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 映画 日記              池田 博明 


これまでの映画日記で扱った作品データベース  映画日記 前月の分  


2010年3月10日以降6月30日までに見た 外 国 映 画 (洋画)

見た日と場所 作  品              感    想     (池田博明)
2010年5月10日


DVD
ブロンドと柩の謎

LIONIC GATE FILMS
USA
2001年
(日本公開2003年)
114分
 ピーター・ボグダノヴィッチ監督がステーヴン・ペロスの舞台劇を映画化した作品で、原題は『The Cat's Meow(猫のニャア)』。1924年11月中旬に起こった新聞王ハースト(エドワード・ハーマン)の豪華客船での映画プロデューサー、トーマス・インス(ケアリー・エルウィス)の事故死の真相を暴く。廉価盤のDVDによる発売。
 ハーストの愛人マリオン・ディヴィス(キルスティン・ダンスト)に言いよる喜劇王チャップリン(エディ・イザード)。トムはハーストの嫉妬心を焚きつけ、自らが製作する映画にハーストを協力させようと画策する。最初と最後は英国の小説家エリノア・グリン(ジョアンナ・ラムレー)の回想の形を取っているが、途中の描写は三人称。
 事件の目撃者ゴシップ記者ルエラ・パーソンズ(ジェニファー・ティリー)は事件後、ハーストの新聞の生涯契約記者となり毒舌を続けた。トムの愛人で映画女優マーガレット・リヴィングストン(クラウディア・ハリソン)の報酬はハネ上がった。すべては口封じのためであるという解釈。もとの事件は、ケネス・アンガーの『ハリウッド・バビロン』にも書かれている有名なもの。
 ほとんど心理劇である。

      映画川柳「喜劇王 嫉妬をつのらす 新聞王」 飛蜘
2010年5月2日


BS2
続・菩提樹


西ドイツ
1959年
 原題は『アメリカのトラップ・ファミリー』。スタッフは前作と同じ。
 アメリカでトラップ一家合唱団として巡業を始めたものの、パレストリーナの聖歌などは不人気。客も減るし、契約も解除されてしまった。合唱を指導する神父は聖歌の心を伝導するのが目的だと聖歌中心の選曲を変えようとしない。しかし、ハーレムの人々や、ウィーン出身の富豪ハートフィールド夫人の依頼などで、フォスターの曲やシュトラウスの「ウィーンの森の物語」などを歌って、少しずつ局面が改善されていく。
 バーモント州の農家に立ち寄ったために、演奏会に遅刻した家族は、演奏前に失敗を繰り返して観客の笑いを引き起こしてしまい、聖歌から始めるのが不適当と判断したマリアは「狩りの歌」(ザルツブルグの合唱祭で優勝したときの歌)や「おおスザンナ」で客の心をつかむ。聖歌にこだわらないプログラムで人気となった家族はようやく貧乏から脱出する糸口をつかむ。ただし、聖歌も決して無視はしていない。マリアはバーモント州の農家の購入を決意する。みんなで改築する様子が、ミュージカルのような演出で歌われる。そこへ、警察がビザが切れて国外退去だと告げに来る。
 マリアは後援者だったハートフィールドに助けを求め、ジョン氏は移民局に掛け合って家族のアメリカへの受け入れを許可させる。ハートフィールド夫人は自らの故郷ドイツの歌「美しい谷間」をリクエストする。夫ゲオルグは敵国の歌だと拒否するが、マリアは音楽に国境は無いとみんなで歌う。移民局の廊下に徐々に多くの人垣が出来ていた。マリアは映画の観客に向い、「ありがとう」とつぶやいてエンド。
 夫のゲオルグが運転手のパトリックと腕をからませてウィスキーを飲み、「ジョージと呼んでくれ」と二人で気を許す場面がある。

     映画川柳「子供には 家が必要 大草原」 飛蜘

2010年5月2日


BS2
菩提樹


西ドイツ
1956年
(日本公開は1957年12月)
105分
 原題が『トラップ・ファミリー』で、『サウンド・オブ・ミュージック』と同じ原作です。監督ヴォルフガング・リーベンアイナー、撮影ウェルナー・クリーン、音楽フランツ・グローテ。脚本は「戦場の叫び」のヘルベルト・ライネッカーが担当。製作ハインツ・アーベル。
 マリア(ルート・ロイヴェリック)は修道女でしたが、口笛を吹くわ、手摺をすべり降りるわ、御転婆気分が残っている娘でした。院長はマリアをトラップ家の家庭教師に推挙します。
 厳格なゲオルグ・トラップ男爵(ハンス・ホルト)にしつけられた七人の子供たち。マリアは子供たちに歌や遊びを教えます。子連れのため男爵の求婚を断ったイボンヌ(マリア・ホルト)は、マリアに嫉妬しますが、彼女の指摘で自分の気持を知った二人は、結ばれることになります。友人の銀行家(後に自殺してしまう)に投資した男爵は破産し、マリアのアイデアで男爵の屋敷をホテルにします。ザルツブルグの合唱祭でトラップ家の合唱団は優勝。その直後、ドイツがオーストリアを併合して、国全体はナチスの支配下に入ります。執事のフランツも実は3年前からナチス党員でしたと告白、しかし、彼は男爵たちが密かに逃走するのを助けます。
 アメリカに渡ったマリアたちを招待したはずの興行師は出資者を説得できず、一家は危うく本国へ送還されるところでしたが、移民局でとっさに「菩提樹」を歌って、興行師を納得させます。舞台で6回目のアンコールで歌うマリアのズームアップで幕。
 双葉十三郎『ぼくの採点表』では70点くらいの高得点。マリアの前向きな明るさと柔らか味のあるドイツ映画が高い評価につながっています。

      映画川柳「遊び着を カーテン生地で 七着も」 飛蜘
2010年4月3日



DVD
ミス・マープル
最も卑劣な殺人


MGM
英国
1964年
91分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズの第4作,“Murder Most Foul”の原作はクリスティーの『マギンティ夫人は死んだ』で、ポアロものです。脚本はデービッド・パーサルとジャック・セドン、監督ジョージ・ポロック。白黒作品。IMDbの評価は7.0。
 ウエルズ巡査(テリー・スコット)が「Hangman's Rest(死刑執行人の憩いの家)」で一杯ひっかけている間に近所の家では家主のマギンティ夫人が絞殺され、下宿人のテイラーが容疑者として逮捕された。裁判が始まると、容疑者テイラーは帰宅したら首を吊っていた夫人の縄をほどいているところを巡査に発見されたのだという。陪審員のなかの一人、マープルがテイラー有罪説に反対したため、審理は再審となった。「一人強情なひとがいて」と言われて、クラドック警部補にマープルは「他の11人が強情なの」と話す。
 教会のバザー用品を集めるという口実で現場を訪れたマープルと司書のストリンガー(ストリンガー・デイヴィス)。マギンティの姉のグラディス(メグズ・ジェンキンズ)から、妹は女優だったと聞く。部屋に文字を切り抜かれた新聞があった。
 新聞の文字から考察すると「名を変えてもバラはバラ。1951年の6月を思い出せ」となる。マギンティ夫人は誰かを脅迫していたのではないか。そして、その相手はパンフレットのあったコスグッド劇団の誰かではないかとマープルは推測。コスグッド劇団に入団して捜査することを決断する。
 コスグッド(ロン・ムーディ)の前でロバート・サービスの詩を演じるマープル。首尾よく研究生として採用される。早速、劇団員が宿泊するウェストワード亭へ同宿することになる。舞台に劇団員のジョージ・ロートン(モーリス・グッド)が現れるが、彼は急に倒れてしまう。ヒ素による毒殺だった。女優イーヴァ(アリスン・シーボーム)は予知能力があるという。彼女はロートンと交際していたようだ。
 マープルはマギンティ夫人の殺害現場にあった紙幣百ドル分はミス・ディレクションとしてわざと犯人が残したものだと推理、クラドック警部補に劇団員のなかで百ドルを引き出した者を調査したらとどうかと進言する。団員たちは事件の噂をする。団員は中年のラルフ・サマーズ(ラルフ・マイケル)と彼の妻モーリーン(ポーリーヌ・ジェイムソン)、若い女性シーラ(フランチェスカ・アニス)、彼女と婚約しているビル・ハンソン(ジェームズ・ボーラム)、ややゴシップ好きのアーサー、中年女性ドロシー(アネット・カー)などである。
 ロートンが使っていた部屋に案内されたマープルはベッドに台本「九月を思い出せ」が置いてあるのを見る。コスグッド作の昔上演した劇だった。
 翌朝早く散歩に出たマープルは公園でストリンガーと落ち合い、昔「九月を・・・」が上演されたときの記録と当時の団員の調査を依頼する。
 ラルフとコスグッドが話し合い、推理劇『シチュー鍋』を再演することにして、女探偵ペネロペ役をマープルに当てることにする。練習の途中でストリンガーから電話が来る。当時の団員にマギンティの名があったこと、当時の団員で今残っている者はいないことが分かる。小道具の銃でラルフがマープルを撃とうとする場面がある。もちろん空砲。
 リハーサルで「ローナを殺したのはあなたね」というセリフをわざと「マギンティ夫人を殺したのはあなたね」と言い間違えて犯人の様子を見るマープル。
 一方、警察の捜査で百ドルを引き出したのはロートンだったことが分かる。警部補はマギンティ夫人殺害犯はロートンと決めつけるが、マープルはちょっと引っ掛かっている。警部補とマープルの会話が誰かに盗聴されている。隣室のドロシーだろうか。マープルは部屋の外にメモが落ちているのに気付く。「あの女に気づかれている。午前1時キッチンへ」とあった。そっと調べてみるとアーサーの部屋のタイプライターで打たれたものだった。
 午前1時近く、マープルがそっと見張っているとドロシーが部屋から出て来た。キッチンへ下りていく。後をつけようとすると、夢遊病のイーヴァに出会った。キッチンは青酸ガス臭がしてドロシーは死亡。マープルはロウと酸とNaCNを利用した殺人と推理する。もっともその方法は『シチュー鍋』の台本にあるものだとか。ストリンガーの情報では団員のなかにローズ・ケインという女優がいたという。
 マープルが芸能事務所で尋ねるとローズ・ケインは夫殺しで絞首刑になったという。子供に買いに行かせたソーセージに除草剤を入れたという。イーヴリンというのが子供の名前だ。
 『シチュー鍋』の初日、マープルが団長への花束の陰に置いたローズの写真を見てイーヴァが「この人は、関係しているわ」と驚愕する。警部補に劇中で犯人はマープルを狙うはずだと話すマープル。警部補はマープルを警護する約束をする。
 楽屋で出番を待つマープルに刃物をつきつけた者がいた。そして、イーヴリン・ケインの正体があきらかになる。なお、マープルは1924年の射撃大会で優勝しているという。母親の事件でなぜ子供が強請られるのかがよく分からない。原作には書いてあるのだろうか。
 ほかにクロスビー判事(アンドリュー・クルックシャンク)、ハリス(デニス・プライス)など。

      映画川柳「編物の 手が気がかりな 裁判官」 飛蜘

 東京国際フォーラムの相田みつお美術館で、アガサ・クリスティー展が催されています。4月6日に行って来ました。派手な展示パフォーマンスは無いので、コアなクリスティー・ファンでないと楽しめないと思います。創作ノートが翻訳刊行間近だそうで、そのPRの意味もあるのでしょう、結構、創作ノートが展示されていました。
2010年4月2日



DVD
ミス・マープル

船上の殺人


MGM
英国
1964年
92分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズの第3作,“Murder Ahoy”は映画オリジナル。IMDbのトリヴィアによると、『魔術の殺人』と『ねずみ取り』に案を得ているそうです。脚本はデービッド・パーサルとジャック・セドン、監督ジョージ・ポロック。白黒作品。ローレンス・バックマン・プロダクション、撮影監督デズモンド・ディキンソン、音楽ロン・グッドウィン。IMDbの評価は6.9です。
 マープルは洋服屋で服を新調しています。試着室に入り、仕立て直して登場したマープルはダブルのスーツで正装しています。後で、船長は「リーファー・コートを着て三角帽子をかぶっている」と評しています。
 彼女が入った建物のフロアの一室では「喜望峰青少年更正センターの年次総会」が開かれています。伯父のヘンリー・マープル卿が亡くなったので、マープルは代理として初めて理事会へ出席することとなったのです。マープルの祖父バートラムがこの会の創立者でした。彼は青少年を正しく育成する場として軍艦バトルドアを寄贈したのです。
 さて、最初の議事としてなにか意見を述べようとして立ち上がった委員のひとりフォーリーは口を開こうとした途端に心臓発作に襲われて急死してしまいました。一見、事故のようでしたが、どさくさの後で、マープルは彼の嗅ぎタバコ入れが空になっているのに気づきます。意見を述べようと立ち上がったフォーリー氏は、直前にタバコを嗅いでいたのを思い出します。
 マープルは少しだけ残ったタバコを「化学実験セット」で試験してストリキニーネが仕込んであることを明らかにします。司書のストリンガーと相談して、マープルは直前にフォーリー氏が視察していたバトルドアに原因があると推察、乗り込んでいきます。
 船長のラムストン大佐(ライオネル・ジェフリーズ)は委員の視察を快く思いませんが、表向きは歓迎します。マープルは海沿いのホテルにとまったストリンガー氏と懐中電灯でモールス交信で連絡を取り合います。
 夜間、パトロール中の船員たちが窃盗団として屋敷に忍びこんでいるのを目撃したストリンガー氏は船員のボートを盗んで、マープルに連絡。その場を見ていたコンプトン大尉(フランシス・マシューズ)が刺殺され、帆桁に吊るされます。クラドック警部が捜査に乗り込んで来て、警部はマープルを見て驚きます。尋問で体育のハンバート中尉(デレク・ニモー)とシャーリー看護婦(ノーマ・フォスター)が交際していたと知って船長は絶句。同僚同士の交際は厳禁なのですから。古株のコニントン中佐(ウィリアム・メルヴィン)、第一看護婦長ファンブレイド(ジョーン・ベンハム)、ビショップ中尉(マイルズ・マレソン)らにも特にアリバイはありません。
 コンプトンの部屋の引き出しに彼が盗んだと思しき理事会宛ての報告書の封筒がありました。しかし、中身は空で、どうやらコンプトンにゆすられた真犯人が持ち去ったものと思われます。ストリンガーに報告書の調査を依頼。封筒の裏に書かれた33の数字、フォーリー委員のメモにも同じ数字があったのをマープルは思い出します。
 警察は町でパーティがあると、その後に窃盗があり、必ずパーティに出席していたハンバート中尉に窃盗の疑いをかけます。夜中にそれぞれの思惑を持って船のなかを歩き回る人々。やがて女性の悲鳴が聞え、シャーリーが倒れていました。検死の結果、毒物クラーレによるものと判明。マープルはネズミ取りにはさまれたと推理します。警部とマープルが話していると外から石が投げ込まれ、それが頭に当った警部は昏倒。石をくるんでいたのは、ストリンガーの調査報告でした。33というのは船員の数だったのです。
 マープルは真相を看過し、警部に船員たちがトラファルガー・ディのホーンパイプ・パーティへ参加するのを許可するように依頼します。自分はひとり船に残り、犯人の囮になろうという作戦です。嗅ぎタバコによる殺人やネズミ取りによる殺人などのが書いてある「The Dooms Box (運命の箱)」の本を皆にちらつかせてマープルは真犯人の気をひきます。
 夜中に犯人が出現し、その動機もあきらかになります。マープルは1931年のフェンシング・チャンピオンだったという昔の杵柄で戦います。マープルを守るはずの警部たちはハッチが閉じられて閉じこめられて、肝心なときに出られなくなってしまいます。あわやというときに思わぬ助けが入ります。
 検死もそこそこに常にお産の患者のもとに急ぐ医師クランプ(ニコラス・パーソンズ)が、コメディ・リリーフ。

      映画川柳「船長と 婦長の恋も 十四年」 飛蜘
2010年4月1日


DVD
ミス・マープル
寄宿舎の殺人

MGM
英国
1963年
81分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズの第2作,“Murder at the Gallop”の原作はクリスティーの『葬儀を終えて』で、ポアロものです。脚本はジェームズ・キャベノー、監督ジョージ・ポロック。白黒作品。IMDbの評価は7.1。
 犯罪改心者への募金で司書のストリンガー(ストリンガー・ディビス)と一緒に家庭を回っていたマープルは、エンダビー家で家主のエンダビー氏(フィンレイ・カリー)が階段を転落してくるのに出会った。死因は心臓麻痺だが氏の嫌いなネコが現場にいたことで、マープルは他殺とみなす。クラドック警部補(チャールズ・ティングウェル)は信じないため、マープルは司書のストリンガーと二人で捜査を開始する。
 遺産書の読み上げの席でコーラが「伯父は殺されたんでしょ」と発言、親族は混乱する。
 コーラに接近すべく家を訪ねたマープルはコーラが既になにものかによって殺害されていたことを知る。現場へ来合わせた家政婦ミルクレスト(フローラ・ロブソン)はマープルを犯人扱いする。
 エンダビー氏の長男ヘクター(ロバート・モーレィ)は厩舎とホテルを経営し,馬具や馬に詳しい。マープルは母親が乗馬をしていたので、その縁で乗馬が得意、すっかりヘクターと意気投合する。画商ジョージ(ロバート・アークハート)やロザムンド(カティヤ・ダグラス)とマイケル(ジェイムズ・ヴィリヤーズ)のシェーン夫妻は次第にエンダビー氏が亡くなった日に会いに行っていることが判明する。馬丁ヒルマン(ダンカン・ラモン)はジョージに言われてマープルを警戒するので,マープルも調べにくい。一銭の価値も無いと思われていた絵の本当の価値に問題があると推理したマープルは、ヘクター氏の主宰したダンス・パーティで犯人に罠を仕掛ける。
 事件が解決して,最後にマープルは前作のように求婚される。マーガレット・ラザフォードのマープルは大変に行動的なのが特徴。

      映画川柳「長らくも 顔を合わせぬ 親戚が」 飛蜘
2010年4月1日


DVD
ミス・マープル
夜行特急の殺人


MGM
英国
1961年
86分
 マーガレット・ラザフォードが主演したマープル・シリーズは日本未公開。シリーズ第1作,“Murder She said”の原作はクリスティーの『パデイントン発4時50分』。脚本はデービッド・パーサルとジャック・セドン、監督はシリーズ作すべてジョージ・ポロック。白黒作品。共演者にジョーン・ヒクソンの名前もありました。ヒクソン主演のBBCシリーズが評判になって以降は、このシリーズはあまり良い評判を聞かないのですが、どうしてどうして、結構面白い仕上がりでした。IMDbの評価は7.3。これはかなり高い数値です。
 本作では窓越しに殺人を目撃するのはマープル本人です。ちょうど『窓越しの殺人』という推理小説を読んでいたこともあり、車掌もクラドック警部補(チャールズ・ティングウェル)もマープルの証言に半信半疑です。憤慨したマープルは推理小説好きの友人、司書のストリンガー(ストリンガー・ディビス)を誘って沿線を捜索し、アーカンソープ家の塀でコートの切れ端を発見します。次いで、マープル自身がメイドに志願、気難しい家主アーカンソープ(ジェイムズ・ロバートソン・ジャスティス)のお蔭でメイドがすぐに辞めてしまうので即採用されます。マープルが雇われたのでこれ幸いと家政婦キッダー夫人(ジョーン・ヒクソン)は辞めてしまいます。マープルはゴルフバッグを持って雇われますが、ゴルフバッグは邸宅を捜索するときの弁解ための道具です。探索したい方へボールを打ち込むわけです。
 勘のいい少年、甥のアレクサンダー(ロニー・レイモンド)と一緒に馬屋を見たジェーンはエジプト資料のある物置に注目。庭師ヒルマン(マイケル・ゴールデン)に追い出されますが、夜に捜索して王の棺のなかで女性の死体を発見します。
 被害者はフランス人らしき女。殺人は前週の金曜日でした。警部補は父親の誕生日に集まった子供たちを召集、尋問します。娘のエマ(ミュリエル・パヴロー)、次男のハロルド(コンラッド・フィリップス)、三男の画家セドリック(ソーリィ・ウォルターズ)、義弟アルバート(ジェラルド・クロス)、四男イーストリ(ロナルド・ハワード)。侍医クインパー(アーサー・ケネディ)はエマと恋仲です。エマに送られた、戦死した長男エドの妻マルティーヌからの手紙も参考にされ、家族の中に殺人犯がいることで、お互いは疑心暗鬼になります。
 警部補はマープルの身の上を心配しますが、マープルは被害者から落ちたコンパクトと真犯人の手の形を手がかりに罠をしかけます。
 事件が解決してメイドを辞めるといいうジェーンに家主は「結婚してやる」と居丈高ですが、マープルは既に決まった人がいますと言って鄭重にお断りします。

      映画川柳「ヒ素混入 毒入りカレー 夕食に」 飛蜘
2010年3月19日



日本テレビ
金曜ロードショー
21:00〜

スパイダーマン3


USA
2007
139分
 特撮場面が中心となり、スパイダーマン(トビー・マグワイア)の敵役も、彼を父の敵と狙うハリーだけでなく、分子分解の実験に遭遇してサンドマン(砂男)となったフリント(トーマス・ヘイデン・チャーチ)や、ヴェノム(毒という意味だ)というピーターと写真家の座を争っていたパーカーらと死闘を繰り広げる。監督は前作同様サム・ライミ。
 メイおばさん(ローズマリー・ハリス)から婚約指輪を受け取り、MJに渡しますが、ピーターには悪を為す寄生生物が取り付き、意識を変えつつありました。
 特殊撮影で空中を飛んだり、殴りあったりという映画はもうたくさん。格闘技ゲームを見ているようで関心を持てません。こんな映画を見ていると、自分の頭のなかが、カラッポになったような気がしてきます。次々と非現実的で、刺激的なアクションシーンが連続し、バカになるだけではないでしょうか。ガキの見世物にすぎません。CGは大流行ですが、この方向には人類の叡智や未来はないと思います。宮崎さんが『崖の上のポニョ』で手描きにこだわったのも、CGのむなしさを感じたからではないでしょうか。 

     映画川柳「時期遅れ 執事が話す 死の真相」 飛蜘
2010年3月20日


ビデオ
アメリカ映画の歴史
第1巻


ユニバーサル

 ユニバーサル社が綴ったアメリカ映画の歴史。各回55分で10回分。
 第1回「ハリウッド・スタイル」。1920〜1930年代に映画技術が確立したが、当時の映画の技術は目につかないことが大事だった。映画の中心はヒーローやヒロイン、そしてスターを美しく撮ることが第一で、すべては物語を語るためにあり、あらゆることが撮影前にきちんと決められていた(美術監督リチャード・シルバート、編集ディード・アレン、撮影監督アレン・ダヴィオーらの証言)。そんな技術の粋を集めた映画として、『カサブランカ』(1942)を挙げることができる。6人の脚本家が物語を吟味し、34ケ国にもおよぶ出演者たちを集め、観客に気づかれないようなカメラワーク、そして編集がスターの物語に奉仕している。
 恋愛映画の恋人達には障害があり、それが物語を動かす。別れがドラマを作るのだ。衝突がないと物語は動かない。恋愛が成就すると映画はどうしようもなくなる。登場人物によほど魅力がある場合は別だが。『追憶』では主人公をWASPと移民、持てる者と持たざる者という設定にした。見る人はこの間に入るわけだから(ポラックの証言)。
 映画館は観客にとって旅であり(ポラックの証言)、非日常を身近に経験させてくれる娯楽なのだ(マンキウイッツの証言)。『オズの魔法使い』(1939)のような夢の世界が究極の理想郷だった。
 しかし、オーソン・ウェルズが『市民ケーン』(1942)でテクニックを観客にわざと意識させ、状況を変えた。個性的な監督たちが映画を豊にする。ハワード・ホークス、ウィリアム・ワイラー、ジョン・フォード、アルフレッド・ヒッチコック、ビリー・ワイルダーなど。ヌーヴェル・ヴァーグの技術の新鮮さもアメリカ映画に影響を与えた。ポラックは『ひとりぼっちの青春』のマラソン・ダンスをローラー・スケートをはいたカメラで撮影している。
 スコセッシは『裏窓』『間違えられた男』に主人公の目から見たカメラ目線があり、これを『タクシー・ドライバー』(1976)で真似たという。また『戦艦ポチョムキン』のモンタージュを『レイジング・ブル』に応用したと言う。アーサー・ペンの『俺たちに明日はない』のようなめまぐるしいカット割りは昔には無かったものだ。
 探偵の目の一人称で語る形式で伝統を蘇えらせた作品にポランスキーの『チャイナタウン』がある。脚本家のロバート・タウンはこの映画のキイ・ワードは<女を探せ>だと指摘。

 第2回「スター」。スターはスタジオが長期契約によって俳優を確保して作り出したアメリカの発明と言えよう。MGMが売り出したジョン・クロフォードがその典型。ゲィリー・クーパー『昼下りの情事』『群衆』、ハンフリー・ボガート『カサブランカ』、ジェイムズ。スチュワート『スミス都へ行く』、ジョン・ウェイン『チザム』、ジェーン・ラッセル『フランス航路』など枚挙に事欠かない。しかし、現代ではスターはジュリア・ロバーツ『プリティ・ウーマン』など、自分で作品を選ぶ。演技のイメージを変えたのは『波止場』や『欲望という名の電車』のマーロン・ブランド。
2010年3月15日


DVD


BS2では3月24日放映
20:00〜

BS2
9月28日
再放送
21:00〜
マープル2

無実はさいなむ


グラナダTV

2007年6月3日カナダ放映
94分
 原作はマープルものではありません。クリスティ本人はお気に入りの作品としてあげていますが、一般には失敗作と言われています。マープルものに仕立てたチャレンジングな一作。こういう冒険心は素晴らしいです。IMDbの評価(レイティング)は7.2。レビューは賛否両論。シリーズのワーストという評価もありますし、ノン・マープルもののベストという真逆の評価もありました。ちなみに、IMDbのレイティング7.2はマックイーワンのマープルものでは最高点です。監督のモイラ・アームストロングは1930年生まれのTV演出家で、この作品は76歳のときの演出作品ということになります。脚色はスチュワート・ハートコート、撮影は『バートラム・ホテルにて』と同じシンダーズ・フォアショー。
 殺人事件当夜の状況が冒頭で語られます。マープルは昔マープル家に奉公していたグェンダ(ジュリエット・スティーヴンソン。写真参照。日本語版の声は大西多摩恵)の結婚祝に招待されました。グェンダが秘書を勤めていた歴史家リオ・アーガイル(デニス・ローソン。声は山野史人)と婚約したのです。訳書ではアージル Argyleですが、映画ではアーガイルと発音しています。彼の妻レイチェル(ジェイン・シーモア、写真参照。一城みゆ希)は二年前に書斎で殺されていました。犯人とされたのは息子のジャッコ(バム・ゴーマン)、問題児で金を無心したものの母親から拒絶され、一時間半前に激しく言い争い、彼は母親につかみかかり首をしめていましたし、逮捕されたときに盗難された紙幣を持っていたからです。ジャッコは殺害時刻には他人の車に乗っていたとアリバイを主張しましたが、証人が出頭しませんでした。有罪の判決が下され、処刑されました(原作は無期懲役で病死)。ところが、彼のアリバイは本当だったのです。アリバイを証明したのは、ケンブリッジ大学の動物学者(原作では地質学者で探偵役)アーサー・キャルガリー博士(ジュリアン・リンド=タット。声は東地宏樹)。犯行時刻に彼を車に乗せていましたが、北極調査で英国を離れていて気がつかなかったのです(原作では交通事故に会い、記憶をなくしていた)。スライド映写器容器の隙間に詰め込んだ古新聞にジャッコ処刑の記事が出ていたことで、事件当夜のことに気づいたのでした。急遽、突然の嵐も厭わず、博士はアーガイル家の邸宅サニー・ポイントに駆けつけます。ちょうどアーガイル家の家族が集まってジェスチャー・ゲームに興じているところでした。夫妻に実子はなく、養子はメアリー(愛称はポリー。リサ・スタンスフィールド。声は野沢由香里)、マイケル(愛称はミッキー。ブライアン・ディック。声は坂詰貴之)、問題児ジャッコ、ヘスター(ステファニー・レオニダス。声は加藤忍)、ボビー(トム・ライリー。原作ではボビーという息子はなく、ボビーという青年はヘスターの恋人。声は村治学)、末娘の混血児ティナ(ダグ・ムバッサ=ロー。声は杉本ゆう)と数多かった。
 そして、宴会にはメアリーの夫フィリップ・デュラント(リチャード・アーミテイジ。元パイロットでポリオのため車椅子。原作では真相に近づき殺される。声は青山穣)や家族同然の家政婦カーステン・リンツトロム(アリソン・ステッドマン、写真参照。声は谷育子)も参加していました。ちょうど博士が着いたときには、パーティでグェンダが演じていたジェスチャー・ゲームの答えは、『ねじの回転』。これはヘンリー・ジェイムズ作の幽霊物語。『ねじの回転』は本作の暗喩になっていて、家族を襲う亡霊は亡くなったレイチェルとジャッコです。
 博士が証明したように、ジャッコが無実だったとすると、レイチェルを殺した真犯人はいったい誰でしょうか。疑心暗鬼が家族の間に広がります。無実は家族をさいなむのでした。
 天候不順のためヒュイッシ警視(リース・シェアスミス、写真参照。声は牛山茂)の到着は翌朝になります。マープルは家政婦カーステンから家の事情を聞きます。ジャッコには密かに結婚していた妻モーリーン(アンドリア・ロウ)がいて、レイチェルの葬儀の日に家を訪ねて来たと言います。警視の再捜査で家族の間には波風が立ちます。ジャッコと双子(ニ卵性)のボビーは、ジャッコに最後に面会に行ったとき、「たぶん、俺がした一番いいことかもな(日本語版では「ひとつぐらいいいこともしないとな」)」と言った彼の言葉が気になっていました。ジャッコは真犯人を知って、かばっていたのだとボビーは考えています。殺人の動機が誰にあったのでしょうか。レイチェルが亡くなって、いちばん利益を得たものといえばグェンダです。カーステンはグェンダとレイチェルの愛情のもつれによる諍いを証言します。グェンダは事件当夜、レイチェルに依頼されて郵便を投函に出ていますが、投函後は自宅に帰ったためアリバイがありません。自分への疑いを晴らすため、彼女は必死になります。マープルも秘密のレイチェルの書斎の金庫を開けるのを手伝って、グェンダに協力します。グェンダはマープルの技に感心し「どこで覚えたの?」と聞くと、マープルは甥がよく鍵を無くすのと答えます。しかし、金庫は空。かろうじて残っていた一枚の名刺の主はジョン・クローカー(マイケル・フィースト。声は堀田眞三)、探偵でした。クローカーはフィリップの結婚前の素行調査を依頼されていました。グェンダはキャルガリーと一緒に調査して回ります。
 そうこうするうちに、警察にはプライス夫人(ピッパ・ヘイフォード。声は寺内まりえ)が、息子シリス・プライス(ジェイムズ・ヒュラン)が当夜、船着場でティナのバイク「ドラゴン」を目撃していたと届出ました。最初の捜査では、ティナは事件当夜は家にいなかったはずなのです。重要参考人としてティナが警察に連行されます。ティナは誰かをかばっているようです。子供たちは安い金で買われた身の上、決して幸福ではありませんでした。「お金がすべてなのね」とヘスターは嘆きます。家族から疑われたグェンダは、思わず「この家族は誰もが秘密を持っている。私は書斎で真犯人の証拠を見つけた」と口走ってしまいます(本当は何も見つけてはいなかったのですが)。家族の混乱を悩むリオに婚約解消を言い渡されたグェンダが、レター・オープナーで刺されて殺害され、家の金を任されていたボビーが銀の食器を持って逃亡しようとして溺死。ボビーは危ない株相場等に手をつけて失敗してしまったことが判明します。
 マープルが意外な真犯人を明らかにします(ただし、真犯人は原作と同じ)。
 ほかにジャッコを雇った店の女主人リンゼー夫人(カミュ・コージュリ。声は桶U子)、ウォーデン(レイトン・ヘイバーフィールド)、キャルガリーの講演会の科学者(カール・イシャーウッド)、警官(シェイン・ノーラン)。

      映画川柳「動物は たったの1ペニーも 持ってない」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『無実はさいなむ』(早川文庫)
2010年3月13日


DVD


BS2では3月23日放映
21:00〜

BS2
9月27日
再放送
21:00〜
マープル2
バートラム・ホテルにて


グラナダTV

2007年4月1日カナダ放映
94分
 脚色トム・マックレー、監督ダン・ゼッフ、撮影シンダーズ・フォアショー。
 原作を大胆に脚色していて、粋な仕上がりになっています。原作は他の作品と比べて地味な仕上がりだと思うのですが、その弱点を生かしてかなり大胆に脚色していて成功しています。しかし、クリスティー・ファンからは評判が悪く、IMDbのレビューではかなりきびしい評価になっています。そんなものに惑わされてはいけません。ガチガチのクリスティー・ファンは原作通りでないと気がすまないのです。私は原作と違ったら二倍おいしいと思うほうです。これは、かなりの傑作です。IMDbの評価(レイティング)は6.8。
 だいいちこの作品、マープルが引き立て役に回って、ホテルのメイド、ジェイン・クーパー(マルティン・マッカッチャオン、写真参照。日本語版の声は石塚理恵)が、マープルと「私もジェーンよ」と意気投合、従弟からマープルの評価を聞いていたジェーンは、助手役で推理を手伝います。彼女の推理は要を得ているだけでなく、メイドという職業柄、容疑者の部屋に立ち入ってそっと調べることが出きるのが特徴です。つまり彼女は安楽椅子探偵ではなく、行動する探偵でもあるのです。IMDbのレビューのなかには、彼女に示唆を与えるマープルの服装がホームレスのようだし、アルツハイマーの初期症状が出ているような演技は耐えられないというのがありますが、これは時代遅れのエリザベス朝風のホテルだが中身は結構新しく、変化しているホテルと同様、みかけはボケ老人みたいなマープルだが、鋭い観察力は決して衰えていないと描写している原作に、合わせているからです。冒頭に溌剌とした少女のマープル、直後に老女のマープルという対比も考えようによっては、かなり残酷な視点でしょう。レビュアーの読みは表面的といえます。
 殺人事件の捜査に来たバード警部補(スティーブン・マンガン。声はてらそままさき)はメイドのジェインの頭の切れと行動力に感心してしまい、最後にプロポーズします。この展開はちゃんと予想できるように作られています。彼女は警視にファースト・ネームをたずね、「ラリー・バート、あなたが私に何を頼もうとも、私の答えはイエスよ」と答え、マープルに「私は人生を変えたわ I've changed my life」と感謝します(この台詞は吹替え版では別の訳になっている)。第2シリーズの『親指のうずき』で、アル中寸前のタペンスを支えたマープルの物語のように、とても気持のいい物語なのです。ジェインは真犯人を見抜けなかったので、マープルに聞きます。「どうしたら、あなたのようになれるのかしら」と。マープルは答えます、「年を取ればいいのよ Get older」と。名言です。
 もっとも真の犯罪のほうは、ナチス狩りもあるし、脅迫と復讐、そして入り組んだ罠と、陰険で悲惨なのですが。ちなみに、ジェイン・クーパーとはジェイン・オースティンの従姉妹の名前です。たぶん、スタッフもみんなオースティンが好き。
 1891年、ロンドンのピカデリーにある由緒正しいホテル、バートラムを憧れて見上げる少女ジェーン・マープル(イサベラ・パーリッス)がいました。それから60年たった1951年、憧れのバートラム・ホテルを久し振りに訪れたマープル(ジェラルディン・マックイーワン)は、友人のセリーナ(フランチェスカ・アニス、クリスティーの「おしどり探偵」TVシリーズのタペンス役で有名。声は寺田路恵)と会って、ホテルの雰囲気を楽しみます。セリーナは伯父のリチャード卿の遺言状読み上げに来たのでした。ホールではルイ・アームストロング(シェントン・ディクソンン)が演奏し、アメリア・ウォーカー(ミーシャ・パリス。声は斎藤貴美子)がジャズを歌います。支配人のハンフリー(マーク・ヒープ。声は後藤哲夫)も上機嫌。発展家の女性ベス・セジウィック(ポリー・ウォーカー。声は小宮和枝)が来訪し、波乱含みの展開が予想されます。彼女が六年前に育児放棄したエルヴィラ(エミリー・ビーチャム。声は岡寛恵)も友人のブリジット(メアリー・ナイ。声は大坂史子)と宿泊に来ていました。双子のジャックとジュール(ニコラス・バーンズ。声は前島志)やペニフェザー神父(チャールズ・ケイ。声は中博史)、レーサーのマリノフスキー(エド・ストッパード。声は家中宏)、ベルリンの帽子屋ムッティ(ダニー・ウェッブ)など多くの客がいます。
 マープルが訪れ、アームストロングがジャズを演奏した晩のこと、屋上でメイドのティリー(ハンナ・スペアリット。声は宇乃音亜希)が絞殺されました。ジェーンはティリーの着物が正装だったので奇妙だとつぶやきます。夜に部屋で会ったティリーが出かけるなんて言っていなかったからです。また「三人の女性、三個の黒い帽子」と謎めいた言葉を発します。警部補バードはマープルの推理に関心を示し、早くから耳を傾けるようになります。日記に「123.金を受け取る」と書き残していたティリーはベスやエルヴィラと間違えて殺されたのでしょうか。
 翌日、ホテルの一室123で湯船からあふれた湯が下の階に洩れ、食堂が停電、客がラウンジに移動すると、外で銃声がします。狙撃されたのはベスだと思われました。ドアマンの元ベスの夫ミッキー・ゴーマン(ヴィンセント・リーガン。声は谷口節)が、彼女をかばって背中を撃たれました。狙撃された女がピストルで反撃しますが、顔のヴェールを取ると、なんとベスではなくて、娘のエルヴィラ。二階で狙撃犯がライフルを置いていた室は空っぽで、しかも密室でした。ベスが受け取っていた血の色の字の脅迫状には「DIE(死ね)」(一通目)、「Tonight(今夜)」(2通目)、「R.I.P(安らかに眠れ)」(3通目)などと書かれていました。マープルはベスが捨てた二通目の脅迫状を拾って目にしていました。
 騒ぎのなかで、セリーナの宝石の首飾りが盗まれます。ナチス狩りや、レンブラントやフェルメールの絵の本物などがからんで事件は思わぬ方向へ展開していきます。
 放映順はさておき、シリーズ最後の作品として企画されたと思われます。最後に、マープルが乗り込んだタクシーの屋根に「THE END」と出るのですから。日本の放映では第3シリーズの最初です。

      映画川柳「憧れの 有名ホテル バートラム」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『バートラム・ホテルにて』(早川文庫)
2010年3月13日


DVD


BS2では3月26日放映
20:00〜


BS2
9月30日
21:00〜
再放送
マープル2
復讐の女神


グラナダTV
2007年2月25日カナダ放映
94分

 原作の展開をまったく変えていて、完全に別作品。脚本はスティーヴン・チャーチェット、演出はニコラス・ウィンディング・レフン。IMDbの評価(レイティング)は7.0。
 1940年、ナチスの飛行機が英国に墜落。英国女性(これが謎の女性ヴェリティです)に助けられた飛行士がいました。11年後の1951年、新聞でラフィール氏の訃報を目にするマープル。ほどなくラフィール氏の秘書マシュー(グレイミー・ガーデン。日本語版の声は佐々木梅治)により、ラフィールの遺言が録音されたレコードと「ダッフォデル・ツアー」と名づけられたミステリー・ツァーのチケットが二枚届けられます。遺言で犯罪が予告され、マープルを「ネメシス=復讐の女神」と呼んでいたラフィールの犯罪解決の依頼がされていました。マープルは甥の作家レイモンド・ウェスト(リチャード・E・グラント、写真参照。声は大塚芳忠)に同行を依頼して、ツアーに参加することにします。
 ラフィール氏の墓碑銘には「エィモス書」の一節が刻まれています。

  「正義を洪水のように 恵みを大河のように 尽きることなく流れさせよ」

 ツァー・コンダクター兼運転手はジョージア(ルース・ウィルソン。声は朴聡美) 。参加者はマーガレット(ローラ・ミシェル・ケリー。ヴェリティと二役。声は本田貴子)とシドニー(ジョニー・ブリッグス。声は佐々木敏)のラムリー夫妻、元執事のレィバーン(ジョージ・コール。声は石森達幸)、赤いコートの派手なアマンダ(ロニー・アンコーナ。声は雨蘭咲木子)と彼女の弁護士デレク(エィドリアン・ロウリンズ。声は岩崎ひろし)、足を引きずり顔がつぎはぎ状態のマルティン(ウィル・メロー。声は山野井仁)と彼の妻ロウィーナ(エミリィ・ウーフ。声は山川亜弥)、アグネス修道院長(アニー・リード。声は片岡富枝)とクロチルド修道女(アマンダ・バートン。声は松阪隆子)。そして出発直前に駆けつけたドイツ人のマイケル・フェイバー(ダン・スティーヴンス。声は松本保典)。原作では事件に無関係な参加者がいますが、本作では関係者のみにしぼられています。原作の『マクベス』の魔女のような三人は出て来ません。それに該当するのが修道女たち(写真参照)。
 ツアーで訪れたフォレスター・グレンジ邸で、アマンダが癇癪を起こし、ヴェリティ・ハントの写真を靴で踏みつけます。アマンダはフォレスター卿の姪で遺産相続者。レィバーンに送られた招待状の差出人は、ラフィールのアナグラムでした。ツアーに参加したのは、みなラフィール氏に招待された人々だったのです。宿泊先でコリン・ハーズ(リー・イングルビー。声は平川大輔)は作家志望だと、レイモンドに話しかけて来ます。食事に来ていなかったマイケルにマープルはシャンペンを持っていき、話しかけ、彼がラフィール氏の息子であることを確認します。夜、宿舎で階段から落下したレィバーン氏は「ヴェリティ?」と呼びかけますが、マーガレットは「ヴェリティじゃないわ」と答えます。次第に人々は、1939年に行方不明となったヴェリティ・ハントという女性に関係があることが分かってきます。朝食に来なかったレィバーンは、ベッドで死んでいました。コリンは実は警官だったことが分かります。常用薬に仕掛けがあるかもしれないとマープルは示唆します。
 大佐の死によって人々がヴェリティとの関係を朝食時に話し始めました。修道尼たちは、ヴェリティは男に追われて修道院に駆け込んで来たと話します。その男とはヴェリティが間借りをしていたシドニーのようです。ヴェリティはフォレスター卿の庭師の娘ということでしたが、どうも卿の隠し子だったようです。アマンダは卿の邸宅でメイドだったヴェリティは盗みをしたので追い出したと言い、デレクは彼女は行方不明で死亡宣告がされ、相続の権利は失効したと言います。
 ボナベンチュア・ロックスの見学で、川べりのサイド・ウオークを取ったマープルは修道女たちから、マイケルの正体がラフィールで、彼がヴェリティを殺したと思うと聞かされます。
 ボナヴェンチュア・ロックスで人々はバラバラになりましたが、ロウィーナが何者かに突き落とされて死亡。翌日発見され、雨の中、マープルは岩上で手がかりの藁クズを発見。
 コリンズとレイモンド、マープルの三人が人々からアリバイやヴェリティとの関係を聞きます。マイケルは墜落した飛行士で、ヴェリティと恋に落ち、アイルランドに逃亡しようとして、ヴェリティとロックで落ち合う約束をしましたが、彼女は来なかったと話します。ロックに来たのは軍人たちで、逮捕され収監され、捕虜としてマイケルは刑務所に入れられました。父親ラフィールに彼女の捜索を依頼しましたが、父の答えはあきらめろと。マイケルは父親を許せなかった、昨日ロックに立ったとき、ヴェリティの存在を感じたと話します。
 デレクはなにかマーガレットの秘密を知っているらしく、恐喝がてら誘惑しますが、彼女の部屋に忍んで行くと、そこには夫もいました。鼻を殴られて酒場へ戻るデレク。ラムリー夫妻はホテルから脱出しようとしますが、ドアが開きませんでした。ジョージアが鍵をかけていたのです。ジョージアはラフィールの命令のレコードを皆に聞かせます。この旅は途中下車できないのでした。
 バスが行き着いたのはセント・エルスペス教会。戦争中に手当てもむなしく亡くなったというラルフ・コリンズの墓がありました。ここで、最後の幕が開きます。マイケルがロウィーナ殺害の容疑者になったり、アマンダやマーガレット、ロウィーナとの関わりが明らかになったり、原作とは異なる展開をします。真犯人とヴェリティ殺害の動機は原作と同じですが。

      映画川柳「信徒でも 神を選ばず 恋人を」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『復讐の女神』(早川文庫)
2010年3月12日


DVD


BS2では3月25日放映

20:00〜

BS2
9月29日
再放送
21:00〜
マープル2
ゼロ時間へ


グラナダTV
2007年1月28日放映
94分

 英国から購入したDVDをコンピュータで再生して見ました。英国はリジョン2でもそのままは再生できませんが、日本に比べて圧倒的にDVDが安い。
 ジェラルディン・マクイーワン(日本語版の声は草笛光子)がマープルを演ずるグラナダTVの第3シリーズ。ちなみに、「マープル2」というのは私の仮称でしかありません。NHKは第3シリーズを「マープル3」と題して放送します。
 BS2では、2010年3月23日から日本語吹替版が『バートラム・ホテルにて』から4夜連続で放送されます。先に英国版DVDで見てしまいましたが、どの作品も見事な出来ばえでした。9月27日から再放送されました。
 本来マープルものでない『ゼロ時間へ』をどう脚色しているかが興味深い。脚色はケヴィン・エリオット。監督は、デイヴィッド・グリンドリィ(クレジットされません)。撮影監督はスー・ギブソン。編集ポール・ギャリック。IMDbの評価(レイティング)は6.7。
 マープルは邸宅の女主人カミーラ・トレシリアン(アイリーン・アトキンス。日本語版の声は翠準子)の古い友人で、話し相手に邸宅に招待されました。マープルの宿泊先のホテルには、テディ・ラティマー(ポール・ニコラス。声は落合弘治)が宿泊しています。彼は、カミーラの甥ネヴィル・ストレンジ(グレッグ・ワイズ。写真参照。好演!声は内田直哉)の妻ケイ(ゾーィ・タッパー。アメリカ的な美人で、トマ監督作品『ゼロ時間の謎』のような蓮ッ葉な役柄ではない。声は斎藤恵理)の友人でした。ネヴィルの元妻オードリィ(写真参照。サフロン・バロウズ。声は山崎美貴)に理解を示すトーマス・ロイド(ジュリアン・サンズ。声は有本欽隆)は、カミーラの介護士メアリー(ジュリー・グラハム)とも長年の友人です。
 マープルはトリーヴス判事(トム・ベイカー。声は稲垣隆史)の心臓発作による死が、事故ではなく計画された殺人だと確信して、地元の警察官バレット警視(アメルダ・ブラウン。写真参照)に判事が話した昔の犯罪実話の子供を探るように依頼します。その子供には身体的な特徴があり、判事は大きくなってもそれで分かると話していたからです。
 原作やフランス版のトマ監督の作品に登場する崖から身投げしようとする男は、本作には出て来ません。原作のバトル警視は登場せず、バレット警視はマープルの推理に協力します。
 身投げ男の証言に当るものを、「少女が証言した」と話すのが、マープルの役どころです。マープルはホテルに同宿する少女(エリノア・ターナー=モス)が飼っている犬の臭いの話題でビリヤード場で腐った魚の匂いがしたと話したことを手がかりに推理を組み立て、証拠品を見つけます。この少女は原作には登場しません。
 キャスティングは巧妙。事件へのマープルのかかわり方にも違和感はありませんでした。マープルは完全犯罪を目論む犯人の自尊心を「stupid(まぬけ)」という言葉でわざと傷つけて、真相を告白させます。

      映画川柳「絶対の 自信が犯人の 弱点に」 飛蜘

【参考書】アガサ・クリスティ『ゼロ時間へ』(早川文庫)





2010年3月10日以降6月30日までに見た 日 本 映 画 (邦画)

見た日と場所 作  品        感    想     (池田博明)
2010年5月16日


(CS
2月1日)
独立愚連隊


東宝
1959年
 日本映画専門チャンネルの岡本喜八セレクションの一環。脚本・監督が岡本喜八。白黒。
 時代は戦争末期、舞台は北支・山岳地帯、馬に乗り部隊を渡り歩く男・荒木(佐藤充)は独立愚連隊とあだ名される部隊を探していた。毎朝新聞の記者だという荒木、手のひらがむずがゆくなったら危険を感じて逃げるというのがこの男の生き残るコツだという。
 荒木はパーロ(八路軍)の密偵(上原美佐)を副官の私刑から救う。慰安所のトミ(雪村いづみ)は荒木とは旧知のようだ。部隊の大隊長(三船敏郎)は頭を打って以来、言動がおかしくなっていた。
 慰安所で荒木の正体があきらかになる。彼の本当の名前は大久保軍曹、工藤トミ従軍看護婦と子供まで作ったが、別れたのだった。再会を喜ぶ工藤だったが、翌朝、大久保は金を置いて、大隊長を見送った後、愚連隊の基地へと向かった。
 途中、保安隊のヤン亜東(鶴田浩司)に会う。ヤンは案内に弟を付けてくれたが、この弟、実は女で、荒木が助けたパーロの女だった。途中で刺されて死亡していた歩哨の勘太を連れて荒木=大久保は独立愚連帯入り。荒木が探していた隊の細川一等兵は一年前に心中死していたが、この事件はどうも怪しかった。(途中で録画DVDが再生不全になり、とりあえずここまで)。

 
2015年1月27日


DVD
レンタル
TRICK
劇場版
ラストステージ

2014年
112分
 上田教授のもとにレアアースの村上商事から、赤道直下スンガイ島での開発に現地の呪術師が障害になっている、ついては呪術の非科学性を指摘してほしいという依頼があった。上田教授は山田直子を連れていくことにする。会社の現地部長は呪術師から「一ケ月後に死ぬ」と予告されていて、一か月後にそれが実現した。
 現地で案内するのは加賀美社員(東山紀之)。現地では施設係長や医師の谷岡(北村一輝)が同行する。出張捜査に入った矢部(生瀬勝久)たちも加わった。
 呪術師はボン・イズミという少女だった。シャーマンは低周波振動などを感知する能力を持っていたと考えられる。以前にあった火球爆発から村を救うために呪術師が置かれていたと言える。山田は重大な決断をする。
2011年10月21日


DVD
レンタル
TRICK
霊能力者バトルロイヤル

テレビ朝日・東宝
2010年
119分
 代々、神ハエーリを祀る万練(マンネリ)村。省平(佐藤健)が上田教授(阿部寛)のもとに自分の祖母が神ハエーリだったが亡くなった。村は次の神ハエーリを選ぶために霊能力者を募集している。自分は祖母から教育を受けたがそれはマジックであって、本物の霊能力ではない。自分も神ハエーリ選びに参加せざるを得ないが、上田教授の力で霊能力など無いことを証明して村人たちの目を覚まさせて欲しいと訴える。一方、山田奈緒子(仲間由紀恵)は手品の雇い主から神ハエーリ選考会のことを聞き、隠し財宝を狙いに参加する。
 集まった霊能力者は踊る霊媒師(戸田恵子)、不死身な男(藤木直人)、未来を見る女(片瀬那奈)、妖術を使う男・鈴木(松平健)だった。選考会はマジック大会のようだったが、不死身の男を鈴木がバラバラ死体にしたあたりから霊能力者どうしのバトルロイヤルが始まる。省平は恋人の美代子(夏帆)の協力で大仕掛けの瞬間移動を成功させてはいたが、自分はニセモノだと告白して村を去る。
 堤幸彦監督、蒔田光治脚本。

        映画川柳「悪魔の子 産まれて死んで また生きて」 飛蜘
2010年5月15日
(土)


テレビユー山形
21:00
TRICK
新作スペシャル2


フジテレビ
100分
 『トリック/霊能力者バトル・ロイヤル』劇場版公開記念のスペシャル放送。堤幸彦監督。
 一夜村は村おこしにと婚活の契り契り祭りを復活。しかし、契り岩に恋人が二人の髪の毛など身体の一部を紙に包んで奥契り岳の契り岩に結ぶと恋が成就する。しかし、裏切ると裏切られた相手は死ぬという。その真偽を確かめるの仕事を上田(阿部寛)が依頼される。上田は百万円の抽選があると偽って山田奈緒子(仲間由起恵)を誘う。旅館に案内された二人と同宿になった東崎彩乃(浅野ゆう子)は20年前に夫と息子を対立する西園寺家の松子(手塚理美)と祈祷師・法庵に呪い殺された過去があった。
 彩乃の歌う昔の「子守唄」の通り見たて殺人が起こる。百舌の早煮え、樽の逆吊り。犠牲者は西園寺誠一の婚約者の礼子、誠一に横恋慕する菊江。村の恩田医師(下條アトム)によれば彩乃の夫・彦介はの色男で礼子・菊江、そして京子も彦介の娘だという。一方、山田の母、書道家の里美(野際陽子)は村の女たち相手の講演会で婚活封筒を売りさばいていた。
 子守唄の三番の通り、法庵が呪い返しで殺され、容疑者・彩乃は逮捕された。しかし、遂に京子も殺される。まだ隠されていた真実があった。

        映画川柳「契り紙 上手(じょうず)に結べと 勘違い」 飛蜘   
2010年5月3日-31日



DVD
攻殻機動隊スタンド・アローン・コンプレックス


I.G
各30分
2002年
 映画『攻殻機動隊』とは異なる設定で公安9課の活躍を描いた近未来SFアニメアクション。全26話。
 草薙素子は「少佐」と呼ばれる腕利きの女課員。各挿話を二行で表現できるかを試行してみた(ときには不可能でした)。「スタンド・アローン」とは自立した個々の人々のこと、それらが集まったものが「コンプレックス」。たとえば公安9課の課員はスタンド・アローンで、課はコンプレックス。
 芸者ロボットに拉致された外務大臣を救出に向かった第1話「公安9課」は無事、テロリスト・ロボットを破壊し、大臣を救出したが、犯人は機密を盗むために既に大臣の脳を交換していた。
 義体化(サイボーグ化)せず、戦車を設計した病弱な青年の脳が実家の両親に復讐するための、いや鋼鉄製の肉体を誇示するために故郷に帰還しようとする第2話「暴走の証明」。
 ウィルスに感染したため自殺するジュリ型のアンドロイド。ハッカーの青年は自分の所有するジュリを唯一無二にしたがっていた。最後にジュリは青年に第3話「ささやかな叛乱」を試みるが、そのセリフはある映画の決めゼリフだった。
 笑い男事件を捜査中の山口は、捜査員に視覚素子が埋め込まれているのに気づいた。捜査情報が洩れている第4話「視覚素子は笑う」。
 笑い男事件の重要参考人・七尾を警視総監・狙撃予告犯としてマークする第5話「マネキドリは謡う」。しかし、七尾は誰かに操られた駒のひとつでしかなかった。
 SP指揮官を手始めに次々に予想できない総監狙撃犯が出現するが、総監を守る少佐は全体が茶番だと見抜く第6話「模倣者は踊る」。
 南米のゲリラの英雄マルセロは、影武者を使って暗殺を回避してきた。彼を保護する少佐たちがGHOSTダビング装置を発見する第7話「偶像崇拝」。
 移植臓器に絡む密売組織があるらしい。捜査を始めた刑事に怪我を負わせ、更には廃人にしたのは医学生だった。彼ら第8話「恵まれし者たち」を少佐が糾弾する。
 笑い男事件についてチャットで推理し議論する人の輪に少佐が加わる第9話「ネットの闇に棲む男」。
 Tシャツ状に皮膚が裂かれる連続殺人事件が起きる第10話「密林航路にうってつけの日」。
 重度の電脳閉殻症の子供たちが収容されている施設から厚生省へハッキングが行われた。潜入捜査に入った戸草は左利きのミットを持つ少年・葵の担当になる第11話「亜成虫の森で」。
 バトーの与えた天然オイルの副作用で家出したタチコマは、愛犬ロッキーを探す少女ミキと出会う。町でタチコマが拾った電脳ボックスは映画監督の作品だった第12話「タチコマの家出、映画監督の夢」。少佐はバトーに映画でも見に行くかと誘われ、「本当に見たい映画はひとりで見に行くことにしてるから」と名セリフを吐く。ロッキーの墓碑銘(2024-2030)からすると物語の時代は2030年に設定されている。あと20年、機械と人間がインターフェースでつながるほどの電脳化までは、進んではいないと思うのですが。
 義体化に反対する人類解放戦線に誘拐された戸蔵エレクトロニクスの社長の娘エカが16年前の姿で沖縄の廃棄プラントに出現した。捜索していたSST隊員が行方不明になった。第13話「テロリスト」と闘う少佐たちは忌わしい記憶を持つ老婆(?)を発見する。
 第14話「全自動資本主義」。コンピュータで投資し儲けている数学者・横瀬を暗殺するためにアンドロイドの暗殺者ヘムが日本にやって来る。阻止するために横瀬宅に潜入した少佐たちはヘムを水際で阻止するが、横瀬氏は既に死んでいた。全自動コンピュータが投資を続けていたのだった。
 狙撃制御一体型射撃システムを試みた石川は、途中で機械の干渉に気づく。機械が古いシステムのまま作動していた。タチコマたちが個性を持ち始め、神を論じたりし始める。『アルジャーノンに花束を』を愛読するタチコマもいる。第15話「機械たちの時間」が兵器としての特性を逸脱する懸念を抱いた少佐は、タチコマたちをラボ送りと決定する。あるタチコマと心を通わせていたバトーに少佐は相談するが、命令を拒否する権限はバトーにはない。
 タチコマたちが「赤い靴」を歌いながらラボに行くのを見送ったバトーは新しい任務を与えられる。スパイ容疑のザイチェフの指令先をつきとめよというのだ。バトーは格闘技教官のザイチェフと格闘を通じて仲よくなり、第16話「心の隙間」に入り込む。パラリンピック銀メダルの彼は決勝で負けた試合を振り返ろうとする。コンピュータ室の職員に取り入って隙を見てトップ・シークレット情報を盗もうとするザイチェフ。秘かに結線を阻止するバトー。友情が芽生えた様に思えた二人はやがて対決する羽目になる。何も知らないザイチェフの妻が手製の酒をバトーに贈った。バトーの心情がウェットな一篇。この回で本篇後の短編「タチコマな日々」は終わるというが実際には続いています。
 ロンドンで国際テロ対策協議会に出席した荒巻大佐と少佐。大佐はワイン・ファンドの昔なじみに遇うと言う。第17話「未完成、ラブロマンスの真相」その女性は資金の一部がマフィアのロンダリングに使われている、マフィアと銀行の上層部の仲介者を調べてもらえないかと相談するが、大佐は個人的な依頼は受けられないと断る。そこへ元組織を止めた二人組が裏帳簿の情報を盗みに来た。女性と大佐は人質になってしまう。しかし、情報の盗難はすぐに警察につながった。仲介者は警察幹部だったからだ。警察のスワットを騙して無事脱出する方法を大佐は考える。少佐は大佐の考えを推理してサポート。
 中国の外務次官キムの暗殺予告に対する公安の面々。容疑者は荒巻の戦友・辻崎の息子・佑だった。姉の沙織は最近の佑の行動を懸念していた。父親の電脳情報が息子に伝えられ、佑は沖縄戦(現実の沖縄戦ではなく、物語のなかの沖縄戦。日本は中国と戦った)の母親の死の復讐心に駆り立てられていた。第18話「暗殺の二重奏」で、暗殺の手段が分からないまま警備に当たるバトー。
 人ごみのなかから女性が消失。北方マフィア・目隠しイワンによる集団拉致事件との見方に反対していた神埼元総理の娘・礼子も誘拐された。主犯と特定された女性工作員クルツコワは80歳、義体化したサイボーグだった。荒巻は元総理に娘を救出するため秘策を提案する。しかし、それは集団拉致を否定してきた神埼の政治生命を賭けるものだった。第19話「偽装網に抱かれて」。
 資料室から誤って持ち出したファイルを掃除婦は公園のゴミ箱に捨ててしまった。その「村井ワクチン接種者リスト」ファイル(電脳硬化症の治療)が、薬事行政を批判するひまわりの会に渡る。戸草が第20話「消された薬」を調べて、ひまわりの会に達すると、厚生省の強制介入班(暗殺チーム)もファイルを抹殺しようと接近してきていた。戸草は背中を撃たれて瀕死の重傷を負う。
 第21話「置き去りの軌跡」で中央薬事審議会の会長だった今来栖久に、村井ワクチンの効果を抹殺した事実の証言を求めていたのは「笑い男」だった。戸草の記憶を解析し、今来栖を確保しようと努める9課。厚生省の局長の派遣した強制介入班のリーダーはアームスーツに身を固めていた。いったんはアームスーツにつぶされかけた少佐の怒りが爆発する。 
 新見局長を事件の首謀者として逮捕。荒巻が戦争中に行方不明になった兄を囮に使われて、スラムへおびき出される。強制介入班の残党が荒巻と義体を交換する少佐に身分を偽って近づいてきていた。笑い男がデータを少佐に託す第22話「疑獄」。
 第23話「善悪の彼岸」では、マイクロ・マシン療法を開発したセラノ・ゲノミクス社長を笑い男が連れ出し、証言を依頼する。笑い男事件のうち、身代金要求や会社の恐喝などは笑い男を利用した虚像による事件だった。与党幹事長・薬島を告発する証拠が集まった。
 総理大臣に荒巻は告発を手渡す。しかし、衆院選前に事を荒立てる気持ちは総理にはなかった。特殊部隊規制法案が可決され、クーデター疑惑で軍により9課の一掃が図られる。課長はわざと9課を悪者にしてその存在を消す。第24話「孤城落日」。課員は町に分散し、潜入する。
 9課員は次々に捕縛される。バトーを助けようといろんな場所で働いていたタチコマ3機が集まって来て軍のアームスーツと闘う第25話「硝煙弾雨」。少佐は飛行機に乗り込むところを狙撃される。
 戸草は釈放されたものの無期限の休職の警備員。薬島幹事長のもとには検察の捜査が入った。9課の成果はまったく無視されている。怒る戸草は薬島暗殺を企てる。バトーに止められ、みなが闇の9課として結集しているのを知る。少佐は? 狙撃されたのは新品の義体だった。そして、笑い男・葵少年は図書館員の少年だった。サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』にインスパイアされた感情が交錯する。荒巻大佐は少年を9課のメンバーにスカウトするが断られる。重要な証言者・瀬良野氏が拉致され、第26話「公安9課再び」動き出す。
 
 『攻殻機動隊スタンドアローン・コンプレックス』各話紹介
 
2010年5月1日



BShi

22:45


6月6日
NHK教育テレビ
組曲虐殺


NHK
3時間15分
2009年


あとにつづくものを信じて走れ
NHK教育テレビ
22:00〜
 井上ひさし追悼番組として放送されました。2009年度に公演された小林多喜二を描いた『組曲虐殺』です。井上ひさしは大正の社会主義者・河上肇を主人公に『貧乏物語』を既に発表していますが(1998年)、共産主義者として拷問され虐殺された小林多喜二をどのように描き出すのか、たいへん興味のあるところでした。
 新宿の紀伊国屋書店に「追悼井上ひさし」のコーナーがあり、単行本化された『組曲虐殺』(5月10日発行)や外国語版(フランス語、ドイツ語、英語)の『父と暮せば』などが並んでいました。
組曲虐殺 本 深夜の番組は井上ひさしの歩みと出演者や演出家のコメントに続いて収録舞台の放映。今回の公演はホリプロとこまつ座の製作・制作でした。
 役柄は多喜二(井上芳雄)のほか、姉(高畑淳子)、妻(神野三鈴)、恋人(石原さとみ)、特高刑事(山本龍二、山崎一)の六人。小曽根真のピアノ演奏と音楽がかなり雄弁です。特高刑事の設定がユニークです。
 栗山民也の演出(『貧乏物語』『太鼓たたいて笛吹いて』)は手堅いものの、笑いのツボがちょっと外れていたように思われます。本来もっとあちらこちらで大笑いできる台本なのではないでしょうか。
 井上ひさしは次は岸田国士を書いてみたい、多喜二の葬儀委員長だった江口換(本来の字はサンズイ)に興味を持ったと話していたし、『日の浦姫物語』を手直しするとか、旧作の直しも考えていたようだ。『雪やこんこん』の再演とか(「悲劇喜劇」の対談による)。
 DVDやビデオになっている舞台は意外に少ない。NHKで放送された分くらいはDVDにして発売して欲しいものだ。
 井上ひさし作『化粧』が5月9日に最終公演だった。渡辺美佐子のひとり芝居、77歳。

        映画川柳「指を折り 二十数箇所 キリで刺し」 飛蜘

 6月6日にETV特集「あとにつづくものを信じて走れ」(井上ひさしさんのメッセージ)。インタビューの記録や公演の記録映像をコラージュ。ひさしの言葉 「(小林多喜二や父親のように)悔しいと思って死んだ人がいる。その思いを表し伝えることが生きている人のできること」。「人間がつくることのできるのは笑いしかない」。
 舞台の一部が紹介されますが、それらは『頭痛肩こり樋口一葉』は初演の舞台、『太鼓たたいて笛吹いて』の舞台、『父と暮せば』はすまけいと梅沢昌代のこまつ座公演。ひさしの父親・井上修吉は小松滋というペンネームで『戦旗』に小説を発表していた。『戦旗』の配布係をしていた。34歳で死亡、ひさしは5歳だった。多喜二の事に関してはいつか書かねばならないと思っていましたと言い続けて『組曲虐殺』を書いた。作曲家の大曽根真と少しずつ音楽を打ち合わせながら書いていった。小林多喜二を現代に甦らせた。
 2009年10月29日に検査の結果が出て、ひさし氏は、肺癌の腺がんのサード・ステージのBであると井上麻矢に電話している。
 『組曲虐殺』の中央にこんなセリフがある。多喜二「命あらばまた他日。元気で行こう。絶望するな」・・・・瀧子「小林多喜二くん、絶望するな!」、多喜二「・・・絶望するには、いい人が多すぎる。希望を持つには、悪いやつが多すぎる。なにか綱のようなものを担いで、絶望から希望へ橋渡しをする人がいないものだろうか・・・いや、いないことはない」。多喜二は「信じて走れ」を歌う。
 演出の栗山民也は、『組曲虐殺』初演の2幕4場で嗚咽している井上ひさしを目撃しているという(ただ、この戯曲に2幕4場という表記は無いが)。

【参考書】
 井上ひさし『組曲虐殺』(集英社、2010年)
 井上ひさし「組曲虐殺」『すばる』2010年1月号
 「悲劇喜劇」(2009年12月号、早川書房)特集・こまつ座25周年
 「ひょっこりひょうたん島」の主題歌は1971年北大探検部のプレジデント(部長)・三井さんがよく歌っていました。
2010年4月23日

フジテレビ

21:00
いじわるばあさん2

フジテレビ
2010年
90分
 市原悦子が伊智割イシを演ずる「意地悪ばあさん」(長谷川町子原作)シリーズ第2作め。「オレオレ詐欺をカモにしてやる」(脚本・鎌田敏夫、演出・鶴巻日出雄、撮影・東原三郎)と、「意地悪ができるのが幸せなのさ」(脚本・竹山洋、演出・堀川とんこう)。
 近所に引っ越してきた恒子(野際洋子)がオレオレ詐欺に騙されたと知って、騙されたふりをして詐欺師たちから金を取り返す算段をするイシ。詐欺の弁護士に渡辺いっけい。
 夫の三十三回忌を目前に控え、昔馴染みの登を思い出して赤いガーベラをたずさえて顔を見に出かけたイシは、登が亡くなったのを知って茫然となります。公園で気落ちしていたときに、声をかけた青年が携帯電話をゴミ箱に捨てたので、イシはそれを拾い、録音されていた音声を聞きます。青年のアパートを訪問したイシは、借金に苦しむ介護士の青年が年上の女性(川俣しのぶ)から求婚されて迷っていたことを知ります。その父親(神山繁)の介護がきっかけで二人は知り合ったのでした。イタリアン・レストランのチェーン店を経営する父親は、事業が苦しくなっており、新たに建てる老人ホームの経営のPRのために、密かに元気な老人を探していました。一方、認知症が始まったと誤解したイシの家族(内藤剛志、西村雅彦、荒井良々、手塚理美など)は大変になる介護を予想して、老人ホームへの入居を検討し始めます。
   
    映画川柳「ブドウ園 写真に写る 亡霊は」 飛蜘

 亡くなった母が市原悦子を好きだったので、見てみました。第2話で夫の死の際に息子たちが言った「母親の世話をする」という言葉を思い出させ、最後まで家族に迷惑をかけ続けると宣言するイシの姿は、現行の介護保険制度の他力本願の精神を批判する姿勢を表現したものでした。自分を利用することしか考えていなかったチェーン店の社長を、車椅子のまま坂道で突き放すのは意地悪を超えて、ヤリ過ぎ。命綱をつけていたという設定ではありましたが、急に停止させたら慣性で、体は前へ飛び出してしまい、大怪我をします。この後に車椅子の社長を家へ返し、社長が反省の言葉を言う場面が必要でした。
2010年4月22日

DVD
わるいやつら

松竹
霧プロ
1980年
129分
 小学館「松本清張傑作映画ベスト10」DVD & BOOKの第七巻。公開当時未見。脚本は井手雅人、野村芳太郎監督作品。病院長二代目の片岡孝夫が付き合う女たちにリードされながらも殺人に加担していく様子が描かれます。いい女とみればすぐにすり寄っていく主人公には共感できないため、途中までは見ているのが辛かった。御殿場付近で遺棄したはずの死体が、川越付近で発見されたという辺りから、サスペンス色が出て来て、展開に興味が持てました。川越で発見されたという腐乱死体はいったい誰のだったのかが最後まで不明。gooのあらすじにはチセ(梶芽衣子)とトヨノ(宮下順子)の女たち二人が共謀していたと書いてありますが、これは誤り。二人の間に謀議はありません。

       映画川柳「実印を 渡したときに 筋書きが」 飛蜘
2010年4月21日

17:00
WOWOW

ムサシ


2009年4月8日上演
196分

 井上ひさし原作の戯曲、蜷川幸雄演出。彩の国さいたま芸術劇場公演を収録。井上ひさし追悼番組としてWOWOWで再放送。
 宮本武蔵を藤原竜也、佐々木小次郎を小栗旬、筆屋乙女を鈴木杏、木屋まいを白石加代子、沢庵を辻萬長、柳生宗矩を吉田鋼太郎が演じました。観客の反応がとてもよく、ささいなフリにも大笑いしている。これほど笑ってもらえれば、作者冥利につきよう。最後に、かなりナマな形でメッセージが現れて来る。ロンドン公演が準備されているそうだが(追悼公演として予定された。蜷川氏や藤原竜也が記者会見。未完の井上戯曲『木の上の軍隊』は藤原竜也に当て書き予定だったという)、仇討ちや皇位継承権といった日本独特の文化価値が、うまく伝わるのだろうか、ちょっと心配になった。相変わらず白石加代子のセリフの力は圧倒的。彼女には、誰もかないません。

       映画川柳「斬り合わず 生きることこそ 見えにけり」 飛蜘
2010年4月18日/5月16日・23日/6月6日




TBS
(テレビユー山形)

21:00
日曜劇場

未見の回はDVDにて。
新参者



TBS
2010年
各60分
 原作は東野圭吾、脚本・松岡圭祐・真野勝成 演出・山村大輔・石井矩衛ほか。“人は嘘をつく。罪から逃れるため、懸命にいきるため。・・・嘘は真実の影。あなたは知っているはずだ。犯人がこの町を行きかう人のなかに必ずいることを”。主題歌は山下達郎。 
 相手を思いやる気持ちがウソを生むエピソードが綴られる。連作短編小説だが、全体でひとつのミステリーを構成する。東野圭吾ミステリーのドラマ化としては傑作。
 第1章は「煎餅屋の娘」。日本橋署の加賀警部補(阿部寛)は人形町の≪新参者≫。冒頭で、母親が起こした交通事故をネコ缶に注入された薬物と見抜き、嫁(麻生祐未)が逮捕される。煎餅屋の母(市原悦子)と孫の美容師・菜帆(杏)の物語が今回の主軸。相手の悪口をぶつけ合う掛け合いが最大の見もの。父親に小林隆。上杉博史警部(泉谷しげる)の命令で加賀と従弟に当る松宮(溝端淳平)が組む。地元のタウン誌に勤める加賀の大学の後輩・青山亜美(黒木メイサ)はまだ事件にからまない。三井峯子(原田美枝子)が扼殺され、彼女のマンションを訪れていた生命保険会社員・田倉(香川照之)が第一容疑者となる。峯子のもと夫・清瀬(三浦友和)の息子・幸喜(向井理)は行方不明で、秘書・宮本(マイコ)、税理士・岸田(笹野高史)が脇を固める。田倉のコート袖のボタンが重要な鍵になる。
 第1章の冒頭でこれからのエピソードをになう人物が点描される。
 第2章は「料亭の小僧」。殺人現場に料亭まつ矢の見習い・修平が買った重盛の人形焼(餡入り7、餡なし3)が残されていた。おかみ・枝川依子(夏川結衣)のやくざな旦那・泰治(石黒英雄)に頼まれて買ったものだった。事件のマンションにはキャバレーの女(宮地真緒)が住んでいた。なぜ人形焼が峯子に渡ったのだろうか。しかもそのうちの一個にはまつ矢自慢の真妻のわさびが詰められていた。
 第3章は「瀬戸物屋の嫁」。被害者がメールしていた相手にマキティ、柳沢麻紀(柴本幸)がいた。瀬戸物屋の息子(大倉孝二)の嫁だった。姑(倍賞美津子)とうまくいっておらず、息子は困っていた。姑と反目する麻紀はキッチン鋏を峯子に頼んでいた。鋏は自分用に買ったものらしい。しかし彼女はまだ何か秘密を持っていた。峯子と麻紀の間では二十万円もの金が受け渡されていた。峯子の葬儀が行われ、通夜に息子の幸喜がやって来た。幸喜は峯子が妊娠を後悔していたと亜美に話す。
 第4章は「時計屋の犬」。事件当日夕方、犬の散歩の途中、峯子に会ったと証言している時計屋の主人・寺田玄一(原田芳雄)。しかし、浜町公園での目撃情報は無かった。「老舗」と「佳苗」は親方の禁句だった。娘の佳苗が結婚相手のことで勘当されていたからだ。時計屋で働く米岡()と一緒にドン吉を散歩させて、加賀は手がかりをつかむ。鍵は安産祈願の水天宮にあった。
 第5章「洋菓子屋の店員」。峯子がよく買っていた洋菓子屋クアトロの女店員・北村美幸(紺野まひる)は妊娠していた。しかも、事件当日、安産祈願の犬の置物を贈られていた。彼女は劇団員の幸喜の恋人だろうか。彼の恋人は亜美のはずだが。米国から帰った友人の藤原(綾戸智絵)から峯子の動向が、そして転居の動機がつかめて来る。峯子は、銀行の角を曲がるところで勘違いしてしまったのだった。
 第6章「翻訳家の友」。峯子と会う約束を遅らせた親友・多美子(草刈民代)は罪の意識に迫られていた。事件当夜、多美子は映像作家のコウジ・タチバナ(谷原章介)と会う約束を優先させたのだ。意図的に逢う時刻を変えたことがわかり、タチバナは重要参考人となる。しかし彼の行動には理由があった。
 第7話「刑事の息子」。刑事・上杉(泉谷しげる)の息子は交通事故で死亡していた。亜美はタウン誌を辞めて自分なりに事件の取材をする。峯子の夫・清瀬(三浦友和)と社長秘書の祐理(マイコ)の関係を疑う上杉は、追求を募らせ、祐理を侮辱し、清瀬に殴られる。上司は辞表を書けと命令。事実を探る亜美に上杉は息子が三年前に亡くなったと話す。無免許運転で息子が捕まったとき、上杉は見逃してくれと警官に依頼、もみ消した。それに反抗して飛び出し、事故を起こして死んだ。
 第8章「清掃会社の社長」。祐理はクラブで社長と初めて会ったのだった。加賀は祐理のダイヤのネックレスと左手の小指の指輪に注目していた。その秘密が明らかになる。
 第9話「民芸品店の客」。清瀬は倉庫にいたという。岸田の息子・克也(速水もこみち)は4月13日ダイヤマン記念日に息子用の人形を取り置きしていた。克也は峯子が家庭教師をしていた。清瀬と克也は取引をしていた。克也の家には回せない独楽があった。
 第10話「人形町の刑事」。清瀬と克也が参考人として調べられる。独楽を回す撚り紐が凶器だった。独楽をもってきたのは岸田だった。だとすると、犯人は・・・。そしてその動機は何か。峯子の部屋を清掃すると、幸喜に峯子が贈った演劇理論書「The Art of Theater」の翻訳原稿と峯子の後書きが見つかった。

       映画川柳「甘々の 特別センベイ 母代わり」 飛蜘

 2014年1月2日に朝8時から午後2時まで全話が再放送された。夜9時からは新作「眠りの森」が放送。
2010年4月17日


フジテレビ
21:00
のだめカンタービレ最終楽章前編


フジテレビ
2009
約120分
 映画版『のだめカンタービレ』のテレビ特別版。公開映画を見ていないので、テレビ版のどこが特別かは分かりません。脚本は衛藤凛、監督は武内英樹。
 シュトレーゼマンも常任だったことがあるフランスのオーケストラ、マルレ・オーケストラの常任に決まった千秋だったが、バイオリニストに化けて視察したオーケストラの雰囲気は最悪。団員はバラバラで技術にも差がある。指揮者は突然キャンセルするわ、脱退する団員は続くわ、とうとう急遽迎えられた代役での演奏会の『ボレロ』は最低の出来。きびしい練習で団員に嫌われながらも常任指揮者としての1回目の演奏会に賭ける千秋。のだめのエピソードは付属程度です。のだめは、無事コンセルヴァトワールの進級試験に合格する。
 新生マルレのチャイコフスキーの『1892年』、バッハの『ピアノ協奏曲第1番』、『“悲愴”交響曲』というプログラムはシュトレーゼマンの構成だったが、シュトレーゼマンはこの選択にあるメッセージを込めていた。そのメッセージが明らかになるのは続編で。

       映画川柳「指揮振りを ズルイと評する 次は何」 飛蜘

 『のだめカンタービレ』(第1回〜7回)『のだめカンタービレ』(第8回〜10回)『のだめカンタービレin ヨーロッパ』とテレビを見て来ましたが、今回の映画版はエピソード集で物足りません。
2010年4月16日 鬼畜


松竹
1978年
110分
 野村芳太郎監督の松本清張原作の映画化。脚本は井手雅人。撮影は川又昂、音楽は芥川也寸志の『砂の器』コンビ。公開当時未見だったので、初めて見ました。小川真由美が三人の子供を男のもとに置き去りにする母親、岩下志麻が子供を憎む母親を熱演。
 子捨て、子殺しに追い詰められていく小さな竹下印刷所社長を緒形拳が演じていて、目が離せませんでした。旅館で父親が自分自身の捨てられた体験を話し、悔しかった思い出をふり返る姿からは、子捨ては出来ないのではないかと思わされたのですが・・・・。
       映画川柳「父じゃない 知らない人だと 言い張って」 飛蜘
2010年4月15日


DVD
用心棒


東宝
1961年
110分
 小学館から「黒沢明 MEMORIAL DVD &BOOK」10巻が出る。先行の松本清張全10巻が好評なようです。第1巻は『用心棒』。きちんと見ていなかったので、改めて真剣に鑑賞。打楽器を使った音楽が想像以上に効果的。
 対立する二つの組織を争わせて共倒れを図るという基本の骨格は、ハメットの『血の収穫』だと思うのですが、解説本にはそのことが出ていませんでした。黒沢自身は「『血の収穫』だけでなく、ほんとはクレジットに出さなきゃいけないくらいに、ハメットのいろんな作品からアイデアを得ている」と語っているそうです。『用心棒』を盗作して『荒野の用心棒』、リメイクして『ラストマン・スタンディング』が作られましたが、もともとハメットの『血の収穫』なのだから、『ラストマン・スタンディング』は奇妙な映画でした。
 やくざの乾分たちの異形さが印象的です。また、三船敏郎の用心棒には名前がありませんでした。途中で名前を聞かれて、「桑畑三十郎」と名乗りますが、聞いたほうの清兵衛(河津清三郎)もそれが、外に広がる桑畑から思いついた偽名だということを承知しています。一方の丑寅(山茶花究)側は常に「サンピン」と呼んでいました。ちなみに、『血の収穫』の主人公も名無しのオプです。小林信彦の本を見たら、同様のことが書いてあった。

       映画川柳「ピストルを 身から離しては 死にきれぬ」 飛蜘

【参考書】 小林信彦『黒沢明とその時代』
2010年4月14日


NHK
22:55
SONGS
岩崎宏美



NHK
2010年30分
 岩崎宏美ほど歌のうまい歌手はいない、と思ってきました。成城学園の小学校時代は児童合唱団で歌っていて、「スター誕生」で同世代の森昌子が優勝したのに刺激されて自分も「スター誕生」に応募し、優勝してデビューしたのでした。1975年、デビューは「二重唱(デュエット)」。
 番組ではベストヒットメドレーとして「シンデレラ・ハネムーン」「ロマンス」というアップ・テンポの阿久悠=筒美京平作品で始まり、ミドル・テンポの「すみれ色の恋」「万華鏡」を経て、スロー・テンポの「聖母たちのララバイ」まで。“この町は戦場だから。男はみんな傷ついた戦士”という歌詞(作詞・山川啓介)は男たちのナルシシズムをくすぐるものです。子守唄に背中を押されて、母の胸に顔をうずめる男という甘いイメージがただよいます。ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』で演出家に歌だけで目立とうという姿勢を批判され、『レ・ミゼラブル』再演(1997年)で「夢破れて I dreamed a dream」を歌い直す。父親から芸能界は20歳までと約束させられていましたが、「思秋期」(1977年。阿久悠=三木たかし)をきっかけに歌手としてやっていくことを決意したそうです。「思秋期」のサビは“青春はこわれもの 愛しても傷つき 青春は忘れもの 過ぎてから気がつく”となっています。

      映画川柳「マドンナは 岩崎宏美で 背を押して」 飛蜘 
2010年4月9日  2010年4月9日、井上ひさし氏が肺ガンのため、鎌倉の自宅で亡くなった。享年75歳。うちの母とほぼ同じ年齢です。残念。1984年こまつ座旗揚げ公演、浅草公会堂での『頭痛肩こり樋口一葉』初演の舞台の録画を再度見ました。圧倒的にパワフル。映画『父と暮らせば』は傑作です。
2010年4月9日〜11日

フジテレビ
21:00〜
わが家の歴史


フジテレビ
2010年
約110分×2回
第三夜は140分
 三谷幸喜脚本、河野圭太演出。フジテレビ開局50周年企画で、三夜連続で放送されました。
 昭和二年から一家族の歴史を戦中・戦後史の重要トピックを織り交ぜながら綴っていく物語です。中心となる八女(やめ)家の家族の誰かが、戦後の重要トピックに都合よく関係するのは、かなり安易な語り口で、戦後史事件の再現ドラマを見ているようでした。しかも、事件の掘り下げ方が表面的なので、迫力を欠きますが、『現代用語の基礎知識』戦後史篇と思えばよいのでしょう。三谷自身「なんでも詰め込んだ」と語っています。キャスティングが豪華なので、それだけ見ていてもあきませんが、何度も見られるドラマではありませんでした。
 さわり程度に有名人になりきって出演する役者たちは、楽しんで演じているようでした。ところで、番組の新聞広告に登場人物で富司純子だけ写真が出ていないのはなにか理由があるのでしょうか。

 ナレーションを語る主人公(役所広司)は第2回の最後にようやく生まれてきます。その母・政子(長女)に柴咲コウ、その夫・鬼塚大造に佐藤浩市。祖母・マキに富司純子、祖父・時次郎に西田敏行、次女・波子に掘北真希、その夫・書かない小説家に山本耕史、三女に榮倉奈々、長男・義男に松本潤、その恋人・ゆかりに長澤まさみ。次男・宗男に佐藤竜太、その妻マリアに鈴木砂羽、友人のつるちゃんに大泉洋。息子・ミノルは加藤清史郎。
 小林信彦氏が最近の週間文春で注目株としている女優、堀北真希・長澤まさみが出演しているのが、なんだか面白い。ちなみに小林氏が評価するベスト3は貫地谷しほり・綾瀬はるか・掘北真希。

      映画川柳「運動会 家族みんなで パン食い走」 飛蜘
2010年3月29日〜


NHK総合
8:00〜
ゲゲゲの女房


NHK
2010年
毎回15分
 NHKの朝の連続テレビドラマで水木しげるの奥さん(武良布枝)の原作に基づく『ゲゲゲの女房』が取り上げられることになった。いまや鬼太郎やねずみ男などの妖怪たちは町起こしにも貢献するほど有名になったが、70年代からの水木ファンとしてはたいへん嬉しいことで、『悪魔くん』やその改訂版『千年王国』など旧作も再評価が進むことを願っている。
 私は妖怪の実在をまったく信じていないのだが、妖怪を創造する人間の想像力、脳の力は素晴らしいと思う。教育にも想像力を喚起する水木マンガは重要だと思って、子供たちの周辺に常備しておいた。ひとは生きるために想像力を必要とするのだ。
 朝の連続テレビドラマが15分早まって8時からになった。3月29日の深夜午前2時には一年半前の夏のNHKスペシャル『鬼太郎が見た玉砕』(水木しげるの『総員玉砕せよ』をドラマ化したもの)が再放送された。
 連続テレビドラマがすべて実話と思うはずもないが、子供時代の背が高いことを気にするぼんやりした少女・布美枝という役づくりは、結構目新しい。貸本文化は月刊マンガ雑誌の興隆と逆に廃れていったが、多くのマンガ家を育てた畑でもあった。

      映画川柳「魂が 家の隅から 見つめてる」 飛蜘

【参考書】 武良布枝『ゲゲゲの女房』(実業之日本社、2002年)
2010年3月28日

NHK総合
21:00〜
人体“製造”


NHK
2010年
50分
 NHK特集で最近の再生医療の衝撃を伝える番組。映画『ガタカ』に描かれたような近未来があった。
 失われた指先や筋肉を修復する「細胞外マトリックス」をブタの膀胱から作るというのも驚きだったが、いちばん驚いたのは「救世主兄弟」である。難病に苦しむ子供を救うために両親は新たな子供を産むことを計画する。しかし、ただ産んでも遺伝的に免疫の型が一致するとは限らない。そこで複数個の受精卵の型を調べて選別するのだ。選ばれた型の一致した卵だけが母親の子宮に戻されて妊娠、出産となる。英国では大論争となり、血液系の難病に限り、救世主兄弟が許されたが、アメリカは原則フリー。USAの医師も最初は迷ったというが、最後には患者の願いを入れ、医師は「医療行為はもともと母なる自然に背く行為。母なる自然は残酷だ」と語る。
 遺伝子による出産子の選別、いわゆる「デザイナー・チャイルド」が現実化していて、それも倫理的な問題をクリアしたと理解されて行なわれているのがなんともショックであった。日本では何も話題になっていないが、日本は英国方式を取るか、米国方式を取るかの選択に迫られよう。宗教意識も権利意識も薄い日本では米国方式が選ばれるだろう。

      映画川柳「死すべきを 死なすことこそ 自然とは」 飛蜘
2010年3月22日


CS/日本映画専門チャンネル
霧の旗


東宝
1977年
 山口百恵主演作、脚本は服部桂、監督は西河克巳。スタッフは撮影の前田米造、編集の鈴木晄と日活勢。松竹・山田洋次版と違い、週刊誌記者(三浦友和)の比重が大きい。冒頭も白樺林で桐子(百恵)のことを振り返る記者(友和)で始まるし、ライターの所在を否定する桐子に「あんたを地獄から救いたい」とプロポーズする。最後にライターは記者の手元に届けられる。しかし、「もう会うことはないでしょう」との桐子の手紙が添えられていた。
 大塚弁護士役は三国連太郎。事務所の事務員・奥村役が松竹版と同じ桑山正一で、最初のほうのセリフまでほとんど同じ。弟子の弁護士・白鳥役に大和田伸也、河野径子役に小山明子、大塚の妻役に加藤治子、桐子兄・正夫役に関口宏、被害者役に原泉、編集長役に神山繁(これも松竹版とセリフがほとんど同じ)、健司役に夏夕介、信子役に児島美ゆき、代議士役に金田龍之介。山上役は石橋蓮司。
 健司の殺害現場が彼の家ではなく、別の待ち合わせ場所に使用していたアパートの一室。現場に落とした河野の持ち物が手袋。ライターは歌舞伎の模様。
 兄妹が自宅に帰宅するところを逮捕される最初から東京に向う新幹線が走るまでタイトルの出る前のスピード感は素晴らしい。その後の描写は淡々としていて、原作の力で物語が進んでいく。百恵がキャバレーのホステスになっている場面でも、和服で登場するせいか、印象が最初と変わらない。最後までそのままである。水準作。

      映画川柳「霧のなか 白樺林に 消えていく」 飛蜘
2010年3月16日



日本テレビ
20:54から
霧の旗




日本テレビ
2010年
120分
 何度か映画化されてきた松本清張原作『霧の旗』の相武紗希・市川海老蔵版。脚本。中園健司、演出・重光亨彦。
 主要なキャスティングは、柳田桐子(相武紗希)・大塚弁護士(市川海老蔵)・河野径子(戸田菜穂)。大塚弁護士をヤメ検で、桐子と同郷の福岡出身の苦労人に設定、桐子がライターを大塚の上司・沢木(中井貴一)に送ることで真犯人・山上(山西惇)が逮捕され、河野径子が釈放される展開で幕を閉じる脚色が新しい。山上を桐子の兄・正夫(カンニング竹山)と同じ高校の野球部の先輩に設定、後輩との練習試合で正夫が打った球が右手に当り、指を骨折したことで一軍登録の望みが断たれ、正夫を恨むようになった、それが正夫に罪を着せる事件を起こすもとになったという展開にしている。
 最初に正夫の事件の真犯人は左利きを擬装して正夫に意図的に罪を着せようとしている点や大塚弁護士が妻(中澤裕子)との関係がかなり冷え切っている描写が新しい。
 他にフリーライター・阿部啓一(東貴博)、クラブ「四季」のママ(青田典子)、クラブの同僚・池上信子(柳原可奈子)、径子の経営する「みなせ」のフロアマネージャー・杉浦健次(井坂俊哉)。

      映画川柳「同郷の 絆を切りたい 思いあり」 飛蜘
2010年3月15日


ビデオ
家族


松竹
1970年
107分
 山田洋次原作・脚本・監督。長崎・伊王島の炭坑夫、風見精一(井川比佐志)は、北海道の開拓村に住む、友人・亮太の勧めに応じて北海道へ行く決心をする。四月、精一と、早苗を背負う民子(倍賞千恵子)、剛(つよし)の手を引く源造(笠智衆)が波止場に向かった。長崎通いの連絡船から急行列車に乗り継ぎ、広島県の福山駅で途中下車。精一の弟、力(つとむ。前田吟)が出迎えていた。父親を力のもとへ預けるつもりだったが、生活が楽でない力の現状を見て、家族は源造を一緒に北海道まで連れて行くことにする。
 新大阪駅に到着して、家族は、新幹線に乗車するまでの三時間を万博見物に当てることにした。しかし、人ごみで疲れてしまい、入り口だけで引き返す。万博会場で、民子は金を貸してくれた住職(花沢徳衛)と出会って、気まずい思いをする。万博会場では、ドキュメンタリーな撮影をしている。
 新幹線で東京について後、早苗の容態が急変する。探し当てた救急病院に馳け込むが、手遅れで、早苗は死んでしまう。
 翌日、東北本線の急行に乗る。青函連絡船、室蘭本線、根室本線と乗り継いで、ようやく駅に着いた家族を出迎えたワゴンは開拓部落に家族を導いた。なにもない雪の荒野を前にして夫婦には、ことばもなかった。
 翌日、歓迎の酒宴で気持ちよく炭鉱節を歌った源造は、眠るように亡くなった。早苗と源造の骨は根釧原野に埋葬された。やがて待ちこがれた六月が来た。牛の出産を喜ぶ民子。民子のお腹のなかには新しい子供ができていた。
 倍賞千恵子が素晴らしい。彼女のための映画である。

      映画川柳「故郷が 遠きにありて 思われる」 飛蜘

 森崎東監督の『街の灯』は東京から島原へ下るロード・ムーヴィで、かつ笠智衆が率いるニセモノの家族の旅。山田洋次のホンモノ『家族』の旅の裏返しだった。


シェイクスピア作品の映画化やその関連の映画は除く。
それらは別ファイルになっている。→ 『シェイクスピアの劇と映画


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