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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2010年7月1日以降10月31日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想     (池田博明)
2010年10月19日


レンタルDVD
NINE


USA
2009
(日本公開2010年)

 フェリーニの名作『81/2』をミュージカル化し、トニー賞を受賞した作品。『シカゴ』のロブ・マーシャル監督。脚本はマイケル・トルキンと故アンソニー・ミンゲラ(映画はミンゲラに捧げられている)。
 レビューを讃える「フォリー・ベルジェール」(歌はジュディ・デンチ)を見て、ボブ・フォッシー監督の『キャバレー』を連想した。『キャバレー』には、ナチズムの匂いが濃厚だったが、『NINE』では、1965年という映画の背景はあまり前面に出ていないようだった。
 映画監督グイド(ダニエル・ディ・ルイス)は女優クラウディア(ニコール・キッドマン)に「なぜみんな脚本を気にするんだ。脚本なんて観客は気にしていない。君の髪、君の姿を見に来るんだ」と言う。これがこの映画の核ではないだろうか。
 スクリーン・テストでスタッフが役者・女優を選ぶ場面がその後に続く。ささいな仕草、かすかな表情でスタッフは女優の採否を決める。ワン・ショットに≪物語≫があるのだ。
 しかし、脚本が出来ないので、グイドは『イタリア』の製作を投げ出してしまう。数年後、再出発するグイドの新作に並んでこれまでの登場人物のいわばカーテン・コールがあり、映画の冒頭に回帰する形になる。別れた妻ルイザ(マリオン・コティヤール)も笑顔を見せる。
 女優も歌がきちんと歌えるところがすごい。とはいうものの、本職の歌手ファーギー(スティシー・ファーガソン)の歌唱力はケタ違いだった(歌は「ビー・イタリアン」)。
        映画川柳「女たち 夢見る男の 原動力」 飛蜘
2010年10月13日


DVD
歌劇「トスカ



イタリア
1940年
102分
 ヴィスコンティと切り絵や影絵アニメで著名なロッテ・ライニガーが第二班監督または助監督を務めたオペラ映画。白黒映画である。監督はカルロ・コッホ。クレジットされていないが一部のシーンはジャン・ルノワールが撮影した。
 タイトル・バックにアリア「歌に生き、恋に生き」が流れる。政治犯ファレリ伯爵の銃殺刑で始まり、アンジェロッティ(マッシモ・ジェロッティ)が鍛冶屋に化けた仲間の援助で脱獄する場面が続く。アンジェロッティが教会に隠れている。そこへ彼の妹マルチェッサ・アッタバンティ(カーラ・カンディアーニ)が来て祈りを捧げる。マリオ・カヴァラドッシ(ロッサノ・ブラッツィ、歌はフェルッチョ・タリアヴィーニ)はマルチェッサの横顔をスケッチしている。
 トスカ(インペーリオ・アルヘンティーナ、歌はマファルダ・ファーヴェロ)は戦勝祝賀の御前演奏会にマリオを誘うが、ナポレオン派の彼は断る。トスカは絵の女に嫉妬する。マリオは女装したアンジェロッティと共に逃走を図る。スカルピア男爵(ミシェル・シモン)はマリオの弟子の少年を逮捕する。
 ナポリ国女王(オルガ・ヴィットーリア・ジェンティッリ)は政治犯の逃亡を咎め、明日までに逮捕せよと男爵を責める。男爵は面白くない。トスカは練習で「カロ・ミオ・ベン」を歌っている。男爵はトスカにソニアの扇子を渡し、足場で拾ったと告げる。トスカは嫉妬から演奏を中止し、二人の秘密の部屋に向う。男爵が後をつける。隠れ家に着いてトスカの誤解は解けたものの、男爵が周囲を包囲。井戸の横穴にアンジェロッティを隠した。マリオは拷問される。苛酷な拷問を見るに堪えかねてトスカは井戸を指す。マリオはトスカを裏切り者と非難する。使者が男爵に本当は政府軍の大敗だったと告げる。マリオは歓喜を叫び、アンジェロッティにも革命軍の勝利を告げる。「イタリア万歳」と叫んでアンジェロッティは井戸の底へ落下。マリオは連行され、暁に銃殺される予定となる。
 トスカは男爵に連れられ、トスカはマリオの命乞いをする。革命軍が勝利すれば男爵も生命は無い。男爵は偽の処刑を依頼するが、トスカがマリオへの愛を捨てないので、命令を伝え直す。「万事、パルミエリ伯爵のときと同じに」と。争うなかでトスカは食卓のナイフで男爵を刺す。
 夜が明ける前。アリア「星は輝き」。牢獄にトスカが来て、マリオに経緯を告げる。トスカが男爵を殺したことを聞き、トスカを許すマリオ。処刑は手はず通りに行われる。銃殺されたマリオを見てトスカは密偵を非難するが、密偵の答えは「命令でした」。そこへ男爵の殺害が伝えられ、トスカは身を投げる。
 通常のオペラでは登場しないアンジェロッティの仲間、妹、女王などが登場し、隠れ家の井戸が詳しく描写される。国王軍の描写が緻密に描かれている。
        映画川柳「嫉妬から 我をなくする 歌姫は」 飛蜘 
2010年9月11日



DVD
ロー・アンド・オーダー:性犯罪特捜班
第1話


NBC
1999年
46分
 「Law & Order 法と秩序」のスピン・オフ作品として1999年9月20日からNBCで開始した「Special Victims Unit」は2010年までで11シーズン248話を放映し、現在は第12シーズン放映中。1話はCMを入れて60分間。
 クリストファー・メローニ演ずるエリオットとマリスカ・ハージティ演ずるオリヴィアの二人の刑事が中心になってニューヨークでの性犯罪を捜査する特捜班の活躍が描かれます。
 第1話「女たちの制裁」ではメッタ刺しで発見された被害者がペニスを切り取られていたことから特捜班が動き出す。被害者の免許証の名前がゲイの名を騙った偽名と分かり、さらに聞きこみを手がかりに名前が分かるものの、実はそれも偽名。インターポールの情報でセルビア人の民族浄化担当、つまりレイプ専門の戦犯だったことが判明する。名前が分かる度に犯人像がゲイ、行きずりの女、過去にレイプされた女性と変わり、被害者像も同性愛者、実直な夫、人の皮をかぶった悪魔と変わって行く。殺されても仕方のない被害者を殺した犯人をいったいどう裁くのか。重い課題を背負って第1話はエンディングに向っていく。
 オリヴィアは母親がレイプされて産まれた子供で、第1話では部長に捜査の途中に「公私混同するな」と諌められている。彼女の母親はレイプした男は憎いが、あなたを授かったと話す。
      映画川柳「内紛の 悲劇が尾を引く 大都会」 飛蜘

 アマゾン・コム・JPのVINE先取りプログラムで9月号が配信されたとき、偶然コンピュータのメール受信を立ち上げていたため、すぐにサンプルDVDを申し込めました。いつもはDVD類はアッという間にサンプル切れになってしまいます。
2010年*月*日


DVD
ミス・マープル5

蒼ざめた馬


2010年
英国
89分
 原作は『蒼ざめた馬 The Pale Horse』でマープルやポアロものでないノン・シリーズ。ホラー色が濃い異色作。脚色ラッセル・ルイス、監督アンディ・ヘイ。
 (未見である。2010年9月にいったん9分割して投稿されたが、規定違反でyou tubeから削除されている。2011年4月に犯人指摘の場面が投稿されていた。DVD未発売。TV内容紹介からシノプシスを翻訳)。
 マープルの友人ゴーマン神父(ニコラス・パーソンズ)が瀕死のディヴィス夫人(ライダー)のもとを訪問した後、撲殺された。神父は死の直前にマープル宛てに謎の名前リストを投函していた。マープルは警察に捜査を依頼し、リジューン警視(ニール・ピアソン)と監察医のケリガン(ジェイソン・メレルズ)が殺人捜査に当たることになったが、警視がマープルのリストを却下したとき、マープルは友人の神父ために自分で決着をつけることを決心する。
 故ディヴィス夫人の宿舎を訪問したマープルはリストの一行目に書かれていた宿房「蒼ざめた馬」という表示を発見する。宿の女主人コピンズ夫人(リンダ・バロン)は協力的で、宿泊人で薬剤師ポール・オズボーン(JJ・フィールド)は神父の死亡した晩に目撃したことを語ってくれた。しかし、神父のリストに挙げられた人物が既に亡くなっていることを知って、マープルは困惑する。マープルは「蒼ざめた馬」を訪れ、用心深い経営者のチルザ・グレイ(ポーリーン・コリンズ)や、秘書のシビル・スタムフォーディス(スーザン・リンチ)、掃除婦ベラ・エリス(ジェニー・ギャロウェイ)に挨拶された。客のコッタム大佐(トム・ワード)とその妻カンガ(ホリー・ヴァランス)、二人の仇敵でエキセントリックなヴェナブルズ(ナイジェル・プラナー)と会った。マープルが儀式として「火災」を見たその晩は著名な魔女グッディ・カーン(ウィロウビー)を思い出させた。マープルは大佐の家政婦リディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー)や民俗学者マーク・イースターブルック(ジョナサン・ケーク)と魅力的なロンドンっ子ジンジャー・コリガン(メイソン)と会う。お茶を飲みながらの翌日、チルザとシビルは黒魔術による死を課すことに言及したが、客室のひとつから聴こえた血まみれの冷たい叫びに中断された。マープルは蒼ざめた馬にあるなにか暗黒を怖れていたが、コッタム大佐が寝室で死んで発見される。殺人者は魔術に関係しているのだろうか、それとももっと邪悪ななにかがあるのだろうか。
 殺人者の接近を感じたマープルは危険を省みず、死の請負業ブラッドリーを訪ねて、ある実験を試みる。

【参考書】クリスティー『蒼ざめた馬』(早川文庫)
2010年9月10日



You tube


DVD
ミス・マープル5

青いゼラニウム


2010年
英国
89分
 『青いゼラニウム The Blue Geranium』はマープルものの『火曜クラブ』に収録された短編である。IMDbの評価は7.5。監督はディヴィッド・ムーア、脚色はスチュワート・ハーコート。USA版DVDでシリーズ4と5を見終わりました。
 口うるさいメアリー・プリチャード(シャロン・スモール。写真左下)は就寝のとき、何かを恐れて部屋に鍵をかけ、ロウソクの火をともしていた。翌朝、メイドのカロライン(クレア・ラッシュブルック)が食事を持っていくと、部屋に鍵がかかっている。夫のジョージ(トビー・ステーヴンス。写真右上)が扉を壊して入ると、メアリーは口から血を吐いて死んでいた。この事件は「青いゼラニウム 色彩の殺人」と報道され、浮気もしていた夫が殺人犯として逮捕されたが、記事を読み、庭師ジョン(イアン・イースト)のハチよけの薬を混ぜる仕草を見ていたマープルは、あわててサマーセット警部(ケヴィン・マックナリー)に連絡を取ろうとする。しかし、警部はマープルをうるさがって取り合わない。そこでマープルはスコットランド・ヤードを退職したヘンリー卿(ドナルド・シンデン。写真右中)に至急面会を求め、その理由を話すのだった。「間違った人を絞首刑にする」と。
 マープルは先日、バスでエディー・セワード(クリザリング・ジェイソン・ダー)と乗り合わせたときのことから話す。ワーズワースの詩の一節を唱え、自然の美しさを讃えるエディー。ややどもりがちな様子はアルコール依存症のようだった。リトル・アンブローズで下りて、マープルは友人の牧師イーヴン・ダーモット(ディヴィッド・カルダー)と会う。ダーモットの姪で、プリチャード家で働くヘスター(ジョアンナ・ペイジ)ともマープルは幼いころに会ったきりだった。
 三人で出かけた町の店で、メアリーの暴言も聞いていた。メアリーは嫌われもので、夫のジョージが地元のゴルフ・クラブの会長に就任したこの日も、騒ぎを引き起こしていた。ダーモットの教会もボロクソにこきおろされていた。ジョージがショットを打つとゴルフ・コースの方から子供たちが駆けて来た。エディーが溺死体で発見されたのだ。上流から流されてきたらしい。
 ダーモットの妹のフィリッパ(クラウディー・ブレイクリー。写真右下)は、戦争中ジョージと婚約していた。しかし、メアリーが割り込んで、ジョージを横取りしてしまったのだ。フィリッパはジョージの弟ルイス(ポール・リス)と結婚したが、作家のルイスには定収入が無く、常にお金の問題がつきまとっていた。
 数日前にメアリーのもとに顔をベールで隠した女占い師ザリダが訪れて来て、「青い花は死の宣告」と予言してからというもの、メアリーは青い花におびえ始め、壁紙のゼラニウムはピンクだったが、身近なところから青いものを遠ざけていた。メアリーは病気を苦に飲み薬をいつも飲んでいたが、医師ジョナサン・フレイン(パトリック・バラディ。写真左中)は「彼女は本当は病気じゃない」とニセ薬を与えていた。メアリーが恐怖を起こした夜、壁紙のゼラニウムは青く変化していた。ジョージの不義の恋人は絵描きのヘィゼル(キャロライン・キャッツ。写真左上)だったので、彼女が花を描いたのではと疑われる。ヘスターは、メアリーの看護婦で辞職したスーザン・カーステアーズ(レベッカ・マニング)にジョージが室内でゴルフを教えながらキスしていたのを目撃していた。それを聞いたヘィゼルはショックを受ける。
 第三の殺人、妊娠六カ月のスーザンが絞殺死体で発見され、凶器はジョージのネクタイだった。ザリダの衣装がスーザンのいた廃屋に残されていたこともあり、スーザンがザリダだったのだと判断される。
 教会で牧師ダーモットがメアリーを追悼する説教中、フィリパが立ちあがり、「メアリーは殺されたのだ。犯人はヘィゼルだ。エディーの殺害時刻の後、彼女は遅れて来たし、メアリー事件の時も彼女を目撃している」と告発する。集会は大騒ぎになる。マープルは既にヘィゼルがエディーの元妻だったことを見抜いていた。牧師はマープルにフィリパが告発した時刻にヘィゼルは実は自分にジョージとの恋愛について告解に来たのだと話す。守秘義務から話すことができなかったのだ。
 サマーセット警部はジョージを犯人だと確信し、逮捕する。ジョージはエディー、メアリー、スーザンの殺人を認め、自分は「有罪だ」と判事(ヒュー・ロス)に答えるが、マープルはジョージが「愛する女性を守るために、罪を着ているのだ。真犯人は別にいる」と言う。ヘンリー卿のはからいで開廷中の裁判所に駆けこんだマープルは、別人をあげて真相を説明する。
 他のキャストはヘンリー卿の接客係(デレク・ハッチンソン)。
      映画川柳「毒見でも 味がわからぬ 相続人」 飛蜘

【参考書】クリスティー『火曜クラブ』(早川文庫)
 原作ではジョージは疑惑にさらされてはいるが、逮捕されてはいない。マープルの友人の神父イーヴンやその姪ヘスター、妹フィリッパ、フィリッパの夫ルイス、ヘイゼルの夫エディーはテレビ化に当たって新たに設定された役柄。法廷で真実が明らかにされるという展開もテレビならではの趣向。
2010年9月10日



You tube


DVD
ミス・マープル5

チムニーズ館の秘密


2010年
英国
89分
 『チムニーズ館の秘密 The Secret of Chimneys』は原作はマープルものではなく、バトル警視が登場する冒険ロマン。脚色ポール・ルットマン、監督ジョン・ストリックランド。ストリックランドはグラナダTVで『予告殺人』を演出しています。IMDbの評価は7.3。原作を大胆に改変して、完全にマープルものに仕立てている。見事としか言いようが無い。
 冒頭は1932年、チムニーズ館で行われた大規模な夜会である。階下で開催された舞踏会の音楽に合わせて踊っていたメイド(ローラ・オトゥール)は侵入者に気づき、止めようとするがかえって殴られて鉄枠に頭を打った。
 それから23年後、ロンドンはポール・モール・クラブで、カターハム卿(エドワード・フォックス。写真左中)はジョージ・ローマックス(アダム・ゴッドリィ)と取引をしていた。一方、カターハム卿の娘ヴァージニア・レヴェル嬢(シャルロッテ・ソールト。写真左上)は突然、男に誘拐されそうになったところを自転車で通りがかったアンソニー・ケイド(ジョナス・アームストロング。写真左下)に救われる。誘拐犯はアンソニーを殴って逃走。
 マープルの亡き従妹の娘に当たるヴァージニアの運転で二人はチムニーズ館へ。週末に館に集まって来た人々は、カターハム卿の上の娘バンドル(デルヴラ・キルワン)、ドイツの侯爵ルードウィッヒ(アンソニー・ヒギンズ)、バンドルが嫌う未婚の社会活動家ブランケンソープ(ルース・ジョーンズ)などだった。マープルがカターハム卿に会うのは彼の妻マドレーヌの葬儀以来のことだった。
 ヴァージニアに好意を寄せるローマックス。彼をさしおいてウインナ・ワルツのレコードをかけ、ヴァージニアと踊るルードウィッヒ侯、不機嫌に円盤を止める謎めいた沈黙の召使トレッドウェル(ミッシェル・コリンズ。写真右)。
 急にルードウィッヒ侯がチムニーズ買収の話を持ちだし、バンドルは「売り物じゃないわ」と反発。
 同日の真夜中、警護員が誰かに殴られ、客たちは24時ころ警報で起こされたが、侯爵が見えなかった。館の秘密の通路から銃声が聞こえ、人々が駆けつけると、ルードウィッヒ侯がアンソニー・ケイドの腕の中で死んでいた。なぜケイドがチムニーズにいるのだろうか。重要参考人となったケイドは部屋に監禁される。スコットランド・ヤードから主任警視フィンチ(スティーブン・ディラン)が来て、調査を進める。ケイド以外の全員から話を聞いた後、フィンチは最も冷静なマープルを誘って、秘密の通路を現場検証する。二人は侯爵のポケットから暗号文=楽譜を発見、これが事件の鍵だ。さらに、ケイドから話を聞く。ケイドはチムニーズ館に夜忍んで来るように手紙をもらっていた。そこで夜警を殴り倒して秘密の地下通路に入ったのだ。ただ23時30分ごろケイドは館の煙突から煙が出ているのを目撃したという。
 バンドルとマープルは楽譜を歌ってみるが、とても音楽とは言えない。フィンチとマープルは事件を振り返る。召使トレッドウェルに話を聞くと、ウィンナ・ワルツの不快な思い出として、夜会の晩にメイド仲間のアグネスが誰かに殺されたのを目撃したという。離れの石棺をフィンチと卿が開くと白骨が発見された。失踪したとされていたアグネスだった。一方、楽譜はバンドルが解読し、コードがメッセージだった。侯には秘密の恋人がいて呼び出されたらしい。侯爵のダイイング・メッセージ「want」は英語ではなく、ドイツ語の「wand」だったのだと、フィンチとマープルは気が付く。wandはwall、つまり壁を意味している。
 夕食のとき、ヴァージニアはジョージの助手ビル(マシュー・ホーン)に作らせた館の立体模型を持ちだし、銃撃当夜の人々の位置を示すが、アリバイの無い者はいない(つまりアンソニー以外に犯人は考えられない)と興奮する。ブランケンソープはアグネスは自分の娘だと告白。卿の気分が悪くなり、他の面々も夕食を中断して部屋に帰る。
 マープルはトレッドウェルの部屋を訪ね、昔の思い出話を聞く。彼女には愛犬がいた。翌朝、召使の着物を着た彼女が死んでいた。彼女の手紙が見つかるが、それはキャプテンに対するラブ・レターであり、彼女はコンスタンスという名前を名乗っていた。侯爵の秘密の恋人とは彼女だったのだろうか。タイプライターのCの文字の特徴から、マープルはケイドを呼び出した手紙がビルの打ったものだと判断、ビルを問い詰めると、誘拐は狂言だったと告白する。改めてケイドは侯爵殺害の容疑者として逮捕される。裏切られたヴァージニアはローマックスの求愛を受け入れようと決心する。警察に連行されるパトカーを途中で妨害して、秘密の通路に逃げ込んだアンソニーは、通路の中からハンマーで壁を叩き、自分の愛が本物だと訴える。その音を聞いてマープルは事件当夜の銃声の意味に気づく。そして煙の意味や、キャプテンが何を意味しているのか、コンスタンスの愛人は誰だったのか、23年前にアグネスが阻止しようとしたのはなぜかなどが、マープルから語られる。23年前にアグネスが盗んだとされていた宝石もマープルが見つけていた。
 1932年の事件当夜、妻の不倫の現場に踏み込んだカターハム卿、そしてヴァージニアの父親はルードウィッヒ侯爵だった。彼のダイイング・メッセージは壁のツタ、“バージニア”を意味していたのだ。
 他のキャストは若き日のローマックス(イアン・ウェイチャート)、若き日のルードウィッヒ侯(ロバート・ダンバー)、ジェイファーズ(アレックス・ナイト)。マープルを信頼するフィンチ警視が見せ場を作っている。カターハム卿を演ずるエドワード・フォックスもさすが名演。
      映画川柳「復讐の 種がまかれた 大過去に」 飛蜘

【参考書】クリスティー『チムニーズ館の秘密』(早川文庫)
2010年9月9日


You tube

DVD
ミス・マープル5

鏡は横にひびわれて
2010年
英国
89分
 『鏡は横にひびわれて』の映画化は、既にヒクソン主演のBBC作品、エリザベス・テーラー主演の『クリスタル殺人事件』がある。本作のIMDbのレィティングは7.3だから、かなり高い。脚色ケヴィン・エリオット、監督トム・シャンクランド。
 ドリー・バントリー(ジョアンナ・ラムリー。写真左)はマープルと一緒に女優マリア・グレッグ(リンゼイ・ダンカン)の演じた映画『マリー・アントワネット』を見て感涙にむせんでいた。ちょうどマリーが幼い息子を奪われる場面である。ドリーはゴシントン・ホールをマリーに売却し、自分はホール前の小さな屋敷に住むことにしたのである。
 その後、二人はマリアのもとを訪れてもいた。ドリーが子供に恵まれている話をすると、マリアの表情は曇った。ゴシントン・ホールからの帰途、暴走する車にあおられてマープルは転倒、居合わせたヘザー・バッドコック(キャロリーネ・クエンティン)に介抱してもらったものの、足首のねん挫でマープルはマリアの引越記念パーティに参加できなくなった。
 ヘザーはマリアの熱烈なファンで、戦時中にマリアに遇ったことがあった。マリアとの再会を喜ぶヘザーだったが、彼女は毒入りのダイキリを飲んで死んでしまう。マープルはドリーからマリアがヘザーのおしゃべりの間、“シャロット姫のような鏡が横にひびわれた表情をしていた”という事実を聞く。
 右手が義手のヒューイット警部(ヒュー・ボン・ヴィル)と若い警官が捜査に来る。若い警官はマリアのファンである。二人は最初にマープルのもとを訪ねる。
 マープルの捻ざを治療した医師の話では、ヘザーが自分のグラスをこぼしてしまい、マリアの衣裳を汚してしまったのだが、そこでマリアが自分のグラスをヘザーに渡したのだという。ヘザーはそのお酒を飲みほして倒れてしまったのだ。とすると、犯人の本命はマリアだったのに、誤まってヘザーがそれを飲んでしまったのだろうか。ドリーが見たマリアの表情は女流写真家マーゴット・ベンス(シャルロッテ・ライリー。写真左下)が撮影していた。
 マリアの死によって利益を得る動機のある者は意外にたくさんいた。監督で夫のジェィソン・ラッド(ナイジェル・ハーマン。写真中)、ジェイソンに恋心を抱く、マリアの秘書のエラ・ブラント(ヴィクトリア・スマーフィット)、秘書助手のヘイリー・プレストン(ブレナン・ブラウン)など。警部たちはジェイソン、エラ、凍りつく表情をしたときに入って来た女優ローラ・ブルースター(ハンナ・ワディンガム)などを尋問する。マープルはドリーとベンス写真館で記念写真を撮影してもらいながら話を聞き、彼女がマリアの養女であることを聞きだす。一方、「お前が酒に毒を入れたのを見た」という怪電話が記者ヴィンセント・ホッグ(マルティン・ジャーヴィス)やヘイリーら周囲の人物にかかっていた。
 映画『クレオパトラ』の撮影のとき、機嫌の悪いマリアのために中断した撮影の合間、マリアは出されたコーヒーをはき出す。毒が入っていたという。その様子を目撃したマープルとドリー。その夜、喘息だったエラが毒を仕込んだ吸引器で毒殺された。ヴィンセントは警部に脅迫電話の主はエラだ、電話口でくしゃみをしたから判ったと告げる。
 マープル家のメイド、チェリー・ベーカー(オリヴィア・ダーンリィ)はマリア家のメイド、マリー・テレーズ(イサベラ・パリッス)から聞いた話をマープルに伝える。事件当夜、カクテルをこぼしたのはヘザーではなくマリアで、毒入りのダイキリはマリア自身が作ったものだと。マープルは推理が間違っていたのではないかと感じ、現場に出向く。一方、マリアは施設に預けていた障害児の長男を訪問し、泣き崩れていた。
 ホールの現場に立って見たマープルは「単純な事件だったのだ。単純すぎて真相が見えなかった」と理解する。マープルが真相を語ったとき、すべては終わっていた。
 他のキャストはルイス・チャールズ(ジーン・グッドマン)、フランス人のオフィサー(ジョナサン・コイン)、記念パーティでドリーと邸宅を見物するハバード夫人(ミシェル・ドットリーチェ)。

      映画川柳「風疹が 悲劇をもたらす 引き金に」 飛蜘

【参考書】クリスティー『鏡は横にひびわれて』(早川文庫)
2010年9月6日



You tube


DVD
ミス・マープル4
なぜエヴァンズに頼まなかったのか



英国
2009
93分
 第4話『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか Why Didn't They Ask Evans?』。LWTでは「なぜエヴァンズにたのまなかったのか」TV化が既にあった。本作は脚色パトリック・バーロウ、監督ニコラス・レントン。原作はマープルものではなく、若い男女二人が試行錯誤しながら謎を探る物語。本作はマープルが加わるだけでなく、設定と展開を原作とかなり変えている。特にシルヴィアの夫が原作では途中で殺されるのだが、本作では過去に謎の死を遂げている点が異なる。グラナダTVのマープルものは『親指のうずき』にしろ、『パディントン発4時50分』にしろ、『バートラム・ホテルにて』にしろ、行動力の劣るマープルを助ける女性が登場するとき、いきいきと面白くなるが、本作も行動力旺盛のフランキー中心の前半はいきいきとしている。後半では若い二人は歩く時も自分たちのペースで歩くため、二人についていくマープルは早足で歩くのが驚き!後半は人間関係が複雑で過去の事件と絡むため、私の英語能力では理解できない箇所があった。日本語版放映を楽しみに待とう。
 パイプ・オルガンで、バッハの『トッカータとフーガ』が奏される。演奏者はボビー・アットフィールド(ショーン・ビッガースタッフ。写真右)。原作ではゴルフ・ボールを二人で探して転落した男を発見するのだが、本作ではきまじめな青年が偶々海岸を散歩中に崖から転落した男発見する。青年は男の最後の言葉「なぜ彼らはエヴァンズに頼まなかったのか」を聞いた。
 マープルはボビーの母親マージョリー・アットフィールド(ヘレン・レダーラー)の友人として登場する。メイドのフローリー(シワン・モリス)が雇われていた。検死審問に行く電車の中で彼は幼ななじみだった、フランキー・ダーウェント(ジョージア・モフェット)に再会。一緒に謎解きを始めるのだが、途中、フランキーの邸宅でのパーティに参加を見送って帰宅する途中で、自転車のボビーは車にひき殺されそうになる。フランキーは死んだプリチャードの車に残されていた地図にマークされていたサヴェイジ城に事件の鍵を求めて、玄関先でわざと自動車事故を起こし、シルヴィア・サヴェィジ(サマンサ・ボンド)の世話になる。サヴェィジ家にはトム(フレデリー・フォックス)とドロシー(ハンナ・マレー)という姉弟、義弟のロジャー・バッシントン(ラフェ・スポール。写真左下)がいた。フランキーを診察した医師アレック・ニコルソン(リック・メイオールl)は、シルヴィアの待医である。医師から、もらった薬をそっと吐き出すフランキー。ボビーに電話をし、更に机の中などを調べる。ボビーはフランキーの身を案ずる。夜中にフランキーは隣りの家から男女の言い争う声を聞く。
 サヴェィジ邸で捜査を続けるフランキーを、マープルが彼女のガヴァネスと身分を偽って尋ねてくる。マープルはフランキーの様子を見ると同時に、捜査の協力に来たのだ。フランキーはちょうどシルヴィアの知己の警視長ピーターズ(ワレン・クラーク)から衝突した車の方向が変だと疑いを持たれていたが、マープルの機知で救われる。一方、ボビーは被害者の宿泊していたホテルで、パスポートから被害者の名前がアレクス・プリチャードではなく、ジョン・カーステアーズ(ディヴィッド・ブキャナン)であることを知り、フランキーに電話する。彼の日記からは美人看護婦モイラの古い写真も出てきた。
 食事の際にシルヴィアとニコルソンが親しげなのをドロシーは嫌がっている様子。そこへ雨に濡れたモイラ(ナタリー・ドーマー。写真左上)が来て加わる。彼女はカーステアーズの日記の写真の女性だが、いまは、ニコルソン医師の妻だ。フランキーが急に「ジョン・カーステアーズ」の名前を持ち出すと一同が凍りついた。なにか秘密がある。母親と子供たちは言い争いになる。フランキーはマープルに自分の推理を話す。
 ボビーがやって来た。運転手に変装している。ドロシーは若いボビーに関心を持つ。ロジャーがフランキーに接近するので、ボビーはやきもきする。クロード・エヴァンズ(マーク・ウィリアムズ。写真左中)の自慢のラン温室を見せてもらう。
 邸の二枚の肖像画は兄弟で兄はジョージ。弟のジャックはシルヴィアの夫だったが、マープルがシルヴィアに聞いた話では戦争中にマレーシアで日本兵に殺されたらしい。マープルはニコルソン医師にモイラの古い写真を見せて、返しながら看護婦だったモイラと医師のなれそめを聞く。医師は「写真をどこから?」と聞くがマープルはそれには答えない。
 夜、ドロシーはボビーを探している。ボビーはドロシーから逃れて隠れたときに、外を走って逃げるモイラに出会うが、モイラはこのことは秘密だと言う。戻ったボビーは車庫の車内でフランキーを発見、状況を話しあっているところへドロシーが助けを求めに来る。庭師エヴァンスが毒で殺されたのだ。蛇毒だったので、トムの飼育していた毒ヘビが疑われる。警視長ピーターズが本格的な捜査を開始する。トムは毒蛇は医師からの贈り物だという。
 ボビーがロジャーと医師の家に行くとモイラは監禁されていた。ボビーはモイラを助ける。 
 一同が部屋に会したとき、ボビーが変装のヒゲをむしり取って自分の正体や目的を暴露してしまったので、フランキーは怒った。サヴェイジ家の面々は驚き、あきれた。マープルは執事ウィルソン(リチャード・ブライアーズ)から過去の経緯を聞く。シルヴィアが病気で倒れる。翌日はシルヴィアの誕生日だ。しかし、深夜、犯人たちはシルヴィアを蛇毒で殺そうと忍んで来る。隣室でマープルたちが犯人とシルヴィアの会話に耳をそばだてていた。
 マープルが真相を明らかにする。背中に毒ヘビを刺青した意外な犯人、遺書書き変えにからむ大胆なトリック、意外な動機。そして真のエヴァンズの正体が最後に分かる。

      映画川柳「邪悪なる ヘビはいつでも 背負われて」 飛蜘

【参考書】クリスティー『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(早川文庫)
2010年9月1日



You tube

DVD
ミス・マープル4
魔術の殺人



英国
2008
93分
 第3話『魔術の殺人 They Do It with Mirrors』。既にBBCのヒクソン主演のマープルものの第11話でTV化されています(脚色T.R.ボーエン、演出ノーマン・ストーン)。今回は脚色ポール・ルットマン、監督アンディ・ウィルソン。アンディ・ウィルソン監督は既にグラナダ放送のマープル・シリーズの『書斎の死体』『パディントン発4時50分』を演出しています。
 深夜、物音に気づいた女性、キャリー・ルイーズ(ペネロープ・ウィルトン)が起きてみると、一階にある書斎が何者かによって放火されていた。燃え落ちる古い写真。
 マープルは、久しぶりに会ったルース・ヴァン・リドック(ジョーン・コリンズ。写真右)の妹、女学校時代の友人で、青年の更正施設を運営する夫ルイス・セロコルド (ブライアン・コックス。写真左下)と結婚したキャリー・ルイーズのことが心配だと聞かされる。6週間前に火事は起こった。マープルは彼女自身の静養のためと偽ってキャリー・ルイーズのもとを訪れる。
 マープルを駅に出迎えたのは、養女ジーナ・エルスワース(エンマ・グリフィス・マリン)だった。明るいジーナは子供の頃から人気者だったが、実娘ミルドレッド(サラ・スマート。写真左上)は暗く、つきあい下手。ジーナはアメリカで結婚したワリー・ハッド(エリオット・コーワン。写真左中)と一緒に実家へ帰って来ていたが、義弟スティーヴン・レスタリック(リーアム・ギャリガン)と仲よく交際しているように見えた。夕食は週に一度は更生施設の生徒たちと一緒の食事なのだが、食事前のお祈りをミルドレッドが唱えても誰もまともに聞いていなかった。イライラするミルドレッド、とりなすキャリー。
 資料室の引き出しを調べていたマープルは急に入室してきた青年エドガー・ローソン(トム・ペイン)に驚く。彼は施設上がりでルイスの個人秘書として雇われているというが、「僕の本当の父親はウィンストン・チャ−チルです」と真顔で言う。ワリーがエドガーを追い払い、マープルはアメリカン・コーヒーを話題にして打ち解ける。しっかりものの家政婦ジョリー(マキシーネ・ピーケ)がキャリー・ルイーズとジーナが池に出かけたことを告げる。家族が池に駆け付けると二人は全裸で水浴していた。「気持ちいいわよ」とキャリー。ジーナが全裸で上がって来るのをスティーヴンがタオルでくるむ。眉をひそめるミルドレッド。深い方へ行ったキャリーが溺れるので、ルイスが救出に向かう。二人とも溺れそうになるが、そこへ通りがかった施設の青年たちがパンツ一丁になって池に入り無事救出。担架で運ばれる二人はしっかりと手を握る。
 ルイスの共同経営者クリスチャン・ガルブランドセン(ナイジェル・テリー)が尋ねてくる。二人の会話をもれ聞いたマープルはキャリー・ルイーズに対して二人にはなにか隠しごとがあると判断する。ルイスは施設で予定されている演芸会の練習に余念が無い。事件当夜もチェロキー・インディアンの酋長に扮装した。ジーナはインディアン娘に仮装して部屋で皆を相手に練習していた。マープルはルイスから台本を渡されプロンプターを頼まれる。途中でエドガーが拳銃を携えてやって来て、ルイスを「僕の父親だ、恨みがある」と言い立てる。拳銃は二発発射されるが、ちょうど外からやって来たジョニー・レスタリック(イアン・オジルビー)に取り押さえられる。その騒ぎの最中に、隣室でクリスチャンが刺殺されていた。家政婦ジョリーが、凶器を「ワリーのUSAのアーミー・ナイフ」と証言する。
 カリー警視(アレックス・ジェニングス)とレイク巡査部長が来訪し、尋問を始める。マープルはタイプライターに紙がなにもはさまれていない不自然さを指摘、すっかり警視の信用を得る。クリスチャンの書きかけの手紙はルイスが隠し持っていた。その手紙にはキャリー・ルイーズが毒殺されかかっていると指摘、ルイスはキャリーの心労をおもんぱかって隠したのだ。キャリーは人を疑う事を知らない女性なのだ。ジーナは部屋に隣室への隠し通路があることを示す。一番怪しい容疑者は当夜、停電した配電盤を修理して場を外れたワリーだった。アメリカ人で英国になじんでいない彼はみんなから敬遠されていたのだ。彼は自転車で逃亡しようとして疑いを強めることになってしまう。訪問に来たルースの車と衝突しそうになり、ワリーは転倒して、腕を骨折する。
 ミルドレッドはジーナが怪しいと考える。ジーナとスティーブンがキスするところを目撃した彼女は不倫を非難する。カキを食べすぎて中毒を起こすホイスタブル・アーネスト(ジョーダン・ロング)。彼やジョニー、そして家政婦のジョリーはなにか秘密を知っているのだろうか。家族の侍医マーヴェリック医師(アレクセイ・セイル)は誰にも疑いを持たない。
 施設での演芸会の日、酋長役のルイスの前に登場したインディアン娘のジーナがマントを取ると、なんとモンロー風の金髪娘だった。一同が唖然となる途端に遮断幕が落ち、裏にいたジョニーの頭に幕吊りの鉄棒が当たって即死。
 ジーナは沈んだ表情をしている。養女だったジーナは実母のことを知らなかったが、どうやら誰かが実母の正体を教えたようだ。キャリー・ルイーズはそれがミルドレッドであることに気づく。キャリー「あなたの姉なのに」、ミル「分かち合えと教えられた。私は与えたわ。でも彼女は何ひとつ分かちあわなかった。ただのひとりも」。冒頭に新聞記事が登場した絞首刑になった夫殺しの女性キャサリン、それがジーナの実母だったのだ。
 マープルは事件が舞台で魔術を演じる魔術師の行うミス・ディレクションであることに気づく。警視に真相を話すマープルの説明をキャリー・ルイーズと夫のルイスも聞いていた。共犯者も明らかになる。
 事件が解決して、ジーナはスティーブンの求婚を断り、ワリーの許へ戻る。財産狙いのアテが外れたスティーブンはミルドレッドに求婚、ミルドレッドもあきれて断る。数年後、マープルのもとへアメリカのジーナ夫婦から手紙が届く。二人の間には赤ん坊も誕生していた。

      映画川柳「子供たち 理解している つもりでも 」 飛蜘

【参考書】クリスティー『魔術の殺人』(早川文庫)
2010年8月30日


You tube

DVD
ミス・マープル4
殺人は容易だ



英国
2008
93分

 第2話『殺人は容易だ』。脚色スティーヴン・チャーチェット、監督ヘッティー・マクドナルド。You Tubeにアップされていました。原作をかなり改変しています。アメリカ版DVDでも見ました。
 日曜日の参拝時。ミツバチの世話をしていた教区牧師がハチに刺されて不慮の死を遂げた。マープルは列車で老婦人ラヴィニア・ピンカートン(シルヴィア・シムズ)に出会う。彼女は村で起こった二件の殺人事件の捜査依頼にスコットランドヤードへ行く途中だった。マープルは彼女の「殺人は容易だ」という言葉が気になった。しかし、下車駅で彼女は何者かにエスカレーターで突き落とされて死亡する。マープルは新聞で彼女の死亡記事を見て葬儀に参列する。マープルは青年ルーク・フィッツウィリアム(ベネディクト・カンバーバッチ。写真右)と知り合い、彼のホテルの部屋を訪問したり、一緒に謎解きを始める。
 ラヴィニアが予言した通り、ハンブルビー医師(ティム・ブルーク・テイラー)が敗血症で死亡するが、夫人のローズ(カミラ・オーフエドソン)は夫の死に疑問を持っていないようだ。
 原作のゴードン・イースターフィールドがいないが、彼に相当する人物はホートン少佐(ディヴィッド・ヘーグ)で、彼には妻リディア(アンナ・チャンセラー)がいる。公立図書館に勤務するアボット(ヒューゴ・スピア)や教会でオルガンも弾くホノリア・ウェインフリート(シャーリー・ヘンダーソン。写真左下)、ジェシー(ジェンマ・レッドグレイヴ)やメイドのエィミー(リンゼィ・マーシャル)から、マープルは少しずつ話を聞いていく。アメリカから来たブリジット(マーゴ・スティリー。写真左中)は首筋にアザを持つが、どうやら棄てられた過去を持つようだ。彼女はいったい誰の子供なのだろうか。
 エィミーが教会で告解しようとしていた直後に、帽子染料をセキ止め薬と誤飲して死亡した。エィミーは妊娠していた。検死審問で事故死が疑われたが、ルークは状況から殺人を主張、若い捜査官テレンス・リード(ラッセル・トヴェリー)はマープルの助言を得て村の人々に尋問する。トーマス医師(ジェイムズ・ランス。写真左上)や牧師のヘンリー・ウェイク(スティーヴ・ペンバートン)がからむ。リディアが浴室で殺害され(歌劇『蝶々夫人』の「ある晴れた日に」が響く)、夫の少佐に疑いがかかる。しかし、マープルは別の犯人を指摘する。マープルが気付いたきっかけはエイミーに関連する犯人のついた小さなウソだった。真犯人の意外な過去が浮かび上がって来る。

       映画川柳「流されて 拾われ育つ 異国の地」 飛蜘
2010年8月28日



You tube

DVD
ミス・マープル4
ポケットにライ麦を



英国
2008
93分
 マープル役はジェラルディン・マックイーワンに変わって、ジュリア・マッケンジー Julia MacKenzie。英国グラナダTVで、今回テレビ化された作品は、マープルものの『ポケットにライ麦を』『魔術の殺人』、30年代の非マープルものの『殺人は容易だ』『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか』。既に第5シリーズも放映が終了しており、第5シリーズで取り上げられた作品は『鏡は横にひび割れて』、第5作『チムニーズ館の秘密』、短編から『青いゼラニウム』、マープルものではないが、『蒼ざめた馬』。日本での放映は未決定なので、USAからDVDを購入。
 第1話は『ポケットにライ麦を A Pocket full of Rye』。BBCのヒクソン主演のマープルものの第4話(脚色T.R.ボーエン、演出ガイ・スレイター)としてもTV化されています。脚色ケヴィン・エリオット、監督チャールズ・パルマー。You Tubeとアメリカ版DVDで見ました。
 冒頭はマープルが教育したグラディス(ローズ・ハインニー)がマープルのもとを去る挿話だが、その後、マープルは最初の30分くらいは登場して来ない。殺人事件の捜査はもっぱらニール警視(マシュー・マックファディン。写真左上)とビリングスリィ(ポール・ブルーク)が当たる。ほぼ原作に忠実に映画化されており、IMDbの評価=レイティングは7.3と高い。
 秘書グロブナー(ラウラ・ハドック)が朝のお茶を持って行くと、社長レックス・フォテスキュー(ケネス・クランハム)が苦しんでおり、まもなく亡くなった。自宅の朝の紅茶にタキシンが入れられていたのだろうと考えられた。ポケットにライ麦がいっぱい詰め込まれていたが、誰もその意味がわからない。
 レックス家には若い二度目の妻アデイール(アンナ・マデリー)、長男のパーシヴァル(ベン・マイルズ)、娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン。写真左中)、義妹ジェニファー(リズ・ホワイト)が住み、しっかりものの家政婦のメアリー・ダヴ(ヘレン・バクセンデール。写真右)と執事クランプ(ケン・キャンベル。写真左下)とその妻(ウェンディ・リチャード)が家事を管理していた。
 アデイールは若いヴィヴィアン・デュボア(ジョセフ・ビーティー)と遊び歩いていた。放蕩で追い出された弟のランス(ルパート・グレイヴズ)とその妻パット(ルーシー・コフ)が、父に呼ばれたからと戻ってくる。そのさなか、アデイール夫人が紅茶を飲んだ後に死んでいた。青酸カリ中毒死だった。同夜、小間使いのグラデイスが、洗濯場で絞め殺された。鼻を洗濯バサミではさまれていた。なぜ家族に無関係なグラディスが殺されなければならなかったのか。そこに真相を解くカギがあるとマープルは考える。ニール警部にマープルが協力する。尋問はほとんどニール警視とピックフォード巡査部長(ラルフ・リトル)が行い、対話の場面が多いため、展開はやや単調である。
 これらの事件がクランプの口ずさんだマザーグースの歌と対応していることが分かった。タキシンが混入されていたのはマーマレードだった。ブラックバードがキイ・ワードだった。かって共同経営だったつぐみ鉱山事件で横死した男マッケンジーの復讐だとの説が浮んでくる。マープルはパインウッド・サナトリウムに男のもと妻(プルネラ・スケィルズ)を訪ねて行くが、彼女は夫は横死した、レックスに鉱山は奪われ、息子はダンケルクで戦死、娘はいないと言う。マープルは偽名を使って復讐のために娘ルビィがフォーテスキュー家に接近していると推理する。警視とマープルはメアリーがルビィかと思うが彼女は自分の過去を語らない。
 マープルは、ニール警視に、つぐみ事件を利用した犯罪で、最初の社長殺しはマーマレードにタキシンを混入できたグラデイスの犯行だが、彼女は真犯人に利用されていたと話す。真犯人は廃坑となったつぐみ鉱山跡地からウラン鉱石が発見された事を知った男だった。事件が解決して帰宅したマープルのもとにグラディスからの手紙が届いていた。グラディスの手紙には最近できた恋人アルバートのことが書いてあり、二人が一緒に撮った写真が添えてあった。マープルは深いため息をつく。
 他にマープル家の新しいお手伝いティリー(テア・コリングズ)、バーンズドルフ教授(エドワード・チュドー=ポール)。

      映画川柳「苦労して 手に入れた愛も こなごなに」 飛蜘

 ジュリア・マッケンジーはスティーヴン・ソンドハイム作品への出演が多いベテラン女優で、演出家でもある。ミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』の日本公演(1999年6月)も演出した(扇田昭彦『ミュージカルの時代』2000年、キネマ旬報社)。名前にマックがつく人はアイルランド系だという。
2010年8月27日


VHS
殺人は容易だ



ワーナー
1986年
96分
 デヴィッド・L・ウォルパーとスタン・マーグリス製作のミステリー映画。脚色がteleplayとなっているし、タイトルからすると、TV作品のようだ。英国が舞台。脚色カルメン・カルヴァー、監督クロード・ワッタム。レンタル落ちの中古ビデオを入手。中古価格は1円だった。
 探偵役はオックスフォード大学でコンピュータ学者の数学者ルーク(ビル・ビクスビー)。ウィッチウッズ(魔女の森)村から乗った老婦人ラビニア・フラトン(ヘレン・ヘイズ)から、村で起こった殺人についてスコットランド・ヤードに話に行くという。「誰にも疑われなければ、殺人は容易なんですよ」と彼女。半信半疑のルークだったが、ロンドンで老婦人がひき逃げで死亡。ダービーをルークのコンピュター予想で当てた友人ジミーの車で、彼は村へ向った。村に入ると、老婦人の予告通りハンブルビー医師が死亡していた。ジミーの知人ゴードン・イースターフィールド卿(ティモシー・ウェスト)の館に泊めてもらい、研究を口実に事件の真相を探ることになる。
 ゴードンの秘署兼婚約者のブリジット(レスリー=アン・ダウン)を協力者に、昔のゴードンの婚約者でアッシュ博物館の係員、博識のウェインフリート婦人(オリビア・デ・ハビランド)を助言者にして、少しずつ村の人間関係が洗い出されてくる。
 飲んだくれの居酒屋の亭主カーターは溺死 、嫌われ者の青年トビーは博物館の窓から落下、ハンブルビー医師は敗血症で死亡。だらしないメイドの若きエイミーもヘロイン中毒で死んだ。
 トーマス医師や事務弁護士のアボット、退役軍人のホートン少佐、骨董屋の主人エルズワージーなど、容疑者として浮かんできた人物の条件を入力して、コンピューターがはじき出した真犯人は「ブリジット」だった。ブリジットを恋するようになったルークはこの答えを受け入れたくない。
 ロンドンでの車の事故を運転手のリヴァースが駐在所の警官に報告した。彼が殺されて、凶器に使われた置物からエルズワージーが犯人だとルークは推理するものの、駐在所の警官は取り合わない。その間に真犯人はさらに策を練っていた。

      映画川柳「被害者を 見据える目つきが 予告する」 飛蜘

【参考書】クリスティー『殺人は容易だ』(早川文庫)
 原作ではブリジェットはルークの友人ジミーのいとこ。エイミーの死因は帽子用塗料でルークの訪問前。コンピュータが犯人を「ブリジット」とはじき出す挿話は無い。基本的な設定はほぼ原作通り。探偵役がポアロやマープルではないため、推理でたどりつく犯人はハズレている。
2010年8月23日



DVD
ドーバー海峡殺人事件



英国、キャノン
1984年
91分
 クリスティーの『無実はさいなむ』の映画化。日本語タイトルは日本公開当時クリスティーの映画化が『地中海殺人事件』『ナイル殺人事件』といった邦題だったのに影響されたもの。
 米国の科学者のアーサー・カルガリー(ドナルド・サザーランド)が大富豪アーガイル家を訪れたのだが、南極へ出立の前夜、アーガイル家の子息ジャッコ(ビリー・マッコール)が、アーサーの車に乗車した際に置き忘れた住所録を返却しようと訪れていたが、その事情を聞いたアーガイル家の面々は動揺する。ジャッコは母レイチェル(フェイ・ダナウェイ)を殺害したとして既に死刑に処せられてしまっていたのだ。ヒューイッシュ警視(マイケル・エルフィック)は再捜査に気が乗らない。
 完全な形で映像にリンクするデイヴ・ブルーベックのジャズが高く評価されているものの、映画は平均以下という評価(IMDbで4.8)が多い。映画を見ただけでは内容が理解できないという酷評もあった。演出が地味。日本語版はビデオもDVDも出回っていないため英国版のDVDを購入。脚色アレクサンダー・スチュワート、監督デズモンド・ディヴィス。ドナルド・サザーランドはクリスティーのミステリーの大ファンだったという。
 アーガイル家の人々は、父レオ(クリストファー・プラマー)、長女メアリー(サラ・マイルズ)、メアリーの夫フィリップ(イアン・マックシェーン)、ヘスター(ヴァレリー・ホイッテントン)、ティナ(フェビー・ニコルス)、ミッキー(マイケル・マロニー)、家政婦カーステン(アネット・クロスビー)、秘書グェンダ(ダイアナ・クイック)。
 レオは自宅にガン・コレクションを持っている。事件当夜、ジャッコと女性の会話を聴いたと話すティナがレンチで撲殺されるが、ちょうど工場に来たミッキーが容疑者になってしまう。カルガリーのホテルの部屋に映画館員の女性が訪ねて来て誘惑する場面があるが、あまり意味が無い。ヘスターからの急な電話でカルガリーが駆けつけると、フィリップが刺殺されているが、その理由はよく分からない。最初の方で、カルガリーは二度ほど車でひき殺されそうになるが、なぜ犯人がそこまでして危ない橋を渡るのかが不明瞭だ。
 謎解きは唐突で、急に真犯人が明かされます(原作通りの真犯人です)。真犯人は崖から身を投げて自殺する。

      映画川柳「ボートにて 真相もたらす 科学者が」 飛蜘
2010年8月15日




DVD
バンガー・シスターズ



フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
2002年
98分
 20年も前の若いときは、ロック・バンドの追っかけ(グルーピー)で、ミュージシャンやスタッフとのセックスも日常だったスゼット(ゴルディー・ホーン)だったが、いまや失業。急に昔の追っかけ仲間、ヴィニー(スーザン・サランドン)を思い出した。ふたりは、バンガー・シスターズ(ヤリマン姉妹)と呼ばれていたのだ。法律家と結婚してまともな暮らしをしているヴィニーに会いにフェニックスに出かける。
 途中、ガス欠になった車のバーで、フェニックス町に行くというハリー(ジョフリー・ラッシュ)と出会う。ハリーは脚本家だったが、失敗して故郷に戻るところだった。旧式のタイプライターと一発の銃弾をこめた一挺の拳銃を持っていた。自分を理解しなかった父親を殺しに行くのだと云う。
 成長しそこなったようなハリーと別れ、ヴィニーに会おうとしたものの、大邸宅の前ですっかり地元の名士の妻になっているヴィニーを目撃したスゼットは、計画を変更してホテルのハリーの部屋に居候することにする。ホテルで騒ぐ学生たちの中に失神しかけた娘がいた。スゼットは症状から娘が酒だけでなくLSDを飲んだことを知る。その娘はヴィニーの長女ハンナ(エリカ・クリステンセン)だった。卒業生総代に選出されるほどの優等生だったが、きびしい母親のしつけに反発し、ハメをはずしていたのだった。スゼットは翌朝ハンナを家にそっと届ける。ヴィニーと再会するものの、過去を封印したヴィニーはスゼットを歓迎されざる迷惑な訪問者としてしか扱わなかった。しかし、スゼットの眼から見ると、選挙に出馬する夫、わがまなな次女(エイミー・)にふり回されているヴィニーは本来の自分を失っていた。
 スゼットはいまやセックスにおびえるハリーにも優しく手ほどきをする。迷惑な訪問者スゼットはヴィニーを次第に解放していく。それに伴って娘たちも母親の真実に触れて変わっていく。

      映画川柳「お宝の ペニス写真で 大笑い」 飛蜘
2010年8月14日



DVD
ハウスシッター
結婚願望



ユニバーサル
1992年
102分
 建築家デーヴィス(スティーヴ・マーティン)は幼馴染の恋人ベッキー(ダナ・デラニー)に新築の家を見せて求婚するが、突然のことで彼女に断られてしまう。
 失意のデーヴィスはカフェ・ブダペストのウェイトレス、グェン(ゴルディー・ホーン)と一夜を共にするが、翌朝後悔して逃げてしまう。一方、グェンはデーヴィスが描いた新築の家に魅せられ、彼の断りもなしにその家に住みついてしまう。町の人々にデーヴィスの妻と言い広めているうちに、偶然にも彼の両親と会ってしまう。グェンはデーヴ
ィスとのなれそめの話をすっかり創ってしまう。ありそうもないちょっと変な話なのだが、なんだか本当らしく聞こえるのである。すっかりみんなに気に入られてしまったグェンだったが、デーヴィスはベッキーと結婚する目的のために彼女とは破局中の夫婦という設定で、芝居を演じ続けることにする。
 夫婦の破局を心配した両親(ドナルド・モファットと、『エデンの東』のジュリー・ハリス)が結婚披露のパーティを計画してしまう。デーヴィスの会社の社長モズビー(ロイ・クーパー)もグェンの父親と戦友だと分かって、パーティを楽しみにしている様子。だが実は、父親のことはグェンの作り話だった。店のゴミ箱をあさっているホームレス(リチャード・シュル、ローレル・クローニン)をグェンは両親に仕立てて急場を乗り切ろうと計画する。
 パーティの席上、「本当はあなたが愛しているのはベッキー」と言い捨てて家を去ったグェン。デーヴィスは彼女の真意と魅力に気づく。フランク・オズ監督。ストーリィは脚本のマーク・ステインと製作者のブライアン・グレイザー。
      映画川柳「包帯で 顔が見えずに 恋をした?」 飛蜘
2010年8月3日


DVD
ジェイン・オースティン 秘められた恋



ハン・ウェイ・フィルム
2009年
120分
 原題は「Becoming JANE」、作家になる以前のオースティンの恋の経験の物語。監督はジュリアン・ジャロルド。
 1795年、姉カッサンドラ(アンナ・マックスウェル・マーティン)の婚約者を迎えたパーティで、祝辞を朗読した20歳のジェイン(アン・ハサウェイ)は、来訪した判事の伯父の庇護下にある青年トム・ルフロイ(ジェイムズ・マカヴォイ)が田舎者の散文と侮辱し、居眠りしていたのに怒る。しかし、『自負と偏見』のあたかもダーシーとエリザベスのように、舞踏会やクリケット等を通じてお互いを理解し、親しくなっていく。一方、ジェインに求婚するウィスリー(ローレンス・フォックス)と彼の叔母グリシャム夫人(マギー・スミス)は返事をしぶるジェインの態度が納得できない。
 ジェインはトムと駆け落ちしようとするが、家族を養うトムの窮乏を知る手紙を盗み見てしまい、貧しさが二人を追い詰めると判断し、トムをあきらめて家に戻って来る。しかし、ジェインの「旅」は使用人たちにも知られてしまい、ウィスリーとの縁談は破談になる。経験を昇華したジェィンは小説家になるが、当時の女性小説家の地位は低かった。そのことはラングドック夫人と会うシーンでも明らかになる。
 晩年のジェインとトムが再会する場面のリサイタルで歌われているのは、モーツァルトの『フィガロの結婚』のスザンナの「薔薇のアリア」でした。トムは長女をジェインと命名していた。

      映画川柳「自作品 朗読するのが 慣習に」 飛蜘

 メイキングによると、アン・ハサウェイは大学でもオースティンの研究を論文にしたほど。オースティンの著作や手紙を徹底的に読み込んで役作りを行なったという。WOWOWにて2010年8月25日深夜放映。
2010年8月3日


DVD
アリス・イン・ワンダーランド



ディズニー・プロ
2010年
109分
 『不思議の国のアリス』の13年後、19歳のアリスが体験する冒険ファンタジー。ティム・バートンが特殊撮影を駆使して描くアリス・イン・アンダーグラウンド(地下世界)。本日からTSUTAYAでレンタル開始。
 アリスは小さい頃の経験を夢だと思っている。パーティの席上、貴族ではあるものの愚鈍な青年に求婚されるが、彼女は気がすすまない。白ウサギを見つけて追いかけると、穴に落ちてしまう。地下世界では、マッド・ハッター(ジョニー・デップ)や、ヤマネ、トウィードルディの双子、チェシャ猫、ドードーなど、奇妙なキャラクターが勢ぞろい。「ほんもののアリスか」「違うアリスだよ」と噂になる。預言書ではアリスが赤の女王の護身猛獣ジャバウォッキーを退治してくれるはず。密かにそのときを待っている者たちが多い。
 『不思議な国のアリス』は既にディズニーのアニメ作品として完成しているし、奇妙なキャラクターはおなじみなので、後日譚として構想した本作のアイデアは観客の期待を裏切らない展開でした。全体としてアリスが子供の頃の「強さ」を取り戻す自己回復の物語になっています。原作には全く無い観点の成長物語。
 「首をはねろ」と宣告する赤の女王(ヘレナ・ボナム・カーター)が健在。白の女王が、赤の女王の妹という設定はまるで『千と千尋の神隠し』の湯婆のようでした。白の女王の性格にはもうひとひねりあると思って見ていましたが、そのような「ひねり」はありませんでした。続いてみた『ジェイン・オースティン 秘められた恋』のジェイン役が白の女王のアン・ハサウェイだったので困惑しました。

      映画川柳「恐れられ 嫌われる者が 支配する」 飛蜘

【参考書】「ティム・バートンの不思議な世界」(2010、洋泉社)
2010年7月22日



DVD
スパイダー
コレクター2



パラマウント
2001年
103分
 原題は「Along came a spider」。この題名は、マザー・グースの「マフェット嬢ちゃん」の一節。原作ジェイムズ・パターソン、脚本マーク・モス、監督リー・タマホリ。
 囮捜査官トレイシー(ジル・ティード)は性犯罪者を罠にかけたところで事故に遇い、亡くなってしまった。同僚の犯罪捜査心理官アレックス・クロス(モーガン・フリーマン)はトレイシーの死に責任を感じ、自分を責め、その後ほとんど仕事をしていなかった。
 シークレット・サービス(SS)が学校を見張る中、上院議員の娘ミーガン(ミカ・ブレーム)が誘拐される。犯人ソンジ(マイケル・ウィンコット)はアレックスに連絡してきた。なぜアレックスを選んだのか、理由は分からない。アレックスは警護の失敗で気落ちするSSのジェジー・フラニガン課長(モニカ・ポッター)とともに捜査を開始する。犯人の本命はロシア大統領の子供ドミトリだった。ジェジーの勘で張り込んでいたお陰で誘拐は事前に防げた。主任捜査官マッカーサー(ディラン・ベイカ−)も協力的。
 犯人はダイヤで身代金要求に切り替えて来た。アレックスを走らせ電話で指示を出す。ジェジーが後を追う。列車から魔法瓶入りのダイヤを投げ渡す。ソンジはジェジーを襲いに来るが、居合わせたアレックスが撃つ。誘拐犯を殺してしまって、ミーガンの居場所は不明のままだ。しかし、真犯人は別にいた。ジェジーは操られた駒にすぎなかったのだ。

     映画川柳「仲間をまた 死なせるのかと 責められて」 飛蜘





2010年7月1日以降10月31日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想     (池田博明)
2010年10月31日


NHK総合TV
21:00
認知症を治せ


NHK
2010年
45分
 NHKスペシャルの一篇。ディレクターは青柳○・吉川美恵子。ナレーターは上田早苗アナウンサー。認知症は治せないと思われているが、次第に状況は変化してきた。認知症にも違った原因がある。例えば「正常圧水頭症」は余分な脳せき髄液を取ることで劇的に改善するし、「レビー小体型認知症」(幻視や運動障害が特徴)は薬の処方で改善する。認知症の56%を占める「アルツハイマー症」も症状を抑制する薬アリセプトだけでなく、有害物質タウを分解するレンバーが開発されつつある。さらにPET探査でアミロイドベータが蓄積しやすい場所は、脳内で休みなく働きつづけている部分であることや、生活習慣病(特に糖尿病や高血圧)が症状を進行させることが判明してきた。これらは予防対策にもつながるものだ。
 認知症を適切に診断し、改善するためには専門医に相談する必要がある。
2010年10月29日


WOWOW
ゼロの焦点


東宝
2009年
130分
 犬童一心脚本・監督。原作・松本清張の松竹作品のリメイク。夫・鵜原憲一(西島秀俊)の行方を探る新妻・禎子に広末涼子、暗い過去を持つ夫人・室田佐知子に中谷美紀(岸田今日子を思わせる役作りだった)、薄幸な女・田沼久子に木村多江。佐知子が金沢市長に立候補した女性の支援者という設定が新機軸。
 戦後の米兵相手の娼婦という最下層の女性が女権拡張を願って奮闘する姿を前面に出して描いている。真相に近づいた会社社員・本田の殺害が加えられ、佐知子の夫(鹿賀丈史)が妻の罪を着て自首・自白・自殺する点、久子が真相を看過し自分から身を投げる点、罪の重さに耐え切れなくなった佐知子が錯乱し、一時的な記憶喪失や失神してしまう点、気丈な姉に資金を出してもらって大学を卒業した佐知子の画家の弟を設定した点などに松竹作品との違いが見られた。謎解きと解決の部分の比率が非常に大きくなっている。ミステリーとしての展開よりも人間ドラマの比重が高くなっているのだった。日本海の荒海が戦後を象徴する。
2010年10月20日



DVD
(レンタル)
ギャラリー・フェイク


テレビ東京

各25分
 細野不二彦の劇画は「ビッグ・コミック」に連載された。単行本を全巻読了している。全24話の大人向けのアニメーションになっていることは知らなかった。スチル画も多く、あまり経費をかけない仕上がりになっているようだった。
 第1話「贋作画廊の男」、脚本は十川誠志、絵コンテ・監督は西森章、演出は三宅雄一郎。ナレーションを石坂浩二が担当。藤田玲司はギャラリー・フェイクを持っている。助手のサラを連れて、ニューヨークでのオークション、サザビーズに参加。今回の出物はモネの「積み藁」。メトロポリタン時代の知人オーブリーの代理人となり、一千万ドルまでの資金を準備して参加する。藤田に汚職の罪を着せてメトから追いだしたかつての仲間に「積み藁」をセリ落とすことで復讐する藤田。サラは画商との一騎打ちで突然三千万ドルを提示しセリ落とす。
 第2話「傷ついた「ひまわり」」。演出がんどうやちゆき。高田美術館長・三田村小夜子は就任挨拶でゴッホの幻の「ひまわり」を公開した。アラブの富豪の娘サラはその絵を欲しいと申し出る。三田村は発掘された破片から「柴の伊織」の復元を藤田に課す。その課題が解けたら「ひまわり」売買の話に乗ろうと賭けたのだ。藤田は「ひまわり」は贋作でサラの持ち物だったが、戦争と内乱で家族は虐殺、絵を持って逃げたサラが医師から盗まれたものだと説明する。贋作をサラに返した三田村はいつのまにか、「ひまわり」が本物に替えられているのに気付く。これも、藤田の仕業だった。
 第3話「13人目のクーリエ」。脚本は冨岡淳広、絵コンテ及び演出は菊池一仁。ニューヨークから帰国の航空機内。ウフィッツィ美術館からラファエロの『聖母子像』などを貸し出して運搬していたが、窃盗団が乗り込んでいた。銃撃で機内倉庫のサーモスタットが破壊され、温度が低下したために、裏板が反り、絵に亀裂が入った。藤田は絵の補修を申し出る。クーリエ(絵の守り人)たちは藤田の腕を信じる。修復後に藤田は窃盗団の団長と商談、ウフッツィから身代金を支払わせることで日本での展覧会を開催させる。
 主題歌は「ラグタイム」。歌うのは「勝手にしやがれ」。エンディング・テーマはサンタラの「思い過ごしの効能」(作詞は田村キョウコ・砂田和俊、作曲は田村キョウコ)。
2010年10月18日


DVD

(レンタル)
ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜



東宝
2008年
114分

 原作は太宰治、脚本は田中陽造、監督は根岸吉太郎。ヴィヨンは泥棒詩人である。
 走って帰宅した夫(浅野忠信)を追って小料理屋・椿屋の中年夫婦(伊武雅刀、室生滋)は金を盗まれたと訴える。夫が逃げ出した後、妻サチ(松たか子)は夫が三年前に最初に百円払った後は一銭も払わずに飲み食いし続けていたことを聞く。今日盗んだという五千円は大金である。返却のあてもないまま、サチは椿屋で自分を人質にしてくれと働き始める。作家・大谷譲治は雑誌に「フランソワ・ヴィヨン論」を寄稿していた。サチは客に受けて店の人気ものとなるが、夫は夜になじみのバーのマダムと一緒に来て五千円を返した。大谷に貢いだ女給アキ(広末涼子)も店に来る。
 夫の言う言葉は魔物のようである。例えば「女には幸福も不幸もないものです」「生まれたときから死ぬことばかりを考えていた」「恐ろしいのはこの世のどこかに神がいるということなんです」など、気取っているようでもあり、率直でもある。
 編集者・矢島(鈴木卓爾)は店のサチに気づいた。大谷の愛読者だという工員・岡田(妻夫木聡)は大谷の「タンポポの花一輪の誠実」という言葉を誉める。サチは岡田に今は弁護士となった辻(堤真一)が貧しかったとき、デパートでマフラーを彼のために万引きしたことを話す。そのとき交番で窮状を訴えるサチを救ったのが大谷だったというのだ。
 汽車で偶然会った辻は最近、銀行の令嬢と見合いしたと言う。サチが武蔵小金井駅で降りた後、岡田は国分寺駅で下り、三鷹の工員寮まで歩いて帰っていた。後をつけていた大谷は下駄の鼻緒が切れ、岡田に気づかれて一緒に飲むことにする。「酔わないと話ができない」大谷はタンポポ云々の言葉を「苦し紛れの戯言」と評し、妻サチを「ダルくなるような素直さ」と評する。無理やり家に岡田を連れ帰った大谷だった。早朝、岡田はサチに求愛するが、大谷に目撃されたことを知ったサチの嘆きを見て、岡田は自分は間違っていたと去る。
 一方、家を出た大谷は谷川温泉でアキと心中を図った。未遂に終わったが拘留された水上警察署に面会に行ったサチは「あなたに愛されていると自惚れていました。心中されて嘘つかれて、どこに愛があるの、そんなとき妻はどうすればいいの」と非難する。廊下ですれ違ったアキはサチを鼻で笑っていた。辻が夫の弁護を引きうけてくれていた。
 進駐軍からもらったという口紅をパンパンから買って口紅を付けたサチは、辻に弁護料のお金がないと訴える。万引きのとき関わり合いになるのを恐れて逃げた辻は自分をサチが許してくれたのかと気にしていた。アメリカ兵士と遊んだ令嬢を押しつけられただけという辻はサチの美しさに気付いたというのだった。
 サチが椿屋に帰ると夫がいた。朝に釈放されたのだという。「人に言えないことをしてきた」というサチ。「人非人だって傷つくことはあるんです」と夫。店を出た夫の後を追って出たサチは夫が椿屋のおかみからもらったという桜桃を食べ、「人非人だっていいじゃない。生きているんだから」と話す。

         映画川柳「駐在に こんなにも私は けなげだと」 飛蜘 
2010年10月16日


DVD

(レンタル)
ディア・ドクター


アスミック・エース
2008年
127分
 原作・脚本・監督は西川美和。村の診療所の医師・伊野治(笑福亭鶴瓶)が白衣を脱ぎ棄ててバイクで村を出て行った。特に熱心に白衣の棄て場で地面を捜す若者がいた。相馬啓介(瑛太)である。彼はこの村へ来たときのことを思い出していた。赤い車で走っていた彼は田舎道で伊野のバイクを避け道を外れ事故。気がつくと診療所にいた。じゃんけんで負けて田舎へ研修に来たのだった。伊野の傍には離婚した夫が医師だったという、しっかりものの看護士・大竹(余貴美子)が常に付いている。
 映画の最初から警察(松重豊・岩松了)の捜査も介入して、伊野がニセ医者であることが観客に分かった状態なので、ニセ医者の伊野に対する人々の反応がドラマを生む。ほんものの医師と患者だったならなんでもない描写が、ドラマとしての緊張感にあふれてくる。まったく見事な作劇法である。ただそのためちょっとわざとらしいところも出てしまう。伊野が「わいはニセモノなんや。資格がないねん」と告白する場面で、啓介はその言葉を喩えと思ってしまい、ニセモノでないホンモノの医師がいるのだろうか、医師の資格があると自信を持って言えるものがどれだけいるだろうかと答えるところ、この主張は作品の核であるだけに、「作り過ぎた」感じがある。そう言っては身も蓋もないのですが。
 胃におそらくガン性の腫瘍ができた鳥飼かづ子(八千草薫)の診断に伊野は苦慮する。胃カメラの写真を見ても分からないからだ。必死に専門書を読むが確定的な診断が下せない。ただ生検の結果はガンであることを記していたが、伊野は誰にもその結果を知らせていなかった。かづ子は「娘に病状を知らせて欲しくない」と希望する。夫の闘病時の苦労を娘に背負わせたくないからだ。娘りつ子(井川遥)は医師である。母親の態度に不信感を抱いた娘は診療所へ来て伊野の診断を聞き、胃の内診写真を見る。そして自分で診断を下すものの、伊野も同じ診断を下したものと思い、病状を恥ずかしさから告げたくない患者の想いに配慮したと思い、伊野に礼を言って今後も一任する。伊野は突然ちょっと待っていてくれと言って立ちあがり、バイクに乗って去って行く。途中、畑仕事中のかづ子に挨拶して・・・・。
 おそらく伊野はかづ子に対してウソを続けることに耐えられなかったのである。彼は医師であった父親の医科大学卒業銘入りのペンを盗んだことを父親に電話でわびるが、認知症の父親は「そうですかぁ」と返事するばかり。もう伊野が別の場所でもニセ医者をすることはないだろう。
 Movie Walkerのレビューに「伊野先生」=「イノセンス」ではないかという卓抜な指摘があった。
 
         映画川柳「胸に刺す 気胸の針の 鋭さよ」 飛蜘

 同じホームに刑事と伊野が隣り合わせしている場面やラスト・シーンについて、観客の解釈がいろいろあるということですが、私は刑事は気付かなかったんだと思います。なぜなら、刑事はほんものの伊野を見たことがないし、人々からの聞きこみによってもその人物像を明確に描けていないからです。一方、伊野も刑事たちを知らない。したがって、お互いに無関心な者同士がたまたまホームに居たというだけのことになります。そんな場合にはお互いに気づかないものです。
 ラスト・シーンは食事の配膳者が実際に伊野だったというよりも、配膳者に伊野の影を見たかづ子が微笑んだと解釈しました。実際にかづ子の入院先を逃亡中の伊野が突きとめられるはずはないし、彼はかづ子と村の田んぼで別れの挨拶をした手前、それ以上、会う動機がないからです。本当の伊野が再会しに来たと思ってしまうのは観客の期待からですね。一方、かづ子は約束を守ってくれた伊野に対しては、たとえ彼が本物の医師でなかったとしても感謝の念しか持っていないはずです。西川監督は「ファンタジックな終わり方にしたい」と思ったそうです。
2010年10月14日


DVD
大殺陣


東映
1964年
118分
 東映時代劇DVDコレクション47に収録。神保平四郎(里見浩太郎)は駆けこんで来た友人の中島を匿って、幕府への反逆勢力に巻き込まれ、捕縛される。幕府の侍により新妻・加代(三島ゆり子)が斬られる。彼を救出した山鹿みや(宗方奈美)らは山鹿素行(安部徹)を師と仰ぐ暗殺集団だった。大老の酒井忠清(大友柳太朗)は将軍に世継がないのをよいことに甲府宰相・綱重(可知靖之)を立てて政治を私物化しようと企んでいる。大目付・北条氏長(大木実)は不穏分子を洗い出し始末していた。素行は酒井を直接討たず、新吉原で綱重を暗殺する計画を立てる。しかし、暗殺者はたった六人(稲葉義男、大坂志郎、河原崎長一郎、山本麟一、砂塚秀夫、里見浩太郎)。当日、星野(大坂)は家族を手にかけた後で参加、日下(山本)はみやを再び強姦しようとして抵抗され、怒りにまかせて絞め殺してしまう。
 行列に裸馬を仕掛け、混乱のさなかに斬り込む。水田に足をとられ、川にはまりながら斬り合い、次々に倒れて行く暗殺者たち。やっとのことで逃げた綱重のもとへ酒井らが馬で駆け付ける。不浄の地なればすぐに起てとの忠告を容れて、綱重たちは出発しようとする。暗殺者の死体を笑うその声に神保を知る浪人・浅利(平幹二郎)の怒りが爆発、油断している侍たちの間に神保の折れた刀で斬り込み、綱重を斬ったが、自らも果てる。酒井は「俺の世界が終わった」と愕然とし、綱重公の死体を篭に乗せ、「甲府宰相は御無事じゃ」と言い続けるのだった。遠くから素行がそれを見ていた。脚本・池上金男、撮影・古谷伸(ところどころ手持ち撮影)、監督・工藤栄一。

        映画川柳「義も無く 明日も無いまま 暗殺に」 飛蜘
2010年9月13日

NHK総合TV
0:10
恋して!漢字


NHK
2010年
20分
 “ドキュメント20min”の一篇。早稲田大学教授の笹原啓之教授は日本語の当て字辞典を作った。例えば「五月蠅い」と書いて、「うるさい」と読ませるような当て字。歌謡曲にはたくさんの当て字が使われている。「秋桜(コスモス)」や「炎(ジェラシー)」や「真紅(まっか)」など。笹原少年が漢字に興味を持ったのは小学生の頃。ちょうどマンガで「蛸の八ちゃん」を見て、タコが虫篇であることに興味を持ったのだが、教室で別の少年がタコは魚篇だと主張、あれ?虫篇なはずと思って漢和辞典で調べてみると、タコには虫篇の漢字と魚篇の漢字の二つがあるのだった。漢字の不思議さに目覚めたエピソードである。現代の若者も漢字に自由に当て字をして遊ぶ。こんな融通無碍な文字を駆使する民族は日本人だけだ。
 実はこの番組を編集しているときに日本蜘蛛学会の池田と加村隆英氏にスタッフから質問があった。実は笹原少年が辞典を調べたところ、蛸には中国では元来アシタカグモという意味があって、それで虫篇なのかと納得がいったものの、なぜタコとクモが同じ漢字で表されるのかに興味が持てたという。アシダカクモだったり、アシダカグモだったりする、このクモの正しい名前は何か、また写真など映像資料はないかという問い合わせだった。池田は蛸がクモだったというのは初耳だったので、萱嶋泉氏の著書『アシダカグモ』画像を紹介したのだが、加村氏の意見は現在の中国語では肖蛸科はアシナガグモ科だから蛸がアシダカグモというのは誤伝で実はアシナガグモのことではないかというものだった。なるほどアシタカグモが必ずしも現在のアシダカグモではないかもしれない。スタッフが早速、笹原教授に確認すると、蛸は中国では足の長いクモにむしろ当てたものであって、昔の意味はアシタカグモに違いないとのお答えだった。しかし、スタッフは解釈が二通り可能であるとするならば、これをどちらかひとつに決めつけて放送することはできないと判断した。完成作品にはクモは登場しない。
2010年9月11日、谷啓さん、脳挫傷で逝去。享年78歳。傑作『喜劇 一発大必勝』が見直されんことを。
2010年9月6日



NHK総合TV
19:30

日本の森林が買われていく



NHK総合
2010年
28分
 クローズアップ現代の一篇。外国資本が日本の森林を投資対象として購入し始めた。公共性の高い森林を伐採や開発から守るために規制が考慮されているという内容だった。
 「農地」売買では購入に当たって農業委員会の事前審査を必要とするが、「山林」は売買契約成立後に報告するだけでよい。1997年に土地利用法が規制緩和され、事後報告でよくなったのである。番組では購入者の無制限な開発を恐れるような論調だったが、土地利用規制に詳しい私の父(産業資源調査研究所)によると、これは間違っているという。山林の木材を伐採することは買主が出来るが、伐採した後にその土地の利用目的を変更することは勝手にはできない。山林を宅地に変更することは行政の許可が必要なため、そう簡単ではないというのだ。それに山林を宅地に変えてしまうと固定資産税が途方もなく高価になる。買主が保有し続けるメリットがなくなるのだ。昔から自然保護の観点では公共地よりも私有地のほうが開発されずに自然が保たれる例が多いのも、固定資産税に原因があるという。それほど山林の固定資産税は安いのである。父は、行政の土地利用規制は無定見で理不尽な例が多く、山形県では農業振興地域の指定が県土を疲弊させているとの主張をしている。農業振興地域指定の解除は首長の一存で可能なのだが。
 森林には木材という資源があるだけではない。投資の対象として森林購入が目立ってきたのは2002年ごろからだそうである。なぜだろうか。私はそのころからグローバルな水資源の枯渇の問題が出てきたことにあると思う。水源涵養というのは森林のもっとも大切な機能のひとつである。
 番組でも、森林の価値として、(1)材木、(2)水、(3)二酸化炭素(排出権取引)の三つを取り上げていた。今回は(1)が中心の番組だったが、(2)と(3)の投資価値も大きいと予想される。

       映画川柳「いまだから 安価な森林 買占めに」 飛蜘
2010年9月26日


CS
NECOで録画
(2010年9月26日放映)
女子学園・おとなの遊び



日活
1970年
 第三作はこれが初監督作の加藤彰監督。助監督に田中登。脚本は第一作の山崎巌、音楽は玉木宏樹。夏純子の今度の役名は正子。山崎巌の脚本は陳腐で、加藤彰監督はアクション演出が不得意らしく凡庸な画面になっている。脚本もタイマン勝負がバレーボールの試合になるなど、あり得ない安直さ、正子の孤独感が展開にからまない付けたり感、男子生徒の行動が不自然など、安直な展開で、突き抜けたところもない。なお、この項目の画像は右の写真以外はすべて傑作『ヤバい卒業』のもの。
 自転車で颯爽と走る白バラ学園の生徒たち。ひときわ目立つ赤いシャツは結城正子(夏純子)である。神社のお賽銭箱から早速お賽銭を盗む正子たち(池戸良子、衣あけみ、大橋由香、新井麗子、金井千恵=しまさより、佐藤八千代、五月由美=片桐夕子、橋本純子)。体育の大庭先生(山東昭子)に疑われるが、清子(市川美紀)が口の中に隠した一万円札をガムだと偽る。対立する公立河北中学のグループが子供のパンツをぬがして白バラの生徒のせいにするが、信太郎(岡崎二朗)が現れて目撃情報を明かす。逃げる河北中学の美枝(後藤ルミ)たちは正子たちに決闘を申し込む。しかし、またもや信太郎が登場、仁義のきりかたから教えるため一同シラケる。正子が蛇の目一家の跡取り娘と聞いて、ひれ伏す信太郎だった。実際のところ、蛇の目一家の娘は清子である。信太郎の妻はバキューム・カーに轢かれて亡くなっているらしく、小学生の男の子(渡辺史郎)を連れている。
 その夜、寮の一室に集まる白バラの不良グループ。雑誌の裸写真や双眼鏡で向いの家のセックスを覗き。大庭先生の注意に会う。
 黒い地に白い縁取りのセーラー服、赤いスカーフの白バラ学園中等部。ある日、白バラ学園に高井(古今亭志ん朝)が着任。社会科の授業のスライド映写で道鏡の人となりを教えたものの、かえって生徒たちに翻弄される。正子たちは、大庭先生と高井を偽手紙で夜6時に運動器具庫におびき出し、正子が大庭先生の身代わりになって誘惑、二人が抱き合ったところで、大庭先生と噂のあった佐山教頭(太宰久雄)を呼び出した。器具庫は大混乱。
 PTA見学の日、信太郎たちチンピラ(北上忠行、庄司三郎ら)は正子の応援に来る。
 ところで、正子は小学生に算盤を教えるアルバイトをしている。小学生の家の居候の若者が中尾彬。一方、身分を隠してキャバクラでアルバイトの河北中のグループ。美枝は直次(菅野直行)・武(笠原優悦)・洋一(高橋芳夫)の三人を白バラ寮に潜入させ、正子を襲わせる計画を立てる。
 正子たちは舎監の大庭先生に睡眠薬入りのドラ焼きを贈り、自分たちは焼肉パーティ。大庭先生は先日のおわびに来た高井先生と抱き合ううちに睡眠。侵入した直治たちは正子たちの入浴光景にでくわして、カメラで盗み撮りをしているうちにみつかり、とらわれの身となった。
 朝食時に机の下で女生徒たちから食べ物をもらう三人。
 アメリカから帰国する父親のため、外出許可をもらった正子。父親(仲谷昇)はビジネスマンで正子に金を渡すだけ、その寂しさを理解しようとはしない。美枝は正子を誘拐してリンチを加えようとする。舎監に見つかり寮からパンツ一丁で逃げ出した直治たちが戻って来て、美枝は蛇の目親分(榎木兵衛)に果たし状を届ける。美枝の働くキャバレー「クレージー・ホース」をつきとめた信太郎たちが助けに来る。出入りはプロに任せて、中学生は中学生らしく、スポーツで落とし前をつけることを提案。バレー・ボールで河北中学と白バラ学園の試合が行われることとなった。
 試合当日、河北中学はプロの選手をやとい、優勢に試合を進める。途中で混乱に乗じ、プロに薬を飲ませ、注射をしてフラフラにし、白バラ学園チームには女に扮した直次たちをメンバーに加えプレーが開始され、挽回。長沼校長(小松方正)らが駆けつけ、正子を退学処分にする。
 河北中学の美枝はおとなと戦うのだと、正子と手を結ぶ。退学処分反対運動が盛り上がり、みんなが「ゲバってる」。《女は女よ、男じゃないよ、命を張ることもたまにはあるさ》と大合唱。吉田拓郎の「今日までそして明日から」も正子ひとりの場面にかぶさる。学校が企画したバス旅行会のバス(運転手は宮尾すすむ)を自分たちのほうへ誘導し、全員で旅行に出かける中学生たちだった。
 他のキャストは「夜の蝶」を歌う歌手・大島ひろみ、松前親分(衣笠真寿男)、学校の小使いさん(桂小かん)、スナックのママで直治の母親(新井麗子)、バーのママ(渋沢詩子)、健の恋人(高樹蓉子)、老婆(浦辺粂子)、公園でマンガを読む青年(杉山元)、河北中学生(大橋ユカ、重盛輝江=重盛てる江、飯田恵美子、深沢真利子、小清水映子、戸川恵子、上手由美)、ホットドッグ屋の娘(秋とも子) 。
2010年8月25日



CS
NECOで録画
(2010年8月22日放映)
女子学園・ヤバい卒業



日活
1970年
84分
 第ニ作は、澤田幸弘監督でシリーズ中の傑作。画面がイキイキしているし、中学生を演ずる夏純子たちも第一作のいかにも不良というズベ公グループと違い、ハツラツとしている。彼女等の合言葉は「オリャーッ!」。四方田犬彦が“呪われた映画”と呼ぶ、『戦争を知らない子供たち』『高校さすらい派』『69』など高校叛乱映画の系譜につながる中学生の叛乱映画だが、DVDは出ていない。レンタルビデオはあったが入手困難。その後、、入手でき、ポスターも傑作だったことが分かった。第一作よりずっと女子生徒がイキイキとしているが、他のホームページの感想を見ると、ズベ公番長ものとしてみると第一作より物足りないとか、不良感度が軽いといった評価があるので驚いた。第ニ作の一見軽さとみえる性意識のほうがずっとアクチュアルで、かつラジカルだったはずなのに・・・・。それに無期停学中の私服で遊んでいる彼女たちのハツラツとした表情が良かったはずなのに・・・・。どうも何に感動するかは、千差万別のようだ。棚田吾郎の脚本、安藤庄平が撮影。
 吉田拓郎の「青春の詩(うた)」がラジオから流れている一室。急に警察の手入れが入る。あわてて逃げ出すチンピラの雲児(岡崎二朗)や女たち。工事中のビルの一室だった。
 白バラ学園では矢代園長(菅井一郎)が“高校生も混った乱行パーティー"の記事に怒っていた。生徒の庄司美香(牧まさみ)の写真が載っていたからだ。生徒の風紀粛正に乗り出そうとする教師たち。しかし、教師たち(玉川伊佐男ら)には昨今の少女たちの性意識の進み具合への戸惑いもあった。
 中学三年の久保忠江(夏)を中心とするグループ:写真の左から曽根貞代(衣あけみ)、内海節子(有崎由見子)、忠江(夏純子)、大沢清美(池戸良子)、島崎淳子(小野恵子)は、野球部のエース・寺本の追っかけで、高等部のグループ博子(後藤ルミ)たち(青木伸子、河原優美子ら)と対立していた。中等部は白い胸リボン、高等部は赤い胸リボンで区別される。
 保健体育の授業の性意識アンケートの幼稚さに忠江らは独自の調査に乗り出す。野球部の寺本、古川(森元勝)らを実験台に忠江の下着姿を見せて勃起状態を調査。その際中に後をつけてきた教師たちに止められた。忠江らの《棒立て遊び》の件は高等部に知られるところとなり、《桃色遊戯》の中学生として白い目で見られる。仲間のひとり、清美(池戸良子)が勉強を見てもらっていた寺本にバージンを捧げ、アンネが二ヶ月止まっていると告白。忠江は清美の家から離れた医者(谷村昌彦)に連れて行った。診断の結果は想像妊娠。悲喜こもごもの仲間は流産したという美香と出会い、亭主を紹介される。なんと亭主は河本組親分を自称する小石雲児(うんじ。忠江はウンコと呼ぶ)だった。雲児はみんなをホットドッグのキャンピングカーに乗せて、夜の駐車場を社会見学。カーセックスにいそしむ恋人たちを見せる。そんな中に保健の教師、≪須藤のばあちゃん≫(田中三津子)の姿もあった。
 高等部の博子たちとの対立が深まり、忠江たちは陸上競技場で再び古川を立ち合わせて、裸で勝負を決しようということになった。下着姿になったところで、婦人警官の先輩・杉原(城野ゆき)らが駆けつけて来て、高等部の連中は逃げる。補導された中等部の生徒たちは無期停学となる。
 忠江は市会議員の父(雨森雅司)、母(小倉康子)、姉の孝子(西原泰江)、《おばけ》という仇名の教員・田山(太刀川寛)から説教される。
 しかし、停学組は私服で大人の性行動を盗み撮りしていた。田山と団地に住むサウナ風呂のマダムの千賀(応蘭芳)との情事を目撃。その千賀のもとへ園長も通っていたのを知った。吉田拓郎の「青春の詩」が披露される。忠江たちは雲児の紹介で雲児の幼馴染だという藤圭子のショーを見に行ったり、美香の紹介でサウナ・アマゾンへ研修に行く。藤圭子の歌「演歌の星」の歌詞は弱い女の怨み節といったものなので、忠江たちの意識からすると感動するような代物ではないはずなのだが、どういうわけか大喝采している。
 一方、サウナには偶然にも忠江の父が、教育委員の土屋(弘松三郎)とやってきていた。忠江は二人の会話から千賀が矢代園長の二号で、新校舎建設資金までつぎこまれている事実を知った。「ヒットラーの娘のごとく振舞え」というセリフは有崎由見子の口から語られる。
 停学処分も解けた。選挙のためにきびしい処置を取らないように署長(河津清三郎)に依頼した園長は、恩着せがましく忠江たちに訓示する。忠江たちは、彼女たちに厳罰を提案していた婦警・杉原が左遷されたことを知った。婦警の言い分が通っている、カッコいいと感動した彼女達は園長らに「ひとゲバ」お見舞いする計画を練る。
 波乱を含んだ白バラ学園の卒業式当日がやってきた。席上、忠江は全生徒に向って二号を囲ってサウナ風呂を経営する園長の全貌を暴露した。講堂は騒然となり、逃げまどう教師めがけて次々にケーキが投げつけられた。講堂を走り出す生徒らが道路に出て「オリャーッ!」。

        映画川柳「拓郎の 青春の詩(うた) そのままに」 飛蜘
2010年8月24日


CS
NECOで録画
(2010年7月放映)
女子学園・悪い遊び



日活
1970年
 日活ニュー・アクション時代の不良女子中学生の反抗を描く女子学園シリーズ第一作。主演は夏純子。セル・ビデオもDVDも出ていない貴重な作品。第一作は山崎巌の脚本を江崎実生が監督。撮影は姫田真佐久。東京12チャンネルで1981年2月14日、22時から放映されたことがある。
 チャンネルNECOで2010年8月〜9月にシリーズを放映(宣材のスチール写真のような場面はありません)。
 文化祭費を自分たちのアルバイトで稼いだものの、田村先生に持ち逃げされてしまった白バラ学園中等部の番長・花子(後藤ルミ)。転校生の涼子(夏純子)とのつかみ合いの喧嘩や、教師・塚田(江守徹)の誘惑合戦のほか、ズベ公仲間の利江の妊娠騒動がからむ。涼子の友人が弟分だという新太郎(岡崎二朗)の仲裁で、サイコロによる丁半博打で勝負をつける花子と涼子。一枚ずつ脱いでいって先にハダカになった方が負け。負けた方は下の毛を剃るという勝負。涼子が勝って、新番長になる。涼子はキャバレーのママ(宮城千賀子)の一人娘だが、離婚した父親は米国へ単身赴任。孤独でさびしい日々を不良行為でまぎらわしていた。
 利枝は恋愛相手を塚田と言うが、本当はラーメン屋の店員。涼子は利枝に相手を確認するが、利枝はウソをつき通す。教員なんかみんな敵だと手始めに夏川先生(松原智恵子)をやくざ仲間に襲わせるが、利枝から本当のことを聞いて止めに入る涼子。利枝の中絶費用を捻出しようとカツアゲ、万引き、ウソの募金などに励む。見かねた塚田が二万円をカンパしようとするが、涼子は断る。塚田はやくざの新太郎が涼子の背後で操っていると誤解して呼び出し、喧嘩する。新太郎は「あいつらは好きだから反抗するんだ。第2期の反抗期ってやつだ」と説明。涼子は母親から不足分を借り、利枝の子供を堕ろす。
 校長(小松方正)は塚田の不在の職員会議で、ずべ公グループの退学処分を決定する。退学処分に反対して、生徒は全校ストライキに入り、学校経営の不正を追求。「全スト」を「全裸ストリップ」と勘違いした新ちゃんたちが応援に馳せ参じる。塚田は自分の辞職と交換に持ち逃げされた金の補填と生徒の退学取り消しを申し出る。
 バリケードストライキの最中の体育館で生徒達が「この広い野原いっぱい」を歌うなか、涼子は塚田の辞職を知り、ひとりにしないでと訴えるのだった。翌日、塚田は赤羽から東北行きのバスに乗り込もうとしていた。誰かを待っているようでもある。学校で早退しようとした涼子は、新任の教師(藤竜也)とすれ違う。花子が新任教師の誘惑合戦を持ちかけたとき、涼子の反骨心に火が点いた。
 
      映画川柳「傍に立ち じっと見つめて 何思う」 飛蜘

 いまの目から見ると、不良女子高生たち(とても中学生には見えない。夏純子も21歳だった)の不良ぶりが、かえって健全に見える不思議な映画。夏純子はこのままの個性で、森崎東監督の傑作『喜劇・女売り出します』に進んだことがよく分かる。
2010年8月11日



NHK総合TV
22:00
戦場の漫才師たち
わらわし隊の戦争



NHK
2010年
55分
 日中戦争中、昭和13年から演芸慰問団「わらわし隊」(日本軍の航空隊「荒鷲隊」をもじったもの)が戦場へ派遣された。朝日新聞社が組織した慰問団に吉本興業が協力したものだ。メンバーは金語楼、アチャコ・今男、エンタツなどのほか、女性漫才師ミスワカナがいた。ワカナは夫の玉松一郎をこきおろす漫才で人気だったが、吉本興業員・保田透(92歳)によると、戦時慰問団でスターになったと言ってもよい程の貢献で、かわいかったという。漫才にお国言葉をすぐに取り入れる能力があり、京都弁、広島弁、名古屋弁、北海道弁、博多弁、朝鮮語を操ったという。
 芸人たちが目撃した戦場は悲惨なものだった。三味線漫談家・玉川スミ(90歳)は中国戦線で斬首を目撃したと云う。彼女は今でも現役。戦線から帰還した兵士たち(88歳〜90歳)はわらわし隊の慰問で笑った後に、闘いでほぼ全滅していた。当時の漫才をますだおかだや、ワカナに扮する馬渕英俚可が演ずる。
 昭和16年7月には慰問団の漫才師・花園愛子こと稲田ミサ子が大腿部を撃たれ出血多量で即死。同年10月には芸人の乗った船が台湾沖で魚雷により撃沈された。小規模の芸人派遣はその後もあった。
 ミスワカナは国内で国策に沿った漫才を演じるよう指導された。玉松一郎の弟子・松森一郎(75歳)はワカナが戦時中にヒロポン中毒となった記録(玉松の日記)を持っていた。ワカナが終戦後、西宮駅で心臓発作で倒れて亡くなった当日、妹分だった森光子(90歳)は一緒に舞台に立っていたという。戦場カメラマンだった夫をアルコール依存症と癌でなくした西原理恵子はミスワカナの一生を夫のそれと比べて同じだと話す。ディレクターは小口拓則。
      映画川柳「大笑い 死に直面の ときにこそ」 飛蜘

【参考書】早坂隆『戦時演芸慰問団「わらわし隊」の記録』(2010年、中公文庫)。漫才の記録は少ないものの、井上ひさしが生きていれば必ず劇にワカナを取り上げたと思われた。
2010年8月10日



NHK総合TV
22:00
ホロコーストを生きのびて



NHK
2010年
50分
 映画『シンドラーのリスト』に描かれた人々のいまを取材する。金本麻里子監督。
 収容所所長アーモン・ゲートと情婦イサベラ(英国のインタビューで「アウシュビッツのような事はなかった」と証言した直後に自殺)の間に生まれた女児モニカがゲートの真の姿を聞くために生き残りの人を尋ねた。問われた人は最初は拒絶、しかしモニカの真剣な姿に打たれて次第に話をするようになる。しかし、その話は残虐なものだった。ロシアの歌を歌ったという罪で子供を絞首刑にした話(三度ヒモが切れて、その度に子供は命乞いをしたが、刑を執行。今度ヒモが切れたら係も縛り首だと恐喝し、死んだ男児の顔に銃弾を撃ち込んだ)や、ユダヤ人を立たせたまま犬に食い食いちぎらせた話とか。
 戦争が終わってポーランドに入ったユダヤ人は、一部はそこで人々の憎しみを買い惨殺された。なぜ力を合わせてナチと戦わなかったのかと非難されたこともあった。また、シンドラー自身もドイツ人からは裏切り者と非難され、事業に失敗した。シンドラーを聖人にすべく努力したのは米国に渡った生き延びたユダヤ人たちだった。
 前立腺ガンで治療を始めたユダヤ人が遺言のように告白する。戦争中にユダヤ人を売ったユダヤ人はカポと呼ばれたが、ソ連軍が侵攻、解放された収容所の人びとはカポをどうする?とソ連軍に聞いた。ソ連軍は「自分たちがされたようにしたら」と答え、人々はそうしたという。つまり殺したのだ、と。

      映画川柳「生き延びて さらに地獄を かいま見る」 飛蜘
2010年8月4日


アスミック・エース試写室
ゲゲゲの女房


ファントム・フィルム
2010年
119分
 鈴木卓爾監督からマスコミ用試写の案内を頂き、11月公開の映画を見ました。原作の出版直後に映画化権を取得、NHKの企画はこの映画の後だったとか。
 不安な状況を生き抜く希望を描いた好篇だが、テンポが遅い。結婚直後から貧乏時代だけが描かれている。布枝役は吹石一恵、水木しげる役は宮藤官九郎。吹石はNHKの朝ドラマの松下奈緒とは全く異なり、終始「戸惑い」を隠さない。違いがきわだつのは自転車の場面である。松下は自転車にさっそうと乗っているが、吹石は自転車を押して歩いている場面が多い。躊躇し、考えながら、行動しているのである。しげるの母役は南果歩、割烹着のまま布枝の傍に出現し(実像ではないという設定で)、異見を述べるのが唐突でした。
      映画川柳「気が付けば 墓場に来ている 自転車で」 飛蜘

 キネマ旬報2011年1月上旬号の読者の映画評に原田隆司氏の『ゲゲゲの女房』評が掲載されています。作品に真摯に向き合った素晴らしい批評です。こんなふうに論じてもらえれば作品も幸福。
2010年7月31日


VHS
夏の思い出



ツインズ
1995年
74分
 斎藤久志監督作品Vシネマ、原作は山本直樹、脚本は斎藤監督及び宇野イサム。
 逮捕された川中(鈴木卓爾)は自分が強姦し扼殺した少女の名前を淡々と挙げていた。既に十五人もの少女が彼の犠牲となっていた。電車で痴漢被害に遭った女子高校生をターゲットに狙うなど犯行の詳細を饒舌に話す犯人の気持を、刑事たちは推量りかねていた。カッとしやすい若い山本刑事に比べて、中年で娘を持つ黒田刑事(諏訪太郎)は次第に犯人の心理に同化していく自分を感じていた。川中の自供では、強姦したものの逃亡されてしまった女子もいたという。刑事たちがその女子に話を聞くと、まったく何事もなかったように女子は否定する。黒田刑事は女子高生に激しく告白を迫ったが、その行為は彼の妄想だった。

      映画川柳「隣りに住む ふつうの人が 殺人者」 飛蜘

 この作品を観た市川準監督が鈴木卓爾を『トキワ荘の青春』の藤子不二雄にキャスティングしたという。
2010年7月31日


DVD
サンクチュアリ



レジェンド・ピクチャーズ
2006年
95分
 瀬々敬久脚本・監督作品。湖畔でカワセミを撮影する女・裕子(山下葉子)がいる。夜、車を拾う女・アキ(黒沢あすか)がいる。なぜかアキは鎖につながれる。タイトル。
 一年前の冬。「疑惑の主婦に無罪判決」の報道、保険金目当てに夫(光石研)を殺したという容疑がアキにかかっていた。時系列が断片的に描かれるため、表現が前面に出てくるものの、重要な要素である物語の構造が理解できないままに映画が進んでいく。
 突然失そうしたミノルの行方を捜す裕子。裕子は雨の中、泣き濡れていたキリコ(未向)を拾い、 介抱した。キリコは子供を虐待して殺した夫を殺したと告白、裕子に抱かれるものの、「あたしは誰かの代わりでしょ」と叱責する。
 やがて、ミノルが殺された真相が明らかになる。
      映画川柳「激情の 源流に届く 絵が見えず」 飛蜘

 故意に断片化して理解困難にせずに、もっと脚本を単線にした方が力強い映画になったのでは。
2010年7月20日


VHS
ブリード
血を吸う子供



レジェンド・ピクチャーズ
2000年
85分
 瀬々敬久脚本・監督のホラー。主役を張る川上麻衣子のお蔭で成功していた。
 岩橋未知子(川上麻衣子)はカウンセラーだが、自分の子供・実(みのる)もゲームに夢中の引きこもり。しかし、この子供は念動力(サイキック・パワー)を持つ。未知子の許に心療相談に来ていた町口(速水典子)は娘・エリ(嘉門洋子)の様子がおかしいと伝えて来た。未知子は町口の家を訪れたものの、原因が分からない。しかし、エリの部屋を見た未知子は実と同じ闘争ゲームをしていることに気づく。ふと誰かの影が動く。さらに、未知子は実と同じときに同じ病院で生まれた由美を見舞うが、由美の母親は、由美が急性骨髄白血病であること、同じ病院で生まれた子供が次つぎと死んでいることを話す。
 一方、エリが連れて来る男は、エリの部屋に潜むポンチョを着、顔を隠した少年に襲われ、血を吸いとられる。深夜、バーのママ・町口は男客・飯岡と自室の部屋に来るが、二人とも少年に襲われる。エリはコンビニで男(川瀬陽太)をナンパして来るが、帰宅して少年を「なんでガマンできなかったの、バカ!」と叱る。男は次の犠牲者だ。
 未知子の夫(遠藤憲一)は刑事だが、子供の念力を気味悪がり虐待した。それがきっかけで二人は別れたことが分かる。そんなとき、実が倒れて入院する。
 未知子は謎の答えを求めて出産した病院を訪れる。院長の医師が子供たちになにかを施したらしい。子供の共通点は紫外線アレルギーで日光を嫌うこと、血液の補給が必要だが子供たちには念力があること。医師は人類を進化させることができるのだ。医師にも妻や子供がいたはずだが、医師は妻は死んだと答える。では、子供は? 医師は答えない。ここでエリと同居している少年の正体が分かる。
 その子、英治は病院に来て未知子の夫を襲い、実を連れ去る。実の様子を見に来た医師は由美の念動力で自分の持つボールペンを首に刺す。一方、未知子はエリの部屋で袋に入った死体を発見、少年に襲われるが偶然カーテンを開くと日光が入って来て、少年は逃走する。
 エリは英治の母親の役割をして子供を虐待することが楽しいと云う。自分の母親も虐待を楽しんでいたのだと。未知子は実を救出しようと努力する。
 隠れ家は例の病院だと見当をつけた未知子は、病院でエリや少年と闘う。エリは途中で陣痛にさいなまれ、メスで腹部を切り裂き、嬰児を取り出す。未知子はドアを開いて日光を入れるが、もうすぐ日没。太陽の効果が無い。肩を落として帰りかけた未知子は木漏れ日を落ちていた鏡で反射させエリに当てる。すると、エリは苦しみ倒れる。実を取り戻した未知子は、英治も陽に当たって倒れるのを見る。英治の眼が実に同志よと呼びかけているようだ。燃え上がるエリたち。車で去る未知子と実だったが、不気味な音楽が高まる。エンド・クレジット。その後、裸の少年が闇の中を駆けていく。
 ラストは『エイリアン2』かな。

      映画川柳「虐待に 叛乱をおこす 子供たち」 飛蜘
2010年7月14日



DVD
廃墟シネマ



フジテレビ
2003年
53分

 廃墟に魅かれる人を取材した、瀬々敬久監督のドキュメンタリー。あまり成功していない。
 サラリーマンをしながら廃墟取材をしブログを作る人、雑誌の編集者、版画家、自主映画制作に挑む高校生、小説家、廃墟風景を撮る写真家など、いろいろな立場で廃墟に魅かれる人々がいる。なぜ廃墟に魅かれるのか、廃墟はどんな感じがするのかといった質問には月並みな答えしか返って来ないので、かえって表現者の貧しさが現れてしまう。その辺がとっても痛々しい。たとえば自主映画を撮ろうとしている女子高校生の答えはまるで借り物の言葉だった。自分の言葉になっていない。廃虚写真を撮っているという写真家が撮影助手に投げつける言葉の思いやりのなさ(「コケを踏むなって言ってんだろ」「分かってんのかよ」)も写真家の尊大さが感じられて、とても暗い気分になった。撮影助手が人間扱いされていない。まあ、そういう業界なのかもしれません。カメラが回っていてもそういった尊大さが変わらないというのはイヤな業界だなあと感じた。映画の現場も似たものかもしれない。
 奈良裕高の短編小説『砂丘のナディア』を、篠原涼子主演で撮った短編映画が付いているが、水の中から鳴る電話など面白いアイテムだったが、その音がなんの不思議もなく普通に鳴るだけなので、映像もショックがない。退屈な作品と化していた。

      映画川柳「廃墟景 やたらにパンする 高校生」 飛蜘
2010年7月14日


DVD
終わらないセックス



国映
1995年
64分
 原題は『夜啼くセミ』。撮影及び照明の斎藤幸一の原案で、井土紀州(第一作)・瀬々敬久が脚本、瀬々敬久監督。制作当時、オウム事件一色のワイドショーで一瞬流された「美人OL全裸密室殺人事件」をもとに考案された。
 全裸で伏せっている女性、電車内の男・青年(川瀬優太、二作目)、アブラゼミ。コンビニで買い物をする女(工藤翔子)。殺人事件を報道するテレビ。会社員の男(小林節彦)とセックスする女は、旅行代理店で働く久美子である。上司・葉山が部屋に尋ねて来て女を抱く。女は激しく腰を使う。会社で清掃社員・幹生(川瀬)は二人がキスするところを目撃。夜のコイン・ランドリーで彼は久美子を見かける。女の前で上着とシャツを脱いで洗濯機に入れる青年。「覚えてないですか」と話しかける青年。濡れたシャツを絞って「ビールでも」と言葉をかける青年。女を背負って部屋に入り、女の部屋でアダルト・ビデオを見る青年。朝になった。過去に戻る。部屋の扉の前でモーションをかける女。外へ行く。公園のベンチでリンゴをかじる女、男は寝ている。
 葉山と二人で帰る途中に最初の男がからんでくる、葉山に殴られる男。久美子に電話してくる青年。卑猥な言葉をかける。会社に無言電話がかかってくる。仕事が終わった会社でセックス。
 青年は、シャツの血を洗う。赤いコートの女(泉由記子)を連れて来てフロアで激しく犯す青年。女は「ちゃんとして」と要求し、ベッドでセックスし直す二人。
 ヒト気の無い駅で会う久美子と青年。久美子の部屋で幹生を求める久美子。久美子はテレホン・セックス。久美子は会社を辞めさせられた。セックスの時のあえぎ声を誰かが電話でみんなに聞かせたのだ。「抱いて忘れさせて」と青年にいう久美子のもとに電話が来て、留守番電話に録音された久美子の声が聴こえて来る。
 会社員の男の許に包丁を突き付け、なにか物を要求する幹生、刃物を突きさし、カバンを奪う。取り返したテープレコーダーを久美子に渡す幹生。「やりなおせればいいのに。もう一回生まれ変われればいいのに」という久美子。セックスする二人。荷物の中から何かを見つけた久美子は変な電話をかけて来たのが幹生だったと気づく。裏切られたと思う久美子。「心中しよう」と誘われ、幹生はカッとなり女の首をしめる。
 泣く幹生。隣りにいるのは赤いコートの女だ。冒頭のうつ伏せの裸の女。アブラゼミが女の尻を動く。
 電車に乗るでもなく、長距離バスに乗るでもない幹生。落ちてきた瀕死のアブラゼミを拾う。久美子が無表情に近づいて去って行く。はたと気付いて幹生が女の後を追う。終。

      映画川柳「うつぶせの 全裸死体の まぶしさよ」 飛蜘
2010年7月14日

DVD
高級ソープテクニック4 悶絶秘儀



国映
1994年
62分 
 羅漢三郎(瀬々敬久・伊豆地・青山真治の協同脚本、中上健次の世界からインスパイアされた)脚本、瀬々敬久監督。
 男=富森(下元史郎)が女・美恵子(栗原早記)を強姦している。隣室では郁男(伊藤猛)が傍観していた。・・・・その後、郁男はソープランドに行き、ソープ嬢(栗原)からサービスしてもらっていたが突然、女を暴行、お前のお陰でムショに行ったと云う。女は覚えが無いと云う。
 郁男は紀子(葉月蛍)と結婚していた。しかし、紀子は強盗事件の巻き添えで流れ弾に当たり死んだ。ソープ嬢に「体が光ってくるまで洗ってくれ」と頼む郁男。故紙回収中に団地で、ある女=美恵子を見つける郁男。美恵子は団地の一室に逃げ込む。富森は若い女(滝優子)とセックス中。やがて三つ巴となる。富森たちは外で郁男と出会う。強姦事件の後で夫に逃げられた美恵子と一緒になった富森は、それから運が向いてきたと云う。買い物帰りの美恵子を襲う郁男。「もう一度体を洗ってくれ」と懇願する郁男に、美恵子は「富森から解放して」と話す。
 郁男は富森の部屋を訪ねて風呂場で彼を刺殺する(ガラス越しの映像)。郁男から殺人のことを聞いた美恵子は驚き、抗議する。郁男は体を洗ってくれと頼む。二人はソープで慈しむ。山へ行く二人。高い煙突が映る。煙突から飛び降りて自殺し、横たわる郁男。
      映画川柳「光るまで オレの体を 洗ってくれ」 飛蜘 

 5日間で撮影したという。「浄め」の儀式としての性戯というのは時代の気分でしたねという川瀬優太(俳優)のコメントがあった。
2010年7月14日

DVD
本番レズ・恥ずかしい体位



国映
1994年
62分
 瀬々敬久脚本・監督。女子高生・小谷ひとみ(智恵子)は口紅を万引きした同級生の岡地えり子(深谷真琴)の後をついて行く。ひとり暮らしの岡地の部屋で小谷はレズを教わる。岡地の胸には三つ星のホクロがあった。小谷は前世で二人は天使軍の戦士だったのだと言う。更にテレクラの電話を教わり、二人で男に逢う。男を縛ってお金を取り、更に二人は旅へ。船上で、自分を愛しているなら海へ飛び込めと言われるひとみ。男に抱かれるえり子。ひとり嘆くひとみは母親に電話をして迎えに来てもらう。
 えり子は別の女(辻斬かりん)を連れている。ひとみは前世の話は友だちになるための気を引こうとするウソだったと告白。ひとみは若い男(坂本礼)に抱かれる。若い男はお金を持っていない。ひとみは男を「金を出せ」と泣きながら叩き続ける。ひとみはえり子とよりを戻そうとする。二人が再会した朝、海岸でひとみは海に入って、砂浜で拾った金魚を放す。ひとみは、以前にえり子の飼っていた金魚を水洗トイレに流したことがあった・・・・。

      映画川柳「水洗へ 流す金魚が 消え残る」 飛蜘

 女優はみんな素人。1994年当時には、オウム真理教の流行もあり、前世の生まれ変わりといった言説が話題になったというものの、いま見返すとそのセリフは滑稽に響く。後でひとみはその言葉を自分で単なる気を引く手段だったとして否定してしまうのだから、なおのこと喜劇的に響く。妄想であっても、信じなければ活劇の力にはなり得ない。なお、三つ星の神話は瀬々監督によると、三島由紀夫の「豊饒の海」だそうである。
2010年7月13日


DVD
私は猫ストーカー



WAKO
マクザム
天空
2009
103分
 ハル(星野真里)は下町の小さな古書店でアルバイトをしながら、ノラ猫観察を楽しむひとり暮らしのイラストレーター。ひとと猫のスケッチとでもいうべき作品。猫がたくさんいるところを教えてやるという坊さん(諏訪太郎)が可笑しい。
 猫のチビトムの失踪がきっかけで古書店「猫額洞」の夫婦(徳井優、坂井真紀)関係のひび割れが大きくなる。ハルは“猫仙人”というアダ名の老人とチビトムを探すが、見つからない。猫を探して家出した奥さんが戻って来る。早朝、猫を探しに出たハルは古書店の常連客の学生(宮崎将)と出会って一緒に行動。しかし、チビトムは戻らなかった。

      映画川柳「猫を呼ぶ 体を低く 目をそらし」 飛蜘

 鈴木卓爾初監督作、撮影・田村正毅、原作は浅生ハルミンのエッセィ。六日間で、俳優を“ゴロッとむきだしにして”(鈴木監督の言葉)撮影する方法で製作されている。鈴木監督は佐々木昭一郎監督に影響を受けたというが(本人の話では、それは誤解だそうです。鈴木監督より少し上の世代の監督が影響され、その人たちを通して学んだことがあるかもしれないとのこと)、本作は『四季・ユートピアノ』の「ピアノ」を「猫」に変えたような作品。名手・田村正毅の撮影には、小川紳介監督作品のほか、相米慎二『ションベン・ライダー』、河瀬直美『萌の朱雀』や青山真治『ユリイカ』『レイクサイド・マーダーケース』などがある。田村は初のデジタル・ビデオ撮影だが、わざとピントを甘くしたり、光を飛ばしたりしている由。
 オーディオ・コメンタリーは鈴木監督・浅生ハルミン・矢口史靖の三人。あまり映画に触れていないことも多いものの爆笑トーク。
2010年7月12日


DVD
感染列島



TBS
東宝
2009年
138分
 瀬々敬久脚本・監督作品。新型インフルエンザと思われた感染症の最初の患者を診察した、いずみ野市立病院の救急救命医・松岡(妻夫木聡)はその後、エボラなみに日本中で猛威を振るう謎の感染症の原因を探る。松岡の大学助手だったWHOのメディカル・オフィサー・小林栄子(壇れい)がスタッフの指揮を取る。
 最後の手段として、感染からの回復者の血清を治療として使うという方法は、とても納得のいくものでした。ただ専門医・立花(嶋田久作)が未知の致死率の高い感染症に感染した事実を話さないまま、原住民のもとへ帰国してしまったりするのは、それが結果的に日本での蔓延の原因となるわけだから、あり得ない。

      映画川柳「回復者 その血液に 鍵がある」 飛蜘

 パニック映画というよりも、ストレートなラブ・ストーリーでした。
 主演級の男性医師たちが、白衣の前を開けている場面が気になる。実際にそんなことは、いろいろと危険なので、ありえないからだ。女性の看護士や医師たちは誰もそんな恰好はしておらず、きちんと白衣を着ている。『チーム・バチスタの栄光』の臨床診療医の竹内結子のような仕事なら白衣のボタンを止めなくてもいいが、手術や治療を行う人達は白衣が道具や機器にひっ掛ったら患者の生命に関わるのだから、前あきは許されないはずだ。


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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