日本映画データベースを増補     森崎東アーカイブズ

釣りバカ日誌スペシャル

製作=松竹 
1994.07.16 
106分 カラー ワイド
製作櫻井洋三 釣りバカ日誌スペシャル ビデオ 
プロデューサー瀬島光雄 中川滋弘
監督森崎東
助監督梶浦政男
脚本山田洋次 関根俊夫
原作やまざき十三 北見けんいち
撮影東原三郎
音楽佐藤勝
美術重田重盛
録音高橋和久 小尾幸魚
調音松本隆司
照明栗木原毅
編集鶴田益一
出演西田敏行 石田えり 三國連太郎
富田靖子 加勢大周 谷啓
大森嘉之 清川虹子 加藤武
戸川純 山瀬まみ
西村晃 松尾嘉代 田中邦衛

「釣りバカ日誌」映画DVDコレクション
(DeAGOSTINI)
第2回発売
2016.3.15発行
(実際の刊行は2016.2.16)
「釣りバカ」シリーズ第7作め


     釣りバカ日誌スペシャル  略筋   (池田博明記)

 凪の海。浜ちゃん(西田敏行)のナレーションが入る、「4月29日、太田丸で、スズキを狙う。昼過ぎまでアタリなし」、潮が変わってきた。ちっとも釣れないので、スーさん(三國連太郎)はもう帰ろうかと提案、けれども浜ちゃんは「釣れなくてもいいんだ。釣りはイメージのスポーツなんだ」と主張、糸を見ながら海中の魚の動きを実況中継する。勿論、魚は見えないのだが、子供の魚がエサを取ろうとすると親の魚が悪い人間に釣られちゃうからとたしなめているという様子はまるで見ているようなウソである。まるで、“寅さん”の口上である。そのうち、本当にアタリが来て、スズキが釣れる。さて、釣りはこれからだ。オープニング・タイトル。
 夕暮れの都会、東急東横線桜木町行きの電車のなか、田園調布駅で降りる若者(加瀬大周)は車内で見かける美女(富田靖子)に恋していた。男は銀座の宝石店・栄光堂の社長・山之内(西村晃)の息子、健吾である。興信所(ケーシー高峰)に調査してもらって、その美人は鈴木建設営業第三課の課長・佐々木和男(谷啓)の娘・しのだということが分かる。鈴木社長(三國)と山之内は旧知の間柄。さっそく山之内は鈴木社長を訪れて見合いの段取りを依頼する。
釣りバカ日誌S 谷、八木、富田 社長は役員会で重役たち(竜雷太、前田武彦、加藤武ら)の報告に機嫌が悪い。そこへ山之内の縁談話。「佐々木は、マジメが背広を着ているような男だが、業績はいまひとつ。部下が悪いんだな」と評価する。部下とは、誰あろう浜ちゃんこと浜崎である。社長じきじきの呼び出しに課長は緊張する。浜崎は先に謝る。同僚たち(山瀬まみ、戸川純ら)は面白がる。課長は浜ちゃんに口止めをして、娘の縁談を打ち明ける。(もちろん浜崎が黙っているはずがない。翌日には社内中の噂になっている)
 佐々木は良縁に満足、釣り書きを持って家へ帰る。女房を演じるのは八木昌子。弟が同居している。酒屋の武(大森嘉之)がビールを届に来る。
 しのは健吾を覚えていた。歌舞伎を鑑賞した後でお見合いの席になる。なんとなくうまくいきそうな雰囲気である。
 さて、朝の桟橋付近。田宮自転車店の辰つぁん(田中邦衛)とその母はな(清川虹子)が太極拳の練習をしている。浜崎と妻のみちこ(石田えり)はアツアツ、辰「みっともない男がなんであんないい女を女房にしてんだろう」と不思議で仕方がない。母は「(惚れ)薬でも使ったんだろう」と答える。
 奥滋賀ホテルの指名施工業者から外されたことで怒り心頭の社長。以前、10億円程度の仕事なんかと注文を断ったのを恨んでの意趣返しらしい。責任者は誰だと聞くと、それは社長自身だった。社長は自分から相手方に謝りにいくと主張する。社長車の運転手役は笹野高史。
 その日の夜、いよいよ解禁日と意気込む浜ちゃんの家に突然のお客さん来訪、不粋な客はいったい誰? 謝罪で気落ちしているスーさんだった。釣りの話がしたいとやって来たのだ。相手をする浜ちゃん夫婦とスーさんの会話が長回しの芝居でなんとなく可笑しい。釣りバカ日誌S  ビデオ横写真
 スーさんを泊めずに返したが、その気がなくなったみちこさん、息子の鯉太郎(上野友)も「怖い夢を見た」と起きてしまい、この晩、浜ちゃん夫婦は「不合体」。
 休日の朝、銀座へ出かけるしの。その後を追いかける酒屋の武。デートの二人の間に割って入り、高校時代からの憧れだったしのが選んだ男を確かめたくてついてきました、しのちゃんをよろしくお願いしますと告白、しのに頼まれていたブルーハーツの「ラブレター」をポータブルCDプレイヤーとともに置いて去る。歌を聞いていたしの、突然立ち上がり、武を探す。外で再会した二人は、じっと見つめ合い、しっかりと手をつなぐのだった。
 長野県は小諸の現場で仕事中の浜ちゃん。課長がボーッとしていると電話で聞くが、娘を嫁にやることになった後の放心状態だろうとあまり気にしない。仕事は適当に切り上げて、なじみのタクシー運転手と渓流釣りに夢中である。
釣りバカ日誌S 松尾、三國 小料理屋・次郎でスーさんはなじみのバーのママ(松尾嘉代)に、山之内から頼まれたと嫁さんにどうだと話すが、ママは「他に好きなひとがいるから」と断る。「店の客かい」「鈍感ね」、ママの好きなひととは自分だったのだ。スーさんはうろたえる。
 釣りも終った浜ちゃんはみちこさんに電話をかける。朝いちばんに家へ帰宅すると約束、昼には実家で米寿の祝いに出かけなくてはならないというみちこさんと、出発前に抱き合おうというのだ。「いま、何着てる?」「白のネグリジェよ」との答えに興奮する浜ちゃん。誰かが浜崎家を訪ねて来た。「隣りのおばあちゃんがタコ焼きでも持ってきてくれたのかしら」と扉を開くと、スーさんだった。「女心は難しい。話を聞いて欲しい」と訪ねてきたのだった。けれども酔いが回ったスーさんは、上がりこんだところの長椅子の上で寝てしまう。
 朝になってタクシーで帰宅するスーさん、みちこさんに「浜ちゃんに誤解されるといけないから、自分が来たことは黙っていよう」と提案する。その様子を自転車店の辰に目撃されていた。辰はスーさんが落としていったハンカチを拾う。ハンカチがしてもいない不倫の証拠となるのは『オセロー』ですね。
 いさんで帰って来た浜ちゃんを引き止めて、自分が見た様子を話す辰。証拠のハンカチは麻作りの高級品でI.S.の刺繍入り。「一之助、鈴木」の頭文字だ! 浜ちゃんの頭の中は嫉妬で真っ白になる。
 家ではちょうどみちこさんがスタミナ焼きソバを作っていた。やっとのことで、「ハンカチは・・・」と聞く浜ちゃん。みちこ「ハンカチが何?」「留守ちゅうに何かなかった? このハンカチは・・・」。「浜ちゃん。ごめんなさい」とスーさんが泊まっていった様子を話すものの、スーさんが何もせずに帰ったなんて信じることができない。あの男は必ず小便に起きるんだ、その帰りにみちこさんの寝姿を見たら・・・と妄想してしまう。「(あきれた・・・)、スーさんのこと、お父さんみたいに思ってんのよ」「お父さんが一番ヤバイんだぞ。最近のニュースだって」。みちこさんは鯉太郎を連れて実家に帰る予定、迎えに初ちゃんが来る。「浜ちゃんが許してくれるまで実家に帰る。ハマちゃん以外の男を好きになったら、地獄に落ちてもいいと思ってるのヨ」という言葉を残して。
 心配になった辰が浜崎家をのぞいてみると、浜ちゃんは自分で自分の首を絞めていた。「あのみちこさんを一瞬たりとも疑った自分が許せない。死にたいんだよ」とよろけたり、つまづいたり、自宅や自転車店の戸を壊してしまう。
 会社では佐々木課長の辞職願いを受理するかどうか、社長と重役が相談しているろころへ、浜崎が辞職願いを持って来る。妻の家出により勤労意欲をなくしたというのだ。浜ちゃんは首が横に曲がったまま直らなくなっている。社長は佐々木課長の辞意の真の理由を知っているが、君は会社に必要な人材だと辞職を認めず、浜崎の辞職願も自分が原因なので認めない。女房を迎えに行けという指示に、浜ちゃん、「会社命令ですか。それなら出張費を、グリーン車で」と調子に乗る。寝台車で出雲行きに乗った浜崎、終点の出雲で電車を乗り換える。海でみちこさんが入水自殺する妄想で眠ってしまい、寝台車で着替える暇もなかったため、パンツ一丁。実家の兄(河原さぶ)の店に駆けつけると、みちこさんは出雲大社内の散歩に出たという。
 大社で再会、「(その首は)どうしたの?」「バチが当たったんだと思う」「あたし、飛行機に乗った途端、後悔したの。米寿のお祝いなんかどうでもいいから、浜ちゃんのそばにいれば良かったと」。二人が仲直りすると急に首が治って動くようになった。観光客みんなに仲直りしましたと話す浜ちゃん。
 玉造温泉の旅館に来て、鯉太郎を寝かしつけ、お昼前だが「夫婦が愛しあうのに昼も夜もない」と布団を敷いて床入りと思った瞬間に、またまた不粋な来客。釣り姿のスーさんだった。詫びに来たというスーさん、ついでに隠岐のオオダイ釣りを教えてくれと言う。釣りと聞き、しかもスーさんは浜ちゃん分の着物や用具まで準備して来ていたので、怒りがすーっと引いて行く浜ちゃんだった。
 宮宝丸でタイ釣りに出かける二人。沖でいろいろ講釈をならべる浜ちゃん、スーさんの糸にアタリが来た。吊り上げると大物のタイだった。続いて浜ちゃんの糸にもタイがかかった。釣り上げるとスーさんの獲物が断然大きい。自慢で写真を撮るスーさん。
 6月24日晴れ、浜ちゃんのナレーションは「久々の合体」でしめくられる。エンドタイトルのバックは旅館での宴会である。居眠りをしているスーさんの顔に小麦粉をかけていたずらをする浜崎夫婦だった。
■評価
      1994年度 ヨコハマ映画祭 特別大賞

 『釣りバカ日誌スペシャル』で見事に復活した、変節しない重喜劇の才匠に映画ファンより更なる爆発の期待をこめて。


    寺脇 研   森崎東  40周年お祝いコメント  追伸

 森崎映画の隠れた傑作として『女咲かせます』『釣りバカ日誌スペシャル』を挙げておきたい。  

 (京都造形芸術大学映画祭 パンフレットより)