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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2010年11月1日以降1月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想 ・ 梗  概   (池田博明)
2011年1月20日



DVD
(レンタル)
オアシス


韓国

 イ・チャンドン監督・脚本作品。助監督パク・チョンウとキム・グァンシク、撮影チェ・ヨンテク、照明チェ・ヨンテク、音楽イ・ジェジン。
 河原崎長一郎みたいな青年ジョンドゥ(ソル・ギョング)はバス停でタバコを無心する。電話ボックスでは中学生に電話代を借りようとする。あまり金を持っていないようだ。無銭飲食でとうとう警察に突き出されてしまう。ジョンドゥは前科者、ひき逃げで2年半の刑期を終えて出所したばかりだった。弟が引き取りに来る。家族はジョンドゥを厄介者扱いする。
 出前の仕事をもらったが、ジョンドゥは最初に行くところがあると、過失致死罪で轢いた被害者の家を訪問する。遺族は引っ越すところだったが、部屋には、重度の脳性マヒ障害者の女コンジュ(ムン・ソリ)がいた。
 翌日に再び花束を持ってジョンドゥはコンジュの部屋を訪ねる。隣室の夫婦(パク・キョングン、パク・ミョンシン)が月20万ウォンでコンジュの世話をときどきしていて、鍵は植木鉢の下に隠していた。それを目撃したジョンドゥは鍵を開けて部屋の中に入り、話しているうちに欲情にかられ、強姦しようとする。ジョンドゥは過去に強姦未遂事件も起こしているのだ。コンジュが失神してしまうのであわててジョンドゥはズボンを上げて立ち去る。
 コンジュは兄夫婦(ソン・ビョンホ、ユン・ガヒョン)の家に連れて行かれ、民生委員の手前、同居しているようなふりをする。障害者手当の関係で同居と偽っているらしい。利用されていることを知っているコンジュは夜、ふとジョンドゥに電話する。「聞きたいことがある」。勢い込んで訪ねてきたジョンドゥに「なぜ私に花をくれたのか」と聞く。「わからない。コンジュ=姫なんて名前は似合わない。おかしい」「先祖がホン将軍だというが、ホンは反逆者だ」。二人はお互いを「姫さま」「「将軍」と呼んで親しみを感じるようになる。ジョンドゥは兄のカー・ショップで自動車整備をしているとウソをつく。「私は仕事をしている人がうらやましい」。車椅子に乗せて屋上にコンジュを連れ出す。青い空が高い。コンジュは部屋にあるオアシスの絵の影が怖いと言うので、ジョンドゥは影を消すおまじないをとなえることにする。
 ジョンドゥは突然、兄や従業員(イ・ジョンウ)に習って自動車整備の仕事を覚えようとする。しかし元来、不器用でいい加減な性格なので簡単なネジ締めの仕事も満足にできない始末だ。しかし、コンジュのもとを訪れ、外へ連れ出して一緒にいることが楽しくなってくる。
 二人はひそかに会って、街中を散歩したり、ジャージャー麺を食べたり、高架道路で渋滞の車の間をめぐったり、、電車や地下鉄に乗ったりする。
 そして、母親(キム・ジング)の誕生日を祝う日にジョンドゥは車椅子のコンジュを連れて出席する。脳性マヒの彼女に家族は驚愕する。しかも轢き逃げの被害者の娘だというではないか。ジョンドゥの兄ジョンイル(アン・ネサン)は「俺に対する嫌がらせか」とからむ。弟ジョンセ(リュ・スンワン)が仲裁に入るが、会話から驚くべき事実がわかる。車で事故を起こしたのはジョンイルだったのだ。しかし、家族を持ち仕事についていたジョンイルをかばって、身代わりで刑務所に行ったのがジョンドゥだったのだ。前科者だった彼は刑務所は慣れているからと身代わりを快く引き受けたのだという。気まずい空気が流れ、家族写真にコンジュを排除しようとする兄弟に腹を立ててジョンドゥも写真に加わらなかった。
 なんだか機嫌が悪くなったコンジュをひとりで放り出してみたり、一緒に話をしたり、カラオケで歌ったり。歌詞は「私がもし空だったら、あなたの頬に染まりたい。私がもし詩人だったら、あなたのために歌いたい」。コンジュも同じ思いだ。ときどき、コンジュが脳性マヒでない姿で現れるときがある。オアシスの絵のなかのインド人の子供(Sompon Unwadd)や女性ダンサー(Shamini Manikam)、小象なども外に出てくる。
 二人はコンジュの部屋に行く。帰ろうとするジョンドゥをコンジュが引きとめる。「一緒に寝ましょ。女が寝るといったら、意味、わかるでしょ」と誘う。セックスする二人。そこに折あしくコンジュの兄夫婦がやって来る。コンジュにケーキを持ってきたのだ。兄夫婦は抱き合っている二人を見て仰天する。コンジュが強姦されていると思ったのだ。
 警察に連行されるジョンドゥは、警察官からも家族からも人非人扱いされる。コンジュも質問されるが興奮しているため話が通じない。
 被害者のダメージが心配だからと示談になりそうだ。ジョンドゥはすきを見て警察から脱走し、携帯電話でコンジュに電話するが、もちろん通じない。コンジュのアパートの外にある木の枝を切り落とすが、とうとう捕縛されてしまう。コンジュも必死で部屋のなかからジョンドゥに答えようとするものの、身体がうまく動かない。
 しばらくして、部屋を掃除するコンジュの後ろ姿に刑務所から出したジョンドゥの手紙の声が重なる。手紙は刑務所のくさい飯の豆は嫌いだ(コンジュが豆は嫌いだと言っていたから)、元気にしているよという内容である。

      映画川柳「うらやましい 仕事のできる ヒトである」 飛蜘

  『大統領の理髪師』でソン・ガンホの妻役を演じているムン・ソリが重度の脳性マヒの女性を演じる。なりきるのが難しい役だが、表情も目つきも手足の不自然な動きも脳性マヒのひとのように見える。
2011年1月19日


DVD
(レンタル)
おばあちゃんの家


韓国
2002年
89分
 イ・ジョンヒャン原作・脚本・監督作品。撮影ユン・ホンシク、照明イ・チョロ、音楽キム・デホンとキム・ヤンヒ。
 ソウルで暮らす七歳の少年サンウ(ユ・スンホ)は母親(トン・ヒョヒ)が仕事を探す間の二か月間、ヨンドンの山の中に住む祖母(キム・ウルボン)のもとへ預けられることになった。おばあさんは78歳、耳も口も不自由で字も書けない。サンウはインベーダー・ゲームのようなテレビ・ゲームやガンダム系の電気玩具を持参し、缶詰食品をたくさん準備している。やがて、ゲームの電池が切れるが、山の中には電池を売っている店もない。食べたいものを聞かれて「ケンタッキー・フライド・チキン」と答えるものの、おばあさんはニワトリを買ってきて、蒸し焼きにしてくれる始末。
 二人はカボチャを売りに町へ行く。サンウのためにおばあちゃんは靴を買ってくれ、食事を食べさせ、チョコ・パイを買ってくれる。バスに乗ろうとして先へ行けと言われたサンウ、終点のバス停でおばあちゃんを待つがちっとも帰って来ない。やがて最終のバスにも乗っていないが・・・・おばあちゃんは町からの道を歩いて来たのだった。お金が無くなってバス代が払えなかったのだ。サンウはすまない気持ちでいっぱいになる。
 薪を背負って運ぶチョリ(ミン・ギョンフン)は親切そうな兄貴分だが、サンウは田舎者と思っているので意地悪をする。暴れ牛が来たぞと脅すのだ。走って逃げるチョリ。だが、本当に牛が来てしまって逆に感謝されてしまった。次の機会にはウソがわかってしまい、チョリはサンウをにらむ。悪いと思いつつもなかなか謝れないサンウだった。チョリと中のよさそうな少女ヘヨン(イム・ウンギョン)に憧れる。
 最初はどうせ聞こえないからと、おばあさんに「バカ」と言っていたサンワだったが、次第におばあさんの無私の行動に魅かれていく。おばあさんが訪ねるのは、「死んでもおかしくない年齢になったのに、病気がちで周囲に迷惑ばっかりかけて」と気兼ねするおじいさん(イ・チュニ)。道に迷ったサンウを自転車に載せてくれたおじいさんには、娘からもらった栄養ドリンクをあげてしまう。街で立ち寄るのは、ヒザが悪くて歩けない、「死ぬ前にもう一度来ておくれ」という雑貨屋のおばあさん(イ・ドンチウォン)。
 母親が迎えに来るという前の晩、サンウは目の悪いおばあさんのために、何本もの針に糸を通して針山に刺し、裏におばあちゃんの似顔絵と「体が痛いよ」や「会いたいよ」という文字を書いたカードを作った。大事にしていた玩具カードの裏に描いたのだ。バス停でサンウはカードをおばあちゃんに渡す。いつでもこのカードを使って自分に連絡をしてくれというのである。
 おばあちゃんは孫と別れて家へ帰る。石の道をゆっくりと登っていく。家はだいぶ遠いのである。
     映画川柳「死ぬ前に 再び会いに 来てくれと」 飛蜘
2011年1月18日


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親切なクムジャさん


韓国
2005年
115分
 パク・チャヌク監督の第6作。復讐三部作の第3。『チャングムの誓い』のイ・ヨンエ主演。無実の罪を着て服役したクムジャが出所後、真犯人に復讐をする。
 サンタ・クロース姿の楽隊を雇った伝道師(キム・ヒョンオク)がクムジャの出所を祝うために刑務所の前で待っている。寒い冬いである。罪を償った象徴で白い豆腐を差し出す伝道師だったが、クムジャは「余計なことしないで」と豆腐を受け取り拒否し、サングラスをかける。
 イ・クムジャは20歳のとき6歳の少年ウォンモ誘拐殺害事件の犯人として自首したのだ。1991年から2004年まで13年半服役して出所した。女子刑務所では「親切なクムジャさん」と渾名されていた彼女は恩を売った女囚たちに秘密の計画を打ち明けていた。
 若いキム・ヤンヒ(ソ・ヨンジュ)には同居する家を提供してもらった。ヤンヒは「ムショのクムジャとは別人になった」とその変化を嘆く。クムジャにはやることがあるのだ。その計画のために、慢性腎不全でクムジャに腎臓をひとつもらった強盗のウ・ソヨン(キム・プソン)は拳銃を贈った。古い形式で大きく重く、射程距離の短い銃である。介護していた病気の北朝鮮の女スパイ、コ・ソンスク(キム・ジング)は本をくれた。姦通罪で収監されたオ・スヒ(ラ・ミラン)は牢名主(コ・スヒ)に性行為を強制されていたが、行為のあと風呂場の床に石鹸を塗っておき、名主がすべって転び、頭を打つように仕掛けたりしていた。クムジャはこの牢名主を親切にいたわるふりをして殺す。出所後、彫像師となったスヒは首を持った彫像を贈る。
 当時、誘拐事件を担当したチェ刑事(ナム7・イル)はウォンモが大切にしていたビー玉の色をクムジャが正確に言えないのを不審に思った。クムジャが働くことになった菓子店の料理長チャン(オ・ダルス)は刑務所で女囚に菓子作りを教えていたころ、限られた材料で極上のケーキを作ったクムジャの腕前を買っていた。ケーキ店で働く青年クンシク(キム・シフ)はクムジャと愛し合う。クムジャは夢の中で犬になった英語教師ペクを撃つ。18歳の頃だった。高校生のクムジャは教育実習生ペクに電話していた。妊娠した、と。結婚願望を語るクンシクに、クムジャはペク(チェ・ミンシク)が誘拐の真犯人だと打ち明ける。ペクは良い誘拐と悪い誘拐がある、良い誘拐は子供を拉致するが無事に返す、家族の絆は強まり、身代金は金持ちにとってはそれほど痛手ではないんだというのだ。クムジャは誘拐に協力したが、ウゥンモを殺したのはペクだった。ウォンモがクムジャと一緒にいたのを目撃したという情報が入ったとき、ペクはクムジャに自首を強要した。そして罪はお前ひとりで引き受けろ、そうしなければ子供を殺すと脅迫した。クムジャは女の子を産んでいたのだ。その子、ジェニーはオーストラリアの養父母にもらわれ、幸福に育てられていた。14歳になったジェニー(クォン・イエヨン)は母親になぜ私を捨てたのかと迫る。
 パク・イジョン(イ・スンシン)は自分をいじめた牢名主をクムジャが介護し、食事に漂白剤を入れて3年間かかって殺したことを知っていた。イジョンはペクと結婚することでクムジャの計画を助ける。クムジャの計画が最終段階に入ったときに邪魔が入る。入信を拒否された伝道師がペクにクムジャの不審な動きや、妻イジョンとの接触を打ち明けたからだ。ペクは暗殺者を雇った。二人の暗殺者(ソン・ガンホら)はクムジャと娘を襲い、麻酔をかけて拉致しようとする。クムジャは必死に息を止め、相手が油断したすきに拳銃を取り出し、撃つ。射程距離の短い拳銃だ。間近から暗殺者を撃って娘を救出する。そのとき、ペクは睡眠剤を入れた食事で眠らされていた。殴られたイジョンの顔は腫れ上がっていたが、イジョンとクムジャは髪の毛を切り、手足を縛ったペクと麻酔で眠ったジェニーを車に載せて運ぶ。
 人里離れた森の近くにペクの別荘がある。クムジャはペクに恨みをはらそうとするが、突然、携帯電話が鳴る。「先生、起きて下さい。出勤しなきゃ」という塾の生徒の声だ。クムジャは歩けないようにペクの足を撃つ。ペクの保管するビデオテープからは驚愕の映像が発見された。ウォンモ以降に誘拐された子供たちを撮った映像である。1995年にセヒョン、1996年にウンジュ、2000年にジェギョン。クムジャはチェ刑事に子供たちの死体を発掘させるとともに、1991年に真犯人を逮捕していたらこの子供たちは死ななかったことを指摘する。“親切な”クムジャは子供たちの遺族を集めて映像を見せ、最期の声を聴かせて、ペクをここで処刑するか、チェ刑事に引き渡すかを相談で決めると言う。
 賛否両論が飛び交うが、結局、遺族たちはペクを自分たちの手で処刑し、秘密を共有することを誓う。レインコートを着て返り血を浴びないように準備する遺族たち(イ・ヨンニュ、パク・ミョンシン、キム・チュンギ、オン・グァンク、チョン・ジュンユ、キム・イクテ、ウォン・ミウォン)。刺す順番を決める。クムジャはペクは子供嫌いだった、捜査が及ばないように他の塾の子供たちを選んでいた、身代金はヨットを買う費用に貯金していた、金は遺族たちの口座に返金すると説明する。遺族がクムジャに尋ねる、「ペクの子供はいなかったのか」と。クムジャは「妊娠させられない体だったそうです」と答える。これはウソだろう。クムジャはジェニーを妊娠したのだから。遺族たちの怒りがジェニーに向くことを避けたのだ。
 最初に刺すウンジュの母親が「普通のひとに見えるのに」と言うとペクは「この世の中に完璧な人はいませんよ」と答える。
 敷物を片づける。血を洗い流す。ペクを土に埋める。最後にクムジャが銃で弾丸を撃ちこむ。処刑は終わった。クムジャはみんなに手づくりのケーキをご馳走する。「誕生日おめでとう」の歌声に唱和する遺族たち。外では雪が降ってきた。
 クムジャは別れることになっているジェニーのもとへ。クムジャの魂の救いは得られなかった、だが、私はクムジャさんが好きとナレーションが入る。雪の降るなか、ジェニーに白いホワイトケーキを差し出す。ジェニーは指でクリームをなめ、クムジャにも差し出す。クムジャはケーキに顔をうずめて、泣く。
     映画川柳「伝道師 なぜ告げ口を 恋人に」 飛蜘
2011年1月5日



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TUBE チューブ



韓国
2003年
(公開は2004年)
118分
 『シュリ』の共同脚本家のひとり、ペク・ウナク脚本・監督の第1作。原案キム・ヒョンワン、脚本ペク・ウナク,ピョン・ウォンミ,キム・ジョンミン、撮影ユン・ホンシク、照明ウォン・ミョンジュン、音楽ファン・サンジュン、美術ファン・インジュン。TUBEとは地下鉄のことです。
 金浦空港でカン・ギテク(パク・サンミン)を中心とするテロリストたちが銃を乱射、警察の特殊部隊と激しい撃ち合いになる。偶然空港に居合わせたチャン刑事(キム・ソックン)は銃を奪って応戦し、敵を撃つ。チャン刑事は過去にギテクと闘ったことがあり、左手の小指を斬り落とされていた。
 バイオリン・ケースを背負った女スリ、インギョン(ペ・ドゥナ)は地下鉄でチャン刑事の背中に感じるものがあり、タバコの火を点火するきっかけで接触を図る。
 新任市長団の地下鉄視察がある日、地下鉄に爆弾を仕掛けたギテク。彼は国家情報部の秘密要員で前総理(ソン・イルグォン)の支持した暗殺計画を遂行する立場にあったが、裏切られ、命を狙われて妻(ユン・ヨンギョン)さえ亡くした。その悪行のデータ暴露というネタをもとに前総理を脅迫する。
 インギョンは駅のホームでのギテクの不審な様子に気づき、チャンに連絡。チャンはオートバイで地下鉄構内に乗り込む。
 乗客を人質に取ったギテクの脅迫に応じながらも、地下鉄のクォン中央統制室長(ソン・ビョンホ)は、なんとか乗客を守ろうとうする。ちょうど列車には線路担当統制室職員(チョン・ジュン)の新婚の身重の妻(サ・ヒョンジン)や、インギョンのスリ仲間のかみそり(クォン・オジュン)も乗り合わせていた。刑事班長(イム・ヒョンシク)はチャンの手腕に期待し、指示を送る。ギテクに勝った後も列車は爆走を続ける。前総理は乗客を工事線路へ誘導して大破させ極秘データとともに消してしまおうとする。チャン刑事は最後の仕事にとりかかる。
     映画川柳「飴玉が 生きる希望の 光にと」 飛蜘

 地下鉄ものの名作には『サブウェイ・パニック』がある。こちらの犯人の動機は金だった。『TUBE』の脅迫のネタは極秘データの入ったメモリーだが、列車が事故を起こしたからといって、メモリーが必ず破壊されるとは限らない。それなのに前総理が乗客全員の命を見捨ててしまうのは奇妙である。冒頭の銃の大乱射の犯人の動機もなんだかはっきりしない。それにギテクもチャンも強すぎる。車内での決闘もピストルがあるのにわざと弾を撃ち尽くして後、ふたりともいつのまにか装備していた短刀で戦う。しかし、この短刀では決着がつかず殴る蹴るの応酬。アクション、つめ込み過ぎだ。切迫した状況のなかでチャン刑事とインギョンがお互いの想いを交わすシーンもやたらに長い。長すぎる。余計な情感盛り上げ場面をカットして、あと20分ほど短縮したらもっと良かったのでは。 
2011年1月4日




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子猫をお願い



韓国
2001年
(日本公開2004年)
112分
 チョン・ジェウン監督・脚本の第1作。 撮影チェ・ヨンファン、音楽チョ・ソンウ。
 インチョン(仁川)の女子商業高校卒業の仲よし五人組。数か月後、テヒ(ペ・ドゥナ)が連絡係で電話をかけ、証券会社に勤めたヘジュ(イ・ヨウォン)の誕生日をみんなで祝った。テヒは口紅、ピリュ(イ・ウンシル)とオンジュ(イ・ウンジュ)の双子の姉妹は「寄せて上げるブラ」を贈る。絵の特異なジヨン(オク・チヨン)は貧しいので、拾った子猫のティティをプレゼントした。しかし、翌朝、ヘジュは飼えないからとジヨンに返す。代わりにヘジュはジヨンに食事を奢ると約束するが、突然ジヨンが訪ねていくと仕事が遅くなったヘジュは結局会えないまま。
 ジヨンは家が崩れてくると大家に携帯電話で抗議するが、大家は引っ越せというだけだ。
 テヒは自分の家のサウナで受付兼雑用係として働き、ボランティアで身体障害の詩人の詩のタイピングをしている。テヒは金を貸してくれというジヨンに港でのチラシ配りを頼み、金を貸す。ヘジュは自分も貸したが返してもらっていないと話す。
 ソウルに越した姉(パク・リナ)に両親が離婚してもあまりショックではないと話すヘジャ、「1か月に1回くらい合わないと、友情が壊れる」とソウルに4人を呼ぶ。4人はソウル見物に出かけるが、両親がいないため無職のジヨンは髪を金色に染め、暗い。ヘジャは高価な服を買うが、ジヨンは何も買える物がない。「先に帰る」というジヨンをみんなは引き留めるが、ヘジャは「ふてくされた顔を見たくない」と言う。傷つくジヨン。テヒはヘジャに「昔は親友だったのに」と抗議するが、ヘジャの答えは「いまが大事」。テヒ「いま、あんたの大事なものは何?」、ヘジャ「・・・服よ。文句ある?」。
 翌日、テヒはジヨンに携帯メールで彼女の消息を尋ねるが、返事は無い。思いきって家を訪問すると、祖母から餅を御馳走になる。新空港の食堂の仕事から帰宅したジヨンと久しぶりに話ができる。テヒはジヨンからテキスタイルの練習図をもらった代わりに、バス内で買った虹色歯ブラシを贈る。 
 年があけて会社に新入社員が入って来ると、急にヘジュの価値は下がる。上司(パク・ソングン)は若い社員をちやほやして、ヘジュは新入社員にお茶を出すありさま。コンタクトをメガネに替えてみたり、視力矯正手術を受けたりする。女性の部長が気に行って使ってくれるものの、お追従を言うと、かえって「夜間大学へ行ってはどうか。学士は必要よ。一生雑用係でいいとは思っていないでしょ」と諭されてしまう。イライラするヘジュ。
 一方、テヒも夜中に父親(チェ・サンソル)が突然、ギョウザが食いたい、買ってきてくれ、ヒマなのは姉さんだけだと受験準備中の弟テシク(チェ・ユンシク)に言われる始末。
 三度めの集まり。みんなで料理を作り、テヒとヘジャの知りあったきっかけ(トッポッキ縁)や一気飲みで盛り上がる。ピリュが満月の日に夫の姿を見る方法を提案し、屋上へ鏡を持って行く。タバコを取りに戻ったテヒがオートロックを閉めてしまい、建物の中に入れなくなる。寒空に凍えてしまう五人。穴を掘ってその中に入り、上を新聞紙で被う。
 翌朝、早起きして「また会おうね」と別れの言葉を書き付け、家に帰宅したジヨンは自宅のバラックが崩壊し、祖父母が下敷きで死んでしまったのを知る。近所の人はジヨンに同情するが、刑事に事情を聞かれたジヨンは何も答えないため、少年院に送致されそうになる。猫はテヒに預けられた。なんら犯罪を犯していないのに捜査に協力しないということだけで、収監されてしまうというのはなぜだろうか。このあたり、日本人にはよく理解できない。
 お金を新聞で包んでいる手がある。テヒだ。無給で働かされてきたテヒは自分で一年分の給料を計算し、父親の金庫から盗み取って家を出て来たのだ。家族の写真から自分を切り取って。猫は双子に預けた。テヒは分類審査に回されたジヨンを一緒に生活しようと誘う。
 身軽な二人の出発の始まりである。空港の時刻表前で。行く先はテヒが話していたワーキング・ホリデーの地、オーストラリアだろうか。
  他のキャストはヘジャのボーイフレンド・チャニョン(オ・テギョン)、テヒの母(キム・ファヨン)、兄(ソン・ギホ)、その妻(イ・ジヒョン)、ジヨンの祖母(チェ・ヨンス)、祖父(ユ・インス)。
      映画川柳「曜日ごと 色を変えれば 虹の七」 飛蜘
2011年1月3日


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復讐者に憐れみを



韓国
2002年
121分
 パク・チャヌク監督の第4作。復讐三部作の第1。脚本パク・リダメ(イ・ムヨン)とイ・ジェスン。撮影キム・ビョンイル、照明パク・ヒョノン、音楽イ・ビョンフン,チャン・ヨンギュ,ペク・ヒョンジン。
 ラジオ番組のパーソナリティが投書を読んでいる。重病の姉のために大きな決意をしたという。先天性聴覚障害の弟は自分の腎臓を移植しようというのだ。しかし、医師から「君はB型で血液型が違うから移植できない」とと伝えられる。姉は退院して人工透析を続ける。弟は姉(イム・ジウン)と一緒に暮らす。鉄鋼工場で働く緑色に髪を染めた弟リュ(シン・ハギュン)には恋人ヨンミ(ペ・ドゥナ)がいる。
 リュは人員整理で解雇されてしまう。その直後,女ボス(イ・ユンミ)が率いる臓器密売団と接触し,自分の腎臓と退職金など全財産一千万ウォンを譲り渡して姉のための腎臓を手に入れようとする。しかし,騙されて全裸で放り出されてしまう。その時,適合する腎臓が見つかったという連絡が病院から来る。手術は一週間後だ。リュはヨンミに責められ、ヨンミはイルシン電気社長トンジン(ソン・ガンホ)の子供ユソン(ハン・ボベ)を誘拐しようと提案する。子供は返すから「良い誘拐だ」とヨンミ。決行の日に解雇されたペン技師(キ・ジュボン)が社長の車に当り、腹を切って抗議するので二人は気後れするが結局、ユソンを拉致する(拉致場面は出て来ない)。姉には離婚した母親の代わりに一時預かりと納得させたようだ。ユソンは姉や弟にすっかりなついている。
 公園でトンジンから金を奪ったリュだったが誘拐を知った姉が自殺していた。悲しみにくれるリュは車で川原に行き,姉を石で埋める。脳性麻痺の青年(リュ・スンボム)がからんでくる。車内で寝ていたユソンは青年に首飾りを引っ張られ、目覚めて川に来て、橋の途中で川に落ち、死んでしまう。耳の聴こえないリュには、知らないうちの出来ごとだった。
 娘の遺体は司法解剖される。悲嘆にくれる妻(イ・カニ)、復讐を決意するトンジン。会社も辞め、家も売った。後半はトンジン中心のストーリーとなる。
 動機のありそうな者を尋ねるうちに技師一家の心中にも遭遇してしまう。瀕死の少年を救急病院に運ぶ(この子は最後に死亡が伝えられる。それまで保護者欄に自署していたトンジンは復讐を終えると死亡の連絡に、自分は知らないと答える)。脅迫状に同封したユソンの写真の背後に写っていた壁紙の模様からトンジンはリュが犯人だと目星をつける。ラジオのDJにも話を聞き、リュの描いた葉書の絵に目を止める。川で石の墓を造る男の後ろの川に赤い着物の少女が浮かんでいた。トンジンは川原におもむき、リュの姉の死体も発見した。一方、リュとヨンミは臓器密売団せん滅作戦を決行中だった。ヨンミは街頭でチラシを撒く。「民衆を苦しめる新自由主義反対、米軍追放、財閥解体」(革命的無政府主義同盟)。これはヨンミ「ひとりだけの組織」だった。リュは密売団のボスの息子の頸動脈を刺して倒し、ボスに向う。ボスはメスでリュの腹部を切った。血を流しながらリュがヨンミのマンションに戻って来ると、ヨンミはトンジンの電気ショックによる拷問で死亡していた。ヨンミは仲間がテロリスト集団だからあたしが殺されるとあんたは確実に殺されると忠告していた。売出し中の自分の家で休むトンジン。忍び込もうとするリュはドアノブで感電して倒れる。川にリュを運んで来たトンジンはリュを「お前は優しい奴だ。だから俺の気持ちがわかるだろ」と足首を切り裂き、処刑する。死体をバラバラにしたようだ(その場面は出て来ない)。自動車の傍で穴を掘っていると黒い車で四人の男達(キム・イクテ、オ・グァンノク、シン・ジョングン、イ・ゲヨン)がやって来る。タバコを吸っている男達。突然、刃物でトンジンを刺す。倒れたトンジンの胸に「判決文 死刑」の紙が突き立てられる。
 パク監督は最初はリュの死亡で終わるつもりだったが急にそれでは物足らなくなって処刑シーンを撮ったと証言。
 作品は興業的には失敗したが、批評家の評価は高かったという。
 警察の捜査の指揮を取るチェ班長(イ・デヨン)はトンジンの復讐を見逃すが、これには班長の娘(ヤン・セリ)の腎臓移植手術の資金をトンジンに出してもらったからだろう。
      映画川柳「検死体 メスで切り裂く 音がする」 飛蜘
 
2011年1月2日


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オールド・ボーイ

韓国
2003年
120分
 パク・チャヌク監督第5作・脚本。復讐三部作の第2。原作は土屋ガロン(作)・嶺岸信明(画)のコミック。オールド・ボーイとは同窓生のこと。脚本パク・チャヌク,ファン・ジョユン,イム・ジュンニョン。撮影チョン・ジョンフン
 警察で中年オ・デス(チェ・ミンシク)が暴れている。短いカットがたたみかけるように重ねられる。やっと迎えのジュファン(チ・デハン)も来て解放されたと思ったら公衆電話前で行方不明に。なぜか理由は不明だがある部屋に監禁されていた。そして15年。女に催眠を施され、屋上で解放される。屋上には犬を抱いた自殺志願の男(オ・グァンノク)もいる。町へ出ると見知らぬ男(イ・デヨン)が財布と携帯電話を寄こした。日本料理店で女性で最年少の板前ミド(カン・ヘジョン)と話し、生きたタコを注文する。頭からかぶりつく。急に昏倒し、気がつくとミドの一室で寝ていた。ミドの助けを借りて自分が殺したという妻や養女になったという娘の住所を知り、監禁先の味のギョウザを探す。殺人はもう時効だった。やっと見つけたマンションの5〜7階は監禁室だった。管理人パク(オ・ダルス)の歯を抜く拷問で監禁依頼のテープを入手。そこには「オ・デスは口数が多すぎる」と録音されていた。用心棒たちと乱闘し、血まみれで歩くデスを横断歩道で支えた青年はデスをタクシーに乗せてミドのマンションを指定、「あばよ、デス」との言葉を残した。
 ミドに手当てされたデスに旧友ジュファンがメールのハンドル・ネーム、エバーグリーンからセ・デオという名前を割り出し住所を伝えて来た。ミドの隣りのマンションだ。駆け付けると二人の若い男(ユ・ジテトキム・ビョンオク)がいて、監禁を認めたもののその理由は言わない。主犯は心臓ペースメーカーの手術の際にリモコンでオフできる機能をオファーした男(ユ・ジテ)、デスは男をハンマーで狙うが男はリモコンを片手に俺を殺せば監禁の理由が永久に分からないと脅す。ミドの部屋に戻ると歯を抜かれた管理人パクらが復讐に来ていた。復讐に歯を抜かれそうになった瞬間、多額の現金が持ち込まれ男達は去る。誰かがデスの命を買ったらしい。暴行される寸前だったミドは「これでも私を疑うのか」と訴える。デスとミドは荷物を持って二人で車で出発する。車でミドは歌を歌う。それは自分を抱いてくれという合図でもあった。盗聴器を仕掛けていた青年、実は大企業エバーグリーン・グループの会長は「もうミドはデスを愛し始めたのか」と驚く。やはりミドは操り人形だったようだ。デスとミドは激しく愛し合う。ミドはデスをアジョン(おじさん)と呼ぶ。おじさんの運命に同情し愛情に変わったのだ。二人は一緒にデスの出身校、サンノク高校の同窓会に調査に行く。会長は同窓生のイ・ウジンだった。ひとりアルバムから写真が抹殺されている女子がいる。イ・スア(ユン・ジンソ)だ。湖で溺死したという。妊娠していたらしい。美容院を開いている同窓生(パク・ミョンシン)に相手の男を聞くと、女は友人に電話で問い合わせ「いちばんよく知ってるのはあんただって」と意外な返答をする。デスは記憶の底を探る。
 デスは自分ががソウルに転向する前日のことを思い出す。煙草を吸っていて教師に咎められたこと、赤い自転車の女の子、スアが話しかけてきたこと。ジュファンに電話でスアのことを聞くと、「スアは誰とでも寝るアバズレだった」と答える。しかし、ジュファンの電話の傍にはウジンが居た。急に怒ったウジンはジュファンを撲殺する。そして「アバズレなんかじゃない」と否定するのだ。ウジンはスアの弟だった。デスは更に思い出す。たまたま理科室に人の気配を感じてのぞくと、写真を撮っていた弟ウジンとスアが服を脱ぎ抱き合い始めた。姉弟の近親相姦の目撃談を帰り道、デスはジュファンに話した。絶対他人に言うなと念を押したのだが。デスはウジンに直接会いに乗り込む。7月5日スアの命日だった。ウジンは後催眠暗示をかけてミドを操り、解放したデスと会わせたのだった。デスにウジンは「なぜ監禁したかではなく、15年もたってなぜ解放したか」が鍵だと言う。箱に入ったアルバムを見せられ、デスはその真実とウジンの復讐に気づかされる。催眠術師ヒョンジャ(イ・スンシン)。
      映画川柳「開いては ならない箱が 二つある」 飛蜘

 2004年カンヌ国際映画祭審査員特別賞グランプリ受賞(審査委員長はタランティーノ)。デスの動機にもウジンの動機にも共感できなくて、他人事で見てしまった。    
2010年12月28日



VHS
ペパーミント・キャンディ


韓国
2000年
129分
 イ・チャンドン監督・脚本の第二作。撮影キム・ヒョング、音楽イ・ジェジン。藤田真男氏より借りたビデオで見ました。
 「ピクニック1999年春」。音信不通になっていたキム・ヨンホ(ソル・ギョング)は河原で開かれていた20年ぶりの大学の同窓会に参加する。ヨンホは会社を辞めて軍隊へ行ったところまでは分かっていたが、その後のことは誰も知らなかった。再会を懐かしむ同胞(キム・ジュボク、クォン・ヨングク、チェ・ヨンシク、シム・テソン、パク・チョンサン、アン・チャンモ、パク・キルス、以上男子。カン・ソンスク、チェ・ミングム、ユ・ジニ、シン・ブヨン、イ・ウンスク、チェ・ヒョンスク)に比べてヨンホは絶望的な言葉を吐き、キヨリ鉄橋の上で「俺はダメだ。昔に帰りたい」と叫ぶ。ちょうど来た列車の前に手を広げて。
 線路が過去への扉となる。佐々木昭一郎演出『夢の島少女』のようだ。まずは「カメラ 3日前 1999年」。ラジオからキヨリ鉄橋で、カリボン蜂友会の面々に同窓会の連絡が流れている。そんななかヨンホはバイクの若者から何かヤバい品物を買ったようだ。なけなしの金をはたいたため、露店商(オ・ヨンシル)のコーヒー代金も払えない。買ったものは拳銃だった。彼は以前の同業者、キム社長(イ・デヨン)を狙撃。駐車違反で尋問されると車を捨てて逃げる。別れた女房ヤン(キム・ヨジン)のアパートを尋ねるが、女房は警戒して中に入れない。オンボロの自室に帰ると、中谷一郎風の男(パク・セボム)が彼を探して訪ねて来ていた。ヨンホは拳銃を取り出し、自殺の道づれに誰か一人を殺そうと思っていたと告白、自分の人生を狂わした株屋か、サラ金業者か、裏切り仲間か、とにかく誰でもいいんだと言う。男はユン・スニムの使いのものだ、スニムの夫で、死にかけている妻がヨンホに会いたいと言っていると伝える。翌日、男はヨンホに服を着替えさせて病院に行く。ヨンホは見舞いの品にペパーミント・キャンディを購入。病院に着くともはやスニム(ムン・ソリ)は意識が無いと告げられる。男は昨晩は話せたのにと落胆する。集中治療室のスニムにヨンホはキャンディを示し、軍隊の手紙に一粒ずつ入れて送ってくれたね、それをためていたんだ、上等兵に怒られたよと話す。意識が無いはずのスンニが一筋の涙を流す。男はスンニからあんたのものだと預かったというカメラを渡す。ヨンホはその形見のカメラを売ってしまう。店主(ペ・ジャンス)は中にあったフィルムを返すが、夜のベンチでヨンホはフィルムを引き出し泣き崩れる。
 線路がさらに過去へ戻る。「人生は美しい 1994年夏」。ヨンホは会社社長である。解説によれば家具店らしい。妻が自動車教習所の指導員(キム・ドンゴン)と浮気をしているらしい。興信所から連絡が入った。妻の浮気の現場に乗り込み、相手の男や妻を殴るキム。しかし、ヨンホ自身は事務員リー(ソ・ジョン)とセックスをしている。ある日、食堂で知人(キム・ギョンイク)と会う。ヨンホが警官時代の知己のようだ。トイレでキムは知人に「人生は美しい」と言うが、男はキムを避けるように去る。場面変わって、社長の転居祝いを新しい家で行っている。料理好きな妻に事務員はお世辞を言う。妻はもと食堂の従業員だから。食事を始めようとすると、妻は食事の前にお祈りをするという。キリスト教徒なのだ、長い神への感謝の言葉が続くが、途中で妻は泣きだしてしまう。いたたまれなくなったキムは席を外す。 
 「告白 1987年春」臨月の妻をかかえたヨンホは警官である。チョン・ドファン大統領の時代で学生デモのニュースがラジオから流れている。ヨンホは前の場面の知人と思われたミョンシクを拘束。取り調べでビンタを繰り返す。ラジオで告白番組が流れているとき、取り調べ室では水責めの拷問がされている。『チェイサー』の殺人者の浴室は同じイメージである。ミョンシクの日記には「ウォンシクに金を貸した」とあるが警察が狙っているのはそのウォンシクで、居所を自白せよというのだ。拷問の途中で警官たちの飲み会が入る。ふとヨンホは若き阿藤海に見えた。とうとう「ウォンシクは群山にいる」と自白。ヨンホはミョンシクに「お前の日記に“人生は美しい”とあるが本当か」と話す。
 ヨンホは初恋の女性はユン・スニムだと言う。群山で張り込みを続けながら警官たち(ユ・ヨンス、コン・ヒョンジン)はこいつは初恋の話で女をひっかけるんだと話している。交替で取った休みのとき、酒場で知り合った女(コ・ソヒ)にも初恋の話をする。すると女は今晩はあたしがその女になってあげると言ってベッドを共にする。翌朝、ウォンシク(チャン・ムニョン)を逮捕する。ヨンホ自身は片足が悪く、追跡には向いていない。犯人を検挙したが、酒場の女と会う約束は反古になった。 
 「祈り 1984年秋」ヤンに自転車ののり方を教えてくれとヨンホは頼まれる。ヨンホと妻との出会いである。警官になったばかりのヨンホは拷問が苦手だった。しかし、班長(イ・ビョンチョル)に任された初めての尋問で相手の首を丸かかえしてひねり、自白を強要、相手が出した糞がついた手を洗っていると、スニムという女性が面会に来たと言われる。食堂でスニムと再会するヨンホ。スニムは「ずんぐりしているが優しそうだ」とヨンホの手を褒める。ヨンホは悪ぶって食堂の店員ヤンの尻をなでる。スニムは「あなたは写真が夢だったでしょ。お金をためて買ったの」とカメラを持って来た。しかし、列車で別れ際にヨンホは彼女にカメラを返す。その晩、自転車で広場をぐるぐる回っていたヨンホは食堂に闖入。突然暴れ出し、店を壊し、客に軍隊用語で号令をかける。騒ぎがおさまると女店員ヤンは自分の部屋のベッドにヨンホを迎えていた。添い寝をするヤンはまずお祈りをし始める。
 「面会 1980年5月」ヨンホは軍隊勤務である。スンニがヨンホへの面会を申し込んでいるが、戒厳令下で面会は全面禁止である。急に出動がかかりキャンディを片づけないままヨンホは前線へ出る。市民と軍隊が衝突した光州事件である。途中遅れがちなヨンホは「靴に水が入って走れない」と訴えるが、実は水ではなく、血だった。脚を撃たれたのである。友人(チョン・ウヒョク)が応援兵を呼びにいく間に叔母の家に帰るという女子高校生(パク・チヨン)が現れる。「行け」と指示したはずなのに、女子高校生は流れ弾に当たって死んだ。ヨンホは彼女の体を抱いて泣く。
 「ピクニック 1979年秋」ヨンホは「花が好きだ。いつか写真を撮りたい」とスニムに話している。スニムは「キャンディーいかが」とヨンホに薦める。「ペパーミントが好きなのかい?」「好きになろうとしているの。工場で1日1000個包んでいるから」。このピクニックは合同コンパのようなものだろうか。ヨンホは「この場所は初めて来たのに前に来たような気がする」と言う。みんながフォークソングの「君に去られたら、僕はどうしたらいいんだろ」という歌を歌うなか、ヨンホは輪から離れてひとり河原に寝そべるのだった。溶暗。
      映画川柳「犬嫌い 花を愛する 粗忽者」 飛蜘   
2010年12月28日



VHS
グリーンフィッシュ


韓国
1997年
114分
 イ・チャンドン(李滄東)監督・脚本の第一作。共同脚本オ・スンウク(助監督)、撮影ユ・ヨンギル、照明キム・ドンホ、抒情的な美しい音楽はイ・ドンジュン。藤田真男氏より借りたビデオで見ました。
 古い家族の思い出の写真が1枚また1枚と写る。裏社会の話なのに抒情的な感興が起こる不思議な映画。
 除隊した青年(ハン・ソッキュ)が故郷に帰る列車のなか、デッキに立つと、前のデッキでたたずむ女のベールが飛んでくる。青年はベールを返そうと前の車両に行く。女が男達にからまれている。間へ割って入り、男達に注意すると、男達は女を解放する。油断した青年はボコボコに殴る蹴るの暴行を受ける。流しで血を洗った青年は黙ってはいない。駅で降りた男達を後ろからカバンで殴り倒す。ホームを走って逃げる青年。列車に飛び乗ろうとするが、列車は行ってしまった。
 故郷の家で、母親(ソン・ヨンスン)はリンゴの皮をむきながらTVを見て笑っている。青年は末弟だが、いちばん上の兄は障害者(イ・ホソン)だ。三男(チョン・ジニョン)はトラックで卵を売る卵商。信号無視でパトカーに追われるが警察官(イ・ヘシク)に賄賂を渡して見逃してもらう。しかし、警察官が釣りを寄越さないのでパトカーを追跡する。最初は臆していた青年も一緒に興奮してくる。青年の名はマクトンだ。ミエという女から電話があったという。
 ミエ(シム・ヘジン)はニュース・ナイト・クラブの歌手だった。いしだあゆみに似ている。クラブが終わって外へ出て来たミエはマクトンにベールを贈る、カバンを返すと話す。男達が近づいてくる。ミエに兄貴がお呼びだと伝えるが、ミエは渋る。マクトンが口をはさむと殴り倒された。兄貴とはペ・テゴン社長(ムン・ソングン)で、ミエは社長の情婦なのだ。
 マクトンは社長の紹介で駐車場の管理人に雇われるが、鍵を預けようとしない男と喧嘩になる。社長の用心棒パンス(ソン・ガンホ)らだった。殴られっぱなしではいないマクトンは角材でパンスを殴り倒す。社長が止めて和解させる。社長はマクトンの一本気なところが気に入ったようだ。マクトンは法律違反をしない範囲でと大金を渡されて仕事を言いつかる。
 マクトンの仕事はカラオケ・キャバレーで歌っていたオ社長(クォン・テウォン)の歌を執拗にけなして社長を怒らせること。手を出したオ社長の前で転び、あらかじめ折っておいた指を大怪我したように見せる。オ社長が驚いているところへペ・テゴンの手下が仲裁に入り、テゴン傘下の建設に対する反対の矛先を収めさせる。自分の指を折って仕事をしたマクトンをテゴンは自分を「兄貴と呼べ」と認可する。キャバレーでミエをののしった客を処理する仕事も依頼され、マクトンは働きがいい。マクトンの次兄(ハン・ソンギュ)は刑事だが、酒で失敗し、妻(チャ・ユギョン)からも愛想をつかされている。
 廃屋になったビルで社長はマクトンに自分が「物乞い野郎」だったときの話をする。教養も学歴も金銭もないクズから成りあがって今に至ったのだ。しかし、そこへ社長の昔の兄貴分キム・ヤンギル(ミョン・ゲナム)が現れる。出所して来たのだ。ヤンギルはテゴン社長のシマ内にブルース・ナイト・クラブを開くと言う。
 テゴン社長が頼みの綱とする警察官僚・課長(キム・ヨンマン)は女房の浮気を嘆くていたらくだが、手下たちは浮気相手の教会執事(ユ・ヨンス)を私刑で生き埋めにする。小便を浴びてしまうパンス。マクトンは気分が悪くなる。
 駅でマクトンは列車に乗ろうとするミエと出会う。社長との関係に疲れるとミエは列車に乗るのだ。ミエはマクトンにキスを教えるが、ポケベルが鳴って社長から呼び出しがかかる。兄貴に歯向かって女を愛するなんてことは出来ない。社長はミエを愛していると言う。マクトンは母親の誕生日だからと帰郷の許しをもらう。
 母親の誕生日祝いに家族が集って河原の土手で弁当を広げるが、次兄の酒がもとで大ゲンカになってしまう。妹(オ・ジヘ)はせっかくのお祝いなのにと泣く。その夜、米兵と小競り合いを起こすテゴン社長の手下たち。社長は「俺たちはヤクザじゃない」と手下を叱るが、どうやらキム・ヤンギルが仕掛けた喧嘩らしい。社長はミエを検事の相手に送って懐柔しようとする。しかし、ヤンギルの子分たちはテゴンの車を壊し、店を破壊していった。手打ちの酒席でもヤンギルはテゴンを殴り、見下す。「雑種のくせにシェパードだと思い込む奴がいる。雑種だと気付かせるしかないんだ」とヤンギル。マクトンに社長は聞く。「お前の夢は何だ」。マクトン「家族一緒に暮らして小さな食堂を開くことです」、社長「いい夢だ。自分はどん底から這い上がったんだが、代償も大きかった」。マクトンは社長のためにある決意をする。
 サングラスをかけるマクトン。ブルース・ナイト・クラブ前で思い出のベールに火を点けて燃やす。BLUESのEが消えている。サングラスの両眼に映る炎がなんともスタイリッシュ。トイレでヤンギルと一緒になったマクトンは「チャックが」と話しかけてヤンギルを刺殺する。
 電話で次兄に子供の頃、緑の魚を取りに行って、サンダルを探したねと思い出話をするマクトン。廃屋ビルで社長と遇うが、ヤンギル暗殺の報を聞いていた社長はマクトンを銃で撃つ。車のフロントガラスにゆがんだ顔を押しつけたまま息を引き取るマクトン。ミエは仰天する。
 雨が降っている。マクトンの家族が嘆いている。
 国道の脇に「大きな木の家」という古臭い食堂がある。向うはソウルの大都会。マクトンの家族が総出で営業している小さな食堂だ。そこへ黒い車がやってくる。テゴン社長と妊娠したミエである。二人はここがマクトンの家族の食堂だとは知らない。地鶏の栄養スープを注文する。家族は飼育していた鶏が逃げ回るのをみんなで捕え、さばいて料理する。食べ終わって外に出たミエは風景に見覚えがあるのに気付く。列車でマクトンに見せてもらった写真の風景だ。ミエは車の中で泣き崩れる。社長は警官を辞めてしまった次兄に「どこかで会ったようだ」と話す。次兄役のハン・ソンギュはマクトン役のハン・ソッキュの実兄である。次兄は「覚えがない」と答える。車が去った後、向うに高層ビルが立ち並ぶソウル市街が見えて、手前に小さな食堂が目立つ。食堂にマクトンの姿は無いのである。
 他のキャストは3番目の兄の妻(パク・ヘスク)、ドンジュ(チョ・ミンチョル)、チャンジョン(パク・ナミョン)、ナモ(キム・ナモ)、ペ・テゴン部下(クォン・ソンファン、キム・テジュン)。
      映画川柳「干支を聞く 知らぬと言えば 見下さる」 飛蜘
2010年12月26日


Show time

ベートーベン・ウィルス


韓国
2008年
各60-72分
 韓国のTVドラマ。全18話のうち第1話から第6話までを視聴。Show timesで期間限定無料視聴だった。演出イ・ジェギュ、脚本ホン・ジナ&ホン・ジャラム。
 ソクラン市に務めるトゥ・ルミ(イ・ジア)は音楽大学でバイオリンを専攻したものの、音楽を生かす仕事はしていなかった。たまたま、音楽都市を目指す企画が市長に気に入られて早速オーケストラを編成することに。ところが、間に入ったプロデューサーが横領で逮捕され、ルミの支払った3億ウォンも消えたことが判る。オーケストラ要員は解散、この事実を隠して、資格も経験も不問で集めた一回の公演のためのプロジェクト・オーケストラに迎えた指揮者が、オーケストラ・キラーとして有名なカン・マエ(キム・ミョンミン)だった。
 ルミの家の家主ヒヨン(ソン・オクスク)の甥カン・ゴヌ(チャン・グンソク)は停職中の警察官、認知症になりかけている元オーボエ奏者ガヒョン(イ・スンジェ)、キャバレーで吹いていたトランペット奏者ヨギン(パク・チョルミン)、エレキ・バイオリンの美人姉妹、金に執着するフルートの音大生イドゥン(ジュニー)、ルミの大学の先輩でコントラバス奏者ヒョックォン(チョン・ソギョン)など、様々な人間模様が、カン・マエの情け容赦ない指導のもとで、あぶり出されてくる。
 第5話で公演は無事成功し、喜んだ市長はカン・マエを指揮者とする正式な市響の創設を宣言し、 プロジェクト・オーケストラの団員たちは自分たちが市響に迎えられるものと期待する。一方、カン・マエは団員たちとプロの演奏家の実力の違いを見せつけ、団員たちに音楽の道をあきらめさせようとする。
      映画川柳「うまいねと 言われて 十年無駄にする」 飛蜘

 公演の最後、クライマックスに演奏されるのが、ロッシーニの歌劇『ウィリアム・テル』序曲。この曲を聴いてクラシック・ファンになった私には感慨深いものがあった。「夜明け」「嵐」「牧歌」「行進曲」と四部構成で、ドラマでは「夜明け」と「行進曲」しか使われていなかった。
2010年12月12日



DVD
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猟奇的な彼女


韓国
2001年
122分
 クアク・ジェヨン監督のラブ・コメディ。「猟奇的な」という韓国語は「奇妙な、変な」という意味だそうである。英語題名は「My Sassy Girl」で、Sassyとは生意気なという意味。
 駅で出会った彼女(チョン・ジヒョン)はぐでんぐでんに酔っていた。ぐうたらな工学部の学生キョヌ(チ・ャテヒョン)は七歳まで女の子として育てられていたというほど、優しいが気弱な性格。年寄に席を譲らない若者や援助交際に走る人々、タバコをポイ捨てする青年などに遠慮なく注意をする彼女は、彼女に振られて軍隊を脱走した兵士にも「本物の愛があるなら彼女の自由にさせて」と意見する。それもそのはず彼女は一年前に相思相愛だった恋人を病気で失っていた。酔った日も彼が死んでちょうど一年めだったのだ。最初は彼女の生意気ぶりに驚き、次には心の傷を癒そうと半分仕方なく交際を始めたキョヌだったが、別れの日が近づくにつれて本気で彼女が好きになっていることに気づく。二人で丘のマツの樹の下に埋めたタイムカプセルに手紙を収納し、二年後に開くことを約束した二人。この恋の行方はいったいどうなるのだろうか。
      映画川柳「叔母は言う おまえとよく似た 息子だと」 飛蜘 
2010年12月10日



DVD
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トンマッコルへようこそ


韓国
2005年
132分
 パク・クアンヒョン脚本・監督の長編第1作。チャン・ジンの舞台劇の映画化。朝鮮戦争当時、米軍、南軍、北軍の兵士が山奥の村トンマッコルに迷い込んでしまった。敵対する兵士が戦争をまったく知らない村人と桃源郷で過ごしているうちに、村人に同化していく。しかし、戦争は容赦なく進み、兵士たちは村を救うおとり作戦を決行する。
 武器輸送機が墜落、ケガをした米軍兵士スミス(スティーヴ・テシュラー)は村人に救われる。
 一方、北軍の中隊長リー・スファ(チョン・ジェヨン)は怪我をした同志を足手まといだから銃殺、とはしなかったものの、南軍の急襲で部隊はちりじり、下士官ヨンヒ(イム・ハリョン)、新兵テッキ(リュ・ドックァン)と共に山に迷い込む。一方、森で南軍の衛生兵サンサン(ソン・ジェギョン)は仲間のヒョンチョル=ピヨ少尉(シン・ハギュン)と出会う。頭の弱い少女ヨイル(カン・ヘジョン)の案内で三組の兵士がかち合ってしまい、お互いが銃を向ける事態に。にらみ合いが半日以上も続き、眠くなったテッキの手榴弾からヨイルが指輪と思ってピンを抜いてしまう。それでも落とさず握っていたもののとうとううつつになったテッキは落としてしまう。拾ったピヨ少尉の傍で弾は爆発しなかった。そこで不発弾だと判断、放り投げた先の納屋で爆発!集落にポップコーンの雨が降る。貯蔵食料をポップ化してしまったので兵士たちは農作業を手伝う羽目になる。作業を通じて次第にお互いの警戒を解いていく。
 ある日、巨大なイノシシに襲われた少年やヨイルを兵士たちは助け合って倒す。肉を食べない農民たちに対して、夜中にそっと肉を求めてやってきた兵士たちは、食べることを通じて仲間意識を高める。次の日から、兵士たちは軍服を脱いで、村民服を着用するようになった。それでもひとりだけピヨ少尉は警戒を解かなかった。彼は難民が渡る橋の爆破を拒否した脱走兵だったのだ。
 米軍はスミスが撃墜された地点付近に共産軍の攻撃場所があると判断、落下傘部隊を降下させ、スミス奪還を図る。抵抗する者は民間人といえどもみな殺しだ。降下した兵士で生き残ったのは五人。彼らは村に入るが、言葉の通じない村人に対し、いら立ちをつのらせる米兵たち。村長に暴力をふるい、ヨイルを殴ろうとする。村に同化した兵士たちを村民は自分の息子だ、夫だと主張して守ろうとする。一人ずつ殺していくという米兵を突然刺殺したのはピヨ少尉だった。撃ちあいになり、巻き込まれてヨイルは死亡。淡い恋心を抱いていたテッキは号泣する。
 生き残った通訳にスミス探索の事情を聞いた五人は、スミスの飛行機が積載していた武器を見て、これだけの武器があれば爆撃を誘導し、村を救えると考える。決死の誘導作戦が始まった。
        映画川柳「蝶が舞う 桃源郷は 守らねば」 飛蜘

 南軍のピヨ少尉を演ずるのは『地球を守れ』でターミネーターばりの若者を演じたシン・ハギョン。
2010年12月5日



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カル



韓国
1999年
(日本公開は2000年)
118分
 チャン・ユニョン(張允R)脚本・監督。原案コン・スチャン,イン・ウナ,シム・ヘウォン,キム・ウンジョン,チャン・ユニョン、 脚本ク・ボナン, チャン・ユニョン, コン・スチャン, キム・ウンジョン,イン・ウナ, シム・ヘウォン。撮影キム・ソンボク、音楽パン・ジュンソク。
 『シュリ』主演のハン・ソッキュがチョ刑事。英語題名は「何か言ってくれ Tell me something」。
 ひとりの青年が702号室に入って行く。解剖台の上で切り裂かれる男。体の一部が黒いビニール袋に入れられて道へ捨てられる。
 チョ刑事が尋問されている。入院中の母親の治療費をねん出するのに、逮捕寸前のパク社長から賄賂を貰ったという疑いだ。起訴はされなかったものの、悪い噂は一気に広がっている。アパートから転落死した少年の現場に出向くと、仲間から非難された。母親の生命維持装置解除同意書にサインするチョ刑事。母親の葬儀をすました刑事はすぐに死体バラバラ事件の捜査担当を命ぜられる。
 検視官(アン・ソックァン)は麻酔後、切りさばかれていて医師なみの腕だという。エレベーター内に置かれた袋からも新たな首が出た。学校の体育館に捜査本部が置かれ、チョ刑事と長門勇に似たオ刑事(チャン・ハンソンク)が担当になる。
 海岸公園でバスケットをしていた若者が第三の男の死体を発見。歯の治療痕から身元が判明。身元引受人はチェ・スヨン(シム・ウナ)、鈴木京香に似た美人である。死体はジュンヒョン(イ・ガウォン)、哲学科教授だった。これまでの犠牲者の写真を見せるとスヨンの顔が曇った。全員自分の知り合いだというのだ。河川敷の死体はバイオリニストのヒョンスン(ホ・ジョンギュ)、エレベーターの死体は画家のウジン(キム・ヨンファン)。みなスヨンの過去の恋人だった。
 スヨンの家には同居人スンミン(ヨム・ジョンア)がいた。医者だという。スヨンが手首を切って自殺未遂を図ったことがあり、そのとき以来の知り合いだという。
 また、スヨンに言い寄るギヨン(ユ・ジュンサン)をスヨンは嫌っているという。死体に施されていた特殊な固定液をギヨンがインターネットで購入していたことが分かり、ギヨンを尋問する。いったい何のために使うのか。ギヨンは動物のはく製のためだと答える。尋問に答えるギヨンは隠しカメラを意識しているようだ。独り住まいのスヨンは誰か侵入者に襲われ、気絶する。発見者はスンミンだった。一方、ギヨンは誰かに呼び出される。ギヨンの部屋の冷蔵庫にはジュンヒョンの心臓が入っていた。スヨンの身の安全を心配するチョ刑事は、犯人の目から逃れるべきだと、自室に誘導する。チョ刑事はスヨンのために銃を引き出しに用意し、メモを残す。
 乗り捨てられたギヨンの車を発見したチョ刑事はその近くのアパートでギヨンの潜伏先と思われる部屋を発見。死体処理のビデオテープを発見する。何者かに部屋にとじ込められるがドアをけ破って脱出。外では自動車に轢き殺されそうになる。オ刑事はチョ刑事が丸腰なのを知っていた者のしわざだと推理する。自室に帰ると買い物帰りのスヨンは銃を携帯していなかった。チョ刑事はスヨンに撃ち方を教える。  
 高速道路を走るトラックが黒いビニール袋を轢きつぶし、飛び散った血液で多重衝突事故が起きる。ギヨンの頭とともに次の犠牲者の体が発見されるだろうと予測される。チョ刑事の載ったエレベーターの天井から血がしたたり落ちてくるが、これは悪夢だった。
 ビニール袋に木炭があった。スヨンの父親チェ・ヨンフン(クォン・テウォン)が著名な画家だったことが想起される。スヨンはもう5年も会っていないと言い、子供時代に絵のモデルになることから始まり、性的虐待を受けたことを告白、すべての縁を切ったと言う。画材店を中心に聞き込みを続けたオ刑事は転落死した少年の弟が盗んだヨンフンの絵を売りに来たことを掴む。案内してもらった部屋はアパートの702号室。そこは死体の解剖室だった。オ刑事はチョ刑事に携帯で連絡、しかしそのとき犯人の魔の手がオ刑事に迫っていた。 
 他にイ刑事(キム・ジョンハク)、ユ課長(パク・チョロ)、キム刑事(イ・ファンジュン)、署長(イ・デロ)。
        映画川柳「バラバラに 組み換えるのは なんのため?」 飛蜘

【参考書】『「映画ファンのための」韓国映画読本』(ソニーマガジンズ、2007年)
2010年12月4日


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シュリ


韓国
1999年
126分
 脚本・監督カン・ジェギュ,共同脚本パク・チェヒョン,ペク・ウナク,チョン・ユンス、撮影キム・ソンボク、照明ウォン・ミョンジュン、音楽イ・ドンジュン。
 1992年2月、麦畑で奇襲される兵士たち。殺人訓練に明け暮れする北朝鮮の兵士たちの中に女(キム・サンミ)がいる。男顔負けの殺人マシーンとなり、狙撃手となる。韓国の政府要人を暗殺する腕のいいスナイパーだった。
 1996年10月、国家一級秘密情報機関O.P(Ocean Park)の特殊秘密要員ユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)と同僚要員イ・ジャンギル(ソン・ガンホ)はU2と接触を試みるが既にU2は暗殺されていた。
 1998年9月ソウル、ジュンウォンは魚ペット店のミョンヒョン(パク・ウンスク)と結婚間近だった。武器密売商のボス,イム・ボンジュ(ソン・ホギュン)が重要な情報をもたらすという連絡を受けたが接触する寸前に,突然逃走し、やがて狙撃された。腕前から最高の狙撃手イ・バンヒと推定された。死んだボンジュの背後を調べるジュンウォンとジャンギル。その過程で特殊8軍団が国防科学技術研究所が開発した新素材液体爆弾CTXを確保しようとしたことを知る。
 北から侵入したパク・ムヨン(チェ・ミンシク)と特殊8軍団の精鋭要員らは,軍団司令部から移送中だったCTXを奪取する。シュリ計画が始まったのだ。計画の最終的な目的は南北統一サッカー・チームの試合会場での爆破計画だった。南北の要人を一挙に爆殺し、戦争を引き起こして統一を早めようというのである。光を当てると成長して爆破するCTX。情報がジュンウォンの近くから漏れていると気づいたジャンギル。イ・バンヒが近くにいるのではないか。次第に運命のときが迫ってくる。
        映画川柳「統一は サッカーごときで 始まらない」 飛蜘    
2010年11月29日


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グエムル 漢江の怪物


韓国
2006年
120分
 ボン・ジュノ監督の長編第3作。パニック映画。グエムルとは「怪物」のこと。『ジョーズ』を超えようと企画された映画ではないだろうか。
 2000年2月に駐韓米軍基地で埃りをかぶったホルムアルデヒドを下水に捨てるように命ぜられた技師は有毒な物質を漢江(ハンガン)に流すことを躊躇するものの、結局300本以上のホルムアルデヒドを流しに捨ててしまう。それから二年後、釣り人が異常な形の魚に気づく。そしてその数か月後、金髪に染めた頼りない父親パク・カンドゥ(ソン・ガンホ)が売店を出している漢江の河岸に突然、巨大な怪物が出現することになる。当初から凶暴な怪物が大暴れ。
 カンドゥの父親(ピョン・ヒボン)と娘のヒョンソ(コ・アソン)は叔母に当たるナムジュ(ペ・ドゥナ)の洋弓の試合をテレビ観戦、外の怪物騒ぎを知らなかった。逃げ惑う人々。カンドゥが逃げるとき、手を取ったはずの娘は別人だった。逃げ遅れたヒョンソは怪物の尾に巻かれて連れ去られてしまう。
 合同葬儀で悲しみに暮れるカンドゥたち。政府機関の黄色い服の男たち(キム・レハら)が怪物に触れた人はウィルス感染の恐れがあると有無を言わせず病院に隔離してしまう。しかし、父親の携帯電話に死んだと思っていたヒョンソから連絡が入った。「下水溝にいる。助けに来て」と。カンドゥは娘が生きていると必死に警察に訴えるが、死んだはずだと信じてもらえない。だが、父親、兄ナミル(パク・ヘイル)、ナムジュは電話を信じる。四人は病院から逃げ屋に依頼して脱走し、下水溝を探す。ヒョンソは怪物が食物を貯めている下水溝の潜入できない横穴に隠れていた。
 別のホームレスの兄弟が荒らした売店に四人もたどりつく。兄弟は怪物に襲撃され、怪物の食物貯蔵場所に吐き出されていた。兄はすでに死んでいたが、弟のセジュは死んでいなかった、ヒョンソはセジュと二人で脱出を試みることになる。
 四人が怪物を銃撃すると、いったんは怪物は倒れた。ヒボンはカンドゥたちを逃がし、一発残った銃で怪物に立ち向かう。しかし、弾は既に無く怪物の一撃で命を落としてしまう。カンドゥは軍隊に捕縛され、保菌者として再び入院させられる。医師役で『チェイサー』のギル先輩役チョン・インギも、一寸出演。
 ナミルは、反政府運動で共に闘った先輩と出会う。ヒョンソの通話記録から、場所が割り出せるのだ。しかし、携帯電話会社の先輩は懸賞金目当てにナミルを助けるふりをしていただけだった。ナミルはヒョンソの居場所を突き止め、クリップでプラグをショートさせ停電させて逃亡する。陸橋の上から飛び降りたナミルはナムジュの携帯に「ウォニュ大橋北側」とメールする。ナムジュは洋弓で怪物を撃つが、尻尾に跳ね飛ばされてしまう。怪物は消化した人々の骨を吐き出す。
 ナムジュからヒョンソの居場所を伝えられたカンドゥだが、病院から抜け出せない。麻酔注射され、生検される。彼に理解を示した軍医も、その本音はウィルスが発見されないことを極秘情報として知っており、カンドゥの脳細胞からウィルスを取り出そうとしていた。脳内ウィルスのせいで娘が生きているという妄想に駆られているのだと判断しているのだ。医師たちの会話を聞き、「ノー・ウィルス」を確信したカンドゥは病人を装い、油断した看護婦を人質にとり、脱出する。
 意識を取り戻したナミルはホームレスの男(ユン・ジェムン)と大橋に向かう。ナミルはタクシーの中で火炎瓶を作る。 一方、ナムジュも漢江を泳ぎ渡り、大橋に向かった。 ヒョンソは衣服を結んでロープを作り、脱出を試みるが、怪獣に捕まってしまった。
 カンドゥは大橋下の下水道に辿り着くが、ヒョンソの姿はなかった。 米軍は細菌を滅ぼすという「エージェント・イエロー」を漢江に散布しようとする。怪物は、散布反対運動が行われている川岸に現れた。散布された化学物質で苦しむ怪物。 カンドゥは怪物の口の中から、ヒョンソとセジュを救出するが、 ヒョンソは既に息絶えていた。 ナミルは怪物を火炎瓶で攻撃。ホームレスの男が灯油を怪物に浴びせかけた。 ナムジュが火矢を放つと怪物は火だるまに。川へ逃げ込もうとするところを、カンドゥが鉄パイプを口に深々と突き刺した。
 やがて時がたち、カンドゥは、漢江のほとりで売店を営み、ヒョンソと最期の時を過ごしたセジュと暮らしていた。
        映画川柳「たとえれば ニワトリのように 眠りおり」 飛蜘

 怪物を産出した原因を作った薬物、環境を汚染するエージェント、感染を盾に有無を言わさず民衆を隔離する組織と、どの《権力》にも米軍が関与しているという、反アメリカ的な映画だが、特殊撮影にはアメリカのスタッフが協力している。
2010年11月28日


DVD
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殺人の追憶


韓国
2003年
131分
 ボン・ジュノ監督の『ほえる犬は噛まない』に次ぐ長編第2作。1986年から1991年までの間に農村で10人の女性が殺された未解決事件に材をとったサスペンス。
 広い一面の水田。バッタを捕えた少年。用水路の蓋の下の女の死体を覗き込むパク刑事(ソン・ガンホ)がいた。1986年の10月23日である。パク刑事は、少年に「家に帰れ」と言う。女は手足を縛られ、持物で首を絞められ、強姦されていた。続いて第二の事件が起こる。やはり水田のわきが現場だ。村では現場保存がまるでできていない。被害者イ・ヒャンスクの後を尾けていたのが焼肉屋ペクの息子クアンホ(パク・ノシク)と聞いて、刑事は早速クアンホを連行する。同僚の刑事ヨング(キム・レハ)は殴り役で、パクがなだめ役を務める。パク刑事はクアンホのスニーカーを使って現場付近で足型を作るなど証拠は創作、自供は誘導。ちょうどソウルから応援に駆けつけたソ・テヨン刑事(キム・ソンギョン)は、あきれている。森でクアンホに穴を掘らせて脅かしながら殺害の様子を話させる。現場検証を記者の前でPRするが、かえってでっち上げが分かってしまい、上司のク班長(ピョン・ヒボン)は解任される。代わりにシン班長(ソン・ジェホ)がやってくる。
 ソ刑事は死体が発見されていない行方不明者トッコ・ヒョンスンがいると課長に指摘。彼の指摘通りに被害者が発見される。カラオケ・バーで機嫌を悪くしたパク刑事はソウルの田舎者に「韓国の刑事は足で捜査する」と教える。
 雨の日に赤い着物の女が狙われる(ソ刑事)、現場に男の体毛も落ちていないのは無毛症だから(パク刑事)、ラジオ番組「夕方の歌謡曲」に決まって「憂鬱な手紙」をリクエストする奴(ギオク刑事)と手がかりが挙げられる。銭湯で男の陰部の観察で、すっかりのぼせたパク刑事に同棲相手のもと看護婦ソリョン(チョン・ミソン)は霊媒師に占ってもらったらどうかと提案する。霊媒師(ユン・ガヒョン)は捜査の方向や犯人の顔のあぶり出し法を教える。事件現場で墨で占いをしていたパク刑事とヨング刑事は誰かが来たので隠れる。来たのはソ刑事だったが、さらにその後から来た男は現場に女の下着を並べマスターベーションし始めた。こいつが犯人に違いないと確信した刑事たちが飛び出すと男は逃げた。必死に追跡する刑事たち。いったんは見失うが、工場の建設現場で働いていた労働者のなかでパク刑事は赤いパンツの男を見つけ、連行する。
 捕えた男ヒョンスン(リュ・テホ)は病気の妻を抱え、欲求不満から殺人現場で自慰行為を楽しむようになったのだ。さっそく自供を作り始める二人。納得がいかないソ刑事は、女子中学生が話していた犯人の噂、「便所に隠れていた男が夜出て殺人を犯す」という話を再調査する。保健室の先生(パク・ヒョニョン)から学校の裏の畑で女が泣いていたと聞き、その女に聞き込みに行くと、女(ソ・ヨンハ)は昨年の9月に犯人に強姦されたと告白する。ただ犯人の顔を見ないようにしていたので、殺されなかったのだ。思い出せるのは「きれいな柔らかい手だった」と言う。
 ソ刑事が署に戻るとパク刑事たちがヒョンスンの自白を仕上げていた。ヒョンスンの手は荒れている。「この男は違う」というソ刑事にパク刑事は邪魔するなと怒る。争いのさなか、ラジオから「憂鬱な手紙」が流れ、雨が降って来た。課長は機動隊の出動を要請するが、デモの鎮圧に動員されていて誰も来ない。翌朝、再び事件が発覚する。被害者はアン・ミソン。陰部に桃の切れ端がつめこまれていた。放送局に葉書を調べに行ったギオク刑事(コ・ソヒ)からリクエストした男が判明。除隊帰りの工員パク・ヒョンギュ(パク・ヘイル)を逮捕する。
 取調室で自供しないヒョンギュに暴行するヨングを課長は蹴り倒す。いくら尋問しても、証拠はないし、目撃者もいない。行き詰った刑事二人が思い出したのはクアンホの告白だった。殺害方法が具体的過ぎる。クアンホは自分が見たことを語っていたのだ。急きょ、クアンホを探す二人。焼肉屋では酒に酔ったヨングがいて、大暴れ。店を破壊されたクアンホは棒でヨングを殴る。棒の釘がヨングの脚に刺さった。恐れおののくクアンホは逃げ出す。電柱の上に逃げたクアンホを落ち着かせようと刑事たちは必死だ。現場の水田でクアンホは犯人の顔を稲妻が光ったときに三回見たと話す。自分よりも男前だったという。「こいつか」と出されたヒョンギュの写真を見て、クアンホは幼時に拷問されたことを思い出し、「熱い、熱い」と、逃げ出す。情報部の若者が喧嘩と誤解して止めに入り、邪魔になっていったんクアンホを見失う。線路上のクアンホを見つけたが、パク刑事の目の前でクアンホは列車に轢かれてしまう。
 鑑識が被害者の衣服から犯人のものと思われる精液を採取した。しかし、韓国にはDNA鑑定の設備が無い。アメリカにサンプルを送って調べてもらう必要がある。ヒョンギュはいったん釈放せざるを得ない状況だ。ヨングの脚は破傷風で切断を余儀なくされた。彼には家族がいない。パク刑事は手術同意書の保護者欄に署名せざるを得なくなる。疲れ切ったパク刑事に点滴を施すソリョン。一方、ソ刑事は尾行したヒョンギュを見失う。
 老婆の診察に森を抜けるソリョンとすれ違った中学生(イ・オクチュ)が被害に遭う。訓練空襲警報で灯りの消えた晩だった。かつて情報をくれた顔見知りの女子中学生の無残な姿・・・・ヒョンギュの犯行を確信したソ刑事は、ヒョンギュの自室に押しかけ、殴る蹴るの暴行を加え、自白を強要する。ヒョンギュは「言わせたいんだろ、俺が全て殺した」と言うが、それは本当かどうか分からない。パク刑事が止めに入る。アメリカから鑑識の結果が届いたのだ。結果は・・・書類にはDNAが一致しないため犯人とは断定できないと記されていた。ソ刑事にはそのことが信じられない。パクはヒョンギュに言う、「俺の目を見ろ」と。人を見る目には自信があるんだと話していたパクだったが・・・「俺はもうわからない」とつぶやく。手錠をかけられたまま、トンネルを去っていくヒョンギュを、ソ刑事は撃とうする。パクが止めて弾はそれた。
 2003年、刑事を辞めたパクはビデオカメラのセールスの途中、最初の用水路に来る。水路をのぞくパクを見た小学生の女の子が前にも同じように水路をのぞいていた男の人がいたと話しだす。「自分のしたことを思い出す」と言っていたという。その男、「どんな顔だった」と尋ねると、「普通の顔だった」との答えが返って来た。暗澹とするパク刑事の表情で溶暗。
        映画川柳「冷静を 次第に失う 熱血漢」 飛蜘

 ボン・ジュノ監督は語る。“先日、映画館で人気監督が自分の好きな映画を上映するという催しがあって、私は今村昌平監督の『復讐するは我にあり』をかけました。『殺人の追憶』のシナリオを書いているときに、インスピレーションを得るためビデオで何度も見た映画ですが、初めて大スクリーンで観たら圧倒されました。緒形拳のこまやかな表情の動き、父親役の表情の変化。画面からオーラが伝わってくる。超満員で観客の評価も上々で、自分の作品でもないのにうれしかった。『殺人の追憶』は刑事たちが連続殺人犯を追う物語で、シナリオを書くために、実際の刑事さんや被害者の遺族、住民にインタビューしました。でも、いちばん会いたかった肝心の殺人犯には会えていない。代わりに、『復讐するは我にあり』で連続殺人犯を研究したのです。”寺脇研『韓国映画ベスト100』(朝日新書、2007)
2010年11月26日


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チェイサー


韓国
2008年
(日本公開2009年)
123分
 ナ・ホンジン脚本・監督の第一作。第一作とは思えないほど、完成度が高い。脚本はナ・ホンジン、イ・シノ、ホン・ウォンチャン。夜の場面が多いが、「スピード感を出すことと現実味を出すこと」にこだわったという撮影(イ・ソンジェ)と、「ソウル市内の雰囲気をそのまま映像化する」という照明(イ・チョロ)が、素晴らしい効果をあげている。実際の猟奇連続殺人事件にアイデアを得たという。
 車を運転しながら携帯電話を聞く女ジヨン。街で若い男を乗せ、やがて郊外のとある家に入っていく。ジヨンは車を路上駐車したままだった。女は「短い時間だから(どんな停め方でもいいわ)」と言っていたが、そのまま女は消えてしまったようだ。空の車だけが吹きさらしになっている。警察が巡回して、車の傍に立ちつくす男を発見、「あんたの車か」と問うが、男は「あの女、殺してやる」とつぶやく。男はデリヘル経営者、つまり売春あっせん業の元締め、ジュンホ(キム・ユンソク)である。売春カードを車の窓にせっせと差し込んでいるのはジュンホの店の従業員オジョッ、通称「マヌケ」(ク・ボヌン)である。携帯に客から電話が入ると、ジュンホは女に連絡、指定の場所で男と落ち合った女はラブホテルに入るしくみだ。
 トイレにカメラマンを隠していた男と店の女がトラブルになった。ジュンホは男に示談を持ちかける。女はジュンホに「辞める」と宣言する。ジュンホはもと刑事だ。最近、女が二人も行方不明になり、手付金を持ち逃げしたと判断しているジュンホに向かって、女は「逃げたんじゃないわ」と言う。
 店に戻ったジュンホのもとに新しい客から電話が入った。女が払底しているジュンホは風邪で休むというミジン(ソ・ヨンヒ)を無理やり行かせる。ミジンには七歳の娘ウンジ(キム・ユジョン)がいて、母親の薬の世話をしているが、母親が仕事とあっては留守番だ。ふと記録帳を見たジュンホはかけてきた男の携帯電話の末尾4885が行方不明になったジヨンを呼び出した番号と同じことに気づく。急いでジュンホはミジンに男の家に行ったら住所を連絡するように伝える。同時にジュンホはもと同僚だった刑事、ギル先輩(チョン・インギ)に連絡するが、ギルはちょうどソウル市長の警護に当たり、クソを投げつけた暴漢の取り締まりで手が離せなかった。
 マンウォン町24-1「朴東元」という表札にある大邸宅に男は入って行った。番犬がいる。スコップが土に差してある。ミジンはシャワー室から携帯電話で住所を送信するが圏外になり送信できない。浴室は完全な密室になっていて、死体を処理したような痕もある。いつのまにか玄関にも鍵がかけられていた。若い男ヨンミン(ハ・ジョンウ)は殺人鬼だったのだ。ミジンから連絡がないので焦るジュンホ。
 手足を縛られ浴室に下着姿で転がされたミジ゙ンの頭に釘を打ちこもうとするヨンミン。娘がいると生命乞いをするが、ヨンミンには聞くつもりはない。ミジンが逃げるため、金槌で誤って自分の指を叩いてしまう。しかし、一撃でミジンは動かなくなる。続いて釘を打ちこもうとしたとき、玄関の振鈴が鳴った。この邸宅のあるじ、パク執事が教会に顔を見せないからと心配して訪問に来た老夫婦だった。いったんは「そんな人はいない」と断ったヨンミンだったが、老人たちが犬を知っている様子を見て、ヨンミンは考えを変えた。「執事は家で休んでいる」と中に誘い込み、ハンマーで殴り殺したのだ。老夫婦が乗ってきた車を遠くに乗り捨てようと移動する途中、狭い路地から飛び出して来た車が衝突してしまう。なんとミジンを探しているジュンホだった。「弁償する」と申し出るジュンホにヨンミンは「いいから」と断る。様子がおかしいことに気づいたジュンホは男のシャツの血を見て、携帯電話4885の男だと確信する。その番号にかけるとはたして男の携帯が鳴った。とうとう目的の男に会ったのだ。突然、車から飛び出し、逃げるヨンミン。追うジュンホ。殴られたが、もと刑事のジュンホが殴り勝って、ヨンミンを警察署に連れて行く。
 ところが警察署では殴打痕のひどいヨンミンが被害者で、暴行したジュンホが加害者だ。ジュンホはもと警官だと訴えるが、頼みのギル先輩とは電話が通じないため、信用してもらえない。調書を取っているとき、ヨンミンが「女を売ったのではなく、殺したんです」と話し始めるので警察署員は仰天する。警察の機動捜査隊長(チェ・ジョンウ)は「逮捕状なしに捕えた容疑者は12時間以内に釈放しなくてはならない」と言い、証拠を探せと署員にはっぱをかける。ギル刑事は女刑事オ・ウンシル(パク・ヒョジュ)とともに尋問や捜査に当たる。ヨンミンは豚の屠畜を参考に頭に穴を開け、吊るして足の腱を切り、血を抜いてから切断して遺棄すると話す。これまでに9人、殺した、いやよく考えたら12人だったと言う。
 ジュンホは監察官と一緒にミジンの家に行き、ミジンの髪の毛を採取、ジュンホは一人になった娘ウンジを不憫に思い、食事に連れ出す。「DNA鑑定でしょ」と見抜くウンジ。ウンジのためにも生きていてほしいミジン。ジュンホはなんとかヨンミンの今住んでいる家を見つけようと努力する。
 本籍地に住む兄夫婦、そこにはヨンミンに脳に障害を負わされた息子がいた。携帯電話会社社員を脅して聞き出したヨンミンのもと恋人ヒジョン、車で拾ったヨンミンの鍵束で開いた部屋に同居していた刑務所仲間の男などに尋ねるが決定的な場所は分からない。ヨンミンがインポであること、壁に教会のキリスト磔像を描いたこと、工具の入ったカバンを持ち去ったことなどが分かっただけだった。ヒジョンが血だらけの写真を送りつけられたという話を聞いたウンジは母が死んだと感じて泣く(雨がうちつける車の窓ガラス越し。激しく泣く娘の表情だけが捉えられ、声は外には聞こえない)。
 警察署では精神科医の尋問がなされ、インポを指摘されたヨンミンは医師につかみかかった。ジュンホが聞き込みを続けている間にウンジは白い着物を着た女を見かけてついていき、殴られて倒れていた。抱きかかえ病院に運んだジュンホは保護者欄に自分の名前を書く。
 夜が明ける。死んだと思っていたミジンが動いていた。息をふき返したミジンははがしたタイルの角でロープを切ろうとしていた。一方、ヨンミンを殴るジュンホ。刑事たちは部屋に入らずジュンホの暴行を見て見ぬふりをする。しかし、ヨンミンが自白した死体の場所はデタラメだった。警察官の大部隊がくり出されて捜査をするものの、何も見つからない。ヨンミンは過去の殺人事件捜査でも証拠不十分で釈放されていたことが分かり、捜査陣は焦って来る。ジュンホはミジンの車の場所と離れ過ぎていると訴える。検事(チョン・ギソプ)は市長警護の失敗を隠ぺいするために市民を証拠がないまま殺人犯に仕立て上げたと隊長を非難し、釈放の手続きを取り、ヨンミンを暴行したジュンホを逮捕するよう命じる。
 一方、邸宅から逃げ出したミジンは近所の煙草屋に逃げ込み、警察へ通報する。逮捕されたジュンホは警察車の運転手をかつての女あっせん汚職の仲間と呼び、俺だけがクビになったと話して事故を引き起こし、脱走する。釈放されたヨンミンは煙草を一服吸い、自分の邸宅に入る前に煙草屋に立ち寄る。オ刑事がヨンミンを尾行していた。クライマックスが次第に近づいてくる。
        映画川柳「ハンマーで 殴れば豚は 苦しまない」 飛蜘

 チェイサーとは「追う男」のこと。2009年度キネマ旬報外国映画ベストテン第4位。不条理な加害者から誰も救出してくれない状況に対する怒りと苛立ちが本作品を生んだ。

藤田真男のここ掘れワンワン
  
 第87回 凡百の猟奇サスペンスとは一線を画した新鋭の志の高さ  (2009年9月)

 『チェイサー』(2008)はナ・ホンジン監督のデビュー作で、昨年の韓国映画の興収では大スター共演の大作冒険活劇『グッド・バッド・ウィアード』に次ぐ大ヒットを記録し、主な映画賞も独占した。ボン・ジュノ監督『殺人の追憶』を思わせるサスペンス・アクションの力作だが、こういう映画を撮れる新人監督が突然現れるところに韓国映画の底力を見た思いがする。
 実話をもとにした物語はシンプルで、冒頭から猟奇連続殺人犯と、彼を追うことになる元暴力刑事が登場し、『ダーティ・ハリー』さながらのスピーディな展開。ただし、主人公の元刑事はハリー刑事と違って追い詰めた犯人を殺しそこね、無念の思いが残る。そして犯人が住んでいた家の庭から次々と死体が発掘される。
 同じく実際の猟奇連続殺人事件を題材にした『殺人の追憶』は、事件当時(チョン・ドゥファン政権からノ・テウ政権への移行期)の国家による暴力を暗示している。先日、NHK教育テレビの韓国映画特集に出演したボン監督も、その政治的暗喩を認めていた。
 『チェイサー』には現在のイ・ミョンバク政権が過去の権力者による犯罪を隠蔽しようとしていることへの怒りが垣間見える。これは決して、うがった見方ではない。犯行現場となる白いタイル張りの浴室は『ペパーミント・キャンディ』などで再現された、かつての韓国の警察や情報部の拷問室そっくりだし、発掘される売春婦たちの死体は過去の虐殺事件の犠牲者を連想させる。韓国では半世紀の間に米兵の手で虐殺された売春婦も数知れない。チョン・ドゥファン政権に殺された「アカ」も米兵に殺された売春婦も社会のクズだ、誰に殺されようが当然の報いだ、として彼らの死を顧みない社会が、この映画の背景に横たわっている。
 過去の権力者による暴力、虐殺事件の真相究明を立法化させたノ・ムヒョン元大統領は自殺に追い込まれ、チョン・ドゥファンやノ・テウは死刑を免れて今ものうのうと生きている。『チェイサー』の元刑事が犯人の頭に叩きつけようとした凶器のカナヅチは、同時にチョン・ドゥファンやノ・テウや彼らを容認する社会に向けられたものだ。韓国の心ある観客の目には、そう見えたはずだ。そうは見えなかったとしても、退屈するヒマも与えない娯楽サスペンスとして誰もが楽しめるようにできているところに、この新人監督の非凡な才能がうかがえる。
 日本の公式サイトに監督が寄せた、たとえ話の形を借りたメッセージが非常に興味深い。映画を見た後で、ぜひ目を通してほしい。

               映画によせて         ナ・ホンジン

 村には何日間も雨が降り続き、洪水を恐れた住民たちは非難する場所を求めていた。
 そして人々は、丘の上の小屋にその場所を見つけた。なかには洪水を危惧し、今mで育ててきた飼い犬の鎖を外す者たちもいた。
 それぞれが車に乗り込み、村を離れた途端、見る見るうちに陽が差し始め、抜け殻となった水浸しの村にいたのは、鎖を解かれた、もしくは繋がれたままの犬たちだけとなった。
 翌朝、雨は完全に止んだ。
 土手のお陰で損害を免れた村には、知らせを聞いた住民が次々と帰還してきた。しかし、彼らはそこで、自らの目を疑うような飼い犬たちの無残な姿を発見した。自由になった、もしくは繋がれたままの犬たちは、体をバラバラに引き裂かれ、ほとんどが死んでいたのだ。
 私が村に戻った時、遠くから私をじっと見つめる白く大きな犬の姿を目撃した。
 雨でびしょ濡れとなったその犬は、我々の犬に咬みつき、口の周りは血だらけだった。
 その眼はとても黒く、すべてを照らし出すような輝きに満ちていた。思わず身の危険を感じ、落ちていた棒を拾い手に取った。
 すると、白い犬は、我々の犬の元から離れていった。

 この白く巨大な犬は、近所の飼い犬で、私も何度か遭ったことがあった。しかし、あの犬が村の犬たちを噛み殺したのかどうかは定かではない。
 もしそうだとしたら、何故、誰も突き止めようとしないのか?

 そしてあの犬は、未だに近所の家で飼われている。
 この映画は、酷い雨に見舞われた空っぽの村にいた、2匹の犬の話なのかもしれない。

2010年11月15日


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大統領の理髪師


韓国
2004年
(日本公開2005年)
116分
 イム・チャンサン脚本・監督。ソン・ハンモ(ソン・ガンホ)は大統領の住む町の理髪師。婚約者のいるミンジャ(ムン・ソリ)を手籠めにして「四捨五入」を理由に説得して産まれたのが息子ナガンだった。
 四捨五入とは李承晩大統領が三選を禁じた憲法規定を改正するのに、議会の3分の2以上の賛成が必要だったのに、賛成が135人で1名足りなかった。そこで3分の2は135.33人、四捨五入すれば135人だという詭弁を弄して与党自由党が押し切った。これを「四捨五入改憲」という。映画のなかで朴大統領=パク・チョンヒは四捨五入という言葉は日本の用語だという。
 1960年の李承晩の不正選挙で投票用紙を埋める町の人々、むろんソンもその一員、ナガン出産のときが1960年4月19日の学生革命の日、その後、李承晩は下野し、軍事政権が誕生する。ある日、理髪店に官邸の警護室長・チャンこと車智K=チャ・ジチヨル(ソン・ビョンホ)が訪ねて来て、今晩怪しい者を見かけたら警察に通報するようにと依頼。その晩、ソンは屋根の上の不審者を通報した。男は情報部の者だったが、警護室から褒められたソンは、官邸で大統領の散髪をすることになった。
 それから長い間、ソンは大統領や室長の散髪をしていた。練炭屋の息子が子供たちと一緒に「チョッキンのソン」と父親をからかったとき、ナガンは抗議したが、父親は少年がなじみの友人の息子だと知ると、土産をあげたうえに夏なのに練炭を買い込んでしまう。争いごとを好まず、損をしても自分の心におさめてしまう、お人よしなのだ。大統領に昼食に家族で招待されたときには、ナガンが父親をからかわれたのに腹を立てチャンの息子を押し倒してしまう。チャンの息子は泣いて父親を呼び、一同騒然となる。子供の悪ふざけだからと咎めはなかったが、ソンはチャンに「俺をクビにする気か」と蹴飛ばされる。ナガンは父親に自分のせいだ、僕を殴ってくれと頼むが、足をひきずる父親はナガンを責めはしなかった。
 下痢がマルクス病の感染を表すものとして情報部長キムこと金載圭=キム・ジエギュ(パク・ヨンス)らが被疑者を検束し、拷問でスパイ団をデッチ上げていた時代、息子のナガン(イ・ジェウン)も父親が下痢を申告したにもかかわらず、電気拷問にかけられた。町の人々が「花札スパイ団」として検挙され、拷問されて自白書にサインさせられ、死刑になった。そんなときも、ナガンは拷問の途中だった。警護室と情報部の反目のせいでナガンは家に返されたが、目隠しをされ、手に縄をかけられて家の外に転がされて放置される状態。ナガンは長い間の電気拷問で立てなくなっていた。針治療や漢方で治療したが回復しない。
 1979年10月26日、情報部長・金が確執のあった警護室長チャンと朴大統領を銃で暗殺、朴政権が倒れると、父は山の医師の言葉を思い出した。竜の目を削って飲ませよというのだ。大看板の朴大統領の目を削った粉を飲ませると、ナガンの足はよくなる兆しを見せ始めた。
        映画川柳「父親が 息子を背負い 大丈夫」 飛蜘

【参考書】李泳釆・韓興鉄『なるほど!これが韓国か』(朝日新聞社、2006)
2010年11月14日


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地球を守れ


韓国
2003年
118分
 チャン・ジュナン脚本・監督の第一作。
 ビョング青年(シン・ハギョン)は大会社の社長カン・マンシク(ペク・ユンシク)がアンドロメダから来たエイリアンだと言う。綱渡り娘スニ(ファン・ジョンミン)は彼の言葉を信じると言う。二人は社長を駐車場で襲い拉致する。タイトル・バックにロック「虹の彼方に」。神経システムを弱めるためだと、ビョングは湿布薬を皮膚をはがした社長の足の甲に塗る。ビョングは山の中の養蜂家で、「地球」という名のイヌを飼っている。
 新米刑事キム(イ・ジュヒョン)は警察内のはぐれ者チュ刑事(イ・ジェヨン)を尊敬している。チュ刑事は拉致現場に落ちていたうつ病の薬から手がかりを見つけるつもりのようだ。一方、炭鉱跡の銭湯を改造して作ったマネキン工場の小屋で、ビョングは社長を拷問する。エイリアンだから、電気ショックに耐えるはずだと苛酷な実験で、スニには耐えられない。ビョングには他に恋人がいたと聞いてスニは去る。次第にビョングの過去が分かって来る。化学工場の工員だった。母親(イェ・スジョン)は原因不明の病気で植物状態。社長は母親のためには補償金を払ったし、事故で亡くなった恋人を殺したわけでもないと弁解する。
 病院回りで手がかりをつかんだチュ刑事が小屋を訪ねて来る。一夜の宿を請う刑事を泊めたビョング。翌朝、チュ刑事は異変を感じ、誘拐犯をビョングと断定するが、刑事の様子に気付いたビョングの蜂を利用した攻撃であえなく落命する。
 社長は脱出を試みるが、まるで“ターミネーター”のように蘇って来るビョングに返り討ちに遇い、なかなか脱出できない。母親は宇宙人の遺伝子組み換え実験の実験体だったのだと社長は突然説明し出すが、それはビョングの宇宙人資料を読んだからであった。
 キム刑事がビョングにたどりつき、小屋に捜査に入るが、危険を察知したスニの助けでキムも囚われの身となってしまう。地球を救うためには工場の交信器械を使う必要があると社長は言う。そこで社長、ビョング、スニの三人は化学工場に行くが、そこで最後のバトルが行われる。闘いが終わったと思われた時、異変が起こった・・・・
      映画川柳「怒りから 力まかせに ふみつける (心臓マッサージ)」 飛蜘  

 寺脇研『韓国映画ベスト100』(朝日新書、2007)より、“青年は社長を拷問にかける。・・・これは「宇宙人」の部分が「北のスパイ」だったり「アカ」だったりすれば、KCIA(中央情報部)や公安警察がやっていたことと全く変わらない。・・・・悪を暴くのだから、と正当化してしまうのは、あまりにも単純というものだろう。わたしも自戒しなくては。”
2010年11月13日


DVD
(レンタル)
ほえる犬は噛まない


韓国
2000年
110分
 ポン・ジュノ脚本・監督の長編第1作。人文系の大学院生は結婚したい男の50位と低い。教授ポストを望むユンジュ(イ・ソンジェ)は高層マンションに2歳年上のウンシル(キム・ホジョン)と住む。ある日、ユンジュは1匹の小犬と出会う。犬が煩わしいユンジュは子犬を処分しようかと迷うも結局地下室の戸棚に入れる。犬はちっとも吼えなかった。
 マンションの管理事務室に勤務する少女ヒョンナム(ペ・ドゥナ)のもとに迷い犬ピンドリを探しているという少女がポスターの許可印をもらいに来る。ほえないのは声帯を手術しているからだった。ユンジュはポスターを見て気になり、地下室に行くが、既に犬はいなかった。なんと警備員(ピョン・ヒボン)が殺して鍋にして食べようとしているのだった。犬のことを隠して警備員は主任に「ボイラー・キムさん」の怪談話をする。出るに出られなくなったユンジュ。
 教授ポストのライバルが学長を接待した後に酔って事故死。ポストを得るためには賄賂1500万ウォンが必要だと先輩に言われてなんとか金を工面しようとするが、なかなか当てがない。
 イラだつユンジュは唾はきばあさん(キム・ジング)の飼っていた犬を盗んで屋上から放り投げる。しかし、ヒョンナムに双眼鏡で目撃されていた。ヒョンナムは赤い服のユンジュを追いかける。あと一歩というところで突然途中のドアに邪魔され、ヒョンナムは昏倒。一方、逃げ切ったユンジュはウンシルが子犬を買って来たのに激怒する。子犬のスンジャが散歩中に行方不明になった。ウンシルから退職金でスンジャを買った、残りは賄賂に当てるつもりだったと聞いたユンジュは必至でスンジャを探す。ヒョンナムもポスター貼りに協力。ふとしたきっかけでヒョンナムは屋上で犬鍋を食べようとしている浮浪者を発見。傍らにはまさに焼き棒で突き殺されようとするスンジャがいた。必死で犬を救出、追って来る男から逃げるヒョンナム。文房具店の友人チャンミ(コ・スヒ)の蹴りも入って男は逮捕される。
 犬を殺されたショックでばあさんは入院、やがて死んでしまった。屋上の切り干し大根をもらったものの、ヒョンナムは管理室をクビになってしまう。ケーキの下に賄賂を隠して学長に献呈したユンジュ。酔ってヒョンナムと一緒に走り、後ろ姿は自分だと告白するが、ヒョンナムは「靴が片方脱げた」と指摘する。
 しばらくして、生徒に講義するユンジュの姿があった。ヒョンナムとチャンミは山を旅をしていた。
      映画川柳「100もある クルミはせいぜい 50だと」 飛蜘

 藤田真男氏の私信より、“『ほえる犬は噛まない』を見た日本の監督(井筒和幸ら)は、みんなビックリした。だから、ポン監督の日本ロケ中には、日本の監督たちが次々と見学に来たほど。『ほえる〜』は、日本映画でいえば『翔んだカップル』の出現に匹敵する、それまで誰も見たことのない映画だったから。若さと才能の両方がないと撮れない傑作だと思う。原題は『フランダースの犬』。劇中のカラオケで歌われる歌は日本のアニメ『フランダースの犬』の主題歌でした。ポン監督は日本のアニメを見て育った世代で、中学生にして宮崎駿の『未来少年コナン』のコンテを詳細に分析して、監督を志していたそうだ。思わぬところで宮崎駿は貢献してたんだね”(2010年12月10日)。
 ボン・ジュノ監督は語る。“私が初めて「演出」を意識して観た映像作品は宮崎駿のアニメ『未来少年コナン』でした。テレビ放映は中1の時で、毎週金曜日の放送を心待ちにしていました。そして、キャラクターの演出やショット割り、例えばラナがコナンの頬をたたくとき、どうして3つも4つもカットを区切っているんだろうとか、演出者のマインドで意識しながら観るようになりました。人物や場面別に気づいたことや感想をぎっしり書き込んだノートも作ったほどです。実写ではサム・ペキンパーの作品がそうやって観た最初で、テレビの洋画劇場でしたから、ここはショットが欠けている、配列がおかしい、などと意識しながら観ましたね。ジェームス・コバーンが出ていた『戦争のはらわた』やダスティン・ホフマンの『わらの犬』。中学のころでした。”寺脇研『韓国映画ベスト100』(朝日新書、2007)より。
2010年11月5日


DVD
母なる証明


韓国
2009年
128分
 ポン・ジュノ脚本・監督作品。長編第5作。
 草原で母親が歌を歌いながら踊っている。泉ピン子にも似た母親役はキム・ヘジャ。ワラを裁断機で切っている母は家の前で息子が車に轢かれたのを目撃、あわてて自分の指を切ってしまうが、それにもかまわず飛び出す。息子トジュン(ウォンビン)は車に当てられたが幸い怪我はなかった。友人のジンテは轢き逃げの黒い車に復讐すると言う。二人はベンツを特定し、ゴルフに来た金満家を脅す。トジュンは少し頭が弱いが澄んだ目をしている。母親は息子を溺愛し、息子も母親に依存していた。いまだに母親と一緒に寝ているのだ。警察は双方に和解をもちかける。
 その晩、トジュンはクラブ・マンハッタンで酔いつぶれていた。閉店後、帰宅したトジュンは途中、ひとりで家へ帰る女子高生を見る。後をつけて言葉をかけるが、女子高生は大きな石を投げつけてきた。やがて帰宅して眠るトジュン。
 翌朝、小さな町の警察は大騒ぎになっていた。殺人事件があったのだ。被害者はくだんの女子高生アジョン。頭を鈍器で殴られ、自宅の屋上にさらされていた。事件当夜、被害者アジョンの後をつけるトジュンが目撃されており、彼の名前を書いたゴルフ・ボールも現場に残されていた。警察は容疑者としてトジュンを連行(パトカーで運転手がよそ見をして衝突してしまう)、トジュンは字が読めないため調書に拇印を押してしまう。息子の無実を信じる母親の孤独な戦いが始まった。
 事件当夜のことを思い出せと母親は迫るが、トジュンが思い出すことはベンツのサイドミラーを壊したのはジンテだったとか、五歳のときに母親が農薬を混ぜた栄養ドリンクで自分を殺そうとしたことなど、肝心なところは思い出せない。母親は無許可で針治療をしていた。内腿のツボに刺すとイヤな記憶を忘れるのだと言う。「バカ野郎」と言われると切れてしまうトジュンだった。母親は当夜、会う約束をしていたジンテが現れなかったのを不審に思い、ジンテの部屋に忍び込む。衣裳ケースの中のゴルフクラブに血のようなものが付着していた。折り悪しくマンハッタンのマダムの娘ミナが来て、ジンテも帰宅、二人は抱き合う。二人が寝入ったところで抜け出した母親は、警察にゴルフクラブを届けるが、血だと思ったのは口紅だった。
 母親は息子のために高名な弁護士を頼むが、弁護士はトジュンの記憶の悪さにあきれて腰を引く。疑われたジンテが母親に自分の推理を話し、貧しいアジョンが金銭目的で殺されるはずがない、痴情か怨恨だろう、アジョンにはとかく噂があった、捜査は一人でやるしかない、誰も信じられないんだと話す。また、自分を疑った慰謝料を出せと迫る。
 アジョンの女友達が改造したシャッター無音の携帯電話で、アジョンは自分を買った男の写真を撮っていたらしいことが分かる。金がないときは米を持っていけば寝てくれた米モチ少女アジョン。携帯改造少女に携帯電話のありかを吐かせようと脅していた少年達を、ジンテは痛めつけ、事情を聞く。事件の鍵をにぎるアジョンの携帯電話を、アジョンの祖母が隠していると確信した母親は、祖母に会いに行く。案の定、米ビツに隠されていた携帯電話の画像を見た母親は、事件の鍵を握る人物に気づく。その人物に会った母親は、とうとう彼から真実を聞くことができた。
 なぜ犯人は屋上に被害者を運んでいったのだろうか。真犯人が分かると、その謎も解ける。2009年度キネマ旬報外国映画ベストテン第2位。
      映画川柳「投げ返す 岩が無言の 証拠品」 飛蜘

 映画には隠された意図がある。本作はあきらかに寓話の印象を残すが、その寓意とはいったい何だろうか。
 「韓国の母」と呼ばれる女優が体現しているのが《国家》という怪物《グエムル》で、その母親に庇護されているのが息子という無辜で無自覚な《庶民》なのではないだろうか。過去のつらさや悪行を忘れることのできるツボに母=《国家》は針を刺し、都合の悪い過去を抹殺しようとする。しかし、息子=《庶民》は過去を忘れるツボに針を刺させることを拒否し、かつて母が自分を殺そうとしたことを思い出す。
2010年11月2日


DVD
息もできない


韓国
2009年
130分
 俳優が最初に監督・主演した映画といえば、勝新太郎の『顔役』といい、北野武の『その男、凶暴につき』といい、中村敦夫の『木枯し紋次郎』(TV)といい、アップを多用する斬新な映像をブツ切りの編集でつなぎ、衝撃的な映画になっていました。ヤン監督の『息もできない』もその例にもれない傑作です。冒頭からこぶしで殴る場面の暴力の生々しさが印象的。
 父親が母親を殴り、仲裁に入った妹を誤って刺殺して15年の服役、病院に行こうと飛び出した母親は車にはねられて死んでいた。そんな悲惨な過去を持つ青年サンフン(ヤン・イクチュン)は消費者金融の取り立てを生業とし、兄貴分を自認するチンピラ。口癖は「シバロマ(クソ野郎)」だ。サンフンが飛ばしたツバが偶々かかったハン・ヨニ(キム・コッピ)は強気な女子高生。実は彼女の家庭も父親の暴力で崩壊していた。父親は屋台の母親が死んだことを認めず、娘に頼りきりなのに食事に「ネコいらずを入れた」と難癖をつける自虐者。ベトナム帰還兵である。暴力の連鎖はハンの兄のヨンジュ(イ・ファン)に引き継がれている。ヨンジュは働きもせず、ゲームセンターで遊んでいるくせに、妹には暴力をふるい、軽蔑したような言葉を投げつけるものの、借金取り立て業でサンフンの弱者をいたぶる暴力にはたじたじとなってしまう。
 サンフンは母親違いの姉とその息子ヒョンインのことは気にかけている。ヒョンインが父親がいないことで肩身の狭い思いをしていると思うと、その弱さに腹が立ってならない。
 汚い言葉の応酬が映画のリズムを作り、安易な感情移入を拒否する。
 役者のけなげさが美しい。悲劇に向かうせつない展開が予想され、緊張感が画面にみなぎっている。

      映画川柳「むき出しで 殴るこぶしに おじけづく」 飛蜘

 あまり良い例とはいえないが、NHK全国高校放送コンテストの大会で決勝に残ったテレビ作品をNHKホールで見たことがある(1980年ころ)。画像も編集も素晴らしいZ高校の作品が評価されず、最優秀賞を取ったのは服装検査前にトイレで違反を直す生徒を取ったC高校の作品だった。ミスショットはあるわ、つなぎのズレはあるわ、録音は拙劣、素人っぽい作品だったので、まさかこれが最優秀になるとは私には予想できなかった。しかし、改めて見直して見るとそんな映像上の欠点はなんでもないことだった。きれいな画像や巧みな編集は技術力が上がれば可能である。しかし、どんなに技術力が上がっても撮れないものがある。それは撮りたいものである。おそらく一生に一度しか撮れないもの。撮りたいものを撮りたいように撮るということ。そのような映像の前にはどのような技術論も無力である。
 2010年度キネマ旬報外国映画ベストワンに選出された(2011年1月13日ニュース)。

 【参考書】ヤン・イクチュン、相田冬二『息もできない』(ACブックス,2010)。サンフンのヒョンインへの思いが書き込まれているノベライズ本。






2010年11月1日以降1月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想   及び  梗  概  (池田博明)
2011年1月5日〜


NHK総合
22:00
フェイク 京都美術事件絵巻


NHK・東映
2011年
45分
 美術品鑑定に絡む事件を扱う『フェイク』はドラマ10の連続もの(毎週火曜日)。浦沢右(財前直美)と白石亜子刑事(南野陽子)が捜査を進める。脚本・岩下悠子、演出・大原拓。
 第1回は「幻の伊藤若沖」。向井美術館でボストン美術館で発見された若沖の「松樹番鶏図」が一般展示直前に贋作と判明。見破ったのはフランス帰りの大学講師・浦沢(財前)だった。絵が取りかえられたと思われる晩に防犯カメラに写っていた元警備係・黒沢は、部屋で殺されていた。警察は絵を取り替えたのは黒沢と推理する。しかし、浦沢はその晩に絵が取りかえられたはずがないと断言する。雨が降っていたからだ。
 向井美術館館長(宅麻伸)は贋作と知っていたのか、学芸員・小和田(松本明子)は何を知っているのか。終わったと思われた事件にはまだ裏があった。
 第2回「信長の油滴天目茶碗」。茶会の途中で殺害されたと思われた不動産会社社長・高村清四郎(田中健)。浦沢右は残された茶器から消えた茶碗が天目茶碗であること、禁花である冬知らずが飾られていることを指摘する。高村の茶道の師匠・宮部小百合(淡路恵子)の父・宮部宗久は高村のビルを建設予定地に反対する西陣の寺に戦没者慰霊碑を建てていた。戦争中、戦地に赴く若者に茶会を催したとき、彼らに茶を供したのが本能寺の変を潜り抜けたという伝説の天目茶碗だった。若者のなかに小百合の初恋のひとがいた。非力な小百合が高村を撲殺したとも思えないが、現場には女ものの懐紙も落ちていた。いったい犯人は誰か。そして天目茶碗はほんものだろうか。

      映画川柳「見つめては 空しきものこそ 豊かなり」 飛蜘

 コミック『ギャラリー・フェイク』の前例もあり、展開には期待したが、一話完結で展開が早過ぎるのと、それに反して、演出がかなりたどたどしかった。映画学校の生徒の習作なみである。
2011年1月3日


テレビユー山形
21:00
赤い指


TBS
2011年
約110分
 東野圭吾原作のテレビ・ドラマ化で『新参者』で加賀恭一郎を演じた阿部寛が同じ役を演じた。脚本は櫻井武晴・牧野圭祐、演出・土井裕泰。
 青山亜美(黒木メイサ)は花を買って墓参り(最初は誰の墓かわからない。最後で春日井家と分かる)に行くと、既に加賀が来ていた。二人は人形町に赴任する約二年前の事件を思い出す。ある夜、仕事中の前原昭夫(杉本哲太)に妻・八重子(西田尚美)からの電話が来た。妻は夫に「すぐに帰って来て」という。家には認知症の母親(佐々木すみ江)と、家庭内暴力をふるう中学3年の息子・直巳(泉澤祐希)がいる。その夜、庭に少女の死体があった。絞殺されたのだ。息子が女の子は「勝手についてきた、一緒に遊ぼうと言ったのに言う事を聞かなかった」と言う。妻は息子を警察に渡すくらいなら自殺すると言う。「捨てて来て」の声に押されて、昭夫は家電用ダンボール箱に死体を入れ、自転車で公園のトイレに隠す。
 翌朝、ジョギングの人に発見され、被害者は近所に住む小学2年の春日井ゆかりと判明する。捜査一課の小林主任(松重豊)、松宮(溝端淳平)の他、練馬東署の加賀が捜査に加わる。死体の足に付着した芝は高麗芝だった、少女はスーパープリンセスのフィギュアが好きだった、自転車の車輪に泥がついていた、靴紐の結びかたが左右で違っていた等、加賀が明らかにする手がかりが少しづつ前原家に迫っていく。
 「殺人の取材には慣れている」と口走った新聞記者の青山に加賀は「遺族の姿に決して慣れてはならない」と話す。加賀の父親・隆正(山崎努)は松宮の叔父である。駆け落ちした松宮の母親(隆政の妹)を助けてくれたのだ。隆政は末期ガンで最期のときを迎え、看護婦の金森登紀子(田中麗奈)と将棋を指すのを楽しみにしていた。家庭を顧みない刑事の父親に絶望して加賀の母親は蒸発し、最期は仙台でひとりで死んだ。隆政は松宮に「いい刑事とはどれだけの事件を解決したかではない。どれだけの人を救ったかだ」と言い、息子の加賀に会いたいとも言わない。一方、加賀も死にかけている父親に会おうとしない。そんな加賀を松宮は責める。
 昭夫と八重子は加賀たちを呼び、ボケてしまっている母親を犯人だと告白する。しかし、加賀はそれを信じない。昭夫の妹・春美(富田靖子)の口紅で塗られたという母親の赤い指が事件を解く鍵だった。
      映画川柳「認知症 父親もまた 赤い指」 飛蜘
2010年12月19日


NHK総合TV
21:15
私たちは核兵器を作った


NHK
2010年
45分
 NHKスペシャル。酒井裕ディレクター。デンバー近くの解体されたロッキーフラッツ核兵器生産工場で働いていた労働者たちが1994年の解体に伴って解雇され、守秘義務を解かれたことから、健康被害や過去の工場での事故等の実態について資料を収集し語り始めた。
 1952年に建設され核兵器の起爆装置を主に製作していた工場ではプルトニウムを当初はゴム手袋で扱っていた。鉛の手袋に変えられたのは操業開始から6年後だった。1958年に放射能被ばくを懸念した原子力安全委員会が決めた許容量は3ケ月で3レム以下というものだが、この基準は現在の基準よりかなり高い。廃棄寸前だった資料によれば1957年からの10年間に1707人の負傷者、462件の事故が発生したという。
 1969年に起こった火災ではプルトニウムが発火し、つぎつぎに火が燃え広がって臨界寸前になったという。推定で7万発の核兵器が製造されたというがヘイゼル・オレアリーが老朽化を理由に1994年に解体を指示、20年かけて汚染を除去する計画だったのだが、途中で6年に期限が短縮され、放射性廃棄物はクリーン処理されないまま地下に埋められた。現在は立ち入り禁止区域となっている。解雇された労働者たちは会社の医療保険がきかないため高い確率でガンになっているが治療代の工面が困難になっている。施設に22年間勤務した初の女性工員も勤務データが廃棄されたため乳がんとの因果関係を証明できないという。冷戦を戦う戦士として国のために働いた人々になんの保障もないのだ。
      映画川柳「建物は 死の灰を出す 廃棄物」 飛蜘

 放射線被ばくの実態が知られるようになったのは戦後、原爆後遺症が知られるようになって以後だが、アメリカ国民は日本人以下の知識しか持っていないのだ。もっと日本人がアピールしていかなければならないと思った。原子力発電所も廃棄物処理対策に困るはずなのだ。
 井上ひさし「原爆とは何か」『井上ひさしの言葉を継ぐために』(岩波ブックレット,2010年12月)には、女優・園井恵子の被爆死という見出しで助かったはずのひとも原爆症で死んでいった様子が紹介されている。
2010年12月9日

DVD
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空気人形


2009年
120分
 是枝裕和脚本・監督作品。原作は業田良家の短編コミック。
 外食チェーン店の店員(板尾創路)は自室に安物のビニール製のダッチワイフ=空気人形を置き、性欲を処理していた。ある日、その空気人形ノゾミが「ココロを持ってしまった」。心を持ち始めた空気人形(ペ・ドゥナ)は街を歩き、さまざまな人に出会い、レンタルビデオ店シネマサーカスでアルバイトをすることで、少しずつ世界を理解し始める。ビデオ店の店員ジュンイチ(ARATA)はある日、店の棚の釘に手をひっかけてしまい破れ目から空気が抜けてしまったノゾミを介抱する(空気を吹き込む)ことで、深く関わっていく。ノゾミが「あなたのしてほしいことをなんでもしてあげる」と申し出たときに、ジュンイチがなぜ「空気を抜く」ことを求めたのかが理解できなかった。その後の展開にもつながる重要な場面なのだが。この小さなひっかかりが気になってしまい、作品をうまく咀嚼することができない。
      映画川柳「人形は まばたきせずに 空っぽに」 飛蜘

 ぺ・ドゥナは2009年度日本映画最優秀女優賞を1票差で松たか子に譲った。2時間のほとんどをペ・ドゥナひとりで魅せてしまうペ・ドゥナのための映画。
2010年12月8日



DVD
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リンダ リンダ リンダ


2005年
114分
 山下敦弘監督。首都圏の地方都市(ロケ地は群馬県)にある芝埼高校の文化祭ひいらぎ祭の三日目、ロック・フェスティバルに出演を予定していた軽音楽部の女子バンドは、ギターの今村萌(湯川潮音)の怪我がきっかけで、リーダーの凜子(三村恭代)と恵(ケイ。香椎由宇)の間にヒビが入った。ベースの望(関根史織)とドラムの響子(前田亜季)は二人の関係を心配する。
 キーボードの恵は舞台に出ると決意し、自分がギターを担当するという。ボーカルはちょうど階段下を通った生徒を勧誘しようと言う。韓国からの留学生ソン(ペ・ドゥナ)に声をかけると、事情がよく分からないソンは承知してしまう。
 しかし、ブルーハーツの「リンダ リンダ リンダ」や「終わらない歌」を聞いたソンは感動して、結局一緒にやることになった。練習場所もままならぬ四人は恵の元彼氏の知り合いのスタジオを借りたり、みんなが帰った後の学校で練習する。
 いよいよ三日目、連日の徹夜の練習で疲れ、うっかり寝入ってしまった四人は発表時間に遅れてしまう。強い雨も降ってきた。彼女たちの演奏はいったいどうなるのか。つなぎの萌の歌や田花子(山崎優子)の歌が結構受けているが・・・・。 ノゾミ役の関根史織(ほんもののベーシスト)がとても自然。
      映画川柳「意味がない 演奏するのも しないのも」 飛蜘

 『映画芸術』で2005年の邦画ランキング第1位。『キネマ旬報』ベスト・テンでは日本映画第6位、読者選出日本映画ベスト・テン第3位。
2010年12月3日


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クレヨンしんちゃん
嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲


東宝
2001年
90分
 原恵一脚本・監督作品。作画監督・キャラクターデザインは原勝徳、演出は水島努。
 日本の人口の半分が観覧した計算になる万国博覧会。そこに参加したシンちゃんファミリー。タイム・スリップかと思いきや、父ヒロシがウルトラマンとなって怪獣ゴモラと戦うことに。唖然としていると実は映画の撮影だった。いったん撮影が終わったと思ったら、今度は母ミサエが魔女っ子になるという。ここは20世紀博物館、春日部に造られたテーマ・パークで、大人が子供になり切って楽しむ場所なのだ。運営会社イエスタディ・ワンスモアのケンとチャコは「未来を信じることのできたあの頃に」おとなを封じ込めることで、実質的な未来からの逃避を企画、着々と仮想的な理想社会を実現しているのだった。
 21世紀が終わるある日を境に突然、大人は育児を放棄し、こども化する。しかし、放り出された子供たち仲間が一緒になって反撃する。バスを奪って逃走したり、こども化する匂いを拒否して現実の匂いをかがせて両親を目覚めさせたり・・・・。
 シンちゃんファミリーの大暴れがTV中継されることによって、他のおとなたちも目覚めてしまい、ケンたちの計画は頓挫する。ラスト近くに挿入される歌がベッツィ・アンド・クリスの「白い色は恋人の色」や吉田たくろうの「今日までそして明日から」。ラストのクレジット・タイトルには小林幸子「元気でいてね」が流れる。
 キネマ旬報のベストアニメ特集で高い評価を受けたので見てみたが、70年代世代のノスタルジーをくすぐるものの、中年世代が家族の大切さや半生を省みて号泣するというのが、理解できなかった。しんのすけのファミリーだけが大活躍してもなあ。
      映画川柳「バスを駆る ローテーションの 園児たち」 飛蜘
2010年11月30日



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白昼の通り魔


松竹
創造社
1966年

 大島渚監督、武田泰淳原作、田村孟脚本、林光音楽。こまかいカット割りが印象的だが、後半は混乱している。
 英助(佐藤慶)が都会(神戸)へ出て女中奉公で洗濯しているシノ(川口小枝)を見つめる。突然の英助の訪問に驚くシノ。英助はシノの命の恩人だというが、彼には「先生」と呼ばれる妻がいるようだ。英助はシノの首を絞め、気を失ったシノを2階に運ぶ。事件が発覚すると、白昼の通り魔は、奥様を殺して去っていた。シノは通り魔を英助と断定してよいものかどうか迷う。速達で先生(小山明子)に問い合わせる。
 主要な登場人物四人の関係が次第に明らかになる。貧しい信州の農村で山村工作隊として協力し合っていた若者たちだったが、大水で養豚場や養鶏場のブタやニワトリが流されたことをきっかけに、関係にヒビが入る。シノは村長の息子・源治(戸浦六宏)と関係があったが、名誉村民でもあった源治は首を吊って死亡。道連れのシノは紐が切れて失神しているところを英助に助けられたのだった。しかし、英助は失神したシノを犯していた。恋愛は美しい無償の行為だと力説する中学教師のマツ子(小山)は、英助に好意を持っていて、一緒になったが、英助は放浪するようになる。刑事(渡辺文雄)は各地で女を犯していく通り魔を捜査している。
 こんな風にあらすじを書いたところでどうにもならない。主題は女性二人の意識に絞られる。終盤になって逮捕された英助はシノを犯したことで(英助の言葉を借りれば“死体”だった)通常のセックスに満足できなくなり、妄想から通り魔となったというのだが、佐藤慶はどうみてもインテリであって、妄想に我を忘れる農民には見えないのだ。シノと先生はお互いの英助との関係について言い合いをするが、二人を無意識に支配している規範意識がいまでは古臭く思われてしまい、無意味で観念的な会話に聞こえてしまう。『喜劇・女売り出します』(脚本・監督は森崎東)での、荒砂ゆきが「結局はどっちが最後に(男と)寝たかっていうことだ」という言葉が大島渚作品への痛烈な批評に聞こえるほどである。
 最後にマツ子はシノを一緒に死のうと誘う。これもどうしてそうなるのか、まったく理解できない。シノは薬を吐いてしまい、またも一人だけ生き残ってしまう。そして先生の死体を背にシノは山道を下っていく。
      映画川柳「恋愛が 至上のものかと 無駄論議」 飛蜘
2010年11月29日



DVD
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半落ち



東映
2005年
122分
 横山秀夫の同名作品を映画化。佐々部清脚本・監督作品。渡瀬恒彦と椎名桔平で土曜ワイド劇場でテレビ化された作品(2007年12月放映)を既に見ていました。
 自宅から出て警察署に向かう梶警部(寺尾聰)。警察は連続少女暴行魔を逮捕するところだったが、直前に容疑者の青年は農薬を飲んで自殺を図る。混乱する警察で捜査一課強行犯指導官・志木(柴田恭平)は梶の自供を聞き取る役目を命ぜられる。現職の警官がアルツハイマー症の妻・啓子(原田美枝子)を扼殺した嘱託殺人は、社会的な注目度が大きい。しかし、梶は妻を殺した後、自首するまで2日間の空白があった。
 梶が語ろうとしない“空白の2日間"に何があったのか。志木は幹部が描いた死に場所を探して彷徨していたという筋書きに基づいて調書を作成、梶はその線で全面的に協力するが、納得がいかなかった。梶のコートのポケットから新宿・歌舞伎町のティッシュが出てくる。彼は歓楽街に何をしに行っていたのか。調書の捏造を見抜く検察官・佐瀬(伊原剛志)だったが、県警とのトラブルを回避する検事正(西田敏行)に事件を表面的に扱うように説得される。東洋新聞の記者・中尾(鶴田真由)は調書は捏造だと言う佐瀬の言葉を聞き、独自に探りを入れていた。
 志木や中尾は、啓子の侍医・高木医師(奈良岡朋子)や啓子の姉・島村康子(樹木希林)から、急性骨髄性白血病でひとり息子・俊哉を亡くした後、二人がドナー登録していたことを知る。梶の骨髄移植によって命を救われた少年が「歌舞伎町でいちばん小さなラーメン屋」で働いていたのだ。息子が蘇ったと感じた啓子は、投書の新聞記事を日記に貼り、自分が壊れてしまう前に少年と一目会うことを切望していた。梶は自殺を思いとどまり、啓子に代わって少年に会いに行ったのだ。
 ドナー登録の有効期限は51歳。梶はそれまでは生きようと決心をした。また、少年がマスコミに曝されることを恐れて、中2日のことは口を閉ざしたのだった。一方、梶に判決を下す裁判官のひとり、藤林(吉岡秀隆)も元判事の認知症の父親(井川比佐志)を抱えていた。介護は主に妻(奥貫薫)がやっていたが、暴れる父親を前に妻は「このまま死んでくれたら」と思うこともしばしばあったと告白する。なぜ梶は二人で生きる道を選ばなかったのか。藤林の問に梶は「妻の中で俊哉は二回死んだ。一度目は白血病で、二度目はアルツハイマーで。これ以上の喪失には耐えられないと思った」と答える。そんな裁きをする権利は誰にもないはずだ。梶には4年の実刑判決が下った。
 他のキャストは、弁護士(國村隼)、その妻(高島礼子)、志木の上司(石橋蓮司)、判事(本田博太郎)。
      映画川柳「弁護士は ウソがつけずに 沈黙す」 飛蜘
2010年11月9日


CS衛星劇場
顔役



ダイニチ
1971年
97分
 勝新太郎が初めて監督したワンマン映画。途方もない傑作である。フジテレビで一度カットされて放映されただけで、その後いちども放映されず、ビデオもDVDも出ていない。見たくとも見られない幻の作品だった。カットされたテレビ放映作品をもとにシナリオ採録したが、いまひとつ理解しがたいところがあった。わがベスト・ワン作品がDVD化されれば思い残すことはないというぐらいの傑作だが、とうとう完全な形で放映された。
 初めて『顔役』に出会ったのは公開から3年たった1974年、札幌日活館の特別深夜上映だった。公開年度のキネ旬ベストテン投票で、藤田真男氏が1位に推していたのを知って、見たかった作品だった。見た後では、息がつけなかった。こんな映画は見たことがない。強烈だった。佐々木毅氏が発行していた映画批評ミニコミ誌「ラ・リュミエール」に感想を寄稿した。その後、池袋文芸坐や大井武蔵野館で再見したが最初の印象は変わらなかった。勝新監督作品を見るのがいちばんの楽しみになった。
 勝新はホンモノにこだわったそうである。賭場では本物のやくざ、裏通りでは本物の娼婦、その質感を出そうとカメラは素肌に接近する。執着が強すぎてきわめて見通しの悪い、分かりにくい映像が続く。一瞬なにが映っているのかわからないこともある。しかし、ストーリー自体は単純だった。暴力団同士の抗争を捜査するやくざ刑事が、警察が手を引いた後で個人で組長を制裁する話である。
 この作品で、勝新が撮りたかったもの、それは義侠心である。弱気を助け、強きをくじく。その心意気である。勝新は徹底的に強いものに対する反抗を映しこむ。《座頭市》でも《悪名》でも《兵隊やくざ》でも同じだった。個人では立ちむかえない巨悪と徒手空拳で戦う男。組長を車ごと葬ってしまったラストシーン、これでもかと土を踏み固める勝新に踏みしだかれた砂利の音がコツッと響く。満足感というより、徒労感が感じられるラストだった。なんと凄い感覚だろうか。これを傑作と言わずになにを傑作というのか。そんな思いがして改めて感心した97分だった。

      映画川柳「これでもか 石のひとつが 埋まるまで」 飛蜘

【参考文献】折よく、真魚八重子「映像作家としての勝新太郎論」(四方田犬彦ら編『日本映画は生きている 第5巻 監督と俳優の美学』岩波書店に所収)が出た。


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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