメインの4人が難しい”
 リノ・ヴァンチュラいわく、“監督が言った通りだ。ギュが監督にとっても俳優にとっても難しい役柄なのは、ふつうのカテゴリーに入らない、演じたことのないキャラクターなんだ。典型的なギャングスターではなくて、心理的にも精神的にもくたびれている、複雑な役なんだよ”
 ムーリッスいわく、“自分の役は要するに警官だよ。監督の言うとおりやるだけさ”
 また、『メルヴィル;パリのアメリカ人』の著者ジネット・ヴィンセンドーと英国映画研究所のゲオフ・アンドリューの詳しいオーディオ・コメンタリー(英語)が収録されている。
2010年1月14日


川崎市アートセンター
アルテリオ映像館
チチカット・フォーリーズ


USA
1967年
84分
 『パリ・オペラ座のすべて』だけを見るつもりだったのですが、映画のパンフレットを読んでみたら、ワイズマン監督のドキュメンタリーに興味が出て、本日『パリ・オペラ座のすべて』に続いて上映された『チチカット・フォーリーズ』も見たくなりました。40名くらいの観客がいました。観客には若い人が多い。
 白黒のドキュメンタリーで、精神異常犯罪者のための刑務所、マサチューセッツ矯正院施設の内部にカメラを持ちこんで撮影しています。
 この矯正院の入所者は男性だけ。全裸にされてボディ・チェックされ、番号が付けられます。いちど医師から精神異常の烙印を押されてしまうと、なかなか出所することは困難です。患者の訴えを医師はまともに取り上げません。イーストウッド監督『チェンジリング』のようです。
 性犯罪も異常のひとつで、実の娘や11歳の少女をレイプした男性が質問に答えています。妄想で演説しつづけている男もいます。マスターベーションも悪徳ですが、広場で手淫している黒人男性が映されています。
 看守たちは入所者に同じ質問をくり返したり、無理に怒らせたりします。
 冒頭と終りに出て来る入所たちの芸能大会「チチカット・フォーリーズ」で、司会を務めている男性は、職員かと思ったら、映画のなかで、偏執狂の患者だと説明されていました。
 夕食を食べない入所者には鼻からチューブを突っ込んで胃の中に流動食を流しこみます。この映画のブログの評のなかには、流動食を流し込まれた患者が結局死んでしまうと書いているものが多いのですが、よく見ると死ぬ患者とチューブを流し込まれる患者はまったく別人です。ただ二人の映像が交互に出て来るので、勘違いしてしまうのです。死んでしまうほうの老齢の患者さんは、死にそうなときにベッドで牧師からお祈りを捧げられています。アメリカ人だったら、死に際のお祈りの言葉がありますから、鼻からチューブを入れられた人と混同する心配はないのだと思いますが。
 ワイズマン監督は、いっさいのコメントを付け加えずに、ありのままを撮影していく手法を取っています。映し出された男たちの映像は、看守にしろ入所者にしろ、まるでアルドリッチの映画の、たとえば『特攻大作戦』を連想させます。アルドリッチのカメラ・ポジションが、ドキュメンタリストのようだということになります。
 本作品はマサチューセッツ州では公開が禁止され、12年後に「矯正院では改善がなされた」という字幕を付すことによって公開が許された、看守や職員たちは自分たちのしていることが人権無視に当るなどとは思っておらず、撮影には好意的だったといいます。ワイズマンは人類学者のようなフィールドワーカーだと言えましょう。
 入所者はカメラマンを意識して、ときにはイラだっていること、おびえていること、憎んでいることが、ときには撮られるのが嬉しいことが、はっきり分ります。本作品をカメラが看守の側に立っていて、囚人の側に立っていないことを批判する評もありましたが、劇映画ではないんですから、このような施設で、囚人の側に立つことによる撮影など不可能です。むしろカメラマンが看守側に立っていることが分ることこそが、重要です。

       映画川柳 「唇を 傷つけられても “ありがとう”」 飛蜘
2010年1月14日


川崎市アートセンター
アルテリオ映像館
パリ・オペラ座のすべて


仏+米
ショウゲート
2009年
160分

 『ポー川のひかり』を見に行って、すっかり劇場のファンになってしまった川崎市民アートセンターに再び出かけました。
 フレデリック・ワイズマン監督のドキュメンタリー。オペラ座といってもオペラではなく、バレエの練習やリハーサル中心のドキュメンタリーです。単にダンサーだけではなく、芸術監督のブリジット・ルフェーブルの主張や、裏方スタッフの仕事ぶりまで紹介されます。観客は30名くらいで、けっこうお年をめした方もたくさん見かけました。
 映画のパンフレットはかなり充実したものでした。高校時代の弟の友人、佐藤友紀さんがインタビュー記事を書いています。
 バレエ・ダンサーの身体能力には唖然とさせられます。とにかくスゴイ!
 コンテンポラリー(現代的)な作品、『ベルナルダの家』や『メディアの夢』などの演出に驚きました。ビナ・バウシュの『オルフェウスとエウリディーチェ』(グルック作曲)のバレエも最近発売されたDVDで見たばかりだったので、興味津々。
 バレエ好きのpyontaroさんのブログに詳しい紹介があります。このページは別のところに文字だけ保存しておきました。
 ニルス・タベルニエ監督のドキュメンタリー『エトワール』も面白い作品でした。

       映画川柳 「世界一 意識しながら 創りあげ」 飛蜘
2010年1月3日


DVD
海の上のピアニスト

USA
1999年
125分
 原題は『1900年の伝説 The Legend of 1900』。ジュゼッペ・トルナトーレ脚本・監督。音楽はエンニオ・モリコーネ。
 トランペットを売りに来たマックス(プルート・テイラー・ヴィンス)は楽器店の店主(ピーター・ヴォーン)の前である曲の一節を吹く。店主は修復したレコードをかけて同じ曲だが、誰のなんという曲かを尋ねる。マックスは船で吹き込まれ、原盤が割られたんだと話し始める。演奏者は1900=ナインティーン・ハンドレッド。石炭焚きのダニー(ビル・ナン)がピアノに置き去りにされた拾った嬰児だった。T.D.レモンの箱に入れられたことから「ダニー・ブードマン・T・D・レモン・1900」と名付けられた。ミドルネームのTDはサンクス・ダニーの意味だとダニーは教える。8歳のとき育ての親ダニーが事故で死んだ。そして、少年のころピアノを弾き始めてからずっと船を降りずにピアノを弾いている男だった。タランテラのリズムを聞かされると、即興でタランテラ舞曲を弾く1900(ティム・ロス)。
 楽器店主は船にあった古いピアノから割れたレコードを見つけて修復し、元の船は爆破される予定だ、と教えてくれる。1900が船に残っているはずだと確信するマックスは船主(ニール・オブライエン)に船の探索を申し込む。
 1900の名声が聞こえて、ジャズを発明した男と呼ばれるジェリー・ロール(クラレンス・ウィリアム3世)が、ピアノの決闘を申し込む。マックスはジェリーの音楽を「売春宿の階下で流れる音楽だ」と酷評。1900の勝ちに全給料を賭けていた。決闘はジェリーの優勢で始まったが、3曲目で1900は本領を発揮。圧倒的なパワーとスピードで弾きこなす。
 演奏をレコードに録音するとき、1900は船窓から見かけた移民の少女(メラニー・ティエリー)に向けて美しい即興曲を作る。少女に恋した1900は音盤を渡そうとするが、うまく気持ちを表現できず、渡せずじまいになってしまう。少女は以前、乗船したことのある男の娘だった。男は「子供5人を熱病で亡くした。しかし、あるとき、海の声を聞いた。海は叫んでいた、人生は無限だと」と話していた。少女が下船した後、気落ちしていた1900もやがて元に戻る。そして彼はある日突然、「下船する」と決意した。「陸地から海を見たいんだ」。彼が船を去る日、タラップの途中で止まった。彼は摩天楼を見た。帽子を捨てた。そして、彼は船に戻った。船を降りることができなかったのだ。長いこと彼は内にこもっていた。少しずつ立ち直っていったが。
 マックスは1933年に退職し、船を降りた。古いヴァージニアン号の船内を捜すマックス。楽器店主からレコードを借りてくる。爆破寸前の船でレコードをかけるマックス。「コーン」とマックスを呼ぶ声がした。やはり1900は隠れていたのだ。マックスはもう一度一緒に演奏したいと下船をもちかける。しかし、1900は断った。タラップの途中で街を見た。そのとき、目に映らなかったもの、それが問題だった。終わりはどこだ?無限の鍵盤がある。そのなかから、ひとつを選べない。大きすぎる陸地、美しすぎる女、自分にはこの船が人生なのだと。マックスにはそれ以上、何もできなかった。
 船は爆破されてしまった。楽器店主はいい話を聞かせてもらったと、トランペットを返してくれたが、マックスの足取りは、はずまなかった。

       映画川柳 「シガレット 激しい打鍵にも 落ちぬまま」 飛蜘
2010年1月3日



DVD
椿姫

USA
1937年
109分
 サルバーグ製作のMGM映画。原題『カミーユ Camille』、原作デュマ。ジョージ・キューカー監督。ときどきヴェルディの『椿姫』の旋律が断片的に流れる。1847年のパリ。浪費家と非難される高級娼婦マルグリット・ゴーティエ(グレタ・ガルボ)は、劇場でバルビル男爵(ヘンリー・ダニエル)と間違えてアルマン・デュバル(ロバート・テイラー)に微笑む。間違いに気づいて、男に菓子(マロン・グラッセ)の購入を頼むが、その隙に男爵が誘いに来る。去り際に落としたハンカチを半年後に競売場で彼女に返すアラン。
 マルグリットの誕生日パーティで遠慮のないプリュダンス(ラウラ・ホープ)やライバル意識の強いオリンピ(レオノーレ・ウルリック)ら招待客は馬鹿騒ぎ。マルグリットは体調不良を訴える。別室で休む彼女をいたわるアラン。マルグリットに恋の感情がわく。出張を取りやめた男爵が帰って来る。ピアノを弾きながら嫉妬を訴える男爵。軽くいなそうとするマルグリット。
 父親(ライオネル・バリモア)から資金を調達して旅立とうとするアルマンの部屋に、旅立ちを知ったマルグリットが訪れて来る。求愛するアルマンにマルグリットは自分の生命が長くないと答えるが、二人は田舎に行こうと話し合う。男爵には田舎で静養すると言う。男爵はマルグリットをロシアに連れて行くというが、同意しないので、静養先で相手を見つけたと推測、4万フランの金は貸したものの、これが自分の最後の賭けだと女を平手打ちする。
 田舎に来た二人。女中のナニーヌ(ジェシー・ラルフ)は不便な生活に不平を言う。二人が散歩するのは美しい自然の風景のなか。近くに男爵の城がある。四つ葉のクローバを見つけるマルグリット。指輪を売って友人のニシェット(エリザベス・アラン)に花嫁衣裳を送る彼女。男爵への嫉妬にかられるアルマン。椿姫の間奏曲が流れる。ある日、ハチの巣分かれを見ていると、アルマンの父親が訪ねてきて、息子と別れてくれと告げる。息子の将来に傷がつく、娼婦風情と息子を結婚させるわけにはいかないというのだ。彼女は「彼は無欲な愛と男性の誠実さを教えてくれた」と抗弁するが、父親の決心は変わらない。別れる方法はひとつ、彼に嫌われることだ。帰宅したアルマンに彼女は生活に飽きが来たと告げ、男爵のもとへ去る。
 華やかな舞踏会。アルマンの姿を見て狼狽し、扇子を落とすマルグリット。男爵とアルマンが賭け勝負。アルマンは勝つ。バカラでもうけた金を彼は別室の彼女に投げつけ、皆の前で辱める。止めた男爵を殴り、二人は決闘の約束をする。決闘で男爵は負傷。アルマンは逃亡する。彼女の手紙は開封もされず手元へ戻された。
 半年後、劇場でアルマンは彼女が病気で伏せっていること、身の周りの宝石を売って生活していること、男を断っていることを知る。友人のガストン(レックス・オマリー)はアルマンを誘うが、アルマンは彼女の前にいまさら顔は出せないと躊躇する。ガストンが彼女の部屋を見舞うと債権者の派遣した取立人が見張っていた。彼らを追い出したガストン。無神経なプリュダンスが貸した金を無心に来る。そしてアルマンが一週間前に戻って来ていることを口走る。自分のもとにすぐ来ないことに失望して彼女は司祭を呼ぶよう女中に依頼する。
 司祭がお祈りをしている。隣室にアルマンが来ている。ナニーヌが予め彼女に伝えて後、アルマンが入室する。椿を抱いた彼女は最後の力をふりしぼって「あなたの心の中に生きるわ、死ねば愛は傷つかない」と話す。アルマンが抱きかかえるその腕のなかで彼女は息を引き取ってしまった。アイリス・アウト。

       映画川柳 「みずからの いのちのはかなさ 知りながら」 飛蜘

 ヴェルディの歌劇では、最後の場面でアルフレードが父親から真相を聞いたと話すし、父親ジェルモンが後悔の念を表すが、映画にはそのような場面が無かった。また歌劇ではアルフレードの妹の結婚も父親が別れを迫る理由としているが、映画では、そのような理由には触れられていなかった。映画はパリの社交界をプリュダンスやオリンピの軽薄な騒擾ぶりで批判的に描いている。映画に比べてヴェルディの劇的な歌劇創作技法を感じる。
2009年12月29日

DVD
ラストサムライ


USA
2003年
154分
 ワーナー映画。エドワード・ズウィック監督。原作ジョン・ローガン、脚色ローガン&ズウィック&マーシャル・ハースコウィッツ。製作にトム・クルーズも加わっている。撮影ジョン・トール、音楽ハンス・ジマー、ニューヨークに明治の東京を、ニュージーランドに明治の村を造った美術リリー・キルヴァート、西洋化の明治人の衣裳や部品の多い甲冑を造った衣裳のナイラ・ディクソン、切れのいい編集スティーブ・ローゼンブラム、殺陣師はニック・パウエル、製作補及び英語指導・奈良橋陽子。ズウィック監督は日本人キャストの協力、努力、情緒、感情の豊かさを高く評価していた。
 ネイサン・オルグレン大尉(トム・クルーズ)は、スー族を討伐した功績を買われてウィンチェスター社に銃の宣伝役として雇われていたが、自身はサンド・クリークの虐殺(1864年)やカスター将軍のウォシタ川での虐殺(1868年)など無防備なインディアンを殺したことで、良心の呵責を抱えていた。そんなとき、日本政府の大村大臣(英語に堪能な原田真人)から政府軍の指揮官として雇う話が来た。政府軍の目的は「最後のサムライ」として反抗する勝元(渡辺謙)を討つことである。銃器の扱いに不慣れな鉄砲隊を率いての戦闘は無理だと、大尉は止めるが、上官(トニー・ゴールドウィン)は、相手が弓矢しか持たない叛乱軍のこと、たやすく征圧できると判断した。1876年のことだった。
 霧がたちこめるなかを騎馬の鎧武者が現れ(美しい場面)、戦闘が始まる。発砲が早すぎ、射撃が終わると政府軍は総崩れになった。オルグレンは奮迅の戦いぶりで、勝元の獅子の旗を武器に抵抗する。赤鎧武者に倒されたが、武者がとどめを刺しに来たところを逆に突き返した。他の武士に討たれる寸前で、勝元が止める。
 勝元は自分の村(ロケ地はほとんどニュージーランド)にオルグレンを連れ帰り、妹たけ(小雪)に治療させ介抱させる。「敵を知る」ために生かしているのだ。英語の会話練習の相手でもある。異分化に戸惑いながらも次第に人々の暮らしや武士の姿勢、剣の道といったものを吸収していくオルグレン。カウボーイがインディアンと暮らしながら少しずつ言葉を覚え、理解を深めていくように、ちょうど『大いなる勇者』や『ダンス・ウィズ・ウルヴス』のように、日本の異文化に魅入られて行く。
 たけの夫はオルグレンが殺した赤鎧の武者であった。勝元の息子・信忠(武道家の小山田シン)だったのだ。たけには二人の子供、飛源(『ライオン・キング』のシンバ役だった池松壮亮)と孫二郎(湊葵)がいた。二人は次第にオルグレンになついていく。村には中尾(姿駿)や大尉の傍を離れない寡黙な侍(福本清三)、隊長(藤井浩二)がいる。
 村一番の剣の達人、氏尾(真田広之)に雨のなか、木刀で打ちすえられるような仕打ちを受けて、泥にまみれるオルグレン。しかし、次第に力をつけていく。忍者に村が襲われ、オルグレンは勝元と共に闘う。アクション場面の俳優たちの動きは素晴らしい。白兵戦でもスタントなしで演じている。
 春が来て勝元は明治天皇(中村七之助)に呼び出される。政府は廃刀令を実施、元老院の参議だった勝元にもその意向を伝えようということらしい。オルグレンも一緒に出立する。オルグレンは飛源から巻物をもらう。「侍」という一字が書かれた書であった。
 東京の街を馬に乗った侍たちが通る。いまどき珍しい光景である。しかもそのなかの一人は異人だ。通訳者のサイモン(ティモシー・スポール)はオルグレンが生還したので驚く。
 勝元は元老院に出席、天皇に謁見する。大村に廃刀を命ぜられ、勝元は天皇の御下命があればと剣を差し出す。しかし、天皇は直接命令することを躊躇する。勝元は剣を収めるが、大村は勝元に自宅謹慎を命ずる。
 上官はオルグレンに囚われ人だったときの給料を支払う。大村は再び政府軍を助けてくれるように要請する。オルグレンは承知したと答えるが、大村はその言葉を信用していない。勝元と接触するようなら斬れと刺客に命ずる。
 オルグレンは軟禁された勝元に会おうとするが刺客に止められる。4人の刺客と闘う大尉。勝負は一瞬、二刀流になる。サイモンを脅して写真の撮影を口実に勝元の家へ押し入るオルグレン。この家から切腹を強要されている勝元を脱出させようとする。氏尾や信忠らも手助けに来た。警護の者の銃撃を弓矢で防ぎ、脱出するが、信忠は戦死する。
 勝元の討伐軍が組織される。多勢に無勢だが、勝元と大尉は過去の戦闘例にならって、勝つ作戦を考える。陽動作戦である。敵が勝ちを焦って進軍してきたところで退路を断つ。浮足立つ敵を一気に攻める。
 1877年5月25日、戦闘の日。最後の朝、オルグレン大尉にたけは赤鎧を着せる。重火器で武装した政府軍と闘う勝元軍。火矢を放って後方に仕掛けた爆弾を爆発させ、弓矢を射かけて敵の士気をくじく。アクションが激しい。作戦は成功、しかし味方の犠牲も大きく、政府軍にはさらに1個大隊が残っている。納入されたばかりのガットリング銃もある。勝元らは最後の決戦に臨む。・・・合戦の撮影には31日かかった。
 異文化、この場合は日本の文化の美しさを描こうとしている。

      映画川柳 「魂を 身体のなかから 離脱さす」 飛蜘

【参考書】
 学研ムック『ラスト サムライ』(2004) 
 オルグレンはカスター将軍率いる第七騎兵隊にも所属した。だから、彼は最後に天皇に拝謁するときには、肩に7の文字の入った第七騎兵隊の軍服を着ている。
2009年12月18日


WOWOW

ガーメント・ジャングル

USA
1957年
88分
 日本未公開。WOWOWの2009年12月のアルドリッチ特集で放映されました。コロムビア映画。製作・脚色・脚本ハリー・クライナー、原作レスター・ヴェリー、監督ロバート・アルドリッチ&ヴィンセント・シャーマン(アルドリッチの名前はクレジットされない)。衣装ジーン・ルイス、音楽リース・スティーヴンス、撮影ジョセフ・バイロック。字幕・島田由美子。
 もともとアルドリッチで撮影が開始されたが、映画の内容に恐れをなした映画会社が、撮影終了直前にカゼで一日撮影を休んだアルドリッチを降ろしてシャーマンと交代させた。シャーマンは8日間でいくつかの場面を撮り直し、独自の場面を付け加え、映画の批判的調子がトーンダウンしたという。まるで日本の仁侠映画のような展開をする。
 ニューヨークのガーメント地区は衣料業界のほとんどが集まっていた。その裏側には暗黒街が広がっていた。ロクストン社の社長ウォルター・ミッチェル(リー・J・コッブ)は共同経営者のフレッド・ケナー(ロバート・エルンスタイン)と組合のことで言い争っていた。その後、乗ったエレベーターが落下してケナーは死んでしまう。ケナーを相棒として信頼していたウォルターは心を痛める。帰国した息子のアラン(Kerwin Mathews カーウィン・マシューズ)は、父親の手伝いを申し出るが、父親はこの業界は多忙すぎると懸念を表明する。バイヤーで父の恋人のリー・ハケット夫人(Valerie French ヴァェレリー・フレンチ)が訪れる。彼女からケナー夫人が殺人だといいたてていると聞いてウォルターは驚く。アランも心配になるが多忙な父親はまともに相手をしない。「大事なときはいつもカヤの外だ」とアランは不満。
 翌日、父は息子に「一番上の者は最初に出社し、最後に帰るもんだ」と仕事の哲学を説く。職場長トニー(ハロルド・J・ストーン)がアランを案内する。モデルたちが平気で服を脱いでいる楽屋を通って縫製の作業場を見学。女子の労働者が新作の衣類の縫製に手間がかかる、賃金を上げてくれと抗議するが、トニーは取り合わない。
 ILG(国際婦人服労働組合)のオルグ、トゥーリオ・レナタ(Robert Loggia ロバート・ロジア)が組合潰しやケナーの死を非難する。
 ウォルターは社内の潰し屋ラベジ(Richard Boone  リチャード・ブーン)に聞くが、ラベジはケナー事件の関与を否定する。しかし、ラベジの傍にはエレベーター事故のときエレベーターを操作していたポール(Wesley Addy ウェスリー・アディ)がいた。
 父親からまともな答えを聞けないアランはトゥーリオのいるところを尋ねる。酒場でトゥーリオの妻テレサ(Gia Scala ジア・スカラ)に会う。妻は夫の身を案じているが、トウーリオは理想のためならと意に介さない。
 トゥーリオは組合の秘密集会に出るがそこにポールら潰し屋が乱入し、活動家を徹底的にいたぶる。だれか内通者がいるのだ。
 翌日、アランは殴られたトゥーリオを父親に会わせ、潰し屋を使った妨害工作を止めさせようとする。ウォルターは会社を守るだけで、人は傷つけないと主張するが、トゥーリオはラベジを必要なら人の頭も割るそうだと信用していない。「必ず組合を作る」と主張して帰る。アランが組合よりの発言をするので、ラベジは「この坊ちゃんはデカい口を聞く」と脅す。トゥーリオは会社前でピケを張り、材料を搬送するトラックを入れない予定だ。
 夜になって、ピケを張っているオルグたちの所に、アランが来る。そしてテレサと赤ん坊もタクシーでやって来る。トゥーリオは危険だと説得して、テレサを送ってくれとアランに依頼する。アランはテレサを送るが、途中でテレサは車を降り、バーに入る。壁に著名なボクサーの写真が貼ってあるバーだ。ビールを頼んで、二人は色々と話し合う。父親との関係で悩むアランに、テレサは「親子より善悪が大切」と答える。
 一方、ピケを張っているトゥーリオたちの許にトラックが来る。荷台から降りて来たのはポールたち。突然、組合のオルグたち、アルフレディ、ラッツオ、ミラーが豹変してトゥーリオを壁に押し付け、手足を押さえて、動きを封じる。ポールが腹を刺す。コバーン(ジョセフ・ワイズマン)は、つまづいて倒れ、遅れて襲撃に加わらなかった。そして恐ろしさに身をすくませる。襲撃者たちは、トゥーリオをその場に放置して去る。コバーンも隠れながら逃走。やや離れた後で裏切りの襲撃者たちは、トゥーリオがやられたと騒ぐ。
 新聞に「ピケラインでオルグ殺害」の記事が出る。公式見解はトラック運転手にトゥーリオが刃物を持って向ったため正当防衛だったと言う。目撃者はいない。
 工場の作業員が突然、作業を止めて外に出る。トゥーリオの葬儀だ。葬儀はニューヨーク史上に残る大規模なものとなった。
 テレサは思い出が多すぎると家を引き払い、義母(Celia Lovsky セリア・ロヴスキー)のアパートに移る決心をし、アランもそれに付き添う。アパートの4階のトゥーリオの母の部屋に付いた時、コバーンがやって来て、真相を告白する。テレサはトゥーリオを助けなかったコバーンを責める。
 新聞は「レナタ殺害に組合員が関与」を大きく報道する。大陪審は不起訴の決定をする。コバーンが証言を取消したためだ。家族を脅されたのである。
 アランはラベジが裏にいる、父親も同罪だと父親を責める。リーがとりなす。アランは作業所にレナタ殺害に関与した三人が働いているのを知り、激怒、三人を追い出す。三人はラベジのもとに行き抗議する。三人は組合に追い出されたのだが、面倒を見る約束をラベジはしていたのだ。ラベジは社長を責める。「力がすべてだ。(社長は)金もうけに没頭していた。組合よりももっと厄介なことがある。あんたの息子だ」と。
 事情を理解したウォルターは「(ラベジのやりかたは)知っておくべきだったが、目を背けていた」と反省。アランの方針を肯定する。ラベジは「三人を戻して息子を追い出せ」と主張、社長「(おまえとは)手を切る。まだ私の会社だ」、ラベジ「遊びたいなら、俺のやりかたでやるぞ」。
 アランに父親はラベジと手を切ったことを告げ、ラベジに売上金をかなり渡していたことを証明する帳簿を地方検事に渡す、自分も共犯になるがと話す。「やり直そう。組合も認めよう。これまでは仕事に自分を隠していた。これから変わるぞ。私にもチャンスをくれ」と父。リーを食事に誘い、プロポーズする。30分後に会おう。リー「(私は)まだ仕事中なの」、父「たかが仕事だ only business」、リー「たかが?」。仕事一筋だったウォルターの変化を喜ぶ。アランはテレサを誘う。別室でテレサに電話をしていると銃声が響く。父が狙撃され、既に事切れていた。
 新聞記事には「会社社長殺さる、犯人につながる証拠を息子が持つ」と出る。
 ウォルターの葬儀の後、テレサ、リーと話したアランは帳簿がどこにあるのか、分らないと告白、リーが「私が持っている」と言い、アランに届けさせると言う。アランはテレサを家へ送る。
 アパートの前でテレサは子供のいない乳母車をみて、子供マリアがさらわれたと思う。4階に駆け上がると、子供は義母の腕に抱かれていた。リーにはこれ以上関わるな、顔に傷がつく、見張っているぞと脅迫電話が入っていた。
 アパートはポールたちに見張られていて、動きが取れない。一夜明けて牛乳屋が牛乳の配達、テレサの部屋にも牛乳屋が来る。「牛乳は頼んでいないわ」。扉を開けてみると紙にくるまれた帳簿が置いてあった。
 アランは外へ出てポールたちに捕われる。その間にテレサは帳簿を検事に届ける。テレサは窓から屋上へ出て屋根づたいに追っ手をまいた。
 ラベジのもとに連れていかれたアラン。ラベジは社長の椅子に坐り、50%を自分の取り分としてよこせと要求する。証拠の帳簿のありかを吐かせようと、アランを殴る。
 危機一髪のところで、テレサと一緒に警官隊がやって来る。ラベジ一味は逮捕される。
 その後、ラベジ一味は起訴され、殺人罪で告発される。
 アランは衣料会社の建て直しに取り組む。テレサやリーと一緒に。他の出演者(クレジットされる)は、オックス(Adam Williams)、デイヴ・ブロンソン(Willis Bouchey)。
 ほとんど撮影は終了していたらしく、アルドリッチ色が強い。完成作品はハッピー・エンドになっているが、もとの作品ではリーやテレサが被害に会い、アランも傷つく展開だったのかもしれない。テレサ役のジア・スカラが高貴さ不足なのが残念。リー・J・コッブともアルドリッチは対立していたというから、ウォルターの急激な改心もシャーマンのものだったのだろう。

      映画川柳 「華やかな 衣装を作る 作業場」 飛蜘

【参考】紀伊国屋書店発行『キッスで殺せ』解説書
2009年12月18日


DVD
サブウェイ・パニック

USA
1974
105分
 ジョセフ・サージェント監督の傑作サスペンス。ニューヨークの地下鉄に帽子・眼鏡・付け髭の男が乗り込んで来る。彼らは乗っ取り犯。乗客を人質に市を相手に百万ドルの身代金を要求。鉄道公安局の警部補ガーバー(ウォルター・マッソー)が犯人と取引の窓口になる。首謀者はイギリスの戦争屋くずれのロバート・ショウ。犯人たちはお互い色で呼び合っている。グリーン(マーティン・バルサム)はもと地下鉄運転手でカゼ気味、しょっちゅうくしゃみをしている。ブラウン(アール・ハインドマン)は普通だが、グレイ(ヘクター・エリゾンド)はマッドな男。
 金を用意するまでの時間はきっちり1時間。それを1分でも過ぎたら1分につき一人ずつ人質を殺すというのが犯人の条件だ。残された時間は少ない。
 完全に包囲された地下鉄からどうやって犯人たちは脱出するのか。それが分からないまま、車両は再び動き出した・・・・。

      映画川柳 「カゼをひき とまらぬクシャミが 手がかりに」 飛蜘
2009年12月16日

WOWOW

地獄へ秒読み


USA/英
1959
93分
 日本未公開で、未見でしたが、WOWOWの2009年12月のアルドリッチ特集で放映されました。セブナーツ・インターナショナル製作、ユナイテッド・アーティスト配給。
 ジェフ・チャンドラー、ジャック・パランス、マルティーヌ・キャロル主演「地獄へ秒読み」。ミー・グッドウィン、リチャード・ワティス(少佐役)。原作「Phoenix」はローレンス・P・バックマン、脚色ロバート・アルドリッチとテディ・シャーマン、撮影アーネスト・ラズロ、音楽ムーア・マチソン、ケネス・V・ジョーンズ、リチャード・ファレル、製作マイケル・カレラス、監督ロバート・アルドリッチ。字幕・森本務。
 戦闘機が大量の爆弾を落す。ナレーションが大戦中大量の爆弾が各都市に落とされ、不発弾処理が必要だったと解説、ベルリンの連合国側地区に復員して来た主人公六人が紹介される。若く純粋なハンス・グロブキ(ジェイムズ・グッドウィン)、笑いが好きなティリップ(ディヴ・ウィロック)、妻子があるウォルフガング・スルキ(ウェスリー・アデイ)、生命を慈しむフランツ・レフラー(ロバート・コーンスウェイト)、生き延びることを目標にしていて他人を欺くことも厭わない大男ワーツ(ジェフ・チャンドラー)、もう一人の長身の男で正義感の強い情熱と優しさを求めるコートナー(ジャック・パランス)。彼らはみなナチスににらまれて爆弾処理に回された男たちだった。
 ヘイヴン少佐(リチャード・ワティス)が通常の2倍の賃金を確約してくれたので、みんなは大喜びするが、エリック・コートナーは浮かない顔だ。爆弾処理でふッ飛ぶ危険があるという。半年前には10人いたのがいまや6人だ。ワーツが誰が生き延びるか賭けをしようと提案、給料の半分を賭けに回して生き残った者で分けようと言う。スルキは人の命を賭けるなんてと消極的だが、結局結束のためにみんなが賭けに参加する。処理の順番はアルファベットの逆順。そして期間は三ケ月だ。
 爆弾処理班にバウアー夫人(ヴァージニア・ベイカー)が派遣されてくる。班長選出でみんなはコートナーを推すが、カール・ワーツは民主主義で行こうと立候補。挙手でワーツにはワーツ自身とコートナーの2票、他はコートナーで、班長が決まる。コートナーは助手をワーツに指名する。
 コートナーが下宿先の部屋に行くと、女の声がする。この家の大家マーゴ・フラウンホーファー夫人(マルテイーヌ・キャロル)だ。彼女は先に来たワーツと話していた。良い部屋をワーツが取ったという。ワーツの部屋はマーゴの部屋に続いているが、通り道でもある。コートナーは自分の部屋に文句は言わない。ワーツはマーゴ夫人となにか取り決めをしたらしい。聞いてみると、臨時配給物を分けるという話だった。闇市で売るのだ。
 仕事が始まり、6週間で36発を処理した。あるとき、グロブキが信管を外した後で爆発した爆弾があった。巻き添えをくったグロブキは死んだ。
 コートナーは少佐に英国製1000ポンド爆弾の信管に関する情報を依頼する。賭けの契約を考え直そうとコートナーは提案するが、みなは続行するという。
 英国製2000ポンド爆弾の信管を外す作業。ロープで引っ張るが途中で引っ掛かり、最終処理は手で外す羽目になる。しかし、爆発はしなかった。ほっとするコートナー。
 部屋で休んでいると隣りに帰宅したカールとマーゴの声がする。カールが言い寄っている。マーゴが断っている。コートナーはマーゴの部屋に入り、カールを帰す。
 マーゴと言い争う形になったコートナー。マーゴはフランス人、夫はアフリカ戦線に送られ、帰って来ない。戦時中は仏人は敵だった。私を分って欲しい、気遣って欲しいのだ、欲するものから目をそむけるなと彼女は言うが、コートナーは「欲しいものなんか無い」と答える。
 第3爆弾処理班に電話が入る。バウアー夫人が電話を取る。ティリッグが爆弾の下敷きになったのだ。急いで現場に駆けつけるコートナーとワーツ。処理中に建物の壁が崩れたのだ。二人が現場に入るとティリッグは爆弾の下敷きになっていた。信管をなんとか外して医師(チャールズ・ノルテ)を呼ぶ。医師が気付を注射している間にコートナーは滑車作業員を呼びに出た。ワーツもついてきた。「なんでお前がついてくるんだ」「暗いところが怖いのさ」。滑車作業員が入ろうとしたとき、建物が崩壊して再びティリッグと医師は生き埋めになってしまう。
 マーゴの部屋に来るコートナー。「一人じゃ耐えられない」と。酔ったカールも帰って来た。彼はワインを置いていく。
 マーゴを連れて瓦礫の跡に来るコートナー。俺にとってここは秘密の場所だと話すコートナー。マーゴは「大切なのは未来よ」と言う。コートナーは「未来に期待しすぎるな、未来は不確かだ」。しかし、「俺は君を愛している」。マーゴ「私は不確かな未来を受け入れるわ」。コートナー「誇り高く死にたい。人生の望みは君が必要だってことだ」。その場所には「1939 建築設計 エリック・コートナー」と石碑があった。
 少佐に英国製1000ポンド爆弾の情報を確認するコートナー。少佐がコートナーを「ドクター」と呼ぶので、ワーツは驚く。こんな危険な仕事は辞めるべきだなと皮肉まじりに言う。しかし、コートナーは辞めようとはしなかった。
 誰かが、爆弾を処理している。無事、信管を抜いたと思った途端に爆発した。
 レフラーの部屋にエリックがやって来る。「自前の動物園か」と冗談を言うエリック。二人はスルキの処理していたのがやはり英国製1000ポンド爆弾だったと話す。ワーツに賭けを止めようと提案しようと相談する。掛け金はスルキの妻子に送るという提案なら彼も受け入れるだろうというのだ。ルース・スルキ役はナンシー・リーだがどこに出演しているの分らなかった。
 三人で話し合うがワーツは乗って来ない。なにを望む?「俺の死か?」。ワーツ「俺の生き残りだ」と。釣りに叔父と行ったときの話を彼はする。「伝染病が流行して一人分しかクスリがないとしたら、誰を救うと聞かれて、叔父さんをと答えたら、ほおを殴られた。叔父は自分のことを第一に考えろというのだ。戦争中、空襲で防空壕に避難したとき、一人分しか空いていなかった。叔父の間で俺はドアを閉めたよ、叔父は死んだが、俺を誇りに思っただろう」。コートナーは「初めて(お前は)死ねと思った。自分勝手な哲学なんかクソくらえだ」と怒る。
 処理班に連絡が入る。レフラーの番だ。水路の爆弾処理は難しい。コートナーは一緒に行くというが、レフラーは断る。別の処理が入り、コ−トナーは自分の処理が終ったら手伝うと約束する。しかし・・・・水路に落ちた爆弾を処理しようと潜ったレフラーは酸欠で死んでしまった。
 レフラーが遺した小犬のペペを抱いて、コートナーは「この仕事は辞められない。これはカールとの戦いだった」とマーゴに話す。
 事務所にワーツの運転手から電話が入る。例の1000ポンド爆弾だ。バウアー夫人からは「処理を急いではダメ」と忠告を受ける。急いで現場にかけつけるコートナー。
 崩れたビル。子供が発見したという爆弾だった。コートナーは信管が二重になっていて主信管だけでなく副信管を外す必要があると見なす。ワーツの担当だがロープが途中で引っ掛かり、手で外そうとしたワーツは助けを呼んだ。壁の傍で退避していたコートナーは駆けつける。ゆるんだ撃針を指で押さえているワーツに鉛筆を貸し、この処理は一人では無理だったんだ。小形レンチを持って来いとワーツに指示を出し、代わりに撃針をおさえているコートナー。小形レンチを取りに戻ったワーツは離れたところから、ロープを引っ張り始めた。驚いてロープを止めるコートナー。コートナーはワーツのとことに歩み寄り、彼を殴りつける。ワーツは「俺の担当の爆弾だったな」とつぶやき、爆弾の傍に戻る。後を振り返らず現場を去るコートナーの背中で、爆発が起こる。
 ナレーターが「6人を忘れてはならない」、コートナーは生き延びた、彼らは危険な廃屋を、平和な土地に変えたと解説する。
 
      映画川柳 「不発弾 戦後に残った 戦場で」 飛蜘
2009年12月14日

WOWOW

8:30〜
枯葉

USA
1956年
106分
 WOWOWで反骨の映画監督ロバート・アルドリッチ特集、13日は『特攻大作戦』、14日は『枯葉』、15日は『攻撃』、16日は『地獄へ秒読み』、17日は1『キッスで殺せ』(完全版)、18日は『ガーメント・ジャングル』。日本未公開作も見られます!

 コロンビア配給の『枯葉』は日本未公開作品。白黒。主演はMGMやワーナーのギャング映画で一時代を画したジョーン・クロフォード。この映画は、とても意地悪な設定で、彼女は父親の介護などで婚期を逃した有能なタイピスト、ミリー。自分に接近する男性に強い警戒感を持っています。
 そんな彼女に積極的にアプローチしてくるのが、もと兵士のバート・ハリソン(クリフ・ロバートソン)。結婚詐欺師ではないだろうかと思えるほどの手練手管を使います。躊躇するミリーがようやく結婚した日の翌日、残酷な運命が彼女にふりかかります。バートの妻バージニア(ヴェラ・マイルズ)が現れるのです。バートは突然失踪し、離婚したばかりで、盗癖や虚言癖があると言います。財産処理でサインして欲しい書類があるからと現れたのでした。驚いたミリーはバートの父親(ローン・グリーン)にも会います。父親もバートをよく言いません。デパートの主任になったというのもバートのウソでした。夫に対する信頼が音を立てて崩れていきます。
 しかし、バートの若妻バージニアと父親は実は不倫関係にありました。バートは偶然、二人が愛しあっているところを目撃してしまい、錯乱し、精神が狂っていったのです。そのことを知らないミリーはバートを父親に会わせようとします。そしてホテルに行った二人は・・・再び父親と妻の愛欲場面を見てしまいます。
 精神錯乱したバートは家に閉じこもりっきり。そこへバージニアがやって来る。家の外でミリーは二人を非難します。父親には大罪を犯している、バージニアにはアバズレと。ところが家の窓から三人を目撃したバートはミリーもグルだったんだと誤解してしまいます。ミリーを殴り、タイプライターを投げつけ、大事なミリーの掌をつぶしてしまいます。その瞬間、バートは我にかえって謝罪し始めます。しかし、壊れた精神はもとに戻りません。
 サングラスで目を隠し、掌を治療するミリー。バートはまるで傷ついた子供のようです。妻と父の不倫現場を思い出して泣くこともしばしばです。
 精神科医に相談したミリーは入院治療を薦められます。しかし、神経症が治ったあかつきには、ミリーは不要になるかもしれません。医師はこのままでは二人とも破滅する、治療に賭けてバートの回復で愛を失うか、ふたつにひとつだと答えます。悩んだミリーは、入院に賭けます。
 治療のために病院職員に無理やり連れられていくバートは、ミリーに恨みの捨てゼリフ。半年後、電気ショックや薬物治療を受けたバートの退院の知らせがミリーに来ます。意を決してバートのもとを訪れるミリー。一挙に謝罪の言葉を述べ、別れを告げる彼女に、バートは自分が傷つけた手の具合はどうかと尋ねるのでした。バートのミリーへの愛は失われていなかったのです。

 ジョーン・クロフォードが熱演。この後、『女の香り』『甘い抱擁』『ふるえて眠れ』『何がジェーンに起こったか』と中年女性の愛憎映画に女優みんなが喜んで出演したことが、よく理解できます。それほどこの映画のクロフォードは見事です。しかし、日本未公開も無理がないですね。TVの『ボナンザ』の父親役で大人気だったローン・グリーンと天下の美女ヴェラ・マイルズが許されない不倫関係なんですから。

       映画川柳「孤独でも 愛に賭けるは なお怖い」 飛蜘
2009年12月11日

川崎市アートセンター
アルテリオ映像館
ポー川のひかり


イタリア
2006年
94分
 NHKの天才ディレクタ−・佐々木昭一郎さんお薦めの映画。『木靴の樹』のエルマンノ・オルミ監督の作品。岩波ホールで公開後、川崎市アートセンター(小田急線新百合が丘駅から徒歩2分)で上映。12月11日が最終上映日で12時40分からの回に行く。
 スクリーンで映画を見るのは久し振り。大画面で見る予告篇の「パリ・オペラ座のすべて」やチェコの人形アニメなども素晴らしそうで、見たくなった。
 『ポー川のひかり』の原題は「百挺の釘」。机の上に鍵がある。歴史図書館の守衛は不審に思う。昨日閉館の時点で鍵は鍵箱に仕舞ったはずなのだ。図書館を開けにいった守衛は大事件に気付く。警察を呼ぶ。いったい何事が起こったのだろうか。
 歴史図書館の貴重な写本の多くに釘が打ち込まれ床や机に釘付けされていたのだ。本の解読を生涯の仕事としてきた司教(ミケーレ・ザッタラ)は卒倒する。女性検事は「天才芸術家の作品という感じがする」とつぶやく。
 夏休み直前の最終講義をした若き哲学の教授(ラズ・デガン)が犯人らしい。教授は失踪した。いったい何の目的で彼がそんなことをしたのかが、誰にもわからない。
 教授は車を乗り捨て、現金とクレジット・カード以外のものを上着とともに川に捨てた。ポー川のほとりの廃屋に住み始める。やがてパン屋の配達娘ゼリンダ(ルーナ・ベンダンディ)や元レンガ屋の郵便配達夫と親しくなり、川のほとりの人々と親交を深めることになる。彼はまるでミヒャエル・エンデ作『モモ』のモモのようである。みんなの話を聞くひと。
 彼がときおり話す聖書のエピソードはひとびとの琴線にふれる。やがて役場で港を建設する計画のため、川のほとりに暮らす住民たちへの立ち退き要求が出る。請願書を出すと、不法占拠を理由に罰金が科される。教授はクレジット・カードでみんなの罰金を払う。自殺したかもしれないと思われていた教授の居所が知られて、彼は逮捕されてしまう。
 なぜ本を磔にしたのかを問われて、教授は「書物に“英知”がつまっているなどというのは、欺瞞だ。神の言葉では世界は救われない」と答える。憲兵の質問に対して、教授は「世界中の本よりも、友人と飲むコーヒーのほうがいい」と答えていた。
 村の人々が彼=“キリストさん”の帰りを待っている。憲兵が彼は自宅拘禁になったことを伝える。道のわきにロウソクをともし、人々は彼を迎える準備をする。少年が彼に会ったという。しかし、彼は村に帰って来なかった。消えてしまったのだ。

 映画はこんなメッセージを主張しているようだ。本に記録された神の言葉など、たわごとだ。ましてそれを研究する訓古の学など、無意味である。それよりも、知的エリートよ、生活を奪われる人々を救え。一枚のクレジットカードですむのだから。キリストが庶民を救ったように。

        映画川柳「キリストさん 川のほとりに 数日間」 飛蜘
2009年12月3日


DVD
ライオンが吼える時:MGM映画の歴史

USA
1992年
90分×4部


 フランク・マーティン製作・脚本・監督。案内人は若きテリー・サヴァラスを思わせるパトリック・スチュワート。見ていない注目作品がたくさんあった。
 (1)エンタテイメントの始まり:MGMは1924年4月24日、それまでにあった3つの映画スタジオが合併して設立された。3つとはメトロ(M)、ゴールドウィン(G)、メイヤー(M)である。MGMの親会社はマーカス・ロウのロウズ社。最初のヒット作はロン・チェイニーが主演した『殴られる彼奴』(1924)。サイレント時代の鬼才シュトロハイムの『グリード』(1925)は原作を1頁から映画化する大作で製作者サルバーグとの確執が激しかった。最近、『愚かなる妻』『グリード』のDVDを入手したので見てみよう。
 語り手としても登場するキング・ビダー監督の活躍が興味深い。『ビッグ・パレード』(1925)、リリアン・ギッシュ主演『ボエーム』(1926)、ビダー監督の妻エレノア・ボードマンの『群衆』(1928),ウォーレス・ビアリーの『チャンプ』(1931)などサイレント時代の監督作品に興味がわく。ガルボを演出したクラレンス・ブラウン監督の作品も興味深い。『肉体と悪魔』(1927)『アンナ・カレニナ』(1935)などのガルボの妖艶なまでの美しさ。1927年に親会社のロウが亡くなり、ニコラス・スケンクが就任、スケンクとメイヤーは1950年代まで反目しあった。MGMのトーキーは『ハリウッド・レヴュー』(1929)に始まった。都会的な女優ジョーン・クロフォードや、ターザン映画の女優モーリン・オサリバン、製作者サルバーグの妻ノーマ・シアラーなどがガルボとともにMGM映画を支えた。監獄映画の代名詞となった『ビッグ・ハウス』(1930)やオールスター映画の代名詞『グランド・ホテル』(1932)が作られたのが1930年代。神童と称されたサルバーグは1930年代に「試写」を発明した。マルクス兄弟をパラマウントから移籍させ、『オペラは踊る』(1935。見ました!)を成功させ、『戦艦バウンティ号の叛乱』(1935)を作り、『ロミオとジュリエット』(1936)を成功させた直後に、37歳で急死。
 (2)MGMスタイルの確立PART1:ガルボの『椿姫』(1936)がサルバーグの企画した遺作となった。撮影部門・衣裳部門(代表的な人物はエイドリアン)・美術部門(中心はギボンズ。アカデミー賞の像のデザインもした)の素晴らしさは、たとえば『巨星ジーグフェルド』で分かる。『大地』(1937)に主演したルイーゼ・ライナーもメイヤーに使い捨てのように扱われたと言う。女優ヘレン・ヘイズは、メイヤーは人あたりはジェントルだが、実際には邪悪な人だったと証言。つまり、メイヤーはMGM「一家」の暴君の「父親」だった。
 1937年に26歳で亡くなったジーン・ハーロウの死はサルバーグ時代の終焉を告げる。メイヤーは子供が活躍する家庭向き映画を多作した。他愛もない映画が多いが、それでもジャッキー・クーパーは『宝島』を傑作と証言する。メイヤーが製作したシリーズものはハーディ判事(ミッキー・ルーニー主演)や、『影なき男』に始まる夫婦探偵ウィリアム・パウエルとマーナ・ロイ)、ドクター・キルデア(リュー・エアーズ主演)、オペレッタ映画(ジャネット・マクドナルド主演も多い)など。さらにメイヤーは英国スタジオを作り、英国でロバート・テイラー主演の『響け凱歌』(1938)を撮る。この映画でテイラーと共演した英国女優ビビアン・リーは『風と共に去りぬ』(1939)に抜擢される。また、メイヤーは英国で発見した女優グリア・ガースンと英国俳優ロバート・ドーナットで『チップス先生さようなら』(1939)を製作。スペンサー・トレイシーの『激怒』はメイヤーの気にいらなかったが、『我は海の子』(1937)と、『少年の町』(1938)で彼は連続してアカデミー主演男優賞を獲得する。
 (3)MGMスタイルの確立PART2:ジュディ・ガーランドは『踊る不夜城』(1938)やミッキーと共演した『青春一座』(1939)も素晴らしいが、最高傑作は『オスの魔法使い』(1939)だろう。なんとドワーフが124人(!)も集められた。特殊効果も実験された。この年、『風と共に去りぬ』(1939)も作られた。ジョージ・キューカー監督の『The Women』(1939)がサルバーグ夫人ノーマ・シアラーの最後の栄光だった。ジョーン・クロフォードやグレタ・ガルボが、次第に銀幕を去った。ラナ・ターナーの『美人劇場』(1941)『Jony Eager』、ヘディ・ラマー『春の調べ』『Come Live With Me』(1941)などが紹介される。キャサリン・ヘップバーンは『フイラデルフィア物語』『女性No.1』(1942)『アダム氏とマダム』『The Mortal Storm』(1940)で活躍。彼女は新しさを感じさせる女優だったと言う。キャサリン・ヘップバーンが夫トレイシーと共演した映画をもっと見てみたくなった。アメリカの参戦は1941年。グリア・ガーソンが英国を象徴したワイラー監督の戦意昂揚映画『ミニヴァー夫人』(1942)は大ヒット。戦場での兵士の活躍を描いた『Bataan』(1942)もあった。ゲーブルの妻キャロル・ロンバードが飛行機事故で亡くなり、失意のゲーブルは戦争へ。戦争中だが、ミッキー・ルーニーが少年ホーマーを演じた『町の人気者』(1943年。サローヤンの『人間喜劇 The Human Comedy』の映画化である!USAで中古ビデオしか無い。しかも高価)も傑作だ。
 子供と動物路線の代表作は、『名犬ラッシー/家路』(1943。子役はロディ・マクドウォル)、エリザベス・テイラーの『緑園の天使』(1944)、『仔鹿物語』(1946)。最後に笑顔をくれる映画が特徴だ。1946年、戦争が終わるとともに、メイヤーの帝国は崩壊を始める。
 (4)そして現在へ:メイヤーの人脈が功を奏してミュージカルの黄金時代が築かれる。製作のアーサー・フリードや監督のヴィンセント・ミネリ。ミネリ監督の『若草の頃』(1944)や大作『ジーグフェルド・フォーリーズ』(1946)。スタンリー・ドーネンとジーン・ケリーのアニメとの合成などの新しい試みをした『錨を上げて』(1945)。シナトラの人気もすごかった。エスター・ウィリアムズは、『世紀の女王』(1944)を始め、水ものを26本も撮った。しかし、1946〜1948年、MGMは主要なオスカーを取っていないのだった。それ以前の勢いを失っていた。スケンクは、RKOからドア・シャリーを呼び、1948年7月に製作を任せる。リアリズム重視のウェルマン監督『戦場』(1949年)がシャリーの真骨頂だあろう。メッセージ性の強い『Next Voices You Hear』(1949年)もシャリー路線。一方、メイヤーは家庭第一の『若草物語』(1949)。テレビの登場で映画館の入場者は半減したが、メイヤーはテレビを軽視していた。映画らしさを模索して、ジーン・ケリーは『踊る大紐育』ではニューヨーク・ロケに挑戦した。1950年にメイヤーはそれまでの功績を讃えられて、アカデミー名誉賞を受賞。心の問題を抱えたジュディ・ガーランドはトラブル・メーカーだった。シャリーはヒューストン監督を起用『アスファルト・ジャングル』(1950)や『勇者の赤いバッジ』(1951)など問題作を製作。1951年6月、スケンクにどちらを選ぶかを迫ったメイヤーは解雇された。しかし、MGMミュージカルは作り続けられた。『ショウ・ボート』『巴里のアメリカ人』『雨に唄えば』(1952)。シネマスコープを初めて導入して大作を作り続けた。25周年記念映画として『ブリガドーン』が製作される。しかし、経営は悪化し、経費削減でスターの契約が次々に解かれた。
 『傷だらけの栄光』『暴力教室』『監獄ロック』と映画は新しくなった。1955年、とうとうテレビに参入して、『影なき男』や『ドクター・キルデア』をリメイク。『熱いトタン屋根の上の猫』で性描写に挑戦した。エリザベス・テイラーは自身嫌いだというこの映画でアカデミー主演女優賞を受賞、「なんと言っていいか、わかりません」という受賞の挨拶は彼女の本音だったろう。英国から招かれたデビッド・リーン監督は『ドクトル・ジバゴ』を干渉を避けて、オランダで撮影した。『特攻大作戦』(1967)や『2001年宇宙の旅』(1968)のような意欲作も製作されたが、1969年に経営赤字。1970年代、80年代にはほとんど映画製作が無かった。経営者も映画製作に興味を示さぬラスベガスの資産家になり、用地は売却され、小道具は売り払われ、MGMスタジオは消滅した。

      映画川柳「暴君の 父は子供を 育てたが」 飛蜘
2009年12月3日


DVD
ミネソタ大強盗団

USA
1972年
92分


 フィリップ・カウフマン監督の最初の大作だが、名画座でもほとんど上映されず、幻の作品でした。やっと紀伊国屋書店のDVDで発売。付録のブックレットが、細川晋(字幕も担当)や遠山純生の丁寧な解説で、感動もの。35歳のカウフマン、長編第三作めとは思えない完成度の高さです。
 冒頭、子供の頼みに答えてコール・ヤンガー(クリフ・ロバートソン)が被弾した防弾着の銃創を見せる場面がある。それを物陰で聞くジェシー・ジェームズ(ロバート・デュヴァル)は「ホラ吹きめ」と批評する。作品中、コールは何度か撃たれるが自分自身は一度も人を撃っていない。それに対してジェシーは冷酷に人を殺す。カウフマン監督はコールの視点を通してジェシーを描いているようだ。
 強盗団に、南部のミズーリ州議会は特赦を与えようとする。貧農から土地を取り上げて発展する鉄道会社や銀行を襲撃する彼らは義賊でもあったのだ。鉄道会社はピンカートン探偵社を雇い、強盗団をせん滅しようとする。
 クレイ郡のある町で探偵社の銃撃を受け、コールは重傷を負う。ジェシーはコールの計画を自分のものと偽り、ノースフィールドの銀行を襲撃に兄フランク(ジョン・ピアース)らと出かける。呪術師(マドレイン・テイラー・ホームズ)とチャーリー・ピッツ(ウェイン・サザーリン)の治療を受けて目覚めたコールは特赦が台なしになるとジェシーを止めに追いかける。途中、足をあらっていたクレル・ミラー(R・G・アームストロング)もコールの仲間に加わる。
 しかし、途中汽車に乗ったコールは偶然、巡回販売員(リアム・ダン)の話から特赦が議長に鉄道会社から渡された賄賂のせいで無効になったと知り、銀行の金を横取りする計画に変更する。銀行の出納係(ジャック・マニング)によると1873年の恐慌で人々は銀行を信用しなくなり、銀行は倒産寸前だという。コールは頭取のウィルコックス(ロバート・H・ハリス)に人々に預金させる計画を持ちかける。
 ジェイムズは人形を「自分の子供」と言う老女ドティ(ネリー・バート)の家に休み、地主からの借金を立て替える。地主に払われた金は彼を撃ち殺して奪うのだった。地主の傍に老女から買った人形を捨てるジェシーに、ボブ・ヤンガー(マット・クラーク)が「ばあさんが犯人と疑われる」と忠告するが、冷酷無比なジェシーは「彼女も北部人だ」と答える。
 コールたちが草野球を観戦している。コールは強盗出没の噂を吹聴して銀行に預金すると言う。金持ちたちも見せ金につられる。
 ジェシーとコールが合流する。1876年9月7日、犯行の日は雨。ジェシー、コール、チャドウェル(クレイグ・カーティス)、ジム・ヤンガー(ルーク・アスキュー)が銀行に押し入る。出納係は頭取も強盗団の仲間だと思い込んで金庫を開かない。機械に強いコールは鍵がかかっていないことを見抜き、金庫を開くが、外で頭のおかしいグスタフソン(ロイヤル・ディノ)がボブに撃たれて蒸気オルガンの上に倒れ、鳴り響いた音にみんなが気を取られた瞬間に出納係は金庫を閉じてしまう。チャドウェルが中にとじ込められた。ジェシーが出納係を射殺、頭取は気を失い、バンカー(エリシャ・クック)は脱出。強盗だという声に反応した市民の銃撃でミラーが倒れ、ボブも被弾する。
 一味は金を奪うのに失敗し、逃走する。市民たち、アレン(ディナ・エルカー)やマニング(ドナルド・モファット)たちは一味を追う。ドティの邸に隠れた一味は市民たちに撃たれる。医者を呼びに行くというドティを途中で殺したジェシーとフランクは留守にしていて難を逃れた。負傷したヤンガーたちは馬車に載せられ、町の人々の見世物になる。全身に被弾したコールが立ち上がると、町民はそのパワーに感嘆し、拍手を送る。コールは不死身だった。その後も生きながらえて、1916年72歳まで生きた。一方、ジェシーは1882年、下働きのロバート・フォードに撃たれて死んだ。

      映画川柳「撃たれても 撃たれてもなお 生き延びて」 飛蜘
2009年11月11日


DVD
天使にラブソ・ングを・・・

USA
1992年
100分
 クラブ歌手のデロリス(ウーピー・ゴールドバーグ)は、暗黒街の帝王ヴィンス(ハーヴェイ・カイテル)の愛人、女房と別れようとしないヴィンスに不満を持っていた。女房の着ていたミンクを贈って来たヴィンスに抗議に行ったデロリスは、事務所で運転手のアニーが警察への協力で射殺されたのを目撃してしまう。手下のジョーイ(ロバート・ミランダ)とウィリー(リチャード・ポートナウ)に「始末しろ」と命ずるヴィンスの言葉を聞いて逃げ出すデロリス。
 警察のエデイー・サウザー警部(ビル・ナン)は、ヴィンスを裁判にかけるまで身を隠せと助言し、修道院を世話する。お固い修道院は苦手だったが、いつも陽気なメアリー・パトリック(キャシー・ナジミー)やちょっと落ちこぼれ気味のメアリー・ロバート(ウェンディ・マッケンナ)の共感を得て、少しずつなじんでいくデロリス。修道院長(英国の名優マギー・スミス)は、聖歌隊の指導を命ずる。メアリー・ラザルス(メアリー・ウィックス)の指揮のもと、声も合わず、音も取れない聖歌隊だったが、デロリスの指導でちゃんとした合唱隊に生まれ変わる。さらに聖歌をポップな合唱にしてしまったのが、街の人に大受け。存続の危機にあった修道院の聖歌隊は大評判となる。牧師(ジョセフ・メイハー)も喜び、ついに法王までが、教会を訪問することになる。
 しかし、話題を呼んだ結果が、警察の内通者によって、ヴィンスへ彼女の居所を知られて、誘拐されることとなる。修道尼たちが、彼女を救出に駆けつける。ヴィンスの手下たちには、心理的な抵抗があって、尼僧を殺すことができない。
 聖歌が、ポップな歌に変わるところが、とても可笑しい。楽しく見ることが出来ました。原題は「シスター・アクト」とはホモの男と異性愛の女性とのセックスを表す俗語ですが、修道尼の芝居(活動)という意味をこめているのでしょうか。
 ウーピー・ゴールドバーグの映画は、公開当時に『カラー・パープル』を見ています。

       映画川柳「主はいつも  歌声とともに  聖歌隊」 飛蜘





2009年11月29日以降に見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想     (池田博明)
2010年1月12日  双葉十三郎氏、心不全にて12日に逝去、99歳。
2010年1月12日


DVD
悪名

大映
1961年
94分
 今東光原作のシリーズ第1作。脚本・依田義賢、監督・田中徳三。撮影。宮川一夫、照明・岡本健一、録音・大谷巌、美術・内藤昭、音楽・鏑木創。カラー作品。
 シャモの喧嘩に興ずる河内の百姓・朝吉(勝新)だったが、盗んだシャモで喧嘩になり、父親(荒木忍)に怒られてシャモを返しに行く。返した隣村の人妻お千代(中田康子)と盆踊りの晩に懇ろになり、子供が出来たと言われて駆落ちした。有馬温泉で無職の朝吉、筆職人の老人(浅尾奥山)と妻(橘公子)に意見され、赤子も流れてしまった、いや最初から流れていたと言われて、酔客と戯れているお千代と喧嘩別れして大阪に帰ってきた。
 幼馴染の若者たちにあい、そのまま松島遊廓にくりこんだところで、陰のある琴糸(水谷良重)に魅かれる。その晩、連れと芸妓・白糸(若杉曜子)が土地の暴れん坊、モートルの貞(田宮二郎)と悶着を起す。翌朝、朝吉と貞は対決する羽目になった。散々に打ちのめされた貞は朝吉に頭を下げる。貞の親分吉岡(山茶花究)は客分として迎えたいと言う。やくざ嫌いの朝吉は断るが、親分の命令で貞が逃げた子分を折檻するのを見て、やめさせるために草鞋を脱ぐことになる。丁半博打で見ていた朝吉は薦められて有り金全部を賭けて、帰ろうとすると、中盆(伊達三郎)が勝ち逃げはいかんとからむ。しかし、朝吉は負けたら文無しだと主張し、博打に勝ち逃げはないと答える。朝吉となじみの琴糸が松島一家から逃げて来た。喧嘩に出るところだった朝吉は琴糸を吉岡の妻・お辰(倉田マユミ)に預ける。お辰は松島一家が来たのを見て、琴糸を裏から逃す。裏の家のおばさんが小林佳奈枝。出入りのはずが手打ちになり、帰って来た朝吉は松島一家を見て隠れる。吉岡は朝吉を匿うことを渋り、その薄情さに憤って、貞は、杯を返し、朝吉を親分と立てて、一家を去った。
 琴糸は隣りの娘・お絹(中村玉緒)が逃した。貞はお照(藤原礼子)といい仲になる。松島一家(須賀不二男ら)を懐手の拳銃(みせかけだけ)で脅して追い返した朝吉。お絹と夫婦約束をさせられる。様子を探りに行ったお照とお絹の二人から、吉岡が半殺しの目にあったこと、琴糸は松島に捕えられて因島へ売られてしまったことを聞く。
 朝吉は金の無心に親戚を尋ねようとする途中で、有馬にお千代がまだ暮らしていることを聞き、お千代に金を借りる。さらにお千代の薦めで、お千代と組んで金満家相手にイカサマ博打で資金を得る。お千代のもとにあった拳銃も借りてくる。
 因島にのりこんだ朝吉と貞。渡海屋の仲居おしげ(阿井美千子)の協力を得て、大和楼から琴糸の奪回作戦を練る。祭りの夜、貞は琴糸を外へ連れ出し、朝吉に渡した。かねて手筈の漁師(嵐三右衛門、高橋とよ)の船で沖へ出たものの、潮に流されてまた波浮の港へ戻されてしまった。琴糸と貞と三人が立籠った旅館に、島のシルクハットの親分(永田靖)が、子分大勢をひきつれて女を返せと迫る。ピストルで親分を脅す朝吉。旅館の主で子分二千人を持つ島の女王麻生イト(浪花千栄子)が登場。筋を通さずに乗りこんできたシルクハットの無礼をなじり、仲裁をかって出た。手打ちが行なわれ、朝吉と琴糸は必ず因島へ戻って来るという約束で大阪へ。大阪でお絹が「朝吉の家内です」と自己紹介をしたのに衝撃を受ける琴糸。しかし、そのショックを乗りこえ、朝吉の薦めで東京へ行く決意をする琴糸。
 朝吉はイトにわびを入れるために因島で戻る。イトは浜辺で朝吉をステッキで打ち据える。「なぜ戻って来た。バカ正直者めが」と。朝吉は俺とあんたとどっちが正しいか、起き上がるか倒れるかの対決だと言う。最後にイトは「わたしの負けだ。あんたは名前を挙げ、いいオトコになる」と言って去るが、浜に倒れた朝吉は「そんな名前なんか悪名だ」と言う。

       映画川柳「酒飲めず やくざ嫌いで 女好き」飛蜘

 田中徳三監督のオーディオ・コメンタリーがある。聞き手はミルクマン斎藤。聞き手は若いのに昔の映画に通じています。
 “河内弁の指導は河内出身の大部屋俳優がやってくれたが、水谷八重子は九州出身者という設定だから標準語に近い言葉でもよかった。新派の劇みたい。いちばん大変だったのは、勝ちゃん。深川生れの江戸っ子だったので一番苦労したと思う。
 盆踊りからラブシーンまで絵コンテで30カットくらいを考えていたが、撮影当日に「普通」過ぎて感情が出ないと思い、あまりカットを割らないやり方に変更した。スタッフは溝口組そのまま。すぐに対応してくれた。宮川一夫さんとは助監督時代からの付き合いでレンズの使い方やら、いろいろなことを教わった。
 モートルの貞に田宮をキャスティングしたのは吉村監督『女の勲章』で注目したからだが、クランク・イン直前に初めて顔を出し、端役ばかりで目が出ないから俳優を辞めようと思っていると言いに来た。これに出演してからでもいいじゃないかと止めた思い出がある。勝ちゃんは「悪名」や「兵隊やくざ」のようにコンビを組むといい所がきわだつような気がする。
 この作品は大映京都撮影所の大部屋俳優さんたちがたくさん出演していて、ワンカットでも存在感を出している。東京ではこうは撮れない。
 永田靖が最初にシルクハットだけしか登場しないのは、舞台出演のためスケジュールがあいていなかったため。本物のテキヤたちを集めた撮影で、その日しか撮影可能じゃなかったから。浪花千栄子の役は最初は清川虹子のつもりだった。浪花はアチャコと一緒に喜劇を演じていたから、視聴者のイメージと合わないかもしれないと心配していた。ラストの朝吉のセリフは依田さんに書き足してもらったもの。当時はしょっちゅう現場で書き足してもらったものだ。
 着流しヤクザなんか本当はいなかったが、朝吉は着流し。任侠映画で後に東映が着流しヤクザを売り出したときに、着流しも特許にしておけばよかったねと冗談を言い合ったもの。
 原作の大部分を1作目で使ってしまったので、2作目はヤクザ否定の話を創った。”
2010年1月11日


TBS 21:00〜
Wの悲劇


TBS
2010年
約120分
 原作・夏木静子、脚本・岡田惠和、監督・佐々木章光。映画では夏木のミステリーは演劇少女の演ずる舞台劇として、一部が出てくるだけで、直接関係は無かった。身代わりの犯人という設定が共通するという複雑な構造の脚本でしたが・・・・。
 今回のテレビ化は夏木の原作そのものをTV映画化したもの。狂言回しにあたる一条春美(菅野美穂)は、TV化オリジナルの設定ではないでしょうか。なんとなくそんな気がします。
 春美は2年前にアルバイト先のキャバクラで知り合った"マロン"魔子(谷村美月)に年の暮れに北海道の別荘へと招待される。人間観察にたけた春美は和辻一家のドロドロに興味を持つ。その晩に魔子が祖父の和辻与兵衛(津川雅彦)を刺殺したと階段を下りてくる。妻・みね(池内淳子)が家の名誉を守ることを優先させる。医師・間崎(香川照之)が死亡時刻を偽装、強盗に刺殺されたことにしようと計画する。魔子がいったん東京に帰される。弟・繁(江守徹)、卓夫(成宮寛貴)、洋兵衛の娘で魔子の母・淑枝(真矢みき)、その夫・道彦(中村橋之助)らが偽装工作に励む。
 中里刑事(小日向文世)が捜査をし、正月早々、転勤したばかりの署長(武田鉄矢)が記者発表をするが、発表のたびに容疑者が変わり、あきれられる。
 偽装工作は完全だったはずが、故意に誰かが偽装を暴くような手がかりを警察に残してしまい、一同は戦々恐々とする。
 NHKの『坂の上の雲』で兄妹役の香川と管野が、本作では偽装をする見知らぬ男女で、最後では結婚する約束をする。菅野美穂がみもの。

       映画川柳「女三十 ドロドロ上等 楽しめる」飛蜘
2010年1月9日


DVD
兵隊やくざ強奪

大映
1968年
80分
 シリーズ第八作。脚本・舟橋哲郎と吉田哲郎、監督・田中徳三、撮影・森田富士郎、照明・伊藤貞一、美術・内藤昭、音楽・鏑木創。戦争が終わった中国を舞台に欲の渦巻く人間模様が展開する。『兵隊やくざ脱獄』に次ぐ傑作でした。
 戦争が終わり、敗走し南下する兵隊は満人の武装蜂起に出会い、途中で殺されることも多かった。柵や木に吊るされた兵士たちを有田と大宮は目撃する。瀕死の兵士たちに残った乾パンを与える二人。その後、終戦を信じない関東軍に監禁された。中隊長は加藤(須賀不二男)。抗日ゲリラの女(佐藤友美・松竹)を取り調べる松川大尉(夏八木勲・東映)は拷問に耐える女を銃殺にする決定を下す。
 途中で助けた兵隊たち(江守徹、千波丈太郎)が抜け穴を使って牢屋に来るが自分たちだけ小屋の缶詰を持ち去り、有田と大宮を救出しない。ネズミが縄を噛み切って、外に出た二人は銃殺直前の女を助けた。しかし、途中で女は姿を消し、代わりに赤ん坊が棄てられていた。大宮は赤ん坊を助けようと言うが、有田は世話ができんと捨てておけと言う。いったんは棄てたままにしておこうと思ったが泣き声を聞くと、二人は非人情を貫くことができない。赤ん坊と一緒の旅になる。有田は離ればなれになったときの落ち合う先は宋家屯と決める。赤ん坊は深川の手ぬぐいを持っていた。日本人の子であろう。
 ヤギを盗もうとする大宮。そのとき、有田は民族解放軍に捕縛された。赤ん坊は置き去りだった。解放軍は日本軍に奪われた軍資金十万ドルを探索していた。有田は金のありかを知っているとウソをつく。見張りを分け前で騙して脱出する有田。支那服を着てごまかす。
 極悪兵隊たちは加藤部隊が全滅した跡を探す。松川はいない。十万ドルを盗んだ兵隊というのは松川たちだった。兵隊たちは大宮と出会う。大宮は意趣返し、そこへパーロが来る。喧嘩を止めて岩陰に隠れる男達。折悪しく赤ん坊が泣きだす。泣かすなと押さえこまれた赤ん坊は死んだ。怒る大宮、しかし赤ん坊は死んでいなかった。大宮は兵隊たちが松川と一緒に盗み、横取りされたという金貨を分けると言われるが、断る。その代わり、かれらの持ち金を奪う。
 ヤギと出会った有田は泣き声を手がかりに大宮を探すが、泣いていたのは別の赤ん坊だった。撃たれて足を負傷する有田。 
 一方、赤ん坊と大宮は中国人と出会う。強い人を探しているという男は、クラブで接待の女(小林直子)を紹介する。その後、クラブのボスから大宮は博打場の三人(金内吉男ら)を片づけてくれと依頼される。大宮は賭け勝負に出て、彼らのイカサマを暴くが、実は彼らは解放軍、大宮は外を出たところを連れさられる。解放軍・交渉係(伊達三郎)に金のありかを問われるが、大宮には分からない。言い残すことを聞かれて赤ん坊のを面倒をみてくれと頼む。銃殺直前に部屋に来た女が大宮の釈放を命令する。サングラスを取ると、女は大宮が助けた秋蘭だった。彼女は日本の学校を出て日本人が好きだという。しかし、盗まれた軍資金を取り戻さないと日本人を帰国させることはできないと言う。大宮は「俺は日本男児だ」と、金を取り戻す約束をする。 
 クラブのボスの正体は松川だった。松川は自分の正体を知る助手と女を殺して、日本へ逃げようとしていた。車で逃走する途中、加藤部隊の全滅の跡へ立ち寄った。焼け跡から隠した金貨を掘り出すのだ。車に潜んでいた大宮が現れる。金の袋が掘り出されて二人の争いになる。二人がもみあううちに拳銃が発砲。倒れたのは松川だった。
 10万ドルを解放軍に返す大宮。足止めをくっていた日本人が帰国できることになった。あの極悪兵隊たち三人もトラックに乗っていた。大宮は三人に金を返す。有田を探すが、見当たらない。トラックが出た後で、荒野を足をひきずって歩いてくる有田の姿があった。再会を喜ぶ二人。赤ん坊と一緒に内地へ帰って、隅田川のポンポン蒸気に乗らなくちゃとはしゃぐ。

       映画川柳「日本兵 解放軍から 強奪す」飛蜘

 だいぶ後に制作された唯一のカラー作品『兵隊やくざ火線』(増村保造監督)を除き、白黒の『兵隊やくざ』シリーズを全作見た。ベスト3は(1)『脱獄』、(2)『強奪』、(3)第一作となる。これらはどの作品ももっと高く評価されてよい。第8作は森田富士郎の撮影が、きわだって素晴らしい。

【参考書】『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ、2006)より、田中徳三いわく、
 “だんだんと話が、軍隊から離れていくのが多くなってきて。最後のほうは、戦争が終ってね。そうなってくると、面白くない。痩せ衰えた「兵隊やくざ」になって。敗戦で、ごったがえしてるような、そこでなんぼ大宮が暴れ回ったって、面白くならないですよ。だから、話自体が作りようがなくなるわけです。僕が撮った最後は、68年の『兵隊やくざ 強奪』ですか。このへんはね、民間人になってる大宮とか、やっぱり魅力がなくて、話自体がつまらなくなってますね。まァ、シリーズものというのは仕方がないね。
 だから「兵隊やくざ」に関しては、ひっくるめてね、その作品がどうこうっていうのじゃなしに、シリーズというものがね、だんだんと先細りっていうかね。手がなくなっちゃうんだあなぁ。”
 「週刊文春」2016年2月11日号<春日太一の木曜邦画劇場第178回>で『兵隊やくざ 強奪』を取り上げた。兵隊やくざを「BL(ボーイズ・ラブ)眼鏡」をかけて見ると、大宮と有田の関係はただごとではない、8作目で二人はもはや子育てをしている夫婦にしかみえない、当時の日本映画の先進性に感心しないではいられないという指摘である。本作を肯定的に評価した初めての批評。
2010年1月8日


DVD
兵隊やくざ殴り込み


大映
1967年
89分
 シリーズ第七作。脚本・笠原良三と東条正年、監督・田中徳三。撮影・武田千吉郎、音楽・鏑木創。
 二人が居候している部隊の分隊長(伊達三郎)に大宮と水巻は郵便物受領を命ぜられる。郵便物の中に大宮宛てがあり、字の読めない大宮はきっと梅香からの手紙だろうと水巻に読んでもらう。軍旗室の前だったので通りがかった香月少尉(細川俊之)に制裁されるが、水巻をかばった大宮は香月に戦友をかばったことをほめられる。上官からほめられたことのない大宮は香月に一目おく。分隊へ戻る途中で糧食を取りに行った黒磯一等兵(丸井太郎)に会った大宮は見張りの班長を気絶させ、油を奪い、池へダイナマイトを放り込ませて魚を捕り、天ぷらにする。上官に見つかるが分け前をやる約束。食事時間にみんなで魚を食べるが、有田は臭いが変だと食べない。点呼があるが、有田の分まで食べた大宮は腹痛。腹下しで便所にかけこむ。次々に兵隊たちも同様に。有田は油がヒマシ油だったと推定する。混雑する便所の使用区分でトラブル。 
 連隊は軍旗に敬礼。大宮「(軍旗がみすぼらしいので)ハタ作る布がない」、日本もおしまいだと感ずる。相撲大会で大宮が勝っている。決勝戦の途中で女郎たちがやって来る。女のなかに明美(野川由美子)がいる。ヨソ見をしていた行司役の赤池曹長(南道郎)は大宮が負けたと判定、それを香月少尉が正して大宮の優勝と決まる。大宮は優勝でもらった酒を「少尉と一緒に飲みたい」と少尉の部屋を尋ねる。読書中だった少尉が女は未経験だと聞いて大宮は驚くが、酒もそこそこに自分は慰安所へ急ぐ。近道をしようとしてかえって泥池に落ちてしまう。慰安所に着くと有田が待っていた。女はほとんど残っていない。大宮にあてがわれた女、さつき(岩崎加根子)は与謝野晶子の短歌や詩の話ばかりする文学少女で大宮は閉口する。なにわ節を歌ってごまかすが・・・。赤池曹長と滝島准尉(小松方正)は香月や大宮に不満をもらし、大宮から有田を切り離す計画を練る。
 霧の夜、遠くに信号灯が上がる。他の部隊が全滅したとのことで、分隊に斥候の命令が出る。有田には急に師団で暗号教育を受けよという転属命令が出た。滝島の陰謀である。期間は三か月、有田は大宮宛ての手紙を書いて枕にはさむ。斥候から帰った大宮は有田がいないので悶着を起こす。戦友が手紙を見つけるが大宮には字が読めない。
 赤池は慰安所の上がりをピンハネしている。稼ぎが悪い女郎をもっと働けと殴る。大宮が分隊を無断で外出、さつきを尋ねて来る。手紙を読んで欲しいのだ。赤池に殴られたさつきに代わって病気の夕子が読む。有田は自分が帰るまで無茶をせず我慢しろと書き置いていた。しかし、大宮は女を殴った赤池を殴り、重営倉の処分を受ける。赤池や滝島は大宮に減食や苦役(肥かつぎ、薪割り)を課す。通りがかった明美が止めた。 
 一方、ひどい懲罰を目撃した水巻は香月少尉に直訴、少尉は副官・影沼(安部徹)に正当な扱いを要求するが、副官は大宮は上官侮辱罪、再考の余地はないと冷たい。明美が大宮を優しく誘惑し、大宮もその気になるが、副官室に急に副官がもどってきて、かえって重い懲罰を受けてしまう。営倉で手足を縛られて転がっている大宮。
 有田が成績優秀でひと月半で復帰して来た。有田は営倉の側で見咎めた士官に大声で返答し、大宮に自分が帰って来たことを知らせる。少尉は有田と話す。少尉が手を回して原隊復帰を早めたのだった。
 有田は赤池や滝島、影沼らの不正を暴露する遺書を暗号書にしたと、脅喝し、大宮を暗号室勤務にしろと申し入れる。暗号室勤務になった大宮に有田は戦局がいっそうあぶないことを告げる。久しぶりに有田に公用章を渡された大宮は途中で農家のアヒルを取って、明美のもとへ。しかし、慰安所は閉鎖、明美は称徳の日本人は張家江まで引き上げろと命令が出たと説明する。俺たちは綺麗なままで別れるんだなと感慨にふけっている・・・ヒマはなかった。死んだ夕子を見捨てて出発しようとする女郎屋の主人を殴り、女たちと別れた大宮が、分隊でも夕子の霊を弔っているときに、緊急指令が入り、非常呼集がかかる。 
 軍旗を移動する命令を受けた香月少尉の分隊は谷間に入ったところをゲリラに撃たれる。通信で襲撃場所が大岡廟付近と聞いた大宮はひとりで駆け出す。
 殴り込みといっても、大宮が着いたときにはもはや分隊は全滅していた。ゲリラがたてこもる民家のヤグラにボロボロの軍旗が上げられていた。その軍旗を取り戻すために大宮は敵の民家に突っ込んでいく。途中、転がっていた赤ん坊を抱き上げ、ケガをした中国人の母親に返す大宮。そのときは撃つのをやめた抗日軍。ひとりで突撃し、軍旗を奪還した大宮。軍旗を奪還を使命としてやって来た分隊に会い、先頭に立って香月少尉の軍旗とともに帰還する。
 暗号室では資料を燃やしていた。有田「戦争は終わっていたんだ」。大宮はそれならまだ「後始末がある」と、将校室へ。三人が貴重品を分けあってていた。大宮「日本が負けりゃ軍隊なんかないんだ」と彼らを殴り倒す。日本で悪いことをしていたらぶっ殺すゾと。
 有田は大宮に「これからはお前が俺の上官だ」と告げる。二人は意気揚々と軍隊を出て行く。

        映画川柳「ボロボロの 軍旗が重い 命より」飛蜘

 戦争が終結していたのに、軍旗を護送する命令に準じる無意味さが際立つものの、大宮ひとりでゲリラを全滅させる展開は非現実的に過ぎる。あり得ない。カッコ良すぎ。
 前作の『俺にまかせろ』のトーチカ奪還もあり得ない戦闘だ。こうして見ると、やはり第四作『兵隊やくざ脱獄』が前半の刑務所と後半の最前線との対比も鋭く、原因不如意な喧嘩もなく、傑作でした。
2010年1月8日


DVD
兵隊やくざ 俺にまかせろ

大映
1967年
89分
 シリーズ第六作。脚本・高岩肇、監督・田中徳三。撮影・宗川信夫、音楽・鏑木創。
 昭和二十年北満。前作のラストで軍隊に戻ってしまった二人は、特攻訓練をきびしく指導する岩兼曹長(内田良平)の木崎独立部隊に入っていた。孟家屯付近である。部隊長(須賀不二男)と田沼参謀(渡辺文雄)は、徐々に南方に対応する作戦に変更しなければならないとの命令を受けていた。田沼は中国人の密偵・趙を使っていた。趙はゲリラは撤退気味だと報告する。
 兵舎の大宮に会いに来る木崎隊の三人と殴り合う大宮。部隊長は孟家屯付近で襲撃を受けたという情報を受け、趙からの情報と異なるのを気にする。
 物干し場で下着が一枚多いのに気付いた竹内(酒井修)は一枚を懐に入れる。その後、盗みの調べが入る。鉄拳制裁が始まり、大宮は自分が盗んだと申告するが、有田は目撃兵がおどおどしているのに気付き、「盗んだのがそっちのほうが先らしい」と喝破する。竹内は自分が盗んだと言うがもはや紛糾してしまい、名誉が傷ついた岩兼は怒る。岩兼は大宮と外に出て、「軍律なし」の約束で殴り合う。ところが、参謀に止められる。私闘は禁止だ。「上官を殴るとは」と大宮が処分されそうになるので、岩兼は弁護する。しかし、田沼は耳を貸さない。怒った大宮は田沼の参謀憲章をむしり取ったため、なおさら罪が重くなる。重営倉である。
 田沼と小学校で同級生だった有田は大宮を許してくれと依頼するが、田沼は「私情を捨てること」こそが出世には大切だと主張する。有田は貴様は野元きぬ子を捨て、中将の娘と結婚、きぬ子は自殺した、そんな都合のいい私情があるもんか」と非難するが、田沼は「公私混同はしない」と強硬だ。
 有田は営倉の大宮にタバコを差し入れ、さらに缶詰を差し入れして落としてしまい、見張りに発見され、自分も営倉入り。わざと入ったのである。
 一方、部隊には孟家屯(モウカトン)から緊急連絡。敵襲だという。田沼は2個分隊で行かせると主張する。隊長は1個大隊でも大変だと言うが田沼は耳を貸さない。岩兼部隊に命令を告げる。田沼は密偵にも部隊の動きを伝える。岩兼は密偵なんかに軍を動きを伝えるのはと懸念を表明するが、田沼は問答無用だ。後の展開で田沼はこの密偵の裏切りを計算していたことが分かる。二人も営倉から出され、木崎部隊へ入る。
 トラックで進行中、敵が鏡で連絡し合っているのを目撃。完全に動きが読まれているようだ。馬ですれ違った農夫も無線機を隠して運んでいた。運転手の横井が撃たれ、野火で火葬した。
 周りは敵でいっぱいだ。有田は「田沼を幼な友達だからと信じた俺が悪い」と話すが、大宮は「くよくよしないでのんびりいきましょう」と前向きだ。街にはまだ慰安所があった。今日で閉所、最後の晩だった。大宮は第1作の音丸の妹分(長谷川待子)と部屋に上がる。「さらばラバウルよ」の歌声が聞こえる。
 翌日、トラックで移動中に民家付近から襲撃され、防戦。民家には傷ついた女・秀蘭(渚まゆみ)が隠れていた。女は日本語が分からないらしい。岩兼は運転出来る大宮にトラックで女を町へ送らせる。有田も一緒だ。途中で女は熱を出す。弾が入ったままだからだ。このままでは死ぬ。有田と大宮は女の弾を抜く。しばらくして、ゲリラに襲われ、有田は崖から追い落とされる。大宮はゲリラに捕われる。秀蘭は趙の妹だった。彼ら兄妹の両親は日本軍に殺された。一方、前線でも、もと時計工の竹内(酒井修)は時計の修理に余念がない。大宮が運転したトラックが発見されたという情報が岩兼隊の野口通信士に入り、彼は投降したかと疑う。
 有田はゲリラに捕われた。大宮のもとへ秀蘭が来てロウソクを消す。いよいよ死刑の宣告かと覚悟する大宮に、秀蘭は「あなたの思い通りにして下さい」と話す。日本語ができたんだ!目覚めると、枕元に匂い袋があり、「もう二度と会えないでしょう。孟家屯には行かないで下さい」と書かれた手紙が置いてあった。しかし、大宮には字が読めない。外へ出るとゲリラは出発してもういなかった。荒野で有田は木に逆さに吊るされていた。有田を救出して大宮は義侠心のあった岩兼懐かしさに孟家屯に行く。
 岩兼はトーチカにたてこもって防戦していた。大宮と有田は後方からゲリラを撃つ。
 景徳珍の大岡部隊が無事集合したことが参謀のもとに入る。岩兼部隊の動きは敵の攻撃を誘導するための偽装だったのだ。援軍を投入せず、死守せよとの命令に首をかしげ、さらに大岡部隊集結を知って、岩兼は利用されたことに気づく。「俺たちを囮にしたんだ」と。
 やがて、岩兼も銃撃で倒れた。二人がやっとトーチカ内に駆け付ける。死に際に岩兼は「敵と闘って死ぬのは本望だが、味方に騙されるのは御免だ」と言う。
 トラックで二人は景徳珍に向かう参謀の車を待ち伏せ、田沼を殴って、荒野に置き去りにする。

        映画川柳「最期まで 直した時計が 爆風に」飛蜘

 前作で、既に満州はほとんど負け戦さ。軍隊の規律もゆるんで、二人は脱走していたので、本作の話には無理がある。
2010年1月7日


DVD
新・兵隊やくざ

大映
1966年
85分
 シリーズ第三作。脚本・舟橋和郎、監督・田中徳三。音楽・鏑木創、撮影・中川芳久。嵯峨三智子が出演しているので楽しみ。
 ガス欠で止まるトラック。トラックを捨てて歩く二人。突然、パーロ(中国人産ゲリラ)たちに襲撃されるが、日本軍も来て銃撃戦となる。廃屋に隠れて難を逃れる。
 二人は斥候に出たところをパーロに襲撃されたと言い訳する。既に彼らのいた4242部隊は前線に出てしまった。新しい中隊に編入されたが、隼という異名をもつ鬼部隊だった。
 起床ラッパが鳴ったが、有田は腹痛、大宮は頭がおかしいと理由をつけて練兵をズル休み。そこへ古参兵が来て治療と称して大宮を殴る。途中から大宮が反撃。分隊全員がケガをして、練兵休になった。どうせ休みだと風呂に行く大宮。有田は憲兵が見回りに来たのを見て、便所へ立つ。そのまま有田は風呂で裸の大宮に告げ、二人で逃げ出す。荒野の途中で会った中国人の衣服をはぎ取る。そのまま、貨車で天津(テンシン)へ逃げ、潜行。
 しかし、金が尽きた。軍隊で衛兵の豊後(藤岡琢也)に接近、話しているところへ隊長がやって来た。とっさにを大宮は「我々は芸人、俺は浪花節語りでこっちは三味線弾き」とウソをつく。慰問目的で食べ物にありついた二人の側へ豊後がやって来て、「お前ら兵隊だろ。兵隊は独特な臭いがするんや」。豊後は将校たちが好き勝手に軍用品を横流しして私腹を肥やしているのに腹を立てていた。二人に盗みの勧誘に来たのだ。夜に巡回中、倉庫の錠を開いておく。そこへ侵入して砂糖を横流ししようという計画だ。作業の途中で見張りの少尉に見つかってしまう。分け前をやるから黙っていろと脅した。翌日、少尉は取り分を取りに来たが、額が少ないと不平を言う。脅しをかけてくる少尉に対し、有田は「出るところへ出してもらおう」、将校たちが軍用物資の横流しをしているのを逆に暴くゾと脅す。
 芸者遊びをしても有田は気分が乗らない。芸者のなかにひときわ目立つ桃子(嵯峨美智子)がいる。店は朝鮮人の根上(遠藤達雄)が経営している「竜宮」。憲兵が呼ぶと女たちは皆、憲兵の方へ行ってしまう。むくれる大宮に根上はちょっと面白いところと、賭博場へ案内する。
 最初はついて勝ちまくったが途中からは負け続け。とうとうスッカラカンになり、根上から借りた金も採られ、拳銃まで賭けて取られてしまう。
 借金のかたに竜宮で働くことになる。洗濯や清掃、日当はたったの30銭だ。大宮は桃子から、賭博場へ誘いこんで金を巻き上げるのはいつもの手口だと説明される。女たちと食事をしながら、一日10人以上客を取らないと一食抜かされる等とあこぎな話を聞かされて、大宮は義憤にかられる。いっそまとめて「女たちを足抜きさせる」ことになる。夜、店を抜け出し、一晩歩き続けて荒野へ逃げた女たち。途中で、有田は「ここで解散だ。自由だ」と宣言するが、女たちはこんなところで放り出されても困る、竜宮へ帰るしかないと不満を言う。大宮は「ピーヤ(兵隊相手の売春宿)をやりませんか」と提案、女たちは喜ぶが、有田はいやだと意地を張る。しかし、大宮の「大将がダメだと言ったら、オレには出来ない」との言葉に負けて、有田と大宮はピーヤ「いろは」を開店。女たちに給金も渡して経営は順調だったが、竜宮の連中が来て有田を殴り、店を壊して行く。泥棒よばわりされた有田は女たちの借金分はもう元を取ったはず、それ以上働かせていたんだからもう十分だと抗弁する。留守だった大宮には明朝8時一対一で勝負と呼びだしがかかる。
 朝、新しいサラシを腹に巻いて出かける大宮。現場で待っていたのは根上だけではない。介添え(神田隆)役だが、実は憲兵隊の隊長、大宮の後を追って来た有田も介添えを申し出る。拳銃を向ける隊長をかわしたところへ、青柳憲兵(成田三樹夫)が来る。根上と隊長は逃げる。憲兵を誤魔化したものの、どうも仕組まれた芝居ではないか。
 その後、竜宮の連中はやって来なかった。いっときの平和が来る。豊後は桃子を一万人にひとりという掘り出しものだと言う。有田は「兵隊は靖国に祀られるが、女たちはこきつかわれて死んでいく」と女たちに情が移って来たと言う。
 大宮は桃子に夜這いをかける。桃子も大宮が好きだと答える。確かに桃子は最高だった。豊後は有田と同意見で、「そら、結婚せなあかんで。そうしないと他の女にしめしがつかん」と助言する。大宮「結婚てのはどうやる?」。豊後には坊主上がりの上州(玉川良一)という友人がいた。この男に坊主代りをさせて三々九度の儀式を行う。晴れて二人は夫婦となるが、「永遠に一緒」などというのは大宮の性に合わない。簡易結婚式の後、有田は妙に孤独を感じた。そこへ大宮が妻を一人にして有田のもとに来る。大宮「上等兵どのの世話は自分がします」と言う。
 青柳憲兵が来る。二人が脱走兵であることの調べはついているが、まだ捕縛するつもりはないらしい。そこへ、豊後が来て憲兵にからむ。豊後が「あのことを知っているぞ」と言うと、青柳は表情を変えて帰っていった。豊後は「青柳は女と男を殺している」と話す。その夜、暗闇で豊後が撃たれて殺された。二人は青柳の犯行を疑うが。証拠がない。
 店での豊後の葬儀の席に青柳も来た。青柳は有田に落ち合う場所を伝える。犯行の確証をつかんでいない。
 大宮は有田に同行するというが、有田は断る。有田は「俺のやりかたでやる。そんなに俺が信用できんのか」と怒る。有田が去った後、逡巡する大宮を桃子が「私のことはいいから、行きなさい」と諭す。
 青柳の取引は「ひとり五千、二人で一万」の口止め料を出せということだった。そんな金はない。断ると有田と大宮は憲兵たちから激しい拷問を受ける。このままでは死ぬ、有田は隊長に「差しで話がしたい」と申し出て、いったん拷問を辞めさせる。有田は「隊長の賭博や阿片など不正を暴露する、青柳の犯罪を訴える」と説くが、隊長は「釈放しろ」と伝えて、収監。有田は釈放というのは「冷たくなって出るんだ」と教える。青柳が手錠の鍵をはずして油断したとき、大宮が青柳の腕を締め上げる。二人は獄舎を出て、隊長室に殴り込み。手瑠弾も使って憲兵隊を大混乱させる。
 サイドカーに飛び乗って憲兵隊所を脱出。次に続くのだった。

        映画川柳「嫁御にも 束縛されない 自由人」飛蜘 

 嵯峨美智子は飛びぬけて色香を発散しているが、展開にはやや納得のいかないところがある。女たちが全員すぐに脱走に賛成すること、青柳の行動が不可解なままであること。今作は軍隊内部というより、街中へ出た二人の行動が描かれる。

【参考書】 『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ、2006)より、田中徳三いわく、
 “これは原作がある程度あるんです。・・・・この作品では藤岡琢也さん、この軽妙さがね。それから成田三樹夫の個性のある芝居。”
 原作の有馬頼義『続・兵隊やくざ』(光人社NF文庫)より「潜入」「梁山泊」を脚色。
2010年1月7日


DVD
続・兵隊やくざ


大映
1965年
91分
 シリーズ第二作。前作で機関車で脱走を図った二人の続篇。脚本はこれ以降、舟橋和郎に変わった。監督・田中徳三。音楽・小杉太一郎、撮影・武田千吉郎。音楽や撮影は一定しないが、さすが大映で、どの作品も水準以上。田中徳三監督作品には、ところどころ、ゆるい息抜きやお笑いの場面がある。この作品では芦屋雁之助・小雁の登場場面がそれに当たる。第一作は有田上等兵の語りがところどころに入っていたが、この作品では途中から大宮の語りに代わる。映画の観客に話しかける形だが、成功しているとは言えない。物語を手早く進行させるためのその場しのぎの措置でしかない。
 機関車は途中の線路が爆破され脱線し、雪の荒野に投げだされる二人。ふと気がつくと美人の看護婦がいる。奉天の陸軍病院だ。二人ともなんとか命をとりとめたのだ。大宮は看護婦の緒方恭子(小山明子)に惚れる。
 憲兵伍長の取り調べがあったが、有田は大宮と二人で警備役として前に来たが、いつのまにか列車が離れてしまったのだと主張する。客車が離れたために、部隊は爆破を逃れて助かったわけだし、敵による損害を過少評価したい関東軍はこの事件を極秘扱いとする。やがて、原隊復帰・除隊のはずが、北支の4242部隊に転属を命ぜられる。退院直前に大宮は緒方恭子に「あなたの毛を下さい」と無心する。翌日、こっそり紙に包んだものを落として渡す恭子だった。大宮は小躍りして喜ぶ。
 二人は九龍関の隊長・多久島中尉(須賀不二男)の部隊に配属される。訓練という苛酷な演習がある。
 大宮が一番風呂にこっそり入っていると、三中隊の軍曹たち(芦屋雁之助・小雁)がやって来る。勝手に大宮を上官と思い込み、背中を流したり・・・正体がわかる前に風呂場を出たものの、忘れ物から大宮は一等兵だということが分かってしまう。
 大宮は三中隊による制裁を受ける。有田が止めに入って、大宮は反撃。有田は三中隊の目をくらますために、大宮を乙官上がりの八木曹長(上野山功一)や岩波曹長(睦五郎)の当番兵に推す。当番兵は将校の生活係である。急に大宮のナレーションに変わる。八木と岩波の花札博打に加わり、金をもうける大宮。
 大宮は恭子宛てのラブレターの代筆を有田に頼む。岩波の相手で芸者・染子(水谷良重)が官舎に来る。裸の染子の背中を流したり、愛欲場面を隣室で聞かされたりした大宮ははね起きて慰安所へ駆けつける。夕食時間の後は下士官だけしか受け付けない規則だが、そんな規則は破るに限る。なじみの芸者と部屋に上がる。  
 翌日、木村初年兵が脱走する事件が起こる。岩波が捜索で外出中の官舎に、染子が八木曹長を訪ねてくる。染子は岩波を嫌っていて、八木が好きなのだった。驚く大宮。そこへ、木村を捕えたと岩波が帰って来て・・・ひと悶着。岩波は染子を「売春婦」よばわりする。押し入れに染子を匿った大宮は当番兵を首になってしまった。
 部隊はゲリラが潜む部落を攻めるが、既に村民は逃亡した後で、。病人の老人と看病するクーニャンしか残っていなかった。隊長は老人を取り調べもせず、パーロだと決めつけ、初年兵に突き殺させろと命ずる。岩波曹長が初年兵に命ずると、有田が抗議する。パーロだという証拠が無い、老人はただの病人だ、国際法では捕虜は丁重に扱うべしと定められている、たった一人の無実な村人を殺して全中国人を敵に回すのは損なはずと。岩波は怒る、「おまえ、反軍思想だな。構わん、(初年兵に)殺れ!」。有田「(初年兵に)無謀な命令に従う必要はない!」。八木が仲裁に入り、隊長は命令を変更して、捕虜は納屋に監禁された。
 大宮は有田に感心するが、有田は「このままではすまないぞ」と警戒する。案の定、有田は黒住兵長(五味龍太郎)や古兵達に制裁を受ける。大宮は有田の仇打ちとばかりに黒住以下全員を相手に大げんか、隊長が命令したことを知って、大宮は八木のもとで隊長を糾弾する。しかし八木はそんなことをしたら有田の立場が悪くなる、制裁を受けたため有田は軍法会議を免れそうだと諭す。隊長がクーニャンを呼ぶ段取りをしているのを聞き、大宮は見張り番を殴り倒して、二人を逃がしてしまう。大宮はケガをして外で寝ている有田と一緒に星空を見上げる。静かな夜である。有田「軍隊がなければお前という男と出会うこともなかったな。お前は自然で自由な人間だ」。捕虜が逃げたと騒ぎになるが、間もなく初めての敵襲だ。戦闘の最中に岩波は背後から八木を撃つ。
 敵が去った後で、重営倉の懲罰をくらった有田、捕虜の見張りだった兵隊たちも重営倉の懲罰を受けた。食事を運ぶ大宮は東京大空襲があったという話をする。1945年3月である。有田は八木が背中から心臓を撃たれていると大宮に話す。撃ったのは八木と反目していた岩波だろう、岩波の拳銃の銃弾を調べる必要があると二人。大宮はきっと証拠を手に入れてみせると決意する。八木の死体は火葬に付された。官舎で霊を弔うからと岩波は大宮を呼ぶ。官舎に染子も呼ばれていた。染子は「帰る。誰にも惚れやしない。兵隊なんか大嫌いだ」と言うが、岩波は嫉妬で怒り、染子に「坊主になれ」と無理を言う。二人が争っている間に大宮は岩波の拳銃を取る。
 数日後、救護のトラックがぬかるみにはまったとの連絡が届く。救出に駆け付けた大宮らはトラックを押す。トラックから降りてきたのは緒方看護婦だった。張りきった大宮は一人でトラックを押し上げる(これはちょっと無理な、出来過ぎの逸話だ)。緒方看護婦は隊長に弟の四郎に会わせて欲しいと頼む。隊長は営倉に入っている四郎に会わせるには特別な配慮がいると勿体をつける。有田が営倉を出た。大宮は隊長が恭子を犯そうとするのを止め、隊長を殴り倒す。恭子を弟に会わせるものの、早くも手が回り、岩波や下士官たちに囲まれる二人。有田は軍法会議にかけると息巻く岩波に「おまえこそ軍法会議だ」と証拠の銃弾を示す。狼狽する岩波。暴れ回った二人は部屋から出て赤十字のトラックを奪い、緒方看護婦を営倉前で拾って逃走する。機銃もトラックにはあまり効果がなかった。
 途中で緒方看護婦を下して、二人が乗ったトラックは走り去った。

        映画川柳「上官の 理不尽な命に 従うな」飛蜘 

【参考書】『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ、2006)より、田中徳三いわく、
 “有馬さんの原作は一作目でほとんど使ってるんです。だからこの二作目って、完全にオリジナルなんです。”
2010年1月6日


DVD
兵隊やくざ


大映
1965年
102分
 「兵隊やくざ」第一作。製作・永田雅一、脚本・菊島隆三、監督・増村保造、撮影・小林節雄、音楽・山本直純。白黒映画。敵との戦闘はなく、兵隊どうしの制裁に明け暮れる、刑務所よりひどい関東軍の兵士たち。
 満州の荒野に野ざらしの白骨死体で映画は始まる。満州北部の孫呉(ソンゴ)で、軍隊嫌いのインテリ上等兵・有田(田村高廣)はやくざ出身の初年兵・大宮貴三郎(勝新)の教育係を命ぜられる。准尉(内田朝雄)の考えでは彼の扱いには頭がいいヤツが必要だ、柔よく剛を制すだと言う。歩兵の大宮は、威張り散らして初年兵を殴る砲兵たちと浴場で大ゲンカ。有田は浴場で倒れている裸の男たちの中から大宮を探して逃がす。翌日、砲兵の黒金伍長(北城寿太郎)が敬礼をしなかったと難癖をつけて、大宮を呼び出す。もと拳闘部の黒金の制裁は激しい。三年兵の有田は黒金が二年兵だと知ると、軍隊では年季(メンコの数)がモノを言うんだと命令口調になり、上官でもないお前の大宮への暴力は決闘だ、決闘は禁止されている、したがって大宮がお前を殴り返しても文句は言えないと説明、大宮は反撃に転じ、黒金の指の骨を折り、満足いくまで殴る・蹴る。大宮を止めた有田は黒金に、転んでケガをしたと申告させ、指の骨は大宮を殴ったためだと言わせる。
 師団演習が始まった。70kgの軍装を背負い、三日の強行軍だ。大宮は歩くのは不得意らしく途中で落伍、有田が付き添って夜になってようやく露営地に追い付く。ひとりで丘に登った有田は近くに来ている砲兵の黒金に会ってしまう。軍曹に昇進していた黒金は有田に「おまえは敬礼をしたが、敬礼をしなかったといっても誰も見ていない」と制裁を加える。そして、「大宮に朝6時に来いと言え」と帰す。有田がひどく怪我をしているのを見て大宮は事態を察する。
 翌朝、有田は班長・阿部(仲村隆)に頼んで三年兵を集めてもらう。案の定、黒金は大宮を集団リンチで制裁。歩兵の三年兵が二年兵の砲兵を止め、大宮は再び黒金の腕を折る。
 この事件で内務班は外出禁止の処分を受けた。ところが、いつのまにか大宮がいない。無断で外出したのだ。准尉は脱走したのだと怒る。有田は大宮のことは自分に任せてくれる約束だと、連れ帰ることを約束する。
 大宮は将校専用の芸者屋で音丸(淡路恵子)のところにいた。大宮は、内地へ帰っても誰も待っていない、給料ももらえる軍隊のほうがいいと脱走説を笑い飛ばす。
 大宮の処分保留を訴える有田に准尉は「お前が制裁を加えろ。みんなへの見せしめだ」と命令。殴られたことはあっても人を殴ったことのない有田は、大宮を竹刀で一発殴っただけで止めて去ってしまう。その後、准尉のもとに制裁を受けましたと報告に行った大宮は血だらけだった。准尉はよくやったと有田を褒める。大宮はレンガで自分の顔を殴ったのだ。唖然とする有田に浪花節の一節をうなる大宮。二人の結びつきは強くなる。
 そうこうするうちに大宮は一等兵になった。日本軍はアッツ島で玉砕し、ソ連がドイツに勝利、戦局はきびしくなる。除隊を心待ちにしていた有田は阿部から、除隊と同時に自分たちは召集されることになったと聞く。やけ酒を飲んで帰った有田は、炊事班から制裁を受けた初年兵・野木が脱走したことを知る。捜しに出た歩兵たち。大宮の呼び声にこたえるかのように荒野に銃声が響く。野木は銃をくわえて自殺していた。大宮は自分の声が野木を自殺させたと悩む。軍隊では弱いヤツは生き残れないんだ、気にするなと有田。野木の死体を見に来た憲兵(成田三樹夫)に死体を侮辱された大宮は怒る。
 野木の通夜だと、「いろは」の音丸の元に来た二人だが、ちっとも気勢が上がらない。音丸は胸を病んで死んだ女がいたと慰安婦の死を語る。ヘソ酒を提案する音丸。ヘソ酒?大宮はヘソ酒を説明する。しかし、それでも元気が出ない。満期も除隊もありゃしない。不幸な人間たちのはかない遊びである。大宮は「野木をなぐったのは誰だ」と炊事班に殴りこみをかける。有田が様子を見に行くと、不思議にも大宮は殴った炊事班の連中と酒をくみかわしていた。有田は大宮に班長・石神軍曹(早川雄三)が炊事場での乱闘を抑止するための計略だと教え、いろはの班長のなじみの女・みどり(滝英子)から砂糖など石神の横流しの実態を聞く。有田が情報を収集して班に帰ると、既に大宮は炊事場に呼ばれた後で、外で集団リンチを受けていた。有田は石神に「砂糖の横流しを暴くぞ」と脅す。石神は大宮と一対一の勝負をすると言う。石神と大宮の決闘が始まる。分が悪くなった石神はドスを手にする。大宮は有田から短刀を受け取る。斬り合いの後、手からドスを叩き落として大宮は完全に石神を殴り倒す。滝英子は、予告編では客を取り合う場面があるが、本篇には無くなっている。
 慰問団のなかに、大宮の昔の浪花節の師匠(山茶花究)がいた。大宮は組の親分が死んだこと、自分の身代りで刑務所に入った男の家族が貧乏していることを聞き、師匠に金を渡す。家族に届けてやって欲しいと。
 突然、舞台から一個大隊を選抜し南方へ送ることになる。選抜メンバーのなかに大宮もいた、有田は准尉に抗議するが、「クズの兵隊を出すのが慣例だ」と受付られない。挙句に「天皇陛下の命令だ」と来た。有田から様子を聞いた大宮は師匠になにかを頼んだ。翌日、部隊を去る慰問団。トラックのなかに女装した八束(やつか)がいた。八束とともに大宮もいない。有田は「やつは脱走しません」と断言して探しに出る。
 大宮は音丸のところにいた。音丸「ここから北には日本の女は三人しかいないそうよ」。有田が部屋に来る。大宮は「この町が気に入っている。俺は南方へは行かない」と答え、突然有田を殴り倒す。有田が意識を回復すると、阿部は大宮が有田上等兵を喧嘩でたたきのめしたと中隊長に自首したと告げる。中隊長は「部隊の恥になるような兵士は出せん」と判断、大宮は営倉に入っていると言う。南方への兵士は出発してしまった。大宮の七日間の懲罰が明けた日に師団参謀がやって来た。全部隊に動員令が出たのだ。ソ連との戦争が始まる。もはや玉砕あるのみだ。
 有田は「この戦争はダメだ、バカな将校の命令で死にたくない」。大宮は「とうとうこの時が来た。上等兵どのを助ける機会を待っていたんです。逃げましょう。拳銃、弁当、支那服等を、二丁用意して下さい。迷っている場合じゃないぞ」と立場が逆転。音丸は着物を用意して「あたしの分まで生きて下さい」と二人に渡す。
 部隊の出発の日には大雪が降った。列車はハルピンを過ぎ、そろそろ新疆に着こうかというとき、二人は行動を開始。途中で出会った憲兵を殴り倒す。二人は機関士を殴って脅し、連結器を外させる。後ろの列車は停止してしまうが、しょっちゅう止まってばかりいたので、兵隊たちは気がつかない。
 汽車は走る。大宮は「支那は広い、ヨーロッパと地続きだ」と前向きである。仲間たちはその後、レイテ島で全員戦死した。
 
          映画川柳「関東軍 鉄拳制裁で 日が暮れる」飛蜘 

【参考書】有馬頼義原作『兵隊やくざ』(光人社NF文庫)の「貴三郎一代」「裸の街」「歩く」「公用腕章」「おんな」「冬将軍隷下」「臍酒」「告白」「白夜」「賭ける」を脚色。
 川西玲子『映画が語る昭和史』(ランダムハウス講談社、2008)より、「末期の中国戦線を舞台に、戦争と軍隊のばかばかしさを全く違う形で描いた、ユニークな映画を二本おすすめしたい。「独立愚連隊(1959)と「兵隊やくざ」(1965)である。・・・・こういう娯楽映画が人気を得ていたのは、戦争体験者が社会の中核だったからである。このような映画を観ることで、辛くてアホらしかった軍隊生活を思い出し、鬱憤を晴らしていたのではないだろうか。
 暴力が過剰である上、慰安所の場面は女性から見ると実に腹立たしい。それでも映画として面白いし、メッセージも伝わってくる。人間の持つ二つの側面、知性と肉体を有田と大宮に担わせたところが秀逸。こういうところが増村保造の近代性だろう。それにしてもちょっと危ない映画をうまくつくる監督だった」
 川西玲子の『兵隊やくざ』評は残念ながらピントのずれたものになっている。この第1作は有馬頼義の原作にあるエピソードをほとんど採用しているから、増村の近代性を指摘するのではなく、有馬や脚本家の菊島をまず評価しなければならない。慰安所の描写も原作ではもっと踏み込んだもので、女性にとっては映画以上に噴飯ものである。しかし、それが実態だったのだ。『兵隊やくざ』シリーズで描かれる慰安所の女性たちは内地へ帰っても希望なんか無い、流れた果ての満州だという言葉をよく話していて、それは決して肯定的に描かれているわけではない。1作目の音丸の不憫さは他の作品より大きいくらいである。それに、川西は『兵隊やくざ』の1作目しか見ていないようだ。

 『RESPECT田中徳三』(シネ・ヌーヴォ、2006)より、田中徳三いわく、
 “勝新太郎という人は、「小さいときのガキ大将が、そのまま大きくなった人間や」とよく言われていますが(笑)、まさに、この「兵隊やくざ」の大宮はね、勝そのものですね。一番勝さんらしいと思った。やっててね。だからある意味では大宮貴三郎は、勝本人そのものやね。・・・・・それから演出やってて感じたのは、いつもはわりあい勝ちゃんのアイデアってうるさいんだけどね(笑)。この「兵隊やくざ」に限って、勝ちゃんのいろいろなアイデアが、結構、面白かったですね。”

 伊藤桂一『兵隊たちの陸軍史』(新潮文庫、2008。もとは1969年、番町書房刊)より、
 “(兵隊だった)六年六カ月の間、兵隊としての私は、敵--である中国軍と戦った、という意識より、味方--である日本軍の階級差と戦ってきたのだ、という意識の方が、はるかに強かった。陰湿にして不当な権力主義に、古参兵がいかに悩まされたかは、五年か六年隊務についた者は身にしみてわかっているはずである”(p.24)。敗戦時、上海にいた。中国本土での兵隊の生活を記録した貴重な報告で、いわば実録『兵隊やくざ』に相当する。
2010年1月3日

NHK総合
21:30
ふしぎがり
まどみちお・百歳の詩


NHK
2010年
50分
 NHKスペシャル。明治44年11月16日生まれ、100歳になった詩人まどみちお。語りは宮崎あおい。病院で暮らすバナナが大好物のまどさんは「左手にバナナ、右手にタタミイワシ、宮本武蔵から教わった。両刀使いです」と話す。セミをうたった「たいよう ばんざい ざいざいざい」という詩が、印象的。毎日の散歩から病室に戻ると、小さなノートに書きとめる言葉が、詩のタマゴになる。妻・寿美さん93歳は「アルツのハイマくん」だそうだが、お互いの失敗を笑うことで乗り越えることができたようだ。まどさんは、息のつぎに大事なものが「言葉」ですと話す。昭和17年、二篇の戦争協力詩を書いた後、南方戦線に出征した。その協力詩を『全詩集』に載せ後記に謝罪を書いている。
 昭和27年に出来た「ぞうさん」については、「ゾウに鼻が長いということは、お前はヘンだねということと同じ。しかしゾウは母さんも長いのよと答えます。ゾウがゾウとして生かされていることはなんと素晴らしいことでしょう。」と書いている。
 徳山高校放送部が取材を申し込んできた。放送部員の質問に「幸せってなんですか?」というのがあった。まどさんの答えは、「現在を肯定的にみることができれば幸せ」。「ふしぎがり」というのはいい言葉だ。まどさんはクエスチョン・マークは世界にたくさんある、疑問に答えられたら、それは感嘆符になると言う。
 まどさんの詩は、金子みすずの詩を連想させる。小さなものに目をそそいでいろんな自問自答をする姿勢がそっくり。

        映画川柳「ふしぎがり 小さないのちに 問いかける」飛蜘
2010年1月3日・10日・17日
〜9月

NHK総合
20:00
龍馬伝



NHK
2010年
1回目のみ70分
以降、各45分
 大河ドラマ。岩崎弥太郎(香川照之)の目から見た坂本龍馬(福山雅治)が中心に描かれる。
 第1回「上士と下士」。武士にも格があり、上士と下士、地下浪人など、身分の違いがきびしい。龍馬自身も斬られそうになるし、友人は斬られてしまう。龍馬の母・幸(草苅民代),龍馬の姉・乙女(寺島しのぶ)、加尾(広末涼子)、父・八平の後妻・伊與(松原智恵子)、武市半平太(大森南湖)の妻・富(奥貫薫)、弥次郎(蟹江敬三)の妻・美和(倍賞美津子)など女優人が強力。青年龍馬を軟弱だが強い意志を秘めた人物として描いている。
 第2回「大器晩成?」。江戸へ出たいと願う龍馬だったが、氾濫を防ぐための堤作りを命ずる父(児玉進)。しかし、百姓たちは指配役の下士をサムライもどきと呼んで馬鹿にし、村民どうしの喧嘩も激しく、思うように作業は進まない。龍馬は洪水で困っている一般農民のための仕事だと作業の本質を説いて共感を得る。
 第3回「偽の通行手形」。江戸へ向う龍馬に同行する弥太郎の通行手形は偽造だった。途中で見破られそうになった弥太郎は龍馬とは無縁と主張して、途中で龍馬に急場を救われた恩を返す。
 その後、龍馬の江戸での剣術修業、千葉さな(貫地谷しほり)との出会い、黒船来航、土佐勤皇党への接触、吉田東洋(田中眠)暗殺、龍馬の脱藩で第1部終わり。勝海舟(武田鉄也)との出会い、勝の肝いりでできた海軍操練所に仲間を集める、土佐藩では山内容堂(近藤正臣)が土佐勤皇党を弾圧、岡田以蔵そして半兵太が捕縛される。龍馬は母親似の登勢(草刈民代)の世話になる。龍馬は半兵太を救うために土佐に戻り、吉田東洋暗殺の下手人は自分だと言う。しかし、半兵太は切腹を命ぜられる。海軍操練所が解散を命ぜられる。第2部終わり。龍馬は長崎では奉行の間者で芸者のお元(蒼井優)と知りあう。海援隊の前身となる亀山社中を立ち上げる。龍馬の奔走、そして立会で木戸(谷原章介)と西郷(高橋克実)の間で薩長同盟が成立する、寺田屋で京都見廻り組に左手を斬られ瀕死、お龍(真木よう子)が獅子奮迅の活躍で薩摩藩邸に駆け込み、龍馬は伏見の薩摩藩邸に保護される。龍馬はお龍と夫婦となり一緒に長崎へ旅立つ。

        映画川柳「泥の田に ひざまづかされ 見下され」飛蜘

【参考書】黒鉄ヒロシ『坂本龍馬』(PHP文庫、2001) 
2010年1月1日


GYAO配信
陸軍中野学校 雲一号指令


大映
1966年
81分
 シリーズ第2作、監督は森一生。脚本・長谷川公之、撮影・今井ひろし、美術・太田誠一、照明・伊藤貞一。スタッフは『兵隊やくざ脱獄』(1966)のメンバー。脚本が説得力や盛り上がりに欠け、平板であるにもかかわらず、森一生らスタッフの画づくりのうまさが光る一篇。 村松英子も妖艶。
 貨物船が爆破され沈没する。タイトル。昭和十四年秋、椎名次郎(市川雷蔵)は、北支軍司令部付を命ぜられ、北京へ向けて旅立ったが、途中下関で、参謀本部からの電報「雲一号指令」を受け取った。神戸で草薙中佐(加東大介)に会った椎名は神戸港発の新型砲弾を積んだ軍用船が、時限爆弾で沈められた事件の捜査を命ぜられた。中野学校一期生の椎名と杉本(仲村隆)に独自捜査で信用を高めようと草薙は判断したのだ。
 最初に浮び上ってきた人物は、軍用倉庫の夜警・元川。決まった食堂(伊達三郎)で昼食、2時頃銭湯へ行く。椎名は男女別に仕切られた風呂場の共通のオカ場を通して、女湯の方から手が伸び、夜警と石鹸箱をすり変える現場を目撃した。女は神戸花街の売れっ子芸者梅香(村松英子)、梅香は神戸憲兵隊の隊長山岡中佐(戸浦六宏)の愛人であった。 椎名は大学時代の友人、佐々木と逢う。佐々木は中国の「黎明日報」の神戸駐在員となっていた。
 新型砲弾を積んだ船が再び撃沈する。椎名は梅香を指名し、いろいろと身の上話を聞く。一方、夜警として元川を見張っていた杉本はある夜夜警室を出て行く元川に気付く。杉本は倉庫に入った元川を追ったが、自爆されてしまう。杉本や椎名は憲兵隊の副官・西田少佐(佐藤慶)から功名を焦って手柄を独占しようとするからだと非難される。
 手がかりは梅香だけとなった。梅香の手相を見た椎名は彼女の手に三味線ダコがないのに気付く。彼女の故郷・新潟での調査を同期生に依頼する。死んだという恋人・斎藤正の件にも不審がある。
 佐々木が離れを貸していた酒井が憲兵隊に逮捕される。スパイ容疑である。椎名は港湾地区を調査し、船に爆薬をしかけたのは佐々木だと判断する(鉄条網に残った衣服の毛が証拠。映像では説明不足でなぜ佐々木と確証するに至ったのかが、よく分からない)。佐々木は酒井が変装して夜間に外出したと証言するが、それは自分だった。椎名は佐々木の取り調べを行い、背後関係を訊ねるが、死刑を終身刑に減刑という交換条件を提示しても、佐々木の心を変えることはできなかった。佐々木にタバコを渡して、西田に引き継ぐ椎名。タバコに青酸とか自白薬とか仕込んであるのかと思ったが、何もなかった。一服した佐々木は取り調べ室の窓から飛び降りて自殺。
 東京で参謀本部の連絡会議が召集される。神戸憲兵隊の失敗が批判されるだけでなく、機密事項も交わされる。この機会を梅香が逃がすはずはない。椎名は彼女の動静を探る。山岡中佐が西田少佐に渡した書類を、梅香は西田を誘惑して彼が風呂場に行った隙を利用してカバンから取り出し小形カメラで撮影する。その様子を椎名は潜望鏡型ののぞき眼鏡で目撃、二人が入浴している間にフィルムを抜き取った。
 フィルムを現像しているとき、草薙が次郎に母親が手術に臨むから会って来いと言う。しかし、次郎は断る。「三好次郎としての過去は棄てた」からだ。草薙は手術用の血液を提供、「この女性を死なせるわけにはいかん」と言う。
 神戸に戻った梅香は駅で食堂主が落とした新聞を拾い上げると同時にカメラを入れて渡す。現像された写真を憲兵隊に持ち込む椎名。狼狽する西田は中野学校生の策謀だと非難する。置き屋の一室で炬燵に椎名、西田、梅香が座り、写真を突きつけ問い詰める西田に梅香はシラを切る。椎名は梅香が本物の梅香でないこと、血液型が梅香のO型でなくA型であることを告げて、ウソを暴く。泣き伏していた梅香はきっと顔をあげ、自分は売国奴などではなく、抗日運動に関わる中国人の愛国者であると宣言する。裏切られた西田は拳銃で梅香を射殺、次いで自分の頭を撃って自殺してしまう。
 食堂主は教会の神父にカメラにフィルムが入っていなかったことを告げ、梅香の正体がばれたことを知る。そこへ憲兵隊が来る。山岡中佐は神父に非礼をわびつつも教会中を捜索させる。椎名は屋根の上の風見鳥に注目、杉本がアンテナであることを確認する。くまなく探したが怪しいものは無かった。しかし、椎名は祭壇に注目する。祭壇内部からは無線機が出て来た。神父は薬を飲んで自殺しようとするが憲兵に取り押さえれられる。神父の犬が寄って来る。椎名は犬をおさえて首輪の通信文を読む。本日の17時に爆発するようセットしたとの文面で、急いで港に向かう憲兵隊たち。港湾地区で時限爆弾を探す。爆破時刻の10分前には全員退避命令を出していたが椎名が戻っていなかった。椎名はあちらこちらを探り、筒型の爆弾を海にほうりだした途端に空中で爆発、まさに危機一髪だった。10分では不可能なほどあちこちを回って爆弾を探していた。この爆弾探しの描写は不自然だった。椎名の探索場面を最後の5分の一か所にまとめてしまったためである。憲兵隊が探しているときも椎名の探索場面を分けて挿入すればよかったのだが。
 中野学校の評価はこの一件で高まった。草薙は椎名に礼を言う。

        映画川柳「私情なし スパイに人生 ささげたり」飛蜘

 ホームページ上に出ている映画のあらすじが、古いキネマ旬報の記述(完成前に入稿されるので完成作品と異なることで有名である)ではないのに、実際の作品とかなり違っているので驚く。元川や梅香の死の状況や設定などかなり間違っていた。
2009年12月31日


GYAO配信
陸軍中野学校


大映
1966年
96分
 日本のスパイ養成所だった陸軍中野学校の設立と第1期卒業生の訓練を描く戦争悲劇。白黒映画。企画・関耕輔、脚本・星川清司、監督・増村保造、撮影・小林節雄。以前にいちど見ているが内容を忘れていました。
 昭和13年10月、日支事変後、日本は仮想敵国を英国・米国とし、欧州列強との戦争は目前だった。東京帝国大学を卒業し、さらに陸軍士官学校を卒業した三好次郎(市川雷蔵)は第57連隊長・草薙大尉(加東大介)に呼ばれ、一種の面接試験を受ける。その後、成績優秀な帝国大学卒の青年たち18名はスパイになる教育のために選ばれたエリートだと知らされる。スパイは陰で働く仕事で業績が公けに認められる可能性は少ない、将来を捨ててくれと説明する草薙の情熱に押されて、決意した次郎は、母(村瀬幸子)や婚約者・布引雪子(小川真由美)には「出張」と偽って、中野学校での養成訓練に入る。
 次郎は椎名次郎と名前を変更、家族への連絡も禁止される。便りの途絶えた次郎を雪子は探す。草薙は1人のスパイは一個師団に匹敵する、その根本精神は「誠」だ、ロシアの明石大佐はスパイだがレーニンと組んで民衆のために戦った、これが本当のスパイだと生徒を励ます。途中で、中西(南堂正樹)7の自殺やバーの女・はる恵(仁木多鶴子)に夢中になり仲間の刀剣を売ろうとして憲兵隊に捕えられ、腹を切れと追い込まれて無理に自殺させられた手塚(三夏伸)の事件は、かえって学生たちの結束を強める結果となった。(ここまで前半)。中野学校生甲斐(井上大吾)・久保田(森矢雄二)・宮木(九段吾郎)・森(喜多大八)・浜田(佐山真次)・高山(河島尚真)、連隊区司令部係官(守田学)、中野学校教官(伊東光一、杉森麟、夏木章、飛田喜佐夫、中条静夫、小山内淳)。
 一方、雪子は陸軍参謀本部暗号班に入り、次郎の行方を探していた。参謀本部の前田大尉(待田京介)は英国の暗号に手を焼いていた。岩倉大佐(早川雄三)に中野学校への資金援助を依頼する草薙は生徒に英国の暗号コードブックを盗ませることを約束する。雪子は以前に勤めていた会社社長のベントリー(ピーター・ウィリアムス)から次郎は叛逆罪で秘かに銃殺されたと聞く。ベントリーは非道な陸軍に対抗するための情報提供を雪子に依頼する。中野学校では卒業試験として椎名・杉本(仲村隆)ら三人を選抜、暗号コードブックを盗む任務が始まる。次郎は横浜領事館の無線士ダビッドソン(E・H・エリック)に狙いを定める。杉本は中国人の料理人・李思明(春本泰男)に接近、次郎は洋服店・原口になりすまし、ポーカー勝負をきっかけにダビッドソンに取り入り、オーダーメイドの洋服の採寸の隙に金庫の鍵のコピーを取る。自宅が手薄になったときを利用して、金庫破りの名人(伊達正)も引き連れ、首尾よくコードブックを写真で撮影し、参謀本部に届けた。ところが、前田大尉が雪子にブック入手を漏らしたため、雪子からベントリーに伝わり、せっかく盗んだコードは使い物にならなくなってしまう。参謀本部では中野学校を非難する。しかし、原因を調査した次郎は雪子から情報が漏れたことに気づく。結果に驚く草薙は次郎に憲兵隊に捕われ、拷問される前に雪子を安楽死させてやれと次郎を説得する。一年ぶりに雪子に会った次郎。二人はバーで踊り、ホテルに部屋を取り、ワインで乾杯する。ワインにしこんだ薬で雪子は死んだ。自殺に偽装する次郎。
 中野学校の有用性は認められ、第一期の卒業生が誕生した。宴会の席を離れた次郎に草薙は「死ぬな、どんな事があっても生きていろ」と話す。卒業式の三日後、支那に行く次郎の姿があった。

        映画川柳「過去を消し 名前を捨てて 偽物に」飛蜘
2009年12月29日


DVD
宮本武蔵
一乗寺の決斗


東映
1964年
128分
 内田吐夢・中村錦之助の「宮本武蔵」第4作。脚本は鈴木尚之・内田吐夢、撮影は吉田貞次、音楽は小杉太一郎。武蔵との勝負に負けた吉岡清十郎(江原真二郎)を頭首とする吉岡一門は、武蔵の行方を探索する。武蔵は偶然会った京の書家・本阿弥光悦(千田是也)のもとにいた。吉岡道場を継いだ伝七郎(平幹二郎)は武蔵に果し状をつきつける。ときは戌の刻。ところは蓮華王院三十三間堂裏。雪が降って来た。一瞬のもとに伝七郎を斬る武蔵。
 吉野太夫(岩崎加根子)は武蔵に「死相が満ちている」と忠告する。琵琶を断ち割って横木の緩みと締りを見せて、張っているばかりでは危ういと説く。待ち伏せする吉岡の門弟たち(佐藤慶ら)に佐々木小次郎(高倉健)は武士の道理を立てよと進言し、一乗寺下がり松で決闘となる。吉岡一門は、叔父・壬生源左衛門(山形勲)の息子、少年・源治郎を名目人とする。必死の七十余名を相手に武蔵の勝ち目はない。死の覚悟をした武蔵にお通(入江若葉)が逢う。
 パートカラーではなく、パート白黒。布陣を見て武蔵は一気に本陣の源治郎を斬って後、逃走する。ぬかるむ田んぼを転びながら、「寄るな」と逃走する武蔵は剣豪というより、生き抜こうともがく人間である。
 比叡山に身を置くも、幼少の少年を斬ったことを非難され、追放される。武蔵は幼少といえども名目人は敵の大将、大将を斬らずして武蔵の勝機は無かった、我事において後悔せずと宣言する。
 又八や朱美、お杉婆も登場するが添え物程度で話に関わらない。お通も入江若葉は洋風の顔立ちだし、病弱という設定のせいもあって、印象が弱い。
 東映時代劇DVDコレクション第26巻(2010年1月19日号、発売は2009年12月)。

        映画川柳「四本の 弦が奏でる 強と弱」飛蜘  
2009年12月29日

GYAO配信
兵隊やくざ大脱走

大映
1966年
80分
 勝新の「兵隊やくざ」シリーズ第5作。監督・田中徳三。白黒映画。脚本は舟橋和郎。撮影は武田千吉郎。音楽は鏑木創。編集・美術など第4作とは異なるスタッフ。田中徳三は抒情味のある画面を撮る。
 ソ連が攻撃をして満州の戦線は一触即発だった。朝倉隊は玉砕を覚悟の戦車壕掘りを命ぜられていた。兵隊どうしの花札でイカサマを見破った大宮。大げんかになる。修羅場になりそうなときに全員手紙を書けとの命令。家族にあてる遺書である。有田上等兵(田村高廣)は字の書けない大宮二等兵(勝新)のために、遺書となる手紙を書いてやった。
 大宮は偵察に出たときに慰問団の親子を救うが、男の子に変装していたのは若い娘・弥生(安田道代)だった。
 兵隊の好奇の目の前で弥生は「さくら」や「会津磐梯山」などを歌う。歌に浮かれて踊りだす大宮。
 納屋の弥生に会いに行った大宮は将校たちに殴られるが、最初は殴られていた大宮、途中から反撃に転じ、相手をぶちのめす。有田が止めに入る。
 准尉は列車に乗せる条件で将校に娘を抱かせるよう父親に命ずる。弥生は生きるために承諾する。一方、弥生のことが気がかりな大宮はヨウカンを持って夜中に納屋に行く。見張りの将校を殴り倒し、准尉を殴って外の柵にしばりつける。弥生に「自分も夜ばいに来たんだ」と告白する大宮。弥生は「ここにいてもいいのよ」と言うが、大宮は自分の寝床に戻る。翌朝、朝食の途中で准尉に呼ばれた大宮は三人にリンチを受ける。有田が隊長に連絡して、隊長が助けに入る。隊長は慰問団の父娘を列車まで送る任務を大宮に与える。
 列車が出発しかけたとき、父娘は大宮を一緒に内地へ帰ろうと誘う。迷う大宮、しかし友だちを置いてはいけない。大宮が誘いを断って部隊へ戻ると、ソ連軍の攻撃を受け、部隊は全滅していた。死体の山のなか、有田を探す大宮。
 爆風に飛ばされた有田は生きていた。生き残った二人は南へ向かう。途中でゲリラの攻撃を受けるがゲリラが集めた武器庫で将校の服を手に入れた二人は日本軍の将校に化けることにする。
 有田中尉と大宮少尉となった二人は柳田大尉(内田朝雄)率いる部隊にもぐりこむ。質疑で化けの皮がはがれそうになる大宮。学徒兵に花札を教えたり、対戦車攻撃を教える羽目になるも、勝てるわけがないと昼寝を決め込んで、かえって部下の信頼を得る。
 もと憲兵の身分を隠して上等兵になっている青柳(成田三樹夫)が二人の正体を知って接近してくる。朝鮮を経由して逃げる計画に加担してくれというのだ。有田は断る。
 翌日、斥候に出た大宮は北満開拓団の老人に出会う。サンカタンに病人や女、子供が取り残されているから助けてくれというのだ。有田が老人を伴って大尉に交渉する。しかし、大尉は撤退作戦に支障をきたすと断る。有田は食い下がる。困っている同胞を見捨てていいのか。トラック1台と下士官5名、自分と大宮で開拓団民避難の任務をやり遂げるという。大尉はしぶしぶ承諾する。
 選ばれた5人のなかに青柳も入っていた。トラックの荷台で青柳はトラックを乗っ取り、朝鮮へ逃げようと提案する。最初は疑心暗鬼だった兵隊たち(伊達三郎ら)も、有田らがニセ将校と聞いて意を決した。くぼみに車を取られて空回り、いったん降りて押し、くぼみを脱した直後に、有田らに銃を突きつける。青柳の行為に大宮は怒り、二人は争い、大宮が青柳を刺しそうになる。それを有田が止めて、いかにも自分たちはニセ将校だが、諸君の家族と同じ同胞を救う任務は成し遂げたいと主張する。共感したみんなは行動を共にする。青柳も連れて行く。
 サンカタンで病人と幼児をトラックに乗せる。学齢児童と大人は歩く。バショウまで50kmの道のりだ。途中で共産ゲリラの襲撃を受け、青柳が死亡する。「こんど生まれてくるときも又、悪党さ」という言葉を遺して。
 夜間の行軍もあって無事にバショウに到着することができそうだ。「完」。

        映画川柳「満州の 荒野を歩く 思い出に」飛蜘  
2009年12月28日


GYAO配信
兵隊やくざ脱獄

大映
1966年
86分
 勝新の「兵隊やくざ」シリーズ第4作。監督・森一生。白黒映画。痛快な傑作だった。「兵隊やくざ」シリーズを見ていなかった不明を恥じる。なぜいまどき話題にならないのか不思議なほどの面白さ。原作は有馬頼義。脚色は舟橋和郎。撮影は今井ひろし。編集は谷口登司夫、美術は太田誠一、助監督は大洲斉。
 殴られても蹴られても不撓不屈の反抗精神の塊で、酒と女が大好きという、大宮一等兵カツシンの、どこか愛嬌のある不敵さが痛快。『警視K』のガッツ警視もおんなじでしたね。「兵隊やくざ」は1965年には2本、1966年には3本、1967年には2本、1968年に1本、1972年(東宝)で1本製作されている。森一生監督はこれ一本だけ。田中徳三監督作品が多い。第1作は増村保造監督。
 爆走するサイドカーの車輪。大宮一等兵(カツシン)と有田上等兵(田村高廣)の二人は脱走したのだ。しかし、泥に車輪をとられて止まり、追手に捕われてしまう。二人は奉天の関東軍の陸軍刑務所に入れられた。獄則 130ケ条の規則づめに最初から反抗する大宮。殴られても石のようにツラが厚いので、殴った方の手が痛むほどだ。大宮は看守(椎名伍長:五味龍太郎)に反抗し昼食を削られる。盗みで入獄していた26号・沢村上等兵(田中邦衛)は大宮に飯を分けてくれた。看守に賄賂を渡し沢村は罪を免除され、前線に送られていった。有田と大宮はどうせ銃殺ならと脱獄を計る。水道管を壊してその騒ぎを利用し、脱出。だが門衛に気づかれ、線路脇で捕ってしまった。銃殺刑を覚悟した二人だったが、法務官が有田の大学時代の友人・永井中尉(中谷一郎)だったため、生命を救われた。有田は大宮も一緒に助けてくれと強く頼む。有田は一等兵に降等され、脱走しない条件で満州のソ満国境へ送られた。途中でいやな客から逃れて列車に逃げ込んできた珠子(小川真由美)を助ける大宮。
 前線で沢村を見つけた二人は、再会を喜び合ったが、ここでも班長の佐々木軍曹(草薙幸二郎)に睨まれる。軍曹は初年兵教育から叩き直してやると兵隊をしぼる。大宮が言う軍人勅諭がデタラメなので、殴られる場面がある。二人が料亭“花月"で珠子と会っていると、佐々木が来て「ここは将校用の店だ、珠子は俺の女だ」と二人を追い返す。大宮は部屋の外から軍曹に土を浴びせかける。
 沢村が夜間、ヒスイを隠しているところを大宮に見つかる。沢村は、満人との交換で手に入れたもので、内地へ帰るときの足しにするのだと言う。大宮は秘密にすることを誓う。
 物見台からロシアの女兵士を探す大宮。有田は大宮の能天気さにあきれる。佐々木班長は川辺でカモを撃って来る者を募る。ソ連兵が機銃を向けている川辺へ行こうというものはいない。班長は大宮に水を向ける。負けず嫌いの大宮は自分が行くと答える。そして、代わりに外泊を許可してくれと頼む。有田は大宮を止めるが、大宮は自分には弾が当たらないと危険な任務を引きうける。有田「ヤクザの弾とソ連兵の弾はちがうんだ」。大宮はソ連兵に機銃で撃たれるが、なんとか弾に当たらず、撃ったカモを持ち帰る。班長は扱いにくい部下の死を期待していたが、約束通り「珠子に会ってはいかん」という条件で、外泊を許す。大宮が花月亭に行くと珠子らほとんどの女たちは将校宿舎へ出ていて、店には病気で休んでいた八重子(森下昌子)だけだった。
 その夜、沢村は班長に呼ばれ、花月亭へ大宮の偵察に行けと命ぜられる。しかし、外へ出た沢村を途中で呼びとめた班長は隠し持っているヒスイをよこせと迫る。逃げようとする沢村を班長は撃ち殺す。銃声を聞いた有田たちに、班長は沢村が敵前逃亡を計ったために銃殺したと説明。班長が家族のために戦死扱いにするとした沢村の死体を中隊まで運ぶ役目を言いつかった有田は、花月亭から帰る大宮と途中で会う。大宮は沢村が隠していたヒスイが失くなっていることに疑念を抱いた。二人は珠子のもとで沢村の通夜をやる。有田は内地へ帰りたいという想いを話すが、流れ流れて北の果てまでやって来た珠子は内地に未練はないという。珠子は、班長がヒスイを持っている兵隊がいるという話をしていたことを思い出す。
 風呂に入る班長の背中を流す大宮は、班長が首から下げているお守りにヒスイが入っているとにらむ。その夜、午前3時に班長を襲撃する計画を立てた二人。あいにく1945年8月9日午前3時、ソ連の猛攻が始まった。
 いの一番に逃げ出す班長。二人も花月亭へ乗り込む。班長は珠子を無理やり連れ出して逃げようとしていた。班長を殴り倒す大宮、「軍法会議も将校もありゃしない」。気を取り直して銃を取ろうとする班長を有田が撃ち殺す。「どうせソ連兵に殺られるんだ」。
 人々が殺到する列車は、走らない。代わりにトラックが出る。珠子をトラックに乗せようとするも、許可証が無いとダメだと断られる。有田は連絡将校にヒスイを渡し、許可証をもらい、珠子に渡す。有田は、トラックで逃げようとしている将校たちを銃で脅して降ろし、大宮に階級章をはぎ取らせる。そして、トラックに一般の市民を乗せる。大宮も珠子とキスをしながらトラックに乗って、出発。少し走ったところで大宮は有田を残してきたことを思い出す。珠子が止めるのも聞かず、トラックからすべり降りた大宮は走って戻る。街の入り口で銃を構えて見送っていた有田のもとへ帰るのだった。「完」
 他の出演者は野口大尉(島田龍三)、衛兵司令(守田学)、現場監督風の男(水原浩一)、憲兵軍曹(浜田雄史)、不審番(越川一)、将校A(藤川準)、将校B(志賀明)、森野上等兵(黒木英男) 。

        映画川柳「殴ったら その手が痛む 石のツラ」飛蜘   

【参考書】森一生『森一生 映画旅』(草思社、1989)より、森一生の言葉、
 “丸亀港から出航して、北支へ行きました。・・・当時、北支などもう占領したように言ってましたけど、全然占領してないんですよね。占領してたのは点だけですよね。都市の。どこの城を持ってるというだけですから。だから、そこへ行くときにはすぐ襲撃されますよ。ゲリラに。・・・・ぼくは自分が死ぬとは全然思わなかったです。俺は弾が当らんと思ってましたからね。・・・・ぼくは終戦伍長なんですよ。三年おって上等兵。こんな上がらんやつないですよ。大学出て。・・・むしろ認められんようにしていましたから。・・・・見習い士官か将校になってかえって死んでますよ。・・・・実際、ずいぶんありましたよ、脱走したのが。ただ、それはやっぱり『悪名』や『兵隊やくざ』は本当のことを描いてないですね。あれでは、当時の逃げるということがどんなにひどいことかは、わからんでしょうな。結局、危なくない範囲内の娯楽みたいなもんですね、『悪名』や『兵隊やくざ』は。実際にやったら、なんともいえんぐらい、むごずらしいものでしょうな、脱走ということは。”  

 原作の有馬頼義『続・兵隊やくざ』(光人社NF文庫)では、「翡翠(ヒスイ)」という章があり、豊後がヒスイを持っていて佐々木軍曹に殺される。 
2009年12月10日

CS衛星劇場(12月8日16時から)


メス


松竹
1974年
90分
 1974年の公開当時、3番館で見ています。脚本が森崎東・桃井章・貞永方久。原作は劇画です。森崎脚本というよりも、夏純子主演作品として記憶される作品です。公開当時は図式的なストーリー展開にリアリティが無いなあと違和感がありましたが、時を経てしまうとかえってその図式性が作品の強さになっているように思われました。
 葛城病院の心臓外科医・式根(高橋幸治)は製薬界の実力者・太田が手術中に亡くなったことを遺憾に思っています。執刀者の院長(金田龍之介)に太田の身体は手術に耐えられないと助言していたからです。看護婦の青木由美(夏純子)は太田は殺されたのだと断言していました。太田の葬儀に参列中、発作を起こしたとして入院してきた菊川(
三國連太郎)は製薬界の大立者です。
 自分なりに真実を探る式根はやがて先輩や医師が関わった生体解剖の実態を暴くことになります。由美の父親も生きたまま頭を解剖され、死亡していました。事実を知った母親は自殺していました。事件を調査し復讐するために由美は看護婦になったのです。弟は不良仲間に入り、女子高生や覚醒剤を盗む看護婦を恐喝しています。菊川の手術の執刀医に指名された式根はさらに驚愕の真実、自分自身の出生の秘密を知ることになります。

        映画川柳「善悪の 彼岸を超えて 救命を」飛蜘

【参考】
 原作の劇画『メス』2巻が入手できました。映画の人間関係や事件は原作にはほとんど無かった。映画のあらすじ詳細と原作に関する詳しい情報は森崎東関連ページ「メス」に書きました。
2009年12月4日


DVD
ゼロの焦点

松竹
1961年
95分
 小学館発行の「松本清張傑作映画ベスト10」の第2巻。このベスト10は松竹映画との協同企画で、この作品も野村芳太郎監督作品。脚本は橋本忍・山田洋次。撮影は川又昂。
 主演女優の顔ぶれが豪華。久我美子・高千穂ひづる・有馬稲子です。新婚早々の禎子(久我)の母親(高橋とよ)は夫が36歳まで独身なんてと心配しています。金沢に転勤後の片付けに行ったはずの夫・鵜原(南原宏治)が失踪。禎子は会社の部下・本多(穂積隆信)と一緒に夫の消息を尋ねますが一向に要領を得ません。冬の能登を舞台に夫の義兄(西村晃)の毒殺事件も絡んで真相は二転、三転します。
 音楽の芥川也寸志は後の『砂の器』同様のリフレインの多い哀愁を帯びたテーマ曲を書いています。素人である新妻が事件の真相に迫り、推理を展開しますが、真犯人の口からさらに異なる真相が語られ、事件の様相が複雑化するところが映画独自の醍醐味です。女優三人の代表作となりました。
 風景の描き方は『砂の器』に発展します。

        映画川柳「横浜の 過去をのみこむ 娼婦街」 飛蜘
2009年11月29日/12月6日・13日・20日・27日

NHK総合
20:00-
坂の上の雲

第1話〜第5話


2009年
NHK総合
90分
 司馬遼太郎の長編をTVドラマ化。第T部は全5回、主に12月に放送されます。脚本を2004年に自死した野沢尚が書いていました。第1部の演出は柴田岳志。
 私は『坂の上の雲』を大学時代に読みました。大学1年生の1970年、教養部の「国文学」で、戦後の文学を講じていた亀井秀雄助教授が、伊藤整の『年々の花』に触れたときに、伊藤整が父親を通して明治時代を描こうとしたこの作品よりも、司馬遼太郎の『坂の上の雲』のほうが明治時代をよく描いていると評していました。亀井さんの講義はたいへんきちんとした説得力のあるものだったので、亀井さんの推薦ならと、まだ連載中でしたが、読んでみたのでした。『坂の上の雲』同様、司馬遼太郎のその後の『空海の風景』や『ひとびとの跫音』など、エッセィ色の強い作品が好きです。ちなみに、島尾敏雄の傑作『死の棘』も、亀井さんがとても高く評価していた本でした。
 NHKテレビの第1回「少年の国」は、秋山好古・真之の兄弟と正岡子規の少年時代と十代の頃が描かれます。たいへん面白く見ることができました。大河ドラマ風のつくりですが、司馬文学のエッセィと小説の中間のような文体には合っています。本木雅弘や香川照之が十代の少年を演ずるのはやや無理がありますが、それも彼らの実年齢を知っていて見るからかもしれません。子規の妹・律を演ずる管野美穂、秋山家の両親・伊東四朗と竹下景子、好古が寄宿する元旗本のお嬢さま・松たか子など配役も興味深い。
 司馬遼太郎は、明治時代を国家と国民が一体化していた時代だったと指摘します。外圧によって開かれた明治維新で日本人は初めて国家を意識した。そして、日露戦争までがリアリストの時代だった。あと少し戦争が長引いていたら、日本はロシアに負けた。ところが、国民は勝利に酔いしれ、舞い上がった日本は、そして軍部はリアリストの目を失くし、日中戦争に突入していった。大東亜共栄圏などたわごとである、と。
 戦車兵だった司馬遼太郎は戦争をリアリストの目で把握しています。司馬を保守反動に祭り上げる人も多いのですが、司馬は常にリアリストでした。
 第2回「青雲」は、東京で大学予備門に合格する真之・子規、海軍へ方向転換する真之、軍人に嫁ぐものの離縁されるリツ、若殿様の随伴で仏軍に留学する好古などの様子が描かれます。
 第3話「国家鳴動」では、歴史をたどるテンポが早くなって来ました。それだけ原作のつまみ食いの様相が濃くなって来ます。日清戦争や日露戦争を描かなければならないのだからテンポも早くしなければ間に合わないのですが・・・。
 第4話「日清開戦」は旅順要塞の清国兵の士気の低さや、清国海軍兵の規律の低さが敗北の原因のように描かれています。秋山兄弟が戦地で戦っていることをうらやましく思い、子規が庭で紅葉を石で打つ場面がある。律が兄の無念を思って傍らで涙をこぼす。律のことは、『坂の上の雲』にはあまり詳細には書かれていません。むしろ『ひとびとの跫音(上)』の方によく書かれています。子規の律に対する所感も書かれ、発表を意図していなかった子規の『仰臥漫録』の記述は、子規自身の病気の進行もあり、苛烈です。
 第5話「留学生」は、アメリカに派遣された真之とロシアに派遣された広瀬が中心です。真之はキューバをめぐる米西戦争の海戦を目の当たりにし、日本に詳細な分析を報告しました。後にバルチック艦隊との海戦に役に立ったもので、アメリカが日本と清国の黄海海戦から学んだように、真之も米西戦争から学んだのでした。子規は従軍後、松山に帰り、その後、上方を旅して東京・根岸に落ち着きます。律も子規の看病に当たります。

      映画川柳「兄が言う 勝てるケンカを するんだと」 飛蜘
【参考書】
 司馬遼太郎『坂の上の雲』(文藝春秋) 意外にも爆笑ものです。
 司馬遼太郎「日本人の二十世紀」『文藝春秋』2009年12月号(再録)
 『NHKスペシャルドラマ・ガイド 坂の上の雲 第1部』(2009年、NHK出版)
 司馬遼太郎『ひとびとの跫音』(中央公論社、1981年)
2009年11月18日

NHK総合
19:30
“衝撃”のVFX

NHK
25分
 「クローズアップ現代」の一篇。『パイレーツ・オブ・カリビアン』のVFX(視覚効果)で、アカデミー科学技術賞(Scietific Tequnical Award)を受賞した若き日本人、坂口亮さん(31歳)を紹介した内容。大学を中退して映像関係の専門学校に入学、卒業後、渡米してハリウッドへ。三年間の雑用の日々、中学の数学から勉強し直して水の動きを表現するための流体力学の勉強などが実を結んだ。プライヴェートな時間をすべて勉強に当てたという根性が画期的。
 『デイ・アフター・トゥモロー』や『ライラの冒険・黄金の羅針盤』などで既にVFXを担当していたが、『パイレーツ』では小さな滝を膨大に組み合わせてワールド・エンド(世界の終わり)の滝の映像を作り、『2012年』では災害で崩壊する都市を描く。
 リョウ・サカグチは、BSでコンピュータの歴史を扱った番組にも出演してコメントしていましたね、たしか。

      映画川柳「柔道が 異国世界の 支えなり」 飛蜘
2009年11月10日

 森繁久弥さんが11月10日の朝に老衰で亡くなりました。96歳でした。
 読売新聞の代表作一覧には、森崎東監督の「女」シリーズも全4作とちゃんと出ていました。駅前シリーズは、DVD化されているのですから、松竹の「女生きてます」シリーズ(と私はそう呼ぶことにしています)も、この際にシネスコサイズで、DVD化されないものでしょうか。森繁さんは「女生きてます」シリーズだけでなく、森崎監督の『街の灯』にも好色な社長役で、ちゃんと出演しており、森崎さんを才人と言って、高く評価していました。

 追悼文のなかに『森繁自伝』(昭和37年=1962年)を評価したものがあったので、古本屋で探して読んでみたら、これが大傑作でした。
 敗戦のとき、家族とともに満州の新京にいた森繁さんの満人や、ロシア軍兵士・中国正規軍兵士・共産軍兵士と変転する軍隊の兵士に包囲・支配・略奪され、感染症と闘った体験や、同朋をソ連軍に密告した青年を引き揚げ船内でリンチし海に放り投げて処刑する話など、途方もないもので、『兵隊やくざ 強奪』もかくやと思われるもの。そして引き揚げて後の日本での辛い生活、日本人必読といってもいいほど悲惨な話です。
 映画に出演することになって少しずつ仕事がくるようになる話もわずかに書いてあります。


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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